食堂
 今日は珍しくハルトマンがまともに起きた(俺に起こされた)状態で、全員が食卓に揃った。
 そして相変わらず俺は無言でもくもくと食べている。

ミーナ「あ、俺少尉。あなた宛てに荷物が届いてるのだけれど」

俺「届きましたか。後で取りに行きます」

ルッキーニ「ねーねー俺、一体何が届いたの?」

 興味津津なお年頃のルッキーニが身を乗り出して聞いてくる。

俺「個人的なものですよ」

ルッキーニ「えー」

シャーリー「ほらルッキーニ、俺も困ってるだろ」

ルッキーニ「うじゅー……」

 シャーリーに言われ席に戻るルッキーニ。

俺「まあそのうちきちんと見せますよ」

ルッキーニ「ホント? 約束だよ!」




エーリカ「おかえりー」

 俺が荷物を受け取って部屋に戻るとハルトマンがベットの上で絵本を読んでいる。
 もはやその姿は珍しくもなくなったようで、ハルトマンが居なくなった時は大体俺の部屋を一番先に探すくらいだ。

俺「何を読んでるんですか?」

エーリカ「んーヘンゼルとグレーテル」

 ハルトマンは俺に表紙を見せる。

俺「編集後版ですね」

エーリカ「わたしさっき初めて原版見たけど怖くてさ……というか何であの二人捨てられたのに帰り道わかったんだろうね」

 ちらりとハルトマンが本棚を見上げる。視線の先にはヘンゼルとグレーテルの絵本があった。

俺「編集後も大概だと思いますけどね」

エーリカ「まあねー……」



俺「ヘンゼルとグレーテルは、あまり絵本の中では好きじゃありませんね」

 少しの沈黙の後、俺が口を開いた。

エーリカ「えっ?」

 ハルトマンは驚いた顔をする。
 絵本を愛していると言ってもいい俺に、嫌いな絵本があるとは思わなかったからだ。

俺「どんなに子供向けになっても、魔女は二人に殺されてしまう。今まで様々なヘンゼルとグレーテルをみましたが、
魔女も助かる話は一つもありませんでした。……まあ、自分が知らないだけでひょっとしたらあるのかもしれませんが」

エーリカ「どうして俺は魔女が助かった方がいいと思うの?」

 俺が少し口ごもる。ハルトマンはこの感じにどこか覚えがあったが、どこで感じたかは思い出せなかった。

俺「魔女ではなく人のいいお婆さんだった、というのもありまして。それではあまりにもひどすぎると思っただけですよ」

エーリカ「ふーん……。あ、そうだ俺の荷物はなんだったの?」

 流れを変えようとハルトマンが荷物の話題にする。




俺「これですね」

 俺は袖の中から木箱を2つ取り出す。
 その木箱はどちらもルッキーニの身長ほどで細長い。よほど重要なのか一つ一つを丁寧に床に下ろした。

エーリカ「これ、何が入ってるの?」

俺「んー……秘密ですね。まだ未確定でして」

エーリカ「えーもったいぶらなくていいじゃん。ルッキーニにもいつかみせるんでしょ?」

俺「多分見せるのはすぐになると思いますが、今はダメです」

エーリカ「う~ケチ~」

 頬を膨らませるハルトマンと困った表情の俺。

俺「ほらほら、チョコあげますから。あと片付け終わったら何か作りますからね」

 俺は袖から板チョコを一枚出すとハルトマンに手渡す。


エーリカ「わーい」ぽりぽり

 喜んでハルトマンは板チョコを食べ始めた。ヒンヤリと冷えているためパリポリといい音が鳴っている。
 ハルトマンが満足したのを確認すると俺は本棚の方を向き、低い段に本を戻すために座る。

エーリカ「おれーこっちみてー」

俺「なんでしょ――」

 ヒンヤリとした感触が唇に触れる。さっきまで寝ていたはずのハルトマンが、自分の目の前に居る。大きな可愛らしい目が俺を見ている。
 唇に当っているのは一片のチョコの欠片。そのほんの小さなかけらのもう一つの先は、ハルトマンの唇。

俺「……」もぐもぐ

 ヒンヤリと冷えていたはずのチョコは、いつの間にか柔らかくなり音は鳴らなかった。



エーリカ「えへへ~やってみたかったんだ~」

俺「……」

 ニコニコと笑うハルトマンと対照的に呆然としている俺。
 俺は再び本棚の方を向くと黙々と作業し始める。

エーリカ「あれ~俺、耳が赤いよ?」

俺「……」

エーリカ「俺~こっち向いてみなよ」

俺「……」

エーリカ「俺ってばー」

 そのまま俺は作業を続けることに何とか成功した。誰か、手を出さなかった彼を褒めてやってください。




 夜 坂本の部屋

 暗い部屋の中で一人坂本は座っている。

坂本「……はぁ」

 魔法力の低下、これは坂本に想像以上に深刻な精神ダメージを与えていた。
 隊員の前では何時ものようにふるまってみせるが、一人きりになるとため息ばかりついている。

 トントン

坂本「……誰だ?」

俺「今晩は……坂本少佐」

坂本「なんだ俺か。どうした? お前がわたしの部屋にくるなんて珍しいじゃないか」   
 坂本が明かりを付けるといつもの様に無愛想な俺が立っていた。

坂本「何か用か?」

俺「……坂本少佐」

 俺は袖に左腕を入れ、何かを取り出した。




 翌朝

 珍しく食堂に少し遅れてやってきたミーナは目の前の状況に目を疑った。

ミーナ「ど、どういうこと!?」

 寝ている。食堂にいる全員が寝ている。
 バルクホルンも宮藤もリーネもペリーヌもエイラもその他諸々。居ないのは坂本と俺とハルトマンだけ。

ミーナ「新型のネウロイ!?」

 ネウロイの多様化が進んでいる昨今ではあり得ないことでもなかった。

ミーナ「でも警報が……あら?」

 よくよく見ると、何故か寝ている全員のそばにじゃがいもが転がっている。

ミーナ「まさか……イモ型ネウロイ!?」

 慌てて銃を取り出すと、皿に盛られたイモに向かってぶっ放す。

 ダンダンダンダン!

ミーナ「この、この! よくもみんなを!」


 のろのろと食堂に向かっていたハルトマンは、突然の銃声に慌てて食堂に入る。
 そこではミーナがイモというイモに銃を乱射しているという珍妙な光景が繰り広げられていた。

ハルトマン「お、おちついてミーナ!」

ミーナ「離しなさいフラウ! イモが! イモ型ネウロイが!」

ハルトマン「ミーナが何を言っているのかわからないよ!」

 ハルトマンに羽交い絞めされながらも銃を乱射するのをやめないミーナ。
 念の為に言っておくが寝ている人には当ってません。

坂本「おい何やってるんだミーナ!」

 同じく慌ててやってきた坂本に銃を奪われる。
 銃が無くなったということで、安全と思ったのかハルトマンが羽交い絞めをやめるとミーナはその場に座り込んでしまった。

坂本「お前らしくもない。やはり最近、新型のネウロイの報告書で殆ど寝ていないという噂は本当らしいな……」

 坂本が辺りを見渡すと、これだけの大騒ぎが起きたというのに目を覚ます気配すらない連中がいる。

ミーナ「イモが……ネウロイ型のイモが……、じゃなくてイモ型のネウロイが……」


エーリカ「いや、それはないでしょ……。あったらカールスラント全滅してるから」

俺「……む?」

 いつの間に来ていたのか俺が厨房の中で瓶を一つ持っている。
 見た目は白く塩のようだが、なにやらラベルのようなものが張られている。

俺「むー……」

 珍しく俺の表情に焦りが出ているのが3人もわかった。

坂本「……俺。原因はお前か」

俺「…………」

坂本「それはなんだ?」

 坂本が俺が持っている瓶を指さす。

俺「……睡眠薬です」

ミーナ「どういうこと……」うつらうつら

エーリカ「ミーナ落ち着いて、子守唄じゃないよ」



坂本「つまり前日に料理を作ろうとして、塩の瓶と睡眠薬のはいった瓶を間違えて出してしまい、間違えに気付き塩の瓶をとりだしたが睡眠薬の瓶を戻し忘れた、と」

ミーナ「そして宮藤さんが、じゃがいもをゆでる時に塩の瓶と間違えて睡眠薬を入れてしまったと……」

エーリカ「やっちゃったね俺」

 3人の前で俺は正座をさせられている。

ミーナ「ジャガイモを茹でるのに使っただけで、ジャガイモ自体にはそんなについていないはずだから命にかかわることはないと思うけど……」

坂本「しかしえらく即効性のある睡眠薬だな……溶けたのも原因の一つなんだろうか」

エーリカ「上からかける塩は普通の塩だったよ。塩と睡眠薬が二つ並んでたが幸いだったかもね。これが睡眠薬だったらみんな永遠に眠る羽目になったかも」

俺「申し訳ありません……」


ミーナ「まあ、幸いネウロイが来なかったからいいものの……」

 ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥー!

ミーナ「ああもういろんな意味で空気読み過ぎなのよ!」

坂本「落ち着けミーナ全員が眠らなかっただけ幸いだろう……まさかお前も眠りたかったのか?」

ミーナ「そ、そんなわけないじゃない!」

坂本「終わったらゆっくり休むといい」

ハルトマン「だねー」

俺「ですね」

坂本「お前は反省しろ」

俺「……申し訳ない」

ミーナ「と、とにかく急いで撃墜しに行きましょう!」

坂本「落ち着けミーナそっちはイモの倉庫だ」



海上

ミーナ「中型ネウロイが一機……小型ならよかったのに」

坂本「そういうな。ネウロイがわたしたちに合わせてくれるわけがない」

エーリカ「でも最近は小型でも強かったりするから、逆に中型とかのほうが倒しやすいんじゃない?」

俺「あなた達なら問題ないと思いますけどね。……今回は坂本少佐もいることですし」

坂本「ああ、当然だ」

 二人の掛け合いに首をかしげるミーナとハルトマン。

エーリカ「そういや昨日居なかったけど何してたの?」

俺「それはですねー」

坂本「見えたぞ!」

 坂本が眼帯を上げ魔眼を使う。丁度中央にコアがあるのが確認できた。




坂本「コアは中央だ! わたしに続け!」

ミーナ「美緒一人で行ったら……」

エーリカ「なんかテンション高いね今日の少佐」

俺「嬉しいんですよ」

 後方600メートルほどの位置で待機している俺が呟く。

エーリカ「嬉しい?」

 ハルトマンが首をかしげる。

 キュウウウウン!

 三人を狙いバラバラにビームを撃っていたネウロイだが、作戦を変えたのか一番攻撃の激しい坂本に狙いを定めビームを放った。
 大量のビームは坂本の目の前を覆い尽くすほど、大量に放たれる。

ミーナ「危ない!」

 ミーナが慌ててシールドを貼り守ろうとするが、間に合わない。

坂本「心配するな。ミーナ」

ミーナ「……えっ?」

 坂本が笑うと目の前にシールドが展開される。それはネウロイのビームを一発も通すことなく坂本を守った。



 もう満足にシールドを貼れないはずの坂本がシールドを貼る。その事実に二人は驚いた。

ミーナ「美緒魔力が戻ったの!?」

エーリカ「そ、そんなことあるの!?」

坂本「自分でシールドを貼れる、こんなにうれしいことはないな。感謝するぞ俺」

俺「でも余り持ちませんからね。気を付けてください」

ミーナ「俺少尉アナタ一体……」

エーリカ「ミーナ危ない!」

 ミーナが坂本に気を取られている隙に、ネウロイは今度はミーナに照準を合わせビームを発射する。

ミーナ「あっ……」

 キィイン!





 ビームが弾かれる音。
 ミーナがシールドを貼るよりも早く、目の前にシールドが展開されている。だがミーナの前には誰もいない。 

坂本「ふむ、やはり射撃能力は高いな、俺」

俺「ありがとうございます」

エーリカ「え、俺って武器は使えないはずじゃ……」

俺「後で説明しますので、今は目の前の敵を」

坂本「よし!」

エーリカ「う、うん」

ミーナ「行くわよ!」

坂本「はっはっは! 行くぞ!」

 坂本が背中の刀に手をかけた。


 帰り道

俺「流石の烈風斬でしたね」

坂本「はっはっはお前のおかげだよ」

エーリカ「んー……話が見えないんだけどさ、どういうこと?」

ミーナ「俺少尉説明してもらえるかしら?」

俺「はい」ゴソゴソ

 俺が袖から取り出したのはライフル銃。普通にその辺のウィッチも持っているような武器だが、グリップに菫が彫ってある。

俺「オルタンス。知り合いに造ってもらった自分専用のライフルです」

ミーナ「それが一体美緒とどういう関係が?」

俺「自分の袖の中が魔力の渦の様なものということはご存知でしょうか」



エーリカ「知ってるー袖の中にミヤフジを入れて魔力あげてたらしいね。わたしはもう袖にいたから知らなかったけど」

俺「それを利用したライフルで、袖の中の魔力を集め撃ち出すことができます」

坂本「つまりその溜めた魔力をわたしに足して、シールドを張れるようにしてくれたわけだ」

俺「人を袖に入れただけでは魔力がほんの少ししか足せませんでしたが、銃という入れ物に魔力を溜めるという形で、
高密度の魔力補充ができるようになりました。……相変わらずネウロイには効果がありませんがね」

エーリカ「へ~凄い武器だね」

俺「武器というのかは微妙ですけどね」

ミーナ「じゃあ、わたしを守ってくれたのは?」

俺「それはこっちですね」ゴソゴソ


 再び袖からライフル銃が出てくる。こちらはグリップに紫陽花が彫ってある。

俺「ヴィオレット。先ほどのオルタンスとは双子の銃です。こちらは魔力をシールドにすして撃ちだすことが可能な銃です」

ミーナ「なるほどそれで……」

俺「こちらも他の人は絶えず動き回っているので中々撃つのは難しいですけどね」

エーリカ「でもさっきうまくいったじゃん。凄いと思うよ」

俺「ミーナ隊長が止まってましたからね。偶々です」

坂本「昨日俺が夜にライフル銃を持ちだしてきたときはどうなるかと思ったぞ」

エーリカ「あ、それでいなかったんだ」

俺「いきなり戦場で撃たれてもパニックになったと思いますし……」

坂本「いや、だからと言っていきなりライフル銃出されたら警戒する」



ミーナ「これからは美緒はまたシールドを貼れるの?」

俺「時間制限はありますが、問題はないでしょう。烈風斬を何度も撃っても問題ありません」

ミーナ「よかったわね美緒」

坂本「ああ、俺に感謝しないとな!」

エーリカ「あーお腹すいたなぁ……。そうだ、俺なんか作ってよ」

俺「んー……そうですね、何かお菓子を作りましょう」

エーリカ「やったー! 俺大好きー!」

ミーナ「あらあら」

坂本「はっはっは! さて、基地に戻るぞ!」
最終更新:2013年02月02日 13:10