狂犬病

登録日:2020/06/13 Sat 00:57:06
更新日:2025/01/30 Thu 17:31:36
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※ご自身の健康問題については、専門の医療機関に相談してください


狂犬病(きょうけんびょう)とは、ウイルス感染症の一種である。

病原体はラブドウイルス科リッサウイルス属狂犬病ウイルス。




概要

人間発症するとほぼ100%死に至る恐ろしい病気である。

統計的には毎年数万人ほど発症者がでているが、歴史上記録に残る生存者は"6人"
今日に至るまでの全人類を合わせてたったの6人である。

ベッドから降りることも出来ず"苦しみながら数年後に死亡"というケースもその生存者にカウントしており、完全回復と見なせるような症例は近代医学が整備されてから2023年までも"2~3人"しかいない。
無論、記録に残らなかった生存者もいるかもしれないが。


感染経路

狂犬病ウイルスに感染しているイヌなどの動物に咬まれたり、引っ掻かれたりすることで人間に感染する。

病という名前からイヌの病気というイメージが強いが、実はキツネやオオカミなどのイヌ科のみならず、ネコウサギ、リス、コウモリなど、ほぼ全ての哺乳類に感染する
特にコウモリは感染しても無症状の個体が多い(=気付きにくい)ため、国によってはイヌ以上に注意すべき感染源である。
中でも南米に生息するチスイコウモリはその性質上感染している個体が非常に多い。
唾液にウイルスが多く含まれるため洞窟内でコウモリの唾液がかかっただけで感染したというケースもある(飛沫感染)。

基本的にヒトからヒトへ伝染することはない。ただし、臓器移植による感染例は報告されている。


症状

発症すると最初、高熱、頭痛、嘔吐などインフルエンザに似たような症状の他、幻覚・幻聴や、涙や汗が過剰に出るなど不安症のような症状が現れる。
特徴的な症状として、のどが激しくけいれんするために水が飲めなくなる「恐水症」や、風の動きに非常に敏感になる「恐風症」があげられる。

また、飲み込む動作ができないため唾液が溜まりやすいのでよだれを垂らして他のヒトに噛み付こうとすることもある。
狂犬病を発症したイヌがちょうどこんな感じである。

繰り返すが唾液にはウイルスが溜まりやすく、それを苦痛で飲み込めずに口内に溜まった状態で苦痛を紛らわすために噛み付きたがるということである。
末期になると脳や全身の筋肉が麻痺し、昏睡、呼吸不全に陥る
多くの場合、発症後1週間以内に死亡する。亡くなる直前まで意識ははっきりしているため、患者はあらゆる苦しみにのたうち回った挙句、悲惨な死を遂げる


致死率

発病した際の致死率はほぼ100%である。
ちなみに他のウイルス感染症の致死率はだいたい下記の通り。

あのエボラですら助かる可能性があるわけだが、狂犬病は発症したらほぼ全員亡くなってしまうのが恐ろしいのである。

万が一、狂犬病ウイルスに感染してもウイルスが脳に到達するまでに早期にワクチン接種を受けることで発症を予防することは可能である。
(特に海外では)むやみに動物に触れないことが重要だが、もし咬まれてしまったら、傷口を消毒洗浄して大至急、病院で手当てを受ける必要がある
咬まれた場合、発症までの猶予は咬まれた箇所に依存し、頭部に近ければ近いほど猶予が少ない。とはいえ数時間とかで即発症といった事はないので慌てずに。
逆に脚などだった場合は発症まで数カ月以上の時間がかかるが、ウィルスが力尽きてくれる事はなく治療しなければ何れ発症して死ぬ運命なので急いで治療を受けよう。

自費で15,000円前後になるが、予め狂犬病ワクチンを打っておくこと(曝露前摂取)もできる。
特に狂犬病が懸念される地域に渡航する人や動物との接触が多い人は、曝露前摂取が推奨される(有効期間は3~5年ほど)。
ただし、これは感染を確実に予防する物ではなく、ウイルスの曝露が疑われる際は傷の手当てと共にワクチンを打ち直す必要がある
あくまでも、万が一の際に発症を遅らせるための措置くらいに考えておこう。


最悪、ワクチン接種が間に合わずに発症してしまった場合の処置として「ミルウォーキー・プロトコル」という手法が期待されている。
これは薬物によって人為的に患者を昏睡状態に陥らせ、抗ウイルス薬で狂犬病ウイルスの増殖を抑えて時間を稼ぎ、
その隙に免疫系に抗体を生成させ狂犬病ウイルスを駆逐させるというもの。

狂犬病ウイルスに侵されたには炎症などの損傷が見られない点から
  • 狂犬病ウイルスは脳細胞を破壊する訳ではなく、脳からの命令伝達に異常を起こす事で心肺機能を停止させ死に至らしめる

長期の闘病後に死亡した患者からはウイルスが検出されない点から
  • 症状の進行に追い付かないだけで、ヒトの免疫系そのものは狂犬病ウイルスに対抗可能

という2つの仮定に基づいて「昏睡状態に陥らせて脳機能を抑えれば、異常な命令伝達も抑制でき、免疫系による対抗が間に合うのではないか」という観点から考案された。

2020年現在、正式に報告されているだけでも50名以上に施され、うち6名が狂犬病の症状から快復している。
ただし、言い換えればこれの被験者でも死亡率は約90%であり、残り約10%の生存者も後遺症を抱えるケースが多い。
そのため現時点ではまだまだ研究途上の人体実験のような処置に過ぎず、狂犬病に打ち勝っているとはお世辞にも言えないレベルである。
今後研究が進んで生存率の向上や後遺症問題の改善に繋がる事を願いたい。


世界では年間5万人以上が狂犬病で亡くなっているとされる(専門家によってはこの10倍以上という説も)。

死者のほとんどはアジアやアフリカの発展途上国だが、アメリカやフランス、ドイツなどの先進国でも数は少ないが狂犬病が発生している。
日本の厚生労働省が指定する狂犬病清浄国(狂犬病が全く発生していない国)は実は非常に少ないのである。
アジアでは日本のみであり(過去には台湾も指定されていたが除外された)、他にもイギリス、アイルランド、北欧諸国(スウェーデン、アイスランドなど)、太平洋の島国(グアム、オーストラリア、ニュージーランドなど)に限られる。


日本での狂犬病

日本では江戸時代、関東大震災直後、太平洋戦争終戦直後に狂犬病が流行したという記録が残されている。
その後1950年(昭和25年)に狂犬病予防法が制定され、イヌの登録やワクチン接種が義務付けられることとなり、1957年(昭和32年)以降は国内での発生は報告されていない。
しかし、1970年(昭和45年)にネパールで、2006年(平成18年)にフィリピンでそれぞれイヌに咬まれた日本人が狂犬病を発症して亡くなった例がある。
2020年(令和2年)に愛知県で国内14年ぶりに狂犬病患者が確認された。上記2例と同じく、フィリピンで犬に咬まれて感染したものと見られている。
また、ワクチン接種率が近年低下しているため、国内で発生する可能性が全く無くなったわけではない


感染症法では四類感染症に指定されている。非常に危険な感染症ではあるものの、エボラウイルス病や天然痘のようにヒトからヒトにうつる病気ではない(感染症ではあっても伝染病ではない)ため、感染症対策の優先順位としてはどうしても低くなってしまうのである。
ちなみにエボラ、天然痘は最も優先度の高い一類感染症である。


創作

吸血鬼伝説を知らない人はほぼいないだろうが、実はあの伝承は狂犬病の発作が元になっているという説がある。
  • 流水を恐れる(恐水症?)
  • から逃げ惑い(光は窓から差し込む=窓の隙間から風が吹き込む=恐風症?)
  • 他のヒトに噛みつく(上記の症状である「よだれが溜まるので他のヒトに噛み付こうとする」)
  • ニンニクなどの刺激物を敏感に感知するようになる
そんな発作から、吸血鬼伝説が生まれたという悲しい説があるのだ。

同様の理由で狼男、狐憑き、化け猫などの由来の一つとも考えられている。


  • クージョ
コウモリに噛まれたことで狂犬病になったセントバーナード犬・クージョの悲劇を描いたホラー小説。
映画『クージョ』では主要人物の末路に関わる重要な変更が行われている。

33話『なにかが山を…』は狂犬病と狼男伝説を元にした話になっており、患者とその弟は『バンパイヤ』の主人公トッペイと弟のチッペイが演じている。
なお、先ほども述べた通り狂犬病は一度でも発症するとほぼ致死率100%であるが、本エピソードでは触れられていない。

序盤の「黒き犬」という話で悪徳社長・加藤*1が先代からの報復を恐れ、わざと狂犬病にかかった犬を庭に放ち、先代の愛犬エルを嚙ませた。
これによりエルは狂犬病に罹患し、先代社長を嚙み殺し、民間人を殺傷して逃走してしまう。
しかしエルの子(後のエルス)は加藤のハンカチを持っていたためエルにそのハンカチを渡し、エルはその臭いを辿って加藤を殺害。
最後は主人公により痛みなく安楽死させられた。

  • スーパードクターK
12巻収録『山神のたたり?』『狂える包囲網を破れ!』で狂犬病が取り扱われている。
七瀬恵美のいとこが嫁いだ村で山に入った人間が相次いで苦しみ悶えて狂い死ぬ祟りが発生。七瀬から相談を受けたKがその村へ行き、祟りの真相を突き止めようとする。
山に入ったKと七瀬が見たのは狂犬病に感染したアライグマで、Kがアライグマに襲われ行動不能に。しかも周囲を取り囲まれて助けを求めに行くこともできず。そのピンチを打破したのは……。

『魔犬の森の殺人』で狂犬病に関わる言及がある。実は真犯人の仕組んだウソだったが


追記、修正は飼っている犬にワクチンを接種し、発生国に行く前にもワクチンを接種してからお願いします。



最終更新:2025年01月30日 17:31

*1 先代社長の息子を暗殺して会社を奪った極悪人。