執務室で坂本とミーナは資料を見比べていた。
空気は重苦しくどちらも信じられないといった表情で資料を見ている。
ミーナ「……なんてことなの」
坂本「だが、事実だ」
ミーナは机の上の資料を見て頭を抱えた。
ミーナ「確かに新型は多かったわ、でもまさか、まさか……」
坂本「……わたしだって信じたくない」
資料に載っている地図には所々に○印が付けられている。これはネウロイの巣がある場所だ。
しかし今はその○が×で殆ど上書きされており、ロマーニャのネウロイの巣だけが○印が残っているだけだった。
ミーナ「……巣を吸収するネウロイなんて」
資料に貼ってある写真には、まるでネウロイ化した赤城と同じような戦艦が空を飛んでいる姿だった。
ブリーフィングルーム
ブリーフィングルームは普段と違い空気が重い。
普段は居眠りをしているハルトマンも今回は何かが違うと感じ取ったのか、真剣な表情でミーナを見つめる。
ミーナ「超大型ネウロイがこちらに向かってきています」
坂本「俺は知らないだろうが、以前わたしたちが戦ったような戦艦型のネウロイだ」
少しだけ部屋の空気が軽くなった様な気がした。
確かに超大型だが一度は勝っている相手だ、宮藤達も成長したことで油断さえしなければ勝てるだろうとミーナと坂本以外は思った。
俺「……」
もう一人、俺が難しそうな顔をしていた。
そんな俺を心配してかハルトマンが明るい声で俺に声をかける。
エーリカ「大丈夫だって、わたしたち一度勝ってるんだからさ!」
俺「……エーリカ、坂本少佐は『戦ったような戦艦型』と言いましたよ。今回は相手が違うということです」
坂本「その通りだ」
俺の言葉に坂本が続く。
坂本「今回のネウロイは各地の巣のコアを吸収してこちらに向かってきている」
ざわざわという音も、声も、物音ひとつしなかった。信じられないといった表情で全員が坂本の声に耳を傾ける。
坂本「わたしだって信じられない。各地の拠点を潰して一つの個体になるメリットがあるわけがない。それにわけのわからないルートを通ってここロマーニャへやってきた理由もな」
ミーナ「一度巣をまとめる為に作りだしたのか、それともわたし達ウィッチに全力で戦いを挑みに来たのか、理由はわかりませんがゆっくりとした速度でロマーニャへ向かってきています」
シン、と部屋内が呼吸音が聞えるほど静かになる。
バルクホルン「ミーナ、敵の大きさはどのくらいなんだ?」
腕を組んでいたバルクホルンが口を開く。
ミーナ「……全長2351メートル、全幅534メートル、高さ296メートル。各地のコアを吸収したにしては小さいかもしれないけれど、その分再生力、強度、攻撃力は桁外れよ。普通に攻撃したんじゃ装甲一枚剥がせないわ」
シャーリーが手を上げてミーナに質問する。
シャーリー「どうしてそんな詳しく大きさとかわかるんだ? 測定の固有魔法を持ってるウィッチでもいるのか?」
どうやら全員同じことを思っていたようで全員同じように頷く。
ミーナ「信じられないかもしれないけれど……、これは実際にネウロイの上に乗って計測した数値らしいわ」
エイラ「んな馬鹿ナ!?」
ガタッと音を鳴らしながらエイラが立ち上がる。
エイラ「あり得ないだろうネウロイの上に測って計測なんテ!」
サーニャ「エイラ落ち着いて……」
ペリーヌ「わたくしもそう思いますわ、何故ネウロイの上に乗れるんですの!?」
ミーナ「……そのネウロイは自分からは決して攻撃してこないらしいの」
リーネ「ど、どういうことですか?」
坂本「言葉通り、ネウロイはわたし達が攻撃しない限り攻撃をしかけてこないそうだ。上に乗る程度なら造作もないらしい」
ミーナ「しかも攻撃をした相手を落したら、周りにウィッチが居ても攻撃を止める……」
宮藤「じゃ、じゃあ……」
宮藤の脳裏にあの人型ネウロイの姿が浮かぶ上。
ひょっとしたらわかりあえるかもしれない、そう思った宮藤の考えはミーナの言葉で砕かれる。
ミーナ「攻撃を止めるのはそのウィッチが死んだ時だけよ、宮藤さん。死ぬまで攻撃は続くわ」
坂本「過剰防衛、という言葉がネウロイにあるかは知らんが、間違いなくあのネウロイはわたし達の敵だ。わたしとしては複雑だが、あの人型ならわかりあえたかもしれないがな……」
宮藤「そう、ですか……」
リーネ「芳佳ちゃん……」
ルッキーニ「ね、ねえミーナ隊長」
泣きそうな声でルッキーニが発言する。
普段の明るい彼女からは考えられないほど怯えた表情をしていた。
ルッキーニ「ろ、ロマーニャから撤退するの? ロマーニャ守れないの?」
ミーナ「そのことですが、世界から一時的に全ウィッチがこの基地に集合することになっています」
坂本「敵がわざわざ一つになってくれたんだ、現在世界で確認できるネウロイはあの一機のみ、全兵力を投入してネウロイを撃破する」
ルッキーニ「じゃあ、勝てるよね! 絶対だよね!」
自分に言い聞かせるようにルッキーニは語気を強める。
シャーリー「そうだ、絶対勝てるさルッキーニ」
ミーナ「ウィッチが集合するのは明日の朝、攻撃開始は昼になる予定です」
坂本「ネウロイ自体は明日の明け方に巣に到着するようだが、コアを吸収し終えるまでにかなりかかるそうだ」
ミーナ「くれぐれも個人で何とかしようと思わないようにね宮藤さん」
宮藤「は、はい」
ミーナ「それでは解散、本日は自由行動とします」
バルクホルン「順調に運びこまれているようだな」
滑走路に次々と輸送機が入ってくる。
一時的にとはいえウィッチが集まるのだから物資だけでも相当な量になる。
輸送兵「全く、ここあのゴミ漁りの転属した基地じゃねえか……」
横を見るとめんどくさそうに頭を掻いている輸送兵がいた。輸送兵は視線に気づいたのかバルクホルンへと近づく。
輸送兵「ここのウィッチさんですか?」
バルクホルン「ああそうだが……」
輸送兵「そうですか、大変でしょう足手まといが居ると」
バルクホルン「足手まとい?」
輸送兵「俺ですよ、俺。戦わないくせにブンブン後ろを飛び回って士気を勝手に下げるただの足手まといですよ」
バルクホルン「……何を言っているかわからないんだが」
バルクホルンの言葉に輸送兵はきょとんとした表情になるが、すぐに笑顔に戻る。
輸送兵「気にしなくていいんですよ、俺の居た基地全員アイツのことは気に入らないし、隠す必要なんてないんですよ」
ケラケラと輸送兵は笑う。
輸送兵「今回だって沈没した船の残骸をわざわざ運んできたんですよ? わざわざ輸送船一つ丸々使って。どうせ後でどこかに売りつけるつもりなんでしょうよ、だからゴミ漁りって言われるのがわからないんですかねー」
バルクホルン「……そうか。確かに私もあいつは気に入らない」
輸送兵「でしょう?」
バルクホルン「だが、あいつは仲間だ! お前達がどう思っているかは知らないが少なくともこの基地全員があいつを信頼している!」
バルクホルンが睨みつけると輸送兵が一歩後ろへと下がる。拳を握りしめバルクホルンは輸送兵に向かう。
輸送兵へと拳を振り下ろす。が、その拳は途中で止まった。
俺「……いいんですよ、バルクホルン大尉」
俺がバルクホルンの腕を掴んでいた。
輸送兵「ひ、ひい!」
逃げるように輸送兵はその場から逃げだす。数回転びそうになりながら逃げる姿に、とても情けないとバルクホルンは思う。
俺「いいんですよ、もう」
バルクホルン「しかし俺……」
首を横に振ると俺はバルクホルンの腕を放す。
俺「……昔の自分と、今の自分は違います。自分はもう、逃げません」
バルクホルン「そうか……」
俺「それに文句を言いつつも頼まれたものはきちんと持ってきてくれていますし、悪い人じゃありませんよ」
バルクホルン「いやそれは命令だろう」
俺がちらりと港を見ると、そこには戦艦の後ろにもう一つ戦艦がけん引されているという奇妙な光景が広がっていた。
バルクホルン「ん? あの戦艦おかしくないか?」
装甲はボロボロ、大砲も途中で折れているし、なにより艦橋が無くなっている。
俺「沈没した戦艦ですよ。自分が頼みこんで引きあげてもらいました。引きあげ方や、けん引方法については秘密です」
バルクホルン「……俺、どうして沈んだ戦艦なんか集めるんだ? そのせいでお前はゴミ漁りなんて不名誉な名前まで付けられているんだぞ?」
俺「……バルクホルン大尉」
俺が袖をバルクホルンの手に触れさせる。柔らかな布の感覚をバルクホルンは感じた。
俺「この袖の中には今までネウロイによって沈められた戦艦や戦闘機が保存されています」
戦闘機まで集めているとは知らなかったのか、バルクホルンは驚いた表情をする。
俺「散っていった人たちに、ネウロイの居なくなった世界を、彼らが守ろうとした世界をせめて彼らが戦った戦艦や戦闘機に見てもらおうと思い集めていました」
バルクホルンはただの布でしかないはずの袖が何故か重く感じた。
俺「……しかし、自分は彼らを縛りつけているだけなのかもしれませんね」
俺が部屋に戻ると、いつものようにハルトマンは絵本を読んでいた。どうやら白雪姫のようだ。
普段と変わらない光景に安心したのか俺はほんの少し笑みを浮かべる。
エーリカ「ん? 俺なにか嬉しいの?」
俺「いえ、変わらないっていうのもいいかなと思いまして」
床に落ちている雑貨を避けながら、ベットの上で寝転がっているハルトマンの横に座る。
エーリカ「あ、そうだ俺」
むくりとハルトマンが起きあがる。
エーリカ「ほら、ずっと前にさハッピーエンドがいいってわたし言ったよね」
俺「……ああ、そういえば言ってました」
基地に来て日が浅く、白雪姫の絵本をハルトマンが読んでいた時にそんな話をした気がする。
エーリカ「俺ってどっちが好き?」
俺「ハッピーエンドかバッドエンドか、ですか?」
エーリカ「うん。聞こう聞こうと思ってたらいつの間にか忘れてて」
タハハ、とハルトマンが照れ臭そうに後頭部に手をやる。
俺「……自分はバッドエンドの方が好きですね」
エーリカ「なんで?」
ハルトマンが首をかしげる。
俺「悪い終わり方というのは、悲劇的であればあるほど印象に残りやすいんです」
エーリカ「あー……そうかも」
俺「でしょう? ……まあ、一番好きな絵本はシンデレラなんですが」
エーリカ「ハッピーエンドじゃんそれ」
俺「……ともかく、自分はバッドエンドが好きですね」
エーリカ「そっか……でも気にしないよ俺も言ってたしね、人それぞれだって」
俺「そうですね。では、自分は厨房に行って食材出してきます」
ベットから立ち上がるとギシリとスプリングが鳴る。
雑貨を避けながら俺は扉に手をかける。
俺「……もし自分が死んだら、貴女は自分のことを覚えてくれるでしょうか」
最終更新:2013年02月02日 13:11