平年より残暑が厳しかったはずが、いつの間にか気温が一桁台に突入している今日この頃。

今日は日曜日ということで学校は休みである。
しかし、学校が休みでも部活が休みとは限らない。今日だって俺が所属している野球部は午前練習があった。
だが、俺は朝から家で、PCでストパンスレをのんびりと眺めている。所謂サボりだ。

俺の家庭は母子家庭で、歳が三つ離れた姉が一人いるが、その姉は家から車で3時間程かかる場所にある大学で寮暮らしをしているので、実質母と家賃五万八千円の安アパートで二人暮らしということになっている。
安アパートと言っても、一人暮らしするには広い方、というくらいの広さはあるので気にしてはいない。
そして母は仕事に出て夕方まで帰ってこないので、その間俺は何でもし放題なわけだ。

実は、俺は今まで部活を何度もサボっていて、今までは「スタメン余裕だし(笑)」みたいな感じだったのだが、ついに試合には出させてもらえなくなった。最近はサボらずちゃんと部活に出ているので、この前の練習試合ではなんとか代打で出してもらえたが、今回またサボったので、春の大会のベンチメンバーにすら選んではもらえないだろう。
まあ、「サボり」ではなく「病欠」ということにすれば、どうということはないのだが。

母にサボったことがバレるとぐだぐだ説教される羽目になるので、きちんと部活に行ったかのように偽装工作しておく。手慣れたものである。





あっという間に時間が過ぎ、昼飯の焼きそば弁当を食べてから2時間程たった頃、

「コンビニ行ってくるかな……」

小腹が空いたので、何か菓子でも買ってこようと思い、俺はそう呟いた。
独り言は多いほうだということは自分でもわかっている。

「……~♪」

鼻歌を口ずさみながら、外出するときの服装に着替える。
着替え終わった後、財布をズボンのポケットに突っ込み、家の鍵と自転車の鍵を手にして外に出る。
家の鍵を閉め、ドアノブをひねって引き、しっかり閉まっていることを確認してから階段を降り、一々物置にしまうのは面倒臭いという理由で外に出しっぱなしの、チェーンが少し錆びている自転車の鍵を開ける。

サドルに跨り、ペダルを漕いで、コンビニへと向かう。
そして、ペダルを漕ぎ始めてから1分も経たないうちにコンビニに到着した。
自転車をコンビニの駐車場の脇に止め、鍵を閉め、出入り口へと向かう。

自動ドアが開き、店員の「いらっしゃいませー」という声が聞こえる。
俺はかごを手に取ってから菓子が置いてある場所に行き、ポテトチップスしょうゆマヨ味、ピーナッツチョコをかごに入れ、その後スイーツが置いてある場所に移動し、最近お気に入りのレアチーズタルト二つをかごに入れる。






そしてそのままレジに向かい、会計を済ませ、店員の「ありがとうございましたー」という声を背に受けながら外に出る。

「寒い……」

ここに来るまでは特に気にしなかったが、やはり半袖Tシャツにパーカーでは肌寒かった。せめて長袖Tシャツにすれば、と思いながら自転車の所へ向かい、菓子の入ったレジ袋をかごに入れてから鍵を開け、サドルに跨り、ペダルを漕ぎ始める。

それからすぐに家に着き、かごに入っているレジ袋を取って、自転車を降り、アパートの階段を小走りに駆け上る。
そして、階段を中ほどまで上ったところで、あることに気が付いた。

「……あ、自転車の鍵閉め忘れた」

俺の自転車を盗むような奴はいないと思うのだが、それでも念のために閉めておかねばなんだか安心できない。

自転車の所に戻ろうと、180度方向転換して足を踏み出した、その時。

「あ」

俺は見事に階段を踏み外してしまい、バランスを崩した。
このような事は何回かあった。その時はいつも尻餅をつく程度だったので大丈夫だったが、今回は違った。

完全に前に倒れてしまっていた。

時がいつもより遅く流れていくのを感じた。
俺は来るべき痛みを堪えるため、ぎゅっと目を閉じた。






「……あれ?」

来るはずの痛みは訪れず、落下している感覚が続き、それを不思議に思って目を開けてみると、視界は青で埋め尽くされていた。

「え?は?」

その青はどうやら空らしい。視界の隅で太陽が光を発してこれでもかと自己主張している。雲一つない快晴だ。
そして俺はそんな空を眺めながら、背中から落下している。手にはレジ袋が握られたままだった。

「ちょっと待て!!いやなんだよこれ!!」

頭が混乱気味になり、声を上げてみるも、耳元で鳴り響く轟音に打ち消されて自分でも何を言っているのかわからない。
頑張って首を回して横を見てみれば、なにやら黒いものとこちらに向かってくる一羽の鳥が見えた。……黒いものはどこか見覚えがあるような気がする。鳥は多分……ハヤブサ?水平飛行だとそんなに速くないようだ。
そんな事を考えていると、黒いものが赤い光を発した。

「……あっ、もしかしてあの黒いのは……」





黒いものが発した赤い光は、最初は小さかったものの、だんだん大きくなってきた。

「ネウロイ……?いや、まさかそんなこと……」

独り言をぶつぶつと呟いているうちにも、赤い光は大きくなる。
そして、俺はやっと気付いた。赤い光はネウロイが放ったビームであり、それがこちらに迫ってきているのだと。

「……やばっ!」

しかし、そのことに気付いても俺にはどうしようもない。俺は両手で頭を抱え、再び、ぎゅっと目を閉じた。

「……あれ?」

本日二度目の台詞である。
落下している感覚がなくなったと同時に、俺は体から力が抜けていく感覚に襲われた。
重くなる瞼をなんとかこじ開けてみると、そこには赤毛の、これもまた見覚えのある女性の顔があった。

「……無事……。皆さんは……続けて……」

その女性は何か言ったあと、こちらに顔を向けて話しかけてくるが、今の俺には何を言っているのかわからなかった。
意識が次第に遠のいて行くと共に視界がぼやけて行き、やがて視界は黒で埋め尽くされた。





サーニャ「……ネウロイの反応、消滅しました」

坂本「よし」

坂本<<ザザッ……ミーナ、そっちはどうなっている?>>

ミーナ<<無事確保したけど、気を失ってしまったようだわ……>>

坂本<<そうか……まあ無理もないな。遠くからでも見えるほど大きなシールドだったからな>>

ミーナ<<そうね……、色々気になることがあるのだけれど、彼の意識が戻るまで待たなくちゃいけないようね>>

坂本<<ん?彼?……ってことは、男なのか?>>

ミーナ<<ええ、そうよ。……とりあえず、一旦基地に戻りましょう。今そちらと合流するわ>>






シャーリー「ほう……こいつがあのでっかいシールド張ったのか」ツンツン

俺「zzzzzz……」

ミーナ「今はもう気を失ってしまったけど……」

宮藤「私のよりずっと大きかったです!」

エーリカ「遠くからでもはっきり見えたもんね~」

エイラ「ストライカーも穿いてないのにあんなシールド張れるナンテ信じられないゾ」

バルクホルン「しかし、何故空から降ってきたんだ?」

坂本「それについては、基地に戻ってこいつが目を覚ましたら私とミーナが調べておこう」

ペリーヌ「殿方のウィッチだなんて……」

リーネ「初めて見ます……」






「……あれ」

イントネーションは違うが、本日三度目の台詞である。
目の前に広がっているのは、恐らく天井だろう。

「あら、目が覚めた?」

ふと、さっきとは違う女性の声が聞こえてくる。

「はい」

とりあえず返事をすると、カーテンが開く音と共に白衣を着た女性が現れた。

「気分はどう?」

「悪くないです」

「そう。……顔色も良いわね。さてと、隊長に伝えなくちゃ……」

そういって、白衣の女性は部屋から出て行った。

……隊長?……そうだ、俺は何故ここにいるのだろうか。

まず、俺は階段を踏み外した。すると、何故か空から落ちていた。
そしたらネウロイが現れてビームを撃ってきて、誰かに抱えられて意識を失った。





「……待てよ」

気になるところがいくつかある。何故空から落ちていたのかはさっぱりわからないのでスルーさせてもらう。
まず、何故ネウロイがいるのか、ということだ。
俺が見たのは間違いなくネウロイだろう。ビームも撃ってきたし。
そして俺はそのビームにやられているはずなのに、何故かこうして生きている。
あの時の赤毛の女性のおかげだろうか?……待て、そういえばあの赤毛の女性にも見覚えがある。

「……マジかよ」

辿り着いた結論は、信じがたいものだった。
否、最初からこのことに気付いていたのだろうが、それを信じきれていなかったのだ。
一旦身体を起こしてみると、ベッドの脇に置いてある丸椅子に中身の入ったレジ袋が置かれていた。
レジ袋を手に取り、恐る恐る中身を確認してみる。

「ポテチ……チョコ……タルト……」

俺は再びベッドに倒れた。

「……胸が熱くなるな」





すると、部屋の扉が開く音がした。俺は再び身体を起こす。
白衣の女性と共に、赤毛の女性と眼帯をつけた女性が入ってきた。確定だ。

「……ミーナ」

俺がそう呟くと、三人はその場に固まって信じられないといった表情を浮かべてこちらを向いた。

「……何故、私の名前を?」

表情をそのままに、ミーナが口を開く。

「それと、坂本少佐」

「……貴様、何者だ?」

坂本が表情を真剣なものに変え、こちらに向かって歩いてくる。

「……さあ、何者なんでしょうね」

俺の顔には、自然と笑みが浮かんでいた。





「ふざけるな!!」

怒号と共に坂本がこちらに詰め寄り、俺の胸倉を掴んでくる。

「ちょ、ちょっと美緒!」

そんな坂本をミーナが宥める。
白衣の女性はいつの間にか姿を消していた。

「すみません……とりあえず離してくれませんか」

俺の言葉に、坂本がまた何かを言おうとしたが、ミーナが仲裁に入り、事なきを得た。
坂本が俺の胸倉を掴んでいる手を離し、ミーナが俺に問い掛ける。

「貴方がどうして私たちの名前を知っているのかは後にして……、どうして空から落ちてきたの?」

「それは俺もわかんないです。でも、わかることがひとつだけあります」

ミーナは黙る。俺の発言待ちなのだろう。

「俺は、この世界の人間じゃないです」





「……やはりふざけているのか貴様!?」

再び激昂した坂本を、再びミーナが抑える。

「落ち着いて美緒!!」

「はあ……はあ……すまない」

息を荒げながら坂本が謝罪の言葉を口にする。

「一応言っておきますが、俺はふざけてなんていませんよ。……証拠もあるみたいですし」

そう言って、俺はレジ袋に入った菓子の中からポテチの袋を取り出して見せる。

「……これは?」

「やっぱりわかんないですよね……」

二人の反応を確認した後、ポテチをレジ袋に戻す。





「今見せたのは俺がいた世界のお菓子です。ここに来る前にコンビニで買ったんですけど、ここに来るときに手に持ってたから一緒に来たのかな」

二人の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいる。
コンビニはこの世界には存在しないのだから当たり前か。そういえば、ヨーロッパの方だと宗教上や文化上の理由とかでコンビニが少ないということを聞いたことがある。

「でも、どうして俺は助かってるんですか?あの時、確か俺はネウロイに撃たれて……」

「……何を言っているの?」

次は俺の頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。

「……え?」

「貴方、自分でシールドを張ったこと、覚えていないの?」

呼吸を落ち着かせた坂本が続く。

「あんな大きなシールド、初めて見たぞ」

訳がわからない。





「え?え?……ってことは俺……」

「そういうことになるわね」

「男のウィッチとは……信じられんな」

二人は感心しているかのように頷いた。

「……いや、俺も信じられないんですけど」

「そうは言っても……本当なんだもの」

「……そうだな、例えるならば、子供が投げた石ころを戦艦の主砲で迎撃しているようなものだった」

「なんだそりゃ……それは言い過ぎじゃないですか」

あと迎撃ってのはちょっと間違ってる気がする。





「……あ、そうそう。大事な事を聞き忘れるところだったわ」

ミーナがひとつ咳払いをして続ける。

「どうして私たちの名前を知っているの?」

その質問が来ることはわかりきっていたので、予め考えておいた答えを口にする。

「えーっとですね、俺のいた世界では貴女達ストライクウィッチーズのことが小説になっていたり映像化されていたりするんです。俺はそれが好きだったんでね、この世界のことはもう大体把握してるつもりです。……そういえば映画化も決まったんだよな……」

「ほう……」

坂本が興味深そうに相槌を打つ。

「……ということは、私たち二人だけじゃなくて、他の人の名前や情報も?」

「そうですね。この部隊だけじゃなくて他の部隊のこともまあまあ知ってます」

「へぇ…………」

「……あの、そんな視線で見つめないでください」





ミーナ「そういえば貴方の名前を聞いてなかったわね」

俺「あ、俺も自己紹介するの忘れてました、すみません。えっと、俺の名前は『俺』って言います。一応言っておくと、2010年から来ました」

坂本「2010年……半世紀以上先か……」

ミーナ「想像もつかないわね……」

俺「まあ……ちょっと不謹慎かもしれないですけど、この世界に比べればあっちの世界はつまらなさ過ぎますよ」

俺(しかし……こんな暢気でいいのだろうか)

俺(……今そんなこと考えても仕方ないか……)






「お体の方はもう大丈夫かしら?」

「ええ、大丈夫だと思いますよ」

「それじゃ、早速他の奴等にも挨拶しに行ってもらおうか」

俺は坂本が言った言葉に疑問を覚える。

「……待てよ、ということは…………。俺って、この基地に置いてもらえるんですか?」

「どうせ、他に行く宛もないんでしょう?」

ミーナが小さく優しい笑みを浮かべて言う。

「そりゃ、俺はこの世界の人間じゃないですし……でも」

「はっはっは!何、細かいことは気にするな。事情は私から他の奴等に話してやる」

ミーナが続く。

「それに、ここで暮らしてもらうからには、それ相応の働きもしてもらうわよ?」

「え……それって俺もネウロイとの戦闘に参加しないと駄目ってことですか。っていうか、戦えること前提ですか」





「戦えなかったとしても、雑用があるから大丈夫よ」

それだけは避けたい。……いや、それでもいいかもしれない。

「……でも、俺みたいなのが普通にここにいても大丈夫なんですか?」

「そういう点は全部任せて。上層部には私から言っておくから。特に問題もないと思うわ」

ないのかよ、と心の中でツッコミを入れておく。

「ま、もう他の奴等をブリーフィングルームに集めているし、さっさと行くか」

「……わかりました」

俺はベッドから立ち上がり、歩き始めた二人の後ろに着いて行く。

(なんというか、都合よく話が進んでるな……逆に不安になってくる)



「はい、注目!」

ブリーフィングルームに着いたあと、先に坂本が壇上で説明を始め、その説明が終わった後、俺は壇上の真ん中に立ち、その横にいるミーナが声をあげると、俺がこの部屋に入ったときから浴びせられていた視線がより一層強くなったように感じた。皆の顔を見てみると、やはり俺が知っている者ばかりだった。

「それじゃ、よろしく」

ミーナの言葉に、俺が続く。

「えっと……今日から皆さんの仲間にさせてもらう『俺』です。俺のことについては坂本少佐に話してもらったんですが、全部本当のことです。自分でもこうなるとは思ってなかったんですけど……まあ、よろしくお願いします」

俺の簡単な自己紹介が終わった後、ミーナが続く。

「皆さんも見られたかと思いますが、俺さんは魔法力を持っています。戦闘能力があるかどうかはまだわかりませんが、恐らく大丈夫でしょう」

(大丈夫なのかよ……)

「それに、きちんと良識もあると思いますから、ね?」

「と、当然です」





ミーナ「それでは、早速ハンガーに移動して色々テストしてみましょうか。俺さんへの質問は移動の合間に各自自由にどうぞ」

俺「え……皆ついてくるんですか?」

ミーナ「そうよ?何か問題でも?」

俺「いえ、別に……」

坂本「はっはっは!まあいいじゃないか、皆興味津々のようだしな」



最終更新:2013年01月30日 15:13