メタゲーム

登録日:2011/06/27 Mon 15:42:27
更新日:2025/08/22 Fri 11:27:36
所要時間:約 3 分で読めます




メタゲームとは、主にカードゲームや対戦ゲーム等でよく見られる、流行の変動による駆け引きの事。
複数のカード等の中からプレイヤーが自由に選択でき、それぞれに相性が存在する場合にメタゲームが成立する。
「メタ」とは「高次の」という意味の接頭語で、メタゲームとはつまり「ゲームの1つ上の、外側の世界の」ゲームということである。
ゲームを始める前の、ゲームの外側で駆け引きを繰り広げていることから、MTGの制作者であるリチャード・ガーフィールドが名付けた言葉である*1

日本ではここから派生し、
環境自体のことを「メタ」、「特定の戦略に徹底した対策を敷く」ことを「メタる」、それらの駒のことを「メタキャラ」「メタデッキ」「メタカード」と呼んだり、
遊戯王ではさらにそこから派生して「環境の中で主軸となっている戦略に対抗した戦術を満載したデッキ」のことを「メタビート」と呼んだりもする。
実に様々な誤用手法で用いられる。たまに「メタビー」とか「メタルマリオ」みたいなキャラの略称で「メタ」と使う場合すらあるため、これらは文脈で判断すること。



概要

具体的には、
  • 「最近強力な性能のAが流行ってるから対策としてAに強いBを採用しよう」
  • 「AがBに駆逐されてほとんど見なくなったからBに強いCに変えよう」
  • 「Cが流行ってBが減ったし再びAを使おう」
といった感じに、その時のデッキの流行り廃りに合わせて構成を変えていく思考である。

初出は『Magic the Gathering』(MTG)。多くのTCGの俗称と同じく、後に他のカードゲームでも使われるようになった用語である。
最近ではカードゲームだけでなく、『ポケットモンスター』等の環境の概念を持つ他ジャンルの対戦ゲームでも使われる事が多い。
メタゲーム内でその時に特に注目されているカードやアーキタイプ等の事を「トップメタ」と呼ぶ。
そして、これらのゲームでたびたび「メタ」と略される用語は、だいたいの場合は元をたどるとこの言葉に行きつく。

バランスのいいカードゲームにおいて、デッキ構築には相性というものが存在する。
「遅いデッキには不利だが速いデッキには有利」
「よく手札をため込むデッキは、手札の枚数を参照するカードに弱い」
といったように得手不得手がある。当然環境に有利な相手が多ければ勝率は上がるし、不利な相手が多ければ勝率は下がる。
つまり、対戦環境を的確に分析して数が多いデッキへの対策として効果的なカードやデッキを使用することが勝利への近道となる。
それだけでなく、予め採用され得る対策カードを読み、更にそれを対策したカードを採用するということも時には要求される。
このような盤外での駆け引きを、世に「メタゲーム」と呼ぶ。
簡単に言えばプレイヤー側の自浄作用みたいなもんで、サ終したゲームなど新弾が出なくなって久しい環境ではそのメタが複雑怪奇なことになったりもしている。

また時にはメタゲームの流れに関係なく「○○に強い構成」という意味で「○○メタ」という使われ方をする場合もある。
例:
A「これなに?」
B「墓地メタ」
A「そんなおらんやろ」
翻訳:
A「どうしてこんなニッチなカードを採用しているのですか?もう少し汎用性に優れたカードでもいいと思うのですが、その理由を教えてください」
B「墓地利用をするデッキに対して勝率を上げるためです」
A「墓地利用をするデッキは環境にそれほどいないと思うのです。やっぱりもう少し汎用性に優れたカードを入れた方がいいと思いますよ」

流行とは常に変化していく物であるため、当然メタゲームの内容も時期によってコロコロ変貌する。
時にはその変貌の末メタゲーム初期の状況に戻る事もある。このような状況を「メタ(環境)が一巡した」という。

※例
  1. 強力なAが流行し猛威を振るう
  2. Aに対するメタとしてBが登場
  3. AがBに駆逐された結果、Bが環境の主役になる
  4. 今度はBに対するメタとしてCが登場
  5. Cの増加によってBが駆逐される
  6. このCはAに対するマークが薄いので、再びAが流行→1に戻る(一巡した)


このようなメタゲーム的な考えは特に全国大会等の大規模な環境において非常に重要で、実際大会優勝者はメタゲームを意識したような構成をしている場合が多い。
メタゲームを征した者こそが大会を征するといっても過言ではない。

但しメタに特化しすぎるとメタ外の普通の構成に当たった場合にあっさり落とされる可能性もあるため注意が必要。メタ具合はほどほどに。
また、メタを意識しすぎるあまりその構成の本来のパワーを発揮できなくなり、有利マッチであるはずの試合を落とすようになってしまうということも考えられる。
なので、「特定のデッキには強烈に刺さるがそれ以外には役に立たないカード」よりも「時間稼ぎ程度にしかならないが自分の動きを阻害せず概ねどのデッキにも刺さるカード」の方が採用されやすく、場合によってはメタカードに割く枠が余りないので割り切って採用せずに本来の動きを優先するという事もあり得る。
闇雲に対策を積むのではなく、いかに自構成のパワーを落とさずに環境に立ち向かうかが重要であるため、実際にはかなりの構築力と環境予想能力を要求されることになる。

時にはそのような状況を逆手に取りあえて、主流派でも対主流派でもない完全にメタゲームから外れた構成をする者もいる。
こちらは「メタられない事」を優先したいわゆる「わからん殺し」を目指したもので、これも一種のメタゲームである。通称『地雷』。
こちらもまた流行りの構成達のパワーに蹂躙されないだけの地力と、それらを翻弄できる様なギミック・対策を練る事が求められるため、やはり相当の腕前が必要。
「ライブラリー破壊を狙うデッキで出場したらバベル(MtG)に当たった」「クリーチャーデッキ全盛の大会に出場したらエンチャントレスのコンボデッキに3ターンで吹き飛ばされた」などは典型的な地雷の被害例である。なおどちらも実話

また前述の通りメタゲームは流行によって常に変化するため見極めが非常に難しい。
「○○をメタろう!」と思った直後にメタ環境が変化し「メタる」つもりが逆に「メタられた」という事も時にはあり得る。
「トップメタのミッドレンジデッキ同士でお互いにメタりあった結果デッキが重くなりすぎ、次点にいたアグロデッキに轢き殺されるプレイヤーが続出」なんて実話も。
基本的には「今のメインデッキより1手遅いか2手速いデッキは強い、1手速いか2手遅いデッキは弱い」とされている。
上の例で見ると「アグロより1手遅いミッドレンジは強い→ミッドレンジより1手遅いコントロールは強い→コントロールより2手速いアグロは強い」と回っているのである。

こうなると、今の環境を把握するだけでなく、今後の環境の変化を読むことも求められてくる。
とはいえ「メタゲームの先に行き過ぎる」ということも注意。上記の例で言えば「メタゲームを予想したのは良いが、メタゲームが初期段階の大会にAに強いBに勝てるCを持ち込んだら、まだAがたくさんいてボロ負けする」ということがある。
メタゲームには高度な情報収集能力や先見の明が必要と言えるだろう*2

ちなみにメタゲームは主に大会等の大規模な環境前提で語られる事がほとんどだが、当然ながら特定の地域*3や仲間内等のコミュニティ内でも大小の程度はあれメタゲームは発生する。
なので、大型大会で勝つ事を想定したデッキをショップ大会や仲間内の勝負に持ち込んだは良いがメタゲームが違い過ぎてボロ負けするなんて事も普通に起こる。
大型大会で優勝したデッキも"大型大会という特定の環境で勝つ事に特化している"と言えるので結局の所別途調整は必要になる。
まぁ環境トップデッキってメタ張らなくても同じTierのデッキ以外には大体勝てるから環境トップな事が殆どなのだが。

ただし特定の個人に対する徹底的なメタ(対人メタ、顔メタ)はマジで嫌われるので仲が良くてもほどほどに。「不当な対人メタ」は友人や家族同士などの狭い環境でのトラブルの定番である。
デッキを変えられてボロ負けすることもあるが、その際に「なんでデッキを変えているんだ」と憤慨したら即刻三行半を突きつけられても文句は言えない。対人メタは戦略である、なんて豪語している奴に限ってだいたい怒る。
もし揉めそうな雰囲気があったら、そういうカードを使わないという紳士協定を結ぶか、そういうカードのないゲームをやるか、なんならカードゲームをやめてボーリングかツーリングにでも行こう。メタゲーム理論は対人トラブルに対しては責任を持てないのだ。

元々「メタゲーム」というのは商売事情で作られたものであり、別に崇高な思考でもなんでもなかった。
カードゲームの元祖である「MTG」と、そのMTGのスタッフを招聘してルールを作った「ポケモンカードゲーム」は例として分かりやすい。
これらのカードゲームは戦術を突き詰めると、「勝つためには強い1色だけを使っていればいい。そうすれば色事故も起こさない。多色化する意味なんてどこにもない」という結論になる。
これを「色対策カード」や「弱点・抵抗力」によって、ゲームシステムのレベルで「単色で勝てるなどとその気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ」することにより、
「俺のカメックスデッキでは雷デッキに分からされてしまう。闘タイプのポケモンを入れて対策しよう」
「俺の赤単では赤の防御円をどうやっても迂回できないが、赤の防御円は赤以外には無力だ。青デッキを使えば対処できる」
という結論をプレイヤーに出させて商品をじゃんじゃん買ってもらおう、というものである。上述の対人メタを「デッキを変える=もう1つデッキを組めるくらい商品を買ってもらうことで対処してもらおう」というものなのだ。
しかし「こんなに極端なことをすると喧嘩になる」「こんなに極端なことをしなくてもプレイヤーの間で戦略が回っていく」「相性的に不利な相手が布陣を整える前に倒せば勝てる」ということが明らかになると、新カードはその手助けや妨害をする程度でいいという結論が出される。
最近は単に強いカード同士でぶつかり合うような、よく言えば「不利な相手にも逆転可能な」ゲームバランスが好まれている。そもそも色対策で完封される経験って全然楽しいもんじゃないよ

近年主流になっているオンラインでのランクマッチでは、強力な構成の流行が顕著になった分ますますメタの推移を読むことが重要になっている。下記の「ネクロの夏」のような分かりやすい例は、今ではよほどのことがない限り存在しないと言っていい。
統計サイトなどでメタゲームの可視化が進んだ結果、「現時点でのメタゲーム」は誰でも見れるようになったので、その先を読む力が求められるようになった。

しかしトッププロの中でも殿堂入りをするようなプレイヤーの場合、「メタゲームなんて気にしてもしょうがない」という新しい考え方が出てきている。正確にはプレイヤーがそれを理解できるほどに歳を食った賢くなったってだけなんだけど……。
たとえば八十岡翔太*4は「メタゲームという言葉は幻想*5」であるという言葉を残したうえで、
「そもそも、なぜ我々はメタゲームという言葉に惹かれるのでしょうか?」という質問に対して「分かりやすい答えを求めるからじゃないかな。(中略)悪く言うと言い訳にもしやすい。」とばっさり切り捨てた上で、
「まずちゃんと強いデッキを見定めたり、自分が深く理解しているデッキを選ぶことが大事だよ」という言葉を残している。
実際に相性が有利だからといって、じゃんけんのチョキとグーのように無条件で勝敗が決まるわけではない。事実メタゲームの分析を居丈高に話すコントロール使いを、彼のメタゲーム分析で「Tier2以下、使い手も大したことがない」と扱っていたバーン使いが轢き殺すという心温まる光景は、かつては各地でしばしば見られたものだ。
そもそもその八十岡も、青があんまりにも弱すぎた時期は青を捨ててジャンドコントロールを握ったことがある。これは単に強いデッキに逃げたのではなく、「相手よりうまくジャンドを使えるのならそれがベストな選択肢だ」というもので、メタゲームというよりも「対同型をプレイングでどうにかしてしまう」という発想である*6

また、「てんさいチンパンジー」こと増田勝仁は、「アミュレットタイタン」というデッキにぶっ刺さる血染めの月をどう対策するかという解説で「これの対処のために《活性の力》や《四肢切断》のような対策カードを入れてしまうと、自身の勝ちが遠のいて本末転倒なので、基本的には出てこないこと祈って無視しています。」と言ってのけている。
対処が「祈る」というのはふざけているように見えるが、「対策の対策」というメタゲームの要素のひとつを完全に放棄することで「特定の相手への勝ちを諦め、残りの相手に確実に勝利できるようにする」という戦略思想。
メタを読むというのは何も「流行りのデッキに勝てるようにデッキを選ぶ」というだけのことではないという思想のひとつである。

そして環境においてゲームを象徴するようなシステムをメタるようなデッキのパーツは、環境整備者が直々に規制をかけることが非常に多い。
MTGならヴィンテージの《三なる宝球》《虚空の杯》*7
遊戯王なら《王宮の弾圧》*8あたりが分かりやすい例。
旧世代ポケモンカードや遊戯王ゲートボールなどのローカルルールでは、一時期大流行した戦略を禁止にする措置をとることでゲームに新しい風を吹かそうとすることもある。
つまり「プレイヤーの自浄作用で環境が回る」ということ自体には、割と浅い場所に限界があるのだ。

最近は様々なゲームが「メタゲーム」の概念を考え、会社の名前やビジネスコラムなどにも取り上げられるようになっているが、
その本家大本では「単に神話にすぎない」とする批判的な考えが出てきている。つまり「メタゲームというのは単に結果論にすぎない」という考えがあることは理解しておくべきだろう。
また、下記の「具体例」の部分は単に初心者でも分かりやすく可視化された例であり、あらゆる環境にメタは存在する。

「メタゲームを征した者こそが大会を征するといっても過言ではない。」というのは確かにある意味では正しい。
しかしたとえば格闘ゲームでも弱キャラ使いが華々しく優秀な成績を収め、時に優勝者よりも注目されることがあるが、彼らにあるのは徹底したキャラ対以前に「それができるほどの極めて優れた基礎能力」である。
カードゲームもこれとまったく同じだということは、メタゲーム解説ではたびたび忘れ去られている。結局のところ最後に大事なのは基礎、つまり「自分のデッキを信じる力」なのだ。
メタゲームは万能って方が分かりやすいし解説も楽しいからしょうがないんだけど、真実はいつもいまひとつ、現実はじゃんけんのように分かりやすくて面白いものではないということも頭の片隅に置いておいていただきたい。


メタゲームの具体例


●12Knights(MtG)

MtG史上でも有名な大会、世界選手権96(通称ネクロの夏)。
手札破壊と軽量クリーチャーで速攻をかけ、手札は《ネクロポーテンス》で補充。
相手が応戦してきたら《ネビニラルの円盤》で場をリセットし優位を固める【ネクロディスク】が席巻。
大会上位のほとんどが【ネクロディスク】という惨状となったが、その大会を制したのは【ネクロディスク】ではなく、
《ネクロポーテンス》を確実に破壊することと同じコストでクリーチャー同士の質で上回ることを重視した対ネクロデッキ【12Knights】だった。

【12Khights】自体ははっきり言ってしまえば普通の【白ウィニー】であるが、
当時大流行して環境を支配していた「黒の呪文やクリーチャー」からほぼ無敵となるプロテクション(黒)持ちを大量採用し、
【ネクロ】が設置した《ネクロポーテンス》や《ネビニラルの円盤》、ライフを供給する《象牙の塔》や《Zuran Orb》を残さず破壊するために置物除去をメインサイド合わせて9枚も採用。
徹底的に【ネクロディスク】に対して優位になるように構築されていた。当然他にもいた【青白コントロール(ステイシス)】や【アーニーゲドン】への対策もバッチリ。

対して【ネクロディスク】のなかでも決勝まで残った最強の【ネクロディスク】もまたプロテクション(黒)持ちの白ウィニーの到来を予測し、プロテクション(白)持ちのメタのメタカードを用意する高度なメタゲームでもあった。
それでもネクロだらけという異常環境とそれを読み切ったメタゲーム、そして奇跡のトップデッキがこのデッキを世界一へと押し上げたのである。

メタゲームの極地といわれた伝説のプロツアー東京01(MtG)

時は2001年。何百万円もの高額賞金のかかったプロツアーが日本で開催されることとなった。
フォーマットはインベイジョンブロック構築(インベイジョン+プレーンシフト)。

とりあえず赤いデッキで出場しろ。
万人がわかりきった暗黙の了解だった。
当時を代表する程のパワーカードが存在していたからだ。

火炎舌のカヴー/Flametongue Kavu (3)(赤)
クリーチャー:カヴー(Kavu)
火炎舌のカヴーが戦場に出たとき、クリーチャー1体を対象とする。
火炎舌のカヴーは、それに4点のダメージを与える。
4/2

虚空/Void (3)(黒)(赤)
ソーサリー
数字を1つ選ぶ。点数で見たマナ・コストが選ばれた数字に等しい、すべてのアーティファクトとすべてのクリーチャーを破壊する。
その後プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分の手札を公開し、土地でないカードのうち、点数で見たマナ・コストが選ばれた数字に等しいカードを、すべて捨てる。

トップメタの【赤緑ステロイド】に搭載された《火炎舌のカヴー》はタフネス4以下のクリーチャーを環境から駆逐した。
【赤黒void】系デッキに搭載された《虚空》は場のみならず手札さえも蹂躙する。

赤ちゃんでもわかるほど強かった。強すぎてどうしようもなかった。

だが、逆転の発想が生まれた。

赤が異常に強いならそれをメタれば優勝できる。

何百匹もの《火炎舌のカヴー》をなぎ倒してプロツアー東京01の決勝にたどり着いたのは、赤を殺すための2つのメタデッキだった。

①優勝者ズヴィ・モーショヴィッツの【ソリューション】


真紅の見習い僧/Crimson Acolyte (1)(白)
クリーチャー — 人間(Human) クレリック(Cleric)
プロテクション(赤)
(白):クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時までプロテクション(赤)を得る。
1/1

ガリーナの騎士/Galina's Knight (白)(青)
クリーチャー — マーフォーク(Merfolk) 騎士(Knight)
プロテクション(赤)
2/2

優勝者ズヴィ曰く「ソリューションとは"解答"を意味するデッキ名さ。自軍全体をプロテクション(赤)に染めることが、赤すぎるプロツアー東京の解答だよ」
まさにメタゲームの極地に達したデッキである*9
決して一線級のカードとは言えない《真紅の見習い僧》をフル投入することはデッキビルダーとしての勇気と技量が問われる。
この他にも《万物の声》《翻弄する魔導士》と各種カウンター呪文でエゲツない封殺を敢行する。理論上、赤いデッキは何もできなくなる。

②準優勝者 藤田剛史の【The Rats】(【カウンターシャンブラー】とも)


貪欲なるネズミ/Ravenous Rats (1)(黒)
クリーチャー — ネズミ(Rat)
貪欲なるネズミが戦場に出たとき、対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを1枚捨てる。
1/1

はっきり言おう。
弱そう!!
一見ハンデスは相手が選べるため効果も薄く、戦力としても《火炎舌のカヴー》の格好の的にしかならなそうなクリーチャー。
しかし実態は必要なマナが少ない分だけ先に出られるのでハンデスにより微妙に重い《火炎舌のカヴー》を牽制。出た後も《怒り狂うカヴー/Raging Kavu》(3/1瞬速速攻)、《疾風のマングース/Blurred Mongoose》(2/1被覆)等と勇敢に相打ちと、いぶし銀の活躍を果たした。


アーボーグのシャンブラー/Urborg Shambler (2)(黒)(黒)
クリーチャー — ホラー(Horror)
他の黒のクリーチャーは、-1/-1の修整を受ける。
4/3

自分にも影響を与えるため、一旦出してしまうと上に挙げたネズミも殺してしまうディスシナジーがある。
だが【黒赤Void】にはネズミでは対処しきれないタフネス1の黒クリーチャーも多数入っていたためにディスシナジーの悪影響を越えて劇的に刺さった。

再生がやっかいなこいつとか。
夜景学院の使い魔/Nightscape Familiar (1)(黒)
クリーチャー — ゾンビ(Zombie)
あなたが唱える青の呪文と赤の呪文は、それを唱えるためのコストが(1)少なくなる。
(1)(黒):夜景学院の使い魔を再生する。
1/1

墓地から回収されるのでカウンターが役に立ちにくいこいつとか。
火葬のゾンビ/Pyre Zombie (1)(黒)(赤)
クリーチャー — ゾンビ(Zombie)
あなたのアップキープの開始時に、火葬のゾンビがあなたの墓地にある場合、あなたは(1)(黒)(黒)を支払ってもよい。そうした場合、火葬のゾンビをあなたの手札に戻す。
(1)(赤)(赤),火葬のゾンビを生け贄に捧げる:クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。火葬のゾンビはそれに2点のダメージを与える。
2/1


自分側の小さな損失より相手側の大きな損失を優先した判断である。すべてはメタゲームのために。
さらに、サイドボードの調整のために1日100戦もこなすなど死ぬほどのやり込みの結晶である。
製作者本人のコメントでは「メタゲームを体で理解する・・・というのを身をもって体験したわけだったが、これは効果覿面だった」とある。

環境最強デッキを試行するためあらゆるデッキを試し始めたのがプロツアー開催日の40日前。
毎日毎日打ち込んで、メインボードが完成したのが10日前。
そこから限られた時間をフル活用してサイドボードを完成させプロツアー開催日を迎えた。


オーコの秋(MtG)

上記2つはメタゲームの華々しい例というか、ほとんど「メタデッキの成功例」の説明であり、勝てば官軍だった当時のMTGにおいて神話化した美談。MTGの中でも本当に特殊な例である。
メタゲームを制そうとして失敗した例としてはThe Finals98の【MoMA】環境やセレズニアアポカリプス。そして本カードが引き起こした世界総奈良公園等珍しくもなんともない。

実際の「メタゲーム」の分かりやすい例といえば、やはり色対策カードのメイン投入だろう。詳しい話は個別項目に任せるが、端的に言えばオーコという緑青のカードがやらかしてしまった環境。
このオーコ対策のために「緑(ともう1色)にしか刺さらない極めて極端な色対策カード(色は青か黒)をメインデッキに入れる(当然だが他の色のカードには全くの無駄牌となる)」という蛮勇構築がまかり通ってしまい、
しかも「この対策として青と黒のカードにぶっ刺さるもっと極端な色対策カードをメインデッキに入れる」。色対策というメインに入れるには相当ブレイブの必要なカードの対策としてさらに色対策カードを入れるという、もはやオーコ同士の空中戦。ポケモンでいえば「みがわり」をメタるための「うたう」をメタっての「ねごと」レベル。
当然だがオーコ以外のデッキにはほとんど刺さらない(=オーコに有用なカードを入れ、かつ無駄牌をたくさん抱えさせて戦えるという「オーコを食い物にする」デッキが出てきてもおかしくない)のに、これで優勝がオーコ
メタゲームというのは本来、こういうどろどろとした沼なのだ。


ヴィダルケンの枷(MtG)

親和全盛期である2003年頃に存在したちょっと特殊なメタデッキ。対戦相手のクリーチャーを奪う「ヴィダルケンの枷」というカードを使ったパーミッションデッキであり、腰を据えてじっくりと戦う。
頭蓋囲いを手に入れてしまった当時の親和に勝てる要素がどこにもないのだが、このデッキは「親和には負けるが、親和は環境の中でも25%しかいない。なら残りの75%に確実に勝てるデッキを組めばいい」というものすごい理屈で誕生したもの。ある意味神話化したソリューション系のメタデッキとは正反対である。
この75%の中には、当然だが親和全盛期ということで「アンチ親和」を眼目に置いたデッキも多かった。彼らを食い物にしてしまおうという結構セコい戦略のデッキ。メタゲームというのは本来、こういうどろどろとした沼なのだ。
当時のMTGは青の愛好家が多いゲームであり、彼らの需要を吸って勢力を築いていった。
後に親和が禁止改定により消滅した後は純正パーミッションとして環境の中で存在感を発揮し、レガシーの全盛期となる2010年前後の環境でも大きなショップには1人くらいこの枷デッキの改良型のようなデッキを持っているガチガチの青使いがいたものである。


●機動要犀 トリケライナー(遊戯王OCG)

2013年夏場の遊戯王OCGは「征竜」で埋め尽くされていた。当然ながらこの年の世界大会も当然のごとく征竜だらけ。

世界大会の3位決定戦ももちろん【征竜】のミラーマッチ。
この試合において、このカードをプレイしたプレイヤー以外の全員が困惑するカードが登場する

機動要犀 トリケライナー
効果モンスター
星6/闇属性/機械族/攻1600/守2800
(1):相手が3体以上のモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功したターンに発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、他のカードの効果を受けず、
お互いのスタンバイフェイズ毎に守備力が500ダウンする。
この効果は相手ターンでも発動できる。


このカードなのだが、当時はカードショップの特価ストレージで眠っているようなマイナーカードであり、このカードが出た瞬間ジャッジがスマホで効果を確認、相手も同様に効果を確認するといった光景が見られた。
世界大会に出場するトッププレイヤーですら、ほとんど意識していないカードであった。

しかし、このカード、実際のところ驚くほど【征竜】に刺さった
特殊召喚を何度も行うデッキなので簡単に手札から特殊召喚でき、この方法で出すと他の効果を受けない完全耐性を獲得するので《No.11 ビッグ・アイ》によるコントロール奪取、《幻獣機ドラゴサック》や《焔征竜-ブラスター》の破壊などはすべて受け付けない。
さらに2800という守備力は当時の主力モンスターが突破できない絶妙な数値。つまりこのカードで確実に1ターンを凌ぎきることができたのである。

1ターン凌ぎきれば【征竜】の展開力で巻き返すことは容易。3ゲーム中2ゲームで登場したトリケライナーだが、そのいずれの試合も劣勢をトリケライナー1枚で凌いで盤面をひっくり返している。
更にそのうち1試合はこれまたEXデッキに刺していた《カラクリ将軍 無零》の効果で守備表示モンスターをひたすら攻撃表示にして対戦相手を殴り倒している。
無零のS素材には機械族が要求されているが、トリケライナーは機械族。つまり確実に場に残るトリケライナーと適当なレベル1チューナーがいれば出せる。

ストレージの隅にあったカードが環境トップを止める盾になった、メタの局地とも言うべきストーリーである。

しかし実はこのカード、当時の日本では割とメジャーなメタカードであった
ただし世界大会ではあまり見られなかったあたり、世界ではあまり認識されていなかったようだ。


●【チューザビート】(デュエル・マスターズ)

猫も杓子も《ボルメテウス・サファイア・ドラゴン》、という環境だった日本一決定戦に不意に現れて優勝を掻っ攫っていった全くメタ外のビートダウン地雷デッキ。
《お騒がせチューザ》の呪文メタ能力に加え、《結界するブロークン・ホーン》・《巡霊者キャバルト》という闇文明の呪文(主にサファイアを登場させるための《インフェルノ・ゲート》)に対するメタを徹底したデッキ。
メタ対象外にはただのバリューの低いカードの束にすらなってしまいかねない割り切った構築だが、その分サファイアデッキへの殺意は満点で、【サファイア】側からすれば回答がろくにないということすらあり得たほどだった。


余談

伝説となったプロツアー東京01の教訓がある。
一番大切なのは、環境最強デッキを使うことではなく、環境最強デッキをメタることである。
渡辺雄也は、晴れる屋の大会で優勝した際、後日に控えたグランプリ北京14の直前にシークレットテクが広まることを危惧して「デッキを公開しないでほしい」と晴れる屋と直談判をし、当時かなり物議をかもした。
結果このシークレットテクが炸裂して優勝を果たした。「メタられないようにする」ということがいかに大事かということを逆説的に証したものだろう。
また、ポケモンについてもいわゆる「結論パ」と呼ばれたパーティを完全にメタった構築が優勝することが度々あった。ただポケモンについては、当時の世界大会の敷居が非常に高かったというのも関係しているだろう。

だが、今同じことをしようとしてもこの手のシークレットテクは誰かがそれなりの結果を出し、別の誰かがそれを模倣し、ということを続けてたった1~2日で世界中に広まってしまう。
八十岡翔太は上述の「メタゲームは幻想」としたインタビューにおいて「たしかにメタゲームを読み切って勝つ、当たり勝ちみたいなイージーウィン*10を夢見てしまうことはあるかもしれません」というインタビュアーの発言に、「そういう抜け道*11を見つけるのは言うほど簡単じゃないね」と返したうえで、
「一番大切なのはデッキの練度」「ラクドスが多そうだからラクドスに強いデッキを選ぼう、じゃなくて、ラクドス"にも"勝てるように、もちろん他のデッキにも勝てるように練習するっていう考え方が大事。」という持論を語り、事実その大会では初日全勝を飾っている。
華々しいソリューションで優勝する時代から四半世紀、すでにメタゲームへの考え方は極めて混迷としている。そのうちビジネスモデルみたく、「分かりやすいメタゲーム理論」あたりを胡散臭いYoutuberあたりが提唱して信奉者を増やしていくかもしれない。

まあ強すぎてメタりようがない事も多いし環境デッキがメタデッキを更にメタる事も多いんだけどね!
実際勝つために大事なのは「明らかにやらかしすぎて次の改訂で絶対調整食らうだろ」というデッキを握ることだったりする。

しかしそれ以上に大事なのは、やはり練度。つまり「どれだけ自分の使う駒のことを理解しているか」だ。
2012年、アメリカのアトランタで行われた「FINAL ROUND XV」という格ゲー大会で、UMVC3においてメタゲームの外にいたキャラクター3人を駆って優勝を果たしたプレイヤーのクソル氏は、
当時はその「花の慶次」にでも出てきそうなレベルの奇行で大いに話題になったものだが、後年のインタビューにおいてこの3人を選んだ理由をかなり真面目に語っている。
完全にふざけているだけに思われた男は、実は胸に熱いこだわりと主義思想を持ち、天性の感覚で定石の外側に戦略の軸を置くプレイヤーだった。その華々しさとは裏腹に非常にストイックな気質であり、
そのストイックさに培われた練度によって勝ち上がっていったのである。

コメント欄でも様々なアニヲタが思想や知識を開陳してくれているが、そのどれもが「正しいが反論の余地がある」というものだ。ハッキリ言うとメタゲームとは答えのない永久迷路、あるいは単なる後出しじゃんけんであり、八十岡や増田のように「メタを読み切って華々しく勝つ!」とはまったく別の結論を出した強豪も数多い。たぶん議論に疲れたのだろう
大事なのは「メタゲームの変遷」という玉虫色の言葉に騙されず、自分の選んだ駒(デッキ、使用キャラなど)が正しいと言い切れるほどに思考を言語化できること。そうすれば多少のメタの読み間違いなんて気にならないくらい勝ちを拾えるようになる*12
結局のところ、基礎練が大事ってこと。身も蓋もない実につまらない結論だが、強いプレイヤーはメタゲームの分析はそこそこに使うデッキの練度を上げていき、その中で取捨選択を行っていくのだ。

つまるところ。
さあ、練習、練習!



暇な時代の追記の象徴。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2025年08月22日 11:27

*1 「パーミッション」「リクルート」「デモコン理論」「ゼロックス理論」のようなプレイヤーから自然発生した言語ではないことに留意されたし。

*2 ただしカードゲームはじゃんけんではなく、毎ターンのドローという乱数発生装置が対戦を複雑化させることで「100%勝てる試合はありえない」という対戦ゲームである。後述するが、プロの間では「メタ読みといっても結局それが当たるかどうかは運にすぎない」「デッキの熟練度こそ大事だ」という意見が出てきている。

*3 というか大会規模のメタゲームでも余程極端な環境でなければプレイヤーの嗜好等様々な要因で地域差が発生する事は多い。

*4 日本のMTGのレジェンド級のプロ。上述の「メタられない事」を軸にした、かなりガチな構成のオリジナルデッキ「ヤソコン」を駆る名物プレイヤー。多くのMTGトッププレイヤーの例にもれず、青を愛好することで知られている。

*5 余談の項目にあるような「●●一強」のような分かりやすい環境ではなく、多種多様なデッキがやりたいことを押し付けてくる「メタを読みづらい」環境である点に留意すること。

*6 ただしその大会においてはジャンドとアンチジャンドの二択のような状態であり、迷った末にジャンドを握った結果アンチジャンドと当たって負けたというじゃんけんみたいな結果で終わっている。

*7 どちらもパワー9のうち6枚をメタることができるカード。「ワークショップ」というデッキによく搭載されていたが、これを弱体化するためという他にも「パワー9を使わないで対処ということはできるが、ヴィンテージはそもそもパワー9を使ってもらうためのフォーマットなんだからそれでは本末転倒」ということで規制された

*8 これは当時の遊戯王でようやく主流化してきた特殊召喚をメタるという以外にも、「先攻完全有利のゲームを作り出す」「裁定が一時期非常に不安定だった」など様々な問題があったためでもある

*9 ただしこの強引な戦略が成り立ったのは、この時期の赤のカードがプロテクション相手に手も足も出ないという、ものすごく悪い言い方をすれば「赤をいじめるクソみたいな能力だったから」という点もある。緑や黒の場合はなんとか対処が可能、白や青はプロテクションなんて意にも介さずに戦えるが、赤は出された瞬間に冷温停止する。これが「プロテクション」という能力の正体なのだ。

*10 それこそ12kinghtsやソリューションの例である。

*11 「チームで調整したシークレットテクとか、ある特定のデッキをメタったオリジナルデッキ」のこと。

*12 たとえばMTGでは、モダンホライゾン2が出るまでは「情報アドバンテージ的な見地から、氷雪土地が使える環境では氷雪土地を使うべきである」という戦略が主に初心者や観戦者の間で支配的だった。これ自体は間違っていないのだが、強いプレイヤーはほとんど気にせずに通常の基本土地を使っていた。「そんなことを気にしてデッキを組むよりも、デッキの練度を上げて確実に拾える勝ちを増やした方がいいに決まってる」というのがその理由であり、腹黒い話だが氷雪にこだわる論者を「基礎練をおろそかにする」として距離を置く風潮もあったほど。メタゲームの話もこれに近く、「理屈は正しいが現実ってそんな理屈通りに進まないよね」というところに気づいた人から勝率の壁を越え始めるのだ。