プルガサリ(もしくは
ブラ=サガリブルガサリ)とは朝鮮に伝わる伝説上の怪物だが、
本項目では北朝鮮で制作された映画『プルガサリ 伝説の大怪獣』に登場する
怪獣について解説する。
なお、プルガサリとは朝鮮語で「殺す事が出来ない」を意味し、漢字表記では「不可殺」。
その不死性にちなんで、再生能力に優れたヒトデもこの名で呼ばれる。
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伝説上のプルガサリについて |
孤独な人が手慰みに米で作った可愛い人形が 鉄を食べて大きくなり、手に負えなくなる。
作ったのは老夫婦や未亡人、或いはその家に泊まった高麗末期の僧で後に政治家になった辛旽とされることが多い。
姿は伝承によって一定しておらず、芋虫だったり牛と犬を混ぜ合わせたような怪物だったりと様々。
最後には何処かへと去って行くか、辛旽が造った伝承の場合は火に弱いという弱点を教えられていたために退治される。
火で退治されるバージョンでは「火可殺(火で殺せる)」と書いてプルガサリと読む。
高麗が滅びる直前に松都に出現したと言われ、韓国には嫌な予感を表す「松都末年のプルガサリ」という諺があるという。
それまで手に負えなかったのに李朝になると何処かへ去った名状しがたさから「不可説」というバージョンもある。
仏教経典『旧雑譬喩経』の説話集に登場する「禍」が元と言われ、後の時代には同じく鉄を食べる 獏*1に外見が近付いていった。
基本的に災厄を招く存在だが、日本占領期の1921年に著された小説『不可殺爾傳』では、
高麗軍の武器が食べ尽くされたために李氏朝鮮の建国が成ったという設定になっており
(検閲する日本人があまり詳しくない伝説を神聖化して民族の誇りを掻き立てる意図があったとも言われている)、
映画『プルガサリ 伝説の大怪獣』の展開もこれに準じている。
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おまけ・類似の怪物について |
水木しげる氏による1988年の漫画『 最新版悪魔くん』には「不吉虫」という巨大な芋虫が登場する。
本来は仏典『三慧経』に登場する虫で、
「人に噛みつき最初は指で潰せる程度だが、潰す度に大きくなるので蓋をするのが良い」という反撃を戒める教訓話なのだが、
この作品では鉄を食べて無限に成長し、家庭用フライパンや自動車、
さらには電車や線路、建物の鉄骨までも食べて社会を混乱させるというプルガサリに似た特徴を備えている。
同氏による1981年の書籍『世界の妖怪100話』でも朝鮮半島に出現した鉄を食べる妖虫と紹介されているので、どこかで混同されたものと思われる。
鉄の体は非常に丈夫でメフィスト2世の攻撃やガソリンの炎も通さなかったが、鉄を錆びさせる塩水には弱く、海水を浴びせられて絶命した。
『神道集』の「芥の虫」など、日本にもプルガサリと同じく『旧雑譬喩経』の「禍」をルーツとすると思われる鉄を食べる妖怪は存在し、
退治されて死骸となっても鉄を求め磁石となったという由来話となっている。
狂言『磁石』で「刀を食う磁石の精」を名乗って難を逃れる現代人から見ると滅茶苦茶シュールなクライマックスは、
このイメージが元にあるとも言われている。
佐渡の昔話『唐のカンニュウ卿』では興味本位で禍を招いたという教訓部分が抜け落ちて不条理ホラーとなっている。
プルガサリとは逆に『旧雑譬喩経』の「禍」が鉄を食べない形で登場するものとしては、
- 『鶴の恩返し』の古い形『別本鶴の草紙』にて、主人公が難題をこなせねば女房を奪おうとした地頭が「わざはひ」を見せよと迫るが、
女房が親に頼んで連れてきた「禍」に地頭の邸宅が破壊される。
- 江戸時代の『椿説弓張月』では琉球王の下で禍福吉凶を占う僧(実は蛟の化身)が、
「禍の形を見たい」と王を誘導して出現させ、王と夫人を殺害して王位を簒奪する。 さらに追放されていた王と先妻との間の王女も追い詰めるが、祖神の石碑の下敷きとなる。
というものがある。
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元々は
農民の農具を取り上げ武器を作らせようとする役人に抗議して捕らえられた鍛冶屋タクセが、
獄死するまでに獄中で無念の思いを込めながら米を練って作った小さな怪獣「プルガサリ」の像に過ぎなかったが、
タクセの娘のアミが裁縫中に指先を傷つけた際、その血を受けた事をきっかけに生命が宿って動き出した。
鉄を食する習性があり、鉄を食べるごとに徐々に大型化していく。
……どこかで聞いたことがあると思うだろうが、つまりは
朝鮮半島版大魔神である。
鉄を食す性質故にかその肉体も鋼鉄と化しており、高麗王朝末期当時の兵器類ではまるで刃が立たない。
戦争のために民衆を搾取する王朝支配を打倒する民衆革命という面が強調されている。
が、その後ソ連が崩壊して後ろ盾を失った北朝鮮はむしろ民衆を飢えさせても軍事を優先する道を歩むことになる
…尤も、そうして王朝打倒を成し遂げたものの、その後もプルガサリは飢えて鉄を求め、食らえば食らうだけ更に強く大きくなっていく。
果たして王朝もそれを利用した民衆も誰も制御出来なくなっていくこの怪物の行く末は……。
本作は映画好きで知られていた「北の将軍様」こと金正日総書記が自らプロデュースし、
1985年に完成して世界公開を目指したが、「政治的な理由」で公開が中止された。
これは本作の監督である申相玉氏が1978年に香港に滞在していた所を北朝鮮に拉致されてきた被害者で、
本作の制作終了後ほどなくしてオーストリアのウィーンに行く機会があり、
そこでアメリカ大使館に駆け込んで脱北を果たしたのも要因という意見もあるが真偽は不明。
ちなみに申氏は脱北後、アメリカで本作の舞台を中世ドニンゴールドの王子ダビンと簒奪者エル・エルに置き換えたリメイク作『ガルガメス』を撮影している。
制作に際しては日本から中野昭慶氏やスーツアクターの薩摩剣八郎氏など、
『
ゴジラ』シリーズを手がけた東宝特撮チームが招かれ、特殊技術を担当したことでも知られ、
招聘された日本スタッフ曰く「予算が使い放題だった」他、朝鮮人民軍を動員した大規模なエキストラによる迫力ある演出も相まって、
完成度は同時期の特撮映画の中では高いという意見が多い。
当初は後ろ暗い経緯があったためか知名度は高いとは言えず、日本国内でビデオ化されていたものの「知る人ぞ知る作品」的な扱いだった。
しかし日朝間の外交問題が表面化してきた1998年、様々な面から北朝鮮への注目が集まる中で本作にもスポットライトが当たり、
日本にて世界初の劇場公開がなされた(ちょうど同年公開だったためか、予告編や日本公開時のポスターのロゴは
コイツをパロっていたりする)。
現在は廉価版のDVDも安価で出回っているため、
現在日本で最も気軽に見られる北朝鮮映画でもあったりする。
また、撮影の様子は薩摩氏の著書『ゴジラが見た北朝鮮』等で語られており、民間人が北朝鮮の内情を記した貴重な体験談としても知られている。
なお、1962年に韓国でもプルガサリを題材とした怪獣映画が製作・公開されており、
ストーリーも本作に類似しているらしいが、フィルムが失われているため元ネタかどうかは検証できない。
全くの余談だが、アメリカの映画『トレマーズ』の韓国での題名も『プルガサリ』らしい。
また、スタジオヴァルキリーが運営する
頭よりデカい乳に定評があるR-17.9スマホゲーム『ラストオリジン』には、
「T-60 ブルガサリ」というキャラクターが登場するが、この名も前述の伝説が由来となっている。
一方、邦題が『不可殺』という死ねない人間を題材とした韓流ドラマがあるが、こちらの原題は表記が異なる『プルガサル(不可殺伊)』らしい。
MUGENにおけるプルガサリ
カーベィ氏の製作したキャラが公開中。
gesura505氏から提供された
スプライトを用いて製作されており、動きは「OPTPiX SpriteStudio」で作られている。
「とびかかり」や「のしかかり」などの近接技や「火球」「獅子砲」などの
飛び道具で戦う。
超必殺技はいずれも1
ゲージ消費で、「民衆の怒り」「突撃」「不可殺の怪獣」の3つ。
中でも不可殺の怪獣は一定時間
アーマー・投げ無効・防御力上昇が付くという自己強化技で、正に名前通りのタフネスぶりを発揮する。
AIもデフォルトで搭載されている他、7P以降は常に不可殺の怪獣状態になる。
出場大会
*1
獏が夢を食べるのは日本独自の特徴で、大陸では鉄を食べるとされている。
前漢の辞典『爾雅』の獏の語に晋の時代に入れられた注釈で「熊に似て白黒模様で銅・鉄・竹を食べる」とされているなど
パンダが竹を食べる生態が元だったようだが、竹で矢を作る文化から矢を鉄で作る文化圏に語り継がれる過程で変化した上に、配色の似たバクと混同された模様。
最終更新:2024年07月28日 20:21