朝起きるとまず頭に違和感を感じた。
普段はまっすぐ後ろに引っ張られるような髪の重さがあるのに、今日は左右両方でバランスを取っている感覚。
髪が一日で伸びたかな馬鹿なことを考えつつ、寝ぼけまなこでテーブルの上の、普段髪を束ねている黒いリボンを探す。
私「……アレ?」
ない。どこにもない。
下に落ちたかと思いテーブルの下を探すが見つからない。ベッドの下も探したがない。
鞄の中も机の中も探したが見つからない。
私「……まあいいか」
ほぼ何もない部屋の中を片っ端から探った後、あきらめた。
別にコアをガードするためのリボンじゃないし、あっても無くても死にはしない。
私「それにしても、今日は頭が軽いな」
そんなことを言いながら、顔を洗いに向かうため部屋の扉を開けた。
顔を洗い台所へとやってきた。しかしどうもすっきりしない。
顔を洗う所には大体ついているはずのガラスが、何故か全て割れていてちゃんと顔を洗えていたから確認できなかったからだ。
ともかく今は朝食を作るのが大事だ。リボンと同じように顔を見れなくて死ぬわけでもない。
居候させて貰っている身としては、何もしないというのも居心地が悪いので、朝起きて誰も食堂にいないときは私が料理を作ることにしている。
私「うーん……」
冷蔵庫をあさりつつ唸る。
私「本当は今日の当番は宮藤のはずだったな」
となると今日の朝食は扶桑料理のはずだ。
とはいっても、扶桑料理にあまり詳しくない私は、宮藤が当番の時に出している納豆を取り出す。
私「海苔と卵とネギ……だったか?」
納豆の入った入れ物を台の上に乗せて再び冷蔵庫をあさる。
一通り必要そうなものを人数分取り出す。
納豆は一人一つの器、卵などはお好みで。
私「おっと、ペリーヌは納豆が苦手なんだったな」
ペリーヌの器に納豆を入れる直前で気付く。
しかし一人だけ納豆無しというのも、あまりいいものではないだろう。
私「よし、納豆オムレツだ」
幸い卵は人数分ある。
もし誰かほかに作ってほしいと言えば作れるし、ペリーヌも少しは納豆を食べやすくなろうだろう。
この隙に毒でも入れれば殺すのは簡単だ。
だが私は正体を明かし、絶望させてから戦いで彼女達を殺したいと思っている。
勝手かもしれないが、ウィッチとしてせめてネウロイとの戦いで死んでもらいたい。
裏切られて殺された私のようになってほしくない。
私「……甘くなったものだな。殺す殺す言いながら、一人も手にかけていない。口だけの子供か私は」
自嘲的な笑みを浮かべながら、バターを冷蔵庫から取り出した。
焼きあがったオムレツを皿へと移していると、宮藤がやってきた。
起きてすぐやってきたのか、訓練してからやってきたのかは知らないが、ともかく慌ててやってきたようだ。
宮藤「わ、私さんすいません!」
肩で息をしながら宮藤が謝る。
私「別にいい、居候だからな。このくらいはする」
宮藤「でも……」
私「ふむ……じゃあ納豆をテーブルへ運んでくれ」
宮藤「はい!」
宮藤が人数分の器に分けた納豆を次々とテーブルへと運んでいく。
運ぶのは宮藤に任せて、私は椅子に座って終わるのを待つことにした。
宮藤「そうだ私さんそれ似合ってますよ」
最後のペリーヌの分のオムレツを持っていくため厨房に戻ってきた宮藤が、私を見ながら言う。
私「……何が?」
それとは一体何のことだろう。似合ってるということは何か飾りなのだろうか。
宮藤「え? 私さん昨日――」
ルッキーニ「おっはよー!」
宮藤が何か言おうとしていたが、やってきた二人に阻まれる。とりあえず二人にあいさつをしておこう。
私「ああ、おはよう」
宮藤「おはようございますシャーリーさんルッキーニちゃん」
シャーリー「まだそれやってたのか。昨日だけど好きだなお前も」
おはようの次の言葉がこれか。一体何だ、何が私の身に起こっているんだ。
考えてもわからないので聞くことにする。
私「……ルッキーニ、私ってどこかおかしいか?」
まあ、おかしいといえば生きてる事がおかしいんだが。
ルッキーニ「似合ってるよその髪型。あたしとおそろい!」
私「え?」
思わず変な声を出してしまう。
私「……すまないもう一度言ってくれないか?」
ルッキーニ「覚えてないの? 昨日私が、あたしに髪型同じにしてくれって頼んだんじゃん」
まて、覚えてないんだが。
いや、よくよく考えると昨日の夜の記憶がない。いったい私に何があったんだ。
とにかく確認しなければ。
私「……シャーリー、鏡もってるか?」
シャーリー「ああ」
手鏡を受け取ると自分の姿が鏡に現れる。
なんということでしょう。
邪魔だからという理由でポニーテールにしていた髪が、いつの間にかルッキーニのようにツインテールに。
見つからないと思っていたリボンは左側に結ばれているではありませんか。
私「どうしてこうなった」
ルッキーニ「片方は私のリボンだけど、もう片方はあたしのリボンだよ!」
白いリボンは私は持っていないので、ルッキーニの言う通り右側のはルッキーニの予備のリボンのようだ。
ともかく、いつまでもこの髪型にしておくわけにはいかない。
まずルッキーニにリボンを返すため、右側をほどこうとする。
宮藤「その髪型だと二人とも姉妹みたいですね」
シャーリー「あー確かに似てるな。髪の色も黒で、私のほうが背が高くて、髪が長い辺りぴったりじゃないか」
二人の言葉に手が止まる。
私「私と姉妹なんて嫌だろルッキーニ」
キラキラとした目でルッキーニが私を見ている。嫌な予感。
ルッキーニ「おねーちゃーん!」
飛びかかってくるルッキーニ、迎え撃とうとする私をはがいじめにするシャーリー。
私の中でランキングが変動した瞬間だった。1位 ネウ子 ← 2位 シャーリー↑ 3位 バルクホルン↓
手を出せないことをいいことに、ルッキーニが胸に顔を埋める。
ルッキーニ「えへへへー」
私「く、くそッ! 放せシャーリー!」
シャーリー「おいおいやらせてあげなよお姉ちゃん」
ネウロイ化して力を込めれば引き離すことも可能だが、出来れば全員が揃っているところでやりたい。
なのでネウロイ化はせずに引き離そうとするが、腕を押さえられているというのは力が入りにくい。
私「み、宮藤なんとかしてくれ!」
最後の常識人と思われる宮藤に助けを求める。
宮藤「ルッキーニちゃんずるい!」
私「宮藤いいいいいいいいいいいいいい!」
思い出したこの娘はルッキーニと同じようなものだと。
宮藤見るな、見るなこっちみんな。
手を前に出すなよだれうたらすなっとりするなやめろやめやめやめうわああああああああああああああ――
数分後
胸を堪能しきった二人は満足そうな顔で、シャーリーはニヤニヤとしながら床に正座をしている。
私「何か言うことは?」
詳しくは言わないが、色々と乱れた軍服のボタンを留めつつ3人の前に立つ。
ルッキーニ・宮藤「「いいおっぱいだった(でした)!」」
私「シャーリーは?」
シャーリー「朝からいいもの見れたと思ってる!」
私「……もういいや」
ルッキーニ「うじゅ触っていいの!?」
私「違う」
この三人をどうしてくれようかと思っていると、ウィッチ達が次々と食堂へとやってくる。
やってきたのはいいんだが何故か私と目を合わせようとしない。
ルッキーニ・シャーリー「「今だー!」」
私「あっ」
何事かと考えているうちに、3人は逃げるように自分の席へと座ってしまった。
ミーナ「……私さん、その、昨日は」
呆然としている私にミーナが話しかけてくる。何とも言えない複雑な顔をしている。
ミーナ「あの……とても大変だったわね……。事故とはいえエーリカにも責任はあるわ……」
私「大変?」
バルクホルン「覚えていないのか? その方が幸せかもしれないが……」
覚えていないほうが幸せな記憶ってどういうことだ。ひょっとして私のツインテールに関係していることなのか。
彼女達が目を合わせないのは昨日の夜の私が原因のようだ。恐ろしいが、聞かなければならない。
私「ハルトマン、お前は私に何をした?」
意を決して尋ねる。
沈黙の後、ハルトマンは重々しく口を開いた。
エーリカ「その、ね。昨日わたしがミーナに黙ってクッキー作って、それが私の口の中に入っちゃったんだよね」
馬鹿なと心の中で思う。
以前(番外)ハルトマンのチョコでコアにひびを入れられた私が、こう言っては失礼だがハルトマンの料理を口に入れるはずがない。
エーリカ「それで運んでる最中に私とルッキーニがいて、話しかけようと近づいたら転んじゃって、クッキーが私の口の中へ……」
なるほどこれは仕方がない不幸な事故だ。
転ぶくらい誰にでもあるだろうし、その時口を開けていた私も悪い。
私「いや別に気にしなくて――」
ルッキーニ「そのあとが凄かったよねー」
その言葉に食堂にいた全員が頷いた。
私「ま、まだ何かあるのか?」
エーリカ「口に入れて暫くしたら私が倒れて、すぐに起き上がったんだけど……」
ルッキーニ「なんかすっごくお酒臭かったんだよね」
エーリカ「ブランデー?だかなにか知らないけど、香付けに生地にお酒練り込んでおいたのが原因だと思う」
一つで人間一人が酒臭くなる量ってどれだけ入れたんだ。
そのクッキー全部食べたら急性アルコール中毒で死ぬんじゃないだろうか。
ルッキーニ「で、起きあがった私の最初の言葉が、あたしと同じ髪型にしてくれだったんだよね」
どうやらコアにひびが入ったところに大量のアルコールが吸収されて酔った状態になったようだ。
髪型を同じにする程度なら別に大したことは――
エーリカ「そのあと突然ルッキーニを後ろから抱きしめたんだ」
私「えっ」
ルッキーニ「あたしは胸が背中に当たって満足!」
エイラ「それを見ていたわたしが、からかおうと近づいたらダナ」
私(わーたーしーのー! わーたーしーのー!)
エイラ「とか言いながらルッキーニを抱きしめたまま後ろに下がって行ったんダナ」
坂本「大声だったからな、基地全体に聞えていた」
バルクホルン「で、わたし達が何事かと集まると、お前は突然逃走してしまったんだ」
あ、不味いこの後のこと思い出した。
背中を冷や汗が伝う。
ペリーヌ「追いかけましたが結局見つからず、何故か数か所のガラスが割られているだけでしたの」
リーネ「それで暫くして、ルッキーニちゃんが寝てしまった私さんを連れて戻ってきたんです」
サーニャ「連れて、というより引きずってのほうが正しいかも……」
ルッキーニ「それであたしが私の部屋まで運んであげたんだ!」
私(ルッキーニー服交換しよー)
私(そうそうズボンもー)
うわあ
うわああ
うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
心の中で何度も絶叫を上げる。
馬鹿か、馬鹿か私は。コアにひびが入って酔っていたとはいえここまでするか馬鹿か私はいや馬鹿だからやってるんだ。
こんなだから妹にも裏切られるんだ。
私(……まさか)
嫌な予感を感じ、ズボンを確認する。
そこには私の白いズボンではなく、ルッキーニの青と白のしましまパンツがあった。
私(うわああああああああああああ)
マズイマズイいやもうマズイを通り越してやばい。
私は変態じゃない変態じゃない変態じゃない。
ルッキーニ「あ、そうだ私ー、あたしのズボ――」
私「うわあああああああああああああああ!」
目の前が真っ白になって、叫びだけが耳に残って。
一秒でも早くその場から離れたかった私はただひたすらに逃げた。
気がつくと私は宿舎近くの草むらに仰向けで寝転がっていた。
太陽と風と草の揺れる音が気持ちいい。
私「……」
ルッキーニ「みーつけた!」
私「うわっ!?」
突然空ばかりの視界にルッキーニが入ってくる。驚いて体を上げると、ルッキーニの額と私の額がぶつかった
。
ルッキーニ「うじゅー……」
額を押さえるルッキーニ。私は起きあがるとルッキーニをなだめる。
私「す、すまない。それにしても私がいる場所がよくわかったな」
ルッキーニ「だって昨日私が連れてきたのもここだったから」
ルッキーニは寝転がりながら、私の膝の上に頭を乗せる。いわゆる膝枕という形だ。
私「お、おい」
ルッキーニ「やっぱり柔らかくて寝るには丁度いいかも!」
私に向かって笑顔を向ける。その笑顔は反則だ、何も言えなくなる。
少しの間私達は何も言わず、ただそのままでいた。
ルッキーニ「ねえ、お姉ちゃん」
私「わ、私か」
ルッキーニが、私を懐かしい呼び方で呼ぶ。
そういえばまだ髪をほどいていなかったことを思い出す。
ルッキーニ「あたし怖いんだ」
私「怖い?」
ルッキーニ「みんないなくなっちゃうんじゃないかって」
ふと視線をルッキーニの手へと移すと、小刻みにルッキーニの手が震えているのがわかった。
ルッキーニ「ロマーニャ守れないのも怖い、みんながいなくなるのも怖い」
我慢しているが目に涙が浮かんでいる。
ルッキーニ「怖いよお姉ちゃん」
彼女は13歳なんだ、天才など言われていても、幼い子供なんだ。
私は震える彼女の手を握る。
私「ルッキーニ、お前には仲間がいるだろう?」
ルッキーニ「うん……」
私「みんなががいなくなると思うか? 確か一度基地を乗っ取られても、戻ってきたんだろう?」
ルッキーニ「うん」
私「だったら、信じてやるんだ。危なくなったら守ってやれ。そうすればいつかロマーニャを取り返せるだろうし、誰もいなくならない」
私は敵に何を言っているんだ。
私「お前は私が守ってやる。それでも怖いか?」
いつか裏切るのに、それなのに何故
頭を撫でてやるとルッキーニはまたニッコリと笑った。
ルッキーニ「私って戦えるの?」
私「まあ、出来る範囲でな」
ルッキーニ「じゃああたしが色々と教えてあげるね」
ルッキーニが体を起こし、体を伸ばす。数回伸ばすと私の方へと体を向けた。
ルッキーニ「ね、またお姉ちゃんって呼んでいいかな」
私「……偶にならな」
ルッキーニ「お姉ちゃん!」
さっそくその偶にを使いつつ、私に抱きつくルッキーニ。
私(……守ってやる、か)
彼女達といたい私と、彼女達を殺したい私がいる。
私だって怖いさルッキーニ。
最終更新:2013年02月02日 14:23