気がつくと、知らない天井だった。
 時間は夜の様で月の明かりが四角い窓から差し込んできている。
 体を起きあがらせて辺りを見渡すと、瓶の入った棚が近くにある。それに独特の匂いがするここは医務室なのだろう。

?「……あれ?」

 私は、いや、自分? 俺? 僕? わっち? あたい? あたし? おいどん? わい?

 ――どれ?

 わからない。何も思い出せない。とりあえず胸に手をやってみると柔らかい感触。
 なるほど、私は女のようだ。

私「ふむ……」

 お決まりのようにズボンを覗いてみるが、やっぱりついていない。やはり私は女なのだ。呼び方も多分私だろう、一番しっくりくる。

 ベッドから体を起こすとギシギシとスプリングのきしむが鳴る。周りを見るとベットに寝ているのは自分だけのようで他には誰もいない。
 ふと気付くと近くに大きな鏡がある。丁度いい、私はどんな姿をしているのか確認しよう。

私「ほほう……」

 なるほど、かなりの美少女だ。黒い軍服に白い肌、黒のポニーテールで瞳の色は紫、身長は170前後といったところだろうか。……結構胸もあるな。
 軍服ということは私は軍人なのだろうか? そもそもどうして私はこの服が軍服とわかったのだろうか。
 ……記憶喪失、か。

私「うー……」

 考えれば考えるほどわからなくなって頭がこんがらがる。私って頭の回転悪いのか?

ウィッチ1「あ、気付いたんですね!」

 突然扉を開けて入ってきた女性に思わず身構えてしまう。

ウィッチ1「大丈夫! アナタを追いかけてきたネウロイは倒したよ!」

私「……ネウロイ?」

 何かが頭の中に入ってくる感じ、ズキズキとして気分が悪い。
 口に手を当て蹲ると、入ってきた少女が背中をさすってくれた。

私「も、申し訳ない……」

ウィッチ1「無理しなくていいんですよ? あなたは一度海に落ちたんですから」

 少しの間背中をさすってもらうとだいぶ楽になった。
 私は立ち上がると少女にお礼を言う。

私「ありがとう、おかげで気分がよくなった」

ウィッチ1「よかったー……3日間も眠ってたんですよ?」

 三日間か、結構長い間眠ってたんだな……。

私「ところで質問なんだが……ここはどこだ?」

ウィッチ1「ここは××基地です」

 ××基地……聞いたことがないな。まあ、記憶を失ってるんだから聞いたことがあるはずないか。
 後々勘違いされても困るので、とっとと自分のことを理解してもらおう。

私「実は……」




ウィッチ1「そうですか……。きっと恐怖で一時的に記憶を失ったんだと思います」

 その女性は中々に親切で丁寧に私の話を聞いてくれた。

ウィッチ1「でも少しずつ取り戻していけばいいじゃないですか」

私「……そうだな」

ウィッチ1「あ、流石にウィッチは知ってますよね?」

私「ウィッチ?」

ウィッチ「そうです。あなたもウィッチだからわかりますよね?」

 その単語に急にドス黒い感情がこみあげてくるのがわかる。今にも溢れだしそうで、体の中で暴れまわっているのを感じる。
 ウィッチ! ウィッチ! ウィッチ! ウィッチ!
 何故だ何故ここまでそれが憎いのか、ウィッチという言葉の意味も知らないはずなのにここまで嫌悪するのは何故だ!

ウィッチ1「だ、大丈夫ですか!?」

 思わず目の前の少女に殴りかかりそうになるが、なんとかこらえる。

私「だ、大丈夫だ問題ない」

ウィッチ1「と、とりあえず上官さんに会いましょう! 多分あなたの相談も乗ってくれるはず!」

 そう言って少女は私の手を握る。ほんのりと温かい温度に少し感情の波は静まったようだ。

私「よ、よろしく頼む……」

 医務室の扉を開けると、そこはライトが光る世界だった。非常に眩しい。

ウィッチ1「目は少しずつ慣らしてくださいね。それまでわたしが手を握ってますから」



 少女が扉を2回ノックすると、中から太い男の返事が返ってきた。
 それを確認すると少女は部屋の中へと入る。

上官「おお、目覚めたのかねよかったよかった」

 そう言って男は二ヤリと笑った。人はよさそうだがどこか喰えない印象を感じる。

ウィッチ1「はい、しかし……」

私「上官と言ったな。私は誰だ?」

 上官は目をぱちくりとさせて不思議そうな目で私を見る。何故か非常に気に入らない。

上官「ウィッチ1、一体この人はどうしたのかね?」

ウィッチ1「実は……この人記憶喪失になったみたいで……」

私「どうやらそのようだ。私自身何者で、一体何故この基地へ向かっていたのか皆目見当もつかん」

 上官は少女を呼び寄せるとこそこそと耳打ちで会話をし始めた。非常に気に入らん。

上官「それは大変だったな……。まあ記憶が戻るまでゆっくりとしていくといい」

ウィッチ1「こちらでもあなたのことは調べておきますので、今は休んでください」

 自分が何者であるかわからない以上、下手に断っても更に厄介になるだけだ。ここは言う通りに休むことにしよう。

私「そうだな、そうさせてもらおう」

上官「それにしても、私の基地の前に現れるなぞ愚かなネウロイだ」

 部屋を出ようとした私にぞわり、とナメクジが背中を這う様な気分を覚えた。

私「愚か?」

上官「そうだとも! 自慢じゃないが私の基地では通ったネウロイを逃さず全滅させてることで有名なんだ」

ウィッチ1「そうですよ。ちなみに私がその部隊のエースだったりします!」

上官「そうだ彼女は本当に凄いんだぞ!」

 えっへんと言わんばかりに胸を張る二人。気に入らない。

上官「この間勲章をもらってな! ネウロイは本当に……」

 ああ、やめろ言うな、それ以上言うな。胸糞悪い吐き気がする。



ウィッチ1「私たちウィッチはネウロイから世界を守るために飛んでるんです!」

上官「その通り!」

 その言葉に、その誇らしげな顔に、私の中で何かが切れた。同時に思い出されるおぞましい記憶。
 ああ、そうか私は――

上官「流石に501には及ばないが私の部隊も少数精鋭で……」

 ――ああ、いいんだもう

上官「それにごふゅっ」

 ――お前はもう

ウィッチ1「……え?」

私「喋らなくていい」

 私の手刀が、上官の喉を貫いていた。

ウィッチ1「……い、いやああああああああああああああああああああ!」

 ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥー!

 少女が叫ぶのが早いか鳴るのが早いか、突然の騒音。どちらも耳障りだ。
 上官の喉から手を引き抜くと手は血で染まっている。手のひらを開くと血が糸を引いた。


 少女のほうを見ると私を見て銃を構えている。

私「どうした? 私はウィッチじゃないのか?」

ウィッチ1「ち、違う! お前は……お前は……」

 ガチガチとトリガーと歯を鳴らしながら、少女は何とか喋っている。かわいい。
 助けてあげたいがこれは仕事なんだ。私の大事なお仕事。

私「助けてくれたことには感謝しよう……しかし、仕事だ」

ウィッチ1「う、うわあああああああああああああ!」ダン!ダン!

 少女は私に銃を撃ってくるが、全て手のひらで受け止めてやる。地味に痛いがすぐ直るので問題ない。

私「せめてもの情けだ……死ね」

ウィッチ1「ひっ」

 彼女の耳元で囁くと、手刀で首を刎ねる。恐らく痛みを感じることも無く死んだだろう。
 へたりと座り込んだ少女の胴体から鮮血が噴水のように溢れだす。
 なんとなく正座にして手に彼女の恐怖に歪んだ首を乗せてみた。うん中々に様になるな。


私「~♪~♪」

 いい気分で部屋から出ると銃を構えたウィッチたちが私を出迎えた。数は13人といったところだろうか。
 なぜわざわざ通路で戦おうとするのか。空を飛んでこそのウィッチだろう?

ウィッチ2「よ、よくもだましてくれたわね!」

ウィッチ3「殺してやる!」

 殺してやる殺してやるうるさい、殺意を唄うお人形かお前らは。
 せっかくいい気分だったのに冷めてしまうじゃないか。
 とりあえず黙らせよう。元々そのつもりだったし、一人ずつ探して片付けるより手間が省けるものだ。
 足に力を込めて一人に近づく。

ウィッチ4「は、はやっ――」

私「遅い」

 その顔を右手で掴むと片手で持ちあげ力を込める。ジュッという何かが焼ける音が辺りに響いた。

ウィッチ4「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」

私「低出力ビームの味はどうかな?」

ウィッチ4「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 バタバタと宙ぶらりんの足を振りながら必死にもがくが、こっちはただの人間じゃないんだ無理に決まっている。
 その様子に他の仲間は誰も動くことが出来なかったようだ。唖然とした表情で絶叫を聞いている。
 30秒ほどしたところで絶叫は止まった、ズボンを見ると黄色い染みができている。えんがちょ。


 ぽいっと呆然としている連中に投げつけてやると、見るも無残な顔が彼女たちにさらされた。いやもう顔じゃないか、もはや骨だよ骨。

ウィッチ5「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 一番手前の少女の絶叫でパニックになったウィッチ一同。やたらめったらにその辺に銃を乱射しはじめた。
 こんな状況で怪我するのも馬鹿らしいので、私は元上官の部屋に入ることにした。

 20秒もしないうちに銃声が止まった。
 そーっと覗いてみると全滅している。人間ってやっぱり恐ろしい。

私「さて、仕事終わったから帰るか」

 それにしても、本当にきちんと戦えてたのか疑いたくなる協調性のなさだ。
 たぶん死んでいるだろうが、念には念をがモットーなので、穴だらけになった彼女たちを一つずつ、丁寧に頭を踏み砕いていく。軍靴って便利。
 廊下が血液とか脳みそとか骨とか色とりどりの髪の毛でとんでもないことになっているが気にしない。



 あちこち歩き回ってハンガーにつくと、私のストライカーユニットが置いてあった。
 たどり着くまでにすれ違った人間を片っ端から殺しているが問題ない。むしろ減らすのが仕事だ。
 歩くたびに鳴る血と脂の音が不快だが、いつもこんな感じなので気にしないことにする。

私「おお、よく見ると整備もされてる」

 数か月もの間整備もできなかったからこれはうれしい。
 ふと鼻を鳴らすと自分の体臭がとんでもないことになってるのに気付く。これはいかんな女として。

私「消臭剤消臭剤……」

 正直この匂いが消せるんだったらオイルでも構わない、すぐにでも頭からかぶってやろう。

 ダァン!

私「あいたっ」

 背中にチクリと痛みが走る。振り向くと整備兵なのかライフル1つを数人がかりで持っていた。

整備兵1「し、死なないぞ!?」

整備兵2「じゃ、じゃあ……」

整備兵3「本当に……」

 人を化け物みたいに見るな、れっきとした人間だぞある程度は。

私「いい度胸だ嫌いじゃないぞ」

 時間があれば遊びたいところだが、どうやらやってきたようだ。

整備兵4「み、見ろ! あれは……」

整備兵「「ネウロイ!?」」

整備兵2「ど、どうしてこんな近くまで来ていたのにウィッチたちはいないんだ!? しかも大型だぞ!? 何故だれも気付かないんだ!」

整備兵4「あ、ああああああ! ま、まさか!」

 整備兵の視線が一斉に私へそそがれる。

私「私がやった。全部」

 サッと整備兵たちの顔色が青くなっていく。いや、ちょっと考えればわかるだろう、君たちは実に馬鹿だな。

整備兵1「う、うわああああああああああ――」

 整備兵たちの姿は赤い色のビームでかき消えた。
 上を見ると巨大なネウロイがいる。

私「遅い!」

ネウロイ(そっちが遅いんだろ。 記憶喪失になってたなんて馬鹿かお前)

 実に痛いところを突く。本当に攻撃方法がビームだけの連中か。

ネウロイ(おい全部筒抜けだぞコラ)

 くそっ! テレパシーめ、なんて便利で不便なんだ!

ネウロイ(お前、やろうと思えばテレパシー遮断もできるだろう……。
 まあいいここの基地は硬くてな、攻略には内側から壊せるお前が必要だった)

私「当然だ。大佐だぞ私は」

ネウロイ(うっせえ、元だろうが)

 ううむ、まだ人間だったころのくせが抜けんな。

私「さあ次の場所にいくか」

ネウロイ(おいこら後処理を……)

私「やかましいコア殴られたいのかコラ」

ネウロイ(マジすいませんでした)




 ストライカーユニットを履くとそのまま空へと飛んでいく。
 下を見ると仲間たちが基地を攻撃している。
 まあ、ほぼ基地の機能なんてもう残っちゃいないが、人がいれば基地は活動をしている、容赦をすることはない。

私「次は……そうだな、あの上官が言っていた501ってとこに行ってみるか」

 私はネウロイ、ネウロイになった人間。
 ただただウィッチが、軍が憎くてたまらないだけのただのネウロイ。

私「あ、ロマーニャって一度行ってみたかったんだ、観光してからいくか」 

 その前に服をどこかで調達する必要があるな、と私は思いつつ大型ネウロイが通る隣を飛び去ってゆく。
 振り向くと基地は燃え、夜の闇を明るく照らしていた。
最終更新:2013年02月02日 14:22