48.俺「ストライクウィッチーズじゃねえの?」 675~694
リーネ「はぁ・・・・はぁ・・・・」
芳佳「い・・・・息が・・・・」
俺「・・・・」
グラウンド代わりの滑走路を、三人で走り込みの訓練をしている。
長時間空を飛び続けるには、まずは体力が重要らしい。その為に走り込みをしているけど・・・・
リーネ「お、俺さん速い・・・・」
芳佳「ま、待って下さ~~い!」
坂本「他人のペースを乱すなー宮藤ー!」
芳佳「はっ、はいっ! すみませ~ん~ッ!」
まあ、当然か。
俺は色々と鍛えられていたからこれくらいは苦でもなかったりするんだけど、芳佳たちには十分キツいもんだよな。
因みに、俺は男だということで二人よりも十周多く走らされているけどなんてことない。
俺「二人ともー、キツいって思うからキツくなるんだー!
逆に気持ちがいいって思うと苦じゃなくなるぞー!」
坂本「そうだー! 心頭滅却すれば火もまた涼し!」
芳佳「む、無理です~!」
◇ ◇ ◇
走り込みを終え、芳佳とリーネは二人並んでへばりきっている。
俺「ほら、二人とも水だ」
芳佳「あ・・・・ありがとう・・・・ございます・・・・」
リーネ「ど・・・・どうも・・・・」
二人は俺から水の入った水筒を受け取ると、勢いよく水を飲み干した。
俺「そんなに急ぐと咳き込んじまうよ」
芳佳「ケホッケホッ! 喉が・・・・苦しッ!」
案の定、芳佳が咳き込んだ。やれやれ・・・・
坂本「俺、初日からよく私の訓練に耐えてるな。見上げたものだ」
芳佳「私も凄いと思います、追いつくこともできなかった・・・・」
俺「俺も最初は二人みたいにすぐへばってたさ、長い間鍛えまくった結果だよ」
リーネ「因みに、最初っていつくらいなんですか?」
俺「んーと・・・・八歳ぐらいの頃かな。だから十年前になるのか」
それを聞いた二人は呆然となってしまった。
芳佳「十年も・・・・」
リーネ「敵わないなァ・・・・」
あらら、自信喪失させちまったかな。別にそんなつもりは無かったんだけど。
俺「別に俺に匹敵する必要はないだろ。二人にだって俺には無い良いもの、あるじゃないか」
芳佳「そうですか?」
俺「ああ、料理が美味いだろ。それから可愛いしな」
芳佳「か・・・・可愛い?」
リーネ「そ、そんな・・・・」
俺の言葉に、二人は文字通り顔が真っ赤になる。そして、そんなことはないと必死に否定する。
俺「そうか? まあ、いいか。あと、実戦になったら俺よりも戦えそうだし・・・・」
芳佳「え?」
俺「まあ、そのうち分かるって」
坂本「よーし。休憩はその辺にして次は射撃の訓練だ! 各自、武器を持って来い!
俺には扶桑海軍から支給された武器を使ってもらおう」
◇ ◇ ◇
一方、その様子を陰で見ている人物があった。バルクホルンとペリーヌである。
それぞれ、違う理由で四人の様子を窺っていたのだがどちらも嫉妬の念がその燃える瞳から表れている。
ペリーヌ(あの男・・・・あんな涼しそうな顔で少佐の気を引くつもりなのかしら?
断固、許せませんわ!)
バルクホルン(早速宮藤に言い寄ってきたか、あいつ。
そもそも、少佐もミーナも一体全体どうしてあんな得体の知れない奴をすんなり入れたのか理解できん。
宮藤に纏わり付く悪い虫は私が掃わねば・・・・)
ペリーヌ、バルクホルン「よし!」
二人は何か閃いたのか、一人になった坂本の元へと黙ったまま歩み寄っていった。
お互いに顔も合わせていないのにまるで心が通じ合っているかのよう。
坂本「おー、どうしたお前たち? 今から射撃の訓練だが一緒にやるか?」
ペリーヌ「え、ええ! 是非させていただきますわ少佐!」
バルクホルン「私はあの新人の腕前がどのようなものか、見定めに来た。
下手な射撃を見せたら私自らしごき倒してやるつもりだ」
坂本「そうかそうか! 熱心でよろしい!
ただ、あいつは一応ヒヨッコだからあまり無茶はさせるなよ?」
バルクホルン「なるべく善処はするさ・・・・」
バルクホルン(ふふふ・・・・金輪際宮藤に近付けないようにしてやる)
模倣的軍人であるはずのバルクホルンに、そんな邪な感情が芽生えつつあった。
◇ ◇ ◇
芳佳「あれ? ペリーヌさんにバルクホルンさん?」
俺たちが武器を取りに行ってる間に人が増えていた。ペリーヌと、バルクホルンさんだ。
ペリーヌ「私も訓練に参加することにしましたわ」
バルクホルン「少佐に代わって射撃の訓練は私が監督をすることになった」
坂本「バルクホルンがどうしてもと言うのでな・・・・」
バルクホルン「しょ、少佐! そういうことは!」
俺「そうなのかァ。それじゃ、二人ともよろしく」
笑顔で二人に挨拶をしたが、どちらからもそっぽ向かれた。本当に嫌われてるみたいだなァ、俺。
バルクホルン「それでは、ペリーヌ、リーネ、宮藤、新人の順に的を撃ってもらおう。
いいか、たとえ訓練であろうと実戦の如く臨むのだ、気を抜くんじゃないぞ!」
芳佳、リーネ、ペリーヌ「はいっ!」俺「うん」
バルクホルン「新人、なんだその気の抜けた返事は。
そんな心構えだと戦場で真っ先に命を落とすことになるぞ?」
俺「ごめん」
バルクホルン「・・・・まあいい、早速始めるか。ペリーヌ!
エースの力を新人にとくと見せ付けてやれ!」
ペリーヌ「了解ですわ!」
◇ ◇ ◇
三人の撃つ番は終わった。三人とも一度も外さずに的を撃ち抜いて凄かったけど、特にリーネは凄いなって思った。
他の二人よりも遠くの的を、大きな銃で撃ち抜いたんだ。流石、毎日訓練をしているだけのことはあるなァ。
バルクホルン「よし、新人。最後は貴様の番だ。
下手な撃ち方を少しでも見せてみろ。みっちりしごいてやるからな」
俺「それはちょっとキツいな・・・・」
そう言って俺は支給された銃を構える。宮藤と同じもの、名前は九九式二号二型改13mm機関銃とか言ったかな。
とりあえず銃の扱い方とかは宮藤から丁寧に教えてもらった。
この十字の印が付いている所、照準を覗き込みながら獲物を捉えて・・・・
俺(ここを引けばいいんだな)
引き金、を引いてみたがカチャッと音が鳴るだけで中の弾が発射される気配は全くない。
何か、詰まっているような感じがする。
バルクホルン「馬鹿者、安全装置を外さなければ弾は出ないぞ。何をやっとるか!」
俺「あ、あははは・・・・」
銃の側面に付いている安全装置。撃つ前にはこれを外すようにって散々言われてたな。
すっかり忘れてしまっていた・・・・
バルクホルン(今ので十分焦らせられたか? それならば好都合だ。
私が貴様を最後に選んだのは、先に宮藤たちの圧倒的な腕前を見せ付けて
貴様に多大なプレッシャーを与えるためだ! 尤も、貴様には気付く由も無いだろうがな)
安全装置を外して銃を再び構えたが、バルクホルンさんの方へと振り向いた。
バルクホルン「どうした?」
俺「あんた、もっと笑ってた方がいいと思うよ。折角別嬪なんだから、そんな怖い顔してると勿体無いぞ」
バルクホルン「なっ・・・・」
ペリーヌ「こ、こんな時に口説くなんてどういう神経してますの!?」
俺「口説く? 俺は思ったままのことを言っただけだぜ」
バルクホルン「ええい! 馬鹿言ってないでさっさと撃たんか!」
俺「やれやれ・・・・」
坂本「はっはっは! バルクホルンを口説こうとは、いい度胸をしているな!」
芳佳(俺さんって凄いよね・・・・あんなことを素で言えるなんて)
リーネ(うん・・・・私たちもさっきはいきなりすぎて焦っちゃったもんね)
俺「これで今度こそ弾が出るんだな」
照準を的のど真ん中に定め、引き金をゆっくり引く。次の瞬間、思った以上に大きな音が響き、銃口からは小さく火を吹きながら弾が発射された。
その大きな音と身体に伝わる振動に、思わずびっくりして引き金から指を離した。勿論銃を制御する余裕なんて無かったので弾は的に掠りもしていない。
バルクホルン「掠りすらもしない、全く駄目だな」
俺「これって思ったよりも凄いんだね・・・・慣れないもんだからつい驚いたよ」
バルクホルン「言い訳は無用。少佐、この新人の教育は私に任せてくれ」
坂本「ん? まあ構わんが、お前にしてはやけに新人に拘ってるな?」
バルクホルン「わ、私はこの隊に足手まといがいると困るだけだ! 他意など無い!」
坂本「そうか? まあ、俺のことはバルクホルンに任せるとして、三人はこれから飛行訓練を行う!」
ペリーヌ「はいっ!」
ペリーヌ(何とか少佐から引き離すことができましたわ!)
リーネ(俺さん、大丈夫かな・・・・)
芳佳(バルクホルンさん、いつに無く張り切ってるし・・・・何も無ければいいんだけど)
坂本「宮藤にリーネ、返事はどうしたー?」
芳佳「はっ、はい!」
リーネ「すみません!」
ペリーヌ「全く・・・・」
坂本「バルクホルン、私たちはもう行くけどくれぐれも無茶はさせるなよー。
実戦に出る前にへこたれてもらっては困るからなー」
そうして四人はハンガーの方へと行ってしまった。
◇ ◇ ◇
バルクホルン「さてと・・・・」
私は四人を見送ると、俺の方に振り返った。
バルクホルン「散々私に恥をかかせてくれたな、新人」
俺「恥をかかせたって・・・・口説く云々のことは兎も角として、あとは大体あんたの自爆じゃないのか?」
バルクホルン「ええい、つべこべ言うな! よりにもよって宮藤の前であんな大恥を!」
俺「宮藤? 芳佳が何か関係あるのか?」
私としたことが、よりによってこんな奴の前で思っていることが口に出てしまった。
何とか適当に取り繕わねば・・・・
バルクホルン「こ、後輩の前で無様な所を見せるわけにはいかんからな」
俺「リーネとペリーヌも後輩じゃん」
こいつ、私が必死で考えた言い訳をヘラヘラと笑いながら撤回してきた・・・・我慢ならん!
バルクホルン「・・・・新ッ人! 貴様という奴はどこまで――」
俺「その新人ってのよしてくれよ、なんか素っ気無いしさ。姓は無いけど、一応俺っていう名前があるんだ」
どこまで人をからかえば気が済むのだ、そう言い切る前にどうでもいいことで押し返された。
名前? 今はそんな話をしている場合じゃない。さっきからニヤニヤと・・・・なんて嫌な奴だ。
俺「まあ、芳佳の作る飯は本当に美味いからなァ。あんたもそのクチなんだろ?」
言わせておけば・・・・芳佳芳佳と馴れ馴れしい奴だ。私ですら未だに姓でしか呼べてないというのに、腹立たしい。
大体、昨日今日しか宮藤の手料理を食べてない貴様に何が分かるというのだ。私は宮藤を一年前から知っているのだぞ・・・・
いかんな、ここで私が冷静さを欠けばそれこそこいつの思う壺か。
カールスラント軍人たるもの、如何なる時でさえ冷静さを欠いてはならんな。
バルクホルン「ま、まあ、宮藤の手料理は何よりも美味いな」
俺「そうだよなァ」
なんだ、手料理が目当てだったのか。完全に心を許せるとは言えないが、どうやら邪な気持ちはないようだな。
気安く宮藤を語るのは気に食わんが、多少は目を瞑ってやるか。
俺「それに可愛げもあるし」
そうそう、クリスには到底及ぶこともないが可愛げも中々・・・・
前言撤回だ。やはりこいつは宮藤に対して邪な気持ちがある。
同性同士ならば兎も角、男のこいつがこんなことを言うとそんな風にしか見えない。
私が宮藤をこいつの魔の手から守らなければ!
◇ ◇ ◇
バルクホルン「しゃ・・・・」
俺「ん?」
バルクホルン「しゃべっとる暇があったらさっさと的を撃たんかァ!」
俺「ど、どうしたんだよ・・・・」
バルクホルン「貴様からは真摯に訓練に臨もうという心構えが見られない!
今日中に的を撃つことができなければ金輪際宮藤に近付くな! いいな!?」
俺「それは酷いんじゃないかなァ、折角打ち解けているってのに」
バルクホルン「的を撃てれば許してやる!」
俺「そうかァ。それじゃ、なんとしても撃たないとな・・・・」
あまり使いたくは無かったんだけど、場合が場合なだけに仕方無いよな。芳佳と喋れなくなると寂しいし。
銃の弾倉を開ける。銃弾がビッシリと、綺麗に整列して詰まっていた。
バルクホルン「何をやっている?」
俺「慣れないことはしたくないからな・・・・」
その中の一個を取り出して右手に軽く握り締める。
俺「あ、今日中と言わずにさ、この一発であの的を撃ち抜いてみせるよ」
バルクホルン「大きく出たな。失敗しても知らんぞ?」
俺「分かってるって。だからついでに『新人』って呼ぶのもよしてくれないか?」
バルクホルン「・・・・いいだろう」
俺「そんじゃ、いきますかっ」
尚更失敗は許されなくなったなこりゃあ。
滑走路の遠くに立てられた的を見据え、右手に収めてある銃弾を思い切り的に向かって投げつける。
銃弾が激しい勢いで的を突き破って地面に転がった。
バルクホルン「な、何だと!?」
俺「へへ・・・・」
どうやら腕は落ちていなかった。いや、むしろ前よりも切れが良くなった感じだ。
魔力のおかげかな・・・・?
◇ ◇ ◇
思いもよらぬモノを目の当たりにした。私の目が間違ってなければ、こいつが手で投げた銃弾が的を貫いたように見えた。
その証拠に、破壊された的の後方の地面に薬莢が残ったままの銃弾が転がっている。
石をぶつけて壊すのなら私にも可能だが、銃弾となるとかなり難しい。そして、本当に一発で決めてしまった。
バルクホルン「あの業は一体なんだ!? 何をした!?」
俺「昔ちょっとね・・・・それより、約束は果たしてくれるんだよな?」
ブリーフィングの時の少佐の質問と何か関係がありそうだな。
とりあえず問い詰めたいことではあるが、あまり深く詮索はしないことにしておこう。
約束と言えば宮藤のことだな・・・・
バルクホルン「あ、ああ・・・・宮藤のことは許してやろう。新人」
俺「その新人ってのも」
バルクホルン「・・・・俺」
俺「どうも」
許したからといって宮藤との仲を認めるわけではない。ここは単刀直入に聞いておくか。
バルクホルン「一つ、聞きたいことがある」
俺「ん?」
バルクホルン「貴様は宮藤を・・・・その、ど、どう思っているんだ?」
俺「好きだよ」
一番に聞きたくない言葉がその口から聞こえてしまった。『すき』だと・・・・
俺「あ、宮藤だけじゃないぞ。リーネも好きだし他の皆も好きだし・・・・
まだ会ったばかりのヤツもいるけど皆好きさ」
likeの意味の好きか、紛らわしい奴め! ・・・・私は一体何を必死になっているんだ。
カールスラント軍人とあろうものが、冷静さを欠くとは。冷静に見ると本当にこいつには邪な気持ちなどないようだ。
さっきも思ったが、宮藤の長所を素直に認めているし、むしろ良い奴なのかもしれない。
宮藤に言い寄っていただとか、どうやら私の思い過ごしだったようだな。
しかし・・・・こいつはよくぞこんなことを恥ずかしげも無くさらっと言うよな。
俺「勿論、あんたのことも好きだよ」
あまりにも不意打ち過ぎて、動きが固まってしまった。
バルクホルン「ば、馬鹿言え! そんなことちゃらちゃらと口にするな!」
俺「なんでさ? 一応仲間なんだから、嫌う道理はないだろ」
バルクホルン「そういうことではなくてだな・・・・!」
前言撤回だ。やっぱりこいつは嫌な奴なのかもしれない。
最終更新:2013年02月02日 13:58