黒の追憶
草原に男の悲鳴が響く。倒れた男の横に立つのはおぞましい鎌を手に持つ少女だった。
メルザの身に降りかかった
苦難と絶望
苦難と絶望
それらは少女一人で
受け止めるにはあまりに重く
受け止めるにはあまりに重く
痛みを伴う物だった
そして、その痛みは
彼女の在り様をも歪め
彼女の在り様をも歪め
ひとりの騎士を死神へと
変貌させるに至った
変貌させるに至った
【???】
ぎゃあぁぁー!
ぎゃあぁぁー!
【メルザ】
私は…
何をしているのだろう
私は…
何をしているのだろう
破神の手先
人間の裏切者
人間の裏切者
みんなの笑顔の為に
頑張っていたハズなのに
頑張っていたハズなのに
あなたたちは騎士だろうと
死神だろうと変わらないんだね
死神だろうと変わらないんだね
心なき戦い
相手が誰であれ、縄張りを犯す者を攻撃する魔獣たち、たとえそれが死神でも…
刈り取るモノ
命の火を次々に消し去っていく死神。それが何であろうと彼女の心は動かない。
足りなかったもの
魔獣を退けた彼女は昔を懐かしむ。しかし、その顔は暗く沈んでいた。
【メルザ】
こうやって
神なんかとは関係なく
こうやって
神なんかとは関係なく
あなたたちと戦っていると
昔と変わらないような
気がしてくるわね…
気がしてくるわね…
でも
今の私はこっち側
理由なんか関係ない
みんなの希望を
刈り取っている
刈り取っている
何でこんな事に
なったのだろう…
なったのだろう…
決まっている
チカラが
足りなかったからだ
足りなかったからだ
周囲の人たちを
みんなを
みんなを
守るチカラが
私には無かった…
私には無かった…
誰にも届かない言葉
自分の無力さに膝をつく彼女。自身を責める少女の言葉は、雨音にかき消される。
雨に濡れる顔
雨の中うなだれる少女。その悲痛な顔は叫び出さないのが不思議なほどのものだった。
白
過去の自分はなぜあんなことを… 自問自答を繰り返す彼女に声が聞こえてくる。
【メルザ】
何で神に挑もうなんて
思ったのだろう
何で神に挑もうなんて
思ったのだろう
何で勝てると
思ったのだろう
思ったのだろう
身の程を知った
今の私にできる事は
今の私にできる事は
みんなの為に
みんなの笑顔を奪うこと
みんなの笑顔を奪うこと
【???】
本当に?
本当に?
【メルザ?】
みんなの為なら
今からでも もう一度
みんなの為なら
今からでも もう一度
破神に挑むべき
じゃないの?
じゃないの?
【メルザ】
あれは、あの絶望を知らない
まだ白い私だ
あれは、あの絶望を知らない
まだ白い私だ
真っ白な
希望を持っていた私
希望を持っていた私
【メルザ?】
ふたりを奪われて
黙っているの?
ふたりを奪われて
黙っているの?
【メルザ】
聞きたくない
聞きたくない
【メルザ?】
みんなの笑顔を奪われて
黙っているの?
みんなの笑顔を奪われて
黙っているの?
【メルザ】
うるさい…
うるさい…
【メルザ?】
あなたは本当に私?
あなたは本当に私?
【メルザ】
黙って!!
黙って!!
なっ!
自分の陰
過去の自分。その姿を現すメルザ。しかし、その周囲には魔獣の姿しかなかった。
その目の先
仲間を倒されたことに激昂する魔獣たちしかし、彼女の目にその姿は映らない。
希望を摘む者
魔獣を倒し、白い自分に意識を向ける。そこに、またもや声が聞こえてくる。
【メルザ】
はぁ…はぁ…
はぁ…はぁ…
あの白い私は…
【メルザ?】
あの私は
何もわかっていない
あの私は
何もわかっていない
【メルザ】
また…!
また…!
【メルザ?】
自分に何が起こるか
自分に何が起こるか
どれだけ無謀な事を
望んでいるのか
望んでいるのか
あなたは何も間違っていない
だってしょうがないもの
神に挑むなんて
最初から無謀だったのよ
最初から無謀だったのよ
私はあなたの味方
同じ絶望を知っている
同じ絶望を知っている
みんな守るなんて無理よね
みんなの幸せなんて知らない
破神の言う通りに
していればいい
していればいい
だって、私が
一番かわいいんだもん
一番かわいいんだもん
どうしたの?
何か気に障った?
何か気に障った?
【メルザ】
私は、みんなの為に…
私は、みんなの為に…
【メルザ?】
違うでしょ? 私の為に
みんなを不幸にするのよね?
違うでしょ? 私の為に
みんなを不幸にするのよね?
【メルザ】
違うっ!
違うっ!
みんなの為に、希望を摘むの!
希望以上の絶望が
みんなを襲わないように!
みんなを襲わないように!
自身の決意を
再び確認するように
再び確認するように
自分の陰を切り伏せるメルザ
彼女はこれからも人々の希望
破神への反逆の芽を摘み続ける
破神への反逆の芽を摘み続ける
もうこれ以上、自分と同じ
悲劇を生まないために
悲劇を生まないために