キクラゲ

登録日:2020/10/18 Sun 04:06:16
更新日:2025/06/30 Mon 13:57:57
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昔々、キノコとクラゲが戦争をしていた頃のお話。

キクラゲは「自分はキノコの一種だ」と言ってキノコの味方をしていました。

しかし、クラゲのほうが優勢になると「私は歯ごたえがあるのでクラゲの仲間です」といってクラゲ側につきました。

やがて戦争が和解で終結した時、幾度も寝返りを繰り返したキクラゲは仲間外れにされてしまいましたとさ。


――アニヲタ寓話より


キクラゲ はキノコの一種。
中には本気で勘違いをしている人もいるかもしれないが、クラゲではなくキノコである


目次


概要


キクラゲ目 キクラゲ科 キクラゲ属。

色は主にからベージュ。形状は不定形で、耳のようなひだ状のものが多い。
この見た目故か、漢字で「木耳(キクラゲ)」と書く。

乾燥したものはゴワゴワとしているが、水を浴びた際にゼラチン質が膨らんでクラゲのような触感になることから、キクラゲの名前がついた。
沖縄では「みみぐい」、九州地方では「みみなば」「みんぐそ」「みんぐり」などと呼ばれている。
分布はほぼ世界中。広葉樹林の枯れ木・切り株などに発生する。

白キクラゲ

その名の通り、白いキクラゲ。
シロキクラゲ目 シロキクラゲ科 シロキクラゲ属 の別種だが、市場ではこれも同じくキクラゲとして取り扱われるのが一般的。
中国では「銀耳」と呼ばれ、普通のキクラゲよりも高級品として取り扱われる


人間との関わり


キクラゲは人間に対して無毒な食用キノコであり、主に東アジアで採取・栽培されている。
主張の強い匂いや味がないかわりに、ゴムともゼリーともとれない独特の食感を持つ。

食用キノコの中でもなかなかの異端児であり、他のキノコが苦手でもキクラゲは平気、という人も多いのではないだろうか。
あるいはキノコと名がつくものは全て食わず嫌いをする人が、キノコと知らないで食べている例もあるかもしれない。まるでキノコ界のエージェントである。

種類

市場に食用として出回るキクラゲには、乾燥させたものを戻して使う乾燥キクラゲと、乾燥を施さない生キクラゲの二種類がある。
違いを簡単に述べると以下の通り。
乾燥キクラゲ 生キクラゲ
食感 歯ごたえがある 強い弾力がある
適材 加熱調理で食感を味わう あまり火を通さない調理で生感を味わう
賞味期限 約1年、冷蔵不要 約1週間、要冷蔵
ちなみに栄養価は乾燥キクラゲの方が高かったりする。

生キクラゲは比較的足が早いため、嘗ては産地などで直接食べることしかできなかった。
しかし、運輸の技術が発達した現代なら産地から遠くても生キクラゲを食べることが可能になった。良い時代になったものだ。

食用キクラゲの収穫時期は春から秋にかけてと長いが、主に市場に出回る乾燥キクラゲは長期保存が効くため、旬を選ばず一年中食べることが出来る。

各国での扱い

中国

中国では古くから、身分を問わず利用される一般的な食の素材として親しまれている。

現代で確認出来る限りで最も古い情報としては、中国に現存する最古の農業の資料「斉民要術*1には既にキクラゲが登場していることが判明している
天日干しで乾燥させるだけで保存が効くようになり、かつ水で戻すだけでほぼ元の品質を取り戻すことから、加工技術・運輸技術が十分でない時代から市場に出回りやすかったのだろう。
古くから東アジアの各国に輸出・調理法の伝達がされていた記録があり、同時に栽培の技術も広く伝えられたという。

を通しても歯ごたえが失われない特性は、強火を用いる中華料理と相性が抜群。それでいて味が淡泊なのでアッサリした料理にも合う。そのため、ガッツリ中華あん系から中華サラダにまで、中華料理で幅広く活用されている。

日本

日本にはかなり古い時代に食法が渡来したと伝えられており、平安時代には既に国内でキクラゲを食していたことが確認されている。
ということは、キクラゲは日本で最古参レベルの輸入食品ということになる。

上述の通り海を越えて運べる食品であることから、昔から中国からの輸入品が多かった。
それは現代でも変わらず、今日本に出回っているキクラゲの99%は中国産。

一方で国内栽培も盛んに行われており、日本の料理にも様々な形でキクラゲを取り入れる文化が発達した。
主な産地は九州地方。しかし北は北海道でもキクラゲの栽培が行われている。つまり日本の風土ならどこでも採取・栽培が可能ということである。
なお、扱いが難しい白キクラゲの国内栽培に関しては長い長い苦労があった。

欧米諸国

西洋では評判が良くない。
英語名でキクラゲは 「Jew's Ear(ユダの耳)」と呼ばれている。やっぱり西洋人にも耳に見えるらしい
キクラゲはニワトコのような広葉樹に生えるのだが、俗説ではキリストを裏切ったユダはニワトコの木で命を絶ったと伝えられており、その霊が変じたものがキクラゲだという。
そのため、気分的にあまり好まれないのだとか。

その他

その他の地域としてはミャンマーなどでも食用として好まれている。
ところがミャンマーの公用語であるビルマ語ではキクラゲは「 ကြွက်နားရွက်(ツゥエーナユエ)」と呼ばれ、これを直訳すると「ネズミの耳」となる。
なんとも驚きのセンスだが、日本で言うバフンウニのような感覚なのかもしれない。


調理法


キクラゲを食べる際、生キクラゲの場合は湯通しが必要だが、乾燥キクラゲは水に戻しただけで食べられる。
一方で、じっくり火を通してもくたびれないのが特徴で加熱によりパリッとしてさらに独特な食感となる。
以下に、代表的な調理法をいくつか挙げていく。

  • 八宝菜
多様な食材を中華鍋で炒めて片栗粉でとろみをつけた広東料理。
肉や魚介、大ぶりな野菜たちを支える名脇役としてキクラゲが加えられることが多い。中華あんが絡んだキクラゲは美味。
これを炊いた米の上にかければ中華丼が出来上がる。

  • サラダ・酢の物
淡泊な味わいと食感は、サラダや酢の物のようにあっさり生の料理にも向いている。生キクラゲの食感を堪能したいならぜひこちらで。
青々とした野菜と並べばキクラゲのブラックが映える。サラダはラー油ごま油系のドレッシングで頂きたい。

主に熊本ラーメンで愛用される。これは、キクラゲが熊本の特産品であるため。
豚骨の濃厚な風味を邪魔せず、かつ硬めの麺の食感にさらなるアクセントを加えるスライスキクラゲは絶品。

  • スイーツ
概要で記載した白キクラゲは、豆花などの台湾スイーツや中華料理のデザートに用いられることがある。
ところてんスイーツやナタデココのような系統といえよう。嘗ては世界三大美女の楊貴妃がこれを好んで食べていたという記録もある。

  • キクラゲ炒め
御馳走の脇役となりがちなキクラゲだが、このキクラゲをメインにした炒め物も美味しい。
調味料で十分な味をつけても良いが、溶き卵と一緒に炒めて淡泊な味を楽しむのもよし。

  • 簡単な料理
乾燥キクラゲは基本的に水に戻せば食べられる状態になるため、保存も調理も楽な一人暮らしの味方である。
刻んだきくらげにごま油醤油・みりんをちょっと和えるだけでも美味しいおつまみになるぞ!


栄養素


味も臭いもないので栄養価があまり高くないのではないかと思っている人もいるかもしれない。
実際、食感として同様の特徴がある水生生物のほうのクラゲの栄養価値は低い。

しかし、キクラゲも同様ではないか、という認識を持つ閲覧者の方は、今日この瞬間を持って、ぜひキクラゲへの認識を改めて頂きたい。
キクラゲは動物性食品や野菜にも劣らない優れた栄養食品なのである。
その優秀さたるや、中国では漢方や薬膳として活用されるほど。

ビタミンD

キクラゲの栄養を語る上で欠かせないのが、なんといってもビタミンDの含有量。
その量はだいたい150μg/100gであり*2、これを超える食材となると肝油などのように魚から栄養を重点的に抽出した加工品くらいしか類がない。
ビタミンDはカルシウム吸収を助けたり免疫力を強化する重要な栄養素でありながら、これを含有する食料が案外少ないため、意識して取らないと不足しがちなビタミン筆頭ともいわれている。
これをたくさん摂取できるキクラゲが「長寿の薬」というのもあながち迷信ではないのだ。

食物繊維

キクラゲで特筆すべきことといえば不溶性食物繊維。キクラゲの保水性はこの栄養素によるもの。
不溶性食物繊維には優れた整腸作用があるのだが、キクラゲに含まれる量はなんとゴボウの3倍ともいわれている。
元気な時にはこの腸への刺激が身体に良い作用をもたらす。
逆に言うとキクラゲは腸を刺激するため、風邪など胃腸が弱っている時には避けた方が良い。

低カロリー

水で戻したキクラゲは100gあたり約40kcalと非常に低カロリーな食品である。おまけに歯ごたえから少量でも満足感が得られるので食べ過ぎを防いでくれる。
上述の食物繊維の多さと合わせて、まさにダイエットにはもってこいな食品なのだ。


キクラゲと似た毒キノコ


「そんなに栄養が豊富なら、いますぐにキクラゲを採って食べたい」という方もいるかもしれないが、キノコというのは本当に厄介なもので、案の定キクラゲそっくりな毒キノコというのも存在している

代表的なものがクロハナビラタケで、食べると激しい腹痛・食中毒を起こす。
もし誤って口にしてしまえば「これがキクラゲの整腸作用か」なんて誤解しているどころではなく即救急車である

その見分け方も、ざっくり言うと「キクラゲよりも多少小さく、多少色が濃い」という、素人には到底困難な識別方法しかない。
そもそもキクラゲ自体が天候や環境によってサイズ・色の変化を起こすキノコなので、一概に「小さければキクラゲではない」「黒っぽければクロハナビラタケだ」とはならないのである。専門家からすれば見分け難易度は低い部類のようだが、あくまで専門家からすればの話
いずれにしろ、野生でキクラゲっぽいキノコを見つけても、「今夜は中華丼だ!」などとすぐに喜ばずに、必ず専門家を通じて安全を確認してから食用とすること。


余談


  • その名の由来ともなっている海洋生物のクラゲ(海月)のほうも一部が食品として扱われる。中華の冷製料理などに用いられているのを見たことがある人もいるだろう。ただし、クラゲのほうは水分を除けばタンパク質と糖質が僅か含まれるのみと、栄養価は低い。
    • 名前のイメージ的に、キクラゲのほうがクラゲのコピー食品っぽいが、日本にクラゲの食文化が渡ってきたのは江戸時代なので、実はクラゲ食のほうが後に広まった食文化である。*3

  • 当Wiki的にはサブカルにも触れておきたいところだが、キクラゲにスポットが当たる漫画やアニメというのはまぁ…… ない
    • 強いて挙げるなら、『忍たま乱太郎』には キクラゲ城 という城が登場することや、『ドロヘドロ』の煙ファミリーの一員に犬とも猫ともとれない キクラゲ という生物が所属していること、『パタリロ!』に登場するマリネラ王国で自給出来る数少ない食品であること、『毛糸のカービィ』の「キノコのこかげ」に1ステージだけ キクラゲン というクラゲ型の敵がごく数体登場すること、『東方Project』の魂魄 妖夢が頭につけているリボンがファンから キクラゲ と呼ばれているなど、そういったレベルである。
    • そんなキクラゲサブカル界隈に激震が走ったのが2022年。
      ポケットモンスターシリーズに、遂に、キクラゲがモチーフのポケモンであるリククラゲが登場した。詳細はキクラゲをモチーフにしたキャラクター欄にて。
  • もし他にもキクラゲをモチーフにした創作が確認出来た際には、是非に追記・修正を!

  • サブカル関連のWikiなどでキクラゲのことを検索しようとすると、大抵はキクラゲよりも先にデンキクラゲ関連の項目が出てしまうのが厄介なところ。尤も、GoogleやYahooなど大手の検索エンジンは優秀なので、キクラゲを調べたいときにはちゃんとキクラゲの話が上に来る。


キクラゲをモチーフにしたキャラクター


漫画

  • キクラゲ男(栞と紙魚子)
諸星大二郎の漫画作品。
作中でホラー映画同好会が自主制作した映画の悪役として登場……したはいいものの、本来なら「怪奇クラゲ男」のはずが脚本家の使うワープロの誤変換により「怪キクラゲ男」の着ぐるみが製作されてしまう事に。
当然文芸部の面々も「クラゲだ」「キクラゲだ」と怪人のモチーフをどうするかで大論争する羽目に陥ってしまった。

ゲーム

『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』で遂に登場したきくらげポケモン
じめん・くさタイプをもつキノコのポケモンなのだが、その見た目はくらげ(・・・)ポケモンのメノクラゲ・ドククラゲに瓜二つ、しかもただの他人の空似というなんともユニークなポケモンである。
ノノクラゲはさもメノクラゲの色違いっぽいが、リククラゲは頭が黒っぽくなり、よりキクラゲっぽさが増す。

ノノクラゲの身体から剥がれ落ちた一部は現実のキクラゲよろしく食用にすることが出来るのだとか。作中でも「ノノクラゲとキュウリの酢の物」という料理を食べることが出来る。

そして不思議なことに、ノノクラゲは時速50kmの速さで走れるらしい。あしが早いということか?


水族館でキクラゲの水槽を見つけたみなさん、追記・修正をよろキクお願いします。

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最終更新:2025年06月30日 13:57

*1 西暦532年から549年頃、南北朝時代の北魏で書かれた

*2 乾燥キクラゲの場合。生だと1/10程度になる

*3 中国では西暦500年くらいにはビゼンクラゲの食用加工技術があったという記録があるので、こちらの方はキクラゲとクラゲ、どちらが先に人類の口に入ったかははっきりしていない