梟雄

登録日:2019/07/01 Mon 20:09:05
更新日:2025/04/16 Wed 08:40:43
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梟雄(きょうゆう) とは、残忍で尚且つこの上なく強い人のこと。

【梟雄の魅力】

ただ強いだけの人ならばそれは英雄である。
ただ残忍なだけの人ならばそれは悪人である。

そのどちらの性質も、欠けることなく兼ね備えて初めて梟雄足りえるのである

それは単純な「悪の魅力」というにも少し言葉が足りないだろう。彼らは徹底して自由であり、気ままであり、それを押し通すだけの強さを持つ。
自らの中に一本芯が通っており、「正義」などというあいまいなもののためには命を賭けない。しかし、自らの求めるもののためにはどれだけ他者を虐げようとも気にしない。
究極的に「自由」であり、そういったところが魅力になるが故か、彼らの下には多くの部下が集うこともある。
また、彼らは後漢末期や室町後期といった情勢が混沌とした乱世に現れることが多く、低い身分から成り上がることが多い。これを日本では下剋上と呼ぶ。

だが、同時にその破滅的・刹那的な生き方ゆえか、彼らに成功者が少ないのも事実である。
というか、 成功していたら梟雄とは呼ばれない というのが妥当なところだろうか。
ある意味では、破滅に至るまでの彼らの生き方全てが「梟雄」なのかもしれない。


【代表的な梟雄】

「治世の能臣、乱世の奸雄」。
梟雄的度合いで言えばこいつも大概なのだが、卑しい宦官の出でありながら漢王朝を実質簒奪したという所業は
儒教的観点からすれば到底許されるものではなく、中国の三分の二を平定した稀代の英雄でありながら
冷酷・残忍な一面ばかりが強調、時に脚色され、何百年にも亘って奸絶(悪人の極み)として語られることとなった。
徐州で大虐殺を行って評判を下げたことも、そうした評価を決定づけた一因。


裏切り・悪政・謀略と梟雄の代名詞ともされる三国志の登場人物。
特に最強の部下である呂布(後述)の存在感が非常に大きい。
だが、単なる「悪人」ではなく、政略・軍略などに類まれな才を発揮しているからこそ、良くも悪くも強い印象を残している。
というか、事実として 呂布が裏切るまで誰も彼を倒せなかった のも間違いない話である。


で、その董卓の最大の部下だったのがこの人。三国最強の殺戮マシーンこと呂布である。
だが、戦国最強の英傑本多忠勝が生涯仕える主君を変えなかったのとは対照的に、こちらはコロコロ裏切っては主君を変えている。
むしろ、あちこちで唆されるままに裏切りを繰り返している辺り、そもそも根本的に「誰かに仕える」ことに致命的に向いていないタイプだったのかもしれない。
裏切ってはその武勇で混乱をもたらし続ける彼もまた、梟雄の名に相応しいのではないだろうか。


  • 侯景
こちらは時代を下って南北朝時代を生きた人物。
この人物は北朝の北魏に生まれた人物で、当時大規模な反乱によって荒廃した極貧の境遇から成り上がり、北魏から分裂した東魏を裏切って南朝の梁に亡命。そしてその梁をも裏切って解放奴隷を率いて反乱を起こし、首都を陥落させて宇宙大将軍を名乗り、その後皇帝を次々と殺して自ら皇帝を称するが、最後は梁の皇族の一人に討たれて戦死した。
南北朝時代の呂布(の上位互換)とも言える人物であり、極貧の身分から皇帝にまで上り詰めた彼も、梟雄と評して差し支えないだろう。


吸血鬼ドラキュラのモデルになったことでも有名な「串刺し公」。
暴君であり、恐怖の象徴であり、同時に 領民にとってはこの上ない守護者 でもあった。
政治や戦争で勝利を収めるためならば徹底的に手段を選ばず、冷徹で血生臭い所業の数々から敵国からは「怪物」と恐れられたが、
そんな彼だからこそ強大なオスマン帝国の侵略を退けられたというのも事実であり、彼が「故国を守るべく戦った英雄」であるのもまた事実である。


日本の梟雄代表。キングオブ裏切りにして天下のギリワン。
「信長に三度敵対した男」というだけで、彼のやらかしたことは大体わかる。
他にも東大寺を焼き払ったり将軍暗殺したりやりたい放題。
しかしそれでもなお有能だったため信長は彼を留保しようとしたが、それを良しとしない彼は天下の茶釜「平蜘蛛」に火薬を詰めて 自爆
世界でも初めて死因に「自爆」と書かれた男になった。


主君放逐による国盗りで日本三大梟雄の一角、「美濃の蝮」。特技は余所様の家に養子に入っては名前を変えてその家を乗っ取ること。
ただし、近年の研究では、美濃の国盗りは道三とその父・長井新左衛門尉の父子二代によるものではないかとされている。
それでも守護追放はしているのでやはり梟雄。
その最期は、家督を譲った息子・義龍と不仲になった末に兵を差し向けられ、味方に恵まれずに敗死するという、因果な結末であった。


  • 北条早雲
日本三大梟雄の一角。闇討ち・だまし討ちは される方が悪い と言わんばかりに好き放題やっては後北条氏の礎を作った人。
長らく浪人の出と言われ続けたがその出自は備中の幕臣「伊勢氏」出身で本名は「伊勢新九郎盛時」、生前に名乗った名前は「伊勢宗瑞」。
お家騒動に便乗してちゃっかり権力基盤を築いている辺りも、梟雄ポイント高めなところ。
ただ、甥が当主をしていた今川家に対しては最後まで忠実だった。
また、近年では堀越公方足利茶々丸を成敗したのは当時の足利将軍の指示だったとか、小田原城奪取は城主が早雲と組んでいた扇谷上杉から山内上杉に寝返ったのを攻めたからなのではないかとか言われている。
それでも北条早雲がほぼ個人の実力で一代から成り上がった傑物なのには変わりない。


趣味・暗殺 。とにかく真っ向から戦わず、相手方を謀殺しては戦力を削ぎ取ることが得意な戦国武将
卑怯? 勝てばいいんだよ
その戦歴は暗殺・毒殺のオンパレードである。


一介の国人衆であった毛利家を、中国地方全土を支配する大勢力まで押し上げた、稀代の策略家。
権謀術数を尽くした戦いの日々を送り、厳島の戦いなどで他勢力を破り領地を拡大し続けた。
天下を取ることさえも夢見ていたが、金策がブラックカードマンと化していた長男・隆元頼みであったため、その死で急激に金回りが悪くなり大変な苦労を強いられたため諦めることとなった。
ただ元就は時にえげつない手を使うには使うが他の謀将に比べたらそこまで悪どい手は使わないし、陶晴房や尼子氏は一時従っていた時期もあるものの別に主君でもないので梟雄としては微妙か。
まあ元就は大寧寺の変の時は陶晴房側なんだけど…


  • 津軽為信
初期は大浦為信と名乗っていた東北の梟雄。
青森県全土を支配していた南部家から独立し、その半分の所領を奪い取り支配権を確立させた。
籠城衆に対し家族の公開レイプを見せつけるなど、やることがえげつない。
今でも同じ青森県でありながら津軽と南部……弘前市&青森市と八戸市が不仲、良くてよそ者扱いなのはだいたいこいつのせい。
ただ、独立した大名に取り立ててくれた豊臣秀吉には割と感謝していたらしく、居城である弘前城の開かずの間には秀吉の木像が置かれていたり、関ヶ原で敗死した石田三成の娘を匿ったりした。


鮭好きや戦場で脳筋化したりする愛嬌ある人となりで、地元から愛される。
体当たりで小田原参上しようとして失敗を繰り返す津軽為信にも、見るに見かねて助力している。参上しなかった家は悉く潰されているので青森県内対立の共犯と言えるが
だが人柄に反してやってることは容赦ない。


一般的には余り梟雄というイメージは無いが、主君である織田信長の死後、主君の妻子を殺害したり、秀信の成長後は織田家に権力を返すと言って結局返さなかったりと割と梟雄レベルが高い。
結局豊臣家は息子の秀頼の代で政権のNo.2だった徳川家康に簒奪され潰されるが、正直言って半ば因果応報である。


  • 龍造寺隆信
島津大友と共に九州で三大勢力を築き上げた戦国大名。
鎌倉時代から続く名家である島津や大友とちがい、九州の三国では唯一下剋上から成り上がった。
肥前の熊と言う異名や体躯に恵まれ粗暴な性格だったことから脳筋のイメージが非常に強いが、信用できない者は恩人だろうが容赦なく粛清するなど豪快な見た目とは裏腹に非常に繊細かつ狡猾な性格であった。これは幼少期に家族を皆殺しにされたことによる人間不信によるものだといわれる。
その最期は家臣に見捨てられ首を取られるというものだった。
戦国時代の九州と言えば島津のためか知名度や存在感は非常に低いものの彼もまた成功から破滅に至るまで、まさに梟雄と言える存在であろう。


まんま梟雄。 文字通りの意味で頭がフクロウだし
冷酷で冷徹で残忍な将軍であり、わかりやすい悪役。
戦闘時も呪文をメインに搦め手重視で挑んでくる辺り徹底している。

他にも
  • 鍾会
    • 蜀の滅亡後、再興を目指す姜維と共に反乱を起こす
  • 朝倉孝景
    • 応仁の乱による戦乱に乗じて大名となる。なお同姓同名のひ孫がおり、あちらとの区別のために「英林」と呼ばれることもある
  • 尼子経久
    • 浪人の身から山陰を支配した毛利元就のライバル
  • 浅井亮政
    • 浅井長政の祖父。近江北部の守護であった京極氏を乗っ取り大名となる
  • 袁世凱
    • なんと近代に存在した梟雄。中華帝国の皇帝に即位するも国内は元より世界中から批判を浴び失脚
なども梟雄と言っても差し支えないだろう。


【余談】

なぜ、このような人物に(フクロウ)の文字が用いられているかというと、中国では古来「梟は雛鳥が親鳥を食べて育つ」と信じられており、親不孝な鳥であるとされていた。
(梟自体の語源も「父食らう」だとかいう説もある)
親喰らいが転じて、下剋上のイメージとなったのだとか。



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最終更新:2025年04月16日 08:40