ULTRA N PROJECT

登録日:2014/01/30 Thu 22:22:31
更新日:2025/06/18 Wed 00:39:17
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諦めるな……!


ULTRA N PROJECT(ウルトラ エヌ プロジェクト)とは。円谷プロダクションによる雑誌連載・映画・テレビドラマからなる連動企画の事である。
ハイコンセプトウルトラマンシリーズ第1弾。


概要


ウルトラシリーズのコアターゲットを未就学児童からさらに上の層に広げるべく、2004年に円谷プロは新しいウルトラマン像の創造を目的に「ULTRA N PROJECT」を企画。
新たなウルトラマン像*1の開拓を目指して製作した企画である。
イベントショー、雑誌、映画、テレビと言った各ジャンルをリンクさせたメディアミックス展開を行った。
対象年齢を上げたという面ではウルトラマンの後のウルトラセブンと同じとはいえる。

しかし、TVの放映時間や映画の公開時期が当初の思惑と異なり、『ネクサス』は視聴率・玩具売上不振による放送短縮。
ULTRAMAN』は「この路線では万人に売れない」と判断した松竹の広報が極小的に上映したため、興行は爆死。そしてこれらに伴う続編の製作中止。
各ジャンルの連携も上手く活かされず、結果として企画は頓挫。
円谷プロが立ち行かなくなる原因になり、以後のウルトラシリーズは過去の人気キャラクター再登場を前提とした作品作りへと大きく舵を切る事となった。
このことは、撤退の決定を行った当時の円谷プロ社長・円谷英明が解任される一因になったとされるらしい*2

しかし円谷プロのスタッフ面々はなんやかんやでこの企画のキャラが大好きであり、度々再登場する。
エイプリルフールでもゾフィーを筆頭に多数のウルトラ戦士が弄られてる中でザギやネクサスは中々の好待遇。ネクサスは微妙に弄られてる気がするけど
もちろんノアとゼロの関係のように公式設定に絡むこともあるため、単にギャグ要員としての起用にとどめないあたり、本当に気にいっているようだ。
特にダークザギカオスヘッダー0の様な特殊例を除けば、平成TVシリーズラスボスで初めて再登場を果たしている。

残念ながら、『ウルトラマン列伝』では連ドラ構成とグロ描写のため、総集編や特集での出番がほとんどだった。
だが、同時に岡崎聖プロデューサー公認の列伝総集編ご用達戦士ともなっている。

本プロジェクトの世界観は、『ULTRAMAN』脚本および『ネクサス』のシリーズ構成・脚本である長谷川圭一が大きく関与しているとかなんとか。


テーマ


各作品にはそれぞれNから始まるタイトルとNから始まるテーマが設けられており、それぞれ以下のようなテーマが存在する。


NOA NOSTALGIA・・・魂の原点回帰

NEXT EVOLUTION・・・次なる進化

NEXUS TRINITY・・・三つの連鎖

企画の順番は意外にも「劇場作品『ULTRAMAN』」→「テレビ作品『ネクサス』」→「空白期間のためのキャラクター(ノア)」である。
劇場作品の企画から『ULTRA N PROJECT』の全ては始まっており、その中で「劇場作品を盛り上げる」ためにTVシリーズとして『ネクサス』の初期案が上がり、それに合わせて劇場作品上映およびTVシリーズ放送開始までの空白期間を埋めるべく、雑誌展開を基軸に置いたニューヒーローであるチートラマンウルトラマンノア』の制作が見込まれた。

以下、作品ごとに解説していく。

ULTRAMAN

元々は「YELLOW EYES」というタイトルで、シリアスかつダークな作風の「力を手にした青年が戦いの中で正義に目覚めていく」タイプの物語の予定だった。
しかし、9.11アメリカ同時多発テロ事件を見たスタッフ達によって方向転換され、現在のような「ウルトラマンとなった父親」が主人公の家族向け映画として作られることになった。

そのため、映画はリアルな怪獣災害という側面を持ちながら、父親が子供のために戦うストーリーなど、暗くならない配慮がなされている。
また随所に『ウルトラマン』『ウルトラQ』など過去作品へのオマージュも込められている。
ちなみに「YELLOW EYES」というのはウルトラマンの目と、危険信号としての黄色のダブルミーニングである。

当初『ULTRAMAN』は『ウルトラマンコスモス』同様に『ネクサス』の放送前に公開される予定であった。
だが、何か問題があったのか最終的に本編第1話から2か月後に放映され、TV本編のCMでは本来同一人物であるネクサスがネクストと握手し彼を応援するという今見るとシュールというか自画自賛に見えるものがある。

制作の背景には、同じヒーロー物である『スパイダーマン』などのアメコミ映画が大人も楽しめる映画として成功を収めたことがあり、その日本版を狙って制作された。

…のはいいのだが、当の松竹は故・渥美清主演の映画『男はつらいよ』の頃から「いい映画は何もしなくても客が入る」と宣伝活動に力を入れなかった上、『コスモス』の主演逮捕騒動で多くのクレームに頭を悩まされていたのか、ウルトラマンシリーズに警戒を示すようになっていた。
そこで円谷側から出された「リアルでハードなウルトラマン」という今作のコンセプトに難色を示したのか「大々的に公開するつもりは全くない」と上映劇場を少なめにしている。

この結果より、映画興行収入的には1億5000万円と大爆死を遂げる。一応、作品自体の出来はそこまで悪くなかったので、DVDの売り上げは好調だった。

ウルトラマンネクサス

前作『ウルトラマンコスモス』から数年経ち、視聴していた子供達の成長に合わせて内容を複雑にした作品。

かつてアニメが子供番組のフォーマットの中にシビアなテーマをオブラートに包み込む事で、少しずつ視聴者層を広げていった流れを意識したものらしい。
…実際には全くオブラートに包まずに(特に序盤は)ピンチの鬱展開の連続だった。

映画『ULTRAMAN』の5年後のという設定で世界観を共有し、中心となったスタッフ陣も『ULTRAMAN』のスタッフと同じである。
但し元々は映画とは無関係な企画として進められていたが、後に上記の通りメディアミックス企画として世界観が統一される。

本作の世界では「ウルトラマンに変身できる人間=デュナミストである適能者」が複数登場し、彼らの代替わりが描写された。
タイトルの「ネクサス()」とはウルトラマンの力が次代へと伝えられることを意味している。

ウルトラマンに変身する人物が地球を守る防衛チーム(ナイトレイダー)に所属しておらず、主人公も特殊能力を持たない普通の人間である。
またナレーションを主人公が担当しているのも特徴。
ウルトラマンに変身する人物には変身アイテム以外にも専用武器が与えられており、変身前での戦闘の描写も多い。

今までの防衛チームはウルトラマンの力を借りずに怪獣を倒せないことが多かったが、本作では防衛チームのみで怪獣を撃破する描写も多く見られる(科学特捜隊ZATも撃破数は多いが、その分撃墜数も多い)。
そして本作以降もその描写の比重は高くなっていき、GUYSZAPなどは過去作品の技術を応用した技術で多数の怪獣を撃破している。

本作から、長年続いてきたフィルム撮影に代わり、特撮パート・ドラマパート共にデジタルビデオ方式の一つであるDVCPRO HD規格でのVARICAM撮影に切り替わっている。

企画当初から予算不足やらスケジュールの関係で、それまでと同じウルトラ作品を作っても単なる縮小再生産になる恐れがあった。
そこで、特別チームを隠密組織にしてウルトラマンの戦いを人知れずにする事で、街中の戦闘や大勢のエキストラを排し、それらを裏付ける設定を作り、連続性を導入してドラマ部分を強化する事となり、ネクサスという作品が完成した。

…のはいいのだが、放送枠が従来の土曜夕方6時から土曜朝7時半へ放送時間帯が変更される。この作風で。変更されなくてもアウトだけど
因みにこの放送時間帯変更はかなりギリギリの段階で決まったらしい。
スタッフ的には朝7時半でなく深夜31時半ぐらいの気持ちで製作に当たったようだが、どう頑張っても土曜朝7時30分は土曜朝7時30分であって深夜31時半ではない。
さらに予算削減の為に上記の様な設定を作ったのに、スペースビーストのスーツには従来作品の倍以上の予算をかけるなど、当時の現場の歪な構造が浮き彫りになっていた。

既存の視聴者への放送時間帯変更の告知不徹底、朝7時半と言う時間帯とズレた作風等により、一部の場面に対して朝日新聞に批判が載るなどの事態ともなった結果、放映は1クール短縮の憂き目に遭う。
その結果、本来ラスボスとして設定画も描かれていたダークルシフェル*3に代わって、スーツも製作されていたダークザギがラスボスとなった。

…一応、そのおかげで全ての伏線を上手く1話にまとめ上げたあの最終回ができた訳だが。

ウルトラマンノア

雑誌掲載時の名前は「バトルオブドリームNOA」。
「ULTRA N PROJECT」第一の使者であり、ノアの活躍はイベントショーと雑誌展開で物語が進められた。

『テレビマガジン特別編集 ウルトラマンネクサス&ウルトラマンマックス』によると、怪獣墓場から蘇った怪獣や宇宙人達に苦戦するウルトラマン達の前に謎のウルトラマンであるノアが現れ、ブラックホールから現れて怪獣や宇宙人達を操るザギと戦いを繰り広げるとの事。
最終決戦でノアはザギをブラックホールに吹き飛ばした後、完全に封印する為に自らもブラックホールに姿を消したとなっている。

詳細は例に漏れず雑誌によって微妙に異なる。ザギがウルトラ戦士を苦戦させたといっても3人だけだったり、本編と微妙に矛盾する描写があったり。

ウルトラマンノアが従来ではなかった光反射の強烈なメタリックシルバー塗装、アクションの障害になる背中の翼などの特殊なスーツなのは、本来雑誌展開を主体とするため従来とは異なるものを造形したためである。
そのため最終回に出た際にはわざと汚したり*4、ステージに出る際には邪魔なノアイージスを取る事になっている。設定上ノアイージスが縮むのは明らかにこれが原因。

他2作品が成長した子供や大人向けの作風であったのに対して、ノアはメディア展開を幼児・児童向け雑誌であるテレビマガジン、てれびくんにての雑誌連載が中心に行っている。
時系列順ではノア→ULTRAMAN→ネクサスなので年齢順と言えば年齢順なのだが。


最後に


結局、このプロジェクトは商業的には失敗に終わってしまった。
だが、作品自体の出来は全く悪くは無い上に、後のシリーズに与えた良い影響もある。

結果的に円谷プロダクションに大ダメージを与えてしまった本企画ではあるが、今もなお皆に愛されているのである。多分





NEXUS それは受け継がれてゆく魂の絆

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最終更新:2025年06月18日 00:39

*1 円谷プロではこれをネオスタンダードヒーローと呼称している。

*2 もっとも本作に限らず円谷プロはすでに大きな問題を複数抱えており、英明解任も親族間の確執があったことが本人たちの証言で残されている。

*3 姿は劇場版に登場したビースト・ザ・ワンの顔をしたダークザギのようなもので、首元にはダークファウストとダークメフィストの顔があり、「第三の暗黒巨人」としてデザインされていたことが明かされている。石掘がラスボスなことは当初から決定されていたので、「本来はダークザギではなくビースト・ザ・ワンが正体という設定だったのではないか」と推測されている

*4 そのままだとカメラやスタッフがノアのスーツに写り込んでしまうため。