俺の部屋
エーリカ「料理が作りたい!」
目が覚めたハルトマンの第一声がそれだった。なぜわざわざ宣言するのだろうと俺は思う。
俺「そうですか」パラパラ
エーリカ「でもミーナとトゥルーデから禁止されてるんだよね~」
俺「……じゃあしないほうがいいんじゃないですか?」
エーリカ「でもいつも俺がお菓子作ってくれてるしさ、偶には恩返し的な感じで」ニコニコ
俺「……お願いですからこっち見ながら言うのやめてください」
エーリカ「照れてる?」
俺「照れてませんよ」
ハルトマンが俺の前に回り込むと、俺は慌てて絵本で顔を隠した。
エーリカ「じゃあさ、わたしの代わりにミーナに頼みに行ってきてくれないかな」ニコニコ
ミーナ「ダメです」
即答だった。
ミーナ「基地の中であんなものを作らせるわけにはいきません!」
俺「あんなもの?」
ミーナ「ああもう思い出すだけで……」
俺「一体何を……」
ミーナ「ともかく、フラウに料理を作らせるわけにはいきません!」
俺「でも、このまま料理を作らせなかったら後々被害が一般人に及ぶかもしれませんよ?」
ミーナ「一般人にも……?」
俺「一般人にも」
ミーナ「…………」
ミーナは考える。
もし万が一、億が一、兆が一、今のままでハルトマンが飲食店を開いた場合を。
客が入る→注文する→ハルトマンが作る→お客に出す→とんでもないことになる→生死の境をさまようがハルトマンのかわいさにまた来る→客が来る→以下ループ
ミーナ「そしてその後中毒症状になったお客さんはフラウの料理がなければ生きていけない体に
なり永遠に死ぬまで通い続けることになり」
俺「落ち着いてくださいミーナ隊長」
ミーナ「そのうち死ぬことすらできなくなり未来永劫家とハルトマンの店の間をさまよう生ける屍となり
通りかかる人を片っ端から襲って襲われた人は皆同じようになり」
俺「ミーナ隊長落ち着いて、あなた疲れてるんです」
ミーナ「それは段々負の連鎖として続いていきカールスラント全土を覆い
そして驚異は全世界へと広がり戦慄は東へと向かい人類には抵抗する手段も無く少しずつ領土を盗られて――」
俺「落ち着けミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ!」
ミーナ「はっ!?」
俺「あなたがそんなことでどうするんだ! あなたが今から未来の為にしなければならないことはなんだ!?」
ミーナ「ふ、フラウの料理の腕前を良くすること」
俺「じゃあそのために必要なのは!?」
ミーナ「フラウに料理の許可を出すこと……」
俺「じゃあこれにサインお願いします!」ゴソゴソ
袖から紙を一枚取り出す。
ミーナ「は、はい」カキカキ
俺「ありがとうございます。では自分は今からエーリカの料理を見なければならないので」ガチャリ
ミーナ「……あれ?」
自分以外居なくなった部屋でミーナは首をひねった。
食堂
俺「と、いうわけで何か料理を作りましょう」
エーリカ「わーわー」パチパチ
俺「とりあえず手始めに……目玉焼きを作りましょう」
エーリカ「……ひょっとして俺ってわたしのこと馬鹿にしてる?」
俺「……馬鹿にはしてませんよ? ただ、念には念を石橋を叩いて渡りのれんに腕押ししつつぬかに釘を打つ、ということで」
エーリカ「なんか言ってる意味がわからないよ」
俺「まあ、フライパンと卵と塩胡椒を用意しました。とりあえずやってみてください」
エーリカ「それくらい簡単なんだから!」
3分後
俺「……何で黄身がこんなケミカルな色になってるんですか?」
エーリカ「わかんない」
俺(ひょっとしてこの人の固有魔法って実は化学汚染だったりするのかな)
俺「ま、まあとりあえず食べてみて美味しければいいんです」
エーリカ「はい、あーんして」
俺「……頂きます」もぐもぐ
ただいまかつてないほど俺が取り乱しております。暫くの間お待ちください。
エーリカ「だ、大丈夫?」
俺「……エーリカ、あなたが使ったのは本当に卵なのですか?」
エーリカ「俺がだしたんだから卵でしょ?」
俺「……き、気を取り直して次の料理です」
エーリカ「タフだね俺」
俺「次は山芋をすりおろしてとろろにしましょう」
エーリカ「山芋?」
俺「これですよ」ゴソゴソ
長いイモが取り出される。
俺「あらかじめ土は落してありますので、そのままおろし金で下ろしちゃってください」
エーリカ「それくらいは流石に……」ザリザリザリザり
数分後
俺「大体よくなったようですね。見た目も大丈夫そうです」
エーリカ「まあこのくらいはねー」
俺「ではこれに刻んだネギと白ダシを入れて混ぜましょう」
エーリカ「はーい」
俺(ここまではいいんだ、ここまでは)
俺「では、次に熱したフライパンに油を敷いて、とろろを焼きましょう」
エーリカ「了解~」
ジュウゥゥ
俺「下の表面が固まったらひっくり返して同じように焼きます」
エーリカ「よっこい……しょっと」
ジュウゥゥ
エーリカ「おーいい焦げ目だ」
俺「きちんと焼けば表面はパリパリになって美味しいですよ」
エーリカ「楽しみかも!」
数分後
俺「で、出来たのがこれですか」
エーリカ「あれ~?」
俺「ひっくり返す瞬間まで茶色だったのに今は何故か紫色をしてますね」
エーリカ「おっかしいなぁ……山芋じゃなくてサツマイモだったんじゃない?」
俺(……一度本格的に検査受ける必要あるんじゃないのかな?)
エーリカ「で、食べるの?」
俺「食べますよ」
エーリカ「自分で作っておいてなんだけど、これはやめておいた方がいいと思うんだよね……」
俺「……今回ばかりは生きては帰れないかもしれませんね。でも、エーリカが作ったものですから」
エーリカ「そっか……」
俺「止めないんですね」
エーリカ「こういうときの俺は、絶対に考えを曲げないんだもん。……絶対帰ってきてね」
俺「なんで最終決戦の時みたいに言うんですか……。では……」もぐもぐもぐもぐ
エーリカ「ど、どう?」
俺「あれ? 意外といけうぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」バタン
エーリカ「おれえええええええええええええええ!」
俺「ここは……」
辺りを見渡すと綺麗な花畑と、川が流れている。
とても居心地が良くていい匂いがする。
俺「あ……ああ!」
川の向こうに死んだはずの姉が立っている。
俺「姉さん!」
川の中頃まで入ると、姉が首を横に振った。
俺「どうして!? 俺はやっぱりいらないの!?」
俺が叫ぶとまたも姉は首を振る。
姉が俺が川に入った方角を指差す。振り向くと、ハルトマンが川岸に立ってこちらに手を伸ばしていた。
俺「……ああそうか。まだ、早いんだね」
姉がコクリと頷く。
俺は向きを変えハルトマンの方に足を進める。
俺「……姉さん、ありがとう」
俺「はっ!?」←闇からの大生還発動
エーリカ「あ、俺が起きた!」
俺「……エーリカ、自分はどのくらい倒れてました?」
エーリカ「10秒くらい……かな」
俺「そう、ですか」
エーリカ「でも幸せそうな顔だったよ」
俺「まあ、幸せでしたよ。ある意味ね」
エーリカ「へー……そうか! わたしの料理って人を幸せにできるんだ!」
俺「お願いだからやめてください。食べたいなら自分が作ってあげますから」
ミーナ「……どうだった?」
俺「三途の川が見えました」
ミーナ「……料理はあなたが作ってあげてね」
俺「……了解です」
最終更新:2013年02月02日 13:11