伏線

登録日:2011/10/10 Mon 11:41:59
更新日:2025/02/24 Mon 16:13:24
所要時間:約 18 分で読めます




伏線(ふくせん)とは、「今後の展開を予め仄めかしておく事」及び「仄めかすための描写」である。
予め展開を予想させることで、その後の展開に唐突感やご都合主義を感じさせるのを防ぐための作劇法の1つ。
類義語に「フラグ」がある。
よく「複線」と間違われる(こちらは2つ以上平行した線のこと)。




【創作の技法として】

小説(ライトノベル)・漫画・アニメ・ドラマ(特撮)・映画・ゲーム等、シナリオを売りにしている作品では媒介問わず最重要要素の一つ。
ミステリーに限らず、現代の商業作品で伏線の全くないものは殆ど存在しないだろう。
なお、ミステリーの場合はこの「伏線」自体が話の本題になっていることが多く、これがいい加減だったりそもそも伏線がなかったりすると叩かれやすい。

伏線を用意することを「伏線を張る」、用意した伏線を利用することを「伏線を回収する」と言う*1

伏線の使い方には2種類ある。

1.先の展開を予め予測させて、唐突感やご都合主義を感じさせるのを防ぐ伏線

上で言ったのとほぼ同じで、例えば
序盤で「○○とは初めて会った気がしないな……まるで弟みたいだ」

実は終盤で生き別れの弟だったことが判明

のちに生き別れの弟と判明する人物に主人公を引き合わせて置き、弟のようだと発言させることにより、後に判明する真相の暗示になる。
伏線といいつつもあまり伏せられていないタイプ。

2.一見すると唐突感、ご都合主義的な展開に見えるが、実はそうではなかったことを示す伏線

こちらはかなり練られた伏線であり、例えば
突然味方だと思っていたキャラが裏切った!

しかし、話を序盤からよく読み返すと、「道に迷った」といいながら重要な施設の付近にいた、特定の人物に視線を向けているなど、不可解な行動をしていた。

何気ない行動に見えて、真相が明らかになると別の意味を持っていたというパターンであり、
綿密に練られていれば、真相が明らかになるまで伏線だったことに気づかせることすらない。
伏線としてしっかり伏せられているタイプ。
「伏線すげえ!」となるのは大抵こちらの使われ方である。


最近の作品では大量の伏線が張り巡らされているものも多いが、回収されないまま終わる事も多い。20世紀少年FF:U ~ファイナルファンタジー:アンリミテッド~ゲゲゲの鬼太郎(第5シリーズ)HEROMAN
大風呂敷を広げ過ぎて収拾がつかなくなるパターンか、回収前に打ち切りに遭った雑誌掲載漫画が多い。
もしくは「これは伏線だ!」とユーザー側が思っていてもそうでない場合もあるにはある。
週刊連載など読者人気が連載に影響する場合、テコ入れや読者の反応の良し悪しで話の展開を変えることはあるため、それにより伏線として使う予定だったものを使えなかったりすることもあり得る。

当初は伏線のつもりではなかったものを、シリーズや連載を重ねている途中で上手いこと伏線にしてしまうものもある。
この辺をとちると「後付け」と非難の元になるが、『とっても!ラッキーマン』みたいにアフターフォローが巧い作品や、ゆで理論のように「こまけぇことはいいんだよ」的に一周回ってバカウケする作品も多々ある。
要は尾田栄一郎先生宜しく「伏線はとりあえずいっぱい出せ。後で使えそうなやつだけ拾えばいい」というやつである。

これの応用として本編の前日談で、本編のセリフや行動(それも些細で本筋にはかかわらないもの)をまるで伏線のように扱うものもある。

また、他の媒体で伏線を回収するパターンも少なくは無いが…(下記参照)


【伏線の技法・パターン例】

明確な定義があるわけではなく、「読者を楽しませる」という目的に沿っていれば何でも良い。
(具体例はネタバレ部分ステルス&格納)

1. 張る際に、極力目立たなくする、気づかれないようにして一旦流す。つまりは「伏せて」おく

登場人物の何気ない行動、一見ただのギャグな描写、現実でもどこかしら見当たりそうな背景が実は重要な意味を持っていたりなど、
その時点では特に意味のない描写と読者に思わせておき、後でその意味を明かして読者を驚かせる。
上の2に該当するタイプの伏線であるが、勘の鋭い読者には読まれやすく、勘の鈍い読者には気付かれにくい為張り方が難しい。
非常に上手く決まった後付けはこれと見分けがつかない。



2. その時点で何らかの前兆だとわかるが、回収までに長く間を開けたり、間に新展開や超展開を多数挟む

後から見返すと確かに怪しい・または決定的な行動をしているが、その時は絵面・内容のインパクトに圧倒されスルーしてしまい、イベントがあったこと自体を忘れさせておくのを狙う方法。
一応読者・視聴者も「何かが起こる前兆」らしき前触れなのは分かるので、伏せるというよりは「布石」に近いものも。

ただ、整合性を付けておくための難易度が上がる。
イベントのアイディアの派手な演出の仕方に捕らわれすぎて、冷静になって見返すと途中で点と点がつながってないという「木を見て森を見ず」なケースも少なくないため、余裕があればプロットの時点で調整しよう。


3. パッケージや宣伝の段階で伏線を仕込む(映像作品やゲームならばOP等も含む)

まさかそんな本編に関係ない所にヒントが隠されているとは思わない、という盲点を突いたもの。
ただしあくまでストーリー中のことではないため、ニクい演出や小ネタの類として分けて考えられることも。


4. 過去に起きた大きな事件や重要人物等、名前や一部分だけを見せて「近いうちに回収する雰囲気」を出すことで士気高揚を図る

手紙やメール等、送ったor受け取った事実だけを描写し、内容は回収時まで明かさないといったパターンも。
そもそも「伏せて」いないため伏線に当たるかどうかで意見が分かれやすい。単純に前フリとも。


5. 上記以外

1〜4に似ているものもあるが、他にも様々なパターンがある。



前述のとおり明確な定義はないが、一般的にシナリオに関して「伏線」を使う場合2・4番目のような「匂わせる・ほのめかす」事例には使わない。
この場合は「布石」「前振り(フリ)」とかか。なんか会話がかみ合わないなと思ったら使ってみよう。


【注意点】

尚、伏線を張る際の注意点として、伏線を放置したまま作品終了がある。
打ち切りエンドならともかく、ちゃんとした終わり方なのにこのパターンは、ファンからの顰蹙を買いやすい。
後に特別編やファンブック、作者のブログ等で補完される事もあるが、伏線はちゃんと作品内で回収しきる事が望ましい。
まあ、明らかに本筋の整合がとれない箇所はともかく、回収されなくとも本筋に影響がないのであれば、回収する意味もないし読者側が勝手に伏線だと思っていたという上記のパターンもありえる。
というか、伏線の定義から言えば、伏線の様に見えても作品内で回収されなかったものは伏線ではないということになる訳だが。



【エンターテイナーとして割り切った方達】

もっとも「『必然性が尊重された、論理的なまとまりのある物語』として磨き上げるために伏線回収としての説明・状況描写」等に尺を割くよりも、
「『所々ガバガバでも高揚できて盛り上がる商品・エンターテイメント』として成り立つための演出を優先したほうがファンを満足させられる」と考えたのなら、それも一つの答えではある。
長くそのスタンスに徹していると、制作サイドにとっての一種の「売り」「美学」「生き様」へと昇華する場合もある。


この辺はその手の思想の代表である藤田和日郎先生の言葉を引用・要約すれば、
広げた『伏線』『謎』って実は大事ではないんです。自分がストーリー上に仕掛けた『謎』を誇る人もいますけど、
そんなんで人の心は動きませんって。『明日も頑張ろう』っていう力をファンに与えるのが重要なんです。少年漫画では特に。
そんな大事な所でからくりを見せたって、それはできませんよね。だから実のところ『謎』なんていうのはちっぽけなものなんですよ。
僕は伏線の回収とかをよく褒めてもらいますけど、そういうのは『別にいつバレてもいいや』と思って描いてますからね。
大事なのは主人公たちがその『謎にどう立ち向かって、その結果辛い現実があったけど、でも主人公たちは負けないで戦った』というのが一番カッコいいし、大事なんです。
つまり『こいつはこんな風に生きたんだ』『こんな風に成長したんだ』というのがそれで、それがファンの満足にもなるし、キャラクター自身の満足にもなるんです
ということに交わりそうな部分があるだろう。

但しこの方針を乱用し過すぎると、
ファン・スポンサーを納得させるために仕方なく盛り上がるシーン作ってるけどさ、
そういうのって、本来は本筋の進行の停滞にしかならないからね?
という姿勢で大体の商業作品を斜めに見ている押井守監督宜しく、

「無理に見せ場を作っているのが見え見えだ…1度見ればもういいよ…」

と冷たい視線で見られかねないので、長く付き合ってもらうためにも、
事前に「大まかな縦筋の起承転結」「世界観の地盤作り」「段階の踏み方」はなるべく丁寧に決めながら行おう。


【大人の事情】

作者が伏線を回収したくても諸事情で出来なかったケースもある。
歴史ギャグ漫画『風雲児たち』では、
思想家「頼山陽」の話も詳しく書こうとして伏線を張り取材もするも、編集部からの「巻き」や話の流れなどの関係で殆ど触れられなかった
と作者が回顧していた。


【チェーホフの銃】

伏線と良く似た概念。
出したものの重要性を後で明らかにする創作上の手法であるが、不必要なものを舞台に上げないルールと取られることが多い。
前者は伏線の様にも見えるが、読者に明らかにする形の伏線だけでなく、当初は大した意味がないと読者に思わせていたものが後で重要な意味を持っていたと明かされる様な、指示の反復もこれにあたる。
後者はその逆で、関係のない人物や謎を登場させて、読者に重要そうにみせて実はそうではないという肩透かしや話の矛盾を産み混乱させる様な要素は出してはいけないという話の原理になる。



追記・修正は伏線を回収してからよろしくお願いします。
この項目には伏線があるような気がしたが、別にそんなことはなかったぜ!

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最終更新:2025年02月24日 16:13

*1 「伏線を張る」と違ってよく使われてる表現というだけあり、別にこのような熟語があるわけではない