豊和工業89式5.56mm小銃

登録日:2011/05/28 Sat 17:22:15
更新日:2025/09/12 Fri 03:22:27
所要時間:約 7 分で読めます







性能

全長:916mm
銃身長:420mm
重量:3500g
使用弾:89式5.56mm普通弾(5.56mmNATO弾)
装弾数:20/30+1
発射速度:750RPM
作動方式:ロングストロークガスピストン ターンロックボルト


概要

64式7.62mm小銃の後継として自衛隊が1989年に制式採用した主力小銃。設計製造は豊和工業株式会社
5.56x45mmの通常サイズの突撃銃としては最後発であるため、開発当時の他国の戦訓が盛り込まれた比較的堅実な銃である。



歴史

歩兵用小銃は1960~70年代(主にベトナム戦争)にかけて有効射程よりも携行弾数や連射性能が重視され、小口径高速弾を使用するものが主流となった。
日本でもこの流れに追従し、1974年に「将来戦を想定した小口径小銃」として研究が始まる。
豊和工業が1965年頃に数年間AR-18をライセンス生産をしており、そこで小口径小銃に関する基礎研究が行われていたとされる。
64式開発当時よりも手探りな部分は減っていたことから試作第一号のHR-10(78年)の時点で概ね使用は固まっており、3点バーストなどM16A2などでの要素も盛り込まれている。
そのまま軽量化や5.56mmNATO弾(SS109)対応などの11~16(14は例によって欠番)と試作が進み、最終的にHR-16が89式5.56mm小銃として採用された。
弾薬も同時に開発され、SS109を国産化した89式5.56mm普通弾を使用する。



特徴

整備性向上の為、部品点数を削減している。64式は約150点、89式は約100点とM16らと同等。
ストック・グリップ等に強化プラスチックを採用、プレス加工製の鉄製レシーバーと合わせて軽量化を図り64式より1kg減のダイエットに成功している。
外観や機能面ではFNCやSG550に近く、内部構造はSG550などと同じロングストロークガスピストンとなっている。
ガスピストンはAKなどと違い短く隙間のないものとなっており、低圧となったガスをきっちり使い切るスタイル*1
ライフルグレネードに対応する為ガス規制子付き。
アッパー、ロアレシーバーのテイクダウンもSG550に近く、ストックを外してテイクダウン→前方のピンを抜いて分解。ボルトキャッチやマガジンリリースはM16と同じ位置だが多少操作方法は異なる。
銃床は固定と折り畳み式とがあり、空挺や車載、特殊部隊向けには折りたたみ式が用いられる。
アイアンサイトは固定式で、64式でみられたような特定条件で鉄帽に当たって倒れたり摩耗してしまうことを防ぐ。

セレクター

安全、フル、3点バースト、セミの順で、64式などでの「ア/タ/レ」の表示は「ア/レ/3/タ」となっている。反時計まわりで90度ずつでア→タへは回せない。
フルオート射撃を意識したのかフルオートが安全位置のすぐ下にあるが、基本突撃銃は単発射撃を行うのでセミオートにセットするには270度回さないといけない。
操作レバーはHR-15試作時の要望により匍匐前進時に誤って解除されないように左→右に移されている。
現代では右手を離さないといけない点で不便なのでイラク派兵を契機に派兵部隊のものから順に左にも追加された。折り畳み銃床では畳んだ際に干渉するので銃床側を削っている。
セレクター周りははユニット式となっており取り外しが可能で、バースト機能とフル/セミとで分かれている。バースト機構はラチェット式でバースト中1~2発目で射撃をやめても次回射撃時に3発発射できる。

連射性能

機構としては標準的だが、2脚やフルオートに入れやすいセレクター、そして優秀な消炎制退器により安定して連射が可能。64式のように軽機関銃の代用となることを見越したものだろうか。
消炎制退器の反動軽減効果はなかなかでJCOMPのような模倣品では実際かなりの効果がある。そのかわり側面に発射ガスが噴出されるのでCQBでは少々使いづらいと言われる。

命中精度

旧防衛庁の制式要項によれば距離300mの場合、単射で直径19cmの円に収まり、6発連射で高さ2m幅2mの範囲に収束するとのこと。
単発射撃では2.18MOAとなり突撃銃としては良好な部類である(突撃銃の精度は概ね4~2MOA)。
イラク派兵直前にアメリカ国内で行われた、砂漠地帯での実動訓練で米軍兵士から高く評価されたといわれている。

弾の汎用性

弾薬、弾倉はM16等と同じ5.56mmNATO弾と所謂STANAGマガジンを使え、相互に共有可能。STANAGマガジンはMINIMI軽機関銃の給弾にも使えるのでかなり融通が利く。

高価

生産終了の2020年まで武器装備の輸出を禁じていたため*2国内でしか需要が無く、バブル崩壊や冷戦終結と合わさって毎年約3000挺しか調達しなくなったので非常に高価*3
プレス加工等量産効果が期待できる要素もあるのだがそれらはあまり活かされていなかったといえる。生産数は14万4723挺。
平成20年度は約28万、高い時は約34万と数万~10数万円が相場の諸外国と比べて非常に高価と言われてはいるのだが、FA-MASやAUGなど似たような値段の突撃銃は他にもあり、こいつだけが飛び抜けて高価というわけではない。
同様の理由で弾も高価。一発150円と民間市場での5.7x28mm弾並*4

そもそも…

マガジンの確認穴やバースト機構、妙に凝った製法のダストカバー*5など、工数が上がりそうな部分が多い*6

拡張性が低い

ライフルグレネード及び89式多用途銃剣の着剣機能、薬莢受け用マウント、交戦訓練用装置(バトラー)程度でピカティニーレールといった拡張パーツを付ける機能は標準では存在しない(後付け可)。
しかし近年では対テロや市街でのCQBを意識してフォアグリップ*7やダットサイト等のアクセサリーを装備して訓練することも。

先進軽量化小銃

2000年代各国は次世代の装備についての研究を進めており、FN F2000Felinなどの適合した銃がぼちぼちと出ては消えていった。
89式も同様に改良の構想があり、4面レールによる拡張性向上や調節可能なストック、戦術データリンクに対応する照準器などを取り付けたものが試作されていた。
89式の改修として日の目を見ることはなかったものの、研究成果はその後に活かされている。

右手持ち専用設計

基本的には世界各国とも右手でトリガーを引くよう矯正される。
本銃も薬莢は右に排出するし、視線を銃の中心に近付けて照準出来るようにストックの頬当て部が左右非対称にへこんでいる。

だが有事になった場合基本なんて物は無視される。例えば右手負傷等により左手のみで射撃を継続する必要がある場合や、遮蔽の左からなるべく身を晒さずに撃ちたい時など。
他のライフルは右手から左手にスイッチすることも考慮されているが、本銃はストックが右手専用なので難しい。
まあFA-MASやAUGみたいにスイッチ自体が難しい*8ということではないが、相当に構え辛い事は確か。

部品脱落

これは自衛隊の体質によるものだが、訓練課程にてかなりの分解結合と過度な磨き上げを経たあとの個体は摩耗に耐えきれずガス規制子などが脱落する。
テープによる対策が取られるのはよく見られるだろう。
だが20式のピカティニーレールなどに対してもグルグル巻きにしている例もあるので、どちらかといえば万が一の脱落を恐れている感がある。



配備状況

主に自衛隊に配備されている。それ以外には警察のSAT、海上保安庁のSSTでも制式採用されている。

陸上自衛隊

予備自衛官などを除けばほぼ配備しきっている。
折り畳み式は戦車搭乗員や第一空挺団などに支給されている。
現在では20式に更新され始めたといった印象。

海上自衛隊

特殊部隊である特別警備隊が2007年の公開訓練時に折り畳み銃床のものを使用。
特別警備隊では他にHK416も配備していると見られる。艦艇部隊や新人教育は未だに64式が現役。

航空自衛隊

ヘリコプター搭乗員に折り畳み銃床のものを配備している。基地防衛などでのみ64式が現役。



フィクション

映像作品

自衛隊の装備なので洋画で見かけることは非常に稀。
そして、邦画でも自衛隊が活躍すると騒ぐ方々がいるためあまり活躍の場が少ないという不遇措置。
でも89式配備後の自衛隊が登場する作品なら頻繁に登場する。まぁ、敵がゴジラとかじゃ豆鉄砲にもならないが。

ガメラ2、ゴジラ(2000年以降の作品)、戦国自衛隊、ジパング、最終兵器彼女等々。


ゲーム

SIREN2などの和製作品のほか、World War3やRainbowSix Siege、龍が如くof the End*9など自衛官やSAT等が出てくる作品にて実装される場合がある。
だがあまり個性的な外観ではないので、SG550などがすでに実装されている場合はそれらが代役となる場合がある。9mm機関拳銃がSR-2Mの代役をすることもあるのでまあそういうものなのだろう。

部隊となる夜見島に不時着したヘリに搭乗していた自衛官が生死を問わず装備。
  • World War3
当時研究されていた先進軽量化小銃がモチーフであり、マグプル MASADAのストックも完備(詳細はMASADAの項目にて)。バランスの都合か4点バーストとなっている。
  • RainbowSix Siege
愛知県警のSATがモチーフのオペレーターHIBANAが折り畳み式銃床に20連マガジンの89式を装備。装弾数以外は癖が少なく扱いやすい。

遊戯銃

東京マルイからトイガンが販売されている。
開発に際し、CQB訓練機材を欲しがっていたた防衛庁(当時)がこの開発計画をキャッチし、「僕と契約して、防衛産業になってよ!」と89式の詳細な資料をちらつかせて迫ってきたという逸話がある。
そのため、民間仕様の市販品とは別に、閉所戦闘訓練用教材として自衛隊仕様の電動エアガンもあり、口径は6mmBB弾で8万円也。
ストックとグリップがオリーブ色、弾倉下部が橙色、銃身が白と実銃と見分けるため派手。

市販品とは主に以下の相違点がある。
  • 命中精度の向上
  • 実銃にさらに近い重量とバランス
  • 実銃と同じマウントデザイン*10

周辺機器やフォアグリップ装着などのエアガン向けカスタムパーツを実際に実費で使用している場合もあるとかないとか…*11



余談

広報向けの一般公募愛称は「BUDDY」だが、現場では「ハチキュー」と呼ばれている。

2019年に89式の後継として「HOWA5.56」の採用が決定。その翌年の2020年に「20式5.56mm小銃」として正式採用された。
こちらは89式から大きく変化しており、ここで挙げた欠点的特徴を概ね解消しつつ諸島防衛向きに変化している。詳細は豊和工業株式会社の項目を参照。



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最終更新:2025年09月12日 03:22

*1 AKは長く隙間をあけたものであり、高圧の状態で確実に作動させるが発射カスの飛散が多い

*2 今でも車両やボディアーマーなどに限られる

*3 2005~15年の間は最大1万ほどまで増えたがそれ以降先細っている。09年だけ0。

*4 FN社とその子会社しか製造していないことによる。2025年現在ではパテントが切れ安価になりつつある

*5 ボルトに押されて一緒に後退する。他ではM16/AR-18の蝶番式やFNC式のバネ式、K2のように開口部を狭めたりAKのように大型の安全装置でふさぐ。

*6 90式戦車もそうだが妙に背伸びしている感がある。冷戦故の緊張感故か、はたまたバブル景気がそうさせたのか…

*7 ハンドガード破損の事例により不許可の時期があった

*8 ブルパップ式でも持ち手を変えずにスイッチすることで左肩につけての射撃は可能だが厳しめ

*9 微妙に形がデフォルメされている

*10 市販モデルは不正流出した実銃用周辺機器が装着できないよう、着剣ラグと薬莢受けマウントが意図的に違う形になっている

*11 エアガンパーツの流用は諸外国(米、韓、露あたり)でも稀によく見られる