鎌倉ものがたり

登録日:2011/08/16 Tue 14:41:15
更新日:2025/02/22 Sat 22:27:20
所要時間:約 5 分で読めます




『鎌倉ものがたり』とは『三丁目の夕日』の作者である西岸良平原作のサスペンス漫画である。

1984年に漫画アクションで連載を開始し、2000年からまんがタウンに移籍し、単行本は2021年までで36巻に及ぶ長期連載作品である。

2017年12月に実写映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』が公開。監督は山崎貴で、西岸作品では氏の出世作でもある『三丁目の夕日』に次いでメガホンを取った。主演は堺雅人高畑充希


【概要】

小説家の一色正和と彼の夫人・亜紀子が、神奈川県鎌倉市内で起きる日常生活や、怪事件や魔物の騒動を描く。

魔物が街中に普ッ通に出歩いたり、タヌキが完全に住人だったりと何も知らない人が見たら鎌倉を人外魔境だと勘違いしそうな内容である。
恐らく彼らの住む鎌倉は我々の知る鎌倉とは違うのだろう。

ロマン溢れる鎌倉と云う土地を舞台に、サスペンスやミステリー、ほのぼのとしたファンタジーからホラー、SFまでをも内包した大らかな作風が特徴で、『三丁目の夕日』と並ぶ作者の代表作にして、西岸良平ワールドの集大成とも呼ぶべき内容となっている。

……しかし名所案内などはしっかりしており、ぶっ飛んだ世界観ながらギャグや推理も人気がある。
単純な物語ながらも教訓や、単純な善悪では判断量れない深い要素を持つのも魅力の一つである。
意外と猟奇的な描写もあり殺人事件等は首が跳ぶことも多い。

設定は時事ネタもあるため現代となっており、一色先生がスマホやネットオークションを使う場面も登場する。しかし自動車や横須賀線江ノ電のデザインはなぜか昭和30年代のそれ。但し江ノ電でもレトロ電車の10形や横須賀線で運用されていたこともある215系は普通に登場する。作者の趣味なのだろうか

……何処かで聞いた様な名前や見た目のキャラクターが登場する事も多いが、この辺も作者一流のパロディとして見るべきであろう。



【登場人物紹介】

主人公・ミステリー作家。31歳。作中では「先生」とか「一色先生」と呼ばれる。
高校時代に剣道で日本一になったり東大卒だったりとハイスペックな御仁(連載開始当初の設定として、安保理に反対した東大全共闘世代)。高校時代の同級生である柳生や千葉、赤胴らとともに「鎌高四天王」と呼ばれたこともあるが、当時の腕を維持しているのは先生のみの模様。
警察からアドバイザーを任じられる程に頭脳明晰で、柔道や合気道も極めたため数ある妖怪とタメをはれる程強い、加えて人格者とまさに完璧超人
ただ締め切りとネタ切れにはどうやっても勝てない。あと若干おじん臭い。かなりのオタクというか趣味人間で、鉄道模型や熱帯魚が趣味で亜紀子に渋い顔をされる事も多い。
機械的なトリックを出来る限り使わない作風が特徴の本格ミステリーを執筆しており、大ヒットと言うわけではないが、ドラマ化されるなどそれなりに知名度がある。ただし、魔界では笑えるユーモア小説として人気があり*1、魔界の文学賞を受賞したときは、喜びながらも評価に疑問を持っていた。
なぜだがしょっちゅうタイムスリップに巻き込まれる。

  • 一色亜紀子
一色先生の嫁で専業主婦。趣味は少女漫画とディズニーアニメ
美人で優しいが精神的にも外見的にもやや子供っぽく、実際に娘と勘違いされることもある。つまり旦那は確定的にロリコンである。一色先生そこかわれ
基本的に事件に巻き込まれたりする被害者ポジだが、たまに機転を利かせて先生をサポートする。
また、時には主人公になることも。
一色先生のヒット作『名探偵亜紀子シリーズ』のモデルであり、現実に事件の解決を依頼された事もある。
ちなみにあるエピソードで過去に飛ばされて先生の祖父・信夫と出会ったことがあり、当時立体写真にハマッていた彼の頼みで写真のモデルになっていた。この写真を信夫が先生に見せ、「いずれお前のお嫁さんになる人だよ」と教えていた経緯がある。

  • 大河原キン
通称は「ばあや」。一色先生宅の家政婦。御年142歳だが、本人は82歳と突き通している。
一色先生が子供の頃から家に仕えている。先生の父と母の生前を知る数少ない人物。
よき家政婦として一色夫妻との仲は良好だが、時折人外じみた能力を見せ、数十年見た目が変わらないなど密かに謎が多い。
長年生きたことで体が半分魔物と化しているという説もある。(戸籍には魔物と書かれた)

  • 大仏次郎
鎌倉警察署の署長。
魑魅魍魎が関わる数々の事件を見て来ただけあって懐が深い人物だが、事件は一色先生に丸投げ気味だったりしなくもない。
瓜二つの兄・太郎がおり、こちらは奈良署署長。
三丁目の夕日にも出演したことがある。

  • 恐山妖介
鎌倉署特捜部の刑事。
強力で敏感な霊媒体質で、殺人事件などが起きた時に被害者を呼び出して乗り移らせ、犯人を聞き出すのが仕事。ただしたまにその辺の浮遊霊が乗り移っていることもあるほか、ある話では王さんの生霊が憑依したことも。
前髪で視線を隠した背の低い男で陰気に見えるが、中身は至って普通のおじさん。
このほかこっくりさん担当の稲荷刑事、水晶玉担当の河原河太郎刑事がいる。

  • 鎌倉ルパン
地域密着型の怪盗。
名前はローカルだが腕も頭も冴えている。一色先生とは仕事上ライバル同士であり、幾度となく一色先生を出し抜いた。そして紳士(二重の意味で)。
先生の著書の愛読者でもあるが、遅筆ぶりに業を煮やして苦言を呈したことも。

  • 狸山ポン吉
葉山署勤務のタヌキ刑事。葉山で時々起こるタヌキ絡みの事件を担当する。

  • 健さん
鎌倉簡裁の判事。彫り物入りで強面…と初見ではヤクザにしか見えないが、立派な法務員である。
腕っぷしもかなり強く、先生と二人でヤクザ共相手に大立ち回りをし、誘拐された人を助け出したこともある。
先生の大学時代の先輩。

  • 一色信夫
一色先生の祖父。劇中では既に故人で、回想シーンが主な出番。温厚な性格で子供時代の先生を可愛がっていた。
生前は日本屈指の頭脳で知られた天才民俗学者であり、古代呪術関連研究の第一人者だった。
そのせいなのかどうなのか、未来が見えているとしか思えない言動や遺産を残している。また、何らかの方法で死者を呼び出すことも出来たなど、先生以上の天才である。
また、あるエピソードでは魔力を持った起き上がりこぼしの力で過去に飛ばされてきた亜紀子と会ったことがあるが、この時の対応はさすが先生の祖父と思わせる冷静っぷりである。
著書も多数残しており、それらの印税は若き頃の先生(先生は8歳で母親を、中学生で父親を亡くしている)の生活を大きく助けてくれている。

  • 本田健一
一色先生の担当編集者。昔は小説家を目指していたが、挫折している。
70年前にタイムスリップし、円城寺君子と結婚すると、かつて自身が目指していた小説家になり、「有島育郎」と改名した。

  • 亀ヶ谷の猫王
鎌倉に住む猫の総大将。絵画には恐ろしげな形相で描かれているが、本物は糸目と丸っこい耳が印象的なほのぼのした外見。子牛ほどもある巨体が特徴。
その立場と猫柄から鎌倉の猫達の尊敬を集めているが、その一方個猫としての付き合いが長い連中も多い。
ネズミの総大将である根津弥甚八は終生のライバル
ちなみに初登場時は一色先生の家で大量発生したネズミ退治の切り札として業者に応援を要請される、という話だった。
実は娘が一匹いたが、交通事故で亡くしている。

  • 謎の悪魔
この世界観には悪魔や魔物が普通に存在するが、ここで挙げるのは時折発生する「復讐による殺人事件」の犯人に手を貸しているモブの悪魔たちである。
劇中で彼らの姿が描かれるのは、犯人が一色先生に動機や犯行の全貌について供述しているシーンの回想のみであり、「もしかしたらあれは悪魔だったのかも知れない」と語られるのみ。
特に取り引きをしているような描写はなく、「これを使えば怨みを晴らせるだろう」と告げて一方的に道具を与えたり手段を教えたりしている。
彼らはいったい何を求め、何のために犯人たちに手を貸すのか? その理由はおそらく、永遠に謎のままだろう。


【突き抜けた世界観】

この漫画を語る際に欠かせないのは、先ほど述べた通り遊戯王を凌ぐ程のぶっ飛んだ世界観である。
その例をほんの少し紹介すると、


  • 鎌倉は魔界と隣町みたいなノリでつながっている。夜になれば百鬼夜行
  • だから住人と妖怪が顔見知り
  • 妖怪や怨霊関連の事件に対処するため、警察署にイタコやこっくりさん専門の捜査官がいる。更に化け物対策の銀の銃弾も完備。
  • 博物館に展示されている妖怪退治専門の刀が一色先生の依頼でほいほい貸し出される。
  • お隣の葉山町はタヌキが人間に化けられるという理由で住民権を持っている。その関係で動物愛護法が国法の数十倍厳しい。代わりにタヌキといえども犯罪に手を染めれば逮捕される。
  • 魔界ツアーとか魔界テレビとかがある。
  • 幽霊が普通に街に溶け込んでいる。迷惑行為で警察に捕まったり、頼りない娘のために家に居座ってたり。
  • 鎌倉に長く存在した器物は意志と魂を宿し付喪神になる。
  • なので器物の力や魔力が裁判の判断材料にされている。
  • 海に本物の龍が生息して図鑑にも載っている。このうち鎌倉龍は特別天然記念物。玄武とかもいる。
  • 環境が地獄と直結。地獄の火山が噴火すると猛暑に見舞われる。
  • 湖に本物のヒトダマが生息している。捕獲の方法まであるが、これまた天然記念物なので勝手に取ると罰せられる。
  • 地蔵や仏像などの集会が人知れず行われている(ものによっては協会の存在も語られている)。


こんなとこに住んでいるためか人々(や物々)も色々とアレであり、

  • 既存の科学技術の数十年単位で先を行く変態技術者・科学者達
  • 小説を書いて生計を立ててる山姥(作家・中森桃子)
  • サボテンの接ぎ木の要領でクローンを生み出す人
  • 敵討ちするため足掛けウン百年生きてる人
  • 過去からやってきた本物の宍戸梅件
  • 探偵やってる現代版忍者
  • リアルかぐや姫
  • 未来予知能力
  • 世界旅行をする風見鳥
  • 迷惑行為で警察にしょっぴかれる幽霊
  • 変身術者
  • 母親に化けて人間を育てた猫
  • 金曜日に出る映画館の幽霊
  • 災害にまぎれて現世に逃げ出す地獄に落ちた連中
  • 博物館に展示されている天女の羽衣と天狗の隠れ蓑(いずれも本物
  • 納豆大好きになって出家して巡礼僧になった真祖ドラキュラ
  • 牛ぐらいある猫(猫王)
  • 寺を乗っ取ろうとした裏切り者を成敗する開祖の即身仏
  • 自分が殺された事件を作家に取りついて作品のネタにさせる亡霊
  • 明治時代に死んだ持ち主を救うためにタイムスリップを起こす時計
  • どう見ても○ッキーなネズミの王様
  • 宇宙中の災厄を身に纏っている流し雛
  • 死んでも変わらず誰かが気づくまで日常生活を続ける人々
  • ウサギ宇宙人
  • 普通におきるタイムスリップ過去改変
  • 人喰いタクシー
  • 遺産相続の契約で転生を繰り返していた死刑囚
  • 地獄から来たマルサ
  • 葉山の海岸に産卵にやってくる玄武
  • 尋ね人のはずが悪戯者過ぎて指名手配になっているサタンの娘
  • 空を飛ぶ梅の木
  • 浮気の片棒を担がされてグチる鎌倉の大仏
  • 仏像盗難事件についてサミットを開く仏像たち
  • サンタクロースに扮してプレゼントを配るお地蔵様達(+さらっと言及された鎌倉地蔵協会)
  • 鎌倉のナマハゲことカマハゲ
  • 墓に小便をされた恨みを晴らすために20年近く待っていた武者の亡霊
  • 血の池地獄を利用したエステ(違法)
  • 殺された檀家の仇を打つ梵鐘
  • 魔界で命を宿して子を生んだ商品を並べる100円ショップ
  • 石化させた人間で画廊を開いたメデューサ
  • アポロより先に月旅行に行ったタヌキの英雄(八百八郎狸)
  • 鴉天狗の甘酒屋
  • 大入道のD-1(デス1)選手VS鬼のプロレスラー
  • 進んだ科学力を使ってピザ屋を経営している猫顔の宇宙人
  • 血を吸うユニコーン
  • 小説家になった猫
  • 恩義のある飼い主の遺児を助ける為に狛犬に頼んで超パワーを得た犬

……などなど枚挙に暇がない。特に幽霊関連が多く、ほとんど街の住民と化している。

近年はファンタジーの要素を強めており、レギュラー陣を中心に置かない読み切り的な作品や、作中で数十年が経過するエピソードも多くなった。
この場合大抵一色先生は最後のコマに後ろ姿だけの登場。




【その他】



追記・修正は鎌倉に行ってからお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2025年02月22日 22:27

*1 魔物と人間ではセンスが違うため。人間にとってのホラー漫画は、魔物にとってはギャグ漫画になる。