青い海、白い雲、青い空。
潮風の匂いを感じながら、数か月ぶりにストライカーユニットを履いて空を飛ぶ。
ただ――
私「離すなよ! 絶対に離すなよ!」
ルッキーニ「ちょっ暴れないで!」
シャーリー「バランスずれてるぞー。こっちだこっち」
二人に挟まれて、手を繋いで飛行をしているのは結構悲しい。
昔は飛ばしたものなんだがなあ。
シャーリー「しっかしここまで飛べないとはな……」
しかたないだろうネウロイユニットならともかく、普通のストライカーユニットで飛ぶのは本当に久々なんだ。
ルッキーニ「うじゅ、帰ったらきちんと飛び方教えてあげる!」
ルッキーニが無い胸を前に出しながら言う。見ていて中々に微笑ましいはずだ、私が必死に手を握っている状態じゃなければ。
ネウ子の目論見通り私達はミシェルの護衛へ向かうことになった。……輸送船くらい出してくれてもいいのに。
宮藤達も大和への護衛へ向かったらしい。
他の連中は用事があるらしく、暇そうなシャーリーとルッキーニが選ばれたが、そこに強引に入れてもらった。
私は入れてくれと言った時の、ミーナの気の毒そうな表情を一生忘れないだろう。
未だにあのクッキー事件を引きずってるのか、もう許してくれよ。
シャーリー「お、見えたぞ!」
シャーリーの指さした先には、遠目からでも巨大とわかる戦艦が、こちらへと進んでくる姿があった。
ルッキーニ「おっきーい!」
段々と近づいてくる巨大な戦艦に、ルッキーニが楽しそうな声を上げる。
これがロマーニャを征服するための戦艦だと知ったらどんな表情をするのだろう。
???「501の方々ですか? こちらレーヌ・ミシェル」
突然インカムに女性の声が入る。どうやら向こうも私達に気付いたようだ。
それにしても、どこかで聞いたことのある声だ。
シャーリー「その通り、着艦したいんだがいいだろうか」
私達の中で一番階級が高いシャーリーが返事をする。
???「了解です。いつでもどうぞ」
私達は主砲前に降りる。近くで見ると更に巨大ということがわかる。シャーリーが色々と喜びそうだ。
他にも降りれそうな場所はあったが、手旗でここまで誘導されてきてしまった。
そこに待っていたのは、数十人の海兵と一人の女性。
海兵達は強風にも関わらず一切動かずに、私達を囲み敬礼を維持している。
女性は金髪で、私のように髪を束ね、白い軍服を着ていた。
女「ようこそレーヌ・ミシェルへ。イェーガー大尉」
女はシャーリーに近づくと握手を求めてきた。シャーリーもそれにこたえる。
どうやら先ほどの通信の声は彼女のようだ。
シャーリー「イェーガー大尉なんてやめてくれ、シャーリーでいい。階級もそっちが上だろう?」
クスクスと女は手を口に当て笑う。
女「資料通り気さくな人ね。わたしは女中佐、女でいいわよ」
その名前に私は懐かしい響きを感じた。
ひょっとしてこいつは――
女「ええと、貴女は確か」
ルッキーニ「ルッキーニ!」
女「そう、フランチェスカ・ルッキーニ少尉だったわね」
女は左胸のポケットを漁り、青い包装をされた小さな物をルッキーニに手渡す。
女「飴、舐める?」
ルッキーニ「うん!」
飴を受け取るとルッキーニはそれを口にすぐに運ぶ。
コロコロと口の中で飴玉を転がしながら、幸せそうな表情を浮かべた。
ルッキーニ「あまーい……ブドウ味だー」
女「喜んでくれて何よりだわ」
そして女は私を見、ハッとした表情になった。
手が震え呼吸が荒くなって、動揺が目に見えてわかる。
間違いない、こいつは――
女「私……大佐?」
私の部下だった女だ。
昔は髪も短かったし、何より身長が相当伸びているから気付かなかった。身長150前後だったはずだが、今は165くらいある。
そういえば基地を破壊する数日前、女は転属で別の基地に向かったはずだ。
私「……人違いだ、よく言われる。私は私、階級は軍曹」
よく考えればこれはあの国の作った戦艦、国が滅んだとはいえ私を知るものが一人二人いてもおかしくはない。うかつだった。
女は私のことをどこも見落とすことが無いように、じっくりと観察してくる。
女「……そのようですね。そもそもあの人は既に死んでいます」
残念そうな顔をする女。
女「私大佐の軍服は白かったですし、何より髪の色も白でした。あなたはどちらも違います」
ため息をつき一歩後ろへ下がる。
女「申し訳ありませんでした私軍曹」
私「謝らないでくれ。兵の士気にかかわる」
女は顔を上げると笑う。笑顔は変わっていないようだ。
女「そう、ですね。よろしくお願いします私軍曹」
私「よろしく」
ニコリと笑う女。
今度は右胸のポケットから飴を取り出すと、自らの口へと放り込む。
女「皆さん仕事に戻ってください!」
女の声で海兵達が敬礼を解除し、散り散りになり消えていった。
相当訓練されているようだ。
女「ではこちらへどうぞ、部屋まで案内します」
私達に背を向け歩き出す。
シャーリー「いい人だな」
ルッキーニ「だね」
そんなことを言いながら、私達は女についていった。
女「こちらになります」
女が鍵を使い扉を開く。
中はそれなりに広い部屋にベッドが2つにテーブルが一つに椅子が2つ。素直な感想を言うと相当いい部屋だ。
ロマーニャの基地の部屋に比べれば差はあるだろうが、戦艦にこんな無駄に豪華な部屋が作れるあたり、やはりあの国は技術力は無駄に高かったんだなと思う。
他の二人もそれがわかっているようで驚いた表情をしている。
シャーリー「い、いいのか? こんな部屋使って」
女「ただベッドは二つしかないのでそこは我慢していただきませんと」
私「十分すぎる。ありがとう」
ルッキーニ「ありがとう!」
女「喜んでもらえて嬉しいですわ。……ではわたしは仕事があるので失礼します。食事は食堂でどうぞ、いつでも自由に入れますので」
女が部屋から出て行くのを確認すると、シャーリーとルッキーニは素早くベッドの上に寝転がる。
シャーリー「さあどっちを!」
ルッキーニ「選ぶ!?」
どうやら私は二人のうち、どちらかと一緒に寝なければならないようだ。頭痛くなってきた。
ネウロイが来るまで私達は暇なので、食事を取ることにして食堂へと向かった。
途中シャーリーが、艦内の通路で見たことも無い装置を見ては喜んでいたが、ルッキーニと私が引っ張って行き、割とすぐについた。
シャーリー・ルッキーニ「「おー」」
食堂を見た二人が感嘆の声を上げる。既に食事を取っていた乗組員の視線が集まる。
それもそのはずで、まず食堂が広い、そして明るい。何より清潔感に溢れている。
……乗組員どこで寝てるんだ? スペースは足りるのだろうか。
私は完成時は外観しか見てなかったので、色々と驚いていたりする。
ルッキーニ「今日のご飯はカレーライスだって!」
指さした紙には今日の献立が書いてあった。よく見ると今週のメニューも載っている。
今日、カレーライス。明日、カレー南蛮。明後日カレーうどん。誰か突っ込んでくれこのカレー曜日に。誰がこんなに好きなんだ。
シャーリー「よし、じゃあ頼むとするか。ルッキーニは私と一緒に席を取っておいてくれ」
丁度私達の後ろにかかっていた時計は、もうすぐ正午を指そうとしていた。
5分もしないうちに、シャーリーはプレートにカレーライスを乗せて、私達のところへ戻ってきた。
シャーリー「いやー早かった早かった」
プレートからカレーをそれぞれ私達の前に置く。カレー独特の香辛料の香りが食欲をそそる。
ルッキーニ「いっただきまーす!」
スプーンを掴むと、カレーをライスの部分にかけて食べる。
ルッキーニ「……おいしー!」
嬉しそうな声をあげ、次々とカレーを食べていく。
美味しそうに食べるので思わず喉を鳴らす私とシャーリー。目があった私達はどちらともなく頷く。
シャーリー「わたしたちも食べるか」
私「そうだな」
シャーリー・私「「いただきます」」
ルッキーニと同じようにまず一口。
シャーリー「お、本当に美味いな」
確かに美味い。美味いが、私はこの味を知っている。
女「このカレー、わたしが作ったんですよ」
突然の声に振り向くと、いつの間にか女が私の背後に立っていた。
ルッキーニ「凄い美味しいよ!」
女「それはよかったです」
女はなぜか私の横に座る。
女「このカレーの作り方を教えてくれたのは私大佐でした」
なるほど、通りで私はこの味に覚えがあったわけだ。自分で教えたのなら当然だ。
というかお前か! カレー曜日の原因はお前か!
シャーリー「へー、私大佐って凄いんだな。なあ私」
いやなんで私に言うんだ。まあ本人だけどさ。
女「それだけじゃありません。あの人は私の憧れなんです」
ルッキーニ「憧れ?」
ご飯粒を頬に付けたルッキーニが尋ねる。私はハンカチでそれを取ってやる。
女「あの人は配属されたばかりで怯えていた私を、手とり足とり、様々なことを教えてもらいました。大佐は強くて、隊の皆から信頼されていました」
自分のことをほめられているというのは嬉しいものだと思うが、私にとっては気持ち悪い。
私にとってあの基地で起こったことは思い出したくない。
女「何より、綺麗でした。一度だけ、たった一度でしたが、あの人がネウロイを真っ二つに叩き割って出てきた瞬間、わたしは心を奪われました。
太陽に輝く白髪と、軍服、落下する姿。あんなにも美しいものがあると思いませんでした」
私は違和感を女に感じた。
ルッキーニとシャーリーは気付いていないようだが、女は一切目の焦点が合っていない。
うつろな目で私のことをひたすらにほめちぎっている。何かがおかしい。
女「大佐はしんでしまったと聞きましたがわたしは信じません信じたくありませんきっといきていますどこかで
いきていますわたしをまってくれていますいばしょがないならつくって――」
いつの間にか女は自分に言い聞かせるように、ぶつぶつと呟き始めた。
流石におかしいと思ったシャーリーが女に声をかける。
シャーリー「お、女?」
女「……っと話しすぎましたね」
女は先ほどと同じ笑顔をシャーリーに向ける。
女「それでは食事を楽しんでくださいね。おかわりは自由ですから」
立ち上がると食堂から女は出ていく。
不安そうなシャーリーと、満足げなルッキーニが対照的だった。
夜
隣の部屋にあったシャワーを浴びて戻ってくると、ルッキーニが既に一つのベッドで寝ていた。
シャーリーは椅子に座りテーブルに肘をついている。
シャーリー「おかえりー……」
私「どうした死にそうな声を出して」
尋ねるとシャーリーは机に突っ伏した。
シャーリー「だってさー……いろんな
初めて見る機械あるのにさー……ちっとも弄れないんだもん……」
私「そんなもんさ」
シャーリー「……なあ」
私「なんだ?」
シャーリー「女中佐、なんか変じゃなかったか?」
私はそれに無言で頷く。
シャーリー「それだけじゃない海兵達もだ。この戦艦に来て一度でも海兵達の声を聞いたか?」
そういえば気にもならなかったが、私も一度も聞いていない。
シャーリー「……レーヌ・ミシェル。殺戮の女王か、世界最大の宝石のついた首飾りだったな」
私「趣味の悪い名前だ」
シャーリー「本当に殺戮の矛先はネウロイに向いてるのか?」
彼女はこういう時の勘は非常に鋭い。
私「……さあ? 私にはわからない」
シャーリー「……本当に?」
こういう時の勘は、非常に鋭い。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥー!
都合よく鳴り響く警報、飛び起きるルッキーニ。
シャーリー「いくぞルッキーニ!」
ルッキーニ「私は待っててね!」
二人は部屋から飛び出していく。
さあ、ここからは私の仕事だ。
まずは屈伸運動、次に背筋を伸ばす。
普通のウィッチ達と違い私は銃を使わないので、体をよくほぐす必要がある。
私「よし」
体が温まったところで、部屋を出る。
ダァン!
突然の銃声、のけ反る体。
銃弾は顔に当ったが、魔力の込められていない武器なぞかすり傷ひとつ付けられない。
私「なるほど、気付いてたわけか」
目の前には海兵達が様々な銃を構え待機している。そのうち一つのライフルの銃口から硝煙の匂いがした。
撃った海兵の顔には恐怖が浮かんでいる。
私「こんばんは親愛なる人間」
撃った海兵に一気に近づき、両腕を掴む。
海兵1「ひっ」
私「怯えるくらいなら撃つなよ」
この間にも他の海兵達は私に銃弾を浴びせるが傷一つ付けられていない、時々コア付近に当る玉が少し痛いく
らいだ。
服に穴があいているが、面倒くさいが時間をかければ服も再生できるのでよし。
私「これ、貰うぞ」
海兵1「え……」
まずは骨の折れる鈍い音、次にブチブチと筋肉と筋が切れた音が辺りに響き渡る。
私の手には先ほどまで海兵1の腕だったもの(ライフル付き)。
一瞬の静寂、もがれた海兵は何が起きているのかわかっていないのか、きょとんとした表情で腕があった場所を見つめている。
海兵1「ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああああああ!?」
痛みがやってきたのか無い腕を交差させるように床に倒れ込む。
海兵達「「う、うわあああああああああ!」」
再び銃を発砲する海兵達。だが同士打ちはしていない。どうやら女はきちんと兵を育ててあるようだ。
腕からライフルを回収すると、通路に転がっている男の頭に向け、銃床を叩きつける。
ゴギッ
鈍い音が、発砲音の高い音の中で響く。完全に海兵1の頭は潰れていた。
しかしこの光景を見ても海兵達は逃げない。
それどころか一層攻撃の手を強め、私に向かってくる。
私「……」
銃口を握ると、6人ほどが固まって発砲しているところへと接近。
ライフルを振り上げ、水平に薙ぐと6人の首が飛んだ。
それでも逃げない。海に飛び込めば助かるかもしれないのに。逃がさないけどな。
私「いいだろう」
首から溢れる血が、軍服に降り注ぐ。
私「そんなに死にたいなら」
ネウロイとして、初めて戦ったことを思い出す。
私「……殺してやる」
頬を歪め私は笑った。
戦艦の底にある部屋の扉の前に私は立っている。
上から順に、海兵を殺しつつ女を探したが、結局どこにもいなかった。残ったのはこの扉の奥だけだ。
私「……」
扉を開くとそこは巨大な空洞が広がっていた。一体全体、この戦艦の構造はどうなっているのだろうか。
女「やっぱり来てくれたんですね大佐! 銃弾なんかで死なないとおもってました! 海兵達は命令通りに最後まで戦ってくれたみたいですね」
声のした方を向くと女がニッコリと笑いながら立っていた。
女「ああ、綺麗です。その血に濡れた姿も、ボロボロになった服も、全てが……」
体をくねらせながら左手の指を口の中へと入れ、口元からは涎がだらだらと流れている。
私「気付いてたんだな。最初から」
女「ふぁい」
私「……口から指を抜け」
女「ふぁい」
引き抜かれた指には唾液がべったりと付いている。
女「わたしが大佐のことを間違えるなんてありえません! だってわたしと大佐のこころはつながっているんです!」
手を広げ演説するように話す女。
こいつ、こんなに気持ち悪かったっけ。
私「それはないな、なら今私が考えてることを当ててみろ」
女「決まってます! はやくわたしと一緒になりたい、です!」
私「違う」
女「嘘です! 嘘つかないでください!」
髪を振り乱しながら近づいてくる。
女「わたしはたいさを愛していますだから大さもわたしをあいしているにきまってます!」
私「自分が他人と同じと思うな」
女「たいさはそんなこといわないの! あたしのすきなたいさはいわないー!」
じたばたと駄々っ子のように暴れる女。少しだけ昔の女に戻った気がした。
私「……私はお前の知ってる大佐じゃない。いや、そもそも人間ですらない」
女「えっ……」
女は暴れるのを止め私を見る。
私は軍服を脱ぐと、胸の谷間に手を入れ、そこを開く。
ネウロイの証、赤く輝くコアを女に見せた。
私「こういうことだ」
軍服のボタンを留めながら女に言う。
信じたくなかったのか呆然と女は宙を見ている。
女「そ、っか」
うつろな目で女は立ち上がり、口元を歪めた。
女「そうかそうなんだ! あの二人か! あの二人なんだ! あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
突然大声を上げ笑い始める。
女「あの二人が大佐をネウロイにしたんですね! そうですきっとそうにきまってます! だってそうじゃないときれいなたいさがきたないねうろいになるはずなんてありません!」
唾液をまき散らしながら叫ぶ。もう出会った時の優しげな面影はどこにも残っていない。
何故か胸が痛む。
女「殺せばいいんだ! あの二人を殺せばいいんだ! 殺せば大佐は元に戻るんだ!」
私「……誰を殺すって?」
女「きまってるでしょう!? シャーロットとルッキーニですよ!」
ビキィィィィン
気がつくと、私の右腕が飛んでいた。目の前には女のシールド。
きっと私は女を殴ろうとして、シールドで跳ね返されたんだろう。
女「危ないですねー大佐。わたしの固有魔法忘れました? 威力をそのまま跳ね返すシールド張れるんですよ?」
忘れてたわけじゃないさ、ただ頭が一瞬真っ白になったんだ。
腕は既に再生を終えている。
私「あの二人は関係がない」
女「大佐は優しいからだまされてるんです。まずはあの弱そうなルッキーニでも殺せば――」
ビキィィィィィン
再び飛ぶ右腕。
女「何故ですか! 何故攻撃するんですか!? わたしは大佐の為を思って……」
余計な御世話だ。有難迷惑って言葉を知らないのか、教えておけばよかったな。
私「……約束をしたからだ」
女「約束?」
私「あいつを、ルッキーニを守ると約束したからだ」
私自身の言葉だが私が一番驚いている。しかし、不思議と不快感は無い。
ただ守りたいだけ、他に意味はない。いや、持ってはいけない。
……まあ、人を殺しまくったネウロイに守られてることを知ったら、ルッキーニも私に有難迷惑と思うのだろうかな。
叫ぶのを止め女は俯く。
女「……わたしには誰もいないじゃないですか」
彼女は私が作りだしてしまった。ならば自分で始末をつけなければならない。
別に散々人を殺してきた自分が、今から彼女を殺すことを正当化するためじゃない。
だがルッキーニを守るため、お前を私という檻から解放するため――
私「私はお前を殺そう、女」
女が顔を上げ笑顔を見せる。
女「やっと、名前を呼んでくれましたね大佐」
私は女の正面へと立つ。女は何もしない。
わかっているからだ、私の攻撃が最初で最後ということを。
本当によく私の性格を知っている。
私「一分だ。一分が限度だが私はネウロイとしての全能力を攻撃力には回さず、再生に回す。腕は吹っ飛んでも
すぐに直るぞ」
女「はい」
私「お前はその間に全魔力を使ってシールドを張って耐え続けろ」
女「はい! でもいいんですか? わたしのシールド、結構持ちますよ?」
私「言ってろ。私の腕が治らなくなったらお前の勝ち、好きにしろ。治らなくなる前にシールドが割れたら私の勝ちだ」
女「ああ、どちらにせよ美味しすぎます! 大佐を好きにできるか大佐に殺されるかなんて!」
再びくねくねとよくわからない動きをする女。
……今のうちに殺しておけばよかったかな。
私「……行くぞ」
殴りかかり、シールドに右腕が吹っ飛ばされる、が構わない。既に腕は生えてきている。
同じように左腕も、しかしすぐに右腕で殴る。
殴る 殴る
私「……」
殴る 殴る 殴る 殴る
私「あああああ」
殴る 殴る 殴る 殴る 殴る 殴る 殴る 殴る
残り30秒。前に踏み込み力を込める。一歩、女が後退した。
更に前に踏み込み魔力を込める、私の幻に囚われた彼女を解き放つために
私「あああああああああああああああああああああああああああ!」
残り10秒。前に、前に前に前に! 彼女を守るためにただ前に!
私「うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
バキィィィィィィィン!!!
シールドの割れる音、一瞬だけ女の顔が見えた。
ああ、何故、何故そんな風に――
拳は女の腹部を貫いた。腕を引き抜き、床に女を寝かせる。
私「……この勝負じゃなくても、お前死ぬ気だったな」
女「いい、え、この、勝負、じゃ、なかったら、わたしは、絶対に、負けて、ました」
女「ロマー、ニャを侵略し、て、国を再興させ、ようとしたの、は」
女「きっと、いきて、いるたい、さに、あなた、のいばしょ、はここ、です、とつたえ、たかった」
言葉が出てこない、何か言ってやりたいが、苦しくて言えない。
女「で、も、たいさ、には、もう、いばしょが、あるとしった、らせめ、て、ころし、てわたしの、ものに……」
女が笑う。口から血を吐きながらも必死に笑う。
女「しっぱ、い、しちゃい、ました、けど、すきなひとに、ころさ、れるなら、まんぞく、です」
最後の力を振り絞って、震える手で自分の右胸のポケットを指さす。
女「こ、れ、おかえし、しま、す」
魔力が消えた。苦しいに決まってるはずなのに、笑顔で女は死んだ。
女の右胸ポケットを探ると、指先に小さな物が当った。
つまみあげてみるとそれは紫色をした包みに包まれた物体。
私「……馬鹿だなお前は。こんなのを大事に取ってたのか」
あーアレだ、転属って聞いたのが今日だったからな、特に何も用意できなかったんだ……そうだ、これもってくといい
これは?
飴だ、しかも時間がたっても痛まないし濡れても溶けない優れ物、私の好きなブドウ味。
私「馬鹿だよ、お前」
包みを開けると白い球体が姿を現す。それを口の中へ運ぶと、私の好きな味が口に広がった。
血で濡れても溶けない、互いの姿が変わるほど時間がたっても痛まない。本当に優れ物だ。
飴を舐め終わると、タイミング良くネウロイの気配が消えた。どうやら戦いは二人の勝利で終わったようだ。
二人が帰ってくる前にどうにかして戦艦を沈めなければ。
あの人がネウロイを真っ二つに叩き割って出てきた瞬間、わたしは心を奪われました
ふいに女の言葉がよみがえる。……別に派手でかっこいい技じゃないんだぞ?
かつて戦艦型ネウロイが現れた際に一度、そして基地を破壊した時に一度、これが三度目、あの国と私を繋ぐ、最後の鎖を断つため。
私「そういえば、この技はお前が名づけたんだったな」
女の死体を一瞥する。揺れで少しだけ女の死体が動いたように見えた。
黒く、硬く、右足をネウロイ化させる。魔力を右足に全て込め、固有魔法を右足に集中させる。
私「……ふぅ」
一度呼吸を整え、右足を垂直にあげる。ズボンが丸見えだが気にしない。
放つまでに時間がかかり、足が折れる心配が人間の時はあったが、今なら全力で放てる。
垂直にあげた足を、歯を食いしばり、踵から肉体強化を使い一気に床にたたきつける!
私「断艦」
呟やいた声は、轟音と共にかき消された。
海の中に放り出された私は、吹っ飛んだ右足の修復をしながら、真っ二つに割れて沈むレーヌ・ミシェルを眺めている。
割れたところから、海兵達の死体や武器が海底へと沈んて行く。
ここの水深は深い。彼女が、殺戮の女王が歴史の表舞台に出てくることは二度とないだろう。
再生を終え海面に上がると、ルッキーニ達が私を探す声が聞える。
幸いにも満月だったので私はすぐに発見してもらえた。
ルッキーニ「生きててよかった……他の人は!?」
私「……ネウロイにやられた。気付かないうちに小さなネウロイが艦内に入りこんでいたんだ」
シャーリー「そうか……女中佐は?」
私「私を庇って……」
ルッキーニ「うじゅ……」
レーヌ・ミシェルがロマーニャを征服するというのは幻と消えた。あるのはただ、乗組員達が勇敢に戦って死
んだという事実だけ。
シャーリー「……帰ろう」
ルッキーニ「私、つかまって」
差し伸べられた2つの手を私は掴む。ほんの少しだけ、女の気持ちが理解できた気がした。
最終更新:2013年02月02日 14:24