扉を開くとエーリカが何時ものようにベッドの上で座っていた。
エーリカ「おかえり」
俺「起きてたんですね。明日は忙しくなるからもう寝たほうがいいんじゃないですか?」
エーリカ「眠れなくてさ」
隣に座るとエーリカは膝の上に頭を乗せた。
エーリカ「部屋、片付いてるね」
部屋を見渡すと、今まで雑貨だらけで足の踏み場が無いほど散らかっていたのが嘘のようにスッキリしている。
残っているのはテーブルとベッドと時計、そしてテーブルの上に置かれた二つの人形だけ。
俺「明日で全部終わりますから」
エーリカ「……ねえ」
俺「何です?」
エーリカ「俺はさ、全部終わったらどうする?」
俺「終わったらですか」
そう言って俺は考え始めた。どうやらこの後のことは考えていなかったらしい。
少しして顔を上げる。
俺「思いつきませんね」
エーリカ「何それ」
不満そうにエーリカがため息をついた。
俺「終わったら考えますよ」
エーリカ「そこは嘘でもわたしと一緒にいる、って言ってほしかったな」
俺「嘘はあまりつきたくないんで」
暇そうにエーリカは俺の袖の中に手を入れたり出したり触っている。
エーリカ「ねえ」
俺「なんです?」
エーリカ「全部終わったらさ、旅しようよ」
俺「旅?」
エーリカは起きあがると、今度は俺の右肩に顎を乗せた。
エーリカ「そう、旅と言っても移動図書館みたいな、いろんな場所に行って俺の絵本とかを貸してあげたり」
俺「なるほど……」
エーリカ「手紙とかもあずかって送ってほしい人の所まで送ったりさ」
楽しそうにエーリカは言う。
対照的に俺の表情は複雑だった。
俺「……そうですね。それもいいかもしれません」
エーリカ「約束だよ」
エーリカが右手の人差し指を立てながら、俺の目の前にもってくる。
少し悩んで俺も同じように手を出して小指を絡め合わせた。
エーリカ「嘘ついたら針千本のーます!」
どちらともなく指を離し、互いに向き合う。
時計の時を刻む音だけが部屋の中に響いている。
エーリカ「……寝よっか」
そう言ってエーリカはベッドの中に潜り込んだ。
が、すぐに体を起して笑う。
エーリカ「そういえば眠れないんだったよ」
俺「飲みます?」
そう言って袖から取り出したのは紅茶の入ったティーカップ。
エーリカはそれを受け取ると一気に飲み干した。
俺「飲むの早いですよ……」
エーリカ「そうかなあ」
俺「エーリカ」
エーリカ「何?」
俺「……気付いてるなら、飲まないでくださいよ」
エーリカ「バレた?」
エーリカは笑い俺に抱きつく。
エーリカ「……前に言ったけどさ、俺は絶対にこういう時考えを曲げない」
俺「その通りですね」
エーリカ「きっとわたしが全力で止めても、たとえ片腕が無くなっても絶対に行く」
俺「飲むの嫌がっても無理矢理飲ませたかもしれませんしね……」
エーリカ「だからわたしは信じる。俺は絶対に帰ってくるって」
俺「……わかりませんよ帰れるかなんて」
エーリカ「言ってよ。嘘でもさ、絶対に帰ってくるって」
俺からは顔は見えないが肩を震わせていることから恐らく泣いているのだろう。
エーリカの背中に右腕を回し、左手で頭を優しくなでる。
俺「……必ず帰ってきますよ」
エーリカ「……ありがとう」
エーリカの体から力が抜け、体を全て俺に預ける。
すぅすぅとエーリカが寝息を立て始めた。
俺「おやすみ、エーリカ」
滑走路
俺「……寒っ」
照明も何もついていない滑走路でユニットを履く。
暖かいはずのロマーニャの夜が、俺には寒く感じられた。
俺「一人じゃ履きづらいな……」
四苦八苦してようやく履き終えると魔力を込め魔法陣を展開させる。
俺「さて、行きますか――っ!?」
敵意が自分に向けられていることを感じた俺は横へと跳ぶ。
ダンッ!
ストライカーユニットを狙った銃弾が背後から飛んできた。
間一髪回避すると、恐る恐る後ろを振り返る。
バルクホルン「……クソッ」
手に拳銃を持ったバルクホルンが、足をふらつかせながらこちらに向かってくる。
俺「驚きましたね。アレを飲んだら普通朝まで寝続けるものなんですが」
バルクホルン「舐め、るな」
俺「……何故ストライカーユニットを狙ったのですか?」
バルクホルン「お前を、行かせない、ためだ」
俺「……無理ですね。決めたことですし」
バルクホルン「この……馬鹿者が!」
鈍い音と共に俺の体が吹っ飛ぶ。
頬を押さえながら俺はストライカーで空中に浮いた。
俺「……効きましたよ。大尉の鉄拳」
バルクホルン「何故、避けなかった。避けようと思えば、簡単だったはずだ」
睡魔が限界に近いのかバルクホルンは地面に座り込んだ。
俺はここまでもった精神力に驚く。
俺「わかりませんね。ただ避けてはいけないと思っただけです」
バルクホルン「俺……」
俺「……自分は英雄になろうとかそんな大それた考えは持ってません」
バルクホルン「じゃあ、何故だ。なぜ一人で行こうとする」
俺「ただ一人を守りたい。それだけです。ただの我儘ですよ」
袖からスコップを取り出し、滑走路の端へと突き立てる。
音も無く滑走路の一部が抉れた。
俺「これ、実は対人用なんですよ。邪魔をするというのなら……」
バルクホルン「……もういい行け」
俺「……もう一度お願いします」
バルクホルン「聞えなかったのか行けと言っている! 必ず帰ってこい! アイツを泣かせたら拳じゃすまないと思え!」
俺「了解しました。バルクホルン大尉」
バルクホルンに敬礼し、俺は空へと飛び立った。
バルクホルン「……馬鹿者が」
戦艦型ネウロイ(現在地は海)上空4444メートル地点
俺がこの場所に着いた時、丁度ここの巣のコアを吸収した所だった。
幸い吸収の場面を見れたのでコアが戦艦の、丁度中央部分にあることが分かった。
俺(先端とかじゃなくて良かった)
ほっとした表情をしてすぐに顔を引き締める。
チャンスは一度切り、失敗すれば死。
きっとこの次来るウィッチ達も大勢死ぬのだろう。
俺(……やるしかないですよね)
もう十分だ ウィッチが死ぬのを見るのは。
もういいだろう 彼らを縛りつけるのは。
俺「本当に見向きもしないか」
遥か下にいるネウロイは巨体を月明かりに輝かせ鎮座している。
静かすぎて下の、海の波の音が聞こえてきそうだ。
俺「さて、どうせ聞えないだろうけど一応言っておこうか」
袖を下にして呟く。
俺「俺は一人では何もできない。だからお前を砕くのは、この戦いで散った人間達だ」
鈍色の塊が、袖の中から現れた。
実はネウロイは俺の存在に気づいていた。
気付いていたが、ウィッチ一人程度に何ができると思い放置していた。
今ネウロイの中にあるのは、恐らく自分に攻撃してくるウィッチ達の大軍をどう料理するか。それだけだった。
……は……い……で……の……達……だ
声が聞えた。
このネウロイ大きさの割に耳がよかったらしい。
何を言っているのかわからなかったのでなんとなく上に意識を向ける。
空が鈍色で埋め尽くされていた。
ガゴォン!
轟音が辺りに響く。
まず戦艦が一隻、ネウロイに命中した
ゴガッガガガガガ!
続けて戦闘機が、ネウロイのコアめがけて突進する。
鉄塊鉄塊轟音鉄塊轟音轟音轟音鉄塊轟音
戦艦が、戦闘機が、叫びを上げるように空を切りネウロイ目がけて突撃を仕掛ける。
ネウロイも応戦するが数が多すぎる。
それほど沈められた戦艦や戦闘機があった。
しかし俺の表情は暗い。
俺(……まずいな)
袖から戦艦を出しつつ俺は考える。
ネウロイの再生速度が予想をはるかに上回っていた。
恐らく、足りない。正しくはコアが見える所までは壊せるだろうが、そこから先にもう戦艦も戦闘機も無くなっている。
俺(ああ、やっぱり)
最後の戦艦が袖の中から現れ、コアへと向かう。
思った通りコアが薄く見えているがその薄皮で最後の戦艦が止まるだろう。
今から他の物を落としても間に合わない。
キュウウウウン!
更に悪いことにネウロイが俺に狙いを定めた。
ビームが頬を掠める。
俺(やるしか、ないか)
左の袖に手を突っ込み、武器を一つ引きずり出す。
50ミリカノン砲。最初に彼女達と出会ったときに出した武器。
それを抱えると、ネウロイのコアへと狙いを定める――
俺「チッ」
が、トリガーにかける指が、抱える腕が震えて照準が合わない。
強がってみせたが怖い。今これを撃てば魔力は無くなり海へと墜落してしまうだろう。
いくら悪運が強いとはいえ今回は間違いなく死ぬ。
悩んでも時は待ってくれない。戦艦はもうネウロイに衝突しようとしている。
俺(でも――)
再び照準をコアに合わせ構える。
今度は震えることなく照準はピタリと定まった。
俺(逃げて死ぬか、守って死ぬかなら――)
戦艦の衝突寸前、トリガーを引く。
俺(彼女を守れるだけでいい。それだけでいい)
ビキッ!
キュウウウウウン!
断末魔を上げながら、ネウロイは白い物体へと変わって行く。
黒い部分に赤いエネルギーがたまる。最後の足掻きに俺を撃とうとしている。
ギィイイイイイイイイ!!!
ビームを放つと同時に、ネウロイは消滅した。
しかしビームは消滅した後も宙に浮く俺を狙っている。
俺(……あ)
天地が逆になった。
魔力が無くなった俺は真っ逆さまに海へ向かって落ちる。
幸運にもビームは落ちる俺をとらえきれず空へと消えていった。
俺(……無理、か)
ストライカーユニットは外れ、バラバラと袖から武器が出ていく。
パラシュートも一応中に入れておいたが、魔力が空になった今では自由に取り出すことができない。
俺(後先考えて行動すべきだったな)
ライフル銃が2丁袖から出ていく。
オルタンスとヴィオレット、双子の銃が宙へ投げ出された。
そして姉のストライカーユニットも。
俺(……終わりましたよ。姉さん)
いつの間にか空が紫色に染まっていた。
夜が明ける。
俺(すいませんねエーリカ)
少しでも貴女といられた
俺(後悔はしません。貴女を守れたから)
少しでも愛してくれた
俺(幸せでしたよ。軍人でも、ウィッチでもなく――)
何よりも信じてくれた
俺(一人の男として)
最終更新:2013年02月02日 13:13