ダンボ(実写版)

登録日:2022/11/06 Sun 22:15:47
更新日:2024/12/25 Wed 20:29:58
所要時間:約 12 分で読めます






ディズニーと「チャーリーとチョコレート工場」の監督が奇跡の実写映画化!



「羽ばたけ!」

大きな耳を勇気の翼に変えて――






概要


『ダンボ』(原題:Dumbo)は、日米で2019年3月29日*1に公開された、ディズニーを代表する古典の一角『ダンボ』の実写映画作品である。
監督は幻想的かつ、どこかキッチュでダークな世界観で知られる鬼才ティム・バートン

近年名作の実写映画化ラッシュが続いているディズニーだが、本作はその流れの一つとして立ち上がったわけではなかった。
この企画は2014年、脚本家のアーレン・クルーガーが『ダンボ』の実写化の構想をディズニーに持ち込んだのが始まり。
彼自身にとって『ダンボ』は特別の思い入れがある作品であり、わが子に見せた最初のアニメでもあったという。
2015年3月10日には、バートンが監督すると発表された。
はみ出し者を愛する監督と、異形の者が短所を長所に変え出世する物語。まさにぴったりの組み合わせと言えるだろう。
実際、バートンもこのテーマに深い共感を抱いており、

短所を長所に変えるというアイデアが、僕はとても好きなんだよね。
ダンボは、世間にうまく溶け込めない、空を飛ぶゾウ。だが、サーカスそのものも、普通の仕事には就けない人の集まりだ。
その中のひとり、ホルト(コリン・ファレル)は、戦争で片腕を失っている。そして帰ってきたら、妻が亡くなっていたんだよ。
一方で、彼の娘は、ここを離れて違う職業に就きたいと思っている。みんなが、自分の居場所を探しているのさ。
一見シンプルな話の裏に、そんな素敵なテーマがある。

……と語っている。

また、本作は原作と比べて大幅なアレンジが施されている。
具体的に挙げると、
  • 上映時間わずか64分だった原作から、112分と大幅にボリュームアップ。そのため、後半は完全にオリジナル展開となる。
  • 原作では動物目線で物語が描かれていたが、本作は人間目線で描かれる。
  • よって、原作で印象的だった動物達の描写はかなりさらっと描かれる。ティモシーは犠牲になったのだ……
……という具合に相違点がある。

その一方で、原作が古典中の古典だけあって、オマージュもしっかり押さえてある。
例えば、列車のケイシー・ジュニアに刻まれた「41」の数字は、原作の公開年を表す。
団長の衣装も原作を意識したものだし、玉乗り芸人の帽子は原作のダンボのもの。
サーカスの売店では、アニメ版ダンボのぬいぐるみが販売されているところも見られる。
そしてみんなのトラウマ「ピンクの象」もしっかり出るよ!


あらすじ


1919年のアメリカ
メディチ・ブラザーズ・サーカスは第一次世界大戦に加え、スペイン風邪の流行により犠牲者を出し、経営が傾いていた。
団長のマックスは一発逆転を狙って、妊娠したアジアゾウのジャンボを購入するが、生まれた子供は巨大な耳を持つ異形だった。
「ダンボ」と呼ばれるようになった小象の世話を任せられたかつての花形スター、ホルトは乗り気でなかったが、彼の子供達はダンボと接しているうちに、飛行能力を持っていることに気づく。
やがてこの特技をショーで成功させたダンボは一躍花形スターへと上り詰め、サーカス団も立て直しに成功する。
そこに、巨大遊園地「ドリームランド」を掲げる大物興行師・ヴァンデヴァーが現れ、ダンボと一座の運命は大きく動き出すのだった……


登場人物


  • ダンボ
演:エド・オズモンド(モーションキャプチャ)

ご存じ、世界でただ一頭の空飛ぶ象。本名は「ジャンボ・ジュニア」
初めてのショーでクシャミした時に看板の文字がずれてDEAR BABY JUMBO(親愛なる赤ちゃんジャンボ)EAR BABY DUMBO(耳の赤ちゃんダンボ)になったことがきっかけでダンボと呼ばれるようになった。
その大きすぎる耳から上手く歩けず、当初は団長や観客に散々にこき下ろされるという不遇をかこっていた。
しかしファリア姉弟の支えにより、羽を吸い込みクシャミすることで空を飛べるようになる。
これをショーで成功させ、一躍大スターへとのし上がっていくのだった。
原作では終盤の終盤でやっと飛行能力を会得したが、こちらでは開始から20分足らずで能力に目覚め始めている。
ラストでは母と共にインドへ旅立ち、ジャングルの中で自由に暮らしている。

  • ジャンボ
ダンボの母。
わが子に対し深い愛情を持って接するが、お披露目の際に観客に追い詰められたダンボを守ろうとして大暴れ。テントを破壊する大惨事に至り、売り飛ばされてしまう。
よってサーカスを立て直して金を稼ぎ、彼女を買い戻すことがダンボやファリア姉弟の当面の目標となる。
その後ドリームランドでの演目の最中、ステージから転落しそうになったダンボは彼女を呼び、返ってきた声を聞き脱走。
この件から、「ナイトメアアイランド」というエリアに「破壊神カーリー」の名前で飼育されていたことが判明する。
が、ダンボが芸に集中できないからという理由で殺処分の危機に立たされる事態に。
辞職したヴァンデヴァーの秘書からこれを聞いた団員達やコレットは、一致団結してダンボ親子救出作戦に乗り出すのだった。

  • ホルト・ファリア
演: コリン・ファレル/吹き替え:西島秀俊

「ケンタッキー一の曲馬師」と呼ばれていた、一座の花形スター。子供達と合わせて原作のティモシーに相当する役回りとなっている。
第一次世界大戦に出兵後帰還するが、その間に妻をスペイン風邪で失ったり、自身も隻腕になったり、挙句に経営難によって馬が売却されるなど散々な目に遭う。
団長からは誰もやりたがらない象の世話係を押しつけられ、最初は乗り気でなかったが、ダンボが空を飛んだのを見て考えを改める。
そしてヴァンデヴァーの本性を知った後は、ダンボ親子救出作戦を主導する。
ラストでは念願叶ってホースショーへの復帰を果たした。

演じたコリン・ファレルは後に『THE BATMAN -ザ・バットマン-』にてペンギン役を演じている。
つまり、本作はダニー・デヴィートと合わせて新旧ペンギン俳優揃い踏みということに。

  • ミリー・ファリア
演:ニコ・パーカー/吹き替え:遠藤璃菜

ホルトの長女。母の形見の鍵をお守りとして首から下げている。
将来の夢は発明家でキュリー夫人に憧れており、舞台に立つことは望んでいないが、父に反対されている。
閉塞感漂う状況の中、自分達と似たような境遇のダンボに共感し、親身に接していた。
その際に、弟と共に飛行能力を発見。
クライマックスでは鍵を炎の中に投げ入れ、羽をなくして飛べなくなったダンボに勇気を示した。
そしてラストでは「ミリー・ファリアの驚きの世界」という演目で、ダンボの活動写真を上映する姿が見られる。

  • ジョー・ファリア
演:フィンリー・ホビンス/吹き替え:岡部息吹

ホルトの長男。ある意味ではダンボの名付け親でもある。
姉とは違い芸人家業を継ぐ気でいるが、まだ人に見せられるほどの芸は身につけていない。
ミリーと共にダンボの理解者となり、飛行能力を発見する。
ぶっちゃけ父親より、この姉弟がダンボの調教係である。
ラストでは父と共にホースショーに出演するようになった。

  • ルーファス
演:フィル・ジマーマン/吹き替え:竹田雅則

象の調教係で、陰湿なサディスト。役柄は原作のスミッティー(いたずら少年)に相当する。
ホルトとは違い、心臓が悪かったとの診断が降り徴兵を回避している。
ジャンボを手荒に扱ったり、ダンボにちょっかいを出したりしてホルトやジャンボに制裁される。
その腹いせにダンボお披露目の際にジャンボをそそのかし、会場になだれ込ませて暴れるよう仕向けた。
……が、その結果、倒れたテントの支柱の下敷きになって死亡。これが原因でジャンボが売り飛ばされることになってしまう。

  • ロンゴ
演:デオビア・オパレイ/吹き替え:乃村健次

怪力自慢の黒人団員。
人員不足に悩むサーカスにおいて、色々と不慣れな事務作業などもやらされている。

  • ミス・アトランティス
演:シャロン・ルーニー/吹き替え:大塚千弘

人魚役を務めるプラスサイズの女性。
名曲「Baby Mine(私の赤ちゃん)」の歌唱担当。
なお、同楽曲は竹内まりやによるカバー版が日本版エンドソングとして使用されている。

  • プラミシュ
演:ロシャン・セス/吹き替え:たかお鷹

蛇使いのインド人。
同じインド出身の象には深い愛情を持っており、ダンボ親子救出作戦では2頭がインド行きの船に乗れるよう手配した。

  • マックス・メディチ
演:ダニー・デヴィート/吹き替え:浦山迅

メディチ・ブラザーズ・サーカスの団長。よく猿にちょっかいを出されている。
大金をはたいて購入したジャンボの子供が巨大な耳を持っていたのを見て失望し、売主に返金要求しようとしたりするが、そのダンボによってサーカスが立て直されると一転認めるようになる。
その後ヴァンデヴァーの「団員全員に家を提供する」という口車に乗せられ、ビジネスパートナーになる道を選ぶが……
副社長に就任するも結局お飾りでしかなかった上、団員達が騙し討ち同然にクビにされてしまう。
やがて団員たちがダンボ親子救出に動き出す中、彼らの作戦に協力する決意を固める。
ラストでは「メディチ・ファミリー・サーカス」として一座を復活させた。

演じるダニー・デヴィートは『バットマン リターンズ』のペンギン役を始めとしたバートン作品の常連であるが、4作品中実に3作でサーカスの団長役を演じている。

  • コレット・マーチャント
演:エヴァ・グリーン/吹き替え:沢城みゆき

「楽園の女王」と呼ばれる、ドリームランドの空中ブランコのスター。原作のジム・クロウに相当する。
元々はパリの大道芸人だったが、ヴァンデヴァ―に才能を見出されてドリームランドに引き抜かれた過去を持つ。
ダンボに乗っての共演に当初は懐疑的だったものの、実際にその能力を見て練習を重ねた末に良きパートナーとなった。
しかし、ショーの本番に救命ネットを用意しないという非道な手口を目の当たりにし、ヴァンデヴァーから離反する決意を固める。
ラストではメディチのサーカスに移籍し、ホルトと共演するようになった。

演じたエヴァ・グリーンは高所恐怖症ながらも、それを克服し、見事な演技を見せてくれる。

  • V・A・ヴァンデヴァー
演:マイケル・キートン/吹き替え:井上和彦

「娯楽の帝王にして夢の創造主、コニーアイランドのコロンブス」と呼ばれる、巨大遊園地「ドリームランド」のオーナー。
「誰にも自分の可能性を否定させるな」と、言葉だけ見ればいかにも“夢の国”のオーナーらしいものだが……
その実態はダンボ目当てでメディチ・ブラザーズ・サーカスを買収し、不要な存在や野心の邪魔になりそうなものは徹底的に排除する冷血漢。
父親が家族を捨てて逃げた過去があり、それ故に家族愛を邪魔なものと捉えている節がある。この辺りは『チャーリーとチョコレート工場』のウィリー・ウォンカっぽい。
一度目の公演に失敗し、銀行の融資を受ける最後のチャンスとなった二度目の公演の最中、ダンボやコレット、クビにされた団員達総出の反撃によりドリームランド全体が停電に追い込まれる。
追い詰められて正気を失った彼は「不可能などない!」と叫びながら無理やり電力を復旧させようとした結果、電力が暴走。
築き上げたドリームランドは全て炎に包まれ、崩れ落ちていくのであった……

演じたマイケル・キートンは『バットマン リターンズ』以来のバートン作品への出演。
つまり、この作品になぞらえると……
「ペンギンを買収・飼い殺しにして、美味しいとこだけさらって切り捨てるバットマンという、ただでさえ悲惨極まりない境遇のペンギンに追い打ちをかける構図になっている。




追記・修正は、空を飛べるようになってからお願いします。




























……さて、本作は一見すると「勧善懲悪!みんな救われてハッピーエンド!」の、いかにもディズニーらしい健全なファミリー映画そのものである。
確かにファミリー映画としては良作な一方、原作やバートン作品特有の毒気やエグみ、キッチュさは薄め。
そこで中途半端な印象を持たれてしまったのか、興行成績は北米で1.1億ドル、全世界で3.5億ドル。
同年公開かつ同じ実写版の『アラジン』や『ライオン・キング』が全世界で10億ドル以上稼いだことを考えると、物足りない数字となっている。

しかし、よーく見るとこの作品、後半のヴァンデヴァーやドリームランド絡みの描写が「え……よくこんなシナリオ通ったな……?」となるレベルなのである。
ざっと例を挙げると、

  • サーカスを買収し、目当てのスターを得たらあっさり団員達を切り捨てるヴァンデヴァーの姿が、当時立て続けに各社の買収を行い、巨大コンテンツを獲得しまくった*2ディズニーと被る
  • ヴァンデヴァーのイニシャルを合わせると、ディズニーの創始者、ウォルト・ディズニー「W」になる
  • そもそもドリームランド(夢の国)はディズニーランドの愛称
  • ミリーが逃げ込んだ「ワンダーズ・オブ・サイエンス」*3というアトラクションは、フロリダのディズニーワールドにある「カルーセル・オブ・プログレス」*4が元ネタ
  • クライマックスで暴走したヴァンデヴァーにより、大炎上するドリームランド。しかもネオンサインの「D」の字が落ちてREAM LAND(懲らしめランド)となる演出すらある


……どう見てもディズニー社やウォルトにケンカを売ってます。本当にありがとうございました。
これらの身も蓋もない描写の数々に、「バートン、好きに撮らせてもらえなかったんじゃね?」「様々なしがらみで個性を発揮できなかったバートンが仕込んだ精一杯の復讐だったのでは……?」という声が一部から上がるのも無理はなかった。
とはいえ、これらは確証があるわけでなく、あくまで内容から推察したものでしかない。
はたしてこのシナリオや演出は狙ってやったものなのか、そうでないのか?本作は、観る者に感動と一抹の疑問を残したのだった。




追記・修正は、作品について議論してからお願いします。








本作公開から月日は流れて2022年10月下旬。
フランス・リヨンのリュミエール映画祭にて功労賞に当たるリュミエール賞を受賞したバートンだったが、そこでの発言はディズニーファンに大きな衝撃を与えた。







僕のキャリアはディズニーから始まった。

そこでは、何度も雇われたりクビになったりを繰り返した……

だけど『ダンボ』がきっかけで、ディズニーとの日々が終わったと悟った。


僕自身がこの恐ろしい巨大サーカスで働かされるダンボで、そこから逃げ出さなきゃって気づいたんだ!


だからあの映画は、ある意味自伝的なものなのさ。






……つまり、上記の描写の数々はほぼ確実に狙ってやったもの。
抱きしめられたかと思うと追い出されを繰り返してもなお、「ディズニーでキャリアを始めたから、ディズニーとなると弱いんだ」と語っていたバートンが、である。*5
この発言を踏まえると、本作の正体はアニメーター時代から個性を押さえつけられ、手がけた作品をお蔵入りにされるなど因縁を抱えていた彼がディズニーに突きつけた三行半*6と言えるだろう。
さらにバートンは他にも近年のディズニーの姿勢について、
「非常に均質化・統合されてしまって、多様なものを受け入れる余地がなくなっている」
MCUについて)「僕には一つのユニバースで十分だ。マルチバースなんて対応できないよ」
とバッサリ。改めて因縁の深さと、作品に対するブレない姿勢を見せつけたのだった。


ディズニーと別れた後のバートンはNetflixに渡り、ドラマや映画・アニメにもなった『アダムスファミリー』シリーズの超個性的な長女を主役としたドラマシリーズを手掛けることになる。



追記・修正は、巨大サーカスから脱走してからお願いします。



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  • 2019年
最終更新:2024年12月25日 20:29

*1 ロサンゼルスでは3月11日に先行上映。

*2 マーベルコミックやルーカスフィルムに加え、本作公開前には20世紀フォックス(現:20世紀スタジオ)の買収を完了した。さらに20世紀フォックスはその直後、幹部も含めて約4000人がリストラの対象となった。しかもこれはあくまで「第一波」に過ぎないものである。

*3 ここのマネキンはよく見ると男女の服装が逆転しているあたり、何やら暗示的である。

*4 元々はニューヨーク世界博のためにウォルト自らがプロデュースして作り上げたアトラクション。

*5 出典:ティム・バートン[映画作家が自身を語る] P362

*6 彼がアニメーターとして在籍していた当時のディズニーは最大の迷走期を迎えており、その独特すぎる世界観やキャラクターは受け入れられなかった。