ベッドの上に寝転がり、ぬいぐるみを抱きしめながら目を閉じる。
 気分が悪い。
 吐き気がするという訳ではなく、胸のつかえがスッキリしない。

私「なぜなんだろうな」

 ぬいぐるみになんとなく呟いてみる。
 気分が悪いのはこの間レーヌ・ミシェルを沈めてからずっと。
 いや、正確には女を殺してからだ。今でも彼女の体を貫いた感覚は覚えている。
 自分を捨てた国は、軍はあの戦艦で全て消えたはずなのに、喜ぶべきはずなのに。
 わけがわからない。どうしてこんなに苦しいんだ。

 軍人を殺す。それが私の復讐。
 実際言葉通りにいくつか基地を破壊し、ウィッチ達を殺してきた。
 それがこの基地にやってきて、ルッキーニ達に出会って変わってきている。
 少しずつ、私が私でなくなっていくようなそんな感覚。女を殺したとき、更にその感覚は大きくなった。
 昔の私なら基地に来た瞬間襲っていただろうに。



 ため息を一つつく。
 誰かがため息をつくと寿命が縮むと言っていたが、ネウロイには関係ない。これからもいくらでもついてやる。

 トントン

 そんな意味のわからない決意表明をした時、扉をノックする音。

私「誰だ?」

宮藤「私さん……」

 宮藤の心配そうな声。

宮藤「あの、晩御飯は……」

私「いや今日は遠慮しておこう」

宮藤「でも朝から私さん何も食べてないんじゃ」

私「二日は食べなくてもいいように鍛えられてる。今日はその勘を取り戻す日だ」

 もちろん嘘。
 これは私の問題であって、彼女に心配させる必要はない。


宮藤「そうですか……」

私「すまないな」

宮藤「いえいいんです。頑張ってください」

 宮藤の足音が扉の前から遠ざかってゆく。
 離れたのを確認するとベッドの上で腹を押さえて丸まってみる。

私「うぐぅ……」

 本当はかなり空腹だったりする。だが食べれる気がしない。
 胸やけのような感覚が私の中で渦巻いて、形を変えながらせりあがってきている。
 起きあがり背筋を伸ばす。ぽきぽきと無い骨が何故か鳴る。

私「気分変えるか……」

 気分を変えるには……そうだな、風呂にでも行こうか。確か、もう殆ど先にはいったはずで誰もいないだろう。
 少しでも気分が晴れるようにと願いながら、部屋の扉を開いた。




 サウナ内


 風呂に入り汗を流そうと思ったが水がもったいない。
 ならば同じ汗を流すならサウナの方がいいと思いサウナ内に籠ってみる。
 息をするたびに熱い空気が口内に入ってくる。

私「汗は出るんだよな一応」

 マナー違反かもしれないが、巻いておいたタオルが重くなっている。
 体の重要な部分は大体コアと一体化したとはいえ、ある程度はまだ生きているようだ。
 腕を伝う水滴を、腕を顔の近くまで寄せて舌先で舐めてみる。
 うんショッパイ。間違いなく汗だ。

私「ふぅ……」

 安堵のため息をつく。
 そして疑問に思う。何故私は汗をかいたことに安堵したのだろうか。
 元がつくが人間として、これ以上人間離れはしたくないとどこかで思っているのだろうか。
 モヤモヤが再び胸に溢れる。気分転換に来たのに来た意味が無いじゃないか。

???「うわあっついなやっぱり」

 項垂れていた私は突然の来訪者に顔を上げる。
 シャーリーが何故かサウナにやってきた。しかもタオル一枚巻かずに。

シャーリー「やっぱりここだった。どこにもいなかったから、風呂かこことは思ってたけど」

私「そ、そんなことはいいから早く隠せ! タオルの一枚くらい持ってきてるだろう!?」

 慌てて眼を伏せるがばっちりと色々みてしまった。
 サウナの暑さに加え自分の頬が更に紅潮して熱くなっていく。

シャーリー「関係ないだろー? 女同士なんだしさ」

私「た、確かにそれはそうだが……」

 じゃあ問題ないな、とシャーリーは私の隣に座る。
 勢いよく座ったのでシャーリーの胸が揺れた。

私「……」

 私も胸はそれなりに大きい方だがやはりシャーリーの方が大きい。
 思わずその胸に視線が向かってしまう。

シャーリー「お、ルッキーニのおっぱい病がうつったか?」

 視線に気づいたシャーリーがニヤニヤと笑う。

私「違う」

シャーリー「いいんだぞー? 揉んでも舐めても挟んでも」

私「……馬鹿言うな」

 シャーリーは自らの手で胸を上下に揺らす。
 そもそも何を挟めというんだ。ナニか、ナニなのか、生えないからな念の為言っておくが。
 というよりも処女だろお前乙女がそんなこと言うんじゃない。

シャーリー「冗談だって。私だって胸の大きさそんなに変わらないじゃないか」

 ちらりとシャーリーが流し目で私の胸を見てくる。
 こういう時、見られた側はバレバレだと聞くが実際よくわかる。

私「身長があるからそこまで大きくないさ」

シャーリー「なあ、百聞は一見にしかずって扶桑のことわざ知ってるか?」

私「ああ」

 シャーリーが二ヤリと笑う。
 嫌な予感。私はこの笑みを知っている。
 そうだこれは――

シャーリー「わかってるなら話は早い。胸揉ませてくれってことだ」

 やっぱりか! 宮藤やルッキーニと同じ笑みだと思ったよ!

シャーリー「ふふふ冗談だよ」

私「いや目は本気だったぞ」

 完全に獲物を狙う鷹の目でした本当にありがとうございます。


シャーリー「なあ」

私「なんだ?」

シャーリー「あまり皆に心配かけるなよ?」

私「別に心配をかけてるようなつもりは……」

 そこまで言って、今日は食事を取らず部屋に引きこもりっぱなしだった事を思い出す。
 別にそこまで心配されるようなことではないと思うが、この基地の連中と私とは少しずれているのかもしれない。

私「一日食事を取らなかっただけだぞ?」

 そう言うとシャーリーは呆れたようにため息をついた。

シャーリー「お前はそうかもしれないけど、あたし達にとってはとても心配なんだ」

私「あたし達?」

シャーリー「ああ。私も、あたし達の仲間だからな」

 その言葉に複雑な気分になる。
 仲間として認められたということは、今正体を明かせば彼女達のショックは相当なものだろう。
 ただ私の中に、『私』は仲間を裏切りたくないという感情もある。

私「……ありがとう」

 私はただ俯いたまま感謝の言葉を言うことしかできなかった。

シャーリー「いいっていいって。代わりに胸揉ませてくれればそれで」

私「駄目に決まってるだろう。全く」

シャーリー「お、やっと笑ったな。」

私「え?」

 頬に手をやると緩んでいるのがわかる。
 何時の間に私は笑っていたのだろう。

シャーリー「そうそうそれでいいんだ。作り笑いなんかつまらないだろう?」

 シャーリーは私の左肩に左腕を回し上半身を引き寄せる。
 右ひじがシャーリーの柔らかな胸に当り、右肩の上にシャーリーが顎を乗せる。

シャーリー「まあ、これからもよろしくな私」

私「……ああ」

 再び私は頬を緩ませ、その言葉を確かめるように頷いた。

シャーリー「ところで髪結んだままでいいのか?」

私「忘れてただけだ。気にするな」



 サウナから出て一緒にシャワーを浴びると、私とシャーリーはわかれた。
 少しだけ気分がよくなった私は部屋へ戻る。

私「む」

 ドアノブに手をかけると部屋の中に人の気配を感じた。
 もしかしたら泥棒かもしれない。
 無いとは思うが念の為ゆっくりとドアノブを回し、扉を静かに開き部屋の中を覗き込む。

私「……ルッキーニ?」

 テーブル横の椅子の上に座り、足をぶらぶらとさせながら、頬づえをついて暇そうにしているルッキーニがいた。
 他には誰もいない。どうやらルッキーニだけのようだ。
 扉を開くとルッキーニがこちらに気づく。

ルッキーニ「おかえりー遅いよー」

私「何してるんだ?」

ルッキーニ「ほら早く早く」

 椅子から降りると私の右手を掴んでテーブルへ。


 互いが向かい合うように椅子に座る。
 覗いた時はルッキーニばかりに視線がいって気付かなかったが、テーブルの上には皿に入った白いモノ。確か扶桑の粥という料理だったはずだ。

私「これは?」 

ルッキーニ「えへへ。私が元気ないみたいだから、あたしが作ってみたんだ。ちょっといろんな人に手伝ってもらったけど」

私「ルッキーニが!?」

ルッキーニ「芳佳とか少佐から聞いて、元気のない時はこういうのが一番いいって」

 粥の中には確か梅干しと呼ばれるものと、なにやら魚がのっている。
 ふとルッキーニの手を見ると絆創膏が貼られていたり、皮膚が赤くなっていた。

私「それ、ひょっとして」

ルッキーニ「あ、だいじょぶだいじょぶ。珍しい魚を捌いたり作り慣れてない料理だとよくあることだよ」

 私はルッキーニの腕を少し強引に引き寄せ、彼女の手に触れる。

私「……すまないな」

 彼女の手は小さかったがとても柔らかくて、何より暖かかった。 

ルッキーニ「気にしなくていいからほら、早く食べて食べて!」

私「そうだな。じゃあ食べさせてもらおうかな」

 手を離し、テーブルの上に置かれたスプーンを手に取る。
 頂きますというのも忘れない。
 まずは何ものっていない真っ白な部分を食べてみる。

私「うん。丁度いい塩味だ」

ルッキーニ「ほんと!?」

私「ああ、美味しいぞ」

 次に梅干しをスプーンの先でほぐし、白い粥と混ぜるとほんのり粥が紅く染まる。
 種を口に含んで、種についた果肉も味わう。慣れない酸っぱさだが嫌いじゃない。
 そして最後に残ったみなれない魚。細身の魚なのか、開いてのせたようだ。

ルッキーニ「それ途中から坂本少佐が捌いてくれたんだ。ウナギって魚だって」

 ウナギ、確か扶桑では夏に体力をつけて食べるとか。
 焼かれたウナギをスプーンの先で切り、一口の大きさにして梅干しの果肉と一緒に食べる。


私「美味いな」

 扶桑ではウナギと梅干しは一緒に食べてはいけないそうだが、別にネウロイには関係ない。
 何よりせっかく作ってくれたものを残すなんてバチが当たる。
 そのまま食べ進め、20分ほどで食べ終わる。

私「御馳走様」

ルッキーニ「どうだった?」

私「美味しかったよ。少し調子も戻ってきた」

ルッキーニ「よかったー!」

 まるで自分のことのようにルッキーニは喜ぶ。
 その笑顔は反則だ。眩しすぎるので視線をそらす。
 そらした先の時計を見ると、もう夜も遅い。私はともかくルッキーニは早く寝させなければ。

私「今日は遅いからもう寝たほうがいいぞ。睡眠不足は成長にかかわる」

ルッキーニ「うじゅっ!? わ、わかった早く寝る!」

 そう言うと何故か私のベッドに潜り込む。
 そして布団にくるまるとルッキーニは目を閉じる。

私「……はっ!」

 あまりにも自然にベッド入るので、ツッコミを入れることを忘れてしまった。

私「おいルッキーニどうして布団の中に潜り込むんだ」

ルッキーニ「だって私が早く寝ろって」

私「いや、まあ確かに言ったが」

ルッキーニ「ね、一緒に寝よ?」

 ルッキーニが笑う。
 駄目だな。どうもこの笑顔には弱い。
 この笑顔さえ見なければ、妙な感情に苦しまなくても済んだのに。

私「……今日だけだからな」

ルッキーニ「えへへ」

 ベッドの中に入ると、ルッキーニが抱きついてきた。
 このベッドは二人で寝る分には少し小さいので、きっとはみ出さないように抱きしめているのだろう。多分。

私(ぐぬぬ……)

 目を瞑り寝ようとするが、どうにもこうにも色々と気になって眠れない。
 まあ主にルッキーニのことだが。
 心なしか胸の辺りに込める力が強いような気がする。

 密着しているので、ルッキーニの体温と心臓の鼓動が体に感じる。

ルッキーニ「ね、私」

私「なんだ?」

ルッキーニ「私の体、すっごいあったかい」

私「……そうか」

 暖かい、か。
 なんとなく嬉しいようでどこか虚しい。
 体に流れる血は存在せず、ただコアがあるだけ。
 体温があったとしても私は人間ではない。彼女達が、人間達が忌み嫌うネウロイなのだ。

私「なあ、ルッキー……」

 何かを言おうとしてやめる。
 何時の間に寝たのか、ルッキーニは寝息を立てて気持ちよさそうに寝ていた。

私「……確かに早く寝てるな」

 安らかな寝顔に笑みを浮かべる。
 動かせる方の腕で髪をそっと撫でてやると、くすぐったそうな表情を浮かべてまた寝息を立てる。
 その寝顔を見ながら思う。
 私はただの人形ならよかった。感情も何もいらず、ただ復讐だけをこなす人形ならばよかったと。
 人形ならこんなモヤモヤした気分にもならなかっただろう。

 ここの基地の彼女達は私を知っている。私のことを仲間だと言ってくれている。
 裏切った時、彼女達はどんな表情をするのだろう。
 殺した時どれだけのもやもやが私の中に押し寄せるのだろう。

ルッキーニ「……うじゅ」

 寝言でルッキーニが何か言っている。
 耳を澄ませてそれを聞きとる。

ルッキーニ「ずっと……一緒……私……うじゅ……」

 その言葉を聞いた瞬間、思わずルッキーニを抱きしめ返す。
 どうしようもない感情の高まり共に体温が上昇していくのがわかる。

私「……おやすみ。ルッキーニ」

 呟いて私も目を瞑る。
 暖かなルッキーニからは、ほんのりと太陽の匂いがした気がした。
最終更新:2013年02月02日 14:24