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更新日:2025/09/18 Thu 21:59:43NEW!
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エスポワールシチーとは、日本の元競走馬である。
08年クラシック世代ながらも2013年の引退まで、ダート界に長年君臨し続けた砂の九冠馬。
目次
データ
- 生年:2005年4月22日
- 父:ゴールドアリュール
- 母:エミネントシチー
- 母の父:ブライアンズタイム
- 生国:日本
- 生産者:幾千世牧場(門別町)
- 馬主:友駿ホースクラブ
- 調教師:安達昭夫(栗東)
- 主戦騎手:佐藤哲三→後藤浩輝
- 戦績:40戦17勝[17-19-3-10]
- 主な勝鞍:09’かしわ記念(JpnⅠ)、09’マイルチャンピオンシップ南部杯(JpnⅠ)、09’ジャパンカップダート(GⅠ)
10’フェブラリーステークス(GⅠ)、10’かしわ記念(JpnⅠ)
12’かしわ記念(JpnⅠ)、12’マイルチャンピオンシップ南部杯(JpnⅠ)、
13’マイルチャンピオンシップ南部杯(JpnⅠ)、13’JBCスプリント(JpnⅠ)
- 主な受賞歴:2009年、2010年最優秀ダートホース
誕生
2005年4月22日、北海道門別町の幾千世牧場で生まれる。
父は02年クラシック世代にしてダートGⅠ級4勝を挙げたゴールドアリュールで、本馬は初年度産駒にあたる。
母エミネントシチーは芝ダート両方で3勝を挙げており、エスポワールシチーは彼女の初年度産駒である。
母の父ブライアンズタイムは三冠馬
ナリタブライアン、父の同期のダービー馬
タニノギムレットなどを輩出した米国馬。
名前はフランス語で「希望」を意味するespoirと冠名シチーの組み合わせ。
デビュー~3歳秋 ー希望の道筋は砂にあり―
デビューは2008年3月の阪神芝1600m。騎手は同じシチー冠の逃亡者タップダンスシチーの主戦も務めた佐藤哲三騎手。
この時は前目6番手から進めるも、3着に終わる。その後も芝の未勝利戦に出走し続け、6戦目の小倉芝1200mで単勝1.5倍の人気を背負い、4番手から直線で押し切り初勝利。
しかし次走の500万以下特別で敗北したのを受け、ここでダート転向を決断。小倉500万以下特別(ダート1700m)に出走する。この時、佐藤騎手はダノンジュピターへ騎乗となったため、鞍上にフジキセキやジャングルポケットなどで有名な角田晃一騎手を迎える。ここで逃げを選択。すると4コーナーあたりで番手の馬達が後退し始める中、ただ一頭エスポワールシチーだけがむしろ加速し始める。前方が軒並み撃沈し後続馬がなだれ込むのも我関せず、7馬身差をつけ完勝。初ダートでの衝撃的な勝利により、以降彼はダート戦線を賑わせることとなる。
続けて佐藤騎手に戻った1000万以下、ギンシャリボーイ主戦の松岡正海騎手が騎乗する1600万以下、そして再び佐藤騎手となったオープンのトパーズSも勝利しダート全勝のまま3歳シーズンを終えた。ダート界の新星として期待が集まりつつあった。
4歳 ―覚醒 砂の快速馬―
始動戦は初重賞挑戦となる平安ステークス(GⅡ)。しかし、ここでは重賞馬であるワンダースピードにクビ差で差し切られ2着。続けて初GⅠ挑戦となるフェブラリーステークス。前年のジャパンカップダートで2年ぶりの復活勝利を挙げた雷帝ことカネヒキリ、前年度覇者ヴァーミリアン、同期の米重賞馬カジノドライヴらが出走する中5番人気で迎え、逃げを選択するも同期のJDD覇者にして
!!!!!!!!ことサクセスブロッケンらに抜き去られ4着に終わる。
マーチステークス(GⅢ)で初重賞勝利を挙げると、続けてかしわ記念(JpnⅠ)に出走する。単勝オッズ1.8倍の圧倒的人気を背負う雷帝カネヒキリや、前年度帝王賞覇者フリオーソ、GⅠ級5勝の8歳馬アジュディミツオ―らが出走する中2番人気に推される。
ここでは逃げず、アジュディミツオ―が逃げ、先行するフリオーソとカネヒキリをマークする形でレースを進める。3コーナーで勝負と見るや一気に先頭に躍り出て直線に入り、遅れて抜け出すカネヒキリらを振り切りGⅠ級初制覇。
続けて秋初戦、ここではフェブラリーステークスで後塵を拝したサクセスブロッケンと決着をつけるべくマイルチャンピオンシップ南部杯に出走。単勝オッズは1番人気サクセスブロッケンが1.8倍、エスポワールシチーは前走から14kgの体重増が懸念されるも1.9倍の2番人気であり、3番人気の前年度覇者ブルーコンコルドですら9.8倍という完全な2頭のマッチレースの様相を呈していた。ここではエスポワールシチーが逃げ、サクセスブロッケンが番手につく。直線に入り、サクセスブロッケンが差を詰めようとするが…詰まるどころか、エスポワールシチーが一方的に離し続け、そのまま4馬身差完勝。同期のライバルとの決着をつけた。
年末には一昨年度より阪神1800mでの開催となったダートGⅠ、
ジャパンカップダート(後のチャンピオンズカップ)に出走。この年のJBCクラシックなどGⅠ級8勝を挙げていたヴァーミリアンや三度対決となるサクセスブロッケン、後に何度も対決することとなる重賞2勝馬
ワンダーアキュートが出走する中、前走の勝ち方から単勝オッズ3.1倍の1番人気に支持される。レースは米国馬ティズウェイがハナを取ろうとするが、1コーナーでエスポワールシチーが先頭に立つ。後続勢の動きが激しくなるもの関係無しに直線でぐんぐん突き放していき、この年のユニコーンS覇者シルクメビウスに
3馬身半差を付け完勝。
オープン馬だった3歳から一気にGⅠ級3勝、GⅢ1勝という快進撃を見せた。
ダート界の重鎮だったカネヒキリやヴァーミリアンを下し、同期のJDD馬にも連勝。まさに主役交代を告げたような4歳シーズンだった。
この年の成績が評価され、2009年最優秀ダートホースを受賞した。
この年の活躍から、ファンからはあるレースへの挑戦の期待が集まってきた。
それは世界最高峰のダートGⅠ、ドバイワールドカップとBCクラシックである。
5歳 ―そびえ立つ世界の壁―
5歳の始動戦は前年度4着のフェブラリーステークス。他の出走馬はサクセスブロッケンや前年度JDD覇者テスタマッタ、初ダートの芝重賞馬が何頭かいるといったメンバーで、エスポワールシチーは単勝オッズ1.7倍の圧倒的1番人気に推される。
その期待に応えるように、レースは逃げるローレルゲレイロを見ながら進め、直線400mで抜け出すともうそこからは独走態勢。テスタマッタに2馬身半差をつけ完勝。
これだけ圧勝となればドバイワールドカップの日本調教馬初制覇も期待が…と思われたが、ドバイへの挑戦は断念された。詳細は不明だが、この当時のメイダン競馬場はダートではなくオールウェザーというウッドチップが撒かれている特殊な馬場であり
今でいう芝の1勝クラスで苦戦していたエスポワールシチーではリスクが大きいと判断されたのもあるかもしれない。
翌年のヴィクトワールピサとトランセンドを見ると、エスポワールシチーを見たかったというファンも多かったが。
次走はかしわ記念に決定。他の有力馬は何度目の対決か分からないサクセスブロッケンとフリオーソらで、エスポワールシチーは
単勝1.1倍の圧倒的人気。
エスポワールシチー銀行開業
こちらも3番手からの上がり最速で押切り連覇達成。その後は帝王賞参戦も視野に入れていたが…結局は休養に入った。
ちなみに、その帝王賞にはフリオーソが5番人気だったにも関わらず2番手から上がり最速で押切り完勝し、カネヒキリが8歳馬ながらも2着に入っていた。エスポワールシチーが負かした先輩達は老いてもなお強い馬達ばかりであった。…しかし、
地方重賞を荒らしまわっていた6着馬がエスポワールシチー最大の壁となることをまだ誰も知らなかった。
秋には世界最高峰の米GⅠ、
ブリーダーズカップクラシックへの挑戦が発表され、その前哨戦として
マイルチャンピオンシップ南部杯に出走。出走馬はテスタマッタに加え、エルムステークス2着のオーロマイスター、地方勢からは高知総大将と呼ばれた
グランシュヴァリエが出走。エスポワールシチーのオッズはなんと
単勝1.0倍。
もはや銀行というよりコインロッカーである。一方で馬体重は前走から+15kgと遠征を見据えた太め残しであった。
しかし、レースはオーロマイスターがエスポワールシチーを突き放していき、グランシュヴァリエが必死に食らいついてくる。そのままオーロマイスターが勝利、エスポワールシチーは2着、グランシュヴァリエは3着という結果だった。オーロと名を持つ馬が、オーロの名を冠する盛岡競馬場で勝利を飾ったのである。また、グランシュヴァリエも高知の馬が現役最強ダート馬に食らいつけていた事は大きなニュースとなった。
前哨戦を終え、満を持して
ブリーダーズカップクラシックに出走。この年のBCクラシックには
米国史上最強牝馬ゼニヤッタが北米新記録となるデビュー20連勝をかけて出走していた。
レースは3番手で進め、直線で一瞬先頭に立って見せたが、先行勢の超ハイペースが応えたか力尽き、地元の4歳牡馬ブレイムがゼニヤッタを振り切るのを見る形で10着に終わってしまった。当時の日本調教馬にとって、米国の壁はまだまだ高かった。そしてこのレースを持って休養に入った。
なお、日本調教馬のBCクラシック挑戦はこのエスポワールシチーから実に13年後、デルマソトカゲと
ウシュバテソーロまで待つこととなる。
年度前半の成績を評価され、2010年の最優秀ダートホースに選ばれた。
その一方、年末の大井競馬場では東京大賞典が開催され、2分0秒4というダート2000mでは前代未聞の記録が樹立した。その記録を打ち立てた怪物こそ、帝王賞6着だった
スマートファルコンである。
エスポワールシチーに主役交代の危機が迫ってきていた。
6歳 ―立ちふさがる同期のハヤブサ、そして新時代の怪物たち―
6歳の始動戦は3月の名古屋グランプリ(JpnⅢ)となった。ここではワンダーアキュートとのマッチレースとなったが、ワンダーアキュートより2キロ重い斤量を背負いながらも逃げて上がり最速で2馬身差をつけ完勝。
続けて3連覇がかかるかしわ記念。再びフリオーソやオーロマイスターとの対決となったがオッズは1.4倍の圧倒的人気。しかしレースは5番手で進めていくも3番手から上がり最速で抜けていくフリオーソを捉えきれず3着敗北。
6月に帝王賞へ初出走する。しかし、ここで立ちふさがったのが、遅れてやってきた同期の砂の怪物、スマートファルコン。2番人気に推されたエスポワールシチーは道中3番手でレースを進めるが、直線に入ると前のスマートファルコンとの差が一完歩ごとに離されていき、そのまま2着に終わった。ついた着差はなんと9馬身という完敗だった。
秋には2年ぶり勝利を目指しマイルチャンピオンシップ南部杯に出走する。この年の南部杯は
東日本大震災で盛岡競馬場が被災したため、東京競馬場での代替開催となった。
しかし、ここでもエスポワールシチーの前に立ちはだかった馬がいた。
この年のドバイワールドカップ2着馬、トランセンドである。逃げるエスポワールシチーの番手につけていたトランセンドは200mを切るとダノンカモンと併せ馬の形となってエスポワールシチーを抜き去り勝利。エスポワールシチーは4着に終わった。
その後はみやこステークス(GⅢ)に出走し、2番手から上がり最速で抜け出し勝利。しかし、続けて出走したチャンピオンズカップではトランセンドやワンダーアキュートと対決するも、逆に逃げたトランセンドを捉えきれず3着に終わった。
この年は重賞2勝を挙げるも、GⅠは1つ上のフリオーソ、同期のスマートファルコン、1つ下のトランセンドに阻まれ未勝利。
特にスマートファルコンはこの年GⅠ級3勝を含む5戦5勝であり、主役の座を同期に奪われた形となってしまった。
それでも、希望の名を冠した馬はこの程度の逆境に屈しなかった。
7歳 ―されど希望の灯は消さず―
始動戦は平安ステークスでは圧倒的1番人気に推されるも、
キングカメハメハ産駒の伏兵ヒラボクキングに屈し2着。続けてフェブラリーステークスに出走するもテスタマッタがJDD以来のGⅠ勝利を見る形で5着に終わる。
5月にかしわ記念に出走する。再びフリオーソ、テスタマッタと対決となり、道中フリオーソが逃げる中、エスポワールシチーの佐藤哲三騎手はフリオーソを徹底的にマークしてレースを進める。
3コーナーには3番手以下を大きく突き放すマッチレースの状態となり、4コーナーにはフリオーソを捉え、直線でフリオーソを突き放し2馬身半をつけゴールイン。
ついにかしわ記念3度目の勝利を飾った。また、一昨年のかしわ記念以来、実に2年ぶりの復活のGⅠ勝利となった。
続けて帝王賞へ出走。同期のスマートファルコンは出走せず、1番人気に推されるが、連勝で勢いに乗るゴルドブリッツに差され2着に終わる。
秋には盛岡に帰ってきたマイルチャンピオンシップ南部杯に出走。
レースは2番人気ナムラタイタンがスタート直後に落馬する波乱がある中、エスポワールシチーはメイショウタメトモと競り合う形で逃げの競馬となった。
しかし4コーナーで、エスポワールシチーは実力の違いを見せつける。
競り合ったメイショウタメトモが後退していく中、逃げて上がり最速の圧倒的強さを見せつけ後続をちぎりにちぎっていき、9歳馬ダイショウジェットに4馬身差をつけて勝利。これでGⅠ級7勝目を挙げた。
しかし、年末のジャパンカップダート出走に向けて準備する中、2012年11月14日の京都競馬場で悲劇は起きる。主戦騎手の佐藤哲三氏が落馬し支柱に激突する大事故に遭ってしまったのだ。
診断書の内容は「左上腕骨開放骨折、左肩甲骨骨折、外傷性気胸、L4(腰椎)横突起骨折」などに加え多数の脱臼や神経の損傷といった凄まじい内容だった。
これを受け、ジャパンカップダートはスマートファルコンの主戦騎手だった
武豊騎手が騎乗。しかし、直線で失速し10着に敗れた。
続けて年末の東京大賞典競走に2011年マイルチャンピオンシップ南部杯以来となる松岡正海騎手が騎乗し出走するも、後方からの競馬となってしまい5着に終わった。
復活の勝利を挙げるも、主戦騎手の離脱や年末の連敗が重なったエスポワールシチー。
8歳 ―老いても消えぬ希望の体現者―
時は2013年。競走馬としては高齢の8歳となってしまったエスポワールシチーの始動戦は2月のフェブラリーステークス。
年齢に加え、2戦続けての馬券外が響いたか9番人気となったが、2番手でレースを進め、直線で後続馬がなだれ込んでくるも2着を死守。まだ彼が終わっていないことを証明した。
5月には4度目の勝利を目指してかしわ記念に出走する。しかし、ここで立ちふさがったのは最強世代と謳われた
2012年クラシック世代のダート代表、
ホッコータルマエ。
船橋の短い直線で必死に逃げるエスポワールシチーを残り200m以下で捉え、GⅠ級初勝利を飾ったのである。エスポワールシチーは2着に終わり、4度目の制覇とはならなかった。
秋には5度目の出走となるマイルチャンピオンシップ南部杯。ここで鞍上に迎えたのは前年NHKマイルカップで落馬事故に遭いこの年の10月に復帰したばかりの後藤浩輝騎手。
かしわ記念以来の対決となったホッコータルマエが1.3倍の支持を集める中2番人気に推される。逃げを選択し、いつものように4コーナーで後続を突き放しにかかり直線を迎える。
直線でホッコータルマエが追ってくるも差が縮まない、縮ませない走りでエスポワールシチーは粘り続け、ホッコータルマエと上がり最速タイで振り切りGⅠ級8勝目、マイルチャンピオンシップ南部杯3勝目を飾った。
また、後藤騎手にとっても復帰後初のGⅠ制覇となった。
続けて11月には初の短距離GⅠ挑戦となるJBCスプリントへ出走。この年は金沢競馬場1400mでの開催であり、マイルレースに近い形態だったのも出走の決め手だった。1.7倍の圧倒的1番人気に推されたエスポワールシチーはセイントメモリーを見る3番手でレースを進め、直線に入り先頭に躍り出る。後方からドリームバレンチノが追ってくるも振り切り勝利。
数えきれないほど多くの、ダートの勲章を手にしてきたエスポワールシチー!
ついにGⅠ9勝目、当時、芝ダート障害含めGⅠ9勝を誇っていたのはかつてエスポワールシチーと戦ったヴァーミリアンのみという、大偉業を達成した。
ラストランとなった年末のチャンピオンズカップは逃げを貫き7着入線、レース後現役引退が発表された。
希望の名を持つ競走馬の、長きに渡る現役生活は幕を閉じたのだった。
引退後
引退後は優駿スタリオン・ステーションで種牡馬入りした。
産駒としてはやはりダート馬が中心で、2019年に3年目産駒のヴァケーションが全日本2歳優駿を勝利し産駒の初GⅠ制覇となり、2023年には4年目産駒のイグナイターが地方移籍後にJBCスプリントを制覇した。
その他には23'北海道スプリントC覇者のケイアイドリーや24'オーバルスプリント覇者のスマイルウィ、24'エルムステークス覇者のペイシャエスなどがいる。
創作作品への出演
同期の
スマートファルコンが初期からいる一方で中々登場しなかったが、2024年2月、現役時に鎬を削ったトランセンドやフリオーソと共に登場。常にツンツンしている反抗期ギャルという設定。シチー冠の競走馬モデルとしては3人目であり、
1人目や
2人目と同じく美人系の顔立ち。
育成実装もトランセンドやフリオーソに遅れていたが、2025年9月に育成実装。
C.Vはアニソン歌手の亜咲花氏。有馬記念の
エフフォーリアを見て競馬にはまり、多くの競馬番組に出演したり、さきたま杯でイグナイター単勝当てたり、JBCスプリントでイグナイター単勝に3万円ぶち込むなどのエピソードを持つ。
追記・修正は希望の名を持つ者にお願いします。
最終更新:2025年09月18日 21:59