ある晴れた日のこと魔法以上の愉快な、いや非常に不愉快な出来事が、私に限りなく降り注いでいた。
ニヤニヤしながらルッキーニが私に一着の服を手渡す。
隣にいたサーニャにはエイラがやたらフリルがついた服を手渡していた。
私「……本当に着なきゃならないのか?」
ルッキーニ「勿論!」
罰ゲームというのは先ほどやったジェンガのことだ。
宮藤・ルッキーニ組 シャーリー・エイラ組 私・サーニャ組と分かれ一人ずつ交互にブロックを抜いて、私達が負けた。
エイラ「さ、サーニャの服は宮藤が選んだんだからナー。わ、わたしはアドバイスしただけなんだからナー」
宮藤「エイラさん何言ってるんですか。エイラさんが率先して……」
エイラ「わーわーわーわー!」
エイラが宮藤の口を塞ぐ。
一体どんな服を選んだのだろうか。
ルッキーニ「私の服はあたしとシャーリーで選んだんだよ!」
服に視線を向けながらルッキーニが笑う。
ルッキーニだけなら不安だがシャーリーも選んだとなると結構まともな――
シャーリー「その服を私が着たら笑う自信がある」
前言撤回。
真顔で言いきった。不安しか感じない。
私「こやつめははは」
何か言ってやろうと思ったが乾いた笑いしか出てこなかった。
ルッキーニ「そろそろ着替えてきてよー」
シャーリー「着替える部屋は私の部屋でいいな。あたしたち食堂で待ってるからさ」
シャーリー達は部屋から出て行った。
残された私達はどちらともなく私の部屋へと向かった。
私の部屋
手渡された服を見て息をつく。
どうみても黒一色のスーツです本当にありがとうございました。
私「……しかも男物だこれ」
男用のズボンが一緒についてきている。
どうやらズボンの上にズボンを履くことになるようだ。
私「サーニャはどんな服だ?」
サーニャ「あ、あの……」
私「おおう……」
既にサーニャは服を着終わったようで、恥ずかしそうな表情をして椅子に座っていた。
そんなサーニャの着ていた服は……所謂メイド服。
表現方法はありきたりだが、とにかく似合っているとしか言えない。
ストッキングを脱がないあたりその辺に拘りを感じる。
私「に、似合ってるな」
サーニャ「あ、ありがとうございます……」
相当恥ずかしいようで、顔を赤らめ消えそうな声で言う。
サーニャばかりに恥ずかしい思いをさせるわけにもいかないので、私も早く着替えることにする。
スーツの上を着ようと広げた時、スーツの袖から何かが落ちた。
私「ん?」
サーニャ「あ、私さん何か落ちましたよ?」
サーニャが拾ったのは一枚の小さな紙。
それを受け取り、書いてある文字を見る。
私「……」
思わず数回内容を確認する。しかし当然ながら内容は覆らない。
サーニャ「ど、どうしたんですか?」
私「いや、ここまでやる必要は一体どこにあるのかなって思っただけだ……」
苦笑いを浮かべながら立ち上がり、スーツの下のポケットに入れられていた包帯を取り出す。
私「……サーニャ、縛ってくれ」
何故かみるみるうちにサーニャの顔が赤くなっていく。
不思議に思いながら私はサーニャに包帯を手渡した。
台所へ続く廊下
珍妙な格好をした私達二人は並んで食堂へと向かっている。
普段ズボン以外に下は履かないので、男用のズボンを履いていると違和感がある。
スースーはしない分寒い所にいく分にはいいのかもしれないが。
サーニャ「あ、あのさっきはすいません……」
私の右側を歩きながらサーニャが私に頭を下げる。
私「いや私も言葉が足りなかった。胸を包帯で縛ってくれと言うべきだったな」
紙には胸に包帯巻いて小さくして着てほしいと書かれていた。
包帯をかなりの回数胸に巻いたので、少々ふくらみが見える程度まで収まった。
私「……次は勝つぞ。そしてシャーリーとエイラにそれぞれ恥ずかしい服を着させてやるんだ」
サーニャ「は、はい!」
私「その意気だ……っとついたな」
食堂の入口の前に立ち、二人で深呼吸をする。
互いに顔を見合わせた後同時に食堂の中へと入った。
私・サーニャ「「ご注文はありませんかお嬢様方!」」
入ると同時に一緒に頭を下げる。
???「それはひょっとしてギャグでやっているのか?」
顔を上げるとバルクホルンが腕組みをして私達の前に立っていた。
後ろの方でシャーリーとルッキーニ、そしてハルトマンが笑いをこらえて口に手を当てている。
ペリーヌは複雑な表情で私を見ながら紅茶を飲む。
宮藤はリーネと一緒に皿を洗っていた。
バルクホルン「もう一度聞いておこう。それはひょっとしてギャグでやっているのか?」
私「やめてくれ繰り返さないでくれ恥ずかしいだけだから」
サーニャ「うう……」
エイラ「さ、サーニャかわいいんダナ!」
宮藤「流石エイラさんが選んだだけありますねー」
エイラ「もっとホメロー」
サーニャ「……やっぱりエイラが選んだんだ」
エイラ「ああサーニャァァァー!」
エイラがサーニャに必死に弁解をしているのを苦笑いを浮かべながら眺める。
なんとなくだが軍人でないころを思い出したような気がする。
ルッキーニ「うじゅー……」
視線を感じて振り向くと、ボーっとして私を見るルッキーニ。
目の前で手を叩いてみると驚いて声を上げた。
私「どうした?」
ルッキーニ「あ、えーとね。似合ってるから」
シャーリー「というより似合いすぎだ。笑ってやるつもりが笑えないほど似合ってる」
私「……褒め言葉なのか?」
シャーリー「疑うなよー」
ルッキーニが私に近づいてくる。
何をする気かと思っていると、突然私の胸を両手で。
が、すぐに不満そうな表情で手を離す。
私「今サラシ巻いてるから柔らかくないだろ」
ルッキーニ「うじゅあー!」
シャーリー「なんだ本当に巻いてきたのか。冗談のつもりだったのに」
ルッキーニ「なんでおっぱいを邪魔するのシャーリー!」
シャーリー「せっかくの男物の服なんだから胸があったら違和感あるだろ?」
ルッキーニ「うじゅあああああああー!」
ぽかぽかとルッキーニがシャーリーの胸を叩く。
叩くたびにシャーリーの胸が揺れているが、わざとやっているのかどうかは知らないが叩くたびに満足そうな顔になっていく。
じゃれあう二人の姿に何故か嫉妬心の様なものを覚える。
一体何に嫉妬する必要があるというのか。
私(……むぅ)
シャーリー「こらこらルッキーニその辺にしておけよ。私が羨ましそうな顔でこっち見てるぞ」
私「んなっ!?」
いきなり話を振られ戸惑う。
それを楽しむように二人はニヤニヤとこちらを見てくる。
ルッキーニ「なになにー? 私も触ってもらいたいの?」
私「ち、違う違う!」
慌てて首を左右に振る。
シャーリー「遠慮するなよー」
ルッキーニ「そうそうおっぱいも窮屈だろうしさ! 邪魔な包帯を取っちゃおうよ!」
ジリジリと二人が手を何かを揉むように動かしながら近づいてくる。
悪いことをたくらんでいるような表情をしている。
思わず後ろに下がると、何かが背中にぶつかった。
壁はこんなに近くになかったはずだ。
じゃあ一体何にぶつかったのか、首を回して背後を見る。
エーリカ「ほらほら遠慮しない」
私「ハルトマンなぜあの二人に手を貸す!」
エーリカ「楽しそうだから」
またか! 前回は宮藤だったが今度はハルトマンが敵か! オノーレ!
振りほどこうと前を向いた瞬間、二つの影が私に飛びかかってきていた。
この間と同じようにシャーリーとルッキーニが正座している。
ハルトマンは私が色々とされているうちに逃げてしまった。
私「バルクホルン頼みがあるんだが」
バルクホルン「……ハルトマンはわたしから言っておこう」
私「助かる」
バルクホルンにハルトマンの事を頼むと二人の目の前に立つ。
私「今後はしないように」
多分無理だろうなと自分で思いつつ二人を解放する。
サーニャ「ふふふ」
私「どうしたサーニャ」
サーニャ「いえ、私さん達を見てると仲のいい家族みたいです」
私「いやそれはない」
きっぱりと否定する。
シャーリー「お、あたしが妻で私がダンナさんか!」
ルッキーニ「それであたしが子供だよね!」
サーニャに近寄る二人。
しかしサーニャは首を横に振った。嫌な予感がする。
サーニャ「いえ私さんがお母様で、シャーリーさんがお父様です」
どうしてそうなった!
心の中で叫ぶ私。そして再びいやな予感。
おいそこの二人どうしてこっちを見ている。サーニャの話を聞いてたんじゃないのか。
またジリジリと近づいてくるこっちにくるんじゃない。
シャーリー「そうかー私がダンナ役かー」
ルッキーニ「じゃあ仕方ないよねー」
私「な、何が仕方ないんだ?」
苦笑いを浮かべつつ、出口へと後ずさりする。
シャーリー「旦那なら胸を堪能する義務があるー!」
ルッキーニ「子供なら甘える義務があるー!」
私「うわあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!」
廊下
襲いかかってくる二人から私は全力で逃げた。
思わず固有魔法を全力で発動してまで逃走してしまった。正直、やりすぎたと思ってる。
私「それにしても……」
どさくさにまぎれて宮藤も一緒に飛びかかってきていたな。
今度から宮藤も一緒に正座させるべきだろうか。
ミーナ「あら私さん」
坂本「どうしたんだ、さっきまで叫んでいたようだが」
気がつくと目の前に坂本とミーナの二人がいた。
俯きながら歩いていたので気付かなかった。
戦闘時以外は基本的に神経は研ぎ澄ませてないので、突然現れるとかなり驚く。
私「あ、いや、なんでもない」
坂本「そうか。ところでその服は……」
私「聞かないでくれ」
坂本「いやしかし」
私「聞かないでくれ」
ミーナ「ま、まあ似合ってると思うわ」
私「あまり言わないでくれ恥ずかしい。それにズボンの上にズボンなんてどうにも気持ち悪くてな」
ふとミーナの手の中にあるものに視線がいく。
どこかで見た様な真っ黒な封筒。
私「……その封筒ひょっとして私宛か?」
ミーナは首を横に振った。
ミーナ「これはネウロイの発生が書かれた紙よ。普段ならレーダーですぐにわかるのだけど……」
坂本「普段ならな」
私「何かあったのか?」
坂本は眉をひそめため息をつく。
坂本「それがネウロイがレーダーに全く引っかからなくなったんだ。更にラジオなど電波関係の物も同じように入りにくくなっている」
ネウ子が作ったのかと思ったが、以前別の巣のネウロイが言ってたことを思い出す。
完全にレーダーから外れるネウロイというのは作り上げるのに相当しんどいらしい。
私のような場合は特別だが、一機作り上げるのにも時間がかかるし、戦闘能力も大したことがないそうだ。
よく考えたらあいつがそんなネウロイを作る理由が無い。
ミーナ「それだけじゃないわ。ここロマーニャだけでなく、全世界のレーダーからネウロイの反応が無くなったらしいの」
坂本「一体ネウロイに何が起こっているのかわからない。しかしレーダーが頼りにならない今、肉眼で確認するしかないな」
全世界で引っかからなくなる、一体どういうことだろうか。
この近辺のネウロイを探知してみようとする。
…ザ……ラ…ラ…ラ……ザザザザザ……ララ……
私「……ん?」
しかし謎のノイズが入りうまく探知が出来ない。
それに、ノイズのほかに何か別の、声の様なものが聞える。
これが原因なのだろうか。
私「何か聞えるな……これは……歌?」
ミーナ「どうかしたのかしら?」
坂本「何かわかったのか!?」
二人が詰め寄ってくる。
無意識に声に出してしまっていた。
非常に不味い。こんなことでばれてはたまったものではない。
私「あー、空耳だ。近頃音楽を聞くのが趣味でな。それがどうも耳に残ってるんだ」
我ながら苦しいいいわけだとおもう、しかし納得してくれたようで二人は肩を落とした。
私にはあまり関係ないが、人間のにとってはネウロイの襲来がわかりにくいというのは重要なのだろう。
???「見つけたー!」
背後からの声に振り向くとルッキーニとシャーリーがこちらを指さしていた。
あの二人まだ私のことを探してたのか!
よく見ると廊下の角の所からハルトマンとリーネと宮藤が顔を出しているのが見える。
私「ミーナ後頼んだ!」
ミーナ「えっ?」
ミーナと坂本の間を通り、再び二人から逃走する。
私は暫くの間振り返らずに走った。
うじゅあああああああああああ
悲鳴が聞こえたのは廊下の一番奥の最後の窓ガラスを破って地面に落下している時だった。
後で修復しておこうと迫る地面を見ながら思った。
台所前廊下
飛び降りてくじいた足を修復しつつ、自室へと戻るために食堂前の廊下を歩く。
いくら逃げるためとはいえ少々はっちゃけすぎたかもしれない。
ララ……ラララ……ラ…
私「ん?」
突然聞えた声、いやこれは歌だ。
歌が台所の中から聞こえてくる。
ただの歌ではなく、先ほどのノイズの中に混じった歌と非常に似ている。
不思議なことに私はこの歌をどこかで聞いたことがある様な気がした。
人間のうちには聞いたことが無い。恐らくネウロイの情報の中で存在している記憶。
そっと台所の扉を開け中を覗いてみる。
中にはエイラと先ほどの服のサーニャが椅子に座っていた。
サーニャ「ラララ……」
歌声はどうやらサーニャのものらしい。
私は歌には詳しくはないが、何故かコアに直接音が響くような気がする。
よくわからない感覚に戸惑いながら歌を聞いていると、エイラがこちらに気付いた。
エイラ「……」
エイラは少し悩んでから私を手招きする。
招かれるまま私は台所の中へと入る。
私「エイ……」
エイラ「シッ」
口の前で指で×印を作るエイラ。喋ってはいけないらしい。
この分だと音を立てても怒られそうなので、なるだけ静かに椅子を引きエイラの隣へと座った。
サーニャ「ラ、ララ……」
歌をうっとりとした表情でエイラは聞いている。
私は目を瞑り歌に集中する。
ネウロイの記憶はネウロイからネウロイへと引き継がれる。
私をネウロイにしたネウロイは、どうやらこの歌をどこかで聞いた、もしくは聞いたネウロイと出会ったことがあったらしい。
どこか懐かしく、虚しい感情が私の中に広がる。
この歌を聞いたネウロイは一体何を求めて私に歌の記憶を引き継がせたのか。
考えたところで恐らくわからないのだろう。ネウロイというのはそんなものだ。
勿論私も含めて。
歌声が止まった。
サーニャ「あ……私さん」
歌に集中していたのかサーニャは私のことに気付かなかったらしい。
恥ずかしそうに顔を赤らめる。
私「歌、うまいんだな」
サーニャ「えっと……」
エイラ「だろだろダロ! サーニャの歌はとても綺麗なんダナ!」
サーニャ「あ、ありがとうございます……」
サーニャは頭を下げる。
私「別に頭を下げる必要はない。むしろこっちが下げる側だ」
エイラ「そうだゾサーニャ」
私「ところでこの歌はなんて歌なんだ? 聞いたことが無いが」
サーニャ「あ……この歌はお父様がわたしに作ってくれたんです」
サーニャの顔は少し誇らしげで、嬉しそうな表情をしている。
父親からのプレゼント。これに喜ばない子供はいないだろう。
私「そうか。……父親には会えているのか?」
サーニャ「それは……」
エイラ「サーニャの家族はオラーシャのネウロイから避難していて今は会えていないんダナ」
サーニャの代わりにエイラが答える。
これは聞いてはいけないことだったのかもしれない。
私「……知らなかったとはいえすまない」
私が謝るとサーニャは首を横に振った。
エイラ「おいおい人の親を勝手に殺すもんじゃないゾ?」
サーニャ「一年前くらいまえ、夜間哨戒の時にお父様のピアノが聞えました。だからお父様はきっと生きています」
エイラ「もう少しでサーニャの誕生日だからナー。きっとその日もまたピアノが聞えるんダナ」
二人の表情はとてもうれしそうで、私には先ほどの坂本の電波障害のことは言えなかった。
エイラ「そういえば私はどこの出身なんダ? 結構前に聞こうと思ったらそのままどこかに行ったみたいだしナ」
微妙に痛いところをエイラは質問してくる。
私「……ここから小川を渡りお化けもみの木を左へといってそこに佇むのが私の出身地だ」
エイラ「なんだよソレ」
流石に無理があったらしい。
私「まあ、正直なところ私の国はもうないんだ」
サーニャ「それって……」
私「そのままの意味だ」
その意味を理解したようで二人の表情が暗くなる。
エイラ「あー……その……ゴメン」
私「気にするな。別に国が無くなったのはお前達のせいではない」
滅ぼしたのは私だしな。
まあとんでもなく範囲を広げると、ウィッチの、軍のせいで滅んだという意味では二人のせいなのかもしれない。
いずれ裏切るつもりなのだからその時に全て話してやるのもいい。
私「悪いな暗い気分にさせてしまって」
サーニャ「いえ私さんは悪くありません」
エイラ「こっちこそすまないんダナ……」
重い空気が台所中に充満していくのがわかる。
ここは何とかしなければ。
とは言ったものの一体何をすればいいのか。
歌えない人生になんか意味はないでしょう?
頭の中に蘇る声。
旅をしていた女性が教えてくれた、歌が苦手な私が歌えるただ一つの歌。
私「……そうだな、さっきの歌の礼として私も少し歌おう」
サーニャ・エイラ「「ええっ!?」」
私「なんだ? そんなに驚くことか?」
サーニャ「いえ、私さんが歌ってくれるなんて思わなかったので……」
エイラ「上手いのカー?」
私「……最後に歌ったのは多分、十年くらい前だ」
この歌を教えてくれた人は、小さいころに弟を無くしてしまったらしい。
私はこの歌がたまらなく好きだった。
いつも一緒にいた妹。あいつもこの歌が大好きだった。
よく寝る前に歌ってくれとせがまれたものだ。
それが、どうしてあんなことになったのか――
妹! どうしてだ!? どうしてこんなことをする必要がっ!
ねえ、姉さん ボクはね
父さん! 母さん! 目を、目を開けてくれよ!
知りたかったんだ
何を! 父さんと母さんを殺して! 一体何を知りたかったというんだ!
生みの親を殺す気持ちと、そして目の前で親を殺された姉さんの、その表情が
――っあああああああああああああああああ!
うん、やっぱりいい 凄くいい ボクの好奇心知識欲独占欲何もかもが歓喜の声を上げてる
それでも私は妹を捨てることはできなかった。
放っておくと他人に被害を与えるかもしれないし、何より私の家族だったから。
元々妹は私を殺し、殺される私を観察するつもりだったのかもしれない。
……よく考えればよく十数年もあいつを押さえることができたものだ。
「お姉ちゃん」 「姉さん」
頭の中に響くルッキーニと妹の声。
私は、どこかで妹の面影をルッキーニに見ていたのかもしれない。
自分で殺しておいて面影も糞もないかもしれないが。
しかし妹の代わりとしてルッキーニを守るということではない。
ルッキーニはルッキーニであって、妹は妹なのだ。
それに私は選んだ選択を間違ったとは思っていない。
妹を捨てなかったことも、国を滅ぼしたことも、ルッキーニと出会ったことも。
その全てがあったからこそ今の私がある。
だから例えどんな結果になろうとも私は後悔をしない。
……殺す殺す現在進行形で言ってる奴の台詞じゃないな。我ながら。
歌い終わるとエイラは呆然と、サーニャは驚いていた。
流石に十数年は長かったかもしれない。
私「……どうだった?」
恐る恐る聞いてみる。
サーニャ「あ、あっ、えっと……凄く上手かったです」
私「無理しなくていいんだぞ」
サーニャ「ホントです! 本当に上手かったです!」
興奮しているのか少し顔の赤いサーニャ。
ならよかったと私は心の中でため息をついた。
エイラ「私も上手かったと思うゾ。ま、まあサーニャに比べたらまだまだだけどナ」
エイラは少し焦りつつも腕組みをして二回ほど頷いた。
サーニャ「私さんは」
私「ん?」
サーニャ「やっぱり私さんはお母様だと思います」
私「私はそんな柄じゃないぞ」
エイラ「いや、今ならわたしも私が母親役ってのが頷ける気がするんダナ」
サーニャ「言葉にはしにくいんですけど、私さんがいると安心できるような気がするんです」
それはないだろう。
時が来たら私はお前達を殺す予定なんだが。
……まあ殺すのはネウ子に任せてもいいかもしれない。
サーニャ「ルッキーニちゃんも安心できるからこそ、私さんに色々してくるんだと思います」
エイラ「それ以外にも胸とか色々あるみたいだけどナ」
目を細めてエイラが胸を凝視してくる。
エイラ「それは冗談としてわたしもサーニャと同意見なんダナ」
サーニャ「だから私さんはお父様よりもお母様だと思います」
私を見る二人の目はとても澄んでいて、これ以上反論しようにもできなかった。
どうやら私はこの基地では母親役に分類されるらしい。
ガチャッ
その時台所の扉が開かれ、ミーナと私を追いかけてきた二人組が申し訳なさそうに入ってきた。
私「悪かったなミーナ。二人を任せてしまって」
ミーナ「気にしなくていいわ。ほら、二人とも私さんに謝りなさい」
シャーリーとルッキーニは私の前に立つと頭を下げた。
シャーリー・ルッキーニ「「ごめんなさい」」
一体何をされたかわからないが、シャーリーの顔は少し青くルッキーニは半べそになっている。
考えるだけでも恐ろしい。
こんな時、私達姉妹が泣きながら謝った時、母はどうやって慰めてくれただろうか。
私「……」
無言で二人の頭をぐしゃぐしゃと掻きまわす。
顔を上げた二人は驚いたような顔をしていた。
私「サーニャ。今日の夕飯の当番変わってくれないか?」
サーニャ「は、はい」
二人に向き直りもう一度、今度は軽く髪を撫でる。
私「ほら、料理作るから手伝ってくれないか」
二人は顔を見合わせてから笑顔で頷く。
多分だが今の私も笑顔なのだろう。自分ではよくわからないが。
シャーリー「何作るんだー?」
ルッキーニ「ごっはん! ごっはん!」
私「何がいい? 可能なら作るし、私が知らないなら教えてくれ」
楽しい思い出を作ろう。裏切った時にその傷が深く、大きくなるように。
エプロンを受け取りながら私は少しだけ憂鬱な気持ちになった。
三人で風呂から上がった後、部屋に戻った私を待っていたのは黒い物体。
その黒い物体は床にへばりつくように横になっていた。
しかもまたガラスを破ってやって来たらしい。
私「……何をしてるんだ?」
ネウ子(くっくっく、ヨく見るといい。恐らくボクはネウロイ史上
初めての扶桑式究極謝罪方法土下座を人間に対して行なったネウロイだ)
私「いやそれどうみても寝転がってるようにしか見えないんだが」
ネウ子(これは土下座の最上級土下寝だヨ)
もうツッコむ気力も無い。
眉間にしわを寄せながらため息をつく。
???(キミがネウ子がいつも話してる子ッスね)
知らない声に驚いて振り返ると、ネウ子よりも一回り小さい、これまた胸のあるネウロイが手を振っていた。
友人(どうもはじめましてッス。自分はオラーシャ方面を担当してるネウロイッス。一応、ネウ子の友人でもあるッスよ)
ネウ子(一応ってなんだヨ)
友人(あんなモンをよこす奴がよくほざけるッスね)
二人の会話に今日何度目かのとてつもなく嫌な予感を私は感じる。
近頃色々と感じすぎだろ私。
私「ネウ子まさかお前」
ネウ子(……ゴメンちゃいあのネウロイ暴走しちゃった)
友人(ついでに現在全世界のジャミングはそのネウロイが放ってるッス)
私「ブン殴っていい?」
友人(散々自分がレーザー撃ちこんだ後ッスよ?)
ネウ子(ボク……汚れちゃった。穴だらけにされちゃったヨ……)
1分後そこには体を修復させているネウ子の姿が!
ネウ子(もう暴走なんかさせないヨ!)
変なことを言っているネウ子を放置しつつ友人から話を聞く。
私「で、つまりネウロイ側からしてもそのネウロイは不便だと」
友人(そういうことッス。近距離じゃないとテレパシーも使えないから遠距離での作戦は無理ッス)
私「そのネウロイにジャミングの発生を止めさせるのは?」
友人「試したけど、何故か歌を歌うのをやめないんス」
あのジャミングは歌だったのか。
しかしサーニャの歌に似ている原因は一体。
ネウ子(あーそれボクのせいかも)
部屋の隅で体をくねらせていたネウ子が突然会話に割り込んできた。
ネウ子(作る時にサーニャちゃんのこと考えながら作っちゃったから、サーニャちゃんの歌を引き継いだっぽい)
次の瞬間ネウ子は穴だらけになった。
友人(……なんでコイツと友達なんスかね自分)
私「ま、まあいいところもあるぞ!」
まさか私がネウ子のフォローに回る日が来るとは思わなかった。
そして私もなんでコイツと一緒にいるんだろうと心の中で少し思った。
友人(ともかく、自分達では少々辛いかもしれないので貴女の力を借りたいッス。暁光の魔女さん」
私「……その名で呼ぶな」
どこで知ったのか知らないがその名では呼ばれたくはない。
私は友人を睨みつける。
友人(自分はいい通り名と思うッスけどね。夜に出現したネウロイの大軍を一人で全て殲滅。夜明けと共に帰ってきたから付けられたらしいッスけど)
私「今の私はネウロイだ。人間の時の呼び名なんて意味が無い」
友人(それは失礼したッス)
申し訳なさそうに友人が後頭部と思われる部分を掻いた。
ネウ子(らめええええええええボクをもっと穴だらけにしてええええええええええええ!)
私達は顔を見合わせ、深々とため息をついた。
最終更新:2013年02月02日 14:25