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カランダガン(競走馬)

登録日:2025/12/02 Tue 17:02:10
更新日:2026/07/06 Mon 20:00:14
所要時間:約 27 分で読めます





The King George winner Calandagan

wins in Ascot QIPCO Champion Stakes!
2025年第148回チャンピオンステークス 実況:sky sports


日本と、そして世界の頂点が、並んでのゴール板!!!
2025年第45回ジャパンカップ 実況:立本信吾アナ(フジテレビ)


カランダガン(Calandagan)とは、2021年生まれのアイルランド生産・フランス調教の競走馬。鹿毛のセン馬
4歳にして洋の東西で最強の称号をつかみとった正真正銘の世界最強馬である。



概要


4代血統表
Gleneagles 
2012 鹿毛
Galileo
1998 鹿毛
Sadler's Wells 
1981 鹿毛
Northern Danser
1961 鹿毛
Fairy Bridge
1975 鹿毛
Urban Sea 
1989 栗毛
Miswaki
1978 栗毛
Allegretta
1978 鹿毛
You'resothrilling
2005 黒鹿毛
Storm Cat
1983 黒鹿毛
Storm Bird
1978 鹿毛
Terlingua
1976 栗毛
Mariah's Storm
1991 鹿毛
Rahy
1985 栗毛
イメンス
1979 黒鹿毛
Calayana 
2014 鹿毛
FNo.16-b
Sinndar
1997 鹿毛
Grand Lodge
1991 栗毛
Chief's Crown
1982 鹿毛
La Papagena
1983 黒鹿毛
Sinntara
1989 鹿毛
Lashkari
1981 鹿毛
Sidama
1982 鹿毛
Clariyn
2009 鹿毛
Acclamation
1999 鹿毛
Royal Applause
1993 鹿毛
Princess Athena
1985 鹿毛
Clodovina
2004 鹿毛
ロックオブジブラルタル
1999 鹿毛
Clodora
1994 鹿毛

クロス:ノーザンダンサー 4×5(9.38%)


Gleneagles(グレンイーグルス)Calayana(カラヤナ)、母の父Sinndar(シンダー)という血統。
父は英愛2000ギニーを含めG1・4勝を挙げたガリレオ産駒のマイラー。種牡馬入り後は毎年1頭はG1馬を出すかというところで、クールモアの種牡馬としては「悪くはないが地味な部類」である。
ただし7~8ハロンの実績馬ながら産駒はマイラーからステイヤーまで幅広く、新潟2歳ステークスを勝ったショックアクションを輩出するなど、日本との関わりもないではない

母は本馬の馬主であり生産者でもあるアガ・カーン4世殿下が育ててきた牝系を受け継ぐ繫殖牝馬。3代母Clodovinaはもともとはフランス競馬界の大物だったジャン=リュック・ラガルデール氏の所有していた牝馬で、同氏の死去に伴って売りに出たところをアガ・カーン4世が引き取ったもの。その母Clodoraは仏G2オペラ賞を制した実績を持つという、これまたあまり派手ではない牝系である。

母の父はあのモンジューを破って凱旋門賞を制した快速の英愛ダービー馬。
種牡馬実績はあまりふるわず直系も絶えてしまった馬だが、このようにアガ・カーン4世の牝系の中に名を留めている*1


本馬の生産者兼馬主は、先述の通りアガ・カーン4世殿下(のち、殿下の競馬事業体であるアガ・カーン・スタッズSCEA)。
イスラム教イスマーイール派の分派ニザール派の第49代イマーム(宗教指導者)として数々の慈善事業を支援する傍ら、オーナーブリーダーとしてもこれまでに数々の名馬を生産・所有した。その面々はブラッシンググルームシャーガーダルシャーンシャーラスタニダラカニ*2ザルカヴァと錚々たるもので、競馬の歴史に与えた影響も多大なものがある。
海外のレースでよく見かける赤いエポレット(肩章)の勝負服はこのアガ・カーン4世のものである。
現JRAトップジョッキークリストフ・ルメール騎手もかつては専属騎手を務めており、後述するアガ・カーン殿下死去の折には「彼の専属騎手として、あの緑と赤の勝負服を着ることは極めて稀な名誉でした」とコメントしている。


本馬の管理をアガ・カーン殿下から託されたのは、まだ当時フランス競馬界の中堅どころであったフランシス=アンリ・グラファール調教師
元々は弁護士志望だったそうだが、祖父が競馬関係者であった縁からフランスの名門厩舎でもあるアラン・ド・ロワイエ=デュプレ厩舎の厩務員として働いていた。この厩舎がアガ・カーン殿下の競走馬の主力預託先でもあったことと、ロワイエ=デュプレ師の引退に伴いグラファール師が独立することもあって、グラファール厩舎が殿下の目に留まり新たな預託先となったようである。


こんな背景で生まれ育てられた同馬は、母方の馬名にちなんでCのイニシャルとAの母音をもらってCalandagan(カランダガン)と名付けられた。
馬名の由来はフィリピン領の小島の一つであるカランダガン島からとされる。が、アガ・カーン4世殿下の馬名は由来不明なものが多いので気にしたら負け…かもしれない。



競走生活


2歳時


そんなカランダガンだったが、調教助手のロベル氏曰く2歳時は「よく鞍上を振り落としていた」と語るほど、気性難という重大なウィークポイントを抱えていた。
そんな不安要素を抱えながらも2023年の8月、フランスのドーヴィル競馬場の未出走戦(芝1600m)でデビュー。後に主戦となるフランスの若手ミカエル・バルザローナ騎手が鞍上を務めた。しかし案の定気性難が災いしたか、勝ち馬のメトロポリタンから3馬身遅れての3着となった
このメトロポリタンは翌年の仏G1プール・デッセ・デ・プーラン*3を勝つことになる馬で、それを考慮すれば恥ずかしい結果ではなかった。とはいえ気性の問題は無視できず、陣営はこのレース後に去勢手術を敢行
カランダガンはセン馬になった


手術後の休養を終えると、10月末にシャンティイ競馬場の未勝利戦(オールウェザー1900m)に出走。ここからはフランスのベテランジョッキーであるステファン・パスキエ騎手がしばらく相棒となった。
肝心のレースは1番人気に推された通り力を発揮し、逃げ切りで10馬身差をつける快勝で見事勝ち上がり
2歳シーズンはこの2戦で終えることとなった。


3歳時


さて、フランス競馬の主要レースは「種牡馬検定レース」としての向きが強く、クラシックや凱旋門賞をはじめとした大レースの多くにセン馬は参戦できない
カランダガンも2歳時にセン馬となったことでフランス国内で参戦可能なレースは限られてしまったため、比較的セン馬への門戸が開いているイギリスを意識したローテを取ることになった。


このシーズンは2024年3月、サンクルー競馬場のリステッド競走フランソワマテ賞(芝2100m)から始動。
ここで1番人気の支持を受けたものの、2番人気のブライトピクチャーに3/4馬身差およばず2着敗戦。
しかし翌4月にロンシャン競馬場で行われたG3ノアイユ賞(芝2100m)に参戦すると、今度は最後方から直線でごぼう抜きする競馬を披露。
粗削りな競馬ながらブライトピクチャーに借りを返す1と3/4馬身差で快勝し、重賞初制覇を遂げた

5月末には同じくロンシャン競馬場のG3ロカール賞(2200m)に出走。
この年の過去2戦でも対戦しているトラファルガースクエアと3度目の対決となったが、不良馬場をものともせずに最後方から差し切って重賞連勝を果たした


そして6月、満を持してイギリスのロイヤルアスコット開催に向かい、G2キングエドワードⅦ世ステークス(芝12F)に参戦した。
イギリスでのパフォーマンスを見極める試金石の意味があったと思われるが、蓋を開けてみればカランダガンの独壇場であった。
後方2番手のポジションをキープし続けると、直線入り口から大外に持ち出してスパートに火がつき、終わってみれば2着に6馬身差をつける圧勝
海をまたいでの重賞3連勝と絶好調は明らかだった。



次走は8月、夏の欧州中距離戦線の大一番であるヨーク競馬場のG1インターナショナルステークス(芝10F)になった。
G1の大舞台なだけあって対戦相手もこれまで以上に強化され、

  • この年の英ダービー馬でデューハーストステークス、エクリプスステークスとG1・3勝を挙げているクールモアのエースシティオブトロイ
  • 前々走のプリティーポリーステークスでG1初制覇を飾り、前走キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークスも2着してきた後の凱旋門賞ブルーストッキング
  • 前走G1クイーンアンステークス2着馬で翌年来日することになるドックランズ
  • G1は好走続きで前走エクリプスステークスでは3着とシティオブトロイに迫ったゴーストライター
  • 日本から勇躍遠征してきた我らが菊花賞馬ドゥレッツァ

とイギリス内外の強豪が集結。
とくに「クールモアにとってのフランケル」とまで呼ばれたシティオブトロイが圧倒的1番人気に推され、続いて差のある2番人気にブルーストッキング、次いで前走の圧勝からカランダガンが3番人気となった。

さてレースが始まると、シティオブトロイが自陣営のペースメーカーであるハンスアンデルセンを無視して逃げの手を打つ意外な展開となった。
カランダガンは中団待機で様子をうかがいつつ脚をため、直線に入ると依然先頭を走るシティオブトロイを追って大外から差し切りを図った。
…が、レコードタイムで駆け抜けるシティオブトロイの圧倒的な逃げには今一歩及ばず、1馬身差の2着に敗戦となった。それでも3着ゴーストライター以下は3馬身以上突き放しており、初のG1挑戦として大健闘といえる結果ではあった。



その後やや間隔をあけて、10月のイギリス競馬の大一番であるアスコット競馬場のG1チャンピオンステークス(芝10F)に出走した。
ここでは前走シティオブトロイに食らいついた実績もあってカランダガンが1番人気の支持を受け、迎え撃つのは

  • 前走愛G1アイリッシュチャンピオンSでオーギュストロダンを破って勝利したエコノミクス
  • クリテリウムドサンクルー、アイリッシュダービーとG1・2勝を挙げ、前走凱旋門賞も3着してきた実力馬ロスアンゼルス
  • 仏G1ロワイヤルオーク賞を勝ち、ジャパンカップへの参戦経験もある実力派のセン馬イレジン
  • パカパカファーム生まれのハーツクライ産駒で英セントレジャー馬のコンティニュアス
  • 仏G1イスパーン賞を勝っており前走5着以外は3着以内を外していない不気味なセン馬アンマート

という顔ぶれとなった。
レースではグラファール師の指示もあって中団のポジションをとり、そこから内をつく競馬となった。しかしインコースを狙ったのが災いして最終直線まで窮屈な競馬となってしまい、それでも残り1ハロンで何とか抜け出した。
勝った!…かに思われたが、その一瞬の隙を後方から追い上げてきたアンマートに突かれ、1/2馬身差の2着に惜敗。G1初制覇はお預けとなった。
グラファール師も後に当時を振り返って「自分と自分がパスキエに与えた指示に腹が立った」と語るほどで、相当悔いの残るレースだったようである。



2024年シーズンはこのレースで終えて休養に入った。確かな成長の手応えと今後の課題の両方を痛感する1年だった。



4歳時



このシーズンは、2025年2月4日に生産者にして馬主のアガ・カーン4世殿下が逝去するという、大きな訃報から始まった。
これに伴い、馬主の名義は殿下の競馬事業体であるアガ・カーン・スタッズSCEA*4に変更。なお同団体は4世の娘であるザーラ王女が総帥として継承することになった。


そんな中カランダガンは4月に一路中東ドバイへと飛び、メイダン競馬場のG1ドバイシーマクラシック(芝2410m)へと参戦。
ここからデビュー戦以来のミカエル・バルザローナ騎手とのコンビが復活した。これは昨年末にバルザローナ騎手がそれまで結んでいたゴドルフィンとの専属騎乗契約を解除し、代わってアガ・カーン・スタッズと専属騎乗契約を結んだことによるものである。
さてレースにはドバイミーティングの花形なだけあって日本からも有力馬が参戦しており、

  • BCターフ2勝、香G1チャンピオンズ&チャターカップ、独G1ベルリン大賞、オイロパ賞など世界中を駆け回ってG1・7勝の強豪セン馬レベルスロマンス
  • 今年の始動戦としてアメリカンジョッキークラブカップも制している前年の日本ダービー馬ダノンデサイル
  • 前年のオークス・秋華賞を制した二冠牝馬チェルヴィニア
  • 前走サウジアラビアでG2ネオムターフカップを快勝してきたシンエンペラー
  • 前年の香G1香港ヴァーズ覇者ジアヴェロット
  • 昨年のインターナショナルS以来の対戦となるドゥレッツァ

といった充実の面々が集結した。
レースではこの馬の持ち味である後方一気を活かすべく後方待機を選択。その位置取りのまま最終直線まで運ぶが、前残り傾向の強いメイダン、前半1000m約64秒というスローペース*5ではこの戦法のデメリットは大きかった。
さらに最終直線に入る追い出しのタイミングではダノンデサイルとチェルヴィニアに蓋をされる形となってしまい、末脚点火の遅れが致命的に。
粘るレベルスロマンスとドゥレッツァを捉え切ったものの、スムーズに運んだダノンデサイルには1と1/4馬身差及ばずまたしても2着惜敗となった

…のだが、実はこのレースでは上がり3ハロンで32.28秒4ハロンでは44.17秒という出走馬として最速の凄まじい末脚を叩き出していた
これが後々の大きな布石となる。




帰国後間隔をあけ、6月に再び渡英。イギリスの春の中長距離戦線の一角であるエプソムダウンズ競馬場のG1コロネーションカップ(芝12F)に出走した。
このレースでは、

  • デビューから怒涛の4連勝で英セントレジャーを制したクールモアの刺客ヤンブリューゲル
  • 前走ドバイSCから続いての対決となるジアヴェロット
  • 同じく前年のチャンピオンSに続く対戦となるコンティニュアス
  • 前年の愛G1アイリッシュオークス馬で英G1ヨークシャーオークスでも2着しているユーガットトゥミー

らが相手となった。流石にここまでの活躍からカランダガンが再度1番人気に推される構図となった。
レースが始まるとコンティニュアスが馬群を引っ張り、同厩舎のヤンブリューゲルがそれを見る3、4番手につけ、カランダガンは後方2番手に控える形になった。
最終直線を向くと外目からヤンブリューゲルがスパートをかけ、それを追ってカランダガンも末脚に火がつき、残り1ハロンでは完全な2頭のマッチレースとなった。
ここでいったんカランダガンが差し切ったのだが、ヤンブリューゲルが決死の粘りで差し返すと最後まで先頭を譲らず、長い叩き合いを制して勝利。カランダガンはまたも1/2馬身差という僅差でG1の壁に阻まれた



このままでは善戦マンが板につきかねないところだったが、結果的にはここまでの経験の賜物か、カランダガンは大きく進化することになる。
イギリスからフランスへ戻ると、あまり間を置かずに6月末のサンクルー競馬場のG1サンクルー大賞(芝2400m)に参戦した。
ここは5頭という少頭数のレースとはなったがメンバーは充実しており、

  • 前年の仏G1ヴェルメイユ賞と凱旋門賞の2着馬で、この年も開幕2戦を連勝し好調のアヴァンチュール
  • カランダガンと同厩舎で前年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS勝ち馬、かつジャパンカップでも日本を何かと沸かせたゴリアット
  • 独G1バイエルン大賞・香G1香港ヴァーズとG1・2勝を挙げているジュンコ
  • 前年のチャンピオンS以来の対戦となるイレジン

と、カランダガンとアヴァンチュール以外は皆G1馬という豪華な構図になった。
なお牝馬のアヴァンチュール以外はカランダガン含め全てセン馬であり、フランス競馬の中でセン馬も出走可能な数少ないレースであるサンクルー大賞の特徴がよく表れたレースでもあったといえよう。
レースはジュンコがハナを取り、ゴリアットが2番手、アヴァンチュールが3番手、カランダガンが4番手、イレジンが5番手という隊列で道中を推移。
最終直線に向くとカランダガンの豪脚が炸裂し、上がり4ハロンで11.9-11.6-10.7-11.2という驚異的な上がりを計時。並んで上がろうとするアヴァンチュールを一気に交わし去って3馬身半差をつける快勝でG1初制覇を飾った



続いては7月末に再び渡英し、英国中長距離の大レースであるアスコット競馬場のG1キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークス(芝12F)に挑戦となった。
この年のキングジョージは新興勢力である3歳勢の参戦はなく、すでに対戦経験のあるメンバーが中心となり、

  • 前々走コロネーションカップで苦杯を舐めさせられたヤンブリューゲル
  • ドバイSCで対戦後にG2を2連勝して臨んできた前年3着馬のレベルスロマンス
  • 前年の英G1チャンピオンズフィリー&メアズステークス勝ち馬でこれまで3着以内を外したことが無いディープインパクトの孫カルパナ

などが相手となった。
レースはヤンブリューゲルのペースメーカー役と思われたコンティニュアスが引っ張る…ことにはならず、むしろヤンブリューゲルが先頭に立ちコンティニュアスが2番手、レベルスロマンスが3番手、カルパナが4番手でカランダガンは最後方という隊列で進行。
最終直線に向くと隊列が横に開き、外を回ったカルパナとカランダガンが脚色よく抜け出した。
先手を取ったのはカルパナだったが、バルザローナ騎手はこれをよく見極め自らは余裕をもってスパートを開始。
ここでも上がり3ハロンで11.5-11.1-11.7という豪脚を発揮し、残り半ハロンでカルパナを差し切って1馬身差で優勝。ヤンブリューゲルにもきっちり借りを返した。




この後はインターナショナルSに向かい昨年のリベンジというプランもあったが、もう一つ別の動きがあった。
実は前走のサンクルー大賞勝利時にJRA国際部が陣営にコンタクトをとっており、ジャパンカップへの参戦をオファーしていたのである。その後の交渉の甲斐もあって、ザーラ王女とグラファール師にとっても日本の看板G1であるジャパンカップがこの年の最終目標として計画に上がったという。

そしてこのキングジョージ勝利をもってジャパンカップへの挑戦を目指すことがほぼ確定したため、そこから逆算したローテが組まれることになった。
またここまでほぼ月に1回のペースで使ってきたこともあり、インターナショナルSは同厩舎・同馬主の3歳馬ダリズに譲って回避し休養。
10月の英G1チャンピオンSを経てジャパンカップに挑むプランが発表された。

ちなみにこの間ただ休んでいたわけではなく、上述のダリズの併せ馬の相手を凱旋門賞の1週間前に務めるなど、後輩の面倒もちゃんと見ていたようである。




休養を経て余力十分となったカランダガンは、予定通りにアスコット競馬場のG1チャンピオンステークス(芝10F)に参戦。
昨年のリベンジを期すカランダガンだったが、対する出走馬も例年以上に豪華なメンバーとなり、

  • この年の英G1プリンスオブウェールズステークスとインターナショナルSを圧勝し、ロンジンワールドベストレースホースランキング1位の評価を受けている10Fのチャンピオンオンブズマン
  • そのオンブズマンを英G1エクリプスステークスで撃破し、前走愛G1アイリッシュチャンピオンSも快勝したクールモアの精鋭ドラクロワ
  • 昨年のこのレース以来の対戦となるエコノミクス
  • 10~12Fの距離の重賞で好走を繰り返している実績馬のアルマカム

らが相手となった。特にこの10Fの距離を主戦場としているオンブズマンとドラクロワが手ごわい相手であり、オンブズマンが1番人気、カランダガンが2番人気、ドラクロワが3番人気という三強の構図となった。
レースは序盤からドラクロワのペースメーカーであるマウントキリマンジャロと、オンブズマンのペースメーカーであるデビルズアドボケイトが引っ張る展開となり、オンブズマン、ドラクロワ、そしてカランダガンが隊列の最後方に固まる形に。ペースメーカー2頭の競り合いでレース自体も流れたペースを刻んだ。
最終直線に向くと馬群が横並びになり、この流れの中でドラクロワがコースを失ってまず脱落。残り2ハロンでカランダガンとそれを追ってオンブズマンが飛び出すが、やはりカランダガンの末脚が桁違いだった。
残り1.5ハロンあたりで先頭を奪うと、追いすがるオンブズマンを寄せ付けないどころか逆に引き離し、最終的に2と1/4馬身差で完勝を果たした

アガ・カーン・スタッズにとってチャンピオンS勝利は2000年のカラニシ以来25年ぶり、グラファール師とバルザローナ騎手にとっては初制覇、そして同一年のキングジョージとチャンピオンSの連勝はあのブリガディアジェラード以来というメモリアルな勝利となった。
勝ち時計の2分3秒19は現在のコースに変わって以来史上2番目の好タイムで、何よりオンブズマンとドラクロワの二強をまとめて撃破したインパクトは大きく、このレース後に発表されたロンジンワールドベストレースホースランキングでも世界1位となる130ポンドのレーティングを記録
さらにこの勝利が決め手となって、11月に発表されたカルティエ賞では欧州年度代表馬最優秀古馬のダブル受賞にも輝き、文句なしの欧州チャンピオンに君臨した




2025年第45回ジャパンカップ


そしてかねてからの宣言通り、陣営はJRAからの招待を受諾。東京競馬場の国際招待競走たるG1ジャパンカップ(芝2400m)に参戦した。
参戦への決め手については、指定競走のキングジョージとチャンピオンSを勝利しておりジャパンカップの追加褒賞金制度の対象であることなどが陣営から挙げられた。
グラファール師としても2015年・2016年にイラプト*6、2024年にはゴリアットでジャパンカップに参戦しており、今度こそはリベンジとの思いもあったようだ。
またサンクルー大賞の時点からJRA国際部も粘り強く接触を続けており、飼料の事前輸入許可や国際厩舎の設備など様々なアピールポイントを売り込み続けたことも大きかった。

なお本馬以外では、この年の独G1バーデン大賞を制した前年参戦馬ゴリアット、当年の愛G1タタソールズゴールドカップを制しているロスアンゼルス、仏G1カドラン賞・ロワイヤルオーク賞で2着・3着のステイヤークィーンズタウンも招待を受諾していたが、JRAの発表と同時に辞退を表明しており、海外馬の参戦はカランダガン1頭のみとなった。


カランダガンは11月20日夜、昨年も来日経験のある帯同馬ルノマドと一緒に東京競馬場へ到着。
ロベル調教助手の談ではフランスにいる間に十分に仕上げたとのことで、輸送前後でも馬体重の変化はなく、食欲も旺盛で問題なしと、輸送に成功したとの認識を示した。
その後はゲート試験前後を軽いダグやキャンターなどで慣らし、11月27日には陣営曰く「70~75%ぐらいの力で」芝コースで追い切りを実施。素軽い動きで6ハロンを81.8-66.4-53.4-40.4-12.2という時計でまとめた。
グラファール師も出国前から「私たちにはジャパンカップを勝てる馬がいる」と一定の自信を語っていたが、この追い切り後には「輸送もうまくいき、馬体重も維持することができた。けさの動きを見ても大変満足しているが、これ以上の満足はできないほど期待している」と太鼓判を押した。
それと同時にパドックや輪乗り含めレースまでの待ち時間が長い日本特有の環境を指摘するなど、馬のストレスの原因把握と緩和にも余念が無かったようである


さて、このように陣営の思惑通りの調整過程をとってきたカランダガンだが、世界最強の評価を与えられた欧州年度代表馬ながらJRAでの人気は締め切り時点で単勝6.2倍の4番人気というそれまでのキャリアで最も高いオッズとなった。
それは何よりこのジャパンカップという舞台の特徴にあり、

  • 海外馬の勝利は2005年のアルカセット以来なし
  • 馬券内も2006年のウィジャボード(3着)以来なしの(0-0-0-62)という海外馬の戦績
  • 日本の整備された馬場は欧州での主流である自然地形を生かした洋芝と全く異なること*7
  • 日本馬が単純に強くなり、2000年以前のような海外馬の草刈り場ではなくなったこと
  • 2分20秒台前半での決着が常態化するなど馬場も高速化しており、2分20秒台後半からのタイムで決着することが多い欧州12F路線の馬には走破タイムが早すぎると考えられたこと*8
  • ↑の中でもジャパンカップ当日の東京芝は歴史的ともいえる超高速馬場であり、レコードかそれに準ずるタイムが出ることがある程度推定されていたこと

といった海外馬の不利を示すデータがあまりにも多かったからである。実際カランダガンもいかに欧州最強馬といえ環境が違いすぎるという理由から即決で消しと判断する者も多かった。
しかしカランダガンそのものに着目して紐解いてみると、

  • アルカセットと同じく同一年にサンクルー大賞を勝利
  • 同じくウィジャボード以来となる欧州年度代表馬の参戦、またレーティング130ポンドの海外馬の参戦は2000年以降では初めて
  • 日本と近い馬場といわれるドバイSCにおいて、上がり3ハロンを32.28秒で追い上げた豪脚と高速馬場適性
  • スピード色が強まる欧州10F戦線でもメイチ仕上げの強豪を好タイムで蹴散らしていること
  • 競馬を題材とした日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』の当週回のタイトルが「相続馬限定馬主」であり、カランダガンは見事それに合致していたこと

などの理由から、カランダガンの好走を予想する意見も一定数存在した。
何より日本競馬界のトップジョッキーであるクリストフ・ルメール騎手もカランダガンについて「速い馬場が好きで色んなペースに慣れている」と述べて警戒しており、関係者はしっかりその強さを見抜いていたようである。



とはいえそれだけの好材料をもってしても地の利ある日本の強豪が多数参戦してきており、世界最強馬を迎え撃つのに恥じないメンバーが揃うことになった。

  • この年の日本ダービーを2着に好走し、前走G1天皇賞(秋)を完勝した気鋭の3歳馬マスカレードボール
  • そのマスカレードボールを日本ダービーで下し、仏G3プランスドランジュ賞で後の凱旋門賞馬ダリズも破っているこの年のダービー馬クロワデュノール
  • この年のドバイSCで対戦し苦い敗北を味わった前年ダービー馬ダノンデサイル
  • この年も香G1クイーンエリザベスⅡ世カップを制している前々年のダービー馬タスティエーラ
  • 2年前のG1天皇賞(春)勝ち馬で、その後G1戦線で惜しい走りが続くも衰えを見せていない6歳馬ジャスティンパレス
  • 同じく2年前のG1エリザベス女王杯勝ち馬ブレイディヴェーグ
  • ダノンデサイル同様ドバイSC以来の対戦となるシンエンペラー

と、ダービー馬3頭を含め文字通り日本を代表する優駿が集結した*9

レース前のインタビューでは先述の通りグラファール師がパドックの長さや大きな歓声、電光掲示板の存在といったストレス要因を心配していたが、カランダガンは当日はパドックからそのような素振りも見せず、精神面でも3歳時からの遠征の積み重ねが活きていることをアピール*10
なお来日時点から言われていたことでもあったが、馬体重はメンバー中最軽量の456kgであった


そんな中ついに始まったレースは、アドマイヤテラの川田将雅騎手がスタートと同時に落馬するという予想だにしない展開からの幕開けとなった
カランダガンは欧州のスローペースゆえ出脚がどうかという懸念もあったが、今回は鞍上のバルザローナ騎手がなだめにかかるほどの好発進を決めることができ、スムーズに流れに乗った。
そしてそのまま普段通り後方馬群に位置取りつつ、ルメール騎手騎乗のマスカレードボールの後ろという絶好ポジションの確保に成功する

レースは序盤からセイウンハーデス1000m57.6秒という超ハイペースの逃げを打ち、そこからやや離れてクロワデュノール、シンエンペラーら先行馬群が作られ、カランダガンはじめ有力馬は軒並み後方に位置する形となった。
空馬になったアドマイヤテラが終始レースに参加し続けるという難しい状況になったが、4コーナーから最終直線への動き出しでアドマイヤテラがインコースへ切れていったこともあってカランダガンに不利は及ばなかった。
逆にやや後手に回ったマスカレードボールの隙をついて見事なコーナリングでその進路を消すと、直線入り口から抜群の手応えで前進。
だがマスカレードボールも負けじと進路を切り開くと豪脚でもって応戦。残り2ハロンからはカランダガンとマスカレードボールの2頭だけが抜け出し、火を噴くような激しい叩き合いにもつれこんだ


マスカレードボールか!カランダガンか!マスカレードボールか!カランダガンか!
どっちだ!どっちだーーーーーっ!!!
2025年第45回ジャパンカップ 実況:立本信吾アナ(フジテレビ)


いったんはカランダガンが前に出たもののマスカレードボールが意地の末脚で差し返し先頭を奪回、しかし残り50mかというところでカランダガンがもう一伸びでアタマ差差し切ってゴール
その傍らで空馬になったアドマイヤテラが最後の叩き合いにも参加し、2頭よりやや先にゴールするという奇妙な絵面を演出してしまったがご愛嬌である。*11
観衆がデッドヒートの興奮と20年ぶりの海外馬のジャパンカップ勝利に驚く中、ゴール板近くに置かれていたロンジンの電光掲示板がさらに人々の度肝をぬいた
そこに表示されていたレースの勝ち時計は、


2:20.3


アーモンドアイが刻んだ2分20秒6、更新不能と思われていたそのレコードタイムをさらにコンマ3秒縮める衝撃的なおまけ付きであった。もちろん芝2400mの世界レコードでもある。
カランダガンの勝利を予想していた人々もほとんどは「それなりに時計がかかるレースになった方が勝算がある」という見立てだったため、逆にレコードタイムを叩き出して勝利するというのは文字通り想像の斜め上を行く驚愕のパフォーマンスだった。
レース全体を見ても、

12.3-10.8-11.4-11.5-11.6-11.6-12.0-12.2-12.3-11.8-11.5-11.3

という11秒台のラップが連発されるハイペース戦で、その中でも終盤4ハロンを加速ラップで駆け抜けたカランダガンとマスカレードボールの強さが際立つ結果となった*12



もちろんこの勝利はレコードタイム以外も記録づくめであり、

  • 海外馬のジャパンカップ勝利は2005年アルカセット以来20年ぶり
  • フランス調教馬のジャパンカップ勝利は1987年ルグロリュー以来38年ぶり
  • セン馬のジャパンカップ勝利は1994年マーベラスクラウン以来31年ぶり
  • キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS勝ち馬の同年ジャパンカップ制覇は史上初
  • ジャパンカップに参戦した海外馬としては3ハロン33.2秒の上がりは最速
  • カランダガンは自身の芝2400mの持ちタイムを7秒近く縮めての勝利*13
  • バルザローナ騎手、グラファール師、アガ・カーン・スタッズいずれにとっても初めての日本G1制覇
  • グラファール師にとっては2015年イラプトから数えて10年目、アガ・カーン・スタッズにとっては1997年アスタラバドから数えて28年目でのジャパンカップ初制覇
  • バルザローナ騎手はキングジョージ・凱旋門賞・ジャパンカップを同一年に勝利した39年ぶり史上2人目の騎手*14

と枚挙に暇がない歴史的勝利となった。

この勝利は日本だけでなく世界にも衝撃を与えた。
母国フランスのジュールドギャロ紙はカランダガンのジャパンカップ制覇を「シーバード*15モンジュー*16ダリア*17アルマンゾール*18アルカング*19に匹敵するフランス馬の歴史的勝利」と、過去の名だたる名馬たちと並べて称賛。
他にもIFHA(国際競馬統括機関連盟)や、フランスの競馬統括機関フランスギャロ、カランダガンがG1を2勝したイギリスのアスコット競馬場、父グレンイーグルスを繋養するアイルランドのクールモアスタッドといった競馬界のビッグネームが即座に反応し、その勝利を惜しみなく祝福した。

またこの勝利によって陣営は1着賞金5億円にくわえ、指定競走を勝利していることによる追加褒賞金300万ドルも獲得。
円換算にして9億6800万円という、ドバイワールドカップを勝つのとほぼ同等の賞金をも一挙にゲットした。これによりフランス調教馬として史上最も賞金を稼いだ馬となった。
翌2026年からは海外馬への褒賞金が500万ドルに増額されると決まっていたこともあり、カランダガン陣営の招致に全力を挙げていたJRA国際部の働きが報われたことは言うまでもない。

もっとも、心無い競馬ファンからは「 セン馬の作った記録など繁殖に関係ないので価値を認めない 」という偏見を受け、中には「 去勢なんてインチキ 」という感情論以外の何でもない罵倒を行う者まで現れた。


一応ジャパンカップ後の12月14日に開催予定の香G1香港カップ(芝2000m)にも登録していたが、グラファール師自身がジャパンカップ戦前から「おそらく参戦しない」と語っており、やむをえない事情でジャパンカップを回避しなければならなくなった場合の保険だった様子*20
実際ジャパンカップ勝利後、すぐさま登録を取り消している。

カランダガンはこれで今シーズンを終えて以降は休養に入るとのことで、グラファール師は「翌年はおそらくドバイからで、その後はフランス国外の国際競走をメインにすることになるだろう」とドバイSCのリベンジから始まるプランを語っている。
アガ・カーン・スタッズ総帥のザーラ王女も「来年もジャパンカップ参戦は視野に入る」と述べており、順調であれば連覇を狙っての再来日の可能性も示唆された。



そして2026年1月に発表されたロンジンワールドベストレースホースランキングで、本馬はレーティング130ポンド*21を獲得。2025年のワールドベストレースホースの座に輝き、名実ともに2025年における世界一のサラブレッドとなった。
さらにカランダガンが制したチャンピオンステークスとジャパンカップがレースレーティング同率1位で2025年のベストレースに選出
まさに世界一の馬が、洋の東西で世界一のレースを勝ったことになった

さらに1月6日には、これらの活躍を評価されて2025年のJRA賞において特別賞を受賞
海外馬としてJRA賞を受賞するのは史上初の快挙で、ここでもまた歴史に名を刻むこととなった*22



5歳時



年末に陣営から言及されていた通り、前年に引き続き首G1ドバイシーマクラシックをシーズン初戦として始動。
当初は、前年に鎬を削ったダノンデサイルマスカレードボール、前年のドバイSCとキングジョージで二度対決している古豪レベルスロマンスらをはじめとする、シーズン前半の始動戦としてはあまりにも豪華なメンバーが想定されていた。

しかしドバイSCまであと1か月となった2月末になって、アメリカとイスラエルがイランへの空爆を開始。ホルムズ海峡を挟んでイランの対岸に位置するドバイも空港にミサイルが着弾するなど一気に緊張が高まり、一時は競馬の開催すら危ぶまれる情勢となった。
こうした国際情勢の影響もあってダノンデサイルおよびマスカレードボールはドバイ遠征を早期に断念し、その他欧州からの参戦馬も回避が相次いだ。
またレベルスロマンスも一度は招待を受諾したものの、さすがに8歳という年齢を考慮しやはり回避*23
この結果、今年のドバイSCはレース創設以来最少となる6頭立てでの開催となり、当初想定されたメンバーと比べるといささか寂しい顔ぶれとなってしまった。

一方のカランダガン陣営はあくまで当初の予定を変更することなく調整を続け、3月22日に無事ドバイ入り。
また回避が相次いだとはいえ、地元馬3頭にくわえて

  • 障害競走で活躍していたものの昨年に平地競走へ舵を切り、驚きの豪脚で米G1ブリーダーズカップ・ターフ覇者に輝いた二刀流エシカルダイアモンド
  • 前年の同レース含めすでに二度対決している2024年の香港ヴァーズ覇者ジアヴェロット

と、この情勢下でもG1にふさわしい強豪が参戦した。

レースのスタートが切られると、人気薄の地元馬ウエストウィンドブローズがハナを切って逃げる展開となり、カランダガンは後方の5番手を追走。その後方からエシカルダイアモンドのマークを受ける形となった。
レースは前日の降雨によって馬場が渋っていたこともあって昨年と同じかそれ以上のスローペースになり、いったんはウエストウィンドブローズが逃げ残るかとも思われた。
しかしカランダガンは4コーナーから直線にかかるところで外に持ち出すと、残り400mから末脚が炸裂。案の定の前残り展開にも関わらずただ1頭後方からウエストウィンドブローズを一飲みに1馬身差差し切って勝利
ラスト100mできっちり先頭を捉えるとその後は手前を替える余裕さえ見せ、着差以上の快勝でG1・5連勝とした

かくして仏・英・日に続きUAEで4か国目のG1勝利を挙げ、昨年のリベンジも果たして上々のスタートを切ったカランダガン。
レース後のインタビューではグラファール師も「今日は戦術的なレースで少し心配もありましたが、直線でリズムを掴んだ時は圧巻でした」と述べ、安堵も見せつつ世界最高の競走馬と称えた。



続いて6月は、前年のリベンジを期してエプソムダウンズ競馬場のG1コロネーションカップ(芝12F)に出走。
ダービーデーを飾る古馬G1なだけあって6頭立てながら強力なメンバーが集った。

  • 前年の独G1バイエルン大賞勝ち馬で前走愛G1タタソールズゴールドカップでも2着に好走した重馬場の鬼ベイシティローラー
  • 長期休養から復活したばかりながら連覇を狙う前年覇者ヤンブリューゲル
  • 昨年の英愛ダービー馬ランボーン

とはいえカランダガンの能力の高さは疑いようもなく、戦前から圧倒的な1番人気に支持されていた。

…のだが、今年のエプソムダウンズ競馬場はしばらく前から天候不順に見舞われており、降り続く雨により馬場状態が悪化。
陣営から一時は「雨がこのまま降り続くなら回避する」とのコメントも出ていたものの、チャンピオンである以上出ない訳にはいかないというグラファール師の考えと、キングジョージに向けたローテでここは使っておきたいということもあって最終的には出走することとなった。

しかしいざ当日発走が近づくと急激に天候が悪化し、豪雨どころか強風まで吹き付けもはや嵐の様相に
午前中にグラファール師とバルザローナ騎手が馬場を確認した際はまだ許容範囲内だったようだが、極端に悪化した超重馬場での開催となってしまった
そして凄まじい雨風の中始まったレースはオブライエン厩舎のペースメーカーであるイリノイが全く逃げられず、ランボーンがハナを切りそれをベイシティローラーが2番手で窺う形で先頭を形成。カランダガンとヤンブリューゲルが後方を追走する形となった。
しかし走破に2分40秒を要する極悪馬場が牙を剥き、陣営が恐れていた通りのサバイバルレースと化してしまう。カランダガンは終始足をとられたような走りを強いられ最終直線では全く余力を失っており、当然末脚も不発。
唯一この馬場をものともしなかったベイシティローラーが圧勝をおさめる中、その40馬身以上後方で4位入線という大敗に終わった
G1連勝も5でストップし、デビュー以来初めて3着以内を外すという暗澹たるレースとなってしまった。

グラファール師はレース後のインタビューで「酷い馬場で酷い天気だ*24カランダガンは全くスムーズに走れず、自分の決断に腹が立っている。あんなに激しく息を切らしたところは見たことがない。彼を今日走らせるべきではなかった*25」と述べ参戦を悔やんだ。



心配になるような大敗だったものの、陣営によれば帰厩して以降はカランダガンは絶好調だったとのことで、翌7月は昨年G1初勝利を挙げた舞台であるサンクルー競馬場のG1サンクルー大賞(芝2400m)に予定通り出走となった。
連覇をうかがうカランダガンに対して揃ったメンバーは昨年以上のものとなり、

  • 1年ぶりの対戦となる昨年の仏G1ヴェルメイユ賞馬アヴァンチュール
  • コロネーションカップからロイヤルアスコット開催の英G2ハードウィックSを挟み3連闘で参戦してきた昨年の英愛ダービー馬ランボーン
  • 昨年の仏G1パリ大賞馬で、前走はカランダガンの後輩ダリズの2着に敗れているルファール
  • 昨年の仏G2ニエル賞勝ち馬で、ジョッケクルブ賞2着など大舞台での好走も多い実力馬クアリフィカー
  • 昨年のデビュー以来G3で2勝、G2で2着2回と好走を続け初のG1挑戦となるカランダガンの同厩馬サンリー

と、G1馬3頭を含む8頭立てと好メンバーが揃った。レース当日は欧州全域に広がった折からの猛暑の影響*26もあってカラカラの良馬場ということもあり、カランダガンが1倍台の圧倒的1番人気に支持された。

レースが始まると戦前の予想通りランボーンが逃げを打ち、その背後をサンリー、クアリフィカーが追走。
さらに中団あたりにアヴァンチュールらが陣取る隊列が形成され、カランダガンは最後方からじっくり進めるいつも通りの態勢となった。
レース中盤からアヴァンチュールが動いて内ラチ沿いをスルスルと前進し先団につけたが、それ以外はフランスらしく大した動きもなく、隊列を維持したまま最終直線へ突入。
直線から馬群が横一列になると、内ラチで最短距離をついたアヴァンチュールが先頭に立ち、その外からサンリーとクアリフィカーが追い詰める展開となった。
一方カランダガンは大外を回って残り500mから末脚に火がつき、残り200mであっさり先頭を奪取。
対して並ばれたサンリーとクアリフィカーも勝負根性を見せ、3頭併せ馬のような形で抜け出していったが、上がり3ハロンで32.6秒の豪脚を振るったカランダガンがクアリフィカーをクビ差下して勝利
G1・6勝目を挙げると同時に、2002年・2003年のアンジュガブリエル以来23年ぶりとなる史上6頭目のサンクルー大賞連覇を果たした

ちなみにこの勝利はザルカヴァブラッシンググルームのG1・5勝を超え、アガ・カーン・スタッズの競走馬として最多G1勝利となる記念すべき勝利でもあった。
着差こそ少なかったが、位置取りを考えれば本来なら届かないはずのところから一気に差し切ってきた形で、見事に復活を果たしたことにはグラファール師も安堵の色をあらわにした。



今後は予定通り上半期の大一番キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークスに向かう予定。
前年のジャパンカップで鎬を削ったマスカレードボールも同レースに参戦を表明しており、昨年以来となる両雄の対決に注目が集まる



余談


栄光の2025年

アガ・カーン4世殿下の死去と、ザーラ王女への競馬事業の継承という大きな動揺から始まったアガ・カーン・スタッズの2025年だったが、振り返ってみればアガ・カーン4世の祖父で競馬事業を手掛け始めたアガ・カーン3世までさかのぼっても未だかつてなかったような栄光の1年にもなった。

この年アガ・カーン・スタッズはカランダガン以外も所有馬が軒並み活躍
まずは期待の3歳牝馬ザリガナが仏G1プール・デッセ・デ・プーリッシュ*27を勝ち、シバヤンも独G1オイロパ賞を制覇。カンデラリも仏G1ヴィコンテッスヴィジエ賞を勝利した。
さらにダリズが仏G1凱旋門賞を勝ってアガ・カーン家*28として8勝目の凱旋門賞勝利を捧げ、そこにもってカランダガンの大活躍も合わせ年間なんとG1・8勝
亡きアガ・カーン4世殿下にこれ以上はない手向けを贈る1年となった


さらにグラファール調教師としても、上述のアガ・カーン・スタッズからの預託馬にくわえてゲゾラで仏G1ディアヌ賞*29・米G1ブリーダーズカップフィリー&メアズターフも勝利。
ゴリアットの独G1バーデン大賞での復活もあり、カランダガンのジャパンカップ制覇で厩舎としてこの年のG1・14勝目を挙げた
これはフランスの名伯楽アンドレ・ファーブル調教師の年間G1最多勝利記録である13勝を抜き、フランスの調教師としては史上最多である。さらにフランスのリーディングでも2位のそのファーブル調教師に倍近い差をつけ、自身初のリーディングトレーナー受賞を果たした

主戦のバルザローナ騎手も2025年には初の凱旋門賞制覇を含む164勝を挙げ、フランスリーディングでも3位となり絶好調のトリオ。
2026年もカランダガンの動向と合わせてますます目が離せない組み合わせとなるだろう。



セン馬の2025年?

見事20年ぶりの海外馬によるジャパンカップ優勝という快挙を果たしたカランダガンであるが、2025年は彼に負けずとも劣らないような怪物セン馬の活躍が目立った一年でもあった。

まず挙げられるのが歴代世界賞金王ロマンチックウォリアーであろう。前年無敗のGI4連勝を決めた彼は、初ダート参戦となるサウジカップでフォーエバーヤングにクビ差せまるレコードタイムで駆け抜けるというバケモノっぷりを見せつけた。
その後ドバイターフのほぼ同着を挟んで復帰した香G2ジョッキークラブカップにて最強の後輩ヴォイッジバブルを悠々破った後、GⅠ香港カップ4連覇という史上初の快挙を達成。
衰え知らずのチャンピオンとして、次元を超えた脚力を今なお誇示し続けている。

同じく香港の怪物カーインライジングも筆頭格である。絶対値が違うと称されるそのスピードを武器に香港競馬の十八番というべき短距離で活躍を続け、G1・6勝を含む16連勝というとんでもない成績を今なお更新中である。
現役どころか歴代世界最強スプリンターとの呼び声も高い彼の今後にも目が離せない。

他に本項で登場したアンマートはちょうど2025年に引退となったものの、英G1ゴールドカップとチャンピオンズロングディスタンスカップを勝ちカルティエ賞最優秀ステイヤーを受賞した欧州長距離王トローラーマン、そして先述のゴリアットレベルスロマンスらが息の長い活躍を続けており、まさに世界各地でセン馬が凱歌を上げる1年となった



追記・修正は初見で東京競馬場の2400mコースを攻略してからお願いします。

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最終更新:2026年07月06日 20:00

*1 ふるわずと言ってもG1馬は輩出しており、そのうちの1頭が英G1ヨークシャーオークス・仏G1ヴェルメイユ賞を制したシャレータ。シャレータは2011年にジャパンカップにも参戦し7着している。

*2 ダラカニの半兄であるデイラミもアガ・カーン4世の生産馬だが、こちらはキャリア途中でゴドルフィンに売却している。

*3 仏2000ギニー。

*4 SCEAはフランス語で「農業経営民事会社」を意味する。

*5 ドバイSCは2410mと半端な距離で施行されるため正確な数値は不明。あくまでレベルスロマンスのラップから推定した値。

*6 仏G1パリ大賞を制しており、グラファール師にとっては初めて育てたG1馬でもある。

*7 凱旋門賞で日本馬の惨敗が続くことの裏返し理論でもあった。

*8 事実2019年にアーモンドアイが2:20:6という超レコードを刻んだ翌年など、海外馬の参戦がゼロになるという有様だった。

*9 ドゥレッツァも出走馬に名を連ねておりカランダガンとは3度目の対決となるはず…だったがドゥレッツァは急遽疾病により出走取消となり、実現しなかった。

*10 むしろ当日はグラファール師自身がプレッシャーとの戦いに追われていたようで、地下馬道を通る際は「死刑囚のような表情」だったと形容している。

*11 またゴール直後マスカレードボールがアドマイヤテラを交わそうとしたダノンデサイルと接触し、2頭同時に落馬が発生。そのせいかカランダガンのウイニングランのバックでは、騎手負傷発生のため走行する救急車が映り込んでいた。

*12 もちろん、先行馬がアドマイヤテラの影響で力を出し切れなかったことは考慮しておきたいが。

*13 実際の持ちタイムはサンクルー大賞の2:28.28だが、10m長いドバイSCを2:27.2で走り切っているため、このように表記。

*14 他の達成者は1986年にダンシングブレーヴとジュピターアイランドに騎乗したパット・エデリーのみ。

*15 1965年の英ダービーを完勝、他にも凱旋門賞での圧勝で歴史に名を残したフランス史上最高の名馬の一頭。

*16 1999年の凱旋門賞でエルコンドルパサーを撃破し、2000年のキングジョージを持ったまま完勝するという鮮烈な走りを見せつけた名馬。

*17 1973年のキングジョージをレース史上最大着差となる6馬身差で圧勝するなど国内外でG1・10勝を挙げ史上最強牝馬の候補にも挙がる名牝。

*18 凱旋門賞馬ファウンドら強豪を相手に、2016年の英愛チャンピオンSを連勝するという偉業を達成したフランスダービー馬。

*19 ブービー人気ながら1993年のBCクラシックを制し欧州調教馬として初のBCクラシック制覇を達成する大波乱を引き起こした名馬。

*20 仮にこちらに参戦した場合、後述のロマンチックウォリアーとの最強セン馬対決が実現したかもしれなかった。

*21 ジャパンカップでのパフォーマンスは129ポンドと評価されたため、インターミディエートとロングの2つの距離区分で世界1位となった形でもある。

*22 JRAに所属していない競走馬としても、2004年に特別敢闘賞を受賞した「道営のエース」コスモバルクに続いて史上2頭目である。

*23 戦前よりこれからは年齢を考慮して慎重にレース選択をする旨が報じられていた。

*24 実際2位ヤンブリューゲルと3位ランボーンでさえベイシティローラーに10馬身以上ちぎり捨てられており、重馬場適性や外ラチが伸びるトラックバイアスが災いした格好になった。ちなみにこの後のメインレースである英ダービーも、悪化した馬場とトラックバイアスで人気馬が全滅する荒れ模様となっている。

*25 ちなみに父グレンイーグルスも重馬場を苦手とする馬だった。カランダガンも重馬場での勝ち星自体はあるが、その意味では今回は父の影響が出たとも考えられる。

*26 この暑さの影響か、カランダガンもレース前には発汗が見られており、グラファール師もこれを若干不安視していた。

*27 仏1000ギニー。

*28 アガ・カーン3世が3勝、そして4世が存命中に4勝を挙げていた。

*29 仏オークス。