相棒(MtG)

登録日:2024/01/06 (Sat) 17:11:07
更新日:2025/04/19 Sat 22:10:23
所要時間:約 22 分で読めます




相棒/Companionとは、イコリア:巨獣の棲処で登場したMagic the Gatheringのキーワード能力。



概要

2020年の春に発売された、「怪獣」をテーマにした新エキスパンション「イコリア:巨獣の棲処」。
ゴジラキングコングシャークネードとのコラボカードの収録、不幸にも新型コロナウイルスの流行と重なってしまった「死のコロナビーム」騒動などが話題を呼んだセットである。

その中で新能力「相棒」は、公認特殊フォーマットの統率者戦を意識して導入され、イコリアにおいては10枚の相棒カード(相棒持ちクリーチャーカード)が収録された。

その能力は
・固有の条件を満たしてデッキを組むことで
・指定した1枚の相棒をサイドボード(デッキ外)から唱えられる
というもの。
要するに怪物と心を通わせる(デッキの構築を縛って怪物好みに合わせてあげる)ことによって、
「来い!俺の魂のカード!!」するためのメカニズムである。

相棒を持つカードには、超巨大でおぞましい怪物からかわいらしい猫やカワウソ、果てはスライムまで様々なものがある。
「サトシとピカチュウ」とか「ファーストヴァンガード」っぽい素朴さがあって、なんだかよさげではないか。


性能(問題点)


早々にルールが変更*1され、そのルール変更の後も禁止カードを多数出した、MtG史上最強最悪のメカニズムのひとつ
MTGプレイヤーに「もっともぶっ壊れていたメカニズムって何?」と尋ねた時、間違いなく名前が挙がる。ストームも親和も発掘もファイレクシア・マナも生体武器も、相棒の前ではまるでかすんで見える*2

旧ルールにおける強さは、主に次の2つに集約される。

初期手札が事実上8枚になる

初手が1枚増えている。0ターン目0コストで手札が1枚増えているも同然。黎明期水準のドロー軽視能力である。
しかもそれだけでなく、その1枚が必ず固定されている。相棒は癖こそあるが能力自体はデッキの軸にできるほど強力なのだ。
手札が事実上増えることでマリガン基準も緩くなり、「軽量呪文がないけど序盤は相棒を出せばいいか」とか「土地が多いけど重い相棒を唱えられるからいいか」ということすら起こりうる。


キーカードが必ず唱えられる。

相棒は初手に必ず存在する。
そのため
  • サーチカード不要
  • 相棒を前提としたサポートカードやコンボカードを積める
のだ。

しかも初手と述べたが、厳密には専用の領域に置かれているカードなので手札破壊で対処ができない
なんなら自分の手札をすべて捨てるというデメリットを持つ《ライオンの瞳のダイアモンド》とコンボする事すら可能となる。


しかも先も述べたが、相棒は「デッキの軸にできるほど強力」なカードである。デッキの軸となるカードが必ず初手に来る上にハンデスもされないし、当時の基準だと素引きした時のことを考えてもさほど重くもない。
  • フィニッシャーが相棒に指定されているため、相棒以外は補助カードで埋められる
  • コンボパーツが相棒に指定されているため確実に即死コンボを始動できる
なんてことすら可能になる。

MTGでは過去に「必ず手札にある状態でゲームを開始できる」能力を持つカードがテストされていた事があり、その時は「(効果を控えめにしても)強すぎる」「ゲーム展開の固定化を引き起こす*3」としてすぐさまボツになっている*4
そんな中で「ハンデスすら効かない固定のカードが1枚増えた状態でゲームを開始できる」「しかもその固定のカードがやたら強い」。
手札事故の可能性はもはや消えたも同然である。


当然そんな能力がなんのデメリットもなく使用できるはずもなく、能力の代償としてデッキ構築条件に厳しい制限が課せられる。

……はずだったのだが、いざ公開された相棒のデッキ構築条件は「マナ総量が奇数のカードと土地のみでデッキを組む」「メインデッキの枚数を最小より20枚多くする」といった、
その気になれば簡単に満たせてしまうものが多く、環境によっては制限の体を成していないものすらあった。

これによりMtGのゲーム性そのものが一変。特にカードプールが広く条件を満たしやすいヴィンテージやレガシーでは顕著になり、相棒入りでデッキを組む事が前提な状況となる。
「MTG3.0」「相棒ゲー」、後世では「相棒の春」とも呼ばれる世紀末時代が到来した*5


相棒の春


旧ルール時代の相棒は、誇張抜きでEDH以外のすべての構築環境を相棒一色に染め上げた

特に《夢の巣のルールス》はアグロからコントロールまでありとあらゆるデッキの相棒となり、デッキコンセプトを多少歪めてでもルールスを相棒にするための構築が横行。
3マナ以上のパーマネントはルールスを相棒にできないというだけでその価値を大きく落としてしまった。
少し前に大暴れしてスタンダードでは50日足らずで禁止されて大いに話題を呼んだ《王冠泥棒、オーコ》でさえ、ルールスゲーの頃は完全に評価を落としたのである。
ヴィンテージはプレイヤーの人口の異様な少なさや高齢化などのせいで非常に変化に乏しい環境だが、ルールスはヴィンテージにおいて使用率90%というとんでもない状況をたたき出し、
「いかに他のルールスを食い物にするか」という研究によってヴィンテージのメタは過去最高速度で激動した*6

モダン以下の環境では《深海の破滅、ジャイルーダ》コンボが横行、特にレガシーでは1ターンキルが大横行。
  • 《ライオンの瞳のダイアモンド》は《Black Lotus》の上位互換*7
  • 先手1ターンキル対策で《予期の力線》をフル投入し、自分のターンが来る前に1ターンキルで勝利する「0ターンキル」さえ頻発
など、とんでもない逸話があった。

当然だがこんな歪んだ環境が看過されるはずもなく、2020年5月18日の禁止改定においてルールスと《黎明起こし、ザーダ》の2枚の相棒がレガシーで禁止。
さらにルールスはヴィンテージで禁止*8であり、当時は大騒ぎになった。
しかも禁止までの速度も爆速。イコリアが発売されたデジタル基準で数えて32日後、北米等で実物のカードが発売されてからは僅か3日後の出来事である*9
「ヴィンテージでの採用率はBlack Lotus等より低いのでは?」といった意見もあったが、どんなにカードパワーが高かろうと手札に来なければ使えないことで曲がりなりにもバランスが保たれているフォーマットでその前提を破壊してしまったこと、
一部のデッキを除いて3マナ以上のパーマネントは論ずるに値しない風潮を作り出してしまったことは、極限まで広いカードプールを最大の醍醐味とするヴィンテージにおいて、あまりにもダメージが大きすぎた。
「相棒はサイドボードに1枚入れておけばいいので制限カードにしても意味がない」という事情もあるが、ルールスがパワー9を超えてぶっ壊れた瞬間であった。

レガシーとヴィンテージにおけるルールスのカードパワーの高さばかりがクローズアップされがちだが、ついでのように*10レガシーで相棒仲間のザーダが禁止されていたり、
他のフォーマットでもヨーリオンやオボシュなどの相棒が蹂躙して、あらゆる環境の大会で、TOP8全てのデッキに相棒が入っているのが日常茶飯事になっていた。
「相棒という能力そのものに問題がある」ということは、世界中の、しかもあらゆる年代のプレイヤーから指摘されていた。

相棒は他のTCGでよくあるエクストラデッキに近い性質を持っており(実態は同じくウィザーズが手掛ける、デュエル・マスターズ実験実装されていた禁断零龍がより近い*11が)、
MTGが30年近くかけて培ってきたゲーム性を一変させるシステム。それがたった1つのカードセットの、たった10枚のカードしか持たない能力。初手で得られる圧倒的なアドバンテージによる「相棒に非ずばデッキに非ず」と言わんばかりの多様性の否定。
相棒というシステムを導入すること自体に無理があったのは、その後の歴史が証明しているとおりである。



その後

開発側も相棒が環境をシャレにならないレベルでぶっ壊したことを認知しており、
「あまりに問題が大きければ相棒のルール自体を変更するのも辞さない」という異例の声明を出した。
そして懸念は早くも現実となり、どう考えてもぶっ壊れ過ぎていたことから、
先述の禁止改訂からわずか2週間後の2020年6月1日に相棒ルールの変更(事実上のエラッタ)が行われた*12


ルール変更後の能力は「このカードがあなたの選んだ相棒であるなら、ソーサリーとして(3)を支払うことでゲームの外部からそれをあなたの手札に加えてもよい。」というもの*13

これにより
  • マナを支払わないといけないので事実上全カードが3マナ重くなる
  • 手札に一度加わるのでハンデスで叩き落とすタイミングができる
といったデメリットが付与された。

これによって大幅に弱体化され、下環境で大暴れしたジャイルーダは完全に牙を抜かれ、その横でオボシュやルーツリーはひっそりと息を引き取った。
ルールスもヴィンテージで禁止を解除され、悪夢の春はこれでようやく終わりを告げた……。


……なんてことはもちろんなく、弱体化後になお禁止されたカードが複数存在する
ぶっちゃけ「3マナ重くなった程度ではバランス調整としては不十分だった」とか、
むしろ一度手札に加わるおかげで事実上強化されたなんてカードまである始末。

ただし2022年10月10日の、モダンでの《空を放浪するもの、ヨーリオン》禁止指定以降は比較的落ち着いており、
最近の「モダンホライゾン」シリーズによるパワーインフレなどもあってすっかり空気になっている。
相棒が含まれないデッキも随分増えてきた。
フレーバー的な豊潤さや、EDH人気などを見越してたまに「相棒の再録」について開発部が話すこともある。
かつて環境をぶっ壊したファイレクシア・マナや親和などの使い方が分かってきていることなどから、もしかしたら環境に良質な影響を与えるカードとして復活することもあるかもしれない。


……なんて矢先、2024年12月16日付で《湧き出る源、ジェガンサ》がパイオニアとモダンで禁止された。
事情は色々あるのだろうが、「発売当時は相棒10種の中では中堅程度という評価だったジェガンサすら禁止になってしまった」という事実は変わらない。


相棒の明日はどっちだ。



カード解説


イコリア:巨獣の棲処で収録された相棒は10枚。
いずれも
  • 希少度はレア
  • 「人間」などの人型種族を持たない
  • 2色だが、「混成マナコスト*14」でどちらの色の単色デッキにも投入できる
という性質を持つ。
多くの場合、複数の生物種の合成獣のような容姿とクリーチャータイプを持つが、これは背景ストーリーの舞台となる次元イコリアにおける怪物の生態であり、
人間以外の生物*15は次々と他の動物の性質を獲得・変貌していくという設定がある。

相棒能力は、怪物と絆を結んだ人間である「眷者」を表したメカニズムであり、プレイヤーが相棒と絆を結んで眷者になることを表している。


空を放浪するもの、ヨーリオン/Yorion, Sky Nomad (3)(/)(/)
伝説のクリーチャー — 鳥(Bird) 海蛇(Serpent)
相棒 ― あなたの開始時のデッキに、カードが、デッキの最小サイズよりも少なくとも20枚多く入っていること。
飛行
空を放浪するもの、ヨーリオンが戦場に出たとき、他の、あなたがオーナーであってあなたがコントロールしていて土地でない、望む数のパーマネントを追放する。次の終了ステップの開始時に、それらのカードを戦場に戻す。
4/5
白青の相棒は鳥・海蛇。
相棒条件は「タワーデッキ」。デッキを下限+20枚、通常の構築戦なら「80枚以上でデッキを組む」というもの。

通常、MtGに限らずカードゲームのデッキは「可能な限りデッキの加減枚数で組む」のが定石とされる。
これは主に「キーパーツやパワーカードを安定して引く確率を少しでも上げる」ためであり、これを20枚も上乗せするというのは平時ならお気持ち表明の対象である。

しかし「環境に強力なカードが十分存在する」なら、この相棒のデメリットはただ「引きムラが少しばかり大きくなる」というだけのもの。
そもそも青白はコントロールが得意な色であり、60枚デッキで考えると確率的には「4枚挿しが3枚挿しになる」だけ。似たような役割のカードなんていくらでもあるわけで。
それどころか、「飛行を持つ4/5でブリンク能力持ち」というカードが必ず初手に来るのである。

全然デメリットになってなくね?

というわけで、相棒条件がほぼノーデメリット。青系のコントロールはほぼほぼヨーリオンを相棒に置く時代が到来した。
それどころか【The Spy】や【スゥルタイ根本原理】など、ライブラリーから手札に引きたくないカードがたくさんあるデッキでは、
むしろ80枚デッキがメリットとしてすら機能した*16

ただし80枚デッキというのは60枚デッキと色々勝手が違うため、様々な工夫がしつらえられた。
よく言えばマンネリ化していたデッキ構築論に一石を投じたカードとも言える。
解説のトップバッターがめちゃくちゃ特殊なんだけど、いいのかこれで。

性能を見ていくと、まず5/4/5飛行。十分にフィニッシャーの水準であり、ブロックされにくいうえに5回殴れば相手が死ぬ。
これだけでも「ゲーム開始時から手札にある」時点で割とヤバいのだが、後述するETB*17が主役であり、かつ相棒として手札の外から飛び出してくるにもかかわらず対処しないわけにはいかない、という厄介な性能。

ETBは「自軍の土地でないパーマネントの明滅」。
出すだけで「土地以外なら何でも」かつ「任意の枚数」選べるこのカードの有効な活用法は多い。
スタンダード範囲でも
  • ETB持ちのパーマネントの再利用(《海の神のお告げ》《太陽の神のお告げ》など)
  • 英雄譚のリセット(《エルズペス、死に打ち勝つ》《古き神々の拘束》など)
  • プレインズウォーカーの忠誠度のリセット(《覆いを割く者、ナーセット》《時を解す者、テフェリー》など)
  • デメリット持ちのパーマネントの一時追放(《創案の火》など)
等が可能。
特にこれらは当時でも普通に採用される強カードたちで、下環境に行けばさらに《石鍛冶の神秘家》のように強力で相性のいいカードは増える。
盤面に利用可能なパーマネントが複数並んでいれば、大量ドローや大量除去も現実的。

結果として様々な色の【ヨーリオンコントロール】が成立。色が合う大半のコントロールデッキに採用される事態となった。
中でもモダンではスタンダード最速禁止記録保持者の《創造の座、オムナス》と手を組み【4Cオムナス】(別名「マネーパイル*18」)というモダンの高額化を象徴するデッキを成立させた。
ここまで極端でなくとも、ヨーリオンデッキは「質の高いカードを20枚追加しなければならない」という性質から値段が高額化しやすく、カジュアルプレイヤーにはこれが冗談抜きでかなり重いデメリットとなる

相棒条件変更後も、このカードは「重いコントロールデッキ向き」の能力ゆえに傷が浅く、ルール改正後もなお猛威を振るった。
……というより、このカードはむしろルール改正後こそ真価を発揮したと言ってもよい。
3マナ払えば手札に加わるため、たとえば《否定の力》《孤独》などのピッチコストにしたり、《ヴェールのリリアナ》《真っ白》のようにこちらに選択権のあるハンデスの囮にできるようになったからだ。
これによってETBとの相性をそれほど考えずに採用することも可能となり、ヨーリオンデッキの構築はむしろ柔軟性と幅が広がったのである。ルール改正すら味方につけてるってどう考えてもおかしくない?

結果として2022年10月10日、モダンで禁止
【4Cオムナス】等で暴れたこと、またサーチやフェッチランドを多用する環境故に80枚デッキだとシャッフルが大変で時間を取るうえに、シャッフル中にトラブルが多発したという原因もあった。
「マイナーデッキならいいが、強いデッキが居座り続けると楽しさを損ねる」のも理由の一つだった模様。
80枚デッキのメリットや構築が理論化された事もあり、今後も一定数メタゲーム上に存在するだろうとの声もあったが、結局ヨーリオンのいない環境では60枚デッキに戻ってしまった。
最近は特定のキーパーツに依存するデッキが増えたので致し方なし。

ちなみに相棒指定条件がバカみたいに緩いため、
「テフェリー*19のスリーブ+ヨーリオン相棒指定」
という情報を相手に見せることでキープ基準をガバらせてくる「赤単ヨーリオン」というまったく新しいデッキが登場し、当時話題になった。
2戦目以降は14枚のカードをサイドボードに逃がし、66枚デッキとして戦う。
セコい中学生みたいな戦術だが、これがあながちネタとも言い切れず、この手の情報戦と縁がなかったプレイヤーを食い物にして好成績を収めてしまった

よく言えばマンネリ化していたデッキ構築論に一石を投じたカードとも言える。いろんな意味で。



夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den (1)(/)(/)
伝説のクリーチャー — 猫(Cat) ナイトメア(Nightmare)
相棒 ― あなたの開始時のデッキに入っている各パーマネント・カードが、それぞれマナ総量が2以下であること。
絆魂
あなたの各ターンの間、あなたはあなたの墓地からマナ総量が2以下のパーマネント呪文を1つ唱えてもよい。
3/2
白黒の相棒は猫・ナイトメア。
相棒条件は「パーマネントは2コスト以下」
一見重いデメリットのように見えるが、「コスト2以下+Xのカード」はOK(マナ総量上はX=0として扱う)、インスタントやソーサリーはコスト3以上でも可など、ハッキリ言ってデメリットの軽さはヨーリオンといい勝負。

MtGにおいては2マナ以下の優良なパーマネントカードは山ほどあり、カードプールが広くなる下環境に近くなればなるほどそういったカードは増えてくる。
というか下環境はそういうカードばかりが環境に溢れており、たとえばパワー9は全てこの条件をクリアしている。
そのため下環境になると「一切デッキを歪めることなく相棒にできる」だとか「あと《ヴェールのリリアナ》を抜くだけで相棒にできる」とかが発生したほど。

性能を見ていくと
まず3マナ3/2絆魂。単体スペックの時点で十分であり、特にこの絆魂のおかげでライフが保つことも多くある。速攻に対するブロッカーとしても頼もしい水準。
呼び出すマナも3点(白/黒混成2+不特定1)と比較的軽め。
能力は「あなたのターンにコスト2以下のパーマネントを1つ、墓地から唱えてよい」というもの。
しかも出したターンから使える。

スタンダードでさえ適当なカードを墓地から唱えるだけで、毎ターン1枚分のリソースを生み出している。
生き残り続ける限り息切れを起こさなくなる、という、絶対に3コストが持ってちゃいけない能力。ハッキリ言って相棒じゃなくてもかなりダメ寄りな能力。

上環境ですら十分すぎるくらい強いというのに、更に下環境では入れやすいうえに軽量かつ強力なパーマネント共と合わさる事となり、
  • 《ミシュラのガラクタ》と併用すればモダン以下では毎ターン0コス1ドロー
  • 《Black Lotus》と併用すればヴィンテージでは毎ターン、無から3マナが出現
などの無法すらまかり通った。

その異常なまでのスペックの高さからあらゆる環境で猛威を振るい

スタンダードでは【サクリファイス】【サイクリング】
パイオニアでは【オルゾフオーラ】【ボロスバーン】【アゾリウスエンソウル】
モダンでは【グリクシスシャドウ】【ハンマータイム】【ジャンド】
レガシーでは【デルバー】【ストーム】
などをはじめ、一時期は「白か黒が入る軽いデッキすべてに入る」と言えるほどの状況だった。

最も暴れたのがヴィンテージで
  • そもそも実用水準の3マナ以上のパーマネントが(《王冠泥棒、オーコ》、もしくは【白単エルドラージ】のエルドラージ部分以外)まともに存在しない
  • インスタントやソーサリーのコストは問わないので《意志の力》が使える
  • 0マナで《Black Lotus》からルールス出して《Black Lotus》おかわり
など、異常な性能を有していた。

実際一時期はヴィンテージでの使用率が9割を超え、残りの1割はルールスをメタっているとかではなく、
「昔ながらのヴィンテージを楽しみたいから」「ルールス以外のことを試してみたいから」という気分の問題。
あの問題児オーコすら「3マナのパーマネントだからオーコ入れられないけど、ルールスの方が強いからいいや」という評価となった。
ちなみにオーコは当時のヴィンテージで相当存在感を発揮したカードである。それが霞む。インフレってそんな急激に起こしていものだったっけ。
しかもヴィンテージは「禁止カードを出さない」「どんなカードでも1枚制限止まり」が売りの、極限まで広いカードプールを最大の醍醐味とする環境なので、相棒は初めから1枚しか積まないので制限では無意味
そのため「ルールスはどのように対処されるか」という点が議論された。当時は「ヴィンテージで禁止」「パワーレベル・エラッタ」はどちらも禁忌という見方が大半だったのである。

だがこんな歪んだ環境が看過されるはずもなく、2020年5月18日の禁止改定において、
《チャネル》から20年ぶりに単純な強さによってヴィンテージで禁止されるという偉業を成し遂げた。
最速でイコリアが発売されたデジタル基準で数えて32日後、北米等で実物のカードが発売されてからは僅か3日後の出来事である。
当時のMTGはオーコのやらかしや禁止カードの続発などもあってプレイヤーがかなりピリピリしていた頃。
そこに「ヴィンテージでさえ禁止になるカード」を印刷してしまい「発売から日も経たないうちに禁止」となったことからそれはそれは大荒れし、MtGをまったくプレイしていない人からも批判された

また同時にレガシーでも禁止、収監と相成ったのだが、レガシーでは「なぜジャイルーダではなくザーダなんだ?」という点ばかりが話題となり、
ルールスの禁止に関しては「残当」の2文字であっさり切り捨てられた。むしろヴィンテージで禁止されたことの方が「MtGは今後大丈夫なのか?」という方面で話題になっていた始末。

ちなみに当のヴィンテージプレイヤーの反応は、使用者からすら当たり前だ!だったことも明記しておく。

相棒のルール変更によって弱体化、ヴィンテージでは釈放と相成ったのだが、
先も述べた通り「相棒じゃなくてもかなりダメ寄り」な能力。息切れに悩まされるデッキがルールスを相棒指定するように変化して弱点を克服するようになった。
たとえばバーンでは、エンチャント版《ショック》である《炎の印章》がルールスとの相性の良さを見込まれて採用された。ルールスがいれば1枚で「2~3マナで4~6点、果敢も誘発、分割支払い可能」という仕事をこなせるため。
その結果また暴れてモダン・パイオニアでも禁止されることとなった。

あと有名なネタとしてはヴィンテージ禁止時代、「ルールスを使うのであればメインに1枚以上投入すること」をエラッタで付け加えるべきだという物があった。
ただルールスをメイン投入するということは「ルールスが3マナなので、サイドに1枚積んだとしても相棒としては使えなくなる」ということである。これは「相棒の行を削除」と言っている意味は同じである。
このジョークは元々「制限カードに指定されたらむしろ強化される」というものだった。メインに4枚ぶっこむよりもサイドに1枚ある方が強い(=カードのデザインとして本末転倒)、という性質をあげつらったものである。
しかしこれが「いやおかしいでしょ」とやたらとマジレスされるせいで、このように分かりづらいが反論されにくい形へと変化したのである。

なお、唱えられるのはあくまでも「マナ総量が2以下のパーマネント呪文1つ」である。
たまにぶっ壊れカード解説系の動画やブログで「《Time Walk》を唱えて無限ターン(パーマネント呪文ではないので対象外)」「《Black Lotus》を無限に唱えて無限マナ(1つなので無理)」などをぶっ壊れの例として挙げている人がいるが、これはルール的に不可能。
この時期のMTGは色々な意味アレだったが、さすがにこんなものを見逃すほどウィザーズは間抜けではない。


深海の破滅、ジャイルーダ/Gyruda, Doom of Depths (4)(/)(/)
伝説のクリーチャー — デーモン(Demon) クラーケン(Kraken)
相棒 ― あなたの開始時のデッキに、マナ総量が偶数のカードのみが入っていること。
深海の破滅、ジャイルーダが戦場に出たとき、各プレイヤーはそれぞれカードを4枚切削する。その切削されたカードの中から、マナ総量が偶数のクリーチャー・カード1枚をあなたのコントロール下で戦場に出す。
6/6
青黒の相棒はデーモン・クラーケン。
相棒条件は「デッキ内のカードがすべて偶数」
マナカーブという概念を破綻させる条件。たまたま偶数だけで組めるデッキなんて有り得ないため、専用の構築が必須となる。
その分サイズは6/6、条件付きとはいえクリーチャー1体を踏み倒せる出力の高さは相棒でもトップクラス。
偶数なら何でもいいので、4マナでも10マナでも何でも踏み倒せる。対戦相手の墓地にうっかり《グリセルブランド》(8マナ)が落ちたら……。

という素朴な使い方でさえ強いのだが、当時のMtGでは《クローン》系のカードが4マナでデザインされることが多い。
偶数コストで「ジャイルーダをコピー(《クローン》)」あるいは「ジャイルーダを出し入れ」できるクリーチャーを出せば、再度ETBが誘発する。
その途中で「伝説のクリーチャーは2体以上並べることができない」というデメリットを無視できる《灯の分身》を挟むと、ジャイルーダが複数枚展開される。
若干のギャンブル性はあるが、6マナで6/6が3枚以上並ぶというのは当時としてはかなり強力だった。

1枚で始動できる即死コンボでありながら、確定で握れる相棒なのでまさかの0枚コンボを成立させた。
1枚コンボの時点で字面が意味不明なのに、0枚コンボというわけのわからない単語がスタンダードに登場してしまった瞬間である。
専用の構築が必須ではあるものの、それだけの価値もあったのである。
速攻付与が居ないため即死にはならないものの、《灯の分身》とスタンダードで同居したため、上環境でこの大量展開が可能だったのも非常に凶悪だった。

下環境ではさらに極悪であり、まず展開したジャイルーダ軍団に速攻を付与する《龍王コラガン》(6マナ)などがコンボに加わってくる
さらに《灯の分身》と似たような性質を持つ《騙り者、逆嶋》や、容易に明滅を発生させることができる《修復の天使》などが使えるため、ループがより高確率で生じる。
レガシーで同居する《ライオンの瞳のダイアモンド》(0マナ)*20のデメリットをサイドボードに居ることで回避し、実質《Black Lotus》として機能させるなどの荒業が可能に。
結果、延々マリガンして手札にLEDが2枚が揃ったら1ターンキル確定というゲームとなった。そもそもLED以外でも《水蓮の花びら》などもあるわけで。

これによって《替え玉》《ダクの複製》《前駆ミミック》など、これまで見向きもされてこなかったカードがレガシーのリストに載るという椿事が発生した。
偶数マナならなんでもいいだろって?そうだね。

さらにミラーマッチになると「対戦相手のライブラリーから落とした《クローン》系のカードを釣り上げてコンボを継続」ということができるため、先に動いた方が絶対に勝つ???「青い方が勝つわ」
末期には先手1ターンキル相手に機先を制するために《予期の力線》のフル投入まで行われ、先手1キルをインスタントタイミングでの1キルで制する「0ターンキル」さえ行われるようになった。あろうことか《意志の力》(5マナ)が使えないせいでノーガードの殴り合いになる
1ターンキルの時点で字面が剣呑なのに、0ターンキルというわけのわからない単語がレガシーに登場してしまった。

が、相棒ルール変更によって始動コストが3マナ分重くなり、急速に姿を消した。
禁止指定はされていないため、現在でもデッキを組むことはできる。たまに素出しを目当てにデッキに入ることがある。
だが、少なくとも相棒に指定するだけの価値はないと判断する人が多いようだ。

なお、相棒で唯一ゴジラシリーズ・カード版が存在する(鎌爪の未来怪獣、ガイガン)。


呪文追い、ルーツリー/Lutri, the Spellchaser (1)(/)(/)
伝説のクリーチャー — エレメンタル(Elemental) カワウソ(Otter)
相棒 ― あなたの開始時のデッキに入っている土地でない各カードが、それぞれ異なる名前を持っていること。
瞬速
呪文追い、ルーツリーが戦場に出たとき、あなたがこれを唱えていた場合、あなたがコントロールしていてインスタントかソーサリーである呪文1つを対象とし、それをコピーする。あなたはそのコピーの新しい対象を選んでもよい。
3/2
青赤の相棒はエレメンタル・カワウソ。
相棒条件は「ハイランダー構築」
デッキに各種1枚しか積めないが、純正のハイランダーと異なり基本ではない土地の枚数制限はない

能力は瞬速と呪文のコピー。
《二重詠唱の魔導士》や《練達の魔術師、ナル・メハ》が相棒になったものと考えてよく、単純に火力やドローを倍加するだけでもアドバンテージが稼げるいい能力。
かなりやりがちなミスだが、対戦相手の呪文をコピーすることはできないので注意。これを読んでいる人にルーツリーを相棒に指定する機会はないだろうが。

スタンダードなどの上環境では、相棒条件の変更前からあまり使われることはなかった。というより、環境初期に試されて匙を投げられた。
たびたび「デッキ構築が著しく困難」と評されやすいが、実はデッキ構築自体はスタンダードの時点でも……というか、スタンダードでこそ簡単である。
ただ、ルーツリーを相棒として公開した時点で、相手に「一度墓地に落としたカードは二度と飛んでこない」という情報アドバンテージを与えてしまうことになる。
そもそもハイランダーになる時点で相手よりもデッキの質が劣ってしまうわけで、それが情報戦においても負けてしまう。苦戦必至と言うより自分から首を絞めているようなものである。
そうして得られるメリットが、3/2というそこそこのサイズに「デッキに1枚しか入っていないせいで引きムラが生じるソーサリーかインスタントの1枚コピー」では割に合わない。

そしてこの時代はすでにクリーチャーやプレインズウォーカーが極めて強かったこと、このカードの存在意義を否定する《時を解す者、テフェリー》が環境で支配的だったことなども相まって、
わざわざ使うほどのメリットがなかったのである。
そして下環境では相手の方が質の高いカードを多用してくるのだから言うに及ばず。たとえばレガシーにおいては《意志の力》が1枚しか使えないのはキツい。
早い話、令和のMTG環境にまったく愛されていなかったのだ。


ってことは、令和じゃなければいいんだな?
というわけで太古のカードが跳梁跋扈するヴィンテージで、ルールスの起こした春の嵐の陰でこっそりと研究されていた。
ヴィンテージではパワー9をはじめとした「制限カードなので元々1枚しか入らないカード」がたくさんあるため、それらを山積みにするデッキなら相対的にデメリットは薄くなる。
そしてその手のカードはたいてい、他の環境よりもぶっ壊れて強い。《Time Walk》などをコピーできたら宇宙だ。初手にそんな便利なカードを構えられるなんて弱い理由がない。
これを狙ったデッキが「ルーツリーハイランダー」である。
当時の研究者は「ルールスは絶対に規制がかかる。そうなればルーツリーの時代が来る」という淡い期待を持っていたのだが、
実際にはルール変更によってルールス以上に入念にとどめを刺された。ぶっちゃけ3マナでさえ割と重いのに、いくらなんでもここに3マナを追加されては割に合わない。
何も悪いことしてないのに……。

ハイランダー構築が必須となる統率者戦、ブロールなどでは発売日当日から禁止という措置がとられた。
仮に統率者戦で使えた場合、ほぼ無条件で相棒に指定でき、青赤を含む固有色だけが多色より大幅に強くなってしまうため。
特に統率者戦では、カードの情報が発表された当日に禁止推奨カードに指定されたため「発売前禁止」というネタが非常に好まれる。
この話題のインパクトのせいでさっぱりルーツリー自体の話題にならないが、上述のように割と研究されて諦められたカードである。

ブルームバロウで新規カワウソがたくさん出たので、たまには思い出してあげてください……。


獲物貫き、オボシュ / Obosh, the Preypiercer (3)(/)(/)
伝説のクリーチャー — ヘリオン(Hellion) ホラー(Horror)
相棒 ― あなたの開始時のデッキに、マナ総量が奇数のカードと土地カードのみが入っていること。
あなたがコントロールしていてマナ総量が奇数である発生源がパーマネントやプレイヤーにダメージを与えるなら、代わりに、それはそのパーマネントかプレイヤーにその点数の2倍のダメージを与える。
3/5
黒赤の相棒はへリオン*21・ホラー。
相棒条件は「奇数」
ジャイルーダと対になる条件だが、たとえば元より4マナ以上は隠し味程度な速攻デッキなら、2マナの枠を削って1と3で固めることでそこまで歪めずに成り立つ。
また、オボシュよりむしろケルーガやジャイルーダで重要になるテクだが「分割カードの片方」「当事者カードの出来事側」などで合法的に偶数マナで動くことができるため、案外マナカーブをゆがめずに自然に動くことは可能。

能力はマナ総量が奇数のクリーチャーのパワーを事実上倍にするものであり、自身にも適用されるため事実上の6/5。

採用されたデッキはまずはシンプルな【赤単】、そして1マナ3マナを多用した【ラクドスサクリファイス】、《ラノワールのエルフ》が奇数であることに着目したステロイドなど。

シンプルかつ前のめりな性能ゆえに当時は上環境中心によく見かけたが、前のめりな性能ゆえにテンポを損なう変更後の相棒条件と特に相性が悪く、変更後は全く見かけなくなった一枚。


集めるもの、ウモーリ / Umori, the Collector (2)(/)(/)
伝説のクリーチャー — ウーズ(Ooze)
相棒 ― あなたの開始時のデッキに入っていて土地でない各カードが、すべて共通のカード・タイプを持っていること。
集めるもの、ウモーリが戦場に出るに際し、カード・タイプ1つを選ぶ。
あなたがその選ばれたタイプの呪文を唱えるためのコストは(1)少なくなる。
4/5
黒緑の相棒はウーズ*22
相棒条件は「カードタイプの統一」
クリーチャーを積めば除去が積みづらくなり、除去を積めばクリーチャーが積みづらくなるので使いづらい条件。
ノンクリーチャーの場合は後述のカヒーラの方が相棒条件が緩いため、基本的にはフルクリーチャーで組むことが多いだろう。
頑張れば「フルソーサリー」「フルプレインズウォーカー」「フルバトル」などで組むこともできるが、実用性は皆無である。
一方、ルール的にクリーチャーとして扱われるカードには「サイクリング」「出来事」などがあるため、クリーチャーで組むと柔軟性が桁違いに上昇する。

登場時のスタンダードにはクリーチャーでありながら呪文も兼ねる出来事カード、とくに《砕骨の巨人/踏みつけ》や《残忍な騎士/迅速な終わり》等が存在した分まだ組みやすかったが、
それでも相棒の中ではトップクラスに影が薄い一枚……とされやすい。

しかし実際にはイコリアでフィーチャーされたもう一つの能力「変容」との相性が抜群によく、変容コストの軽減や変容の種としてデッキを支えてくれた。
当時のスタンダードの禁止改訂の頻発やその原因となった派手なカードの多さ、環境に圧を与えるカードの多さ、コロナ禍なども相俟ってあまり注目されなかった能力だが、
そんな大荒れしていた中でもちゃんとスタンダードをプレイしていた人には割と知られた……というか、スタンだけならジェガンサやザーダよりも全然活躍したカードである。

ルーツリーとは違った形でビルダー気質を刺激するカードで、きわめてまっとうな形で使われた相棒の1枚である。


湧き出る源、ジェガンサ / Jegantha, the Wellspring (4)(/)
伝説のクリーチャー — エレメンタル(Elemental) 大鹿(Elk)
相棒 ― あなたの開始時のデッキに、マナ・コストに同じマナ・シンボルを2つ以上含むカードが入っていないこと。
(T):(白)(青)(黒)(赤)(緑)を加える。このマナは、不特定マナのコストを支払うために使用することはできない。
5/5
赤緑の相棒はエレメンタル・大鹿。
相棒条件はマナ・コストに同じマナ・シンボルを2つ以上含むカードが入っていないこと。ほとんどシングルシンボルと考えていいのだが、例外も多い(後述)。
単純に考えると、デッキにダブルシンボル以上の色拘束のカードを入れてはならない。
ダブルシンボル以上とは(青)(青)とか(黒)(黒)(黒)(黒)とかのこと。

能力は5マナ5/5のマナクリーチャーだが、「色マナしか支払えない」という制約を持つ。
単色デッキでは1マナ、赤緑のデッキでは2マナしか出ないので、この能力を活かすなら多色デッキ化がマストとなる。

どちらかというと単純に『元から相棒条件を満たしているデッキ』に入って5/5/5として、
あるいは単に手札に加えてハンデスの囮用の手札として機能することが多い。
この活用方法が見込まれるようになり、パイオニアの人口が増えた=研究が進んだ頃から評価をじわじわと上げていったカード。
当時だと【イゼットフェニックス】や【グルール・アドベンチャー】、【5色ニヴ=ミゼット】などで採用された。

このカード(とザーダ)の最大の問題点は、うっかり相棒条件を違反するというミスが多発する点。単純にシングルシンボルと考えていると違反しがち。
《虚空の杯》の(X)(X)や、分割カードである《悪意+敵意)の(3)(青)+(3)(黒)は無色マナの部分が引っかかるのでジェガンサの相棒指定条件に違反してしまう。
直感にかなり反する相棒条件であり、相棒条件のネタ切れを説明する際に名前を挙げられやすい。

2024年12月16日をもって、パイオニアとモダンの2環境で禁止カードに指定された
カードパワーそのものは5/5/5の準バニラと非常に脆弱だったものの、当時の環境デッキほぼ全てがデッキをほとんど歪めることなく採用できる8枚目の手札だったことが問題視された。
「たとえ本体性能がシンプルであっても、3マナを支払うだけで手札を1枚追加できる」というのは構築において大きなアドバンテージであり、
さらに「相棒指定のためにダブルシンボルのカードを諦める」という構築論がまかり通って多様性を狭めていたため。
相棒というシステム自体の問題点を如実に体現した禁止改訂と言える。


黎明起こし、ザーダ / Zirda, the Dawnwaker (1)(/)(/)
伝説のクリーチャー — エレメンタル(Elemental) 狐(Fox)
相棒 ― あなたの開始時のデッキに入っている各パーマネント・カードが、それぞれ起動型能力を持っていること。
あなたがマナ能力でない能力を起動するためのコストは(2)少なくなる。この効果は、そのコストに含まれるマナの点数を1点未満に減らせない。
(1),(T):クリーチャー1体を対象とする。このターン、それではブロックできない。
3/3
赤白の相棒はエレメンタル・狐。
相棒条件は「起動型能力で統一すること」
全てのカードが、何らかの任意で起動できる能力を持っていること。土地も含むが、ほとんどの土地はマナ能力という起動型能力を持っているので問題はない。

マナ・クリーチャーやプレインズウォーカーなど、起動型能力を持つパーマネントは多いが、それでも「それだけ」ではインスタントもソーサリーも軽量カードも積みづらく、相棒条件としては相当に厳しい。

能力は「起動型能力の2マナ軽減」だが、マナ能力には効かず、プレインズウォーカーなど「マナを払わない起動型能力」にも無力なためあまり強くはない。
アンブロッカブルを付与する下の能力はインクの染みだが、一応「ザーダの相棒条件を満たす」ので、デッキに3枚相棒に1枚のザーダを入れられる。

スタンダード~モダンではデッキの構築を縛るくせに大した影響を与えないことから、あまり使われることはなかった。
しかし下環境、特にレガシーでは「あなたがマナ能力でない能力を起動するためのコストは(2)少なくなる。」の一文が大問題を引き起こす。
《玄武岩のモノリス》や《厳かなモノリス》のように『タップで(3)生成、アンタップには(4)必要』なアーティファクトのアンタップコストが(2)減ってしまう事により簡単に無限マナ
後は無色マナだけでプレイヤーにダメージを飛ばせる《歩行バリスタ》を組み合わせばI Win。
しかも一見2枚コンボに見えるが、ザーダは相棒なので引く必要があるのは1枚、モノリスは2種類、
さらにはアーティファクト限定でサイドボードから引っ張り出せる《大いなる創造者、カーン》で水増しも可能。
「プレインズウォーカーの忠誠度能力も起動型能力」という点に気づいてない人も多かった模様。

《歩行バリスタ》込みでも安定して決められるため、レガシーでは異常な勝率を叩き出しそうだったので当然のように禁止
これでも「ルールスの方がまだ強いよね」という流れで、統計上の勝率は「悪さをしそう(未遂)」で留まっていたというから驚きである。
結果、ルールスと同時の2020年5月18日、レガシーの最速禁止記録と相成った。もし見逃されていたら……考えたくもない悪夢である。

なお《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》のように相棒指定条件に違反する土地カードもたまにある。
直感にかなり反する相棒条件であり、相棒条件のネタ切れを説明する際に名前を挙げられやすい。こっちはまだわかりやすい方なんだけど……。


孤児護り、カヒーラ / Kaheera, the Orphanguard (1)(/)(/)
伝説のクリーチャー — 猫(Cat) ビースト(Beast)
相棒 ― あなたの開始時のデッキに入っている各クリーチャー・カードが、それぞれ猫(Cat)やエレメンタル(Elemental)やナイトメア(Nightmare)や恐竜(Dinosaur)やビースト(Beast)であるカードであること。
警戒
他の、あなたがコントロールしていて猫やエレメンタルやナイトメアや恐竜やビーストである各クリーチャーは、それぞれ+1/+1の修整を受け警戒を持つ。
3/2
緑白の相棒は猫・ビースト。
相棒条件は「イコリアの部族」
イコリアでフィーチャーされた猫、エレメンタル、ナイトメア、恐竜、ビーストのみをクリーチャーとして使用できる。
当然のようにこれらの部族デッキでは猛威を振るい、特にもともと強かった【エレメンタル】を底上げした。

実はこの相棒条件、「部族を入れなければならない」ではなく「他のクリーチャー・タイプを入れてはいけない」なのでノンクリーチャーでも相棒条件を満たす

この性質を逆手に取ったノンクリーチャーコントロールデッキ【カヒーラコントロール】が成立。
3/3/2警戒に過ぎないが、それでも「8枚目の手札から出てくるそこそこな性能のクリーチャー」は強力であり、打点やアグロへの対処、プレインズウォーカーへの壁など多彩な使い方ができるのだ。
特にマッチ戦だといやらしく、相手のサイドチェンジ時にノンクリーチャーコントロール相手だと無駄になりやすいクリーチャー除去を残さざるを得ない状況にできる。
もちろん相手が割り切ってクリーチャー除去を全抜きする場合もあるが、それならそれでカヒーラの除去耐性が上がったも同然なわけで…。

相棒のルール変更後も部族デッキや【カヒーラコントロール】での運用には大きな支障はなく、想起エレメンタル登場後はそちらをメインとしたデッキで使われることもある。
というより相棒のルール変更後こそこのカードにとって本番であり、3マナ支払うことで《忍耐》《孤独》などのピッチコストや、ハンデスの囮を確保するために用いられる
3/3/2警戒がいきなり出てくるよりもよほど柔軟性のある動きができるようになった始末。場に出ないクリーチャーとして八面六臂といえば聞こえはいいが、扱いがぞんざいすぎる。心を通わせた相棒なんだろ、こんなんでいいのかよ。


巨智、ケルーガ / Keruga, the Macrosage (3)(/)(/)
伝説のクリーチャー — 恐竜(Dinosaur) カバ(Hippo)
相棒 ― あなたの開始時のデッキに、マナ総量が3以上のカードと土地カードのみが入っていること。
巨智、ケルーガが戦場に出たとき、あなたは、他の、あなたがコントロールしていてマナ総量が3以上のパーマネント1つにつきカードを1枚引く。
5/4
緑青の相棒はカバ・恐竜。
相棒条件は「コスト3以上」
ルールスと異なりパーマネント以外、インスタントやソーサリーもコスト3以上が要求されるためやや不遇。ウィザーズは猫びいきだ。

2マナ以下のカードが使えないことは即ち「速いデッキに対して無抵抗になる」ことでもあり、低速デッキでも普通はそのために軽いカードも使うことになるため、シンプルだが扱いにくい条件である。
……という印象があるのだが、実際には「分割カード」「出来事」のように抜け穴なんてたくさんあるため、無防備なターンは案外少ない。
ただ、それでも動きがもっさりすることには変わりない。これでごまかせるのはパイオニアまでが関の山。

下環境で(相棒条件を満たせる強いカードが増えることで)強くなることが多い相棒の中では珍しく、
ケルーガは「下環境の軽くて速いデッキに対抗しづらい」性質のため、上環境の方が主戦場になる傾向にある。
といっても、それはウモーリとかオボシュにも言えることなので何もケルーガに特筆するべきことではない。
ザーダのように下環境こそ主戦場というカードもあれば、こういうカードもあるというだけのことである。

下馬評はかなり低いカードだったが、脇を固めるカードに恵まれたこともあって大活躍。
出せれば強く、大量ドローという腐りづらさもあるため、元々重めのカードに偏らせてなんぼの【創案の火】などで採用された。

相棒条件変更後は不遇な日々が続いていたが、性質上「コスト3以上」しか積めないコンボデッキである【発見コンボ】が登場したことで久々に復権した。
と思ったら今度は強すぎてキーカードの《地質鑑定士》がパイオニア禁止になってしまった。


その他の話

これまで見てきていただいた通り、

ヨーリオン(白青)……モダン禁止
ルールス(白黒)……パイオニア、モダン、レガシー禁止
ザーダ(赤白)……レガシー禁止
ジェガンサ(赤緑)……パイオニア、モダン禁止

と、10枚中4枚が何らかの環境で禁止に指定されている。さらに他のカードにも、

ルーツリー(青赤)……統率者戦で禁止推奨
ジャイルーダ(青黒)……ルール変更までの間、1ターンキルで様々な環境を荒らしまわる
ケルーガ(緑青)……よく採用されたデッキのキーパーツ《創案の火》《地質鑑定士》などが禁止化

と、すさまじいスコアを出している(ケルーガはこじつけ気味だが)。
ルール変更によって大人しくなったカードもあるが、逆に「手札コストやハンデス対策」という戦略も取れるようになってしまい、むしろ強化されたカードさえあったほど。
「ぶっ壊れ」という評価は決してオタク特有の大言壮語ではなく、むしろこれでもかなりマイルドな表現とさえ言える。


10種類すべてが「多元宇宙の伝説」でイラスト違いとして再録されている。
また、背景設定がすべて設定されており、怪物大好きプレインズウォーカーのビビアン・リードによる観察記録という体裁で物語がつづられている。中には「足がたくさんあった」程度の情報しかないやつもいるけど。


統率者戦では相棒の使用は認められており、ヨーリオンとルーツリーを除く8枚のカードを入れることができる。
100枚ハイランダーという都合上デッキの構築難易度は通常の構築戦の比ではないが、デッキを101枚にして戦える。
これについては容認派と否定派がいるため、ハウスルールに従っていただきたい。ただ「多元宇宙の伝説」版の使いどころってここくらいしかないような気がする


さて、ここまで読んだ暇な人の中で、もしかしたらこんな感じの疑問をいだいた人もいるかもしれない。

「デッキを80枚以上にして、その中のカードをすべて偶数にした。このときヨーリオンとジャイルーダを同時に相棒に指定できるか?」

相棒は「ゲーム開始時にサイドボードから1枚だけ公開する」能力なので、複数の相棒を同時に公開することはできない。相棒は1試合につき1枚のみ。
ただ、相手次第で相棒をスイッチすることは可能。つまり「相手が打ち消しを構えてくるならヨーリオンでじっくり闘い、打ち消しがないならジャイルーダコンボで片づけよう」ということならできる。
当然だがデッキ構築を二重に縛ることになるため、実用性は皆無である。相棒はコロコロ変えず、ともに添い遂げる仲間として扱う方がいいだろう。
のび太にはドラえもん。サトシにはピカチュウ。光熱斗にはロックマン.exe。
相棒というのはそういうものである。



アニヲタとは、ときに知識を追記・修正していくものである。アニヲタとは、ときに項目にコメントを残していくものである。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • Magic the Gathering
  • MtG
  • 多色
  • 相棒
  • 禁止カード
  • ぶっ壊れ
  • イコリア:巨獣の棲処
  • クリーチャー
  • キーワード能力
  • 能力
  • 初手ゲー
最終更新:2025年04月19日 22:10

*1 10枚しか影響がなく、事実上パワーレベルエラッタだと言う人も多い。

*2 例示したメカニズムは「スタンはともかく下環境では我慢して付き合わざるを得なかった」「後発のカードで調整に成功している」「インフレの波に飲まれて空気になった」という事情もある。

*3 この「ゲームの再現性の異常な向上」は2019年頃から問題となっており、ロンドンマリガンや《むかしむかし》など再現性を上げることばかり増えている。

*4 →トピカル・ジュース:こんな話は知ってるかい

*5 この「春」というのは「プラハの春」「アラブの春」「この世の春」のようなものではなく、単に相棒が暴れた時期が北半球において春だったという理由でつけられたものである。「オーコの秋」「モマの冬」も同様。

*6 冗談交じりに「この時期のヴィンテージは面白かった」と言う人もいる。スタンダードやモダンにしか触れていないとイメージが難しいだろうが、変化に乏しいということは「似たようなデッキとばかり当たる」ということでもある。しかしルールスという新しい玩具になじんでさえしまえばスタンダードもびっくりの多様性と変化速度にヴィンテージのカードプールで触れられる、という理屈。そもそもヴィンテージは魔境のイメージに対してプレイヤーが割とカジュアル志向なので、もし自分がやっていてつまらない環境ならしばらく他のゲームに避難する人も多く、後述するルールス禁止も「やっぱりな」「禁止になったなら復帰するか」程度の反応だった。

*7 これ自体はジョークだが、墓地のパーマネントをコピーしたり釣り上げるカードと組み合わせるとジョークとも言い切れなくなる。

*8 ヴィンテージでカードパワーを原因とする禁止カードは《チャネル》以来20年ぶり。しかも前回はType1名義だったため、ヴィンテージ名義となって以降としては初。禁止になる理由は「カードを物理的に投げる」「廃止されたアンティ・ルールに関係する」「大会の運営を成り立たなくする」「人種差別を想起させる描写がある」「勝敗が必ず引き分けになる(解除済)」というものばかりで、「強すぎて禁止」というカードは事実上初。

*9 北米等における紙での発売日はSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)の影響で延期していた。

*10 実際にはまったく「ついでのように」ではなく、ひとえにルールスとジャイルーダがヤバすぎて霞んでいただけで、すでに《厳かなモノリス》《玄武岩のモノリス》とのコンボが見つかっていた。

*11 これ自体はEXデッキを使うゲームではたびたびあることで、たとえば遊戯王もシンクロ召喚初期は「いかにシンクロの強豪につなぐか」というゲームとなって環境がシンクロ一色に染まった。ブリュゴヨウ時代やトリシュ時代といえばイメージもできるだろう。

*12 これにより、当時のスタンダードは最終的に「10枚禁止、10枚のエラッタ」というすさまじい環境と化した。しかも禁止改定のタイミングが1週間に1度である。

*13 この(3)には、「友達料」などをはじめ様々な俗称がつけられている。あんまり肯定的な言葉はない。

*14 例えば(白/青)ならば白マナでも青マナでも支払える。

*15 この次元にはエルフやゴブリンのような亜人種は存在しない。

*16 ここでは「ヨーリオンを相棒に指定するリスクに対してリターンがバカでかすぎる」という意味。本当にメリットだったらとっくにタワーデッキで組まれているはずである。

*17 Enter the Battlefield、「戦場に出たとき」の意。CIP(Comes into Play)と同じ意味の用語

*18 直訳すると「札束」。赤緑白青の4色からなる、オムナスや《レンと六番》などモダンホライゾンや近年のスタンダードのパワーカードを詰め込んだコントロールデッキ。枚数が増えた上にそのすべてがパワーカード・フェッチランドなどの汎用カードなためとんでもない札束デッキであり、この性質を揶揄したデッキ名。

*19 青系コントロールのフィニッシャーで、当時存在感を発揮していた

*20 通称LED。「手札を全て捨てて3マナ出す」という《Black Lotus》の調整版。通常では手札を投げ捨てているため、特殊なコンボデッキで用いられる。レガシーでは4枚使えるがヴィンテージでは制限カード。

*21 MtGオリジナルのクリーチャータイプ。牙と鱗の生えたミミズか触手みたいなもの

*22 スライムのこと