銭闘(プロ野球)

登録日:2015/09/27 (日) 22:09:56
更新日:2024/01/06 Sat 20:49:19
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誠意は言葉ではなく金額

中日ドラゴンズ・福留孝介
(2007年の契約更改後のコメントより)




概要


銭闘(せんとう)とは、プロスポーツ選手(主にプロ野球選手)がフロントと年俸を巡って戦うことである。

銭闘という単語自体はプロスポーツ世界以外でも使用されるが、多くはプロ野球の年俸交渉を指して使われることが多い。というかニュースで主要選手の年俸交渉が報道されるスポーツなんて、日本ではプロ野球くらいのものだろう。
そのため、この項目でもプロ野球に関して記載していく。

ちなみに、選手の年俸は大半が「推定」である。
選手が素直に「1億円です」と話すこともあるし別にルール違反ではないのだが、多くは成績などから推定している。
野球記者の研究や努力もあり、推定年俸もかなり実像と近いらしい*1
かつて中日でプレーしていた野球解説者の川又米利は、かつて中京テレビで放送されていたスポーツスタジアムという番組内において、推定というのは実際はどうなのかと司会者に聞かれた際、

「大体合ってますね。近いですよ。」

と公式回答している。

解説


プロ野球のシーズンは、日本シリーズも含めて11月上旬に終了する*2
そして戦力外通告は日本S終了翌日まで(日本S進出チームは5日後まで)とされており、ここを乗り切ればとりあえず翌シーズンもプレイすることができるのだ。

ところが、戦力外通告を免れた選手たちには最後の戦いが待ち控えている。
そう、自身の来季以降の給料を決めるシーズンオフの『契約更改』だ

複数年契約など特殊な事情や経緯がある選手以外は、この場で自身の収入を上げる為に戦う。
選手側は自身の活躍や成績、会話術を生かして年俸の向上を狙う。
場合によっては、代理人を同伴させてまで年俸のアップを試みる選手も存在する*3

しかし、選手側だけでは無く球団側もこの契約更改は戦いなのだ

球団も完全な道楽で経営を行っている訳ではないので、出来れば年俸のアップは避けたいし上がるにしても最低限にしたい。
他方で露骨な買い叩きをすれば、主力選手にFA宣言されて逃げられるしファンからも白い目で見られかねない*4
そのため、フロント側もあの手この手で選手たちの要望を汲み取りつつも金をかけないですむように戦いに挑む。

シーズンオフから始まる契約更改は選手ごとによって様々。
特に問題が生じなかった場合は数日ほどで終わるが、交渉が長引くと春季キャンプまで続くことも。
その場合厳密にはその球団の選手ではないので「自費キャンプ」を強いられることになる。
ただし契約更改が終了してしまえば、それまでに選手が自費で支払った分を、球団側が選手に支払う仕組みになっているようだ。

これらの選手とフロント側の戦いは、年末で暇な時間が増えるプロ野球ファンの楽しみの一つとなっている。

何が楽しみになっているのかというと、球団側の選手に対する評価が見られるという点がある。
成績が最重要なのは言うまでもないが、例えば選手グッズなどの売上なども反映されるため、同じくらいの成績の二人に人気で差がつくという事も起こる。

そして同時に、この選手とフロントの銭闘は(お互いが必死なため)迷言や珍言が生まれやすいのだ。
また、球団は交渉のプロを連れてくるが選手は交渉は素人の場合が多い。プロが素人に挑もうとする中で常道を外れ、面白発言になってしまうケースもある。
なので、プロ野球ファンは新聞で発表される年俸更改の結果や選手たちの発言を楽しみにしている。

このような中で、滅茶苦茶な迷言を生んだり毎年のように交渉が長引く者は「銭闘民族」「銭闘士」とファンから呼ばれることがある。

なお年俸の極端な減額は、選手が確定申告の際に税務署に所得税を支払えなくなってしまう危険があり、選手の生活さえ脅かすリスクが高い。
それどころか下手をすると金額によっては所得税が収入を上回ってしまい、選手の破産を招く事にもなりかねない。
選手に落ち度のない故障などで年俸がなくなる事態も避ける必要がある。
そのため、元の年俸が1億以上なら前年の40%、1億未満なら前年の25%を超える減額は、選手の同意を得ない限り禁止されている。
落合博満が中日時代に史上初の年俸1億円に到達した際、

「年俸1億と言っても税金で7割取られて、手元には3000万しか残らなかった」

と語っていたのは非常に有名な話である。

有名な銭闘士の一例


中村紀洋


多分プロ野球史上でもトップレベルの銭闘士。

今は無き大阪近鉄バファローズで主砲として主力野手のひとりに成長した彼は、いつしか欲望に忠実になった(通称:黒ノリ)。
そんな彼は、経営が芳しくなかった末期の近鉄に対して傲慢な要望を突き出すようになった。
渡米寸前には「中村紀洋というブランド」などの迷言を生み出した。

以下のコピペは近鉄時代の中村の高すぎる要求を表したものである。

  • 8年43億円の契約
  • 専属マネージャー
  • 年金
  • ポスティングシステムを使っての大リーグ入り容認
  • 家族にボディーガードをつける
  • 子供の進学の面倒を球団が見る
  • 家族のためにお手伝いをつける
  • いつでも気分転換できるように常時プレーできるゴルフ会員権が欲しい
  • 護衛をつける
  • 両親の家を建てる

もちろん上記のコピペは全部本当の話かどうかの確証は無く、ネタ的な意味合いが強い。
しかし、この時期の中村がお金に関してこのコピペのような要求をする状態になっていたのは否定できない。

そして浮かれていた中村が年俸5億の2年契約を要求(つまり合計10億)をした際に、遂に近鉄本社社長が痛烈に彼を批判。
なんで中村みたいなアホに5億も払わなあかんの?社会的犯罪ですよ。泥棒や」という社長の発言も相当有名である*5
まあ近鉄の「どんぶり勘定」が相当酷かったようなのでどっちもどっちではあるが*6

そんな中村は、近鉄が消滅した後渡米。1年で帰国すると今度はオリックス中日楽天横浜と様々な球団を渡り歩く。
渡米後のオリックス時代などでも年俸交渉の際は珍言を残している。

オリックス退団後に在籍した中日では育成選手契約となり、まさかの年俸500万円で合意。
当時は年俸に対する姿勢なども含めて謙虚になっていた事もあったのだが、
支配下選手登録されて一軍で活躍した年に年俸大幅増と複数年契約を頑なに要求し、それが原因で球団幹部と揉めて退団。

最後に所属した横浜ではコーチのサインを無視した挙句に反抗的な態度を取った*7事で二軍に懲罰降格となったのだが、
何を思ったのかその事をFacebookで暴露して文句を言った事で、それを目にした球団幹部の逆鱗に触れてしまった。

だが、このようなキャラを含めて中村紀洋という選手は愛されていたのも事実である。
白くなったり黒くなったりするが、ファンサービスは一貫して良かったのもあるかもしれない。

福留孝介


中日やMLB・阪神で活躍していた福留も、野球選手としてはもちろんだが銭闘士としても屈指の知名度を誇り、とくに第一次中日時代に様々な至言を生み出した。
以下がその代表的な発言である。

  • 誠意は言葉ではなく金額
  • 井端(が上がった)?1回ゴネて3000万上がるのはおかしいよ!
  • 僕の年俸が上がらないと、後輩たちに夢を与えられない
  • 年俸が上がらないから(車は)買えない
  • 上がった分は寄付するつもりだった

自身の年俸交渉に関係ない他選手を持ち出したりする姿勢はあまり良い目で見られていなかった。
特に誠意や寄付などの発言は当時のファンから痛烈に批判された発言だった。

しかし、東日本大震災の時、福留は100万ドル(当時のレートで8000万円)を個人のお金で寄付
このように上記の「誠意とは言葉ではなく金額」という発言を自分が払う側なのに有言実行したこと(しかも週刊誌がスッパ抜くまで完全非公表だったので売名目的でもない)もあって、叩かれることも無くなった。
むしろ、ブラック企業やりがい搾取に対するカウンターワードとして野球以外でも使われることも。

その後日本球界復帰時も色々ゴタゴタがあり、阪神退団時も「提示されたポストが甲子園記念館の関係者だった」などと内情をぶちまけたりしてはいたが、それ以外は特に目立った銭闘は見せず引退していった。

杉内俊哉


ダイエー・ソフトバンクや巨人で活躍した球界のエースの1人。
そんな杉内は2009年あたりまでは特に年俸で問題を起こさなかった。
ところが2010年から一転して凶暴な銭闘士へと変貌を遂げた。
2011年の銭闘士としての力は恐ろしいものがあり、一部のファンを唖然とさせた。
以下一部の発言・行動。

  • 生涯ホークス宣言
  • 携帯電話会社と同じですよ。新規加入の人には優しくて既存の人はそのまま(ソフトバンクは携帯電話会社)
  • 4年でポイ捨ては困る。45歳まで終身雇用して
  • みんな不満を持っている。言えてないだけでね。不満を押し殺している選手もいる
  • ビールかけでのオーナー無視
  • 内川だって来年もあの成績を残さないと上がらない。税金も払えない
  • 条件面は言うことはない
  • (球団)と話す気にもなれない(この時の提示は3億→3億5000万)

その銭闘力は他球団のマスコットであるヤクルトのつば九郎にさえも「すぎうちくんも はんおそう」とネタにされたほど。
しかし球団側の交渉担当の小林至の積年の暴言が原因で杉内側がキレていたからとも言われる*8。またチームメイトの和田毅との扱いの差に悩んでいたとの情報もある*9
ちなみに投手は「お山の大将」と言われることが多いように、扱いの悪さで問題を起こすことも多い*10

巨人移籍後は活躍し、ノーヒットノーラン達成や13球団からの勝利、日本勢で唯一の3大会連続のWBC代表選出などの結果を残した。
「巨人が獲得したFA投手で最高の選手」とまで言われることもある。
しかし2015年に股関節を怪我をすると、同年末には90%を超える減俸を受け入れる*11。その後リハビリに励むも一軍で投げることが出来ずに2018年に引退。

川上憲伸


かつては中日屈指の銭闘士として名を馳せた。

ゴネにゴネまくることで有名だった川上は年俸交渉の際に様々な迷言・珍言を生み出している。
以下は銭闘の際の一部の発言。

  • 1年間トータルで見てほしい。これなら優勝争いしなければよかったと思ってしまう。最下位のチームで最多勝争いをした方がいいのかと
  • 行けと言われれば、エースとして行く。しかし体はボロボロだった。『おしっこをしたい子どもが、漏れそうでも言い出せないような状態』だった
  • 優勝争いをするチームを中心に投げると成績を残しにくい。だれか代わりにやってくれという感じ
  • 査定を通信簿と考えたら学校によって違うけど、通信簿だけの評価しかしてくれていない
  • 今のままの査定なら15勝しても3000万円アップがいいところ。1億円アップとかを狙ったら27勝、28勝とかしないといけなくなる
  • ボランティアで野球をやってるわけじゃない(この発言当時の年俸3億6000万円)

しかしそんな川上も渡米以降は苦難の連続となる。
全盛期を過ぎた川上は、中日復帰後もそこそこ結果を残すものの、故障の連発によりかつてのような輝きと銭闘力は見せられず、2015年度末には中日を退団。
手術やリハビリをするものの2017年に現役引退した。

G.G.佐藤


かつては西武で長距離砲として活躍したG.G.佐藤。
実はこのG.G.佐藤も全盛期は高い銭闘力の持ち主だった*12
元々G.G.佐藤はマイナーリーグで苦労した後に伊東勤に拾われるような形でプロ入りしており、それが銭闘士になる一因となったらしい*13
以下発言。

  • 交渉している感じがしない。ブチ切れていいですか?
  • もう1人の佐藤隆彦から、G.G.佐藤を見つめ直しました(近くの多摩湖を見つめて)
  • 年を越したら夢を語ります
  • プロ野球は夢のある場所。夢のある提示をしてほしい

全盛期時代はこのように金銭面でシビアだったため、2008年以降は2年連続で年俸調停している。
そのことが原因で自費でキャンプに参加したこともあったほど。
だが、成績が大きく低迷した2010年はさすがに年俸で揉めるわけにはいかず一発サインした。

その後成績が低迷すると西武から戦力外通告になり、イタリアへ行ったりロッテにテスト入団したりと苦労していたが、2014年戦力外通告を受け現役引退。

関本賢太郎


阪神の代打の神様……だが、彼はとある発言をネタにされている。

2004年オフの契約更改でなかなか契約が終わらなかった関本。
当時の希望額とは500万円の開きがあったのだが、その契約交渉の席で来年の5月に誕生する
第2子の『何とかミルク代として』とのことで年俸の釣り上げを図ったらしい。

ミルク代……?

まあ、選手は野球はプロでも交渉術までプロではない(まさか球団が交渉方法を教える訳にもいかない)。
弁護士を代理人に交渉に臨む選手もいるが、弁護士だってただではないのであえて頼むまでもないと考えることもある。
選手が交渉の常道を知らないために珍言が出やすいという面には留意すべきだろう。

関本はその翌々年の2006年オフの契約更改で代理人をつけて交渉に臨み、1000万円増の年俸4000万円を提示をされたが、交渉中担当者があくびをしたことで保留。2度目の交渉で、2000万円増の年俸5000万円で契約に至った。この時、代理人は『彼の話は退屈であくびするのも無理はない』と冗談交じりに述べている。

武田一浩

日本ハム→ダイエー→中日→巨人。
1991年にはリリーフとして最優秀救援投手のタイトルを獲得するも、球団の提示した額に納得できず保留。
会見では「ほんと頭来る!」と言いながら椅子を乱暴に扱うかのように座り、

  • 低すぎるよ!2年抑えやってあんだけしか上がらないんじゃ、もうリリーフなんかやる価値ないし。
  • 戦うよ!今年はホント!
  • もう一生、リリーフやらない!

あまりにも球団からのリリーフとしての評価の低さに激怒した末の保留であった*14
また、同日に契約更改を挑んだ西崎幸広も自身としては納得いかない額を提示され保留し、会見では持っていたバッグを叩きつけていた。この年5年連続10勝を記録したものも、減額提示されたので保留した。この荒れっぷりはTV番組でネタにもされた。
その後は先発に転向するも、この経緯もあって球団フロントや監督やコーチらと確執が生まれ、その後トレードでダイエーに移籍した。
その後はFAで中日に移籍し、最後は巨人で引退。

アレックス・ゲレーロ


中日→巨人。
2017年に所属した中日時代はシーズン開幕当初は苦しんだものの、あっという間に日本の野球に順応し、35本もの本塁打を放つなど長距離砲としての片鱗を見せつける。
球団側もシーズン中盤から、早くもビジエドと共に来季も契約を結ぶ意思を表明した。
ところがこれにすっかり増長してしまったのか、ゲレーロはシーズン終了後、中日に対して3年15億円を頑なに要求。

  • 自分にとって野球はビジネス。自分の価値を下げるような真似は絶対にしない。
  • 3年15億円はあくまでも最低ライン。日米問わず一番高い条件を出してくれた球団に行く。

中日球団は単年契約で3億円を提示したと見られているのだが、マネーゲームは一切しないという球団の方針もあり退団が決定。
球団幹部によると特に慰留はしなかったらしく、ゲレーロは本塁打数の割に打点が低い事が問題視されていたようで*15
それだけだったらまだ良かったのだが普段の練習態度も悪い、守備があまりにも緩慢、打っても全力疾走しない等、球団内部でも相当問題児扱いされていたようである。

その後巨人に入団。2年8億円で合意した。3年15億円は絶対に譲らないんじゃなかったっけ…?
巨人では不調から二軍落ちを経験するも、それでも立ち直ってまずまずの成績を残し、巨人のリーグ優勝に大きく貢献。日本シリーズでも活躍を見せた。
だが2年契約が満了した2019年シーズンオフに、高額年俸を理由に来季の契約を結ばない事を球団から通告されてしまった。
原監督は「来季の戦力として絶対に必要な選手」だと球団側に強く要請していたものの、「費用対効果が合わない」と難色を示す球団を翻意させる事は出来なかったようだ。

余談だが、日本球界に来る前のメジャーリーグ時代、2013年オフにロサンゼルス・ドジャースに4年2800万ドルで契約するも、2014年は試合中のベンチでチームメイトと喧嘩し怪我を負い長期離脱し、2015年はある程度試合に出場するも年俸に見合う程の成績を残す事ができず、2016年はスプリングトレーニング中に故障してシーズン中に自由契約となり、メジャーリーグから見ても問題児・不良債権と評するほどだった。ちなみに代理人はスコット・ボラスであった。*16

ロベルト・ペタジーニ


ヤクルト→巨人→ソフトバンク。

ヤクルト時代は史上初となる「打率3割、40本塁打以上」を記録する、2度の本塁打王に輝くなどの凄まじい大活躍を見せつける。
球団側もその実績と実力を高く評価し、2002年シーズン終了後の契約更改では年俸6億円+出来高という破格の条件を提示した。
ところがペタジーニはこの提示条件に対し「もっと出して」と強く反発。
ヤクルト側はこれ以上は出せないと難色を示しペタジーニも譲ろうとせず、結局ペタジーニは喧嘩別れのような形でヤクルトを退団。

その後巨人に拾われ、年俸7億2000万円+出来高という破格の条件で入団した。
この金額は2021年に巨人の菅野智之(年俸8億円+出来高、単年契約)に破られるまで、日本球界では史上最高額だった。

しかし騒動の末に移籍した巨人では、打撃では活躍するものの守備では緩慢なプレーが目立つようになり、
膝の故障もあって2年契約満了後に大幅減俸を提示され、それにペタジーニが納得しなかった事で僅か2年で退団してしまった。
当時の巨人には同じファーストを守る清原和博が在籍しており、ペタジーニは慣れない外野などを守るハメになっていたことなどが不調の原因と言われている。

この騒動は多くのヤクルトファンからの怒りさえも買ってしまったようで、2003年シーズンでの神宮球場でのヤクルトVS巨人戦では、
ペタジーニが打席に立つ度に球場全体から凄まじい罵声が浴びせられてしまうという前代未聞の事態になってしまった。
選手の移籍自体はプロ野球では別に珍しくも何とも無い事なのだが、
応援されるならともかく「逆に客席から罵声が飛ぶ」なんて事例は、そこまで数は多くないのではないだろうか。
それ程までにヤクルトファンにとって、あまりにも衝撃的な出来事だったという事なのだろう。

ネルソン・パヤノ


2009年に中日でプレーした投手。貴重な左の中継ぎとして活躍した。
シーズン終了後、来季の去就が決まらないまま母国ドミニカ共和国に帰国したのだが、その際に

「来季も中日でプレーする事を熱望している」

とコメント。
球団側も貴重な左の中継ぎとして安定した投球を見せつけた事から、来季も必要な戦力として再契約する事を発表。
12月にパヤノとの契約更改の為に、森繫和ヘッドコーチがウインターリーグの視察も兼ねてドミニカ共和国に訪れた。

ところがパヤノは森に対し、球団側の提示金額を大幅に上回る条件を頑なに要求。
森は条件の上乗せは一切しないとパヤノに通告し、パヤノも譲ろうとせず、
結局パヤノはそのまま自由契約となって退団してしまった。

あれ?来季も中日でプレーする事を熱望していたんじゃなかったっけ…?


その他の選手たちの迷言集


  • 諸積兼司「おかしい…こんなことは許されない…
  • 荒木雅博ボク、ハワイで夢を見ました。球団から『低姿勢でいてくれたら、金額を上げてやる』って
  • 佐伯貴弘「もらった祝儀袋の中身が図書券だった感じ
  • 多村仁大台(1億)に行かない理由が無い。出さないと球団が恥ずかしいと思う*17
  • 井端弘和ショックで震えることってあるんですね。金額を見て10分くらい無言でした
  • 森本学「信じられん。死のうかと思った。レギュラーだけで1年間、戦ってみればいい
  • 落合英二「この程度の金額では、もう中日でこれ以上働きたくないと本気で思った。*18

銭闘員への刺客


鈴木清明


広島東洋カープ球団本部長。

基本的に貧乏球団のイメージが強い(12球団で唯一親会社を所持していない*19ものの、黒字経営を続けている)広島。
そのため高年俸選手の移籍も多く見られるが、年俸交渉で揉めるような事は他球団と比べて少ない。
なので、「貧乏球団なら内部からも銭闘が発生しやすいんじゃ?」と疑問を抱く人は多いだろう。
だが、銭闘が発生しにくい理由は鈴木本部長の存在があるとされる。

この鈴木本部長は交渉能力がどうやら非常に高く、選手達の年俸を納得した上で抑えさせる力を持つ。
選手が年俸のアップを要求しても彼の『やって当たり前』の一言でバッサリ。

2006年の『広島中継ぎの乱』での彼の実力は有名。
この反乱の際に、広島の中継ぎ投手たちは年俸アップを訴えて査定を保留。しかし……


このおかげで広島には銭闘民族が発生する余地がなく、発生してもすぐに敗れ去る。
年俸交渉を上手く行っていく鈴木本部長の手腕もあって、球団は毎年黒字経営を維持している。

ただし、これは鈴木本部長の単純な交渉手腕だけによるものとは言い難い。
広島は、査定項目が滅茶苦茶に細かい(1000項目を超える)ため、「査定項目通りです」と言われると選手が黙らざるを得ず、「あいつがこの金額なのにずるい」という言い分が使えない。
いくら鈴木本部長が剛腕でも、球団側が何の事前準備もせず、ごねられてからその場で説き伏せようとするようでは選手に簡単に言い負かされてしまうだろう。
広島で銭闘が起きにくいのは、球団側の普段からの準備あってこそなのである。

逆に、銭闘民族の多い球団は査定こそするもののどんぶり勘定のため、ごねることで増額を目指しやすい*20
中には、球団が「本来1億出すつもりの年俸をまず9000万提示し、ごねられたら1億に増額する」という半ば選手の銭闘前提の交渉をする例もあるとか。
選手が元々1億2000万よこせ!というつもりでも、「増額」という要素が出ると結果として1億という結果に満足してもらいやすくなる。
選手に交渉するつもりがなければ更に年俸を抑えられるし、球団としても選手に不満を持たれないならそれに越したことはないと言う訳である。

「細かい項目を決めておきそこから動かさない」広島流は銭闘は起きにくいが、代わりに柔軟性は低くなる。
金本知憲がFA権を手に入れた時のように「100万でいいから増やしてくれ」といった要求に答えられず流出…ということが防ぎにくい面もある。
また、項目評価に問題のあった場合にも、修正が効かず*21中継ぎの乱のような大規模な混乱がおきやすくなってしまう。
中継ぎの乱の後に項目評価は見直されたそうだが、見直されるまでに球団が見限られるリスクは残る。
そもそも「他の球団に入った同期のあいつはあんなにもらってるのに、俺はこれしかもらっていない」というのは、球団の違いというのを理解していても納得し難いだろう。
長期間にわたる広島の低迷もこの年俸システムによる主力選手流出が原因という説もあったりするので、要は一長一短ということであろう。

中日ドラゴンズ


上記のゲレーロやパヤノの項目でも述べたが、中日球団は契約更改や、外国人やFA選手の獲得競争の際に、

「たとえチームにとって絶対に必要不可欠で、いなくなられると困る選手であったとしても、条件の上乗せは一切しない。」
「マネーゲームに発展した時点で獲得競争から撤退、あるいはチームを退団して貰う。」

という点を徹底している事で非常に有名。
これは落合博満が監督に就任した2004年辺りから実施されている方針であり、
実際に中日の選手たちからは契約更改の際に、保留者がほとんど出ていないのが実情である。*22
2018年には田島慎二が一度保留しているが、球団側は条件の上乗せだけは絶対にしない、納得が行かないなら辞めてくれと本人に通告。
結局最初に提示された条件で契約したという実例がある。
この件に関して森繫和は中日監督時代に「俺たちは金持ち球団じゃねえんだよ。」と記者に語っていた事があった。
使える資金に限度がある以上、何があろうとも条件の上乗せは絶対に出来ない。
また、最初から球団だって可能な限り誠意ある金額を提示しているのに、保留と言うのは球団を信用してないということ?という面もあると思われる。

過去にも主力選手の大島洋平と吉見一起が国内FA権を取得した際、当時の球団の編成担当が大島と吉見に残留を要請しつつも、

「残って貰いたい選手だが、マネーゲームだけは絶対にしない。」

とまで公言した程である。
結局2人共FA権を行使せずに中日に残留したのだが。

しかし実際には「FA権をちらつかせるだけで高額複数年を結ぶ」、「元横浜のタイロン・ウッズに対して阪神タイガースと熾烈なマネーゲームを展開。年俸5億円の2年契約(合計10億)で阪神に勝利*23。その後活躍したので単年・年俸6億の契約を2回結ぶ」などといったこともしており、信憑性にかける。

2019年には中継ぎの祖父江大輔が1年を通し働いたにもかかわらずマイナスの提示を受けた。これだけでは特筆すべきことではないのだが、球団代表の「評価されたかったら早くFAを取れ(※要約)」といった発言や副業メジャーリーガーのレスバトラー@faridyuの介入、騒動の最中に大本営が推定年俸を2900万→3500万と上方修正して発表といった出来事から騒動になった。*24

ちなみに前述の球団代表は頻繁に舌禍を招いておりファンからの評判が悪い。大体は口の軽さと自球団・FA選手への誠意のなさ、守銭奴っぷりが原因。

衰えた銭闘員の末路


オフシーズンを楽しませる銭闘ではあるが、あまりにも揉める選手は結構笑えない状況に置かれることがある。

最初に上げられる問題点としては、選手のイメージ像の崩壊だろう。
金銭に関わる話であるが故、怒りや不満に任せて滅茶苦茶な発言をするとファンからのイメージダウンは避けられない。
上記で記載した銭闘員のように、守銭奴のイメージが付きまとう可能性も。

ただ、よほど汚い態度ではない限りイメージダウンが致命的な痛手になることは無い。
プロ野球は実力の世界である以上、野球の方で成績を出せば文句を言うファンもいない。

しかし、フロント側からのイメージが下がると非常に危うい。
上記でも述べたが、フロント側は経営者なので余計な資金の投入は避けたい。
ところが、この状況で銭闘員が戦いを挑めばフロント側はその銭闘員に対して不信感を抱く。

もちろんシーズンオフの要求に応じる活躍をすれば問題は無い。
しかし、ゴネた割には次年度のシーズンで成績を残せなかった場合には、容赦ない仕打ちが控えている。
金満球団と呼ばれ金払いの良い球団ですらも、同情して手加減するようなことは無い。

まず、成績が落ちたときにかなりの年俸ダウンを強いられるのは当たり前。
最悪の場合は自由契約で球団から追い出される(ゴネた経験の多さで可能性は高くなる)ことも多々ある。
退団・引退後に非常に重要となる球団側のアフターケアすら行われない場合も。
『球団職員への転身』『他球団へのトレード』『コーチ手形』といった手厚い保障の権利を失うというデメリットは大きい。


実際に銭闘民族と称された選手が衰えた後の扱いを調べてみると、ネタに出来ないような現実もあるのだ。

擁護意見


ただし。
野球選手だって趣味や道楽で野球をやっているのではない。
黎明期には良い意味でも悪い意味でも、それに近い態度だった選手は何人かいるのだが。
前述のゲレーロも中日時代に語っていたのだが、彼らはあくまでも「仕事」として野球をやっているのであって、自分の働きに見合った給料を要求しているだけなのだ。
ましてや彼らはどんなに頑張っても20代や30代で戦力外通告を受けて辞める者が大半で、40代まで現役を続けられる者など極僅かでしかない。
つまり勤続年数が他より短い上に、怪我や病気による突然の引退という大きなリスクも常につきまとう。
おまけに道具は大体が自腹。スポンサーに提供してもらえる選手なんて極一部でしか無い。
しかも彼らは「個人事業主」という扱いなので、戦力外通告を受けた所で球団から退職金が出るわけでもない*25。そして社会保険や雇用保険、厚生年金といった国からの庇護の対象にもならないのだ。
そういったプロ野球選手特有の事情がある事を忘れてはならない。

ダンピング/不当廉売の項目において説明されているが、有名で優秀な選手が契約更改の際に全く交渉をせずに低い金額で合意してしまった結果、他の選手もその金額以下の契約を強いられてしまい、結果としてチームに不平不満が噴出して内紛にまで発展した例もある。
近年でも元西武の西口文也が、後輩から頼まれてめったにしない年俸交渉をしたなんて逸話がある。

他方球団側も、あまりにも選手を買い叩くと逆にファンから球団批判が噴出したり、仕方ないと思って我慢していた他の選手に飛び火して大規模な内紛に発展しかねない。
選手側も、ろくな成績も残せないのに金にがめついなどと言うイメージを持たれることは避けたい。
こうした利害の一致や、交渉の際に事前に根回しをするなどの工夫もされるようになり、銭闘が取り上げられることは最近は減ってきている。
もちろん裏では壮絶に戦っているのだろうが、それを見せずに戦うのがトレンドになってきていると言う訳である。
…逆に言えば、それでも生じる銭闘は金額の問題というより決裂一歩手前のかなり深刻な戦いである可能性も高いと言える。

創作物での銭闘


巨人の星


星飛雄馬がプロ1年目の契約更改に挑む話がある。
飛雄馬本人は最初は野球できれば年俸の額はこだわらないとして、年俸アップに関係なく契約を更新しようと思ったが、ある話を聞いて一転してさらに年俸アップを要求する場面がある。
また、飛雄馬だけではなく、伴宙太、花形満、左門豊作も契約更改に挑んでおり、伴の契約更改は難なく済んだものも、花形と左門はある理由で年俸アップを要求して保留している。
詳細は「折り合わぬ契約(巨人の星)」にて。

ONE_OUTS


厳密に言えば契約更改の話ではないが、主人公・渡久地東亜の成績次第で渡久地とオーナー側の金のやり取りが決まるという漫画。
「ワンナウツ契約」という特殊な契約を渡久地はオーナー側に仕掛ける。1アウト取れば、選手がオーナー側に500万円もらえるが、逆に1失点につきオーナー側に5000万円を支払わないといけないというギャンブル的な契約である。
オーナー側に有利なものだと快く受諾するが、渡久地の思わぬ活躍を見て、このままでは損をしてしまうと考えたオーナー側があの手この手で渡久地を妨害しようと企み、その渡久地も色々策を仕掛けるという、いろんな意味での銭闘ともいえる。

グラゼニ

プロ野球漫画ながら、カネにシビアなところを描かれることが多い。
特に契約更改の話はこの漫画の1番の見所といっていいだろう。

実況パワフルプロ野球シリーズ

マイライフというプロ野球選手としての成功を目指すモードで契約更改が実装されている。
作品によって差はあるが大雑把に説明すると「フロントが提示した金額に対して、査定のミスを指摘(査定に含まれていない成績を提示)することで増額を要求する」というシステム。
初期の作品では要求をすると舌打ちをされたり、交渉時に物々しいBGMが流れたりと試合以上の緊張感が漂うモードであったが、最近の作品では比較的マイルドになっている。


多村仁「追記・修正に行かない理由が無い。直さないと項目が恥ずかしいと思う」

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最終更新:2024年01月06日 20:49

*1 逆に最初の予想年俸がかなりズレていて、その後いくら上がった下がっただけ話していたせいで結果的に大きくズレていた選手もいる

*2 2020年など大きくズレる場合もある

*3 たまに「人と話すのが苦手だから」などという理由で代理人を同伴する選手もいるが

*4 ちなみに海の向こうのMLBではあまりに年俸抑制しすぎたせいでメジャーリーグ機構から怒られたチームが存在する

*5 とはいえ実際にそのくらい払っていたようだ

*6 親会社の広告費で賄ってもらうからとかなり放漫経営だったようだ。一説には年間40億円の赤字だったらしい。その親会社もバブル期の後遺症で負債が積み上がっており、結果的に球団名変更騒動や球団売却・合併に繋がる

*7 打者・中村、一塁走者・梶谷隆幸という場面で、中畑監督は梶谷に単独盗塁を指示。中村には打たずに待つよう命じたのだが、中村はこれを無視して強引に打ちに行き、結果は最悪のセカンドゴロ併殺打となってしまった。当然一塁コーチが中村を激しく叱責したのだが、これに対して中村は「いちいち走られると気が散るから走らせないでくれ」などと逆にコーチに文句を言ったらしい。

*8 FAしても取るところはないと発言する

*9 どうやら球団は和田を幹部候補生と見ていたようである。実際にMLBから帰っていた後もかなり丁重に扱われている

*10 MLB挑戦直前の野茂英雄など

*11 球団が提示した以上の大幅減俸を自ら申し出たという話もある。

*12 故にゴネゴネ佐藤や自費自費佐藤のあだ名で呼ばれたこともあった。

*13 知っている人も多いだろうがマイナーリーグは給料は超低額、福利厚生なども無いに等しい。食事はハンバーガーで移動はバスで何時間もなんてことが当たり前である。流石に最近は多少改善されているらしいが

*14 ただ、その年の防御率は4点台と良いものとはいえず、その点がマイナスになったと思われる。

*15 そもそもゲレーロの前にランナーを出せなかったことも原因の一つではあるのだが

*16 スコット・ボラスはメジャーの契約交渉で選手の希望する契約年数や金額をより多く要求することが多く、契約した選手が怪我等で出場できなくなった時費用対効果が合わなくなり、それで球団経営が圧迫する要因になる等、球界からの評判は良くない。

*17 この年の成績は球団史上最多HR数を更新する等3割40本100打点を記録しており、3400万からの1億超えを希望していた。

*18 球団側の提示金額は9000万円だったのだが、本人は1億円を要求したとされている。ただし翌年はあまり活躍出来なかった事もあって大幅減俸となったのだが、その際は「ダウンは当然。厳粛に受け止めるしかない」と素直に減額に応じている。またこんな事を言いつつ現役時代は中日一筋で、FA権を取得した際に厳格な父親から巨人行きを厳命されながらも中日に残留。引退後も2022年から中日のコーチとなっている。

*19 MAZDA創業者の家である松田家が実質的なオーナーだが、資金的にはMAZDAとの関係は球場のネーミングライツやユニフォームやヘルメットの広告程度。それ以外では皆無

*20 最近は当たり前のように細かく査定されているが

*21 修正に応じると「査定項目通りです」で黙らせることが難しくなる

*22 近年はそうでもない。

*23 マネーゲームに破れた阪神は、余った資金をなぜか12月まで契約していなかった広島のアンディ・シーツに注ぎ込み獲得する。

*24 結局祖父江は推定3500万でサイン

*25 1999年のシーズン終了後、FAでダイエーから巨人に移籍した工藤公康に対し、ダイエーが功労金として500万円を支払おうとした事はあった。ただしそれを知ったNPBが「ルールに抵触する」と主張して慌てて止めたので、実際に支払われる事は無かった。