冷凍睡眠/コールドスリープ

登録日:2021/06/01 Tue 21:55:02
更新日:2024/10/13 Sun 23:10:00
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冷凍睡眠・コールドスリープとは、ひょっとしたら近い未来に実現するかもしれない、フィクションの睡眠の技術である。


概要

冷凍睡眠・コールドスリープとは、主にフィクションなどで登場する技術であり、
「生きた人間を」「歳を取らせずに」「何十年何百年と眠らせる」ものである。

魔法や忍術精霊の力で死ぬことなく凍らせる、
時間を操る能力を持つ女神にお金を積んで凍らせてもらう
生命体に使われることは想定されていないカーボンフリーズなど、
冷凍睡眠がオマージュ元と思われる技術が多数のフィクションに登場しているが、
この項目では明確に「冷凍睡眠」「コールドスリープ」と呼ばれたものを挙げていく。

そもそも冷凍睡眠とは

色々調べてみましたけど冷凍睡眠が初出の作品は分かりませんでした
SFという概念が生まれた二次戦後から冷戦時代のSF作品においては、ワープという概念が存在しなかった。
そのため、の速さまで加速する宇宙船に乗り込もうが、何十光年という遠く離れた惑星に探索に向かう際に、何十年という時間が経過してしまう。
(後にウラシマ効果が提唱されたので現実時間はともかく滞在時間は大幅削減されたわけだが)
故に、乗組員の老化、食糧とストレスの問題を解決する手段として考案されたのが、冷凍睡眠というわけである。

何十年何百年と人の手を借りずに稼働できる機械なんて存在しねーよ、と思うかもしれないが、
風も酸素もない宇宙空間であれば、装置を一切風化酸化させずに運用出来るという、宇宙空間ならではの背景も大きいだろう。

そんなわけで誕生した冷凍睡眠という概念であるが、
「登場人物を年齢はそのまま、時間だけを経過させる」ということが創作上余りにも都合がよすぎるので、
SF作品にワープという概念が考案された今となっても、または宇宙進出を目的としていない近未来を描いた作品においても、
冷凍睡眠・コールドスリープは創作上に引っ張りだことなっているのである。


冷凍睡眠の目的

食糧の出費を抑える

宇宙の長旅(古今東西のSF作品多数)は勿論、エネルギーを始めとしたライフラインが通っていること前提なので、
エネルギーは通っているし、発電する手段もあるが、食糧を輸送するのが困難である極寒の地で使用される。(『Overwatch』)

病気の治療

現代の技術では解明できない病気に侵されてしまったので、未来の技術を信じて冷凍睡眠する、(『未来への贈りもの』(ブラック・ジャック)、『チグリスとユーフラテス』(新井素子))
治療に物凄く時間が掛かる病気に侵されてしまったので、完治するまでは冷凍睡眠する(『終末のハーレム』)など、
冷凍睡眠という技術が発達した未来でもどうしようもない病魔に侵された際の最期の手段として用いられる。

人体に組み込まれたナノマシンがコールドスリープで初期化されるようになっており、コールドスリープさせることでナノマシンに感染するウィルスを取り除く(『密室のサクリファイス』)といった、世界観にコールドスリープが組み込まれている例もある。

なお、冷凍睡眠とは異なるが、未来の技術で蘇生が可能になることを期待して死亡直後の死体を冷凍保存するサービスが現実に存在している。
しかし肉体の死と低温凍結によって破壊される細胞を修復する技術は開発の目途すら立っておらず、蘇生は絶望的と言わざるを得ないのではあるが……*1

遠い未来に果たすべき使命がある

現状どうすることも出来ない災害や化け物が出現、未来に希望を託すために使命を持たされた人間を冷凍睡眠させる(『7SEEDS』『機動戦士ガンダムAGE』)。
変わった例としては、
宇宙空間に取り残された軍人が、ほかに手段がないとはいえいずれ訪れる使命を覚悟の上で冷凍睡眠に就いたり、(『Halo 3』)
死んだと思われていた独裁者が実は冷凍睡眠していて、未来で活動を始めたなど。

疲労回復、ストレス解消

冷凍睡眠をごく短期間で終わらせるパターン。
要は普通に眠ったのではとれない疲労をとるために冷凍睡眠を応用するというわけである。
たとえば『宇宙戦艦ヤマト』には長期航海中のゴタゴタから頭を冷やしてもらうため、という目的で冷凍睡眠室があった。
銀河英雄伝説』のタンクベッド睡眠もこれに近いものだろう。

害になる人物の拘束

自発的なコールドスリープではないパターン。
危険だったり計画に障害になったりでそのまま生かして活動させたくなく、かと言って殺すのはちょっと…という人物を説き伏せるなり騙すなり無理矢理なりで凍結させる。
危険人物かどうかは分からず、そうなると殺す訳にもいかないので無力化の手段としてコールドスリープさせる(『グノーシア』)例もある。

母親への依存心を断ち切って訓練に集中させるため母親を凍結させ、会わせないようにする(『ノーマン』)など「そんな理由でコールドスリープさせるの!?」というものも。
凶悪な人物などを殺すのではなくコールドスリープさせたばかりに、後々復活して大変なことになる…というパターンもしばしば見られる。

肉体が若いまま年齢だけ重ねる方法として

現行法においては寝ていたからといって年齢の加算が止まるわけではないため、これを利用して体を若く保ったまま年齢だけを増加させることができる。
この方法により「体は10歳だが20年間冷凍睡眠していたので年齢は30歳となり、被選挙権を得て国会に参加する」といった展開が可能。
特に恋愛やエロのジャンルでは、少年少女を冷凍睡眠で歳だけとらせて合法的に結婚・セックスできる、という使い方をされることがある。


フィクションにおける冷凍睡眠あるある

世界情勢が大きく変わっている

むしろこれがなかったら冷凍睡眠である必要がないレベル。
最も定番なのは「冷凍睡眠中に核戦争が勃発、世界は荒廃してポストアポカリプスになっていた」(『Fallout4』『METAL MAX4 月光のディーヴァ』)だが、これはまだ優しい方で、
文明は後退し、石器時代に逆戻りしていたり、
むしろ人類は皆滅び、人間は自分だけになっていたり、
人間とは違う生き物が文明を発展させていたり(『火の鳥』望郷編)、などなど。
これにより、同じ地球が舞台であるにも関わらず、異世界モノと呼んでも過言ではない物語を展開することが可能となる。

そもそも冷凍睡眠が開発されたとしても、文明が発展し続ける保証などどこにもないのでそうしたリスクは当然とも言え、
『7SEEDS』の様にそうした荒廃世界に人類の種(SEED)を残すために冷凍睡眠が行われた作品もある。

眠っていたので、当然ながら情報が無い

世界情勢が大きく変わっていようが、目覚めて最初は変わり果てた世界に戸惑うことになる。
冷凍睡眠していたのが主人公格であれば、読者にとっても不自然ではなく「世界に何が起きたのか」の説明を受けることが可能となる。
もっとも、その説明をきな臭い人間にさせたり、恋人などが遺したメッセージと矛盾を発生させることによって、
「こいつら本当の情報を与えてくれているのか?」というサスペンス要素を生み出したりも出来る(『終末のハーレム』など)

余りにも時間が経過しすぎて、常識が通用しなくなる

最も定番なのは、「無法なヒャッハーが溢れているので、平和主義が通用しない」であるが、
そもそも文明の後退具合にもよるので、
トラブルで目覚める時間が10年程遅れるだけなら軽いとも言えるが、(『機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト』)
その時代の人達にとっては平気な食べ物が口に合わずゲロインになったり、(『新・世界樹の迷宮 ミレニアムの少女』)
蛇口から水が出る生活が常識だったせいで、水汲みが億劫と感じたり、
人類皆おバカになって相対的に自分が世界で一番賢い人間となったり、(26世紀青年)
人類が主人公残して死滅してロボットしか残っていないが、ロボット達の必死な努力によって主人公がそれが普通だと思い込んでいる、などなど様々なケースがある。
逆に、冷凍された当時から大きく進歩した文明に放り出され、未来の文化や考え方・生き方の違いに戸惑う場合も(『新スタートレック』第26話)。

主人公は、今まで抱いていた常識こそ正しいと貫くか、
はたまた、適応してその時代を生きる人として生きるか、
あるいは、自分が新たな常識となるべく革命を起こすか、選択を迫られることとなる。
そしてもし、かつての親しい人が冷凍睡眠を受けずに生きていた場合、目覚めたばかりの主人公と人生経験を重ねた親しい人とで意見が対立する悲劇になることも…

技術こそ完璧であったが、外部要因によって起床に失敗する

何年も眠りについている間、装置や中の人間が無事でいる保障はなく、災害や戦争の余波で事故的に壊れてしまう可能性もある。(『火の鳥』未来編)

また、最後の生き残りというわけでなければ他人の思惑も絡んでくるわけで、
何者かに外部から装置を破壊されたり、(『機動戦士ガンダム00』)
中の人間はそのままスイッチを停止させられたり、(『2001年宇宙の旅』)
エネルギー供給そのものを止めてしまわれると、(『Overwatch』)
抵抗すらできずに死ぬしかなくなる。

起床に失敗したキャラは、冷凍睡眠の装置がそのまま棺桶となり無残なミイラと化す。

外部の揉め事によって、起こしてもらえない

予定よりも後になって目覚めさせられた(『The Outer Worlds』)、
そもそも冷凍睡眠自体が実験で起こしてもらうことすら絶望的であった、(『Fallout4』)
雑に忘れ去られてカプセルもゴミ捨て場に捨てられていた(『26世紀青年』)
などなど、起こしてこそもらえたものの、想定と全く違う事態に陥っているパターン。
また『モルフェウスの領域』では「起こしてもらえない」とは幸いならなかったものの、ただ起こすと被験者の社会生活に支障をきたす厄介な問題が浮上したため、それを懸念したある人物により被験者が起きる前に極秘「解決法」が取られている。

恋人や家族が年老いている

一方が冷凍睡眠に入り、一方は普通に年齢を重ねた結果起きるもの。
冷凍睡眠が登場しない宇宙SF作品でもウラシマ効果の結果として表されることがある。

長い時を経ても再会できただけマシかもしれないが、
年老いた恋人は気づくのに冷凍睡眠していた若者は恋人の正体に気付かずに殺し合いになったり、(『安達が原』)、
出会い頭での殺し合いこそ回避するものの、長い年月より生じた価値観の違いからやっぱり殺し合いになったりするケースも(『Fallout4』)

冷凍(物理)

ただの氷漬けを冷凍睡眠と言い張るタイプ。
凍っていようが関係ない尋常外れたタフネスの持ち主だったり、
最近では、死体状態から復活できる再生医療技術が存在していることを前提に、冷凍庫をクラフトするところから始めた科学漫画があったりする。
しかし一方で本当にただ死体を冷凍しただけであり、蘇生させるのは不可能な状態という事例もある。

ちなみに普通人間を凍らせた場合細胞が壊死したり呼吸ができなかったり等の理由でほぼ確実に死亡するが、壊死が始まる前に全身が凍った場合はそれこそ「冷凍睡眠」の原理で生き残る。
尤もそのような状態になるのは体が小さい子供にしかありえないし、実際あった例でも好条件が重なっただけなので危険な事には変わりないが…。

また現実でも細胞単位でなら冷凍保存する技術は確立されており、精子卵子や受精卵なら(装置が無事に働く限りは)何年も保存することができる。





追記、修正は、百年後の未来よりお願いします。

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最終更新:2024年10月13日 23:10

*1 おまけにうっかり死体を解凍してしまう等の杜撰な管理体制が告発されるといった、科学技術以外の問題も