ムスタファーの戦い

登録日:2016/05/03 Tue 23:36:30
更新日:2025/04/23 Wed 23:09:27
所要時間:約 11 分で読めます




ムスタファーの戦いとは、映画『STAR WARS エピソードⅢ シスの復讐』のクライマックスにおいて描かれた戦い。
ジェダイマスターオビ=ワン・ケノービとその弟子アナキン・スカイウォーカーこと、シスの暗黒卿ダース・ヴェイダーによって繰り広げられた死闘である。


EP3公開以前より、本編の映写やルーカスの口から「火山の惑星でオビ=ワンとアナキンが殺し合う」という展開の存在が明かされており、ファンの間では様々な考察がされていた。
どのような過程で二人は剣を交え、そしてアナキンが何故漆黒のヘルメットとスーツに身を包むようになったのか……それが明かされる本作最大の見どころ。
特に後者の理由付けをするには避けては通れない展開であり、後述の展開も含めて本作はシリーズで初めてPG-13指定された。

新三部作の、そして続三部作を除くスター・ウォーズサーガにおける最後の戦いであり、最も激しく、長く、そして哀しいライトセーバー戦である。



背景

ジェダイによる共和国転覆――――。
非常時大権を最高議長から取り戻すべくメイス・ウィンドゥらジェダイマスター達はパルパティーンと対峙するも、シス卿ダース・シディアスとしての強大な力、そしてアナキンの心の迷いから齎された一閃により敗北。
銀河は暗黒の時代を迎える…。

シディアスはアナキンを新しい弟子に迎え、上記の出来事をジェダイが陰謀を企てたと捏造し彼らに大罪人の汚名を着せる。
一連の流れに好機を見たシディアスはついにオーダー66を発令し、クローン・トルーパー達に銀河各地のジェダイを次々と抹殺させていく。
また、ヴェイダーにもトルーパー部隊を率いらせ、ジェダイ聖堂を襲撃・壊滅させる。
その後、溶岩惑星ムスタファーに潜伏していた、「共和国の敵」で「シスの配下」だったヌート・ガンレイ独立星系連合幹部を皆殺しにするよう命令を下した。
そして自身は元老院に立ち、新しい秩序と平和のために共和国を解体し、自らが統治する銀河帝国の設立を宣言する。
それは万雷の拍手で承認され、銀河帝国皇帝とシス国家が今ここに完成したのである。


悲劇、そして対峙

共和国の滅亡とジェダイ聖堂襲撃、そしてオビ=ワンからアナキンが暗黒面に堕ちたと聞かされ、度重なる事態に不安を募らせるパドメ・アミダラは夫の身を案じ、アナキンが向かったムスタファーへ船を走らせ、彼と再会する。

オビ=ワンから恐ろしい話を聞いたの…あなたが暗黒面に寝返って大勢の子供を殺したって…
僕らを仲違いさせようとしているに違いない*1

しかしアナキンにはわかっていた。自分がシディアスの弟子としてジェダイの掟に背き、罪を重ね続け後に引けないところまで堕ちてしまったということを。
心で自覚していてもパドメにはっきりそうだとは言えなかった。

アナキン、私はあなたの愛が欲しいだけなのよ
愛だけじゃ君を救えない。必要なのは強い力だけだ。母を失った過ちを繰り返さないように僕はジェダイですら手に届かない程の力を手に入れたんだ。君のために、そして救ってみせる。
私と一緒に行きましょう、そして何もかも新しい場所で子供を育てるの
何を言っているんだ?逃げる必要なんてない。僕は銀河に平和を齎した!いずれ僕が最高議長を倒し、そして二人で銀河を支配しようじゃないか!
本当だったのね……!オビ=ワンの言う通り、別人だわ…。
強い力、銀河の支配。パドメにとってそんなものはどうでもよかった。ただ家族が側にいてくれるだけで良い。そんな当たり前の幸せを願っていただけなのだ。
なのにアナキンは自らの傲慢さに支配されそれに気付かない。オビ=ワンの話が真実と知り落胆するパドメ。目の前の夫はかつての優しい心を持った青年ではもうなかった。
オビ=ワンの話は聞きたくない。ジェダイは僕を裏切った。君は違うだろう!?
もうあなたがわからない……アナキン、私死にたい…あなたが遠い人になってしまった…
オビ=ワンのせいか?
いいえ、あなたがしたこと!しようとしていること!やめて…私のところに帰って!愛してるの…!

嘘をつくな!!!

折悪しくパドメの船から姿を見せるオビ=ワン。アナキンのいる場所を探そうと、彼が密かに船に搭乗していたことをパドメは知らなかったのだ。
しかし知らないのはアナキンも同じ。彼は疑心暗鬼から彼女が自身を亡き者にするためオビ=ワンと策謀していたのだと解釈する。

裏切ったな。僕を殺すために連れてきた!!

唯一信じていた妻から裏切られたと誤解したアナキンは、激しい怒りと共にパドメをフォースグリップで締め上げる。

よせ!彼女を離せ!

オビ=ワンの制止によって彼女を解放するも、パドメは意識を失いその場に倒れてしまう。

目の前の惨状に絶句するオビ=ワン。アナキンは裏切りを仕組んだのかと逆上し、パドメへの独占欲を露にしながら彼を責め立てる。
オビ=ワンのかつての弟子は失うことへの恐れ、力への渇望、愛する者を持ってしまったがゆえの心の弱みにつけ込まれ、フォースの暗黒面に堕してしまった。

だが今のアナキンに恐れる物など何一つなかった。
何故なら共和国を脅かしたジェダイを狩り立て、戦争の発端である分離主義者達を始末し、
全バトルドロイドの機能を停止させ、終いに戦争を終結させ新しい銀河帝国を作った英雄であると思っていたからだ。

この僕が平和と自由を、正義を、安全を新しい帝国に齎した!
新しい帝国だと!?
あんたを殺したくないんだ
私は共和国に忠誠を誓った!民主主義にだ!!

少し前まで成り立っていた共和国は最早存在しない。戦争を終わらせ、共和国の平和を一刻も早く望んでいたからこそ、オビ=ワンらジェダイは戦い続けてきた。
だが待っていたのは帝国の設立という形による争いの終わりだった。

後に始まる力と恐怖による独裁政治、こんなもの誰が望んでいただろうか。自由とジェダイ・オーダーが死んだ今、僅かなジェダイに残された道は帝国の頂点に君臨するシスを倒す他ない。
ここが最後のチャンス。失敗は許されない。
今のアナキンは単純な強さだけで言えばもはやヨーダですら手に負えない程になりつつあるが、精神はシスとしてもバランスを欠いていた。
その隙を突きアナキンを止められるのは、彼が親友として、肉親としての情を抱いていたオビ=ワン唯一人である。
アナキンを闇により深く引きずり込んで力を与える、銀河皇帝が傍に居ない今しか無い。ここでアナキンを逃がせば、銀河の平和への道は閉ざされてしまう。

仲間にならないのなら、敵と見るしかない
シスの論理だな、独裁主義だ。…私の義務を果たす
果たせるかな?

ライトセーバーを起動させるオビ=ワン。それに続きアナキンも跳躍しながら抜刀、オビ=ワンに切り掛かる。
正義に殉じるはずの青と青のライトセーバー同士がぶつかり合う、悲壮な戦いの火蓋が切られた。


死闘


いつもに増して激しい動きを見せるヴェイダー。アナキンのセーバーフォームであるシエンの派生型ドジェム・ソによる攻撃的な剣撃はヴェイダーとなってから暗黒面のフォースによって更に荒々しさを増し、オビ=ワンを防戦一方に押さえ込む。
もっともオビ=ワンのセーバーフォームは防御主体のソレスであり、受けに回るのが自然なのだが中々カウンターの起点が見つからない。
しかし、先刻のパドメとの悶着やオビ=ワンへの執着によってアナキンの集中と力を削がれていることを加味しても、オビ=ワンの守りは押し切られて破られる兆しもない。
両者は長年修行してきた仲であったがゆえに互いの癖を知り尽くし、そして互いのフォームの影響を受けたことで、防御も堅いシエン攻撃も鋭いソレス…とそれぞれ弱点を補い合うフォームに育っていた。
そんな二人が戦えば、膠着状態に陥るのも必然。だがそのままでは体力に優れる若い側…ヴェイダーが優勢になる。

オビ=ワンはヴェイダーの苛烈な攻めをかわすべく、巧みに後退し続ける。
舞台は発着場からムスタファーのメインコントロールルーム――ガンレイ総督が物言わず横たわる――に移り変わり、セーバー戦から時には生身による肉弾戦、時にはフォースのぶつかり合いと戦いはより激しさを増していた。
そんな中、ヴェイダーの力任せに振り降ろされた一撃がコントロールルームのシールド発生機を破壊する。
元々この場所は火山の噴火口と位置が近く、噴火時に流れ出る溶岩流に晒されるかもしれない危険性を考慮し、堤防にシールドを張って溶岩を無効化していたのだった。

激しく活動を続ける火山から溶岩が降り注ぎ、コントロールルームから外の堤防へ戦いの場所を変えていた二人を襲う。
シールドの消失したコントロールルームは溶岩に飲まれ、堤防を支えていた柱もシールドがなくなって直撃した溶岩の熱によって溶け、二人は堤防ごと溶岩流に落下する。
かろうじて柱の高所にしがみつき安置に留まる二人だが、このまま溶岩流の流れに身を任せていては堤防はマグマの滝に落下してしまう。そんな状況の中でもオビ=ワンに対するヴェイダーの攻撃は止まない。
敵の攻撃をかろうじて受け流しつつ、オビ=ワンは柱に括り付けられたケーブルを使いターザンのごとく勢いをつけ柱から筏型ドロイドの上へ着地することに成功する。
このまま溶岩の滝に流れ落ちると思われたヴェイダーだが、フォースによる驚異的なジャンプ力によってオビ=ワンの乗ったものとは別の小型作業ドロイドのぴったり頭上に着地する。

溶岩の海を滑空していくドロイドの上で再び苛烈なセーバー戦が始まり、決着も困難を極めた。
灼熱地獄の中、オビ=ワンはヴェイダーに呼びかける。

お前の教育を誤った、私のミスだ
ジェダイの陰謀に早く気づくべきだった!
アナキン、聞け!パルパティーンは悪魔だ!
ジェダイこそ邪悪の権化だ!
そこまで腐ったか!

ヴェイダーを暗黒面から連れ戻そうとするオビ=ワン。
かつてクワイ=ガンがタトウィーンでジェダイの才能を見出した少年アナキン。クワイ=ガンの死後、オビ=ワンは師の後を引き継ぎジェダイとしての技術や知識を教えて来た。
オビ=ワン自身も当時は未熟だったがゆえにアナキンを育て上げられるか不安でもあった。反抗的で無鉄砲なアナキンに振り回されつつも、彼なりに慎重に鍛えてきたはずだった。
だが、アナキンは暗黒面に堕ちてしまった。パルパティーンの怪しさに気付いていながら結局アナキンを奪われ、懐柔させてしまった後悔の念だけがオビ=ワンを包む。

マスターはここでおしまいだ

かつての師への決別の言葉と共に自分のいるドロイドからオビ=ワンの乗る筏へ飛び移るヴェイダー。オビ=ワンはヴェイダーの動きを依然見切れているが、このままでは身体が力尽きるのは時間の問題だった。
鍔迫り合いの最中、オビ=ワンはヴェイダーの一振りを避け背後の岩場にジャンプし、着地する。

お前の負けだ!地の利を得たぞ(I have the high ground)

しっかりとした足場にいるオビ=ワンといつ沈むかもわからない筏の上にいるヴェイダー。どちらが有利かなど言うまでもない。
ヴェイダーがもう少し冷静であれば、近くまで駆けつけたシディアス卿の気配を感じ取って時間を稼ぐなり、より高く遠くの地面に跳躍してオビ=ワンから距離を取って仕切り直すなり、別の対処も出来ただろう。
しかしヴェイダーは安定しない足場から跳躍し、地面に足を付きカウンターの構えに入ったオビ=ワンの懐に突っ込み、相手のカウンターを受け流した上で更なるカウンターを返して勝利をもぎ取る道を選択した。
客観的に見れば自殺行為同然であり、オビ=ワンもアナキンには内心犯して欲しくはなかった愚挙だが、
先程すでに2度困難な大ジャンプを成功させた彼はその無謀さも理解出来ない程に暗黒面の力が齎す万能感に支配され、オビ=ワンの言葉に容易に触発された*2

僕の力を見くびるんじゃない!
やめておけ

諭すように制止するオビ=ワンの声を跳ね除け、彼の読み通りそのまま頭上へとジャンプし斬り掛かるヴェイダー。

結果、オビ=ワンが繰り出したカウンターの一撃を避けきれずまともに受けヴェイダーは左腕と両足を切断され、敗北する。




決着


手足とバランスを失って地面を転がり、敗北感と激痛に苛まれうめき声を上げながら必死に地を這うヴェイダー。

選ばれし者だった―シスを倒すはずのお前が、シスにつくとは!フォースにバランスをもたらすはずが、闇にとらわれてしまった!

「フォースにバランスをもたらす者』。そう予言され、ジェダイに利を齎しシスを打ち倒すと信じられてきたアナキン。
だが選ばれし者は暗黒面に堕ち、ジェダイはほぼ壊滅。共和国も崩壊し、シスは勢力を拡大した。
望まなかった結末に慟哭の声を上げるオビ=ワン。ジェダイの予言は間違っていたのか。

あんたが憎い!!!!

血の涙を流しながら彼への怒り、嫉妬、憎しみを込めた呪詛の言葉を吐くヴェイダー。
オビ=ワンがもっと自由を与えていてくれれば母親を救えたかもしれない。オビ=ワンよりも自分の方が強いはずなのにマスターになれない。
それどころか自身に相応しい任務すら彼に横取りされた。議長をスパイさせようとした。パドメに裏切りを仕向けた。
親愛なる師だったオビ=ワンも、結局憎きジェダイの一人でしかなかった。

弟だと思っていた…愛していた…

やがて灼熱のマグマがヴェイダーの服に燃え移り、全身を焼き尽くす。
身を包む炎を掃うことも逃げることも叶わず、ただひたすら苦しみに悶えるヴェイダーを見ていられず、オビ=ワンは彼のライトセーバーを拾い上げその場を去る。
これは接近してくるパルパティーンから逃れるために一刻の猶予も無かったという理由もあるが、
加えて「戦う術を失った生物を殺害することを許されない」というジェダイの戒律によって、
その義務に従っていたオビ=ワンには、手足を切られマグマに焼かれて苦しむアナキンを介錯してやることも出来なかったのである。

長き哀しき師弟対決はオビ=ワンの勝利に終わるかと思われたが…。
その後のことを思えば、ヨーダの敗北とは別の形で、光と闇の戦いにおける旧世代のジェダイの限界を暗示した戦いでもあった。



余談

  • EP6のアナキンの頭部の大きな傷は当初、オビ=ワンによる刀傷の痕と言われていた。しかし実際は火傷の傷であった事がEP3で判明している…かに見えたのだが、後のスピンオフ『ケノービ』にてマスクの左半分を破壊するシーンがあり、こっちが傷の正体とも取れる。まぁどう見ても火傷の傷じゃないしね
  • この殺陣シーンは一部スティーブン・スピルバーグが監督している。また、ものすごい目まぐるしい戦いだが早回しやスタントを使っていない、クリステンセンとマクレガーによるガチ演技なのだ*3
  • 噴火の映像は一部本物の映像が使用されている。エトナ山が噴火したと聞いて飛んでいったとか。
    • 似た話が日本国は1986年の三原山噴火にもあり、当時「ゴジラ」でゴジラが三原山に落ち、続編で復活する可能性があったので、スタッフが勇躍して撮影に行ったが、あまりに危なくて資材を放り出して撤収したという。
  • EP3の数年後を描くコミックで、ベイダーが「あの時の戦い」を振り返る場面がある。サイボーグ化されてある意味冷静さを得た自分なら、地の利を得たというオビ=ワンに対して、フォースのパワーに物を言わせて首を吊り上げ、マグマの川に押し込んで焼き殺す、というビジョンを見ていた。
  • ムスタファーはもともと地形が険しく、それだけ秘密基地を作っても目につかないという利点がある。そのため以前から紛争・戦いが多発しており、単に「ムスタファーの戦い」といっても他にも多数起きている。
  • 「クローンウォーズ」では、フォース感応者の赤子を拉致したシスたちとの闘いと、ダース・モールサヴァージ・オプレス兄弟およびプレ・ヴィズラ一味によるブラックサン首脳部の襲撃・暗殺がムスタファーで行われた戦闘として有名。
  • 日本語吹き替えの「あんたが憎い!」というセリフは丸一日かけて何十回とリテイクされた。
  • 戦後を描いたコミックでは、ヴェイダーが復活したシスの暗黒卿モミンと戦う。





「追記修正しないなら、敵と見るしかない」

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最終更新:2025年04月23日 23:09

*1 補足すると、シディアスは事前に、オビ=ワンがアナキンのことでパドメと話をした件を、誤解を与える表現でアナキンに吹き込んでいる

*2 ゲーム版EPⅢではこの選択が成功してオビ=ワンを返り討ちにするIFも存在するため、全く成功の見込みが無い愚挙ではなかった可能性もある

*3 フレームを削って加速したカットはある。