ブルパップ

登録日:2011/03/02(水) 13:47:32
更新日:2025/06/27 Fri 05:53:08
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概要

ブルパップとは銃の構造の一種で、コンパクトかつ長銃身を目指すものである。
命名の由来は定かではないが、パワフルかつコンパクトという意味でBull pup(ブルドックの子供)ではないかと言われている。
グリップよりも後方に弾倉が配置される独特のレイアウトからフィクションの世界では人気である。



最初に

説明に入る前に、まずは銃において銃身(バレル)の長さががどんな意味を持っているのかについて説明しておこう。

そもそも銃身とは何のためにあるのかと言うと、薬室内で発生した燃焼ガスを弾頭底部の1点に押し付け、弾を加速するためにある。弾が十分に加速するまで燃焼ガスを封じ込めておくためにあるわけだ。
弾丸は初速が早く速度落下が少ないほど弾道が低伸し当てやすい
そして前述の理論からして初速を高めるためには燃焼ガスの力を伝えきるだけの適切な銃身長が必要になる。

厳密には銃身が長すぎると以下のような欠点も発生する。
  • 燃焼が終わった後も銃身内に弾頭がある場合、むしろその後の銃身と弾頭との抵抗により初速が落ちる
  • 銃身のブレが長時間影響を与えることになるため、銃身がヤワいと精度が落ちる
 これ自体は重いバレルや材質の工夫により解決できる

銃身が適正より短い場合は以下の現象が発生する。
  • 燃焼が終わる前に弾頭が銃身を通り抜けるので、燃え切っていなかった火薬によるブラスト(マズルフラッシュ)が発生する
 AKS-74UやXM177はこの点に苦心し、サプレッサーと見まがうほどの大きなフラッシュハイダーを装着している
  • 上記の理由により加速を伝えきれず弾速が低下
  • ガスオペレーションの場合取り込み口の場所に制限がかかるため連射速度が高まる場合がある
 AKS-74Uでは元のAKS-74の600RPM(分間レート)から800RPMへと変化。もともとAK-47からAKMへの更新の際にコントロールしやすいようにとレートを落とす機構を設けたのだが、それと逆行する形となっている

あくまで弾頭の加速において最適な長さがあるという認識でよい。

しかし、銃身が長くなるということはそれだけ銃が大型化することをも意味している。
銃は手元に重心があると銃の指向と保持がしやすく、銃口側に重心があると発砲時の跳ね上がりが抑えられる代わりに取り回しが悪くなる。長銃身は後者になりやすい傾向がある。
長い棒と短い棒、どちらが振り回しやすいかは想像すればわかるだろう。
平野や砂漠など遠距離戦が主体だった場合は問題なかったものの、ジャングルや市街地、塹壕内等では銃身が障害物に引っ掛かったり遠距離狙撃ができず、長銃身の持つメリットが潰されてしまう。
必然的に近距離まで近寄って交戦するわけだが、今度は狙いをつけるのに時間がかかり、咄嗟に近くの敵兵に狙いを定めるのが難しくなる。
戦場においては一瞬の遅れが致命的になるのは明白。すばやく狙って撃てるのに越したことはない。
また単純に重い長いほど邪魔という点も無視できない。狙撃銃や機関銃は基本的に頻繁に動かすものではないため多少重くてもいいのだが、人間が手に持って使う銃は軽いほうがいい。
兵器とは「現場の兵士が扱い易いかどうか」も重要な要素なのである。

なら短銃身にしたらどうかと言うと、無論上記の長銃身の欠点はほぼ解消できる。短機関銃拳銃が第一次世界大戦の塹壕で活躍したのがその証左といえよう。
反面前述の欠点が悪影響を及ぼすことになる。
マズルフラッシュは敵に発見されやすくなるし、遠距離戦では不利を被る。
アイアンサイトの場合は照星と照門との距離が短くなり、狙いの誤差を認識しづらくなる点も向かい風となる。

以上の事から銃身が長いと射撃性能は上がるが取り回しが悪化し、銃身を短くすると取り回しが良くなる反面射撃性能は落ちるという事が分かる。

そこで多くの人はこう考えたことだろう。
長銃身でしかも小型軽量な理想の銃が作れないだろうか
と。

そんな夢のような銃を作ろうと編み出されたのがブルパップである。本題へ移ろう。



ブルパップとは

弾倉や機関部をグリップの後方に配置する事で、銃身を切り詰めることなく全体をコンパクトにした構造の事を指す。
ほぼ同じ性能の銃で比較してみよう。

FN FNC
  • 全長997mm
  • 銃身長449mm
  • 重量3840g
  • 全長740mm
  • 銃身長455mm
  • 重量3700g

FNCとAUGでは長さが短く重量も少し軽くなっていることがわかる。そのうえで銃身長は同じ水準を維持している。
(尚M16は同時期の欧州ARよりだいぶ軽い)



利点

前述の通りだが改めてまとめると以下の2点だろう。

銃の小型化

銃身長の維持

(尚M16は豊富なアフターマーケットによりヘビーバレルなどの選択肢があるがAUG等ではあまり無い為サブMOAレベルの高精度を狙いづらい)

欠点

画期的なブルパップだがマイナス面もある。

機関部が手前にある

特に左利きの射手の場合に大問題で、何も対策をせずに構えると排莢口を頬で塞いでしまい動作不良や火傷につながる。
主に以下の問題とその対処を行っている。
  • 排莢する位置が射手に近い
 排莢方向を工夫したり、カートデフレクターで射手に向かって飛ばないようにする。
 AUG、FA-MAS、タボール:左右に切替可能。ただし大抵の場合分解が必要で、戦闘中に手軽に切り替えられるわけではない
 L85:ケースディフレクターで前向きに飛ばす。
 P90、KELTEC RDB:下向きに落とす。左右を選ばない代わりに薬莢を踏んで射手が転ぶこともある。
 F2000、KELTEC RFB:右斜め前のチューブ状のパーツから排出する。ロケット鉛筆のように押し出すような構造上銃の中にしばらく薬莢が残る。
  • 作動音、硝煙や臭いに悩まされる。
 作動音についてはイヤマフやヘッドセットをつけられるシューター、特殊部隊ならともかく、耳栓がいまだメインな一般兵にはつらい問題である。
  • 各種操作のレバーをグリップ周辺に配置するのが難しい。
 特に引き金はどうしても機関部から離れた場所からリンクロッドを用いて操作することになるため、一般にトリガープルがすっきりせず不評となる。
 マグキャッチ、ボルトキャッチその他の操作も直感的にするために無理をするか、仕様として押し切る形になる。
このような、従来方式ならば必須ではない仕掛けを施さないといけないのである。

照星と照門との距離が短くなる

従来方式でも起こりうる内容だがブルパップ式では避けられない。その為、大抵光学照準器が標準装備である。
もっともこれについては遠距離はともかく近距離では余り問題にならないという意見がある。
最近ではアフガンでの戦訓から敵味方識別などを目的に光学照準器を載せる事が増えている為あまり深刻な問題ではない(括り付けの場合が多くカスタマイズの幅がないという問題もあるにはある)。

銃剣と相性が悪い。

全長が短く従来型の銃よりも間合いが狭くなるため。
ただし、実戦で銃剣突撃に使われたブルパップ銃は実在。不要とまではいかない。

フォアグリップやバイポッド及びそれを用いるシューティングとの相性が悪い

フォアエンドがサポートハンドで握るための最低限の長さしか用意されていないことが多く、そこにバイポッドをつけるには工夫が必要となる。
近年ではクリスコスタ氏考案のCクランプなどが積極的に利用されるが、それらのテクニックは従来方式の銃に最適化されておりブルパップでは窮屈な構えとなってしまう。

大容量マガジンと相性が悪い

グリップのすぐ後ろあたりに弾倉が挿さるため、ドラムマガジンなどを使うと構えにくくなる(採用例自体は存在する)。また重量が後ろに寄り過ぎて、グリップとフォアグリップで支えるのがさらに難しくなる。

既存の形式の銃から転換するのが面倒くさい。

恐らく普及が進まない最大の理由。
各国軍隊は当然既存形式の銃を扱う事を前提に訓練を行っているわけで、そうなると転換のためにはわざわざブルパップ銃を扱う為の訓練を一からやらないといけなくなる
またブルパップ銃とそうでない銃をごちゃ混ぜにして運用すると万一の時に操作ミスを起こす可能性があるため、必然的にどちらか片方に採用する銃を絞らなければならない。
そこまでするくらいなら既存形式の銃でいいやと思うのも無理はないだろう。例えば中国はブルパップ方式の95式自動歩槍を導入したにもかかわらずわざわざ通常形式の03式自動歩槍を開発して通常部隊に配備している。
ただし、熟練の技量を持ち複数装備の使い分けができる余裕がある特殊部隊や、これから訓練を積んでいく予定の新興国の軍隊や新設された部隊、規格化の必要性が薄い民間用等ではこの限りではない。
事実、上記の95式自動歩槍は03式の配備が済んだ後も精鋭を集めた特殊部隊用として現役で使われている。



採用事例

70~80年代にかけて軍用の次世代アサルトライフルとして開発、運用された。
しかしながら、上記のような欠点や技術の進歩による短銃身での性能向上により次第に従来型に回帰していき、現在では主流とは言えない状態となっている。

一方、狙撃銃のような大型なスコープや長い全長、重い重量を持つライフルでは、軽量化、小型化、銃身の長さがとれる、といったメリットが評価され、ブルパップ式の対物ライフルや狙撃銃も珍しくはない。
これらの銃は作戦の特性上主に特殊部隊での運用が前提となるため、落ち着いて準備をする余裕があることや訓練を積んだ人員を選抜できる事からブルパップ特有の問題を無視しやすい。
ついでに、世界初といわれるブルパップ式のライフルはボルトアクションライフルである。

突撃銃

FA-MAS(仏)

大きなアッパーフレーム一体型のキャリングハンドルとブルパップ特有の構え方がもたらす独特のスタイルから「クレロン*1」の通称で知られる。
Felinへの更新も行われつつあったが結局HK416Fへと更新された。
クロアチアのVHSは形状こそかなり似ているものの全くの別物。ゲームなどでは代打としてVHSが実装されていることがある。

AUG(墺)

オーストリアのステアー(シュタイアー)社が開発したブルパップ型アサルトライフル。良好な命中精度とコンパクトさから大きな注目を集め、以後のブルパップアサルトライフルの鏑矢となった名銃。
オーストリアでも現地モデルであるF88/F90として現役。

L85/SA80(英)

RSAFが開発設計したアサルトライフル。AR-18をベースにそれまでに試作していたEM-2の技術を含めた堅実な設計…と書くと優秀そうに見えるが、無印のL85は構造の欠陥からジャムと閉鎖不良が頻発し弾の出る槍・鈍器などと揶揄された。細かいところを見ても排筴方向をスイッチできない、セレクターとマグリリースレバーが左にしかないなどブルパップ式としての欠点がそのまま放置されている。標準搭載のSUSAT光学照準器が無駄に重い、国産マガジンが変に別規格(M16と互換性自体はあるがジャムりやすい設計)も欠点。
A2以降の現行モデルはH&K社の改修で普通に良い銃になっており、よりモダナイズドされたA3へ改修中。

F2000(ベルギー)

ベルギーのFN社が開発したアサルトライフル。右利き左利きどちらでも操作し易く、かつ薬莢を射手や味方の足元に散らさないようにチューブを介して斜め前方に排筴させる機構を採用(そのかわりにフィードカバーという形で専用の薬室チェック機構を持っている)。
同社のSCARなどに比べての優位を見出せなかったのか本国ベルギーなどで採用まで至らず、現在はFN社のHPからも消されてしまっている。

タボールAR-21(イスラエル)

IMIから小火器部門が独立して出来たIWIが開発したアサルトライフル。外観的にはゴツくなったAUG。
カービン仕様のCTAR、バイポッドとスコープを装備してマークスマンライフル風のカスタムを施したシャープシューター仕様のSTAR、銃身部分からグレネードランチャーをぶら下げたGTAR、ハンドガード周りを改良してコンパクトに仕上げた短機関銃モデルのMTAR、コンパクト仕様のX95など多数のバリエーションを有する。ガリルACEとともに現役。

QBZ-95(95式自動歩槍)(中国)

1995年に採用された中国ノリンコ(中国北方工業公司)製アサルトライフル。アッパーフレーム一体型の大型キャリングハンドルなどFA-MASに影響されたと見られる部分が多く「チャイナトランペット」とも呼ばれるが、開発に当たってはAUG等を参考にしたともされ、直接のベースとされる86-S 自動小銃にはAUGと同じ形状のフォアグリップが装着されている。
現場の兵士からは不評だったようで後に03式開発の切っ掛けとなったが、95式自体は改良を重ねながら特殊部隊や空挺部隊向けに今でも運用が続いている。
95式班用機槍などの機関銃バリエーションも存在し、珍しくドラムマガジンを採用している。
中国以外ではカンボジアやバングラデシュ等で改良型のQBZ-97(97式自動歩槍)が運用されている。また、ブルパップ特有のリロードの遅さを改善する訓練も行っているため、慣れている兵士は従来のM4等と遜色ない速度でリロードを行う。

RM-277(米)

2017年にアメリカ軍から発表された次期分隊火器システムプログラム「NGSW(Next Generation Squad Weapon)」計画に基づいてゼネラル・ダイナミクス社とベレッタ社が設計したアサルトライフル。プログラムの目的がM4カービン/M249/M240の3機種を代替する銃を選定するということで、アサルトライフルモデルと分隊支援火器モデルで共通のレシーバーを使用し、分隊支援火器モデルはM27IARのようなライフルベースの設計になっている。また、射撃モードによってボルトの動作が変わる機構が搭載されており、セミオート時はクローズドボルトで正確に、フルオート時はオープンボルトで冷却性能を高める設計になっている。この他、従来の薬莢より軽量なポリマー薬莢の採用や3Dプリンター製のサプレッサーを標準装備とするなど様々な機能があったが、2022年にSIG MCX Spearを選定する発表があり落選した。

ゲルマン・コロボフ氏設計のアサルトライフル(露)

AK-47のミハイル・カラシニコフと競い合った銃器設計者。ブルパップ式をよく採用し、提出した銃がことごとく変態と言わざるを得ない形状をしている。
日本人にとっての珍名銃TKB-072もコロボフ氏設計(072自体はブルパップではない)。

OTs-14 グローザ(露)

AKS-74Uをもとに弾と構造を変更したもの。
通常のAKにも似たようなカスタマイズを施す例がある。

Ash-12(露)

50口径の短小弾を用いるアサルトライフル。VKSがもとになっており、近距離・市街地戦闘を想定し高威力低射程に調整されている。

KELTEC社のライフル(米)

「高効率のライフル」の名のもとにRFB、RDBを生産。RDBのサバイバルモデルは独立ピストルグリップすら排しており、携行の際に引っかかる個所がない点を宣伝している。

短機関銃(PDW)

P90(ベルギー)

05式短機関銃(中国)


短機関銃はバレルを伸ばす恩恵が薄いのもあり、グリップ底部のマガジンハウジングへ装填するものが多い。
タボールやAUGには練習用などのバリエーションとして短機関銃タイプが存在する。

狙撃銃

ソニークロフト・カービン

世界初のブルパップ式ライフルとされる。

WA2000(独)


対物ライフル

LAR グリズリー ビッグ・ボア(米)

バレットM90(米)

ZID KSVK(露)

IWS2000(墺)

ステアー社の開発した対物ライフル。高精度かつ十分な威力をもった狙撃が可能な火器の開発の結果生まれた。
15.2mmAPFSDS弾という本来は戦車砲などに使用されるAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)をそのまま小銃用にスケールダウンした弾薬を使用する小銃サイズの戦車砲ともいうべき代物。
高い初速と貫徹力を持ち1000mあまりの距離から軍用装甲車の装甲版を貫通可能とされる。
しかし15.2mmAPFSDS弾に問題があり*2、精度には難があった。試作モデルでテストが続けられたものの最終的に開発は頓挫した。



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最終更新:2025年06月27日 05:53

*1 「トランペット」はよく知らない人による誤解

*2 装弾筒がうまく外れなかったらしい