もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

登録日:2011/02/15(火) 09:35:39
更新日:2025/02/09 Sun 14:56:45
所要時間:約 9 分で読めます





──真摯さとは何か






著作
岩崎夏海

イラスト
ゆきうさぎ

出版社
ダイヤモンド社

AKB48のプロデューサー、秋元康の弟子である岩崎夏海が執筆したドラッカー入門小説。

タイトルがあまりにも長い為略して

もしドラ
を使うことが多い。


あらすじ



「わたし、野球部を甲子園に連れて行きます!!」

進学校の都立程久保高校二年生の川島みなみは、夏休み前という中途半端な時期に野球部のマネージャーとなった。
程高野球部は弱くもなく、強くもないチームであり、甲子園を狙えるレベルではなかった。

そんな野球部だが、みなみはある理由から「野球部を甲子園に連れていこう」と決心する。

そこでみなみは自分のポジションである『マネージャー』の役割を熟知する為に辞書を引き、次いで本屋へと足を運ぶ。
みなみは店員からドラッカーの『マネジメント〔エッセンシャル版〕』を勧められ、読んでみた。

読んで早速後悔するも、読み進めていくうちに

組織の経営=野球部の経営
を知ることに繋がると気付く。
以後、みなみは『マネジメント』を片手に野球部という『組織』の『顧客』の定義付け、選手へのマーケティング、社会への貢献、
更には高校野球へのイノベーションに至るまでマネジメントを行っていく。


概要


2010年のあらゆる部門で一位となったベストセラー小説。発行部数は2013年時点で255万部(電子書籍版が15万部)。
Amazonの2000年11月1日から15年10月31日までのビジネス・経済部門で通算販売数トップに輝いた。

弱小の高校が甲子園を目指していくという典型的な題材に経営学の理論という変化球を入れた小説。
用いられたのは経営学のバイブル、ドラッカーの『マネジメント〔エッセンシャル版〕』。

野球部のマネジメントに行き詰まった主人公がこの書籍を振り返り、成功へと導いていくというのが主な流れである。

その際、『マネジメント』は
  「人は最大の資産である」(七九頁)
のように文章の一節としてそのまま引用されている。

本屋ではビジネス実用書の棚に置いてあるが、中身はライトノベルに近い(実際のところジャンル区分が難しい)。

恐らくゆきうさぎ氏のイラストを見てジャケ買いしてしまった人も多いのではないだろうか。

本書は様々なメディア展開がされている。

まず、昨年12月に『スーパージャンプ』にて『もしドラ SUPER INTERVIEW』として、椿あすの作画で漫画化した。

次いで今年の3/14-25にNHKにて、全10話でアニメ化が決定した。
……が、東北地方太平洋沖地震の影響で4/25に延期された。

制作は『戦国BASARA』等で有名なProduction I.Gが担当。
監督は『テニスの王子様』の浜名孝行。
……主人公が釣り目になってるところが気になる。

みなみ(後述)の作画が非常にもりマン過ぎるとして某掲示板で色々と話題をよんだ。それでいいのかNHK。
他にもいくつか反響はあったが、特にテニスコートの様な球場で野球をやっていた場面は分かりやすく反響があった。こちらは流石に良くは無いだろう。

更には6/4に実写映画が上映される。


登場人物


川島みなみ
声:日笠陽子/演:前田敦子
高校二年生の主人公。
髪型はポニーテール
ドラッカーの『マネジメント』を武器に程高野球部のマネージャーとして、甲子園出場を目指している。
過去の一件から野球を嫌悪しており、次郎との間には若干の確執がある*1。普段着はセーラー服で性格はまじめ。
アニメ版では、おにぎりにカスタードクリームを入れるほどに料理の腕が壊滅的。

モデルとなった人物はAKB48の峯岸みなみらしいが、映画では前田敦子が担当する。
当の峯岸は文乃を担当とのこと。

宮田夕紀
声:花澤香菜/演:川口春奈
みなみの幼なじみであり、同期のマネージャーだが現在入院中。
小学生の頃、みなみのサヨナラヒットに感動したことがきっかけで、野球を好きになった。
「マーケティング」を担当する。

北条文乃
声:仲谷明香/演:峯岸みなみ
「え、あ、はい」が口癖の高校一年生マネージャー。
学年トップの秀才だが、とある扱いをされることを嫌う。
加地の通訳となる。

柏木次郎
声:陶山章央/演:池松壮亮
みなみの幼なじみ
程高の5番キャッチャー。
ムードメーカー的存在であり、
野球に対する姿勢は真面目だが、かなりの鈍感で何も考えずに発言する機会が多い。

浅野慶一郎
声:柿原徹也/演:瀬戸康史
程高のエース。
キレ味ある速球が武器。
とある一件で加地との間に確執が生まれた為、
練習になかなか参加しないが試合には必ず出てくる。

星出純
声:細谷佳正/演:入江甚儀
野球部主将。
自分の実力を試す為に野球部へと入団した。
実力者だが、キャプテンの仕事が重荷となっている。

二階正義
声:浅沼晋太郎/演:鈴木裕樹
野球部補欠。
経営者を目指しており、経営者のスキルを磨くことと就職に役立つと考え入団した。
……ここまで考える奴は普通はいない。
最終的に大出世する。

加地誠
声:津田健次郎/演:大泉洋
程高野球部監督。
部のOBで東大卒のエリート。
知識・戦術共に長けているが、わかりにくい為選手には伝わらない。
過去の一件により、選手を恐れている。

朽木文明
声:赤澤涼太/演:矢野聖人
レフト。
かなりの俊足だが、守備がイマイチ(浅いショートフライをダイビングキャッチする程度)。
そんな自分がレギュラーであることに悩む。
直角ベースランニングの体現者。

桜井祐之助
声:中西英樹/演:西井幸人
高校一年生のショート。
夏の大会でエラーしてしまったことを引きずっている。
プレッシャーに弱い。
現代野球ではショートに一番良い選手を置く為、素質は高いものはある……はず。



総評


本書は良く言っても賛否両論な作品である。
批判的な意見から纏めると文章がやや稚拙であり、ストーリーも陳腐かつ現実味に欠けている。
実際にこの方法で野球部が甲子園に行けるわけがなく、経営に役立つかも怪しいところ。
盗塁成功率が100%になるチート技、敵のリードを大声でカウントする*2、ノーボール作戦による被出塁率の低下*3、ノーバント作戦による効率の良い攻撃*4
ベースランニングをする際に直角に曲がる(全速力で走り90°方向転換すれば無駄がない*5)等謳い文句は上等だが、それが実戦向けかどうかはお察しください。
それに加えてバント及び変化球を「野球を詰まらなくするもの」と作中でバカにしている。つまり現実の野球もバカにしているも当然。
そのためこの本の野球描写批判の批判をしようにも、先にけなしているのがそもそもこの本というオチもついてしまっている。
それから値段がちょっと高い(電子書籍版は半額となっている)。

実際、こういった意見の大半が当たっている。

……一方で、読んで後悔はしないビジネス書と言われることもある。
というのも内容はともかく読みにくい文章ではなく、王道なストーリーにビジネスの概念や萌え絵を加えるという発想というか売り方は状況にもよるが着目に値するだろう*6
確かに小説としてはストーリーの稚拙さやキャラの薄さが目立ち、野球理論に至っては「野球を馬鹿にするな」と怒られても残念ながら仕方ない代物である。
肝心のビジネス理論としても肝心の応用描写が首をかしげざるを得ない描写ばかりとあっては役に立つとは言い難い。
しかし、この本を足掛かりにドラッカーのマネジメント理論の一端を知ったり、他のビジネス書籍や経営学に興味を持つ人も居るという点では評価できるだろう。
(もちろんビジネス理論入門の観点からも批判している人も居る)

この本の手法を取り入れる人々がNHK等の報道機関で取り上げられていた。
大学の教科書として採用してるところもあるとか。


余談


夏海氏は3/17に1日作の『エースの系譜』という青春野球小説を出すと述べた。
挿絵を担当するのは『さよなら絶望先生』の久米田康治である。

さよなら絶望先生』の3期に渡るアニメ化、『じょしらく』の原作、
そして『かってに改蔵』のドラマCD化・OVA化とここ数年波に乗る久米田による挿絵。
かなり気になるところである。


本書が代表的な著書となっているが、この後にもいくつか著書を出している。
その中で『ゲームの歴史』なる本(稲田豊史氏との共同著作)を出しているが……
肝心の内容が余りに間違いあるいは怪しい記述ばかりな上に、クリエイターの発言摸造なども明るみになり、
そして嘘が伝搬する恐れなどから数多くの不満が噴出して封印作品となった。
著作者が同じでも著書は分けて考えるべきにも見えるが、この本の野球の扱いと同じく事実と異なる主観だらけという本質は同じであるため*7
本書と『ゲームの歴史』を通すことでどんな本でも肯定すべきという論調に一石が投じられているとも言える。


「あなたはどんなアニヲタWikiにしてもらいたいですか?」

ぼく達は、それを聞きたいのです。ぼく達は、それをマーケティングしたいのです。
なぜなら、ぼく達は、みんながみてもらいたいと思うようなアニヲタWikiにしたいからです。ぼく達は、顧客からスタートしたいのです。
顧客が価値ありとし、必要とし、求めている項目から、アニヲタWikiをスタートしたいのです」


※ドラッカー……ピーター・ドラッカー。
マネジメントの神様と呼ばれている経済学者。

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  • 賛否両論
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  • 2009年
  • 鬱展開←主に中盤と終盤
最終更新:2025年02月09日 14:56

*1 アニメ版では「次郎ちゃん」と呼ぶなど、そこまで関係が険悪ではない。

*2 確実な効果があるというよりマナーが悪い部類だが、実際にやったら相手チームからの苦情や高野連や日本野球機構から問題視される可能性大。実際この手の情報や敵チームのサインを伝えるスパイ行為は度々話題になっており、厳密に取り締まられているかはともかくとして問題提起されている。

*3 無駄にボール球を投げても仕方ないという場面はあるが、意図せずあるいは間を取るために投げることもある。当然ストライクしか狙わないとバレた途端にコースの読みやすさや打ちやすさに繋がることは言うまでもない。そもそもプロでもぎりぎりすら狙わないストライク狙いのみで勝ち続けることは不可能なのでこれで勝てるのならそもそもが敵無しの実力だと思われる。

*4 打者やチーム状況によっては一理ある。しかし本書では選手のデータや相性を考慮しておらず経営論からの言及である。バントは得点率を上げるための行為であり本書の様な経緯でバント=非効率と決めつけるのは短絡的過ぎる上、選手や監督によってバント選択率は上下するが最初からノーバント(バント練習しない)では必要な状況で困るし安定性にも欠ける。全選手&全状況でこれで勝てるのならそもそもが恵まれすぎた打線である。

*5 オーバーランしすぎても無駄という意味では一部合っているが90°曲がるにはかなり減速する必要があり元も子もない。もちろんこれが出来れば理想的だが物理法則ガン無視である。アストロ球団や真ゲッターではあるまいし。

*6 似たような発想やらビジュアルの売り方は以前からあるので第一人者とまでは言い難いが

*7 もちろんただの娯楽作品なら事実といくら違っても現実世界に悪い影響がなければ何ら問題はない。本書は一応小説とビジネス書籍の合体本なので何とも言えないところがあるが。