「凶れ、凶れ!凶れぇえええええっ!!」
本作の黒幕である荒耶宗蓮が両儀式のために用意した3つの駒の1人「死に接触して快楽する存在不適合者」。
生家である「浅神」は『空の境界』時点では上記の通り破産して没落しているものの、
『 月姫』において「 七夜」「両儀」「巫浄」と並び混血の天敵として語られる退魔四家の1つである。
その血筋故に実は幼い頃から視界内の任意の場所に回転軸を作り、歪め、捻じり切る、
「歪曲」の魔眼を持つ異能者(魔術師ではなく生まれつきの超能力者)であった。
それも本来なら片方しか使えないはずの「右」「左」両回転を可能とするなど、極めて強力な能力の持ち主。
また幼少期は感情表現豊かで、走り回っては良く転び、良く泣いていたという。
だが、魔眼の力を嫌った家の方針により6歳の頃から実父・羽舟にインドメタシン等を大量投与され、その能力を封印されていた。
しかしこれは無痛症を引き起こす事で能力を封じるという方法であったため、
刺激及び自らの身体を感じる事ができなくなり、その事から生の実感が希薄になってしまった。
自己主張が強くないのも、そのせいで感情の抑揚そのものが乏しいため。
普段の言動は他者への共感性の欠落から起こる「集団からの孤立」を避けるため演じている外面に過ぎない。
ところが、本編より半年ほど前から起きた事件により状況は一変する。
藤乃は通院のため外出した所で不良集団に目を付けられて性的暴行を受けてしまったのだ。
以後、不良集団から通院の度に繰り返し性的暴行を受けるようになったが、当初は無痛症であるため、その感覚も無きに等しく、
またミッション系(キリスト教系の神学校)の礼園女学院で教育を受けた事により堕胎を禁忌と考えていた彼女は、
ただひたすら増え続ける心の傷をどうする事もできず、耐え忍ぶ事しかできなかった。
しかし、ある日戯れに金属バットで背中を強打された事で脊髄に損傷を受け、不定期に感覚を取り戻すようになる。
暴行中も全く無反応だった藤乃が初めて感じる苦痛に身悶え耐える姿に興奮した不良達の行動はエスカレートし、
そして偶然にも不良グループのうちの一人が彼女を暴行しながらナイフで刺した時に感覚が戻り、
同時に感覚が戻っている状況に限り「歪曲」が使えるようになったばかりか、
無理に抑圧していた反作用で能力も元通りどころか飛躍的に向上して再発現したのであった。
これにより藤乃は衝動的にその場にいた5人のうち4人を殺害。
その後、殺し損ねた残り1人を追って不良を探しては殺害するのを繰り返すようになった。
補足しておくと暴行された4人以外の殺害は、復讐のように見えて完全な暴走である。
本人は最後まで自覚する事は無かったが、潜在的な加虐性を備えていた上に、痛覚を取り戻した事で初めて生の実感を得た結果、
「自らの痛みを再び得るために他者に痛みを与え、それに共感する形で生への実感を得るという事」を覚えてしまい、
復讐という建前で残虐に相手を殺して喜び・快楽を得るという暴走を招いたのである(無論、不良集団に同情の余地など無いのは事実だが)。
なお、無痛症が最初に消えた切っ掛けはバットで殴られた事が原因なのは事実だが、本来は一時的なものである。
だが、荒耶と出会って脊髄の傷を治してもらった際に同時に不定期に痛覚が戻る状態にされていた。
また、藤乃が感覚を取り戻す引き金となった腹部の痛みだが、実はナイフで刺された痛みではなく、
知らず知らずのうちに発症していた虫垂炎が原因の腹痛である。
ナイフは脅しで刺すふりだけしたのか、あるいは刺す寸前だったのか、いずれにせよその瞬間に能力に覚醒した藤乃は、
無痛症故に病気の兆候・進行に無自覚だった事で腹の痛みを「ナイフで刺されたから」と思い込んでしまった上、
さらに能力で殺害した不良達の血が飛び散った事でその誤解を深め、本当の要因に気付けなかったのだ。
当然藤乃に自覚は無かったため治療はなされず、第三章終盤には腹膜炎にまで悪化しており、ほぼ手遅れな状況だった。
たまたま放浪する彼女を一泊保護した主人公の幹也、そして藤乃義父から依頼を受けた式が藤乃の追跡を開始。
式は藤乃を「出会ったら即殺し合いになる同類」と語り、藤乃は式を「あの人嫌いです」と嫌悪を露わにし、二人は闘いを繰り広げていく。
式との1度目の戦闘では途中で痛覚が消えて藤乃の魔眼の力が無くなったためにすぐ戦闘終了したが、
その後、藤乃が本当に無関係な人間を殺害した事によりマジギレした式との2度目の戦闘に突入。
式の左腕こそ奪ったが、歪曲の魔眼を乱発したせいで歪曲の概念を捉えるようになった式が、
能力発動から歪曲が起きるまでタイムラグがある(といってもほんの一瞬)隙を突いて、歪曲すら「殺した」ため大苦戦する。
能力が通じなくなり追い詰められた事で透視能力(千里眼)まで発現し、ブロードブリッジという巨大な橋の全景を視界に納めて式ごと捻じ曲げるも、
強引にキャパシティオーバーの出力で能力を用いたため、その代償に視力をほぼ失う。
そして決着の瞬間、不意に痛みが消えて無痛症に戻った事で能力を発動できなくなってしまい、
これに興醒めした式が体内に巣食う腹膜炎という病気の概念を直死の魔眼で「殺した」事により命だけは取り留めた。
対外的には運悪くブロードブリッジ崩落事故に巻き込まれて二月ほど入院し、視力低下も事故の後遺症という事にされた。
なお、潰された式の左腕は橙子により義手が作られ、事なきを得た。
実は藤乃は中学時代の運動会で、上述した鮮花の兄で本編主人公の黒桐幹也と出会っていた過去がある。
この時に足を捻挫してしまった藤乃はそれを誰にも伝えられずにいた所、幹也に背負われて医務室まで運ばれており、
同時に事情を知らない幹也から「馬鹿だな、君は。いいかい、傷は耐えるものじゃない。痛みは訴えるものなんだよ」と諭されている。
彼女が凌辱行為を受けた「心の傷と痛み」を耐えずに誰かに訴える事ができていれば、このような事態は避けられただろう。
藤乃の本心は、本項冒頭に記載されたセリフがその全てだったのだから。
そして壮絶な戦いの最後、式から「痛いなら痛いって言えば良かったんだ」と言われ、思わず泣き笑いの表情を浮かべたのだった。
なお視力が低下したため杖を突きながらもその後は復学し、日常へと戻る事ができた。
本編10年後の後日談を描いた『未来福音』でも登場し、5年ほど付き合っている恋人のため花嫁修業中だとか。
超能力についてはその後も保持しており、視力が衰えた事に伴ってやや減退したとされる一方、
『終末録音』で描写される限りでは、建物一つを内部のゾンビごと丸ごと捩じ切って粉砕するなど、むしろパワーアップしている節もある。
もっとも『終末録音』はどこまで現実に準拠しているのかは曖昧にされている作品のため、ハッキリとした事は不明のまま。
ただ、かつてと異なり暴走して殺戮に走る事も無く、過去の贖罪としてこの世の悪と不合理を捻じ曲げているらしい。
余談ながら式はもちろん『空の境界』という作品そのものを代表するキャッチコピーとなった名台詞、
「──生きているのなら、神様だって殺してみせる」の発言が披露されたのは藤乃戦であり、
その意味では『空の境界』を代表する、両儀式のライバルキャラ、ライバルヒロインと言っても過言ではない。
これらのキャラクター性は『月姫』の 琥珀及び『Fate/stay night』の 間桐桜などの、
型月作品で度々出る「被害者のまま加害者へと転じるヒロイン」の原型となっている。主に18禁的な意味で。
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