廊下

バルクホルン「どうした、お前がわたしを呼びとめるなんて珍しいじゃないか」

俺「そうでしょうか? まあ、今はそんなことどうでもいいんですよ。少しばかり質問しことがありまして」

バルクホルン「質問したいこと?」

俺「ええ、何か貰えるとしたら何ががいいですか」

バルクホルン「なんだ唐突に。何か貰えるとはどういう意味だ?」

俺「そのままの意味です。何でもいいですよ?」

バルクホルン「何故そんな……。ああ、そうか今日はハルトマンの誕生日だったな」

俺「忘れてたんですか……酷い人ですね」

バルクホルン「忘れてないぞ! きちんとプレゼントに目覚まし時計を買ってある!」

俺「目覚まし時計はバルクホルン大尉が既に用意してある、と」

バルクホルン「……ひょっとして他の連中にも聞いたのか?」



俺「ええ、結果様々な回答が返ってきました」

バルクホルン「いやいい見せなくていい。何でも欲しいものが貰えると聞いたら、大体回答はわかる」

俺「せっかく聞いてきたのに……」

バルクホルン「で、お前は皆の意見を参考にハルトマンにプレゼントを渡すのか」

俺「はい」

バルクホルン「そんなことしなくても、多分お前のプレゼントなら喜んで貰うと思うんだが……」

俺「それが、どうも自分は少しずれているようで」

バルクホルン「今更気付いたのか」

俺「……きっぱり言わないでください」

バルクホルン「……すまない。で、続きは?」

俺「ともかく、自分は誕生日を祝ってもらったことが無いので、何をあげたらいいかわからないんですよ」

バルクホルン「誕生日を祝ってもらったことが無い?」

俺「自分は捨てられてたので誕生日もわからないし、正直言うと今の年齢も恐らくこの年齢だろうということで20歳にしています」



バルクホルン「……ああ、そうだったな」

俺「自分も姉の誕生日を祝うことができなかったので、よくわからないんですよ」

バルクホルン「それで他人に聞いて何を送ればいいか、か」

俺「はい、しかしこの質問は失敗でしたね」

バルクホルン「そりゃあそうだ」

俺「まさか一番貰って嬉しいのがオッパイだとは」

バルクホルン「いやまてそれはおかしい」

俺「ともかく、自分は何を渡せばいいんでしょうかね……」

バルクホルン「ともかくで済ませるな……。うーん……本人から直接聞くのはどうだ?」

俺「直接ですか?」

バルクホルン「驚きは無くなるが一番確実だろう」

俺「……そうですね、それがよさそうです。ありがとうございます」

バルクホルン「気にするな。ところでわたしの欲しいものはな……ってもういなくなっている」



 部屋の前で俺は立ち止っていた。
 自分の部屋だというのに、普段一緒にいるのに、今日はどうも入りにくい。

俺「別に不安なわけじゃないんですけどね……」

 覚悟を決めドアノブに手をかけ扉を開く。

俺「エーリカー居ますかー……っと」

 扉を開けまず目に入ったのが、布団に包まって寝息を立てるエーリカの姿。
 枕元には絵本が数冊。そのうち一冊は開かれたまま。
 恐らく俺を待っている間に寝てしまったのだろう。

俺「……起こすわけにもいきませんねえ」

 足の踏み場もないような雑貨が散乱した床を、音をたてないように慎重にベッドへと向かう。
 こんなことなら片付けておけばよかったかなと思いつつベッドへとたどり着く。
 枕元に置いてある絵本を袖の中へと戻し、起こさないようにベッドに腰かける。


俺「……セーフ?」

エーリカ「アウト」

 振り向くとエーリカが笑っていた。
 目覚めたばかりなのか手で目をこすっている。

俺「相変わらず起きるタイミングがドンピシャですね」

エーリカ「そっかな。気配というか……匂い? がなんとなく起きないといけないかなって」

俺「……匂います?」

 袖を顔に近づけ鼻を鳴らす。

エーリカ「嫌いじゃないよ、むしろ好きかなその匂い」

 袖に近づき同じように鼻を鳴らす。

エーリカ「それで何? わたしに用があるんじゃない?」

俺「なぜそう思うんです?」

エーリカ「顔に出てる」

俺「自分は無表情のつもりなんですがね」

エーリカ「少し笑ってたけど?」

俺「……今度からは気をつけましょう」

 コホンと咳を一つして本題を尋ねる。

俺「エーリカ誕生日は何がいいですか?」

エーリカ「あー、そっかわたし誕生日だったんだよね忘れてたよ」

 起きあがり頭を掻く。

エーリカ「何がいいって聞くってことは何でもいいの?」

俺「可能な限りですが」

 エーリカは少し悩んで、何か思いついたのか二ヤリと笑う。
 その表情に俺は微妙に嫌な予感を感じた。

俺「……決まりました?」

エーリカ「ずっと寝てても怒らないトゥルーデ」

俺「無理です」

 即答だった。

エーリカ「えー、俺の言うことなら少しくらいトゥルーデ聞いてくれそうなんだけどな」

俺「可能な限りの範疇を超えています。というか物じゃありませんよ」

エーリカ「ケチー」

 頬を膨らませそっぽを向くエーリカ。

俺「いやケチとかそういうことじゃなくてですね……」

 珍しく困ったような顔をする俺。
 チラリとエーリカは困った俺の顔を見て急に笑顔になる。

エーリカ「冗談だよ。アレがトゥルーデのいいとこなんだからさ」

俺「冗談に聞えませんよ……」

エーリカ「本当に欲しいのは……俺って言ったらどうする?」

俺「……冗談ですか?」

エーリカ「どっちだと思う? 冗談かホントか」

俺「自分はどっちでも嬉しいですが」

エーリカ「わたしはいいよ」

俺「何が?」

エーリカ「わたしを好きにしても」

俺「逆転してますよ? 今日は貴女の誕生日であって自分のじゃありません」

エーリカ「じゃあ今日が俺の誕生日。贈り物はわたし」

俺「……ベッタベタすぎませんか? 絵本でもそんな展開近頃中々お目にかかれませんよ」

エーリカ「でも嫌いじゃないんでしょ?」

俺「勿論」

エーリカ「奇遇だね。わたしも嫌いじゃないよ」

 エーリカはベッドから体を起こすと俺の背中に寄りかかる。
 互いに背を合わせる形になった。

エーリカ「ただ、一つだけ約束」

俺「約束?」

エーリカ「何があっても絶対に生きて」

俺「……保証しかねます」

エーリカ「それでも絶対。約束破ったら嫌だよ」

俺「じゃあ、こちらも約束を……」

エーリカ「何?」

俺「自分に何があっても泣かないでください」

エーリカ「……」

俺「自分は自分の行動に後悔はしていませんから」

エーリカ「……ちょっと無理、かな」

俺「それでも絶対。約束です」

エーリカ「俺って無理な約束するね」

俺「エーリカこそ難しい注文です」

 どちらともなく振り返り顔を見合わせる。

エーリカ「……やっぱり好きにするのは一段落ついたらでいいかな?」

俺「奇遇ですね。自分もそう言おうと思ってたところです」

エーリカ「でも何もなしというのも寂しいし――」

 そう言ってエーリカは俺の頬に軽くキスをした。

エーリカ「今はこれでいいかなって」

 頬を赤らめるエーリカと同じように頬を赤くした俺。
 少しの沈黙の後、俺は無言で首を縦に振った。



エーリカ「でも死なないでよね」

俺「返答しかねます」
最終更新:2013年02月02日 13:13