登録日:2024/07/22 Mon 05:42:32
更新日:2025/04/22 Tue 23:13:12
所要時間:約 20 分で読めます
周辺の武将は全て我が手で掌握済み
尊氏様に師直が勝利をお捧げします
高師直とは足利尊氏の配下で、南北朝時代を代表する
婆娑羅大名と呼ばれる武将の1人。
本項目では、史実を参考に創作されている漫画作品『
逃げ上手の若君』における高師直を解説する。
CV:宮内敦士
●目次
ステータス
レアリティ (1335年) |
☆☆☆☆ |
SSR |
能力 |
南北朝適正 |
武力 |
90 |
蛮性 |
96 |
知力 |
86 |
忠義 |
93 |
政治 |
92 |
混沌 |
98 |
統率 |
97 |
革新 |
100 |
魅力 |
73 |
逃隠 |
43 |
レアリティ:その年代における人物の重要度。なのでステータス数値とレアリティが比例しない場合もある。
武力:刀、
弓、馬術などの個人戦闘力
知力:知識、機転、戦略などの総合力
政治:内政、調略、権力争いを制する力
統率:政治体制や味方の軍をまとめる力
魅力:善悪に拘らず人を引き寄せる力
蛮性:荒々しい時代を戦い抜く生命力
忠義:高すぎるか低すぎる時に力となる能力値
混沌:次々に変わる環境、状況への適応力
革新:古きに拘らず新しい世界を作る意思や発想力
逃隠:人の眼が行き渡らない時代に適応する能力
算術・交渉・人心掌握・政策立案・炊事・洗濯・掃除・按摩の複合技能
外様属性の武将忠誠度30%上昇
長尺武器適性40%向上
- 固有武器:六尺左右長巻「右丞相・左丞相」
武力・防御25%上昇
概要
足利家執事にして尊氏配下最強の将。
高一族は足利家に代々仕える執事を輩出する一族であり、
足利尊氏・
直義兄弟には一つ下の弟である師泰と共に幼少の頃から仕えていた。
主従の関係はハッキリしているものの、尊氏とは謂わば幼馴染のような関係でもあり、子供の頃から性質を熟知していることもあって互いの信頼関係は厚い。
尊氏からは
「完璧執事」と評されており、身の回りのことから政務、郎党の指揮に至るまで全裁量を師直に一任している。
容貌は鋭い目の下に隈がある陰気で無表情な武士。また、長髪は結わずに常時そのまま垂らした総髪姿にしている。
その鉄面皮ぶりは徹底しており、作中で「ほっこり」「にっこり」の擬音が出ている時でさえ、
いつもの鋭い目つきでちっとも笑っていない。
長年傍に仕えていた部下ですら、その笑う顔を見ることが適わず、
普段の顔にニコちゃんマークをくっつけて笑い顔と想像するほど。
連載当初から尊氏の側近として顔見せは果たしていたものの、活躍としては身の回りの世話や政務、護衛の役割を描写される程度だった。
活動拠点も主人公の
北条時行が潜伏している信濃から離れた京都であるため、配下の天狗衆の暗躍で間接的に脅威を示したり、尊氏暗殺計画の際にニアミスする程度の関わりしか持たなかった。
しかし、時行らが鎌倉奪還に成功してからは足利軍最強の将としての本領を発揮。師泰や今川頼国と共に東海道を物凄い勢いで進軍。
道中で立ち塞がった名越高邦や三浦時明を成す術なく戦死させており、ナレーションに
「時行の軍は強かったが尊氏の軍はさらに比較にならないほど強かった」とまで称された。
中先代の乱の後、その独断専行や親王暗殺、鎌倉の無断統治を後醍醐天皇から咎められた尊氏が朝敵となる
ことで絶望して腹をクチュクチュしだす中でも冷静沈着に付き従い、途中
北畠顕家の加勢や軍神
楠木正成の策を前に敗北するも九州落ちに同行。
そこで尊氏がわけのわからない大勝利を収めたことで再度上京し、湊川の戦いにて
新田義貞を退け楠木正成を戦死に追い込んだ。
以降は、一連の戦で示した武功と京都で培った深謀遠慮を駆使し、尊氏実弟の直義すら軽視する勢いで足利方の実質的なNO.2として実権を振るうようになる。
主人公の時行が北畠軍の傘下に入り、利根川から石津の戦いに至る大冒険を繰り広げる第二部においては、尊氏に代わって足利党全体の総指揮を執っており、同部の実質的な
ラスボスとなっている。
マーキング・パターンは「蛇に千蛇観音」。
人物
一人称は「俺」。
直義以上の徹底した合理主義者にして現実主義者であり、髪の毛を結わないのも多忙ゆえに手間を省いた結果である。
人材登用の面でも合理的で「使えない」とあらば身内にすら冷淡だが、逆に「使える」と判断すれば立場に関わらず重用する。
しかし、そこに個人のパーソナリティや倫理観は一切介在しないといったように苛烈を極めており、
- 直属の忍集団「天狗衆」は身寄りのない孤児を買い取り、その恩と体罰を伴う虐待とも言える鍛錬で無理矢理忠誠心を縛り付けて育成する
- 戦場で戦意喪失していた逃若党の吹雪を戦死した猶子の替え玉として登用。曰く「弱い親族より強い他人」
- 足利一門で家柄としては上の細川顕氏を「鬱憤が頂点に達した時だけ良い仕事をする」からと普段から罵倒の限りを尽くして煽り倒す
といった形で人材を有効活用するためなら暴力・暴言・暴虐も辞さず、他人にどう憎まれようと全く構いもしない。
とは言え一応考えなしではなく、戦で最高効率を発揮できるよう計画的に煽り倒しており、能力を見抜く目と運用方針については確かである。
その一方で元天狗衆の夏曰く「配下の事は能力値しか興味無い」とのことで、その性能厨とも言える合理性と苛烈さで却って目を曇らせたり、しっぺ返しを食らうこともある。
合理主義故に神仏の存在を信じていないが、例外的に尊氏には非合理で絶対的な神が宿っていると確信している。
少年期こそ尊氏のことを「英傑の器を持ちながら積極性に欠ける」と歯がゆい思いをしていたが、尊氏が14の時の大雨の日、師泰・直義と共に彼に突如神が宿ったことを認知。以降は彼の中の欲しがりの鬼の「全部欲しくなった」の言葉に従い、天下獲りの意志を確固たるものにした。
ただし、盲目的な信仰というわけではなく、尊氏の神力を知覚しても微塵も動揺しないどころか興味関心も一切寄せず、天下統一の役に立つという理由だけで尊氏の涎を採取し、その尊氏汁神力の持つ短時間の洗脳・強化能力のみを有効活用している。
1338年の石津の戦いにおいて史実と異なり、顕家軍が師直率いる軍勢を突破して討ち死に寸前に追い込まれた瞬間、高師直を名乗り「間違った歴史を潰しに来た」と語る足利尊氏が突如戦場に降臨。
神力を全開にして顕家軍を蹂躙し師直を救い、さらにはその手柄も気前良く「全部お前にやるよ」と笑顔で語る主君を前に、師直の情緒は崩壊。
鼻水を垂らしながら子供のように泣きじゃくり掌を合わせて祈り出す普段の鉄面皮からは信じられない様子を見せた。
またこの戦の後に師直は心から神に感謝する歌を詠んでいるのだが、
天くだる あら人神の しるしあれば
世に高き名は あらはれにけり
……と正にこの時の尊氏を現人神として崇め奉るような内容であった。
「神仏を畏れぬ男」の正体は「尊氏のみを唯一絶対の神と畏れる狂信者」そのものであった。
このような冷酷な合理主義が極まっていることもあり、尊氏や優れた者以外への対応は辛辣かつ見下し気味。
特に天皇や公家のことは「無能な贅肉の餌代のためにこの国は腐った」と吐き捨て、存在そのものを徹底的に軽んじており、武士に全てを丸投げした帝や公家の存在が鎌倉幕府を滅ぼしたと断言。
金箔でコーティングした全金属製の帝像を試作しており、最終的には
- 帝の廃位、全金属製帝像を代わりの国の象徴とする
- 公家の土地は全没収
- 国民の帝への崇拝を全て尊氏に集中させる
尊氏を頂点とした実力だけが評価される武家社会の成立を目論んでいる。
野心もすこぶる強く、自身が尊氏郎党の次席に座る野心を隠さず直義を表面的には尊重しているが、直義派の武士の存在は露骨に冷遇している。
ただ、対立を深める直義や
斯波家長の目からしても、以前までの師直の性格からは「変わった」とのことで、彼らは京に進出して佐々木道誉らの派手な西国武士とつるみだしたことが要因であると推測している。
加えて、尊氏の強烈なカリスマ性にあてられて
野心の炎を強烈に心に宿してしまったことも彼の変貌には関わっているようで、劇中でも「本来は忠誠心の強い師直にもしこれ程の野心が無ければ、堅実に直義を支えただろう」と説明されている。
実際、京都での人脈を元に一大派閥を築き上げており、細川や畠山といった足利一門、武力最強の土岐頼遠、道誉ら西国武士がその傘下に加わっており、直義の足元を揺るがしかねない権勢を誇る。
見た目に反してかなり好色家でもあり、派手な女遊びにも手を出している。
因みに性癖は
「人妻」であり、戦場でも道誉らに用意してもらっているほか、公家の妻にも手を付けている。
また、その美的感覚は独特のものがあり、例えば前述の全金属製帝を「恰好良い」と評しているが、その際の表情は明らかに和らいでおり本心で言っている模様。
その他にも
- 愛刀の鍔に「右」と「左」の字がド直球に装飾
- 猶子の元服名も「吹雪→冬→師冬」と安直な連想ゲーム
- 単行本プロフィール画像は小学生男子が家庭科の授業で選ぶドラゴン柄エプロンが如しドクロ柄三角巾&ミトン姿
といった感じで美的センスはシュールギャグに片足を突っ込んでいる。完璧執事のセンスってもしかしてダサ……
完璧執事
俺は今から 天下に食事をお造りする
完璧執事 高師直の朝は早い
尊氏に評された師直の異名。
完璧と枕詞が付くだけあって執事という職務に対しても並々ならぬプライドを持ち合わせており、家の家政・人事・作戦立案・炊事洗濯・服選び・按摩・入浴の世話・寝る前の読み聞かせをワンオペでこなすことを「そんなのは執事の基本だ」と断言。
特に料理は得意らしく、普段から尊氏のために腕を振るうなど絶対に譲れない一線がある。
作中では足利家の今後の方針を語りながら物凄い勢いで刺身を調理したり、果ては尊氏の大好物であるうどんの打ち方にまで自信を持ち(饗応してくれる)楠木正成を相手に張り合う子供っぽい一面まで見せた。
そんな凝り性の賜物であるうどんの出来栄えは尊氏も「様々な犠牲を凝縮したような深い味わい」と絶賛している。
ただし本人の求める高い水準を他人にも求めるのがネックであり、仮に己の求める高品質の品物を下人が用意しなかった場合、容赦のない暴力による折檻とダメ出しが部下を襲う。
また遥か年下の雫相手にも大人げなく執事の能力自慢で張り合うほどで、
そんなの私だってやってる
兄様の【ファ~♪】や【ファ~♪】とか【ファ~♪】の位置まで全部知ってる
常識だ
俺など尊氏様を見なくとも【ファ~♪】がわかる
私なんか夜中こっそり【ファ~♪】してる
夜だけか?話にならん 四六時中【ファ~♪】してこそ執事だろうが
と壮絶な煽り合いに発展した。
「何で亜也子は笙の音を挟むんだ?」
「若は知らない方がいい事みたいスよ」
能力
能力としては尊氏の身の回りの世話・政務・軍事・女遊びの全てをソツなく同時並行で完璧にこなす器用万能型。
戦闘では二刀を用いるが、例え戦闘中でも政務や執事の仕事を並行処理しつつ隙も見せないという一周回ってとんでもなくシュールな戦い方を披露。
直義も戦闘の真っ只中で政務を行っているが、あくまで戦闘の被害が及ばないギリギリの場所を見極めて政務のみに集中しているのであって、戦闘も政務もどちらも同時にこなす師直の変態性規格外ぶりが際立つ。
ナレーション曰く「どの時代でも通用するマルチタスクな傑物」。
また、情報戦の重要性を熟知しており、足利学校で諜報用の特殊部隊「天狗衆」を育成して組織。
天狗の機動力を活かして全国から情報を集めることで迅速かつ臨機応変な対応を可能としている。
戦場においても情勢が変わるごとに斥候として放たれ、敵軍の弱点を的確に暴き出す役割を担う。
天狗衆については、彼らが集めた情報の中から必要な情報を引き出して精査し、今後の情勢を見据えた大局的な視点で考察し、最終的な対策を即断する師直の卓越した情報処理能力があってこそ真価を発揮する。
事実、騙しのプロを自称する玄蕃に虚報を握らされた時も、天狗衆の情報網と自身の卓越した洞察力によって簡単に看破している。
戦場においても同様で、敵将を見抜く目と頭脳が養われており、生半可な偽装はすぐに見破られる。
異名は「赤鬼」の名を冠する弟の師泰に対応する形で「青鬼」。
『泣いた赤鬼』等に代表されるように赤鬼の相方を務めがちなポピュラーな鬼。
鬼の肌は青・赤・黄・緑・黒の5色に分けられるとされ、そこには五行と五蓋の思想も入り混じっていると言われている。
青は五行においては「木」を、五蓋においては「瞋恚(ドーサ)」を意味するという。
◆武装
- 六尺左右長巻「右丞相・左丞相」
師直の愛刀である二振りの長巻。
柄の中間と柄尻に
埋めるような形で大きなリングが備わっている。
リング部分は飾りではなく、戦闘中に柄から手を離して持ち手の位置を調整して射程距離を変更したり、リングと手首の動きを利用してトリッキーな太刀筋の斬撃を繰り出すことができる。
また、鍔の部分にそれぞれ
「右」と「左」の字が装飾されているのが非常にシュール。
◆戦術
自身の手柄の証明のため討ち取った敵兵の首を携行せざるを得なかった旧来の戦の常識を覆す師直考案の戦術。
討ち取った敵兵の首を第三者の味方に確認して手柄を証明してもらったらその場で首を廃棄して即戦闘に復帰するというもの。
作中では手柄を後で証明してもらうため確認の署名を2人ほどにしてもらっていた。
首を携行する無駄を省きながら戦力を減らさず迅速な侵略も可能とする合理性に特化した戦術である。
歴史上では「分捕切捨の法」という名で残っており、実際に1338年の般若坂の戦いで師直が初めて採用した軍令と言われている。
師直が集めた神力を宿した尊氏の涎を酒に混ぜて雑兵に飲ませることで発動する一時的な強化。
尊氏の涎を飲んだものは短時間目の前の人間が尊氏のように見え、その命令に狂信的に従う性質を利用して、使い捨ての兵を死をも恐れぬ狂戦士に仕立て上げる。
猶子の師冬への洗脳にも使用しているが、こちらは使用後しばらくうわ言を繰り返すなどの不調が見られ、調整を間違えると完全に壊れてしまうなど何らかの制約や限度はある模様。
◆その他
いずれ今の帝には…この全金属製帝にご譲位頂こうかと
師直が試作中の問題作。
ビジュアルは全体を金箔でコーティングした金属製の帝像。
金箔によって半永久的な威光を保ち、打ち出し成型により軽量化、下部には車輪を搭載。人力で転がすことで全国巡業可能な機動力を備えている…とは師直の談。
「人の帝より全金属製の帝の方が恰好良いし有難みがある」「維持費がかからず野心もないのが最高に良い」とほっこり顔で語る辺り本人はかなりの自信作と考えていたが、不敬の極みといって過言ではない。
公家の存在を無価値と捉える師直の冷酷さが露骨に見えていることもあり、直義から痛烈に批判された。
御所巻の際には
全金属製直義まで登場。
フルメタル天皇を流用しており、首から上を直義に取り換えただけの代物である。
師直は直義に対して政治の権限をフルメタル直義に譲渡して引退することを要求するが、
直義自身は全金属製という部分に少しときめいている。
というか
要求内容よりむしろ手抜き造形の方に憤り、あの尊氏をツッコミ役に回している。
以上のようにかなりブッ飛んだ代物だが実はちゃんと元ネタがある。
と言うのも、『逃げ若』の大まかな原作と言える『太平記』にて「師直が『天皇は木彫りや金属の像にでもして、本物は流刑にしてしまえ』という過激な天皇不要論をブチ上げていた……というデマを、反師直派のある僧侶が直義に告げ口した」という描写が存在するのである。
当然本当に全金属製帝を作った訳ではないのだが、本作ではそっちの方が面白いのでデマではなく事実として作っていた事になった格好。
これらの風聞に関しては後述の余談項も参照。
配下
天狗衆
神速の体術と潜入技術を兼ね備えた足利直属の
忍者軍団。師直が創設し、全国各地に潜伏しては反乱の予兆などをいち早く伝える役割を果たしている。
その名の通り、メンバーは全員天狗面を被っており、「夏の四」、「春の八」といった四季と番号を合わせた
符号で呼ばれている。
教育機関「足利学校」で訓練を積んだ特殊部隊であり、時に身寄りを失った孤児を買い取り鍛え上げることで精鋭としている。
天狗衆はその拾ってもらった恩と、虐待とも言える過酷な鍛錬によって無理矢理植え付けられた忠誠心の元で働いている。
1333年には越後に住まう新田義貞の一族に尊氏の離反と京の幕府軍が全滅した報を迅速に伝達して上野国の義貞本隊に合流させ、義貞に迷いを捨てさせることで倒幕に影ながら貢献したとされている。
これは当時の情報伝達スピードからすると驚異的なもので、日に百里駆けるともされる天狗衆だからこそ出来たことである。天狗衆に本気を出されると目で追うことすら困難な速さとなる。
他にも変装や潜伏の技術、毒を用いた殺し技など多様な技術を磨き抜いており、個々の能力は鍛えぬいた武人にも勝るレベル。
その強さの秘密は彼らが着込んでいる
「天狗躯体」にあり、
動物の腱で出来た成人男性の傀儡を身に纏って操縦することで人間離れした動きを可能としている。
この躯体は足利の職人にしか作れないらしく、原料の動物の腱も海外輸入の高級品のため超貴重なワンオフ品となっている。
一方、技術のみを磨き抜いた弊害か、大局を見据える思考力や複雑な判断は歴戦の武将に比べて劣る一面があり、裏をかかれて誤報を伝えることも。
例えば中先代の乱の前哨戦が起きた際には、天狗衆は
「諏訪がすぐに戦を仕掛ける可能性は低い」と報告していたが、
小笠原貞宗は
諏訪頼重と長年戦い続けてきた経験からその報を信じていなかった。そして鎌倉奪還という真の目的こそ見抜けなかったものの、貞宗の
「ただの反乱ではない」「よそ者に何がわかる。頼重は必ず挙兵する」という予想は当たっていた。
この中先代の乱の予兆を感じ取れなかった失態に師直は激怒し、誤報を届けた天狗衆を鉄拳制裁している。
これ以降は
「所詮青二才に複雑な判断は無理な話か」と天狗衆個々の状況判断能力を見限り、高師直自らが管理・運用するようになる。
『太平記』では新田義貞が挙兵した際に「天狗の報せ」が入ったという記述があり、本作における天狗衆はその眉唾物の情報に「忍者集団」というガワを被せて現実的な肉付けを施したものと思われる。
また、同書内では高師直が石清水八幡宮を焼き討ちする際に「忍び」を使ったと記されており、これが日本の文献上における忍者の初出とされている。
余談
「高」は一般的な「苗字」ではなく、平安時代の「氏・姓」としての「氏」である「高階」の略である。
この「氏・姓」というのがややこしいのだが、ざっくり言うと「氏」は朝廷が認めた血縁集団の区別であり、朝廷から与えられた称号のようなもの。
足利尊氏を例に取ると、彼の場合は先祖が源氏であるため氏読みだと「源尊氏」となる。
そのため読む際には姓と名前の間に「の」が入る。
そんな高一族は代々足利家の家政を統括する「執事」という役職を担っており、尊氏の祖父である家時の代から執事を輩出している。
この場合の執事は現代的な意味での「バトラー」や「スチュワード」とは異なり、当主を補佐して家の財産や土地を管理する仕事、端的に言えば執政官を指しているのだが、逃げ若ではわかりやすさ重視のためか普通に料理や身の回りの世話などの家事も任せられている。
言わば家来の血筋であまり家格が高いとは言えず、執事の仕事も文官としての役割がほとんどであったが、師直は例外的に高い武力を持っており、政治・戦においても多大な影響力を誇った。
足利の繁栄と合わせて次第に取り扱う財産や土地も増えていくと共に裁量範囲も広がっていき、師直自身の果断な改革もあって「執事」の役割も拡大・変質するに至った。
特に血縁が濃い一門衆の繋がりが重視されていた足利党においては、異端の外様であり成り上がり者であったと言える。
史実においても尊氏の側近として数々の戦で実績を上げた上、官僚・政治家・歌人も兼任し、それぞれの分野で優れた業績を残した正に「マルチタスクの傑物」と評するに相応しい名将として知られている。
一方で『太平記』においては神仏をも嘲弄する悪逆非道の男として描かれており、弟の師泰と共に徹底的に扱き下ろされている。
この悪評は実際に師直が石清水八幡宮、吉野行宮、金峯山寺蔵王堂といった聖域を焼き払った事実から誇張された側面もあるが、後述の塩治判官に対しての狼藉や逃げ若内でも描かれた
「帝は全金属製にして本物は流してしまえ」と発言したことは明らかな冤罪と言われている。
……というか
フルメタル天皇発言に関しては
『太平記』内でも政敵が広めた讒言扱いである。
まあ、本当に言いかねない人物くらいには思われていたのかもしれないが……
このように忌み嫌われた背景には前述の通り、高一族自体が足利一門とは別の成り上がり者という立場もあるだろう。
また、師直は「執事施行状」という「土地に関する問題が起きた場合、執事が武力による強制執行も辞さずに治める」というシステムを構築している。
この「武力で土地を我が物とする」とも取れる仕組みは基盤を持たない新興武士(いわゆる婆娑羅も含む)から支持された一方、元から土地を持つ既得権益者の貴族や寺社・仏閣、さらには北条の平和的統治を理想とする直義ら保守派とは相容れない考えだった。
また、この施行状の仕組みからして、執事という役職に全国を治めることも可能な圧倒的強権とそれを可能にする武力が集約されることを危険視する向きもあっただろう。
要は師直は「成り上がり者」にして「天下の裁定者」、そして「暴力装置」という嫌われ者のマルチタスクまで担ってしまったのだ。
そのため対立する貴族の日記には悪し様に書かれ、観応の擾乱を経て高一族が滅亡した後に「執事施行状」のシステム自体を乗っ取った対立派閥の台頭もあり、元の親玉である師直へのネガティブキャンペーンに歯止めが利かなくなったのである。
師直の悪評は時代が変わるごとにますます酷くなっていき、江戸時代に遂にピークを迎える。
その要因となるのが赤穂浪士の討ち入りでお馴染みとなる「赤穂事件」を題材にした人形浄瑠璃・歌舞伎の演目『仮名手本忠臣蔵』。
「赤穂事件」は事件発生当初からセンセーショナルな話題を呼んだ仇討ち事件であり、討ち入りの翌年には歌舞伎の演目になるほどの人気ぶりであった。
ただし、流石に江戸幕府や当事者達の目がある中で事件をそのまま上演するわけにもいかないため、既存の歴史上の事件に設定を置き換えるのが通例となり、その集大成となる『仮名手本忠臣蔵』が下敷きにしたのが『太平記』における「塩冶判官事件」だった。
この『太平記』における塩冶判官事件のあらましを説明すると、ある時師直が美人で評判の塩冶判官の妻に恋心を抱き、兼好法師に代筆させて恋文を送るも拒絶される。逆上した師直は「塩冶に謀反の疑いあり」と嘘の報告をして、追討軍を差し向けたことで塩冶の妻は捕まる前に自害。その報せを聞いた塩冶も生まれ変わっての復讐の念を口に出してその後を追った……というもの。
確かに塩冶判官は謀反の疑いをかけられ自害に追い込まれているが、『太平記』に記された死亡時期は史実と2年のズレがある上、和歌の名手である師直が恋文の代筆依頼をする等の不自然な記述も多々あるため、十中八九創作とされている。
しかし『仮名手本忠臣蔵』はそんな『太平記』お得意の曲筆を知ったこっちゃないとばかりに創作。
よりにもよって「浅野内匠頭」を塩谷判官、彼を苛め抜く赤穂浪士最大の仇役にして憎まれ役である「吉良上野介」を師直に仮託してしまった。
さらにこの『仮名手本忠臣蔵』、文楽・歌舞伎ともに超絶大ヒット。当時の江戸っ子たちの話題になったどころか、現代に至るまで伝承され続ける超ロングヒット作品となっている。
つまりそれだけ長い間、師直は『太平記』×『仮名手本忠臣蔵』の二重の謂れのない悪評が語り継がれることになったワケで……
さらに演目の中で塩谷判官の妻に懸想する師直が彼女が入浴する姿を覗き見する場面は、浮世絵等においてセクシーピンナップ化。
これによって師直には「女風呂覗き魔」「人妻好き」という最悪の風評被害まで根付いた。
玄蕃じゃないんだから……
そんなこんなで史実上では下手をすると尊氏以上に毀誉褒貶が激しく、悪役としてのイメージも強固な師直だが、本作に限っては
かなり人気が高い。
まぁ悪役なんだけど
第1回人気投票においてはなんと1897票で
8位。これは
主君の尊氏も含む足利党の中ではブッチギリのトップだった。
人気投票期間中はちょうど三浦時明と戦っている最中~尊氏が自害未遂する直前ということで、一応尊氏の本性が伏せられた状態&師直の見せ場がある時期とは言え、あくまで脇役としての活躍でありそこまで目立つ方ではなかったため驚きの声が多く挙がった。
江戸時代からのあまりにあまりすぎる扱いの悪さから考えると、逃げ若で相当に報われた人物であると言っても過言ではない。
一緒に活躍していたにもかかわらず9票しか入らなかった師泰は泣いていい。もっとも大河ドラマの時から師直に比べて出番がやたら遅いなど、扱いに差がつきやすい兄弟ではあったが……
追記修正は「戦闘」と「政務」と「うどん打ち」と「女遊び」を同時にこなしながらお願いします。
- 尊氏がいるからこそ真価を発揮する、多分、現代では生きられない、多方面から恨みを買って「ザマァ」されるタイプ -- 名無しさん (2024-07-22 12:58:48)
- この先主人公達と交戦する機会はないだろうから、大ボスのケジメとして全力で戦った上で負けさせなければならなかったのは分かるが…それでも今週の展開は史実での勝者である師直が可哀想だと思った。 -- 名無しさん (2024-07-22 20:07:22)
- 「高」で「コウ」と読む韓国系の人に心当たりがあったのでかつての渡来人一族なのかと思ってたが違うのね。というのは先週号の前に最近自分で調べて知った。派手な女性交友は先週号の解説で事実のように言われているが… -- 名無しさん (2024-07-23 00:05:16)
- 直義派に勝って室町幕府管領家とかになれてれば悪しざまに書かれることはなかっただろうが、そうはならなかったからね -- 名無しさん (2024-07-23 14:32:38)
- 最新話を読むと終始趣味友でいられた道誉がいかにイレギュラーなのがわかる -- 名無しさん (2024-07-23 14:48:05)
- ん?と思ったら論争ある肖像画のネタも拾った可能性があるあの展開か… -- 名無しさん (2024-07-23 17:21:41)
- 姓の名前ようわからんのだけど、要するにヴェルフェン家が現代ではハノーファー選帝侯家とか名乗ってるのと似たようなもん? -- 名無しさん (2024-07-23 23:38:57)
- ↑そっちは源尊氏が足利荘を治めてるから足利が苗字って例の方。どっちかと言うとペンドラゴンが何か父のウーサーだけじゃなくアーサーの苗字(称号)みたいになっちゃった感じのが近い(大体の人が区別のために苗字名乗り出したこの時代にわざわざ称号の方を名乗り続けているのがレア。高家の場合は土地を持っておらず苗字になる地名がなかったのがデカいとされてる) -- 名無しさん (2024-07-24 13:45:05)
- 何かが違っていたら高師直でなく高階師直(たかしな の もろなお)だったかもしれない人 -- 名無しさん (2024-07-24 15:55:38)
- 合理主義者の割に無駄に敵意を作ってる辺り、合理性とは?って気分になるキャラ -- 名無しさん (2024-07-29 10:51:34)
- 南北朝時代に至っても苗字を持たず、氏を使い続けた変な人 -- 名無しさん (2024-08-17 23:29:57)
- すげぇド外道の悪役なんだけど何か妙に憎めないのが先生の手腕を感じる -- 名無しさん (2024-08-18 11:39:32)
- ↑3 使う人間が非合理的な所あるからなぁ。敵も多く作ってるがそれ以上に手柄をたててるんで問題ない所はあるかも。外道な所も時代が時代だからな所もあるだろうしよ -- 名無しさん (2024-08-18 11:52:04)
- ディアボロに向かって「ああ神様」とか言い出すチョコラータとか最悪かよ! -- 名無しさん (2024-08-18 11:58:17)
- この人の子孫は完璧執事ならぬ有能コーチの高信二氏 -- 名無しさん (2024-09-25 19:51:04)
- この人の最期は多分、摂津国打出浜の戦いの敗戦時に神として絶対視していた尊氏に見捨てられ、絶望の中で……となりそう -- 名無しさん (2025-02-13 18:31:16)
- あと1話か伸びても3話くらいしか持ちません、どうしたものか -- 名無しさん (2025-04-10 19:31:50)
最終更新:2025年04月22日 23:13