H&K HK416

登録日:2012/01/30(月) 00:07:35
更新日:2025/07/24 Thu 10:19:16NEW!
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諸元(D14.5RS)

全長:787~890mm
銃身長:368.3mm(14.5インチ)
重量:3.5kg
口径:5.56mm×45
装弾数:30+1
発射速度:850発/分
発射形式:セミ/フル
作動方式:ショートストロークガスピストン式 ロータリーボルト/マイクロロッキングラグ閉鎖



概要

HK416はドイツの銃火器メーカーH&K社が製造、販売するアサルトライフル
英国の正式ライフルL85を改良した技術力を見込んだアメリカ軍により、同軍の正式ライフルであるM4カービン改良の要請を受けて開発した。
M1911のカスタムに定評がある元デルタフォース隊員のラリー・ヴィッカーズが監修として携わっている。
H&K社により既存のM4カービンに比べて信頼性、耐久性の高いとされる構造をふんだんに採用している。



M4カービンからの主な改良点

ショートストロークガスピストンの採用

 M16系列はDI式(ダイレクトインピンジメント/直噴式。初期の採用者からリュングマン式とも)と呼ばれる作動方式を使っていた。
 発砲した弾丸の発射ガスを直接機関部に吹き付け作動させるため、他の方式に比べ部品数を減らし軽量化が図れるほか、ボルトグループの作動による重心変動が少なく、反動が軽いという長所がある。
 しかし機関部へ直接ガスを吹き付ける都合、レシーバーがかなり汚れるし塗ったオイルも吹き飛ぶ。適切でない装薬を用いた際には大問題で、初期のM16はM14向けの装薬を流用したために燃焼速度が適切でなくなり閉鎖不良などのジャムにつながってしまったという。
 H&K社はDI式に代わりG36XM8に組み込まれ、すでに高い実績を示したショートストロークピストンを機関部に移植した。
 ショートストロークガスピストンは専用のピストンがボルトを蹴って排莢を行うものであり、多少の反動増加やフロントヘビー化と引き換えに機関部をクリーンに保ちオイルによる潤滑状態も維持できるようになる。
 M4とHK416の耐久性を比較した動画では、泥水に浸けたM4は引き金を絞った瞬間弾倉を落とし、機関部から派手に泥水をぶちまけ使用不能になったが、HK416は泥水に浸けた後も快調に射撃をつづけている(HK416が有利になるような状況にしており恣意的ではあった。また、DI式はオイルだけでなく異物も吹き飛ばしてくれるので泥への耐性はかなり高い)。

新型のスチール弾倉を標準装備

 L85A2でも同等の改修実績がある。変形に強くジャムを減らす事に成功した。当初M16系列とすら互換性がない強気仕様であったがのちに互換。スチールは重いと言われ、2010年代以降マグプル社のポリマー弾倉に移り変わっている。

G3などでおなじみの回転ドラム式オープンサイトへ変更

銃身をフリーフローティング化。これにより銃身に余分な圧力が加わらず精度の向上が期待できる。

 余談だがフリーフローティング化は1MOA未満を狙う狙撃銃が0.1程度も許容できないがための仕組みであり、3MOA程度でよい歩兵銃では大きな意味はない。

コールドハンマー(冷間鍛造)製法による、耐久性の高いバレルの採用

アッパーレシーバー上面、ハンドガード部にピカティニーレールを標準装備

 M4のRISなどと比べても強固に固定されており、拡張性が向上。

等々の改良が加えられている。



H&K社の思惑

今までG3、MP5PSG-1、G36等に代表される独自の技術による高性能な銃を作ってきたH&K社がM4カービンのクローンともいえるHK416を開発したのにはある事情があった。
2000年代に入り米軍内ではM4等のM16シリーズに代わる次期製式ライフルの選定が検討されていた。
もし米軍製式採用となれば世界最大規模の軍からの大型受注が見込め莫大な利益が転がり込み、
更に世界最強と言われる米軍からのお墨付きともなれば他国からの受注も有り得る。
また映画やドラマ等のメディアにも多く露出しH&K社の広告塔の役代わりも果たしH&K社の知名度を更に上げるなど大きなメリット生まれるのは明らかであった。
(実際イタリアのピエトロ・ベレッタ社のM92は米軍に製式採用された結果、韓国軍等の諸外国の軍や警察機関に採用され、ハリウッド映画の主人公達も使用したため、民間市場でも売り上げを伸ばした)

2004年、米軍OICW計画がキャンセルされ、別の計画として次期小銃の選定計画が発足。H&K社はOICWでの経験をもとにXM8を開発し選定トライアルに提出した。
XM8は2005年に見事製式採用の内定を貰い、H&K社もホクホク顔に。しかし海兵隊や特殊部隊からの猛反発により、XM8は同年4月(正式には10月末)に内定取り消しを喰らう。
M4カービンとの性能差もコスト差もそこまで大きくないのに再訓練が必要なのがかなりの短所であった。

しかし改良に改良重ねたM16系統の性能に限界が見えていたのも事実。
そこで米軍は選定トライアルで優秀な成績を残し、英国のL85を改良していた実績もあったH&K社にM4カービンの改良を要請したのである。
H&K社としてもXM8への繋ぎを考慮してこの要請を受けた。

後日改めて行われた選定トライアルでは…FN SCARが採用されてしまった(が後々5.56弾仕様が取り消し。7.62mm仕様が5.56mmへのコンバージョン機能を備えているため必要性が薄かった)。
米SOCOM傘下の特殊部隊でもお馴染の銃として使われており*1、SASや特殊作戦群などほかの特殊部隊でも定番装備となりつつある。
のちにフランスでFA-MASの後継として採用されたり、ノルウェー軍も制式採用していたりと主力小銃としての道も開けた。
分隊支援火器の代替として派生型のM27 IARが米海兵隊で採用されている。



派生型

  • HKM4:試作や選考生産型。後述の理由により416へ改名
  • HK416:試作型からよりM4然とした佇まいに。
  • HK416A1~A4:小規模の改修による
 D10RS:銃身長を10インチ(254mm)に短縮。室内戦や市街地戦などのCQB用。
 D14.5RS:銃身長が14.5インチ(368.3mm)の通常モデル。
 D16.5RS:銃身長を16.5インチ(420mm)に延長。遠距離戦用。
 D20RS:銃身長を20インチ(508mm)に延長。狙撃用。
  • HK416A5:ICC計画応募用。これ以後は上記銃身バリエーションは末端に-○○"として表記される。
  • HK416A6~8:ドイツ軍正式採用モデル。軍での名称はG38/G95/G95A1。
  • HK416C:銃身長を9インチ(229mm)に短縮し、通常の伸縮式ストックからMP5A1/A3やMP7のような伸縮式ストックを採用。鞄に秘匿しVIPの護衛に使用される。現在は廃盤。
  • HK416D:米国製モデル
  • HK416F:フランス軍正式採用モデル。
  • HK416N:ノルウェー軍正式採用モデル。
  • M27IAR:アメリカ海兵隊M249の後継として採用された分隊支援火器モデル。銃身長は16.5インチ(420mm)。後継といってもM249を完全に更新するわけでなく、M249と併用される模様。
M249に比べ射撃精度と軽量で取回しに優れる半面、ベルトリンク式給弾式ではなく弾倉式を採用し過熱した銃身を簡単に交換できないため発射速度が遅くなるという欠点がある。
  • HK417:HK416の7.62mm×51弾仕様。下記G28が採用された後にG27Pとしてドイツ軍に採用された。
  • G28(M110A1):上記の民間仕様MR308をもとにしたマークスマンライフルでドイツ軍、米軍に採用された。開発時のストックなどはHK416A5へフィードバックされた。
  • MR556/MR223/MR308
 上記HK416系統、417系統の民間セミオート仕様。初期型はM16系統との互換性が低く不評であったが後々改善された。



余談

  • 当初HK416はHKM4という名称であったが、M4カービンを製造していたコルト社から実に大人気ないロビー活動により訴訟の末HK416となった。
 逆にゲームなどで登場する際、M16等の正式採用名と違い商標であるがゆえに「K416」「M416」などの別銃して実装される場合が多い。
  • 元々M27 IARの米海兵隊採用時、M249に慣れ親しんだ海兵隊員は制圧射撃能力を巡って疑問視していたのだが、いざ使ってみると命中精度が段違いだったため評価は高い模様。
  • 現在は消されてしまったが以前自衛隊の予算表の中に研究・評価用としてHK416と弾薬の購入が書かれていた。
その後20式小銃とのコンペに回されたり、特殊作戦群での使用が確認されたり、SATが携行している姿が確認されたりしている。
  • 一時期米軍の特殊部隊員と思われる兵士達がM4カービンのロアレシーバー(グリップとか機関部、ストックとかの部分)にHK416のアッパーレシーバー(銃身とかボルトとか)を装着している写真が多く見られた。
  • ウクライナにて本銃を使用した義勇兵は本銃の難点を指摘している。
 ・M4のガス直噴による異物除去能力の喪失
 ・ガスピストン部分の分解清掃がやりにくい
 ・各部位へさすオイルが異なり、工具も純正の専用工具が必要
 などが問題と述べていた。
 (実際その通りで、信頼性を上げたのではなく単純に高級AR-15クローンだからこの結果になっただけでは?との声もあるにはある)
  • 後追いでガスピストンAR-15クローンを制作した会社も数多い。しかし単に入れ替えただけでは、DI式に最適化されたM16の構造とボルト上部に圧力がかかるガスピストン式との相性が悪くロアレシーバーやボルト下部に変摩耗が発生してしまう。
  • エアガンでは、主に台湾系メーカーが販売している。
 特にVFCの製品は、全体の造りもなかなかリアルな上、特徴的なガスピストンをリアルに再現!!ただ、電動ガンには全く意味の無い機能。
 マルイも416、417をラインナップ。M4と比べて少し高いトップレールや独自のハンドガードもきちんと再現されている。




追記・修正はFN社よりH&K社派という方お願いします。

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最終更新:2025年07月24日 10:19

*1 特に2011年のDEVGRUによるアルカイダのボスであったウーサマ・ビン・ラーディン(ウサマ・ビンラディン)殺害ミッション「オペレーション・ネプチューン・スピア」で使われた例が有名。