夜 バルクホルンの部屋
バルクホルン「……静かだ」
同居人のいない部屋を見渡しながらバルクホルンは呟く。
部屋の半分、ハルトマンの散らかり放題の部分が懐かしく感じた。
バルクホルン「全く、最後なんだから片付けくらいしていけばいいのに」
ジークフリード線をはみ出した絵本を手にとってみる。
バルクホルン「……まあ、ハルトマンらしいといえばらしいな」
苦笑いを浮かべながら絵本をハルトマン側へと戻す。
トントン
バルクホルン「誰だ?」
俺「自分です」
バルクホルンは少し驚いた。
てっきり俺はハルトマンと一緒に部屋にいると思っていたからだ。
バルクホルン「どうしたこんな夜に」
俺「こんな夜だからではダメでしょうか」
バルクホルン「……まあいい。入っていいぞ」
俺「では遠慮なく」
扉を開いて入ってきた俺は普段と変わらない表情をしていた。相も変わらず大きな袖も変わっていない。
なんとなくバルクホルンはそれに安心する。
俺「どうかしましたか?」
バルクホルン「いやなんでもない。で、何の用だ?」
俺「皆さんの部屋を回って来たんですよ。あとはバルクホルン大尉とエーリカだけです」
バルクホルン「部屋を回る?」
俺「ええ。少しでもリラックスして眠れるように紅茶を配って回ってます」
俺は袖に右手を入れ白いティーポットを取り出した。
俺「暖かいのと冷たいのどちらがいいですか? 冷たいのもいいですがやはり体調を整えるには暖かいほうが……。いやまあバルクホルン大尉のお好きなように」
バルクホルン「……暖かいのでいい」
半分呆れた様な声で俺に頼む。
ティーポットを一度机に置いて、同じように袖から白いティーカップを取り出す。
俺「ペリーヌさんからは色々と言われましたね」
バルクホルン「なんて言われたんだ?」
俺「いい紅茶を使っているのに、淹れ方が悪いとか」
バルクホルン「ペリーヌらしい」
俺「色々言われましたがちゃんと飲んでもらえたので悪くはないと思いますよ?」
バルクホルンは紅茶の注がれたティーカップを受け取る。
俺「あ、砂糖とか入ってますんで。体を休めるには甘いものを」
一口紅茶を飲んでみる。
紅茶はよくはわからないが、ほんのり甘くいい香りがする。
バルクホルン「美味いな」
俺「それはよかった」
俺はニコニコと笑っているだけで、何も言わずにバルクホルンが紅茶を飲むのを見ている。
バルクホルン「俺は飲まないのか?」
俺「いえ、自分は終わったら飲むと決めてあるので」
バルクホルン「そうだ」
紅茶を飲み終わって少し会話をしていたバルクホルンはあることを思い出した。
バルクホルン「今のうちに聞いておきたいことがあるんだがいいか?」
俺「なんでしょう」
バルクホルン「以前どうして絵本がそんなに大事なのか聞いたが、その理由を教えてくれないだろうか」
少しの沈黙の後、俺は左の袖に手を入れ一冊の本を取り出しバルクホルンに手渡す。
俺「それが始まりです」
本を受け取ったバルクホルンはまずその本の汚れ具合に驚いた。
一体何度読まれたのかわからないが、一ページも汚れていないページがない。
表紙もボロボロでかろうじてシンデレラという文字がわかる。
俺「それは自分を拾ってくれた姉が、まだ慣れない環境で体調を崩してくれた時、枕元で読んでくれた絵本でした」
一枚ページを捲ると、特に汚れたページがあった。
絵で判断するとどうやら魔女が登場する場面のようだ。
シンデレラに登場する魔女は色々な姿をしているが、この魔女は若い姿をしている。
バルクホルン「ここだけやたら汚れているな」
俺「その魔女が姉に似ているような気がして、何度も何度も見返していました」
バルクホルン「美人だな」
俺「姉はウィッチでしたからね。魔女という点でも似てたと思います」
バルクホルン「そうか……」
俺「姉が死んだ時、絵本を読むことで少しだけ横に姉がいるような気がして、絵本を集め始めました」
ボロボロになった俺に返すと、今度は俺は右側の袖から白いストライカーユニットを取り出した。
俺の使っているユニットとはまた違い、雪の結晶のような模様がペイントされている。
俺「姉の使っていたストライカーユニットです。自分が使っても速く飛ぶことはできないので、戦闘には使えませんがね」
バルクホルン「こんなユニットは見たことが無いな」
俺「自分のユニットと同じで義理の兄、というか姉の夫が専用に作ってくれました。オルタンスとヴィオレットも兄の作品です」
バルクホルン「いい兄を持っ……!?」
突然、猛烈な眠気がバルクホルンを襲った。
頭を左右に振るが眠気は更に大きくなる。
俺「……やっと効きましたか」
バルクホルン「お、俺……?」
俺「以前うっかり入れた睡眠薬。ほんの少しですが紅茶の中に入れさせてもらいました。中毒性も無いので安心してください」
バルクホルン「何故そんな……」
俺「他の皆さんも今はゆっくりと眠っていると思いますよ。……目覚めた時は朝です」
バルクホルン「まさかお前っ……!」
俺「言いましたよね。自分は終わったら飲ませてもらうと。まあ、失敗しても命令違反の男が一人消えるだけです」
袖から毛布を取り出すと、机の上に突っ伏したバルクホルンの上にかける。
バルクホルン「フラウはどうするんだ!」
部屋から出ようとした俺の足が止まった。
バルクホルン「フラウはお前を信頼しているんだぞ! お前はそれを裏切るつもりか!?」
俺「……そうですね。自分が戻ってこなかったら、エーリカには俺は情けなく逃げたとでも伝えてください」
振り返り笑うと、俺は部屋から出ていく。
薄れていく意識の中、バルクホルンは俺の名前を叫び続けた。
最終更新:2013年02月02日 13:12