アグネスデジタル(競走馬)

登録日:2021/09/22(水) 11:31:00
更新日:2021/09/28 Tue 05:06:30
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真の勇者は、戦場を選ばない

ヒーロー列伝No.54より


アグネスデジタル(Agnes Digital)とは、1997年アメリカ生まれ・日本調教の元競走馬・種牡馬。
超弩級の変態異能の天才にして戦場を選ばぬ真の勇者。そして白井最強



その実績について


その重賞戦歴をご覧いただければわかる通り、

地方中央芝ダート国内外を問わず、GⅠ&GⅠ級6勝を挙げたガチオブガチの超優駿

であると同時に、日本競馬界においてグレード制導入以来初の芝とダートのダブルGⅠ制覇を果たした競走馬である。*3
まあ何が言いたいかっていうと白井最強


真の勇者の生い立ちと来日〜買われたときから白井最強〜

1997年5月15日、ケンタッキー州のラモニードファームで生を受ける。
父クラフティプロスペクターはアメリカで多くの重賞馬を輩出してきた優秀な種牡馬であり、日本にも短距離ダートで活躍したストーンステッパーという産駒がいた。
母チャンシースクウォーは成績こそパッとしなかったが、近親に種牡馬として日本に輸出されたベイラーンと、フランスでGⅠ3勝を挙げアイルランドでリーディングブルードメアサイアーとなったブラッシンググルームを持つ良血牝馬である。ちなみにデジタルにとってはどちらも大伯父。

かようになかなかの良血を受け継ぎ生まれてきた勇者デジタルだが、当歳馬*4の頃は小柄で細っこく、あまり見栄えのいい馬ではなかった。
なにしろ購入にやってきた白井最強白井寿昭調教師に現地関係者が問うて曰く「なんだってこんなちっこくて見栄えしないの買うんです?」
なお白井師曰く「候補の中じゃコイツが一番気に入った、走るぞ」。そして実際に走ったのみならずド変態なぶっ飛んだ戦績残してるあたり、白井師の相馬眼は最強だった。

ちなみにこの馬、元々日本人に売る予定はハナからなかったのだが、白井師が開口一番

「この馬、売るんか?」

とド直球な挑発をぶち込んで生産者をハートキャッチし、その後クールモア*5のエージェントがもっといい条件を持ち込んだにもかかわらず

「悪いがその幼駒はミスターシライに売約済みだ」

と生産者に言わしめたという、初手からキレッキレのエピソード持ちである。見出しのフラグ回収完了買われたときから白井最強

日本に連れ帰り育成調教が始まると、ナリは細くとも頑健な体躯に素直でおとなしく我慢強い性格と、実に扱いやすいことが判明。
予定を1ヶ月前倒しして栗東トレセン白井厩舎に入厩し、デビューへ向けて調教を積んでいった。


真の勇者の戦績〜戦場を選ばぬ白井最強〜

ここからはアグネスデジタルの戦績についてまとめていく。
旧馬齢については旧をつけて表記する。

旧3歳〜旧4歳時〜ムラっ気の強い一発屋、去りゆく的場に勝利を捧ぐ〜

旧3歳の99年9月、福永祐一騎手を鞍上に阪神競馬場の新馬戦でデビューするも、7馬身差の2着と着順はともかく馬身差的には惨敗。続く2戦目では後続に3馬身差つけて快勝。
しかし3戦目に臨んだ芝の短距離は10頭立ての8着と大敗。「芝はアカンのでは?」ということでダート路線を進むことに。次走のダートを2着と好走し、「やっぱこいつダート馬やな」との認識が強まる。
5戦目からはベテランの勝負師・的場均騎手が手綱を取ることに。このレースでは後続に7馬身差つけて圧勝し、続く12月下旬の全日本3歳優駿では1番人気に応え、重賞初勝利を飾った。

旧4歳となる00年は2月のヒヤシンスステークスから始動。芝とダートを計3戦していずれも3着と芝でも好感触を得たことから、陣営はNHKマイルカップに挑むも7着に敗れる。
ここからまたダートに戻り名古屋優駿をレコード勝ち。ジャパンダートダービーを14着と大敗するが、ユニコーンステークスでは新馬戦で敗れたマチカネランに雪辱を果たした。
で、秋の最大目標を選ぶわけだが……ここでまさかのマイルチャンピオンシップに出走表明。ジャパンカップダート*6は長過ぎんじゃね?じゃあマイルのこっちに殴り込みじゃ、という理由である。
とはいえこの時点で芝未勝利なデジタルを推す奇特な馬券師がそういるわけもなく、13番人気に沈む。むしろ最低人気じゃないことが驚きだよ

そしてマイルチャンピオンシップ当日。序盤から流れに乗れず、最終直線間際まで15番手付近と、どうあがいても絶望待ったなしの位置につけていた、我らが勇者デジタルと的場。
しかしここからレースは大波乱の展開を見せる。
ようよう4角を回り終えたデジタルが直線を向き追い込みを図ると、

ワープかゼロシフトかと見紛うほどの凄まじい末脚が炸裂!

残り200mから先団をまとめてぶち抜き、1番人気のダイタクリーヴァを半馬身差ねじ伏せてレースレコードで大勝利。波乱の決着を迎えた淀の空に馬券が舞った。お前実はダンシングブレーヴ系じゃねーよな?
翌年2月で引退予定だった鞍上的場最後のGⅠ勝利、しかもそれが思い出の詰まった淀で、である。的場にとってはこれ以上ない引退の花道となった。まさに白井最強
なお当の白井師もここまで劇的に勝つとは思っておらず、レース直後はびっくら仰天したとか。そらそうよ


4歳〜5歳時〜故障、惨敗、フロックかと思ったか?残念、こいつは白井最強だ〜

二度目の4歳となる01年は京都金杯で始動したが、ダイタクリーヴァに雪辱を許し、さらに右前脚球節炎を発症。4月までを棒に振るとともに、2月に引退した的場に代わり新たに四位洋文騎手を鞍上に据え、復帰戦を京王杯スプリングカップと定めるが9着と撃沈。続く安田記念も11着と大敗。
やっぱマイルCSもフロックじゃねーか、所詮はダート専の一発屋か……そんな烙印を押され忘れられかけていた俺達の勇者デジタルだが、8月一杯まで休養し、元気一杯気合十分で9月からの復活を目論む。
復帰戦の日本テレビ盃を三番手から後半でハナを取り最終直線で三馬身差で圧勝。
次走の今日もときめきワンダーランドなマイルCS南部杯もハイフレンドピュアと前回優勝のゴールドティアラの先行争いを眺める三番手を保ちやはり最終直線で突き抜ける危なげない連勝。
収得賞金をきっちり稼いだ陣営が次走に選択したのは……なんと秋の盾、天皇賞(秋)
直前の奇襲表明ということで馬券師と他陣営の度肝を抜いた。特に社台は「ファッ!?」ってなってた


デジタル出走表明で自分とこが出走できなくなるクロフネ陣営、当然白井師説得に動く。

社台さんサイド「え、白井さんマジですか!?(勘弁してくださいよ、回避してくれません?マジで頼みますよ〜)」

白井最強「どうしても使いたいのでご理解ください(だが断る、断じて断る、何があろうとも断る)」

天下の社台を一刀両断にぶった斬る白井最強
だが当然競馬ファンはキレた。そりゃもうマジギレした。「デジタルはダートのマイルだけ走っとけ!」「クロフネの可能性摘んでんじゃねーよフロックの駄馬が!!」「白井最弱」ってなもんだ。
まあ実際、ここまでデジタルが勝ったのはマイルCS除けば全部ダートだし、それ以前に2000mからのレースは未知の領域である。なんだったらこの春も府中でいいとこなしだったとあり、常識的に考えてまず勝ち目は0である。
「勝てねーのに無駄に出走枠埋めに来たドKY」認定もしかたのないことではあった。
某所では「アグネスデジタルが一桁着順だったら性転換します」という縁起スレまで立つ始末。

さて、秋天当日。東京競馬場は雨による重馬場発表、ダートに近くパワー必須の状況下にあった。
この馬場コンディションを見切った白井師は、四位騎手に「観客席に向かって走れ(訳・大外に出してまとめて撫で斬りにしろ)」と指示。
逃げ馬が出遅れドトウがハナに立ち、スローペースでレースが進む。
最終直線でいつものコンビがツートップに立つものの、末脚炸裂させたデジタルが中団から大外をまくって覇王と名将を強襲。

世紀末覇王落日の時来たる!

ーー馬の者や他陣営の度肝を抜く鮮やかな撫で斬りで、大波乱のうちに決着した府中の空に馬券が舞った。
そしてクロフネ陣営に対してもこれ以上ない形でケジメをつけた。またしても白井最強
ちなみに、外国産馬の秋の盾獲得は、かつて外国産馬にも開放されていた時代……1956年のミツドフアーム*7以来45年ぶり。約半世紀ぶりの偉業を愛馬で勝ち取る白井最強
馬主・渡辺孝男氏「周りには色々心ないこと言われたけど、言った人今頃恥かいてるよね(ニッコリ)」

なお、「秋天出れねーのに走らねーのももったいねーな」と武蔵野ステークスに出走したクロフネが、9馬身差の蹂躙劇を見せ、さらに次走ジャパンカップダートでもぶっちぎりのレコード勝ちをぶちかまし、ファンと関係者の腰を抜かし顎を外したのはあまりにも有名。
アメリカの遠征陣営を「日本にクロフネっつー白いセクレタリアトがいる件について」と戦慄させたのもそこそこ有名。
芝でもダートでも強さを見せつけ種牡馬として大成したクロフネは、ある意味デジタルが育てたと言えなくもないんである。まあ適性食い合ったせいで自分も後で苦労するハメになるんだが

どうでもいいが縁起スレの人が性転換したかは定かではない。

秋天で大番狂わせの大金星を挙げた陣営は、次走に香港カップを選択。
ダートと来て芝と来て今度は海外である。いい加減慣れてきたはずの馬の者はやっぱり仰天した。連覇のかかってるマイルCS捨てて海外に殴り込むとか普通思わんわな。
この年の香港国際競争は日本勢が無双状態であった。香港ヴァーズを阿寒湖さんが、香港マイルを同期のマル外仲間エイシンプレストンがかっさらい、香港に殴り込んだ日本馬の大トリとしてデジタルにも期待がかかる。香港スプリントでダイタクヤマトとメジロダーリングが轟沈してた?知らんな
2番人気で迎えた当日のレースがスローペースで進む中、5番手となかなかの好位を追走。3角からのペースアップにうまく乗って先頭に立つと、1番人気のトプーグをアタマ差しのぎ切って勝利。マイルCSも秋天もフロックなどではなかったと高らかに宣言した。これ見てなおフロックって言えるようなら逆に大物だぞ、頭無惨界のな!

余談だが、ステゴのドマラ……もといドラマチックすぎる勝利ばっか言われるため、白井師が「劇的だからどうした!いっちゃん強い勝ち方したのはうちのデジタルやろがい!!」とキレたのは有名。愛馬の名誉が第一の白井最強
これがこの年最後の出走となったデジタルは、年度表彰において最優秀4歳以上牡馬の栄誉を受けた。
ちなみに最優秀ダートホースにはクロフネが選ばれたが、屈腱炎を発症しこの年限りで無念の引退。ファンや陣営の海外遠征の夢は夢で終わった。

明けて02年の初戦はフェブラリーステークス。
芝・ダートのGⅠ馬が揃う中珍しく一番人気になるデジタル。
中団の位置を保ち、4角以降先行陣がごっそり競い合う中外回りで一気に突き抜け、さらに外から追いすがる南関東4冠トーシンブリザードからリードを守り快勝。GⅠ連勝記録を4に伸ばす。
盛岡ダート→府中芝→シャティン芝→府中ダートって……なに、この……なに?変態なの?オールラウンダーなの?白井最強なの?
余勢を駆ってドバイワールドカップに殴り込むが、香港でのトランジット失敗でやつれ果て、調整が間に合わず6着に沈む。
次走香港のクイーンエリザベス2世カップでは見事に立て直し、香港魔王ことエイシンプレストンとワンツーフィニッシュを決め2着。
しかし体調は悪化の一途であり、帰国後は全休を余儀なくされた。こんだけ無茶なローテでぶっ壊れてないあたりやっぱ変態だよお前


6歳時〜雪辱を果たした復活の安田記念、そしてさらば〜

6歳で迎えた03年は5月のかきつばた賞で戦線復帰するも、4着に敗れる。
これには馬の者も「デジタルオワタ」「休んでる間に全盛期尽きてんなこりゃ」との評価を下す。
当然、次走に据えた安田記念は始まる前から混戦模様だった。GⅠ未勝利のローエングリンがまさかの1番人気である。さすがにGⅠ未勝利馬よりGⅠ5勝馬が下とかねーわ
しかしゆめ忘れるなかれ、こいつはGⅠ5勝(当時)のトップホースであり、同時に評価が落ちたところからの末脚ズドンで馬券フライハイはこいつの十八番にして様式美である。二度あることはサンドピアリス、競馬界のお約束

4番人気で迎えた当日は中団で先行勢を睨みつつ追走、直線半ばで抜け出したローエングリン、そしてそこに食らいつき追い抜かんとするアドマイヤマックスをまとめて外からぶった斬ってゴール板に飛び込み、復活のGⅠ勝利を高らかに謳った。
走破タイムはオグリキャップのレコードを13年ぶりに更新。実績ありとはいえ6歳の老兵がスピードとパワーの求められるマイルレースをレコード勝ちしたことで、やっぱり馬券が府中の空に舞った。
まさか本当に二度あることはサンドピアリスをやらかすとは……しかしこいつ、中央GⅠで勝つたびに馬券フライハイしてねえか?

結局これがデジタル最後の勝利となり、その後は凡走や惨敗も多く、日本テレビ盃の2着が最高着順になってしまう。
ラストランとなった有馬記念も9馬身圧勝で連覇を果たしたシンボリクリスエスの影でひっそりと9着敗戦、翌04年1月18日に引退式が行われた。


評価


競走馬としての評価

変態。アグネスデジタルマジ変態。
……待って、ちゃんと解説するから待って。

通算32戦12勝[12-5-4-11]
「オールラウンダー」「万能の名馬」「異能のスーパーホース」などと称される稀代の名馬。
とはいえ本質的には長くともインターミディエイトが限界で2000mを越える勝利はない。むしろ適性が最も高いのはマイルであり、スピード重視の馬であったことは確かである。
特筆すべきはその類稀なる身体能力。まるで大戦斧のような豪快さと名刀のような鋭い切れ味を兼ね備えた常識外の末脚、深いダートを意に介さず駆け抜けるパワー、そして馬場状態や競馬場を選ばずパフォーマンスを発揮できる、もはや万能の域にある器用さと、どこをとってもGⅠホースの頂点を争うに値する。
そも芝からダートへの転向組は脚のキレを失ったり元から乏しかったりするのが主*8だが、老いてなおそんなの知らんわとばかりに駆け抜けたデジタルのキレは、まさに馬体の神秘と言えよう。
冒頭の「真の勇者は、戦場を選ばない」とは、そんなデジタルへとJRAが贈った最高の褒め言葉なのだ。でもやっぱりそのローテは変態すぎて白井最強

キャリア初期と晩年のムラっけや時折の大敗ぶり、芝ダート織り交ざったローテからか一番人気だったことはあまり多くはない。それなりの人気から大敗することもある、馬券的に難解な馬で合った。やはり変態

性格的にはおとなしくて我慢強く、主戦の四位騎手曰く「ぼけっとしててやる気あんのかなって馬」だったそうだが、このストレスをストレスと思わない飄々としたクソ強メンタルもまた、変態ローテや度重なる転戦で強さを見せた秘訣だったのだろう。

種牡馬としての評価

どちらかといえば産駒成績はダート寄りで、有名どころはジャパンダートダービーを征したカゼノコや芝ダート重賞を獲ったヤマニンキングリーあたりか。
芝もこなせる産駒を輩出してはいるものの、その変態すぎるオールラウンダーとしての素質を開花させたものは残念ながら今のところいない。
親と違ってどうにも体質の弱さに悩む産駒が多く、大成前に潰れがちなのも悩みのタネ。ただG1クラスに届かないぶん親以上に継走し続ける丈夫な産駒も。
孫か曾孫の代でそのオールラウンダー性が開花して……開花……してくれるといいなぁ。2019年くらいから母父デジタルもそこそこ伸びてはいるし
ちなみにムキムキだが脚と首が短いデジタルは牝馬と組みづらくて種付けが苦手だったそうな。ベッドでは変態でも白井最強でもなかった

20年をもって種牡馬を引退し、十勝軽種馬農業協同組合種馬所にて余生を送っている。




追記・修正は白井最強を体現してからお願いします。

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最終更新:2021年09月28日 05:06

*1 ICSCの認定は受けていないが、JRAが単独もしくは他の組織とともに認定した最高クラスの格付け競争

*2 東海地区の地方競馬独自の格付け、スーパープレステージ。AVのアレとはまったく関係ない

*3 中央競馬に限って言えばクロフネが初なのだが、地方競馬も含めるとアグネスデジタルが先。またダートG統一前では「砂の女王」ホクトベガが知られている。

*4 生まれた歳の馬のこと。2000年までは日本の馬齢表記が数え年のため+1歳

*5 米英豪に牧場を構えるサラブレッド事業体

*6 後のチャンピオンズカップ。当時は2100mであった

*7 当時表記、現行表記準拠ではおそらくミッドファーム

*8 アドマイヤドンやヴァーミリアンがこの手のタイプ。クロフネのような超絶級は例外である