49.俺「ストライクウィッチーズなのか!?」 504~518
俺「うわああああああ!」
バルクホルン「何をやってる! 胴体を上に引き上げんか!」
今、ストライカーユニットとかいうヤツを足に付けて飛行訓練をしている。
迷走飛行をしている俺の隣で、俺の滅茶苦茶な飛び方に付いて来ながらバルクホルンさんが怒鳴る。
犬の耳と尾を出現させているけど、これは使い魔というものが発現しているらしい。
ウィッチの魔力のコントロールをサポートしてくれる存在らしいが、何故か俺には発現しなかった。
それはバルクホルンさんにも分からないという。
俺「む、無理だぁああああ!」
真っ逆さまの状態で俺は海に勢いよく突っ込んでしまった。これで三度目だ。
俺が使っているストライカーユニットは零式艦上戦闘脚というもの。扶桑の海軍に主に使われていて、防御力は低いが飛行性能は確かなものらしい。
その為、魔法力が弱いウィッチでも安定して使えるので使用する者は多いという。
しかし、そんな評判とは裏腹に、俺はフラフラと不安定な飛び方をしたあとあっけなく海に墜落してしまう。
俺「プハァ」
足に重りを付けるという厳しい水練も昔やっていたからすぐに浮き上がることはできる。
一応、海に落ちた時のための訓練というのも用意されているらしいけどその手間も省けたかもしれないな。
バルクホルン「全く・・・・上がって来ることだけは一人前なんだがな・・・・」
俺「いやァ、それほどでも」
バルクホルン「言っておくが褒めているわけではないからな。満足に飛べていないのに調子に乗っとる場合か!」
俺「ははは・・・・ちょっと休憩しようよ。これ、思ったより疲れるな」
バルクホルン「悠長なことを・・・・敵はお前の成長を待ちはしないのだぞ!」
俺「・・・・ぐぅ」
バルクホルン「寝るなぁーッ! くそっ、ハルトマン並に厄介な奴だ!
おいっ! せめて濡れてるんだから体くらい拭け!」
◇ ◇ ◇
?「この修羅の業を継げる者はただ一人、修羅を極めし者のみ。
一切の憐憫の情を捨て去り、互いに全力を以て死合うのじゃ」
あれ・・・・じっちゃん?
俺は元の世界に戻ってきたのか? いや・・・・見覚えのある光景だな。
確か、業の継承者を決めるための死合。じっちゃんが言ってるように、この人殺しの業は一子相伝。
それも、体の中に修羅を棲まわせた者だけしか継ぐことができない。
朝のブリーフィングで質問された時に答えた『家業』とは、この人殺しの業のことだ。俺の一族は千年に亘ってこの業を伝え続けてきた。
この死合は俺がこの世界に来る一ヶ月前の出来事だ。じっちゃんの目の前には、継承者候補の二人の男が対峙している。
一人は俺自身。そして、その相手は・・・・兄さんだ。
兄「いいか、絶対に手加減はするな。本気で来い」
兄さんのその一言で戦いの火蓋は切られた。優しいはずの兄さんの顔は、信じられないくらい恐ろしい形相になっている。
俺も兄さんも、互いに付け入る隙も与えずに攻め掛ける。その攻勢は凄まじく、空振った蹴りで風の刃が起こって道着や頬が切れる程だ。
そして、惜しみなく致命傷級の技を繰り出し合う。鳩尾、頭部などの急所を狙った的確かつ冷徹な動き。
それを避けて避けて、お互い一歩も譲らない姿勢でいる。このまま続くと、相討ちになるんじゃないかと思える程の気迫だ。
だが、次の一手で勝負が傾きだした。
兄「消えたッ!?」
俺「ぉおおああア!!」
隙ができてしまった兄さんの頭にすかさず掌打を決め込み、その手で頭を掴む。そのまま地面に叩き付けた。
そして、この技の真髄は顔面、若しくは首に膝を落として相手を死なせることだ。
だが、俺はそれをしなかった。
俺「・・・・ッ!」
兄「何をしている!? 俺!?」
それがわざとだということが兄さんにも理解できていたんだろう、そう聞いてきた。
俺の膝は、兄さんの顔面を大きく反れて何もない地面にめり込んでいた。
俺「やっぱり俺にはできないよ・・・・」
兄「何だって・・・・?」
俺「俺に兄さんは殺せない! いや、誰かを殺すこともできやしない! 俺はこの手が汚れるのが怖い!
だから、俺にはこの技を受け継ぐ資格なんてないんだ!」
俺はそう叫び、死合の場から走り去って行ってしまった。兄さんの呼び止める声を背中で受けながら・・・・
◇ ◇ ◇
瞳を開くと、まるで世界が切り替わったかのような感覚に陥った。あれは夢だったみたいだ。
よりにもよってあんな場面が夢に出てくるなんて、嫌になるよな・・・・
あれは俺にとっては嫌な出来事でしかない。名前から逃げたという自分の臆病さを嫌になるくらい思い知らされるから。
でも、それよりも大きな理由がある。あのまま兄さんを殺してしまえば、自分が人間でなくなってしまいそうな気がしたんだ。
兄さんの頭を地面に叩き付けた瞬間に自分の中に棲んでいる獣が目覚めかけたあの感覚が忘れられない。
だから、ここで過ごしていくうちにそんなことも忘れてしまおうとしているんだ・・・・
バルクホルン「やっと起きたか、怠け者め!」
俺の横には、バルクホルンさんが仁王立ちしていた。
俺「俺、どのくらい眠ってたんだ?」
バルクホルン「10分程は眠っていたな」
俺「たった10分・・・・」
やけに長く思える10分だったな・・・・
バルクホルン「たった10分とは何事だ! その10分も貴重な訓練の時間だったのだぞ!」
目覚めてすぐだから怒鳴り声がやけに頭に響いてたまらない。
こりゃあ今はあまり怒らせない方がいいみたいだ。
俺「あ~あ~、そんな怒ってばっかりじゃ勿体ないぜ、あんた本当に別嬪なんだからさ」
バルクホルン「ッ! だから貴様はそんなことを軽々と――」
俺「しっかりしてるし、怒りっぽいのは欠点だけど良い処へ嫁げると思うよ」
俺のその言葉を聞くと、バルクホルンさんは突然、真剣な表情になった。
バルクホルン「私にはやらなければならないことがある。それを終えるまでは何処にも嫁がぬつもりだし、
いや、成就しない限り一生嫁がないつもりだ」
俺「やらなければならないこと?」
バルクホルン「・・・・私は、故郷を・・・・カールスラントをネウロイに奪われたんだ。
住んでいた家も、街も、友人、父上と母上も灰にされてしまった。
忘れもしない、あの黒くて巨大な奴らが所々に砲撃を続け、街を火の海にして行く様を・・・・」
突然聞かされた過去。それは、一応争いが影を潜めた世界で生きてきた俺にとって想像を絶するものだった。
バルクホルン「そして、あろうことか私の戦っている前で妹のクリスまでもがネウロイの瘴気に曝されたのだ・・・・
今は容態も回復して意識も取り戻したがな。カールスラントは依然ネウロイの手に落ちたままだ。
だから、私は一刻も早く妹に、クリスに再び故郷を・・・・おい? どうしてお前が泣いている!?」
俺「え? だって悲しいじゃないか。泣けずに聞いてられるかよォ」
つい目の奥が熱くなって涙が込み上げていた。
それは、これから語られるはずの『やらなければならないこと』を語ることを遮ってしまったかもしれない。
俺には何を言うつもりだったのかもう分かっているけど。
バルクホルン「は、早く涙を拭け! みっともない!
誰かに見られたらどうする、まるで私が泣かせたみたいじゃないか!」
言われたとおりに頬を伝う涙を手の甲で拭い去る。
俺「でも、それだったら尚更あんたは嫁いだ方がいい。きっと、あんたの親もあんたが幸せになってくれることを望んでたはずだ。
戦って死んでしまったら元も子もないだろ?」
バルクホルン「それについては心配はいらん。確かに、何もかも失ってからの私は死ぬつもりで戦っていた。
だが、宮藤とミーナがそれじゃあ駄目だってことに気付かせてくれたんだ。
ミーナとは付き合いは古かったんだが、その時の宮藤はまだストライクウィッチーズに入隊して間もない頃だったな。
あいつは不思議な奴だよ・・・・」
落ちていこうとする夕日を眺めながらそう語るバルクホルンさんの顔は、いつの間にか和らいでいて微笑んでいた。
さっきの辛そうな顔が嘘みたいに。
俺「ほら、やっぱり笑ってる時のが一番良い顔してるよあんた」
バルクホルン「ッ! こんな真剣な話をしている時まで貴様は私をからかう気か!」
俺「いや、別にからかってるわけじゃ・・・・」
バルクホルン「もういい、さっさと訓練の続きをするぞ!」
バルクホルンさんが立ち上がってそう言った矢先、ぐぅ、と情けなく俺の腹から空腹を訴える音が響いた。
俺「腹・・・・減っちゃったな。それにもう暗くなってきたし、ここまでにしない?」
それを聞いたバルクホルンさんはしかめっ面で拳を握り締める。
バルクホルン「何のために10分も寝ていたんだ・・・・貴様という奴は・・・・」
俺「ははは、ごめんよ・・・・」
◇ ◇ ◇
――ディナータイム
俺「今日はよく体動かしたからな、腹のヤツが五月蝿くて敵わないんだ」
芳佳「こんなに美味しそうに食べてくれるから私、嬉しいです!」
俺「俺にはこんな美味いの作れないからなァ」
エーリカ「それじゃあ、ご飯とかどうしてたの?」
俺「川で魚を獲って焼いて食うこともあったし、猪や熊を煮て食ったりしてたよ」
エーリカ「うっひゃあ・・・・なんか壮絶だね・・・・」
俺の奴はここに来て間もないというのに、もう周りと打ち解けてしまっている。
ペリーヌはまだ心を開いてないみたいだが、サーニャまでもが会話に自然に参加しているくらいだ。
現に、この私も俺が宮藤と懇ろになろうとしていたことに我慢がきかなくなり、宮藤から引き離そうと企てたつもりが自分まで引き込まれていた。
鬼のような訓練で痛めつけるはずだったが、あいつの飄々とした態度にいつの間にかペースを乱されていた。
俺「でも、俺は怖かったから兄さんかじっちゃんがやってた」
リーネ「お兄さんがいたんですか」
俺「ああ、俺の三つ上で二十歳だったかな。俺よりも凄いよ。
だからこそ、俺なんかより兄さんの方が相応しかったんだ・・・・」
そして、ヘラヘラしているだけかと思えばそうでもなかったりする。さっきは突然のことで驚いたが、私の昔話を聞いて泣き出したりもした。
他人のことに共感や同情をするのならば兎も角、それで泣き出す奴を私は
初めて見た。本当によく分からん奴だ・・・・
芳佳「へ? それって・・・・」
俺「ああ、ごめんなんでもないよ。そんなことより熊って食う度に味が違うんだ。
普通に美味いヤツもいれば、硬かったり臭いがキツいヤツもいたりするし・・・・」
ルッキーニ「納豆よりもー?」
俺「納豆? あれは美味いじゃないか」
芳佳「ですよね!」
エイラ「マジかヨ・・・・」
ペリーヌ「扶桑の方同士で何か通じ合うものがありますのね」
シャーリー「はははっ、お似合いだな」
リベリアンがそう言うと、宮藤は慌てるように顔を赤くした。いいぞ。
芳佳「そ・・・・そんな・・・・」
ミーナ「でも、二人ともまだまだ若いし、どちらかというと兄妹みたいね」
坂本「兄妹か、そう言われてみても特に違和感はないな」
兄妹だと? 二人は何を言っている? それだけは誰にも譲れない、宮藤を妹として見ていいのは私だけのはずだ!
いや、でも待てよ。さっき俺には兄がいると言っていたな。自分の三つ上で二十歳とか言ってた。
そうだとすると俺は十七歳くらいで、私より年下か。妹、というわけには行かないが弟として――
エーリカ「トゥルーデー? さっきから一人で俯いてどうしたのー?」
バルクホルン「のぉわッ!? な、なんでもないぞ!」
いかんいかん、カールスラント軍人たるもの如何なる時でさえ毅然と構えなければ・・・・
宮藤が作った味噌汁を口に運ぶ。
エーリカ「そういやさァ、さっきトゥルーデが俺泣かしてたよねー」
バルクホルン「ぶっ!?」
思わず口に含んでいた味噌汁を噴出した。
俺「あれ見られちゃってたのか・・・・恥ずかしいな、へへ」
恥ずかしいな、へへ、じゃないだろう! 満更でもなさそうに言うな!
ミーナ「トゥ、トゥルーデ・・・・俺さんもまだ初日だからあんまり厳しくしちゃ駄目よ?」
坂本「俺も俺だ。扶桑男児たるもの、そう簡単に涙を見せるとは何事か」
俺「いやァ、よく言われてたよ」
しかも、私が厳しい訓練をさせて泣かせたと誤解されているらしい。
このままだと妹たち、じゃなくて宮藤たちに私が鬼教官だと誤解されてしまう。
誤解を解くにしても、私や俺から説明しても説得力に欠ける。ハルトマン、余計なことを・・・・
エーリカ「俺が泣いてたのってトゥルーデの昔話を聞いたからだよ」
誤解を解いてくれたのは意外にも、話題を出したハルトマンだった。
エイラ「確カに大尉の過去って言えば悲しいカモしれないケド・・・・ソレだけで泣けるもんナノカ?」
サーニャ「それだけ俺さんが優しいのよ・・・・」
芳佳「そうだよ!」
どうやら誤解は解けたみたいだ。やはり持つべきは友、ハルトマンには感謝しなければ・・・・
いや、この誤解の大本はハルトマンだったな。そういえば・・・・
バルクホルン「ハ、ハルトマン! 一体いつから見てたんだ!?」
エーリカ「ん~っとね~、俺がずぶ濡れで寝ててトゥルーデが体をタオルで拭いてやってた辺りからかな~?」
バルクホルン「それは言うな~ッ!!」
ハルトマン「聞かれたことに答えただけなのに・・・・」
俺「そういえば目覚めてからなんか濡れてないなって思ったけど、あんたが拭いてくれてたのか。ありがとう」
バルクホルン「ッ! わ、私は初日から風邪でも引かれて足を引っ張られるわけにはいかないからそうしたまでだ・・・・
第一、上官を前にして訓練中に居眠りなど上官不敬罪だぞ!?」
俺「そんな難しい言葉使われてもなァ・・・・」
坂本「さしずめこっちはしっかりものの姉に手のかかる弟、か。はっはっは!」
ミーナ「宮藤さんと合わせると三兄弟ね」
・・・・そうか、宮藤と俺が兄妹だとして、その俺の姉が私だとすれば間接的に宮藤は私の妹になるわけだ。
ミーナ、流石に付き合いが古いだけに私の思惑をよく察してくれたな。
手のかかる弟というのも悪くないかもな、妹の方が魅力的ではあるが――
エーリカ「おーい? トゥルーデー? 具合悪いの?」
バルクホルン「なな、なんでもないなんでもないぞ! 別に三兄弟にクリスを加えた『なかよし兄弟計画』なんて――」
しまった・・・・何故よりにもよってこんなことを口走ってしまったのだ・・・・
エーリカ「私の知ってるトゥルーデはどこに行ったの・・・・」
シャーリー「バ、バルクホルン・・・・」
私は めのまえが まっくらになった・・・・
俺「この漬け物美味いなー」
最終更新:2013年02月02日 13:58