平和すぎて欠伸が出そうな午後だ。箒で廊下を掃きながら思う。
ここ数週間ネウロイの接近も無く、基地中を掃除して回ったり、訓練を眺めるだけで時間が過ぎていった。
私「どうしたんだあいつは」
ここ数週間ネウ子からの連絡が全くない。
普段なら自称人間観察という名のネウロイ襲来と一緒にテレパシーを飛ばしてくるはずなんだが。
私「別に心配してるわけじゃないぞ……本当だぞ」
誰もいないのになんとなく呟いてみる。ちょっとだけ恥ずかしくなった。
私「うわっ!?」
突然背中に重さを感じて驚いた声を出してしまった。
???「えへへ、誰でしょう!」
声の主は楽しそうに尋ねてくる。
私「……楽しいかルッキーニ」
ルッキーニ「せいかーい!」
背中から重さが消え、床にストンと靴が下りる音がした。
振り向くと八重歯を見せながらほほ笑むルッキーニの姿があった。
ルッキーニ「ねーねーどこであたしってわかった?」
私「胸が無いから一発でわかった」
ルッキーニ「こ、これからだもん! 私みたいにもっと大きくなるもん!」
勿論胸でわかった訳じゃないが、どうやら本気でそう思われたらしく、自分の胸を触りながらルッキーニは頬を膨らませた。
私「何か用か?」
ルッキーニ「うじゅっそうだこれこれ!」
ゴソゴソとルッキーニが袖の中から黒い何かを取り出す。
私「これは……封筒だよな。中に手紙が入ってるのか?」
ルッキーニ「多分。ミーナ隊長が私宛だから渡しておいてくれって」
ルッキーニから封筒を受け取り封筒を眺める。
不気味なくらい真っ黒な封筒には、白い文字で『私様へ』と書かれている。
妙に字がカクカクとしているのが気になるが、それより私に手紙なんて送る奴は一体誰だろう。
場合によってはこの送り主を消さなければならない。
封筒の上の部分を破り中を覗き込む。
やはり手紙のようだがこれまた真っ黒な紙だ。
念の為指先で慎重に持ち上げ、折りたたまれていた手紙を開く。
私「……」
ああそうだ、よく考えれば私に手紙送る奴なんて一人、いや一体しかいなかった。
通りでカクカクした字だと思ったよ。というか字書けたんだなアイツ。
ルッキーニ「どうしたの?」
手紙を覗き込もうとするルッキーニから慌てて手紙を隠す。
私「い、いやなんでもない大したことじゃない」
手紙を軍服の胸ポケットに入れながら誤魔化す。
ルッキーニは少し怪しそうな視線をこちらへ向け、手をポンと叩いた。
ルッキーニ「ラブレターだ!」
どうしてそんな考えになる。これが年頃の少女の考えなのだろうか。
私「ち、違う!」
ルッキーニ「じゃあ何なにナニー?」
私「あー、その、知り合いが用事があるから来てほしいだそうだ」
嘘は言っていない。
今から行けば恐らく明日の朝には帰れるだろう。
ルッキーニ「そっかー……。お掃除終わったら一緒にお風呂入ろうと思ったのにな」
残念そうな顔をするルッキーニの頭を左手で撫でる。
ルッキーニ「うん!」
再びルッキーニは八重歯を見せてわらった。
ネウロイの巣 通路っぽい場所
手紙の差出人はネウ子だった。
内容は
ネウ子キトク スグカエレ ネウ子
相変わらず訳のわからない内容だったが、ここ数週間姿を見せていないことから、万が一があるかもしれない。
なのでミーナから許可を得て、ストライカーユニットを貸してもらい巣までやってきた。
数か月ぶりの巣は瘴気に懐かしさを感じるが同時に妙な感覚も。
私「……何か違和感があるような」
壁も天井も真っ黒な道を歩きながら思う。
床は中心部への道を示しているかのように、赤い光の細い線が先へと進んでいる。
……あ……さ……か……
あああ……く……す………
私「ん?」
コアのある部屋の方から、言葉にならないノイズのようなテレパシーが聞えてくる。
声はネウ子のようだがどうもおかしい。
コアの部屋へと向かう足は自然と速くなった。
コアのある部屋にたどり着くと、当然ながら目の前には巨大なコア。
どこも変わってないと安心して上を見上げると――
私「え?」
簡単に言うと映像があった。それも天井360度全てが映写機で映されているように。
その映像にはミーナと坂本が一緒に話をしていたり、バルクホルンがハルトマンを叱っていたりと、恐らく今起こっていることが映し出されている。
ネウ子(美緒!美緒!美緒!うわああああああああああああああああああああああん! くんかくんか! 美緒たんとコアレベルで同化したいよおおおおおお!)
そしてその映像を見ながら空中で悶えるネウ子。頭痛が痛い。
普段なら近づいて頭を殴りつけてやるところだがそんな気も失せた。
結局ネウ子が私の存在に気付いたのは約一時間後だった。
気付いた時慌てて上の映像を消していた。
ネウ子(や、やあ娘ヨ。失うことの耐えがたき痛みにもう慣れたかい?)
私「何か言うことは? あと誰が娘だ」
ネウ子(き、気の迷いなんだヨ! ボクはキミ一筋だヨ! というかキミ帰ってくるの早いヨ!)
距離を一気に詰めて私に抱きついて頬ずりする。
私「あの映像はなんだ」
毎度のことなので特に気にせずに尋ねる。
ネウ子(あの基地にキミが探知できないような超小型ネウロイを数匹侵入させて赤裸々な生活を見て楽し……人間観察だヨ)
私「帰ったら駆除しておくからな」
ネウ子(いいもんそしたらまた作り直すから)
ネウ子は腰に手を当て胸を前に出す。
私はため息をつきながら巨大なネウ子のコアに触れると目を瞑りコアに集中する。
私「6機か結構な数作ったな。戦闘能力は無し、本当にただの偵察用か……」
ネウ子(らめえええボクの中をのぞかないでえええええ)
私もネウロイなのでコアの記録を取り出すことは一応できる。
偵察用のネウロイの情報は覚えた。これでネウ子が偵察用のネウロイを作ってもすぐに探知、破壊ができる。
私「まさかこのネウロイを作るために数週間来なかったとかじゃないだろうな」
ネウ子(ひょっとして気付いてない?)
少し馬鹿にしたような声でネウ子が言う。
私「何がだ?」
ネウ子(ほら、ヨーく探知してみて)
言われるがまま集中して周辺を探知する。
しかしどこにもネウロイの反応はない。
私「私の探知できる範囲を超えているようだが……」
ネウ子(もー仕方がないなぁ)
ネウ子が指をならすと、壁に映像が映し出された。
雪国なのか地面は真っ白なのだが、中央に棒のような黒い物体。
長い……長いというか、長すぎる。辺りに山がちらほら見えるが、黒い物体だけ拡大図を見ているのではないかと思うほど小さく見える。
私「まさか」
ネウ子(そう。以前倒されたネウロイを強化して作り直してみたんだ)
私「……何メートルあるんだこいつ」
ネウ子「えーとね。44444メートルってとこかな」
規格外もいいところだ。
強化と言っていたから以前はこれより低かったのだろうが……。
ネウ子(今いる場所はこっから約4000キロくらい離れた所。知り合いのネウロイに頼んで置いて貰ってる。維持はボクがやってるけどね)
私「なんでこっちに置かないんだ?」
ネウ子(正直言うと強く作りすぎたんだ。だからボクが人間観察に飽きて、もういいやって思ったら動かすつもり)
私「なるほど……ところで、このネウロイ意思を持ったりしないのか?」
ネウロイの巣から生み出されるネウロイは大体は巣の本体が操縦をしている。
しかし操作の範囲外になって一定時間が経過すると、自我を得て自由に動き回り攻撃したり巣を作ったりするらしい。
これは私がネウロイになり、目覚めた時にコアに刻まれていた記憶なので本当かは知らない。
ネウ子(ないない! あったらボク、キミの部屋までいって扶桑式謝罪方法を披露してあげるヨ!)
小馬鹿にしたような声でネウ子は言う。
なんとなく私は嫌な予感がしたが気にしないことにした。責任はこいつが取るだろう……多分。
私「ところでなぜ私を呼んだんだ? わざわざ手紙なんか送って」
ネウ子(あ、思い出した! ねえ、これあげる!)
パン、とネウ子が手をならすと私の目の前に機械のようなものが現れた。
尖った杭が機械の先端に取り付けられている。
私「これは……杭打ち機?」
ネウ子(せいかーい! ついでに作ってみたんだ)
私「それはありがたいが大きすぎないか?」
金属製の杭部分だけでも私と同じほどの大きさだ。
脇に抱えて使えば何とかなるか。
ネウ子(ねえ私。ボク達はネウロイだヨ?」
私「ああそれがどうした」
ネウ子(吸収すればいいじゃないか。杭部分だけでも右腕に取り込んでおけば何かに使えるかも)
言われるまま杭を取り外し右腕で杭の根元部分を握る。
まだ体内からの吸収はできないが体外からなら吸収はできる。
私「ん……っ」
右腕と杭が黒く染まり、杭が溶けるように私の腕へ吸収されていく。
私「はぁ……」
久しぶりにやるが、あまり気分のいいものじゃないなとため息をつく。
ネウ子(お疲れ様ー。これが本番、今度はこれ背負ってみてヨ)
ネウ子が手渡してきたのは扶桑刀。これは大体坂本の烈風丸と同じくらいだ。
鞘から刀を抜いてみると、形は普通の扶桑刀だが刃部分が緑色に光っている。
ネウ子(瘴気を刃にまとわせてみたヨ。抜くだけなら辺りにはまき散らさないから)
こんな技術どこで手に入れたか不安に思いながら、刀を鞘に戻し背負う。
ネウ子(んで今度はこの眼帯をかけて、ポニーテールの位置をもう少し上に……)
私「あ、こらやめろ!」
私の許可なく勝手に眼帯やら髪を勝手に整えていく。
ネウ子(できた! 坂本美緒の真似!)
どこから取り出したのか鏡を私の前に置く。
私「……まさか本当はこれをやらせるために呼んだんじゃないだろうな」
ネウ子(やっぱり黒髪にして正解だった。でも服は失敗だったなー白のままにしておけばよかったヨ」
私「おい話を聞け」
ネウ子(じゃあ今度はルッキーニの真似を……)
プッツン
そこから先の記憶があまりないが、気がつくとネウ子がひたすら私に謝っていた。
早く帰ってルッキーニと一緒に風呂に入ろう。
謝り続けるネウ子を見つつ、扶桑刀を吸収しながら私は決めた。
最終更新:2013年02月02日 14:25