ウシュバテソーロ(競走馬)

登録日:2023/07/26 Wed 04:33:55
更新日:2025/04/16 Wed 00:26:38
所要時間:約 18 分で読めます








もしかして……ウシュバ・テ“ゾ”ーロ








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ウシュバテーロ(Ushba Tesoro)とは、日本の競走馬
たった一つの"決断"でその後の運命を大きく変えた、遅咲きの大輪。




【データ】

誕生:2017年3月4日
父:オルフェーヴル
母:ミルフィアタッチ
母父:キングカメハメハ
調教師:高木登 (美浦)
馬主:了徳寺健二ホールディングス
生産者:千代田牧場
産地:新ひだか町
セリ取引価格:2,700万円

通算戦績:39戦11勝[11-4-6-18]
芝競走:22戦3勝[3-1-4-14]
ダート競走:17戦8勝[8-3-2-4]

主な勝ち鞍:
東京大賞典(22年,23年/GⅠ)
川崎記念(23年/JpnⅠ)
日本テレビ盃(23年/JpnⅡ)
ドバイワールドカップ(23年/GⅠ)

特記事項:
'24 サウジカップ(GⅠ)2着
'24 ドバイワールドカップ(GⅠ)2着
'25 サウジカップ(GⅠ)3着

獲得賞金額:25億6362万5300円(日本歴代1位)

【誕生】

2017年3月4日生まれの鹿毛の牡馬。
馬名はジョージア北西の山である「ウシュバ山」+宝石という意味を持つ冠名の「テソーロ」。

父親は「金色の暴君」こと三冠馬オルフェーヴル。
父オルフェーヴル×母父キングカメハメハという配合は走る産駒が比較的多く、日経新春杯(GⅡ)を制したショウリュウイクゾや、フェアリーS(GⅡ)を制しエリザベス女王杯でも2着に入ったライラックなどがいる。

2017年のセレクトセールにて2,700万円で落札された。

【戦歴】

デビューから5歳まで

芝の時代

芝馬としてデビューしたウシュバテソーロは掲示板は外さないものの勝ち切れないレースを繰り返し、勝ち上がりまでに7戦を要した。その後も大崩れこそしないものの勝ち上がるのに時間が掛かり、4歳冬にようやく3勝クラスに上がる。3勝クラスでは初の二桁順位も経験するなど、ここで壁に当たったような戦績だった。
能力はまずまずあるものの、気性面で難しいところもあり江田照男騎手などが時間をかけてレースを教え、少しずつ成長していった3~4歳時代だったと言える。

5歳春

一方この頃、ウシュバテソーロと同じオルフェーヴル産駒は、一昨年にBCディスタフを制したマルシュロレーヌを筆頭に、牝馬でありながら後に混合GⅠ級レースを制するショウナンナデシコなどのダート馬の活躍が目立ち始め、芝で燻っていた産駒たちがダート転向によってあっさり勝ち上がるというケースも続出し「オルフェーヴルはダート馬だったのでは?」と巷では囁かれていた。

運命の決断、衝撃の横浜S

そこで芝最後の鞍上を務めた横山和生騎手の助言と芝、ひいては凱旋門を全力で狙い続ける馬主の意向もある為ギリギリまで待っていた機が熟した事もあり、これまでの芝オンリーからダート戦線へと矛先を変更。横浜Sに出走する。

すると、いくら上がりの出やすい重馬場とは言え府中ダート2100で上がり3ハロン34.0と言う府中ダート1600m以上歴代全レースで最速・国内ダートの1800m以上での歴代最速というなにかの間違いのようなあり得ない末脚を繰り出して圧勝。なにしろこれは上がり2位に1.5秒も差をつけており、「鬼脚」で名を馳せたブロードアピールが根岸S(1400m)で叩き出した34.3という記録よりも0.3秒も速いという信じがたい数字である。二着のペプチドナイルに騎乗していた武豊もレース後に『勝った馬が強すぎましたし、桁違いでした』と振り返るなど、競馬界に怪物の誕生を予感させるダートデビューとなった。

5歳秋

オープン戦

休み明けのオープン初戦こそ3着*1になったものの、続戦したブラジルカップ(L)では直線で後方から他馬をまとめて千切りオープン戦初勝利。続くカノープスS(OP)では道中他馬にマークされ完全に囲まれるも直線手前で横山和生騎手が僅かな隙間をすり抜けるように外に持ち出すと、再び強烈な末脚で突き抜けオープン戦2連勝。横浜Sのパフォーマンスがフロックじゃなかったことを証明し、重賞勝利も充分期待できる強さを見せつけた。

重賞初挑戦がGⅠ

勢いに乗った陣営は相手関係がGⅠとしては軽め*2だった事もあり初重賞挑戦として強気に東京大賞典を選択。重賞未出走馬ということもあり出走枠を確保出来るかも危ぶまれたが何とか選定に通ることができた。

元々主戦の横山和生騎手は本レース四連覇王者のオメガパフュームに騎乗予定だったが、レースを前にオメガパフュームが引退した為ここでも横山和生騎手が手網を握る事に。オッズは重賞初挑戦ながらここまで全て上がり最速を出して勝ってきた強さを評価されてかメイショウハリオに次ぐ2番人気4.3倍に支持される。

スタート後は中団待機からレースを進める。4コーナーで先に動き出したメイショウハリオを追走しながら二頭で捲っていき、最後の直線では手前変えずに上がり最速で突き抜けて初重賞がGⅠ制覇となった*3
芝の条件戦で燻っていたウシュバテソーロはダート転向から僅か半年程GⅠホースの仲間入りを果たしたのだ。イナリワン

鞍上の横山和生騎手にとってもこの年初の芝GⅠ勝利や数々の重賞制覇で絶好調、ダートGⅠも初制覇をし2022年内にGⅠレース3勝など飛躍の年となった。

6歳春

同世代の現役最強ダート馬との決戦

6歳初戦は川崎記念を選択し、いきなり現役屈指のダート強者テーオーケインズとの同世代による対決が実現。
だが川崎が後方不利なコースであることや先行しようにも出遅れ癖もあって後方競馬になるとみられていたことに加えて、やはりダート界に突然生えてきたウシュバテソーロの実力を人々は計りかねていた事もあってか、1番人気をテーオーケインズに譲る2番人気に。とはいえオッズとしては、ケインズ2.0倍、ウシュバは2.6倍という僅差であり、この二強によるマッチレースの様相を呈していた。また、この頃から後述するやる気の無い追い切りやパドックで弱々しい姿を見せる詐欺行為が、ダートを追っている競馬ファン達に認知され始めた。

しかしレースでは中団待機すると出入りの激しい高速展開となった中を最内を突いて押し上げ、4角先頭のこの馬の普段の態度を考えると非常に珍しい強気の競馬。
テーオーケインズ以外の後続を一瞬で引きちぎると追いすがるテーオーケインズを半馬身封じてGⅠ連勝一気に現役トップのダート馬に名乗りを上げる事となった。

ドバイワールドカップ

川崎記念の勝利から陣営は次走に初の海外遠征として世界最高のダートレースの一つであるドバイワールドカップを選択。これまで数々の日本馬が挑戦してきたもののダート開催*4での本レースを勝った日本馬はおらず、日本のダート競馬の悲願となっていたレースである。
本年は出走馬15頭中8頭が日本馬で数々の有力馬が出走するも、海外勢も神話生物被害者の会会長前年覇者カントリーグラマーをはじめとする強豪が顔を揃えた。

人気は日本勢としては2月にサウジカップを制したパンサラッサに次ぐ2番手、全体で見ても国内戦のみながら安定した高い実績からか4番人気になっていた。
鞍上は和生騎手は先約があった*5ことから、リーディングジョッキーである川田騎手へと変更となった。

レースではスタートでいつものようにやや出遅れると、そのまま大逃げをかますパンサラッサ達が引っ張っていく馬群に置いていかれ、最後方ポツン状態に。結果、序盤から一頭だけ中継に映らない程引き離された状態でレースを進めることになる。

しかし、3コーナーで得意のコーナリングを活かして徐々に馬群に詰め寄り4コーナーで大外ブン回しで捲っていくと、最終直線ではいつもの末脚が炸裂他馬をごぼう抜きしながらちぎって見せ、最後は2馬身以上離してみごと1着。ゴール直前では流し気味になるほどの快勝であった。

 ウシュバテソーロ! 
 今一等星の輝きー! 

やはりウシュバテソーロの末脚は世界の舞台でも図抜けていたのだ。横浜Sで見せた信じがたい上がりタイムも今となっては誰も疑わないだろう。

1年前には芝の条件戦をさまよっていた競走馬がダート転向後破竹の勢いで勝ち進め、ついには世界最高峰ダートGⅠをも手にしてしまった
同時にこの勝利はダート開催としては日本馬初の快挙*6であり、ウシュバテソーロの名前は日本競馬史に刻まれることとなった。いやはや、とんてもないシンデレラホースである。

そして馬主の了徳寺健二ホールディングスは中央重賞すら勝ってない*7のにこの最高峰の舞台の栄誉を得る事に。

川崎→ドバイWCのローテはかつてドバイで最期を迎えた「砂の女王」ホクトベガ*8もこなしたローテで、2024年からは4月開催に変更になるためドバイWCの前哨戦としては2023年が最後。
数々の名馬たちがローテで挑み敗れたのを最後の最後にウシュバテソーロがドバイWCを制覇してみせた。

6歳秋

Road to BC

ドバイワールドカップを制し、ダートの上半期世界王者となったウシュバテソーロの今後の方針は競馬ファン達から大きな注目を浴びた。
一時は陣営が馬主の悲願でもある芝の世界最高峰レース・凱旋門賞挑戦をぶち上げ、競馬ファンの議論を呼んだ*9…が、さすがに厩舎との協議の結果国内で前哨戦を叩いてのダート界の世界最高峰であるBCクラシック挑戦に落ち着いた。鞍上もBC経験を考慮してか正式に川田騎手へと乗り替わりとなった。

夏バテソーロと言われるほど暑さに弱い事が分かっていた陣営は夏は放牧に出し休ませ6歳秋にはブリーダーズカップへの叩き台としてまずはRoad to JBCであるはずのJpn2日本テレビ盃へ参戦。
ここでも相変わらずパドックではみすぼらしい姿を披露し、首が平行に保つ事すら出来ないほどに垂れ下がるというある意味安心感ある姿を披露。更には川田騎手が姿を現すと、もうすぐ走らされると理解しているのか担当厩務員の影に隠れるように川田騎手から逃げ回るという妙に人間くさい仕草まで見せた

そんなパドックを披露したからか、投票締め切り直前に他馬への大口投票が入り、ウシュバテソーロはドバイワールドカップホースでありながら、単勝オッズはなんと1.6倍というレース格を考えれば明らかなハイオッズとなってしまった。こんなに付くなら馬券買えば良かった。

そんな中迎えたレースでは普段出遅れ気味のウシュバテソーロがまさかのロケットスタート。スピード競馬上等のアメリカン達も稀代の爆逃げ馬パンサラッサもいないここでは馬なりでも追走は十分であり、なんと単独3番手で先行する意外な展開となった。
そのまま四コーナー手前で加速を始めると前を逃げる3歳の新鋭、ミトノオーを直線前で軽く捉え切って先頭で直線へ。殆ど鞭も使わずに抜け出し、追われるウシュバテソーロは後ろとのリードを十分に保つと、最後は流しながら2着との差2馬身半差でゴールイン。力の差を見せつけた。と同時にやはりというか減速し、あっという間に後続に先頭を譲りながら帰って行った。

これで重賞4連勝含みの6連勝を達成。直近のレースと比較したら明らかに格下相手とはいえ、十分な貫禄を見せつけながら横綱相撲をし、渡米への視界は良好なものとなったのであった。
そして馬主は前日のウィルソンテソーロと加えて2日連続重賞勝利を達成するが通算重賞級以上11勝したこの期に及んでまだ中央重賞勝利がない模様

なお、本レースはウシュバテソーロがダートの上半期世界王者という実績を引っ提げての国内復帰レースとなったこともあり、船橋競馬場には満杯の観客が押し寄せ、日本テレビ盃における売得金のレコードを更新するなど大盛りあがりを見せた。

ブリーダーズカップクラシック

勇躍ブリーダーズカップクラシックへと向かうが、ここで会場であるサンタアニタパーク競馬場で使用されているゲートが馬体に全く合わない事が判明*10
レースも出遅れたスタートの後後方追走をするもののドバイ等と比較すると緩いペースである事を見越して鞍上の川田は残り1000m以上からの超ロングスパートを敢行。
しかしスローペースと言う事から前方にも余裕があり、最終直線で余力十分にスパートをかける余裕が残っていたとあれば、先行馬大国アメリカの精鋭たちには打つ手なし。
いつもの末脚を発揮できず、ホワイトアバリオ快勝の陰で力尽きての5着に終わった。
ダート転向後では初の馬券外、この年の米最高峰への挑戦はウシュバらしさも出せぬまま失意の内に幕を閉じたのであった。

連覇へ向けて

アメリカ遠征は残念な結果に終わったものの、6歳シーズンはまだ終わっていない。この年最後のレースは東京大賞典。1年前に初めて挑戦した重賞であり、初めてGⅠ勝利を手にした舞台。
出走馬は前年2着のノットゥルノ、この年の南関東三冠馬ミックファイア、JBCクラシック覇者キングズソード、ウシュバと同じ馬主で、チャンピオンズCで2着に入ったウィルソンテソーロと、同3着のドゥラエレーデなど9頭。数は少ないが、精鋭ばかりが集まったレースに。

レースがスタートすると、前走で追い込んだウィルソンテソーロが逃げながら馬群を引っ張り、一方のウシュバは出遅れたミックファイアの更に後方から馬群を追走する形に。当然のことながらウシュバは警戒されており、全体としてスローペースの典型的前残りの展開。同じテソーロの馬が完全にウシュバを殺しに来てる。そこから4コーナーで押し上げる…わけでもなく、最終直線の時点で後方7番手。一方の逃げ先行勢は十分に足を残しており手応えもさほど悪くない。
実は、この年から大井競馬場の砂質が変わっており、その影響か、JBCクラシックでも比較的直線で前にいた馬が残るようなレースになっていた。
これはさすがのウシュバもピンチか…と思われ「何やってんだ川田!」と絶望したファンも多かったが、直線で大外に出すと新しい砂をものともせず1頭だけ37.0秒の上がりを披露。先行勢も粘っていたが、上がりが37.7~9秒なのだから、これでは彼にとって、前は止まっているも同然だった。結局逃げるウィルソンテソーロを残り100mを切ったところで差し切り、東京大賞典連覇を決めた。ウシュバを除けば先行勢がそのまま上位入線しており、誰もが「これはやられた」と思った負け確に等しい展開を豪脚のみでねじ伏せてしまったのだ

ブリーダーズカップ敗退後に衰えや精神的なショックで走らなくなるのではないかと不安になっていたファンや関係者の杞憂を晴らす見事な勝利で6歳シーズンを締めくることになり、来年にも期待が十分持てる走りを披露したと言えるだろう。
なお馬主の了徳寺氏はウィルソンテソーロまで出てるこの期に及んで未だに中央重賞を勝っていない

7歳春の目標は、東京大賞典に続きドバイワールドカップの連覇。最初はドバイへ直行の予定だったが、状態が良かったのか前哨戦を兼ねてサウジカップを始動戦にすることが決定した。

ダート初のJRA賞特別賞馬

東京大賞典のウシュバの勝利を以って2023年が締めくくられた頃、競馬界ではJRA賞最優秀ダート馬の座を巡って議論が巻き起こっていた
当初はドバイワールドカップ制覇という偉業を果たしたウシュバテソーロが獲るのだろうと思われていた同賞だったが、レモンポップがフェブラリーSとチャンピオンズCのJRAダートGⅠの両制覇を達成したことで話が変わってきたのだ。

本年のレモンポップはJRAダートGⅠ両制覇にマイルCS南部杯を加えたGⅠ級3勝(内国際GⅠを2勝)に対して
一方のウシュバテソーロもドバイWCに加えて川崎記念や東京大賞典連覇を併せてGⅠ級3勝(国際GⅠも同じく2勝)であるものの、ウシュバはJRA主催のレースは出走すらしていないのだ
どちらも例年なら満場一致の受賞となる成績を達成した事で、どちらが相応しいか、引いてはJRA賞の主旨とは?という終わりのない議論に発展していた

結局、「JRA」賞であることを重視されたのかレモンポップが166票を獲得して最優秀ダート馬に選出、とはいえウシュバも126票という僅差であり295票中の292票をこの2頭で独占する形となった。むしろ他の馬に入れた3票は何考えてるんだ。

そして、最優秀ダート馬は逃したものの、ウシュバはその偉業から「特別賞」を受賞。特別賞は顕著な功績を残し特別に表彰すべき馬が存在する場合のみ設けられる臨時の賞であり、過去33年で受賞した馬は13頭。古くは社会現象を巻き起こしたオグリキャップ、直近のものでは3年前に宝塚記念、有馬記念の両グランプリ制覇を果たしたクロノジェネシスが受賞するなど名だたる名馬達がその名を連ねているが、ダート馬の受賞は今回が初である

これには、同父のBCディスタフ馬が特別賞を貰えなかった事で競馬界が大荒れした一件が記憶に新しい為、ほっと胸を撫で下ろしたファンも多かったであろう。

7歳春

上半期最強決定戦

年が明け、予定通りサウジカップへ登録。前年にアイドル逃げ馬パンサラッサが制したことで日本馬の連覇が期待されたが、本年のサウジカップはかつてないほどのハイレベルメンバーが集結した
日本からはウシュバテソーロの他、JRAダートGⅠ両制覇を果たしたレモンポップ、BCクラシック2着のUAEダービー馬デルマソトガケ、帝王賞やチャンピオンズカップで連対を果たしたクラウンプライドなど、現役ダート最強格のメンツが集まった。
特に、前年の最優秀ダート馬の座を競いあったレモンポップとはこのサウジカップが初対戦であり、日本ダート二強の雌雄を決するという意味でも注目を集めることとなった。

また、世界一のダート大国アメリカからも一線級のメンバーが押し寄せた。
筆頭格は前年のBCクラシック覇者ホワイトアバリオ。ウシュバテソーロやデルマソトガケを置き去りにした驚異の先行力は高く評価され、日本馬に人気が集まりやすいJRAオッズですら単勝1番人気に推されることに。

その他にも、"絆の名馬"コディーズウィッシュと死闘を演じたペガサスWC勝ち馬ナショナルトレジャー、GⅠ戦線で善戦を重ねる追い込みの名手セニョールバスカドール、上3頭に先着歴があるGⅠ2勝馬ディファンデッドなど、強豪が多数集結。
まさに上半期ダートナンバーワン決定戦の様相を呈することとなった。やっぱオイルマネーってすごい

ゲートが開くと、激しい先行争いをする他馬を尻目にいつもの最後方ポツン状態。流石のウシュバでも世界の強豪相手に離されすぎた差にみえた。
しかし、これは相棒の実力を信じた川田騎手の英断だった。道中完璧なタイミングで促されたウシュバテソーロは、コーナーを曲がりつつ異次元の末脚を披露

先行馬が激しい争いで疲弊する中、ものすごい勢いで位置をあげていく。ゴール寸前で先頭のサウジクラウンをとらえきり、見事優勝……

の、はずだった

ウシュバテソーロと全く同じ追い込み戦法をとったセニョールバスカドールが、アタマ差差し切り執念の勝利。善戦続きだったキャリアを断ち、GⅠ初制覇を果たした。
なお、セニョールバスカドールは道中最後方近くにいながらずっとウシュバテソーロをマークしており、鞍上アルバラード騎手の判断が光った勝利だった。それにしても「あのウシュバが届かず負けるならまだしも、後ろから差されるなんて事があるのか」という、世界の広さを痛感するレースであった。

惜しくも二着となったウシュバテソーロだが、世界の強豪相手に十分すぎる見せ場を用意した他、BCクラシックで先着を許した相手には見事リベンジ達成。
ドバイWCを制したその実力が決してフロックではないことを示す結果となった。

月桂樹の怪物

サウジ遠征は惜しい二着に終わったものの、改めてその実力を世界に示したウシュバテソーロ。
満を持して、史上二頭目*11となるドバイワールドカップ連覇へ目標を定めた。

サウジでの敗退がこたえたのかは不明だが、幸運にもアメリカの強豪ホワイトアバリオナショナルトレジャードバイWCに登録せず帰国。3着のサウジクラウンも同日のゴドルフィンマイルに登録し、ドバイWCは回避。
サウジカップから一転、アメリカの馬が実績面で相対的にかなり手薄な状況となった。

一方日本馬はサウジで善戦したウシュバテソーロ、デルマソトガケの他、フェブラリーSから連戦してきたウィルソンテソーロドゥラエレーデというここでも豪華な布陣。
実績が大きく買われ、各ブックメーカーでも1,2人気を日本馬が占める状態となった。ここまで分かりやすいフラグもないかもしれない。

迎えた本番。ウシュバテソーロはいつも通り最後方に下げて末脚を溜める作戦にでる。コーナーで加速をはじめ、徐々にポジションをあげていったが、この時馬群の前方ではとんでもないことがおこっていた。

先頭で逃げていた中東の伏兵ローレルリバーが、何とコーナーを曲がりながら二番手の馬を軽くちぎりはじめたのだ!

しかもここでちぎった相手はGⅠ2勝馬ディファンデッド。紛れもない強豪である。
そんな馬を、あたかもスピードの絶対値が違うかのごとく突き放し続けるローレルリバー。結局直線に入る頃、二番手との差は10馬身以上にひらくこととなった

最後の直線になっても脚はほとんど衰えずぐんぐん進むローレルリバー。後方からウシュバテソーロやセニョールバスカドールといった末脚自慢が追いかけるも、時既に遅し

It is an absolute run!!(これこそが、絶対王者の一人旅!!)
※現地実況

結局、二着まで追い込む見事な走りを見せたウシュバテソーロに8馬身半差をつけ、ローレルリバーが圧勝。世界中の競馬ファンの度肝をぬく結果となった。レース後陣営が語ったように、追い込み馬2頭が有力馬であったことや、マイルで勝ってきたローレルリバーが逃げても誰も気に留めなかった事から後ろに重心が傾く逃げ有利の展開になったことはあるが、結局ローレルリバーに付いて行こうとした先行馬達は潰れてしまった事からも規格外の能力を見せた事は間違いなく、フライトラインを彷彿させるような常識外れのパフォーマンスである。

新たな怪物の誕生を目の当たりにしたものの、ウシュバテソーロは見事セニョールバスカドールにリベンジ成功
前年覇者としての貫禄は最低限保ち、ドバイ遠征は終幕した。

またさらに、サウジCとドバイWCという超高額賞金レースで連続二着に入ったことで、莫大な量の賞金を獲得
円安の影響も相まって合計賞金額が22億を突破。何とあのイクイノックスを超え、日本馬歴代一位に輝くこととなった。まさに黄金の一族、名前の通り「宝石の山」を築いたってわけである。
かつて条件戦で燻っていた馬がここまでくるなんて、誰が予想できたであろうか


7歳秋


新星の陰で

例年通りドバイから帰国後はそのまま夏を越し、秋のローテは去年同様日本テレビ盃→BCクラシック→東京大賞典に。
しかし秋初戦の日本テレビ盃はウィリアムバローズの2着。アメリカに向かってのBCクラシックでは末脚不発で10着と大敗。
その後は3連覇をかけて東京大賞典に出走。これ以降の鞍上は川田騎手がウィルソンテソーロを受け持つため菅原明良に。
また、当初は年内引退を発表していたが撤回し延長戦に突入。

2024東京大賞典→海外レース2回で引退と宣言された。

東京大賞典ではダート界の若手エースとして、ジャパンダートクラシック覇者にして海外でもその実力を示してきた国内無敗のフォーエバーヤング、東京ダービー覇者ラムジェットが挑戦状を叩きつけてきた。
だが大外枠に放り込まれた本番では追い込むもいっぱいいっぱいの4着、同馬主のウィルソンにも先着を喫した。
この結果を受け流石に衰えあるかと周りの声も広まっていた。

8歳冬


老兵は死なず、ただ消え去るのみ

そしてウシュバにとって最後の冬。2年連続のサウジC→ドバイWCというローテで決戦に挑む。
中東遠征には東京大賞典の上位4頭が挙って参戦。さらにサウジカップには世界歴代賞金王ロマンチックウォリアーが襲来という好メンバーが組まれた。
サウジカップ、今回も変わらず最後方一気の策。3コーナーからいつも通りの伸び足で前を行く馬を交わしていく。

…が、その大まくりの遥か前で壮絶なやり合いをしている馬が2頭いたフォーエバーヤングロマンチックウォリアーである。ウシュバはというと、ウィルソンまでは交わしたもののその前は10馬身もの差をつけられる三着
アメリカの最高峰で初めて邂逅した新時代の若き王が夜天に輝く一方で、ウシュバ自身8歳という高齢でありながらもかつての中東の覇者の意地は見せたロマンチックウォリアーは7歳?アイツはデビューからずっと全盛期みたいなもんだから...
なお、3着でも約3億円の賞金が加算され25億円オーバーで依然日本馬としては賞金額歴代1位をキープ。現地の馬や南米の馬をねじ伏せる地力は示す格好になった。


迎えたラストランのドバイワールドカップ。ここでも恒例の道中最後方でチャンスを待ち、直線外目から上って6着に入線。有終の美とはいかなかったものの、日本のウィルソンテソーロ、ラムジェットには先着し、最後まで意地を見せつけた。
通算獲得賞金額は25億6676万5780円。一介の芝馬としてくすぶっていたはずの彼は、運命の決断で数々の輝かしい勲章を手にし、愛さずにはいられない仕事人として砂の舞台を去ることになった。

来春からは種牡馬として繋養されることとなる。

【競走能力】

とにかくダート替わり後はほとんど上がり最速、勝ったレースでは次元が違うと言っていい末脚を武器にしており、前残り傾向が強いダートにおいて異色といっていいレースぶりをしている。ドバイワールドカップではレース後にはインタビュアーから末脚の怪物アロゲート*12に例えられている。
戦績も非常に安定しており、7歳春までは、BCクラシックを除く全戦で馬券入りする力強さも見せた。
これはドバイやサウジといった世界の一流馬が集まる舞台でも同様であり、全盛期は世界でも指折りのダートホースであった

さらに、曾祖父のサンデーサイレンスから始まり祖父のステイゴールド、父のオルフェーヴルと受け継がれてきた加速コーナリングをウシュバテソーロも受け継いでおり、川崎記念や日本テレビ盃で見せたように早めに動いての王者の競馬もこなせるなど、展開やコース、馬場を問わない強さを見せており、それがダート替わりからここまで殆ど崩れずにいる安定感を生んでいる。

また、砂かぶりを物ともせず平然と走る気合を持っているのも、前の馬の砂を受けやすい後方からの競馬を可能にしている大きな要因の一つと言える。
ホワイトアバリオやデルマソトガケ、セニョールバスカドールなど一度先着されたライバル馬達をその後レースでリベンジ果たすことが多いのも本馬の安定感とメンタル面の強さを物語っている。

【余談】

実は調教はとんでもなく走らないタイプで、東京大賞典直前の調教では一杯で追われてるのに馬なりの1勝クラス馬に普通に先着される有様。
次走の川崎記念直前の調教も2勝クラスの古馬相手に先着されるなどとにかく追い切りがあてにならない
川崎記念ではGⅠを獲ったことで紫のゼッケンをつけているから分かりやすかったが、東京大賞典の時は先着した馬をウシュバと勘違いする馬券師も少なくなかった。
それでいて本番ではあの走りっぷりなので、巷では「逆追い切り詐欺」*13とも呼ばれている。
更に川崎記念では調教に加えてパドックもGⅠ馬とは思えないやる気のなさと首の低さ*14、馬場入場後も他の馬が返し馬で紹介されている中カニ歩きしているという有様だった。
ドバイ遠征の際も、追い切り前に他の終わった馬について帰ろうとしたと川田騎手から証言され、現地から「怠惰な労働者」と呼ばれたほど。
BC前の国内最終追い切りに至っては調教師が同じBCクラシックに挑戦するデルマソトガケとの併せ馬でぶっちぎられた事を指して「ぶっちぎられたけどいつも通りの走りは出来てたからおk(意訳)」と言い放つ程
肝心のレースもその多くが後から見返してもその馬が勝ち馬とは信じられないような後方をダラダラと走る*15事が少なくない。ある意味最も低燃費かつ効率的で結果にコミットした馬…なのかもしれない。
そんな彼の様子に対して、一部からはステイゴールドの孫と思えばある意味納得という声もある。
また、もう1つの武器である抜群のコーナリングは、父や祖父そしてかの曾祖父の十八番でもあった。
この理由から戦績や勝ち方に反してあまりにも不名誉な異名が極めて多く、挙げた他にも「月曜日朝のサラリーマン」「世界最速ナマケモノ」「川田Jを本気で怒らせたやつ*16」「フタバアンズ号*17」など。

横浜ステークスでほぼ完ぺきな競馬をしつつも2着に敗れたペプチドナイルはその後OP入り直後に再びウシュバに敗れるもOP戦・リステッドで勝ち星を重ねGⅠ初挑戦で2024年フェブラリーSに出走、11番人気の低評価を覆し勝利している。
これによって2022年横浜ステークスは後のGⅠ馬が2頭出走した伝説の条件戦となった*18

ウシュバテソーロは所謂20年世代の馬であり、同期には無敗でクラシック三冠を達成したコントレイルがいる。この世代内では芝ではコントレイル一強という見立てがされており、引退レースのジャパンカップを制したコントレイルは11億9,529万円という賞金を稼ぎ、引退時は当然の様に世代における最高賞金額…だったのだが、その後にサウジカップを制したパンサラッサ、そして歴代賞金王となってしまったウシュバテソーロにぶち抜かれて何故か引退後に気付いたら世代3位の賞金額になるという珍事が起きた。恐るべきオイルマネー。
ちなみにコントレイルが引退した時点では、パンサラッサは同月に念願の重賞初勝利を挙げた程度。ウシュバに至っては同月にようやく2勝クラスを勝ち上がったそこら辺の芝馬だった。何が起こるか分からないものである。
ちなみにこの2頭、まだ名前がつく前の2018年に、北海道浦河町の谷川牧場で4ヶ月間、中間育成を一緒に受けていた仲だったりする。





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最終更新:2025年04月16日 00:26

*1 主戦の横山和生がフランスの空港ストライキの影響受けて帰国が遅れ急遽騎手が変更になるなど、万全な状態ではなかったことが大きい。それても前残りの展開から一人別物の末脚で前二頭に迫るなど、前走で見せた高い能力はここでも発揮されている。

*2 とはいえ当年のダートダービー馬ノットゥルノ、帝王賞馬にして翌年連覇も達成するメイショウハリオ、同父の牝馬にしてかしわ記念馬ショウナンナデシコ等強い馬も出走し、GⅠにふさわしい顔ぶれではあった。

*3 余談だがこのGⅠ勝利で父オルフェーヴル産駒の初年度から連続GⅠ制覇の記録を繋ぎ止め、6年連続とした。東京大賞典は国内の年内最後のGⅠレースであり、記録継続のラストチャンスだった。

*4 2010~2014年の5年間のみ、ダートではなく「オールウェザー」という人工馬場で開催されており、その際の2011年にヴィクトワールピサが日本馬として唯一の勝利を挙げていた。

*5 同日に日本でタイトルホルダーが復帰戦、翌日もアグリと高松宮記念で後者はかつて川田騎手が主戦を務めた馬でもあった。

*6 日本馬としてはヴィクトワールピサ以来12年ぶり2頭目だが当時はオールウェザー開催だったため、ダートレースとしてのドバイワールドカップは初の快挙。

*7 ウシュバテソーロ含めてドバイまでに国際GⅠで1勝、Jpn1で2勝、重賞も数勝挙げているが全てダートの地方交流重賞。

*8 同馬はダート転向後は和生騎手の父横山典弘騎手が主戦を務め、現在のGⅠやGⅠ級のレースで勝利し砂の女王と呼ばれた、しかし典弘騎手がドバイで強引なレースで落馬事故を起こすもホクトベガが騎手を放り出したため大事には至らなかった。だがホクトベガは予後不良となり検疫の関係で遺体は持ち帰れず鬣しか持ち帰ることが出来なかった。これがトラウマとなり典弘騎手は「馬の気分に合わせてレースを進め強引な騎乗はしない」というファンには「ノリポツン」などと言われる現在の騎乗スタイルを確立することにもなった。なお、奇しくも今回のレース開催日はホクトベガの誕生日であり、ウシュバテソーロがゴールする瞬間、日本語の実況が「ウシュバテソーロ!今、一等星の輝き!」と叫ぶが、この「一等星」とはホクトベガの名前の由来でもあり、二つ名であった。

*9 以前から凱旋門賞の特殊な重馬場事情から、芝馬よりダート馬の方が戦えるのではという説があった為、芝でもある程度走れ、ダートでは世界クラスのウシュバテソーロの凱旋門賞挑戦を歓迎する者も多くいた一方で、流石にダート馬なのだからBCクラシックに挑戦して欲しいという声も強く、軽い論争になっていた。どちらにしても勝てば日本競馬初の快挙であり、日本競馬史に永遠に残り続ける偉業になる程の大レースである。

*10 日本やドバイよりやや小型な上にゲートの位置が綺麗に飛節に当たる位置になってしまって嫌がる、パッド等で保護しようにも「当たる事そのもの」を嫌がっている為パッドの厚み分より当たりやすくなってしまい逆効果と言う有様。ただしより嫌がったのでパッドを外した所「まだマシだから」と渋々入ってくれた模様。

*11 2018,19年にイギリスのサンダースノーが初の連覇達成。同馬は他にもBCクラシック3着などの実績がある強豪馬で、今は何と日本で種牡馬生活を送っている。

*12 主な勝鞍にトラヴァーズS、BCクラシック、ドバイWC。2017年ドバイワールドカップにおいて、スタート直後先頭から15馬身余り出遅れたにもかかわらず、異次元すぎる末脚を発揮し余裕の圧勝を決めた稀代の優駿。2016年ワールドベストレースホース(134ポンド)。

*13 「追い切りでの調子が良かったのに本番では全く走らない馬」を俗に「追い切り詐欺」というが、ウシュバテソーロは「追い切りでは調子が悪いのに本番では好走する」という全く逆のタイプであることから。無論こういう馬も普通にいるもので、最強の戦士ことシンザンもこのタイプ。

*14 通称「この世の終わりのようなパドック」。ただし厩舎関係者の証言ではアレは「暴走するギリッギリで堪えてる姿」との事でウシュバなりのファイティングポーズとの事。

*15 特にダートレースは前が止まりにくい、というより後ろから前を差し切るだけの推進力を得にくい事もあり、原則前を行けば行く程有利になりやすいとされる。裏を返せばそれだけの推進力を持てさえすれば後方待機は戦略として成立するが、彼の豪脚はまさにそれを可能にするほどのものなのである。

*16 川田はJRA所属騎手でも屈指の温厚・人格者として著名で、「川田が誰かに見られる場で怒っているのを誰も見たことが無い。和田(竜二)ですらその川田に激怒したらしいのに」と言われるほど。なおウシュバの調教放棄に怒ったのは本人も言及しており、「サボっちゃダメだよ」と言ってしまったとの事。

*17 アイドルマスターシリーズのキャラクター。天才児だがサボり・休みの多さについてはそれまでこの枠に座っていた星井美希をも上回ることから。

*18 なおウシュバは初GⅠ・初重賞挑戦で東京大賞典を勝利したが、ペプチドナイルはフェブラリーSの前走でGⅡ東海Sに出走・敗北しているため初重賞は含まれない。