スッポン(カメ)

登録日:2022/09/26 Mon 00:41:18
更新日:2023/11/30 Thu 14:19:38
所要時間:約 5 分で読めます




スッポンとは、カメ目スッポン科に属する爬虫類の一種である。
漢字では「鼈」と表記し、後述する特徴から英語ではsoft shelled turtle(ソフトシェルタートル)という。



概要

豚のような鼻に月のように丸い甲羅含め鱗がなく全身ツルツルの皮膚に覆われた体と、他のカメとはまず間違えないであろう特徴を持つ。
他のカメに比べて水棲傾向が強く、先述した特徴も水中生活に適したものとなっている。しかし、鱗が無い故に皮膚病には極めて弱いので日光浴も頻繁に行う。
つまりカメの仲間でありながら甲羅が柔らかく、防御力は無きに等しい。だがこの進化が功を奏し結果的に体の軽量化に成功しており、陸でも他の種とは比べ物にならない凄まじいスピードで走ることができるし、さらに他の種類のカメよりも脚の可動範囲が広く泳ぐことも得意なのだ。

ただし上で述べたように防御力が無きに等しい為性格は極めて臆病。
そしてそれ故に攻撃的な一面も持つことで知られている。

我が国においては噛みつく生物の代名詞の一つとしても有名。一度噛みついたら「雷が鳴るまで離さない」という迷信が生まれた程。
確かに振り払おうとしても離れてくれないが、実際は水を掛けたり、水に浸したりするとあっさりと放してくれる。スッポンだって逃げられるもんなら逃げたいんだろう。
ちなみにカメでは唯一、唇が存在することでも知られているが、これは嘴を保護するために得た進化である。*1

生息範囲は意外と広く、我が国を含めた東アジアから東南アジアを経て、西アジアやアフリカ、果ては北米にも生息している等、ヨーロッパ以外にはほぼ生息していると言ってもいい。
しかし食用は勿論だがペットとしても人気である為に乱獲によって数を減らしている種も多く、シャンハイハナスッポンに至っては現在飼育下で一匹、野生個体の目撃情報を含めても数匹しか確認されていないなど危機的な状況にある。

全体的に大型の種が多く、中でもコガシラスッポンは115cmと淡水のカメの仲間の最大種の候補にも挙げられ、ニホンスッポンも平均して30cm前後と日本に棲息しているカメの中では大柄。稀にさらに大きくなる個体も存在するようだ。
繁殖方法は全てのカメと同じく卵生だが水棲傾向の強い種に共通して、ウミガメのそれを思わせるピンポン玉のような形をしている。


食性

肉食性で、魚や甲殻類や貝類を食べる。
時には水鳥を襲うこともあり、泳いでいるところに水底から忍び寄って引きずり込んでしまうという。


主な種類

  • ニホンスッポン
日本に棲息している種。
在来種なのか外来種かに関しては諸説あったようで、ニホンイシガメ同様に在来種であるとする説と、大陸から持ち込まれた種を起源とする説の両方が存在していた。

……が、上で述べた通り縄文時代の遺跡から骨が、さらに近年白亜紀の地層からは化石も発見されるなど、在来種であることがほぼ確定した。
しかし中国から持ち込まれたシナスッポンとの交配によって遺伝子汚染が懸念されており、実際に両方の特徴を持った個体も発見されている。
この事から野生個体に関しては保護するべきであるという声も上がっているらしい。
あまり知られていないが実は国際的に見ると絶滅危惧種に分類されている。
ちなみにシナスッポンとの区別点は体色と甲羅の形と言われるが、間近で見ないとまずわからない。

  • シナスッポン
中国から朝鮮半島にかけて生息。
ニホンスッポンと酷似しているが甲羅が丸く、体色も黄色がかっている等微妙ではあるが異なっている。
両種は遺伝子的にも極めて近縁なので交配も可能で、日本では脱走したり放流されたりした個体が定着してしまい、遺伝子汚染が懸念されている。
ちなみに在来種との区別の為か、たまに別名のタイリクスッポンやキョクトウスッポンの名で呼ばれることもある。

  • コガシラスッポン
東南アジアから南アジアに生息。
最大で1mを超えるスッポンどころかカメの中でも最大種の候補に入る種だが、その巨体に反して頭部はかなり小さいアンバランスな体型でこれが名前の由来になっている。

  • ナイルスッポン
アフリカから中東にかけて生息。
鮮やかな黄色い模様が特徴で最大1mに達する大型種。
淡水性の種ではあるが塩分への適応力も多少持つようで、沿岸域で発見された事例もある。

  • クロスッポン
世界広しといえどもバングラデシュ・チッタゴンにある霊廟の人工池にしか生息していない種。
一応外でも個体が見つかったという話もあるが、はっきり信頼できる個体群は人工池産のもののみ。
池では普通に餌をもらっており人にもなついている。
他方、万一伝染病が発生したら一発で絶滅しかねないため厳重に保護されている。


人間との関係

鱗がなく硬い甲羅も無いことから、後述する通り古来より食用として用いられてきた。
中でも古代中国では宮廷料理として盛んに養殖が行われていたようで、スッポンを調理するためだけの役職が存在したと言われており、かの楊貴妃が好んで食べていたともされているのだ。
日本においても、縄文時代のものと推測される遺跡より骨が発見されており、これが先述した日本のスッポンが在来種であるという根拠ともなっているようだ。
江戸時代中期ごろは今よりずっと身近な食べ物で、寿司や天ぷらと同じく屋台で気軽に食べられていた。

一度噛んだら簡単には放さないと言われる顎の強さから、蛇と同じく執念深い動物と解釈されることもあり、スッポンばかり食べていた人に化けて出て祟ったという伝承があるほど。しつこく追及する人を「スッポンの○○」と呼ぶのもこの解釈から来ている。
また日本の妖怪として有名な河童のモチーフもスッポンと言われており、絵巻には実際にスッポンに似た形の甲羅を持つタイプも存在している。
だがそういった迷信や伝承が生まれるくらい、人間にとっても身近な生物であることもまた事実なのだ。


利用

  • 食用
多少は先述したが高級食材として知られている。旬は概ね秋口とされる。
良質なタンパク質と脂質(植物と同じ不飽和脂肪酸)、鉄分、ビタミン、ミネラル、カルシウム、おまけにコラーゲンたっぷりで低カロリーの健康食材でもある。疲労回復、高血圧予防、精力増強、貧血予防、美肌効果等の効能があり、美容あるいは滋養強壮目的で食されることも多い。

日本は勿論中国や韓国、ベトナムと言ったアジア諸国でよく養殖(養鼈(ようべつ))されて食されている。
日本においては静岡県の浜名湖がトップクラスの産地で、次いで大分県熊本県鹿児島県と並ぶ。
なおスッポンは天然物と養殖物の格差はさほど無い。むしろ天然物の場合何を食べているか判らないため、目利きができないとあまり美味しくないハズレを引いてしまうリスクもある。
養殖を好まない事で有名な『美味しんぼ』も、養殖スッポンはきちんと育てていれば問題ないという立場を取る。

また生き血も精力剤として使われ、専門店では凝固防止と飲みやすさを兼ねて日本酒やワインで割って提供される。ただし野生のを捕獲して食べる場合は寄生虫や感染症の危険性があるので絶対にやめましょう。
なおアジアだけでなく、フランス料理ではスッポンのスープをトルチェと呼び、肉や卵なども活用している。

主な料理は料理(まる鍋、火鍋など)、スープ、雑炊、吸い物唐揚げ、酢の物、刺身、などなど。
芽葱などの薬味を添えると一層美味。


  • 薬用
古来からスッポンの甲羅を乾燥させた「鼈甲」「土鼈甲」が漢方薬に用いられてきた。
現代でもスッポン全体を粉末化させて健康食品に用いられている。
パッケージは赤、金など印象的というかパワフルな色が使われていることが多い。しかし流石にギラギラしすぎる(精力増強のイメージが強すぎる)せいか、ピンクに花のイラストが描かれたパッケージで女性向けを意識したものもみられる。
まむし、高麗人参など他のメジャーな健康食品とミックスされることも多い。


食用のイメージが強いが、ミドリガメことアカミミガメやクサガメといったペットとしてメジャーなカメとは違った姿や生態から意外に人気。
しかしストレスや皮膚病に弱い為飼育難易度はやや高め。環境の変化で拒食しやすい上に定期的に体を乾かさないとあっさり病気になって体調を崩し、最悪の場合死んでしまうので非常に気を遣う必要がある。カメを診られる獣医さんがいるかどうか、近くの動物病院の専門についてもよく確認してください。
それに勿論噛まれれば最低でも流血は避けられないし、上述した大型種であれば最悪指を食い千切られかねないほど危険なので取り扱いも注意。
おまけに体の軽さから身体能力も高く、カメといえど走るスピードも速いので脱走にも気を付けなければいけない。

このように他のカメと同じ感覚で飼うと二重の意味で痛い目に遭いやすい。
その他方人慣れもしやすいようで、慣れると飼い主が水槽に近づいた時に餌をおねだりしたり、個体の性格次第ながらなんと飼い主の後ろを付いて歩くようになったりする等、飼って楽しい種でもある。


スッポンにまつわる言葉

  • 月とスッポン
二つのものがあまりにも違いすぎて比べ物にならないこと、釣り合いが取れないことを表したことわざ。
一応どちらも丸いという共通点はあるものの、空に輝くと、地を這い泥にまみれるスッポンとでは文字通り天と地ほどの差があると言えるだろう。
……とは言え、比較対象としては無理があるという声も多い。一説では「朱盆(しゅぼん)」や「素盆(すぼん)」が訛ったものとも。

余談だが、吉本新喜劇の小籔千豊の持ちネタとして、ブサイクキャラの女性に対し「お前と○○(美人の女優名が入る)は月とスッポンや、スッポン言うても亀のスッポンやあらへん、トイレのスッポン*2や!」と罵倒するギャグがある。

  • 鍋蓋とスッポン
比較するには違いがありすぎることを表したことわざ。
こちらも丸いという共通点はあるものの、別物すぎて比較対象にはなりえないということ。
「月とスッポン」との違いは優劣を付けない(付けられない)所である。
「月とスッポン」の類語が「天と地の差」や「雲泥の差」なら、こちらは「提灯に釣り鐘」だろうか。

  • 食指が動く
食欲が起こること、転じて物を欲しい、何かをしたいという気持ちになること。
現代日本では「食欲をそそる」との混合で「食指をそそる(そそられる)」という言葉を使う人が増えている。意味は一応通じるものの、れっきとした誤用である。
触手が動く」では断じてない。


余談

ゴキブリなどと同じく、あまり知られていない事だが実は生きた化石でもある。
近年、福井県の白亜紀前期の地層から現在知られているスッポンとほぼ同一の骨格の化石が発見され、その時代から形質が変わっていないこと、そしてそれが現在知られているスッポンの化石の中で世界最古の化石であることも判明し、生物学者を驚かせたという。



追記・修正は月との比較対象にわざわざスッポンを選んだ誰かに思いを馳せてからお願いします。

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最終更新:2023年11月30日 14:19

*1 勘違いされやすいがカメの仲間には歯は存在しない。

*2 排水管の詰まりを直す道具、正式名称はラバーカップという。