平和だ、絶望的すぎるほどの平和だ。
 廊下を隅々まで箒で掃きながら私はため息をつく。

私「何か違うんだが……」

 確かに基地に忍び込んで信頼させる、という点では下働きほど有効な方法はないだろう。
 戦って信頼を得るという方法もあるだろうが、あくまで私は予備なのだ。滅多なことで戦場に出ることはないだろう。

私「あっまたこんな所にゴミが」

 廊下の隅にある角のゴミも丁寧に、我ながら几帳面だと思う。約束は守らないほうだが。
 それにしてもこの基地は心なしかゴミが多い気がする。特にエーリカ・ハルトマンの部屋辺り。

私「ふぅ」

 ゴミを拾い終わった私は壁に寄りかかりため息をついた。
 この基地へとやってきてからかなり経過した、ある程度は信用されているようで許可さえ取れば部屋に入れるようにしてくれた。
 しかし、私ってこんな健康的なキャラだったか?


 自己紹介はこの間済ませた。第一印象は悪くなかったと思う。
 バルクホルンから口調を直せと言われたが、十数年来の言葉づかいを直すのは難しいと言ってなんとか許容してもらった。

 私の印象としては宮藤、リーネ、サーニャは素直な子だと思う。特に宮藤は素直すぎて困る、少し暗い部分を知った方がいい。

 次にシャーリー、ハルトマン、ルッキーニ、このあたりは自由な連中だ。天才は縛られないということなのかどうかしらないが。
 あとルッキーニは私の胸に顔を埋めるのをやめてほしいくすぐったい。

 ミーナ、坂本、ペリーヌ、エイラは非常に扱いにくい。ミーナ、坂本はキッチリしてまさに指令といった感じで、ペリーヌは……ツンデレ? 扶桑語にそんなのがあった気がする。
 エイラはよくわからない、ただ占いで私の正体がばれる前に手を打っておこうとたまに考える。

 まあ、総合していうなら全員軍人らしくない、と言ったところだろうか。
 全体的に甘い空気が流れている、しかしこれでエース集団だから恐ろしい。この空気は苦手だ。


 しかし、この連中よりも頭一つ抜けて苦手なのが……

バルクホルン「おい私」

 バルクホルンだったりする。
 何故かはわからないが彼女とは似た空気を感じるが、空気の内容は同じでも私と逆の色をしている気がする。
 バルクホルンが白なら私は黒と言ったところだろうか。

私「なんだバルクホルン大尉」

 ぶっきらぼうに返事をするとバルクホルンは眉をひそめる。

バルクホルン「……まあいい、ミーナが呼んでいる」

私「ミーナ中佐が?」

 それだけを伝えに来たようでバルクホルンはさっさと背を向けて行ってしまった。
 あまり基地の連中とはかかわり合いになりたくはないが、行かなければ無駄に怪しまれてしまう。

私「はぁ」

 この日一体何回目かわからないため息をつくと、呼ばれた場所へと向かった。




 数名が居ないが大体のメンバーは集まっていた。
 サーニャは寝ているらしく、バルクホルンはハルトマンを起こしに行ったようだ。シャーリーは……多分機械いじりだろう。
 慣れた光景なので特に言うことはない。

ミーナ「先日来の施設班の頑張りによりお風呂が完成しました。本日正午から利用可能になります」

 宮藤とリーネが無邪気に喜びの声を上げる。

ルッキーニ「おっふろ! おっふろ! 私も一緒に入ろうよ!」

私「……そうだな、暇になったらな」

 あまり私は肌を人に見せたくないので、適当にごまかす。

ルッキーニ「暇って何時ー? 何時何分何曜日ー世界が何回回ったらー?」

 よくわからない文句を言いながら、ぷぅと頬をルッキーニは膨らませる。
 ちなみにさっきから宮藤の視線をガンガン感じている。なんだその視線は。

ミーナ「私さんも今日は仕事を早く切り上げても結構です」

 ミーナがニコリと笑う。恐ろしくお人よしなのか、それともわかってて言っているのかわからない。
 ルッキーニがキラキラとした目で私を見ている。



坂本「お前達、風呂をもっと気持ちよく入る方法があるぞ!」

 坂本の言葉に耳を傾けるメンバー。
 大体次に言う言葉は想像できるので、私はそそくさと箒を持つと部屋の入口へと移動する。

坂本「訓練で汗を流せばもっと気持ちよくなるぞ! 全員、基地の周りをランニングだ!」

 ああやっぱり。ルッキーニが嫌そうな声を出す。
 しかし理由は分からなくもない。自分の魔力が尽きる前に少しでもメンバーを鍛えておきたいのだろう。

宮藤「で、でも訓練だったらいつでも……」

坂本「つべこべ言わずに走れー!」

エイラ・宮藤・ルッキーニ・リーネ・ペリーヌ「「「「「は、はい!」」」」」

 部屋から走って飛び出す5人。

坂本「全く、なんで風呂ごときでそんなにはしゃげるのか」



 ため息をつくと坂本は私を見る。

坂本「ん? 私は行かないのか?」

私「ああ、まだ掃除する場所が残っているからな。それに、そんなに若くないし」

 与えられた仕事はキッチリと、それが私のモットーだ。

ミーナ「悪いわね、いつも雑用ばかりさせてしまって」

私「気にするな私は居候の身だ、掃除くらいしないと肩身が狭い」

坂本「はっはっは、別にきにしなくてもいいんだぞ?」

 坂本が笑うとミーナも頬を緩める。
 確かにネウ子の言う通りここの連中はいい奴らだ。……いい奴らすぎる。

私「……とりあえず仕事だけはやってくる」

 私は後ろを向くと足早に部屋から出る。脳裏に私が人間として最後に聞いた言葉が浮かんで消えた。


 空き部屋

私「ふぅ……」

 あらかた掃除し終わってスッキリした私は賢者モードに入った。
 時計を見るとあと少しで正午といったところで、今から風呂場に行けば丁度正午だろう。

私「さてどうしようか」

 個人的にはあまり一緒には入りたくない。しかしルッキーニのあのキラキラした瞳がどうにもいけない。
 何故か行かないと誰かから怒られそうな、そんな気がしてならない。
 ……それにしてもバルクホルンはまだハルトマンを起こしているのだろうか。

私「ん?」

 そんなことを考えていると、ふとネウロイの気配を感じた。
 相当近いな……3キロ……1キロ……いや、500メートル……もっと!? 200メートル以内!?

私「んな馬鹿な!?」

 慌てて窓の外を見るが空には鳥が飛び太陽が照っている。赤と黒の混ざった飛行物体などどこにも飛んでいない。



 その時、フッと点けていた電気が消え部屋が暗くなる。

私「……ネウロイ、か?」

 コード部分に目を凝らすといた。
 まるでテントウ虫のようなネウロイだ。恐らくこれはコア部分を別にしたネウロイだろう。
 過去に居た巣で、そこのネウロイが面白そうだとか言って作りだしていた記憶がある。

私「中々に考えているな」

 うんうんと頷く。
 電気系統を狂わされることは基地に重大な打撃を与えることができる。これをするだけで大半の基地は機能を失ってしまうだろう。
 ただ問題はここの巣のネウロイが、あの変わり者のネウ子ということだ。

私「何がしたいんだ?」

 今のうちに接近をするなり攻撃をしかけるなりすれば、壊滅まではいかないだろうが基地の一部を破壊する程度のことはできるはずだ。
 考えられる可能性を考えていると、ネウロイは部屋から飛んで行ってしまった。

私「……まあ、いいか」

 これで壊滅するならこの程度だった、ということで私は箒を自室へ直しに向かった。



 結局、私は何者かの意思によって風呂に向かうことになってしまった。
 いっそ完全にネウロイ化すれば水に入らなくて済むのに、とぶつぶつ文句を言いながら石段を昇る。

ルッキーニ「あ、私だー!」

 ルッキーニが明るい声を更に明るくして叫ぶ。……頼むからちょっとは隠す努力をしてくれ。
 見えてる、色々見えてる乳首とかスジとか。

宮藤「おぱ、おっぱ……」

ミーナ「よ、芳佳ちゃんしっかりして!]

エイラ「おおう……着やせしてるんダナ」

 各々が様々なことを口々に言う。

ペリーヌ「……」

 ペリーヌが私の胸と自分の胸を交互に見比べて項垂れる。大丈夫、そのうち大きくなるから。
 まあ、それまで私が攻撃しなければの話だが。

私「……ふぅ」

 静かにゆっくりと肩まで浸かる。気持ちがいい。
 血や海水やオイルで体を洗っていた時期もあったことを思い出すと泣きそうになる。



ルッキーニ「隙あり!」

宮藤「あ、ルッキーニちゃんずるい!」

 いつの間にか背中に回り込んでいたルッキーニ、また私の胸を揉もうというのか。宮藤にはツッコまないようにする。

ルッキーニ「服の上からじゃない生オッパーイ!」

私「ちょ、やめ……」

 強弱をつけて味わうように胸を揉むルッキーニ。ご丁寧に乳首まで引っ張ってくれている。
 非常にマズイ、妙なスイッチが入りそうだ。そもそも彼女達ウィッチじゃなくてネウロイがあえぐなんて誰特。
 スイッチが入りそうなところで強引にルッキーニを振り払う。

私「はぁ、はぁ、はぁ……」

ルッキーニ「シャーリーよりちょっと小さいけど、でも相当大きいよ!」

宮藤「ルッキーニちゃんさわり心地は!?」

 大声で私の胸の感想を言うルッキーニとそれをキラキラとした目で聞く宮藤。それを顔を赤くして聞くペリーヌとリーネ。
 エイラは相変わらずマイペースで鼻歌を歌っている。
 ともかく後で宮藤とルッキーニには説教をする必要があるな、とタオルを体に巻きつつ私は思った。
最終更新:2013年02月02日 14:23