銃剣

登録日:2009/08/23(日) 06:38:26
更新日:2024/03/31 Sun 23:11:27
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<概要>

銃剣とは、主にライフル銃の付属品であり、銃の先端に付ける刃物の事。



<起源>

火縄銃等の初期の銃器は弾と火薬が一体化しておらず、弾込めに時間が掛かり連射が出来ないという弱点があった。
弾込め中に騎兵突撃を喰らって戦列が崩れる事も多々あり、その対策として兵が銃士の近くに配置されていた。銃士自身に槍まで持たせるのは負担が大きいというのもあったのだろう*1

時は流れ、16世紀末フランス。バイヨンヌ(Bayonne)地方の農民同士の抗争において農民が弾切れのマスケット銃の銃口にナイフを差し込んで突撃した。

それを偶然見ていた軍人が『ライフル自体長いんだから先端に刃を付けたら槍になるんじゃね?』という考えを思い付き、軍に提案した逸話から、銃剣をバイヨネット(Bayonet)と呼ぶようになったと言われている。

<銃剣の発展>

その後欧州で戦列歩兵の武装としてプラグ型銃剣の運用が始まったが、銃口にそのまま差し込んでいたため射撃が行えないという欠点があった。
そこで銃口の周りにとりつけるタイプのソケット型銃剣が開発され、これが一気にメジャー化し広まることなる。
その後も銃剣は改良とともに広まっていき、銃士に十分な対騎兵近接防御能力が付与された。
そのため『別に槍兵っていらなくね?』という意見が多くを占めるようになり、槍兵が姿を消し、軍隊は銃士ばかりの編成へと変遷を遂げたのである。

<銃剣突撃>

読んで字のごとく銃剣装備の歩兵突撃。
戦列歩兵同士の戦闘の最終局面であり、撃ちあい続け最終的に銃剣突撃で雌雄を決した……というのは一部はあっている。
銃剣突撃が勝利の勝利の決め手になることは多かったが、銃剣同士による攻防が行われた事例は実はあまりない。
というのも、一方が銃剣突撃をした時点で相手側はビビって士気崩壊し逃げ出すことがほとんどだったのである。
実際突撃する側にも高い士気が要求される行動であり、仕掛ける側は基本的に優勢である必要があった。受ける側からすれば押されてる状況で相手が銃剣構えて全軍突撃してくればそれはもう怖いだろう。
なお森林地帯などの遭遇戦じみた状態では実際に銃剣同士による戦闘が行われたという記録は残っている。

銃火器の発達以後は戦列歩兵の消滅と共に大規模な銃剣突撃は姿を消していったが、イギリス軍は21世紀になってからもイラクやアフガンで何度か銃剣突撃を敢行し、しかも成功している。
対テロ戦争においても銃剣突撃による士気への威力は未だに大きいのかもしれない。

<銃剣の形式>

装着方式

即席銃剣

銃剣という名前の無かった時代のもので、ただ単にナイフを銃口に差し込んだだけのもの。
「バヨネット」という名前のここからきている。
銃口に差し込むタイプの銃剣。

プラグ型

ごく最初期のものであり、初めて軍事的に使われた銃剣がこれ。
意外にも同時期の中国でも開発されており、1606年にプラグ型銃剣を使える銃器を開発したという資料が残っている。
欠点は見てもわかるように射撃と排他である事、装着する手間が必要なこと。あとやはりというかなんというかすっぽ抜けることも多かった様子。
実際1689年のキリークランキーの戦いでは近接戦になった際、マスケットにプラグ型銃剣を装着しようとした英国軍が装着している間に、マスケットを捨てて剣と斧で突撃してきたハイランダー軍に負けたりしている。
HELLSINGアンデルセン神父が投げているのはこれ。

ソケット型

プラグ型では装着の手間がかるデメリットが大きくこりゃあかんということで、セバスティアン・ル・プリストル・ド・ヴォーバンが1680年に発明したのがこのタイプ。
銃口付近に「取り付ける」タイプのもので、おそらく銃剣でもっとも有名なタイプ。以後の銃剣も装着方式で言えばこのタイプになる。

形状

剣・ダガー型

柄部分を銃口に差し込めるように改造した最初期プラグ型銃剣。実質プラグ型銃剣とイコールの形状と言えるかもしれない。

スパイク型

これ以後は全てソケット型となる。
完全に刺突のみに特化した銃剣。長い棒みたいなやつがこれ。
極最初期はプラグ型の時代からダガーの様な刺す事を重点に置いた刃付きの物もあったが、銃剣の基本的な目的は対騎兵防御であり基本は突きもしくは構えての槍衾であること、
マスケットが前装式のため刃があると装填中に怪我をする可能性があることなどから刃のないこちら主流になった。

刃付き型

19世紀ごろになると「銃剣突撃もやるしやっぱ銃剣便利じゃね?」となっていき刃付きのものがまた出てくるようになる。
取り外して別の用途にも使うという運用も行われ出してきた時期。
第一次世界大戦までは銃剣突撃がまだ戦略として有効だった事や、塹壕での接近戦での短剣としての役割があったため現代より刃渡りが長い物が多い。

ナイフ型

現代の銃剣で、銃身に取り付ける小さいナイフ状のもの。
銃剣専用として開発されたものであることは少なく、どっちかと言えばコンバットナイフに「銃剣としても使える」機能を付与したような状態。
こうなったのはWW1と2において戦争は弾幕の時代となり、銃剣突撃は重要視されなくなり、銃剣は専ら死体処理と士気向上、後は飾り(示威効果)としての役割が主なものとなったため。
近代以後において銃剣は主装備ではなくなり、形状自体もコンパクトになり必要時のみ取り付ける前提でワイヤーカッターなどの多目的な装備をつけるようになっている。

なお、現代でもイギリス軍が行った銃剣突撃の例もあり(極めて例外的な事例だが……)、
テロ対策における接近戦用武器として銃剣を見直す動きもあり、
おそらく最も普及したマルチウェポンとして、銃剣が装備から無くなる事は無いだろう。…………きっと。

<現代日本における所持と値段>

刃物であり武器であるため日本においての銃剣の所持は基本的に違法である。刃を潰し、装着機構を破壊した品のみが民間に許可されているといわれる。
しかし、これはあくまで流通していると言うだけであり、警察が正式にOKを出した訳ではない。もっと言えば、銃刀法には銃剣を指す単語が無い。
武器製造法において、銃剣の製造は禁じられているが、単純所持は禁じられていない。
そのため、銃剣の不法所持で捕まる人間は刃渡りの規制で捕まる人間が多い(槍や扱いされると言う人もいる)。

銃刀法に触れない着剣装置付きナイフとしてなら合法かもね!

……と言いたいが正直な所微妙である……。
「何かを規制する法律」の運用では多々あることだが、銃刀法自体、警官の気持ちと知識で処遇が変わる事が多いので、正式な所は裁判でも起こさないとわからないだろう。

日本において万単位で売買される銃剣だが諸外国ではそんなに高くない事の方が多い。
もともと銃剣と言うのは大量生産品であり骨董価値以外に高値がつくような要素を持っていない。
だが、日本では軍ヲタという狭い市場の中でも更に一部のマニア向けアイテムなため高額で取引されるようだ。

<雑学と言う名のヨタ話>

  • アンデルセン神父が持っている銃剣は、本来手で持つことを想定していない。
    ついでに言うと、刃が曲がる方向が二種類ある。(普通は下に曲がっているが初期の物は上下バラバラ)。
    オタクで知られる作者だが、流石にそこまで深く無かったんだろう。

  • 某ネタ画像サイトで、至って普通の着剣済みの銃剣の画像を張り
    「ガンブレード」
    とサブタイトルをつけた画像が投稿されていたようだ(途中で途切れていた文章からの推定だが)。
    もちろん一般名詞としてなら間違った説明はしていないが、おそらく「バヨネット」「ライフルアンドバヨネット」と言った方が伝わりやすいだろう。

  • アニヲタの住人なら、某スコールガンブレードやモンハンのガンランスを思い浮かべるかもしれないが、実際にに銃を装着した武器は存在する。勿論試製拳銃付軍刀ではなく、ガンブレードに近い形状のもの。
    • これは銃が前込め式だった時代に海戦などで使われた武器で、弾が切れた時に剣で攻撃するためのものである。銃の装弾数が増えるに従い徐々に姿を消していった。
    • 現代ではアンティークとしてのコピー、また俗にサタデーナイトスペシャルと呼ばれる安物の銃などに同様の機構が見られる。
      日本においてはデニックスと言うスペインのメーカーが壁飾り用に出している物が一番有名か。ただしあくまでも壁飾り用である。

  • ゲームワイルドアームズ』の2や3で登場する銃剣については騎士槍(ランスではなく刀身がやけにごつい片刃の大剣みたいなもの)を合体させているとんでも銃剣である。
    かっこいいのだが、もちろん現実では重すぎるし形からしてぶん回しにくいので実用性は低い。

  • 銃剣は特撮作品でもしばしば登場する。
    • 例えば、『仮面ライダー剣』の仮面ライダーギャレンこと橘朔也がジャックフォームに変身する際、専用武器である醒銃ギャレンラウザーの銃口部に「ディアマンテエッジ」という小型の刃がつき接近戦およびゼロ距離射撃が可能となる。ただ、細い造形のせいで折れやすかったのか、そもそも拳銃に畳めない銃剣というデザインからか、アクション監督が「これどうやって使ったらいいんだよ…」と頭を抱えたため、銃剣はほとんど使われなかったが…
    • 魔弾戦記リュウケンドー』の魔弾銃士リュウガンオーこと不動銃四郎も意志を持つ銃・ゴウリュウガンのグリップ部から剣を展開し近接戦を行っている。
    • スーパー戦隊シリーズ』の『電磁戦隊メガレンジャー』でも、追加戦士のメガシルバーがシルバーブレイザーという銃剣を使用。ガンモードで速射しながらソードモードで斬り裂くブレイザーインパクトで邪電王国ネジレジアのネジレ獣を倒している。

  • 日本には「銃剣道」という武道があり、剣道薙刀に似た防具と木銃を使う。銃部を使った格闘は認められず、突きのみ有効。
    一方西洋では銃剣の訓練にアメフトの防具と「パジル・スティック」というどっちかというとダース・モールの訓練っぽい見た目の用具を使う。こちらは銃剣側と銃床側の違いも色だけで全体がクッションで覆われておりどこで打撃してもよい。
    • 実際、銃のストックはかなり強固に出来ているのも多く(特にバトルライフル世代の木製フィックスドストック)、立派な鈍器として扱える。
      WW2を扱うゲームの中にはセカンダリーとしてこのストック殴打を使えるゲームもある。その場合はナイフ同様何故か1発入れればキルを取れる魔法のストックと化す事が多いような。

  • 現代の軍隊では平時では銃剣には刃を付けない。
    訓練中にうっかり怪我したり、草や枝を払うときにDQN兵士がちゃんと専用の鉈を用意する手間を惜しんで銃剣で刈って破損させたり面倒なことになりうるし
    実戦で使用する可能性は限りなく低いので それらのリスクを考えて平時の訓練中から刃の付いた銃剣を与えるより
    実際に出撃する可能性が濃厚になってから銃剣にグラインダーをかけても遅くはないため。
    「銃剣に刃を付ける」が情勢がキナ臭くなったことを示す季語になりうる。

<漫画アニメ上の銃剣の使い手>

皆さんご存知不死身の杉元。
銃剣突撃全盛期である日露戦争にて活躍した兵士であるため当然標準装備。
数多くの敵兵のみならず羆までもを銃剣で惨殺している。
(特別に銃剣の扱いに長けている訳ではなく並外れた膂力、胆力、生命力によるものだが)
なお、当然第七師団の皆さんも標準装備している。

  • 宮本麗(学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD)
槍術部所属かつ親から銃剣術を習っており、長物の扱いを得意としている。
初期は学校にあったモップの柄で戦っていたが、コンバットナイフ型銃剣付きライフルを手に入れてからはそちらをメインに使うようになった。
またコータが孝のショットガン用にバーベキューの焼き串で即席スパイク型銃剣を作るシーンがある。即席だけに「1度で壊れるかもしれない」と言っており実際1回刺しただけで折れてしまった。

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最終更新:2024年03月31日 23:11

*1 ちなみに銃の発明前、明代に作られた初期の火薬兵器には梨火(花)槍や飛火槍といった「火薬を詰めた筒を槍に取り付け、を噴いていなくても普通に槍として使える」武器があったが、撃ち放てばどのみち失われるためか後世に普及はしなかった模様。