浅上藤乃


「とても……とても痛いです。わたし、泣いてしまいそうで

 ────泣いて、いいですか」

TYPE-MOONの奈須きのこ氏による小説『空の境界』の登場人物。
読みは「あさがみ ふじの」で、第三章『痛覚残留』にてメインキャラクターの一人として登場する。
担当声優は 能登麻美子 女史。

礼園女学園に所属する生徒であり、黒桐鮮花の友人。
元は長野の名家「浅神」の出身だが彼女が幼い頃に生家は没落しており、
母と共に分家である浅上家に引き取られたため現在の名前になった。
病弱で定期的に主治医の診断を受ける必要がある事から、
寮生活が基本の礼園女学院では例外的に月2回だけ町に外出する事が認められている。
穏健かつ優しく聡明で言動は思慮深く、休みがちな所はあるが協調性が高くクラスメイトとの関係も良好で、
トラブルを起こした事は無い一方で、あまり自己主張が強くない事を心配する声もあった。

友人の瀬尾静音曰く「礼園女学院が誇る和風美少女型・物理法則歪曲兵器。威力も胸囲も文句なしナンバーワン」。
黒桐鮮花は一番の親友。後述の『FGO』では寮のルームメイトであったことが語られている。
過去には安藤由子という親友もいたが、第一章の巫条霧絵の騒動に巻き込まれて死別している。

ファン及び公式からの愛称は「ふじのん」。

+ 詳細な原作設定
「凶れ、凶れ!凶れぇえええええっ!!」

本作の黒幕である荒耶宗蓮が両儀式のために用意した3つの駒の1人「死に接触して快楽する存在不適合者」。
生家である「浅神」は『空の境界』時点では上記の通り破産して没落しているものの、
月姫』において「七夜」「両儀」「巫浄」と並び混血の天敵として語られる退魔四家の1つである。
その血筋故に実は幼い頃から視界内の任意の場所に回転軸を作り、歪め、捻じり切る、
「歪曲」の魔眼を持つ異能者(魔術師ではなく生まれつきの超能力者)であった。
それも本来なら片方しか使えないはずの「右」「左」両回転を可能とするなど、極めて強力な能力の持ち主。
また幼少期は感情表現豊かで、走り回っては良く転び、良く泣いていたという。
だが、魔眼の力を嫌った家の方針により6歳の頃から実父・羽舟にインドメタシン等を大量投与され、その能力を封印されていた。
しかしこれは無痛症を引き起こす事で能力を封じるという方法であったため、
刺激及び自らの身体を感じる事ができなくなり、その事から生の実感が希薄になってしまった。
自己主張が強くないのも、そのせいで感情の抑揚そのものが乏しいため。
普段の言動は他者への共感性の欠落から起こる「集団からの孤立」を避けるため演じている外面に過ぎない。

ところが、本編より半年ほど前から起きた事件により状況は一変する。
藤乃は通院のため外出した所で不良集団に目を付けられて性的暴行を受けてしまったのだ。
以後、不良集団から通院の度に繰り返し性的暴行を受けるようになったが、当初は無痛症であるため、その感覚も無きに等しく、
またミッション系(キリスト教系の神学校)の礼園女学院で教育を受けた事により堕胎を禁忌と考えていた彼女は、
ただひたすら増え続ける心の傷をどうする事もできず、耐え忍ぶ事しかできなかった。
しかし、ある日戯れに金属バットで背中を強打された事で脊髄に損傷を受け、不定期に感覚を取り戻すようになる。
暴行中も全く無反応だった藤乃が初めて感じる苦痛に身悶え耐える姿に興奮した不良達の行動はエスカレートし、
そして偶然にも不良グループのうちの一人が彼女を暴行しながらナイフで刺した時に感覚が戻り、
同時に感覚が戻っている状況に限り「歪曲」が使えるようになったばかりか、
無理に抑圧していた反作用で能力も元通りどころか飛躍的に向上して再発現したのであった。
これにより藤乃は衝動的にその場にいた5人のうち4人を殺害。
その後、殺し損ねた残り1人を追って不良を探しては殺害するのを繰り返すようになった。

補足しておくと暴行された4人以外の殺害は、復讐のように見えて完全な暴走である。
本人は最後まで自覚する事は無かったが、潜在的な加虐性を備えていた上に、痛覚を取り戻した事で初めて生の実感を得た結果、
「自らの痛みを再び得るために他者に痛みを与え、それに共感する形で生への実感を得るという事」を覚えてしまい、
復讐という建前で残虐に相手を殺して喜び・快楽を得るという暴走を招いたのである(無論、不良集団に同情の余地など無いのは事実だが)。
なお、無痛症が最初に消えた切っ掛けはバットで殴られた事が原因なのは事実だが、本来は一時的なものである。
だが、荒耶と出会って脊髄の傷を治してもらった際に同時に不定期に痛覚が戻る状態にされていた。
また、藤乃が感覚を取り戻す引き金となった腹部の痛みだが、実はナイフで刺された痛みではなく、
知らず知らずのうちに発症していた虫垂炎が原因の腹痛である。
ナイフは脅しで刺すふりだけしたのか、あるいは刺す寸前だったのか、いずれにせよその瞬間に能力に覚醒した藤乃は、
無痛症故に病気の兆候・進行に無自覚だった事で腹の痛みを「ナイフで刺されたから」と思い込んでしまった上、
さらに能力で殺害した不良達の血が飛び散った事でその誤解を深め、本当の要因に気付けなかったのだ。
当然藤乃に自覚は無かったため治療はなされず、第三章終盤には腹膜炎にまで悪化しており、ほぼ手遅れな状況だった。

たまたま放浪する彼女を一泊保護した主人公の幹也、そして藤乃義父から依頼を受けた式が藤乃の追跡を開始。
式は藤乃を「出会ったら即殺し合いになる同類」と語り、藤乃は式を「あの人嫌いです」と嫌悪を露わにし、二人は闘いを繰り広げていく。
式との1度目の戦闘では途中で痛覚が消えて藤乃の魔眼の力が無くなったためにすぐ戦闘終了したが、
その後、藤乃が本当に無関係な人間を殺害した事によりマジギレした式との2度目の戦闘に突入。
式の左腕こそ奪ったが、歪曲の魔眼を乱発したせいで歪曲の概念を捉えるようになった式が、
能力発動から歪曲が起きるまでタイムラグがある(といってもほんの一瞬)隙を突いて、歪曲すら「殺した」ため大苦戦する。
能力が通じなくなり追い詰められた事で透視能力(千里眼)まで発現し、ブロードブリッジという巨大な橋の全景を視界に納めて式ごと捻じ曲げるも、
強引にキャパシティオーバーの出力で能力を用いたため、その代償に視力をほぼ失う。
そして決着の瞬間、不意に痛みが消えて無痛症に戻った事で能力を発動できなくなってしまい、
これに興醒めした式が体内に巣食う腹膜炎という病気の概念を直死の魔眼で「殺した」事により命だけは取り留めた。
対外的には運悪くブロードブリッジ崩落事故に巻き込まれて二月ほど入院し、視力低下も事故の後遺症という事にされた。
なお、潰された式の左腕は橙子により義手が作られ、事なきを得た。

実は藤乃は中学時代の運動会で、上述した鮮花の兄で本編主人公の黒桐幹也と出会っていた過去がある。
この時に足を捻挫してしまった藤乃はそれを誰にも伝えられずにいた所、幹也に背負われて医務室まで運ばれており、
同時に事情を知らない幹也から「馬鹿だな、君は。いいかい、傷は耐えるものじゃない。痛みは訴えるものなんだよ」と諭されている。
彼女が凌辱行為を受けた「心の傷と痛み」を耐えずに誰かに訴える事ができていれば、このような事態は避けられただろう。
藤乃の本心は、本項冒頭に記載されたセリフがその全てだったのだから。
そして壮絶な戦いの最後、式から「痛いなら痛いって言えば良かったんだ」と言われ、思わず泣き笑いの表情を浮かべたのだった。

なお視力が低下したため杖を突きながらもその後は復学し、日常へと戻る事ができた。
本編10年後の後日談を描いた『未来福音』でも登場し、5年ほど付き合っている恋人のため花嫁修業中だとか。
超能力についてはその後も保持しており、視力が衰えた事に伴ってやや減退したとされる一方、
『終末録音』で描写される限りでは、建物一つを内部のゾンビごと丸ごと捩じ切って粉砕するなど、むしろパワーアップしている節もある。
もっとも『終末録音』はどこまで現実に準拠しているのかは曖昧にされている作品のため、ハッキリとした事は不明のまま。
ただ、かつてと異なり暴走して殺戮に走る事も無く、過去の贖罪としてこの世の悪と不合理を捻じ曲げているらしい。

余談ながら式はもちろん『空の境界』という作品そのものを代表するキャッチコピーとなった名台詞、
「──生きているのなら、神様だって殺してみせる」の発言が披露されたのは藤乃戦であり、
その意味では『空の境界』を代表する、両儀式のライバルキャラ、ライバルヒロインと言っても過言ではない。

これらのキャラクター性は『月姫』の琥珀及び『Fate/stay night』の間桐桜などの、
型月作品で度々出る「被害者のまま加害者へと転じるヒロイン」の原型となっている。主に18禁的な意味で。

+ 他作品における活躍
コラボイベント『空の境界/the Garden of Order −Revival−』復刻版にてサプライズ実装された。
初回の『空の境界』の時には無かったサプライズ実装だったため、ユーザーを驚かせた。
両儀式のように根源接続者でもない彼女がサーヴァント化できたのは、その高い能力を抑止力およびアラヤ識に買われて、
人理焼却を覆す為の戦力の一つとして彼女の異能を採用されたためであり、
それ故に英霊の座にはいない存在でありながら仮初めのサーヴァントとしてカルデアに召喚される事になった。
レア度は星4だが期間限定ガチャ産のユニットのため入手難易度は高め。
ゲーム内マテリアル(設定文)では極めて特殊なゲストとしてのスペシャル参戦であり、作中のメインシナリオには登場しない旨が明記されている

そのためか、2020年水着イベント『サーヴァント・サマーキャンプ!』に登場した際は、
「カルデアに召喚された藤乃とは記憶も人格も共有していない別人」という扱いが取られた。
その後、『魔法使いの夜』(以下まほよ)とのコラボイベント「アフターナイト/隈乃温泉殺人事件」の2001年の特異点では現地人として式と共に登場したが、
こちらもきのこ氏によれば厳密には『空の境界』とは別の歴史を歩んだ藤乃らしく、
式とそれなりに仲が良さそうにしているなど原作ではまず有り得ない描写がある。
なお、余談だがエピローグにてとある『まほよ』のキャラが借金取りから逃れるために藤乃を護衛として雇っており、
上記の通り原作とは別の世界線なので確定ではないものの、
こちらでも式が蒼崎橙子と面識があるなど細かい部分以外は原作に似たような事があったと示唆されているため、
その逆の理屈で長らく謎であった「上記の原作藤乃の恋人」の最有力候補として件の『まほよ』のキャラが挙がっている。

クラスは歪曲が飛び道具認定されたのか、アーチャーになっている。
また、宝具「唯識・歪曲の魔眼」は「ランク:EX」「種別:対界宝具」に分類されており、
彼女が使用している歪曲は実は人や物を対象にした単純なテレキネシスの一種ではなく、
世界そのものを効果範囲の人やモノごと捻じ曲げている原理の異能である事が示唆されている。
物の大きさや物理的な強度に左右されず問答無用で曲げられる作中の能力描写も、世界自体が効果の対象だからと思われる。

2019年5月には『Fate/Grand Order Arcade』でも『空の境界』イベント後半ピックアップとして実装された。

なお前述通り彼女の異能は「見る」事だけで発動するため、特に派手なモーションやポーズは一切必要無いのだが、
このあたりは「せっかくサーヴァントとなったのだから」と自主的に頑張っているらしい。

性能はBuster寄りの自己完結アタッカーで、Buster性能とNP獲得率をUP&防御無視状態を付与する「歪曲の魔眼」、
必中状態を付与しつつスターを獲得する「千里眼(闇)」などのスキルを備えており、
防御アップ及び回避のスキルやギミックを持っている敵に有効なキャラとなっている。
ただし、スキルレベルを上げるのに「虚影の塵」×24、「凶骨」×36、「宵哭きの鉄杭」、「魔術髄液」×60と、
ただでさえ枯渇気味の銅素材を大量に消費してしまうのが難点。


MUGENにおける浅上藤乃

UltraMono Productions氏による、『JUS』風ドットを用いたMUGEN1.0専用のちびキャラが公開中。
歪曲を用いた遠距離戦が得意な性能となっており、相手を歪曲するだけでなく岩や鉄骨を飛ばす攻撃も行う。
超必殺技では『FGO』の「唯識・歪曲の魔眼」のような技を使用する。
AIは未搭載。
紹介動画(公開先へのリンクあり)

出場大会

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最終更新:2025年05月15日 13:18