名探偵コナン 推理ファイル 環境の謎

登録日:2022/05/01(日) 22:07:35
更新日:2023/11/13 Mon 07:12:53
所要時間:約 14 分で読めます






『名探偵コナン 推理ファイル 環境の謎』とは、名探偵コナンを題材とした学習漫画の一つ。
あの怪作『昆虫の謎』『恐竜の謎』と同じシリーズである。
漫画は山岸栄一氏が担当した。

最大の特徴は、そのシリアスさ
昆虫忍者やらクローンやらといったYAIBAでやれというような無茶な設定は無いが、
少年探偵団が世界を揺るがすバイオテロに巻き込まれるという衝撃的な始まりに加え、今回の敵は目的のためなら命を絶つことも厭わない過激な思想犯である事、
そして文字通り『自分の命かその他大勢の命か』という決断を迫られるなど、コナンが終始かつてない危機に苦しめられる非常に陰鬱とした展開が続く。
そのボリュームは劇場版並みかもしれない。



【あらすじ】

大規模実験施設『C(サイクル)ドーム』の体験ツアーに当選した少年探偵団。
人工的に作られた自然を満喫する彼らだったが、施設内の地中から謎の白骨死体が発見される。

白骨死体の身元調査が行われ始めた直後、突如ドーム内の全てのシステムがダウンし、ドームは外部と完全に隔離されてしまう。
同時に、マスコミにある動画が送りつけられる。それは『4人のディオニッソス』と名乗るテロ組織の犯行声明だった。
動画に映っていた男・羽々戸は地球環境の悪化とそれに対する国際社会の意識の低さを説くと、人類を環境問題と向き合わせる最終手段として新種の細菌を開発したことを明かす。

そして、その細菌の威力を実証するために、C(サイクル) ドーム内で人体実験を行う…と。


【登場人物】

♦︎レギュラーキャラクター

命の危機に陥る少年探偵団を勇気づけるため気丈に振る舞うが、敵の用意周到さの前に流石の名探偵も後手に回り、脱出の術が見つからず追い詰められる。
今回、阿笠の道具のほとんどを持ち込めなかった為、イヤリング型携帯電話の活躍が光る

くじ運がいいのか悪いのか、C(サイクル) ドーム体験ツアーに当選するが、世界を揺るがすバイオテロに巻き込まれてしまう。
大人でも発狂しかねない状況でも最後まで生きるのを諦めない勇敢な子供達。

4人のディオニッソスの残るメンバーを突き止める為、関係者の家宅捜査を行なっていた。
身動きの取れないコナンに情報を提供しており、物語の中盤では彼の感じたある違和感が事件を大きく動かす。

少しだけ登場。毛利探偵事務所で子供達を心配していた。

なお、今回は灰原は登場していないが、元科学者がいるとバイオテロの絶望感が薄れるので仕方がないだろう。


♦︎オリジナルキャラクター

  • 波留(はる)
C(サイクル)ドームの駐在職員の一人でツアー参加者の案内を務める親切な人物。
序盤に倒木に巻き込まれて脚を怪我してしまうが……。

  • 草壁巴(くさかべ ともえ)
C(サイクル)ドームの駐在職員の紅一点。
料理が苦手らしく、彼女が食事当番のメニューは7品全部サラダで育ち盛りの元太を苦しませていた。

  • 高倉(たかくら)
C(サイクル)ドームの駐在職員で機械系統の責任者。
白骨死体の持っていた細菌入りのカプセルを開けてしまった責任を感じ、ドームのシステムを復旧させるために尽力する。

  • 加持(かじ)
C(サイクル)ドームの駐在職員で医療担当。
4人の中ではリーダー的なポジション。医者としての冷静な視点から本当に脱出すべきかを皆に問う。

  • 羽々戸丈二(はばと たけじ)
4人のディオニッソスのメンバーで、序盤で発見された白骨死体の正体。
その素性は、一年ほど前から行方不明になっていた某大学の研究者で細菌を作った張本人。
犯行声明動画の最後に、いずれ計画の犠牲になるであろうC(サイクル)ドームの職員たちへの罪滅ぼしのため自ら喉を切って自害した。
その後仲間たちによってドーム内の地中に遺棄されたと思われる。
白骨死体は細菌入りのカプセルと共に名前の彫られた指輪を持っていたがこれはわざとで、身元調査のためドームの運営本部のコンピュータで『ハバト』のキーワードを検索すると、仕込んであったコンピュータウイルスが作動してドームのシステムがダウンするようになっていた。

  • 野仲(のなか)
4人のディオニッソスのメンバーで、C(サイクル)ドームの設計主任。
計画が発動したことを知ると口封じのため自ら首を吊って命を絶った。
本編では顔すら出ず名前だけの登場だが、彼が建造段階からドームに仕込んだ数々の用意周到な仕掛けはコナンも終始後手に回るほどで、その狂気的な執念が垣間見える。
実質本作で最もコナンたちを苦しめた人物と言っても過言ではない。

  • 間(はざま)
4人のディオニッソスのメンバーで、C(サイクル)ドーム開発に携わったプログラマー。
野仲の強い推薦によってドーム開発の仕事についたとされる。計画が発動するとすぐ行方不明になり、その後自殺死体で発見された。
野仲がドーム全体に仕込んだ仕掛けを一斉作動させたコンピューターウイルスを運営本部のコンピュータに仕込んだ人物であり、おそらくマスコミに犯行声明を送りつけたのも彼の手によるもの。

  • 残るメンバー
4人のディオニッソスのメンバーが組織名通り4人であるという確証はないものの、細菌を世界中に運搬する運び屋役が最低一人はいると思われる。
この人物は炭疽菌を所持しており、救助や脱出を試みれば世界のどこかで炭疽菌による夥しい死者が出るという声明が出されたこともあって、極論この人物が確保されない限りコナンたちが助かる見込みはないといえる。

  • 総理大臣
世界を揺るがす大規模テロに頭を悩ませ、C(サイクル)ドームの救助計画も検討していたが、ドーム内の人間を見殺しにすべきとの部下の進言には流石に眉を顰めた。

  • 国会議員
総理大臣の側近らしき眼鏡の男。
未知の細菌のデータを得る為にC(サイクル)ドーム内の人間を見殺しにする覚悟も必要だと総理に進言した。
後に救助チームの一員となり加持と電話でコンタクトを取るが、その際も大多数の命のために少数の命を切り捨てねばならない可能性を正直に語り、この事が加持に大きな影響を与える。


♦︎舞台

C(サイクル)ドーム
自然環境を研究する為、300億円の巨費を投じて作られた湖上実験施設。
電力は湖底を通るケーブルから賄われており、内部には人工的に様々な自然が再現されている。
内部の環境を維持するため外界とは完全に遮断されており、人の出入りの際もエアロックで外気が入らないよう徹底されている為、
その完全密室ぶりがテロ組織に実験台として目をつけられてしまった。

野仲が手を回した事で設計図が偽物とすり替えられていたり、配管や配線にダミーが仕込まれていたり、
非常用の脱出設備が使えなくなっていたりと徹底的に脱出路が潰されてしまっている。

・表面
太陽光を入れるためドーム表面は全て強化ガラスで構成されている。
緊急時の脱出用に普通のガラスも数枚用意しておくはずだったが、野仲の手回しにより全て強化ガラスにすり替えられており、当然これを力技で割るのは難しい。
蘭や京極クラスのキャラなら簡単に蹴破れそう。

・森
土や草木が持ち込まれ人工的に森林が再現されたエリア。
散水はスプリンクラーによって自動的に行われているが、強い雨風の影響を受けていない為に樹木がうまく根を張らず、倒木が起きるなど人工ゆえの問題も起きている。

・海
大量の水によって人工的に海が再現されたエリア。
魚も持ち込まれており、コンクリートで岩場まで再現されている。
海中の生物に充分な酸素を確保する為、酸素ボンベが予備も含めて複数用意されている。
こちらもすぐ藻が大量発生するという問題がある。

(ラング)
ドーム内の気圧の変化に対応する為、分厚いゴム膜の壁がある。
この膜の向こう側は半球状のチタン合金の空間になっている為、これを力技で破るのもかなり難しい。
これも蘭や京極クラスのキャラなら蹴破れそう。


♦︎用語

・4人のディオニッソス
人類に『ダモクレスの剣』を突きつけることを目的とした過激な環境テロ組織。
メンバーの交友関係をどれだけ探っても痕跡が見つからない為、組織というよりインターネット等で集まった小規模なグループなのではとコナンは推測している。
その目的は、自分たちが開発した細菌の脅威を盾に国際社会に環境問題と向き合うのを強要する事であり、
目的のためなら無関係な人を危険に晒すことは勿論、自分たちの命を捨てる事すら厭わない過激な者たちである。
C(サイクル)ドームにコナン達を閉じ込めたのは、外界と完全に隔離された空間内に細菌をばら撒いて内部の人間を全員殺し、細菌の実在と脅威を世に知らしめる為。
計画に邪魔が入らないよう、『救助や脱出を試みれば仲間が世界のどこかで炭疽菌を散布して、不特定多数の人間を虐殺する』とわざわざ警告している。
その為、コナン達は『自分の命』と『知らない誰かの命』という重すぎる選択を背負わされる事になる。

・細菌
4人のディオニッソスの切り札であり、羽々戸が作った新種の細菌。
開発者の羽々戸曰く『過去に類を見ないほどの毒性と感染力を持ち、数日で数十億単位の人が死んでいくほどのパンデミックを引き起こす』代物で、発症すれば半日も持たずに死に至る。
最大の特徴として、『大気中の二酸化炭素濃度*1が1%未満の環境では無害だが、1%を超えると活発化する』という都合の良い性質がある。
つまり、これが存在するだけで人類は地球温暖化対策に取り組む事を無理強いさせられる事になる。
あまりに危険な為4人のディオニッソスも流石に本当に使うつもりはなく、抑止力として用意したらしい。

C(サイクル)ドームにばら撒かれたものは外部への影響を考えて弱毒化されており、カプセルが開いてから3日が経つと自然に死滅するように設定されている。
裏を返せば、ドーム内の人間を確実に殺す為に、二酸化炭素濃度を高める為の仕掛けが計画始動から3日以内に発動することが予想される。


以下ネタバレ















  • 波留の発病
突如波留が倒れ、危篤状態に陥る。状況から見て細菌に感染した可能性が高かった。
二酸化炭素濃度はまだ安全圏だったが、波留は倒木事故で怪我をしていた為、傷口から直に細菌が入るというイレギュラーな形で発病してしまったと加持は推測している。

さらに畳み掛けるように状況は動く…!

  • 一つ目の罠
突然二酸化炭素濃度が増え始めた。
コナンが調べたところ、動いていないはずのスプリンクラーが作動した形跡があった。
実は岩場を再現するのに使われたコンクリートに炭酸カルシウムが含まれており、
スプリンクラーから酸性雨が散布されることで化学反応により二酸化炭素が放出されたのだ。
二酸化炭素濃度はある程度上昇したあと安定した。この一手で二酸化炭素濃度が上がりきらないことは犯人たちにとっても想定内であり、更なるトドメの一手が用意されているとコナンは推測する。

  • 高木の活躍
一方、コナンたちと連絡を取りながら容疑者の家宅捜査を行なっていた高木に動きがあった。
羽々戸と違い野仲と間は急遽自殺した為に身の回りを整理する暇がなく、自宅に多くの私物が残されていた。
そして、両者の私物の『ある共通点』に勘付いた高木の調査によって、それらから同じ指紋が検出され、残された最後のメンバーと思しき人物の名前が遂に捜査線上に上がる。
その人物さえ確保されれば救助の目処が立つが、ドーム内は着々と終末に近づいていた…!

  • 二つ目の罠
突然電力が復旧したことでコナン達が希望を抱いたのも束の間、なんとドーム内のあちこちで火の手が上がり始める。
森林地帯の各所に電熱線が配置されており、小規模な火災を発生させて燃焼により二酸化炭素を増やす、これが犯人の最後の作戦だった。
ご丁寧に火災は職員たちが対処しづらいよう同時多発的に発生しており、スプリンクラーも勿論動かず、それどころか消化器まで空のものにすり替えられていた。
対処法といえばバケツリレーぐらいしかなく、もはや高木の犯人確保に間に合わない事は誰の目にも明らかで、コナンですら諦めかけたほどだった。
だがそんな中、元太の何気ない一言でドーム内の人工海に目をつけたコナンは、遂に脱出計画を思いつく…!

  • コナンの脱出計画
コナンの脱出計画自体はいつでも実行に移せるが、下手な真似をすれば罪の無い人々の命が危険に晒される。
だが、二酸化炭素のタイムリミットはあと僅かであり、その事を皆に説いたコナンは、高木が犯人を確保するまでの時間稼ぎの方法を提案する。

それは、火災をさらに広げてドーム内全体を火の海にし、細菌を残らず焼き尽くすという無茶苦茶なもの。
たとえ、犯人に気づかれても計画にミスが生じただけだと思われる事を見越した作戦である。

そして、コナン達は(ラング)の内部に隠れる事で火をやり過ごし、人工海に残されていた酸素ボンベを分け合ってどうにか呼吸をしていた。

想像を遥かに上回る苦しみの中、コナンたちは高木からの連絡を待っていた。皆もう限界が近かった。

そして遂に高木からの連絡が来た。


高木は…犯人を確保できなかった。
犯人は既に国外におり、近隣住民の話によるとウラジオストクの永久凍土へと向かったという。
それを聞いたコナンは、犯人が人などとても住めない永久凍土にいる可能性に賭け、遂に脱出を決行する。

コナンの脱出計画は、残された最後の酸素ボンベに大量の空気を詰め込み、
ペットボトルロケットの要領で飛ばしてチタン合金の壁をぶち破るというこれまた無茶苦茶なものだった。
一回限りの賭け…作戦は見事に成功。みんなが生還を喜び合う中、コナンは犯人の行動を警戒していた。

同時刻、コナンの推測通り一人永久凍土にいた犯人は、防護服を着たロシア軍に確保されていたのだった…。


以下更なるネタバレ






















  • 番戸 望(ばんど のぞみ)
4人のディオニッソスの最後のメンバーであり主犯。
職業は世界を回る写真家で、怪しまれる事なく世界各国へ行ける運び屋にうってつけの人物だった。
高木が気づいた共通点とは、野仲の私物のカレンダーと間の私物の写真集の制作に関わったカメラマンが同じだった事であり、
これらからは共に番戸の指紋が検出され、おそらく番戸から直接手渡されたものだったのだろう。

ロシアから日本へと移送され取り調べを受けていた番戸は大人しく全ての罪を認めたが、
世界のどこかに存在すると思われる『自動的に細菌を散布する装置』の在処だけは黙秘していた。
そんな中、特別に許可を得てコナンが取調室を訪ねる。

コナンは番戸に語る。実はC(サイクル)ドーム内には番戸が世界を回って撮った写真集があり(野仲あたりが用意したのだろうか?)、
それを読んだコナンは、彼が以前撮った写真には世の中に訴えかける確かな力があったが、近年の写真にはそれがなかったと感じ、
それは番戸はもう写真では戦えなかったからテロ行為に加担してしまったのではないか、と。

図星を突かれた番戸は自分の過去を語る。
彼にとってカメラは武器であり、世界を回って感じた憤りを、写真を通して世の中に伝えていた。彼は写真家として真っ当な方法で、世界に立ち向かっていた。
だが、世界の現状を長年見れば見るほど、自分が無力である事に気付かされていき、自分が解決を願った問題が世界から全く相手にされず、年を追うごとに悪化していくのを目の当たりにし、彼は世界に絶望してしまう。

写真で人類が変われないのならどうすれば人類は変われるのか。
考え続けた番戸は、恐怖を突きつけなければ人は変われないという過激な結論に至り、テロ行為に傾倒していく。
そしてインターネットで仲間を募り、水面下で計画は拡大していき、やがて彼は世界を揺るがすテロリストとなったのだった。

だが、本当は番戸にも迷いがあったのではないかとコナンは問いかける。
写真集を読んだ時、コナンは番戸が本当は心優しくとてもテロ行為などできそうにない人物だと確信していた。
だから彼を信じ、危険を冒してまで脱出に踏み切ったのだと。

それを聞いた番戸は『自分はラジオも聞こえない僻地にいたため事件が起きたことさえ知らなかった。もし知っていたら結果は分からなかった』と言いながらも、
憑き物が落ちたような顔をして『細菌を撒く装置』の在処を白状した。

その装置とは永久凍土のことだった。
今後地球温暖化が進めば氷の下に隠された細菌が露出し世界に広まる、まさに自動装置である。
さらに番戸によれば、永久凍土の下にはまだ見ぬ新種のウイルスが保管されている可能性もあるという。
『ダモクレスの剣は最初から自然界に存在したのだ』と…。

  • 羽々戸 丈二
  • 野仲
過激な思想に殉じて死んでいった者達。
彼らがテロ行為に加担した理由は番戸も敢えて聞かなかった為、謎のままとなった。
彼ら3人は番戸も驚くほどの各分野のエキスパートだったらしく、彼らがその才能を正しい方向に活かしていれば、テロ行為などよりよほど人類の役に立てただろう。

  • 波留
治療の甲斐なく、脱出を待たずして息を引き取った。
その死は直接描かれず、医師である加持の報告と同僚たちの落胆といった形で台詞もなく間接的に描かれた。
シリーズの中でも珍しい表現であり、さらには悲壮感も増しており、テロ行為はどれだけ根本に正義感があっても、このような善良な人間が犠牲になるという事だろう。



♦︎エピローグ
ようやく細菌の回収が終わったというニュースを見ていた毛利一家。
缶ビール片手に『偉そうなことを言って、本当は世界中から金を巻き上げたかっただけではないか』と鼻で笑う小五郎とは対照的に、コナンは複雑そうな顔をしていた。
そんな中、小五郎が部屋の電気をつけっぱなしにした事を蘭が咎める。蘭は電気代の節約に凝っているようだった。

番戸たちが世界に問いかけた事は、若い人々の間で少しずつ広まっているのかもしれない…。




追記・修正は電気を無駄遣いせずにお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 名探偵コナン
  • 環境問題
  • テロリスト
  • バイオテロ
  • 鬱展開
  • スピンオフ
  • 灰原未登場
  • 学習漫画
  • 小学館
  • 細菌
  • 漫画
  • ※学習漫画です
  • ダモクレスの剣
  • 考えさせられる話
  • エコテロリスト

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年11月13日 07:12