501基地 廊下

 今日も今日とて雑用雑用。心なしか私の一日は掃除から始まることが多い気がする。
 何時も通りにミーナの執務室前まで掃除を終えると、これまた何時も通りに背伸び。

私「んー……」

 カチャン

 背後から扉の開く音。
 振り向くとミーナが何やら悩んでいるような表情で出てきた。

私「どうかしたか?」

ミーナ「あら私さん。……それがね、今日一般人のお客様が来るのよ」

私「珍しいな」

 結構な時間を基地で居候しているが、基地にやってくるのは輸送機と軍の高官のみ。
 そんな中で一般人が来るとは、一体何者なのだろう。

ミーナ「あ、正確には元ウィッチの一般人の方よ」

私「なんだそうか」

 数日後の私はこう答える あの時気が付くべきだったと

ミーナ「以前に宮藤さんとリーネさん、そしてペリーヌさんがお世話になったの」

私「お世話になった?」

ミーナ「3人は一度ストライクウィッチーズを解散してから再結成するまで、少しの間戦線から離れていたの。それで、一時期鍛え直してもらってたのよ」

 頭の中の以前巣で記憶した資料に再結成をしたと書かれていたのを思い出す。
 確かにここは最前線基地、一週間程度ならまだしも、半年や一年も前線から遠ざかっているとカンも鈍るだろう。

私「鍛えてもらった人がよかったんだな」

ミーナ「美緒もお世話になった人よ」

私「坂本もか……私も昔ある人に散々しごかれてな」

ミーナ「そうなの?」

私「厳しかったが優しい人だった。今は何をしてるんだろうな」

 窓から外を見ると青々とした空が広がっている。
 確か妹と一緒に訓練を頼みに行った日もこんな天気だった。

ミーナ「私さんにもそういう時期があったのね」

私「まあな。いい思い出……とはいいにくいがな」

 主に妹的な意味で。

私「さて、今日は私が夕飯を作るか」

ミーナ「でも今日は宮藤さんが当番のはずだけれど……」

私「恩師が来るんだ。仲が悪いなら別だが、積もる話もあろうだろうさ」

ミーナ「……そうね。じゃあわたしから宮藤さんに伝えておくわ」

私「頼んだ」

 ミーナは私に背を向けて宮藤を探しに向かう。
 私は師匠の顔を思い浮かべながら、教えられた通りに箒にまたがってみる。
 魔力をコントロールする。ふわり、と体が宙に少しだけ浮かんだ。

私「まだ何とかなるもんだな」

 魔力を止めて床に足を付ける。
 箒を元の場所に戻すため、私は自室へと戻ることにした。



 台所

 夕食までまだ相当時間があるが、いざ作る時になって何もありませんでした。では笑い話にもならない。
 なので冷蔵庫の中身を確認することにする。
 扉を開くとひんやりとした空気が漂ってきた。

私「……ふむ」

 一通り冷蔵庫の中身を確認したが、これなら問題ないだろう。
 確かこの間倉庫の方に補給物資も届いていたし。
 冷気が漏れ出さないうちに手早く扉を閉じる。
 夕飯の準備までまだ時間がある。偶には部屋で昼寝でもするのもいいかもしれない。
 そう思いながら振り返る。

ルッキーニ「やっほー」

シャーリー「やー」

 そこには椅子に座って待機している二人の姿があった。
 一体どうやって音も立てずに椅子に座っていたのかはこの際考えないことにする。
 私の注意力散漫ということにしておこう。

私「……何が食べたい?」

 尋ねると二人は顔を見合わせた。

ルッキーニ「まだあたし達なにもいってないよ」

シャーリー「まあ正解なんだけどさ」

私「お前達が台所に来る時は大抵おやつか何かを食べにくる時だ」

 ため息をつきながら、手を洗うために服の袖をまくりあげる。

私「ちょっと待ってろ。……期待はするなよ」

 何を作るか考えながら、とりあえず冷蔵庫の扉を開いた。




 数十分後、オーブンから取り出されたのはアップルパイ。
 少し焦げ目が付いてしまったがこのくらいは問題ないだろう。
 熱いうちに包丁を入れると、サクサクとパイ生地のいい音と、シナモンの香りがした。
 切ったそれを白い皿に移して、フォークも一緒に乗せて二人へ持っていく。

私「出来たぞー」

ルッキーニ「わあい!」

 ルッキーニは両手を上げて喜ぶ。やはり笑っている時が一番可愛らしい。
 って何考えてるんだ私は。

シャーリー「アップルパイにしては早かったんじゃないか? パイ生地とか作るの大変だろ?」

私「あ、ああ。昨日はペリーヌが食事当番だったろ? その時、作りすぎて余ったから私が貰って冷蔵庫に入れておいたんだ」

 右片手で左腕軍服の袖を直しながら、左手で椅子をひきルッキーニの隣に座る。
 既にルッキーニは黙々と食べ始めていて、切り分けた分が半分無くなっている。

私「美味しいか?」

ルッキーニ「うん! すっごく美味しい!」

私「そうか。ならよかった」

 普段のあいまいな感情ではなく、間違いなく凄く嬉しいと感じた。
 だがこの感情も裏切った時全て無くなってしまうと考える。
 嫌、だな。
 凄く嫌だ。自分がそんな感情を持つことは、許されないと思っても。

私「……」

シャーリー「どうしたんだ? 急に黙ったりして」

 シャーリーの声にハッとして顔を上げる。
 どうやらいつの間にか俯いていたようだ。

私「何でもない。ちょっと考え事してただけだからさ」

シャーリー「そうか。ナニか悩みがあったら遠慮なくいってくれよ」

 シャーリーはアップルパイをフォークで一口くらいの大きさにして、それを突き刺すと私の前まで持ってきた。

シャーリー「遠慮するなよ。親友」

 歯を見せてシャーリーは笑う。

私「……」

 少し、本当に少しだけ泣きそうになって、全てを洗いざらい吐いてしまおうとも思った。
 けれど心の中で言ってはいけないと叫んでいる。
 感情と言葉を飲み込むと、こちらも少しだけ笑みを浮かべる。

私「そのうちな。親友」

ルッキーニ「ねえねえあたしは!? あたしは!?」

 少し不満そうにルッキーニが声を上げる。

シャーリー「んー、なんていうかな」

 シャーリーは右の人差指を額に当てた。

ルッキーニ「何?」

シャーリー「あたしはルッキーニのことを親友だと思ってるし、妹みたいにも思ってる」

 それは周知の事実だろう。一体どこを悩む必要があると言うのか。

シャーリー「でも私はそれに加えて別の感情持ってるんじゃないか?」

私「……は?」

 思わず反応が遅れた。

シャーリー「違うのか?」

私「違う!」

 いや違わないけど。

私「それに前にもこんな話を――」

ルッキーニ「違うの?」

 目に涙を浮かべつつ、ルッキーニは私を上目づかいで見てくる。
 反則だろうそれは色々と。

私「う、うぐぬぬぬ……」

 散々うめいた後、ため息をついた。

私「……私もシャーリーと同じ気持ちだ」

ルッキーニ「ホント?」

私「ホントだ」

 シャーリーはニヤニヤしながら私を見ている。
 ああもう親友って呼ぶんじゃ無かったよちくせう。

ルッキーニ「ね、ね、ね。シャーリーが言ってた別の感情って?」

 体をこっちに向けて身を乗り出すように顔を近づけてくる。

私「あ、そ、それはだな……」

 返答に困る私に救いの神は降臨した。

 ガチャッ

 扉の開く音に、私を含めた全員の視線が扉へ向かう。

坂本「おお、お前達こんなところにいたのか」

 現れた坂本は私には女神のようにも見えた。

坂本「そろそろ客人がくるから知らせておこうとおもってな」

シャーリー「もうそんな時間かー」

ルッキーニ「まだ食べてるのにー」

私「皿ごと部屋に持っていっていいぞ。ただしあとで皿は後で返してくれよ」

 その言葉に二人は皿を抱えて食堂から飛び出して行った。
 こういう時の行動はとんでもなく早いな。

坂本「……もうちょっとあの行動の速さを訓練に生かしてくれればいいんだが」

私「やることはやってるし問題はないだろうさ」

 坂本はため息をついた。が、直ぐに顔を上げて立ち直る。

坂本「さてわたしは滑走路に迎えに行かなきゃな」

私「ところで、誰が来るんだ? お前や宮藤達がお世話になってたと聞いたんだが」

坂本「ああそれはくs……」

 ゲフンゲフンと咳払いをした。

坂本「アンナ・フェラーラ。元ウィッチで今も時々ウィッチの訓練をしてくれている人だ」

私「そうかアンナ・フェラーラか……アンナ……?」

 どこかで聞いたことがあるような。

私(アンナ……アンナ……アンナ・フェラー……ラ……――あっ)

私「……」

坂本「どうした? 急に顔色が悪くなったようだが……」

私「ナンデモアリマセンナンデモアリマセン」

 思わずカタコトになってしまう。
 ダラダラと背中に嫌な汗が流れているのがわかる。

坂本「そうか? じゃあわたしは行くからな」

 坂本が扉から出て行ったのを確認すると、頭を抱えて机に突っ伏した。

私(やばいよやばいよ今までで一番やばいよ……)

 アンナ・フェラーラ。
 忘れもしない、私達姉妹を鍛え上げたクs……ではなく、師匠。
 そして自分の正体を知っている人物。
 一体どうやって誤魔化そうか。
 冷や汗を流しながら私はとりあえず台所の後片付けを済ませることにした。




 食堂

私「……ちょっと塩気が足りないかな?」

 一度小皿に移したスープの味を確かめると鍋をかきまぜる。
 夕食はシチューにすることにした。今回は肉が無いので魚介類を使った。
 塩を鍋の中に入れ、再び少量を小皿に移し味見をする。

私「ん、これなら問題ないな」

 我ながらうまくできたと思う。
 ちなみに魚介類はイカとタコはいれていない。シャーリーが苦手と聞いたからだ。
 物足りない人は茹でてあるものを用意しているのでそこから個別でとってもらえばいい。
 鍋のふたを閉め、エプロンを外し椅子に座る。

私「ふぅ……久々にこんなに長く厨房に立ったな」

???「ねねね! できた!?」

私「ああ出来たよ……って」

ルッキーニ「味見していい?」

 これで何度目かわからないが、再びルッキーニの接近に気付くことなく背後を取られていた。
 やはり私は何かに集中をしていると周りが消えてしまうらしい。

私「……ちょっとだけだぞ?」

ルッキーニ「うん!」

 下ろした腰を再びあげると、ふたを開け小皿にシチューを移す。
 火を止めたのが先ほどだったのでまだ暖かいシチューは少量でも湯気を立てている。

私「火傷するなよ?」

ルッキーニ「大丈夫大丈夫! いただきまーす!」

 皿を渡すとすぐにルッキーニは小皿の縁に口を付けシチューを飲む。

私(……そういえば)

 あの小皿は、何度も何度も私が味見をしたので恐らく縁部分に私が口づけてない場所はないはず。
 つまり――

私(……間接キス?)

 そう思った瞬間、顔の温度が急上昇していくのを感じた。
 何を考えているんだ私は! その考えだといつも食事で使っている箸やスプーンだってある意味間接キスじゃないか!
 ――ってああもうそう考えたら余計熱くなってきた!
 落ち着け私落ち着け私。私はできる子私はできる子。

私(びーくーるびーくーる……)

 何度も壁に頭をぶつけたい衝動に襲われたが、今の状態でこれをやると壁を粉砕する可能性もあるので何とか抑えることができた。

ルッキーニ「ごちそうさま!」

 ルッキーニの声になんとか現実へと戻ることができた。

私「どうだった?」

ルッキーニ「んー……美味しいけどちょっと甘いかもしれない」

 少し唸ってからルッキーニは答えた。

私「少し甘いか……」

ルッキーニ「あまり気にならないからあたしはこれでいいと思うよ」

私「まあ少し塩を足す程度だから直ぐに終わるさ」

 調味料を取るために棚を漁る。

ルッキーニ「ところで私に聞きたいことがあるんだけど」

私「なんだ?」

ルッキーニ「その格好……どうしたの?」

 現在の私の格好は、髪を下ろして黒くて四角いフレームのメガネを付けている。
 ちなみにこの眼鏡は私が先ほどネウロイの能力を使い作りだした。
 とはいっても本当に眼鏡として作りだしたので、意思を持ってるとかコアがあるとかそんなことはない。
 なお度も僅かだが入っている。

私「えらく今更だな……。まあ、いわゆるイメチェンというやつだ」

 手で眼鏡をクイッと上に軽くあげる。
 かけていないときはわからなかったが、かけてみると無性にやりたくなることに気付いた。

ルッキーニ「へー」

私「……似合わないか?」

ルッキーニ「ううんすっごく似合ってると思う」

私「そうか」 

 ルッキーニの頭を撫でる。
 今回は師匠の目を誤魔化すためにやったが、偶には格好を変えるのもいいかもしれない。
 満足するまで撫でた後、本来の目的である塩を再び探そうとした時。

 ガチャン

ミーナ「私さんもう夕飯の準備は出来てるかしら」

 扉を開いてミーナが入ってきた。
 耳を澄ますと、扉の前から何人かの喋る声が聞える。
 塩を入れたかったところだが、これでは間に合わないだろう。

私「ルッキーニが美味しいと言ってくれたからな。大丈夫だ」

ミーナ「そう。なら問題ないわね……ってどうしたのその姿」

ルッキーニ「イメージチェンジだって」

ミーナ「へえ……似合ってるわね」

私「そうか? 実はまだ鏡見てなくてな。どんな姿しているかまだ確認できてないんだ」

ミーナ「じゃあ夕食前に一度姿を確認してきたら? 多分そのくらいの時間はあるわよ?」

 ミーナの提案に私はあることを思いついた。うまくいけば少し顔を見られる程度で済むかもしれない。

私「そう、だな。じゃあ私は少し部屋に戻らせてもらおう」

 エプロンを外すと、外したエプロンをルッキーニに着せる。

ルッキーニ「うじゅ?」

私「私は少し疲れたから自室に戻って休んでいる、後はルッキーニに任せる。まあ、皿にシチューを入れるだけだし問題ないだろ?」

ルッキーニ「うん!」

私「いい返事だ」

 私は頬が緩むのを感じた。
 決してルッキーニのエプロン姿が可愛らしかったからとかそんな理由ではない。絶対にだ。

私「じゃあ後は頼んだぞルッキーニ」

ルッキーニ「また後でね!」

ミーナ「お疲れ様私さん」

 二人に見送られながら食堂の扉を開ける。
 廊下に出る前にもう一度だけルッキーニのエプロン姿を目に焼き付けた。


 廊下

私「あっ」

全員「あっ」

 食堂から出た私は既に待機していた他の連中とばったり遭遇してしまった。

私(しまったぁぁぁぁぁ! ルッキーニのことで頭がいっぱいで集まってるの忘れてたあああああああああ!)

 食堂に戻ろうにも、任せると言ってしまったので今更のこのこ戻るわけにもいかない。

私「や、やあ」

宮藤「私さんどうしたんですかその格好」

私「あー私っていつも同じ格好だろ? だから気分転換にイメージチェンジをだな」

リーネ「そうなんですか」

 数名はどうやら普通に受け止めてくれたようだが、残りは疑った、というより変な物を見るような目で私を見ている。
 まあ普段眼鏡なんてかけていないので変に思われるのは仕方が無いが結構辛いものがある。

サーニャ「そ、その似合ってる……と思います」

私「は、はははは……ありがとう」

 サーニャのフォローに少し泣きそうになった。今度サーニャのデザートは多めにしてあげよう。

シャーリーところで私は夕飯は食べないのか?」

私「私は味見で結構食べたからな」

エーリカ「えーずるいー」

バルクホルン「お前は寝ていただろう」

私「客人が来てるらしいから多めに作ってる。心配するな」

 幸いまだ師匠は坂本と一緒にいるようでここにはいない。
 顔を合わせることにならなくてよかった。師匠はかなり勘がいいのでちょっとしたボロで直ぐにばれる危険がある。

私「あ、今日の夕食は具は各自で入れてくれ」

 ルッキーニに言い忘れたことを伝え、私は部屋に戻るため早足でその場を後にした。




 再び数時間後

 部屋の中には私とルッキーニ、そしてシャーリーがいる。
 先ほどまでは宮藤達がいなくて暇だからとエイラとサーニャもいたが夜間哨戒に向かった。

ルッキーニ「うゆー……」

 ルッキーニはベッドで眠っている。
 私のベッドだが今日は手伝ってもらったことだし寝かせようと思う。
 そして私とシャーリーはというと、テーブルを挟んで向かい合っていた。

私「どうする?」

シャーリー「んむ……」

 互いの手には5枚のカード。所謂ポーカーをやっている。
 ちなみに先ほどまではジェンガだった。(カードゲームだとエイラが無双するので)

私「私は少々手が悪いので……1枚交換だ」

 手札を1枚捨て、山札から1枚持ってくる。
 やってきたのはクローバーのクイーン。

私「どうやら運は私側に向いてるようだ」

 ジェンガでは肝心なタイミングでクシャミをしてしまい、崩してしまう失態を見せてしまった。
 それを取り戻すかのように手札はいいものが揃っている。

私(罰ゲームは勘弁願いたいのでな)

 シャーリーが開始前に負けた方は罰ゲームと言ったので、シャーリーも真剣な表情をしている。
 ここまでの結果は6戦3勝3敗とありがちな展開と言える。
 なので、この勝負で決着がつく。

私(私の手は……ストレートフラッシュ。しかも手の大きさから同じストレートフラッシュでも9から開始なら負けることはない……)

 もはやシャーリーの勝つ可能性は零に近い。
 そうだな罰ゲームを考えよう。多分シャーリーのことだろうから服をバニーガールに変えるとかは余り意味が無いだろう。

シャーリー「じゃああたしは3枚……頼む!」

 よしいいこと思いついた。
 明日エーリカに料理作ってもらってシャーリーに食べさせよう。
 何かよくわからないが、シャーリーのせいで何かを漏らしたような記憶もあるから憂さ晴らしも含めて。

私「じゃあいくぞ覚悟はいいな?」

シャーリー「へへーんそっちこそ」

私「強がらなくてもいいんだぞ? 私はこれだ」 

 シャーリーに手札を見せる。

私「クローバーの8からクイーンのストレートフラッシュだ」

 一瞬、シャーリーが動揺したのを私は見逃さなかった。
 嬉しさで顔が緩みそうになるのを必死にこらえる。

シャーリー「ま、まさかストレートフラッシュなんて……」

私「罰ゲームはもう考えてあるから安心しろ」

シャーリー「ストレートフラッシュなんて……なーんてな」

私「……は?」

 シャーリーが私に手札を見せる。
 そこにはハート、クローバー、スペード、ダイアそれぞれの5、そしてジョーカー。

シャーリー「ファイブ・オア・アカインド……ファイブカードって言ったほうがわかりやすいか?」

私「う、うしょ……」

 ショックのあまり呂律が回らない。
 計画が、私の計画が……。

シャーリー「勿論、ストレートフラッシュより役は高いからあたしの勝ちだな!」

私「しょ、しょんなあああああああああ……」

 我ながら情けない声を上げながら、テーブルに突っ伏す。

シャーリー「じゃー罰ゲームは何が良いかなー」

 突っ伏しているので顔は見えないが声の様子から笑っているのがわかる。
 多分彼女が好きな人なら一撃でノックアウトされそうな笑顔だろう。
 ただし私にとっては悪夢への案内人の笑顔だが。

シャーリー「うーんうーん……」

 やめろ悩まないでくれ。悩めば悩むだけろくな罰ゲームしか出ないような気がする。

私(あばばばばばばばば)

シャーリー「そうだ思いついた!」

 と言ってシャーリーが手を叩いたのと同時に、

 トントン

 と部屋の扉がノックされた。

 私にはノックの音がまるでウェディングベルのように聞えた
 うまくいけばこのままうやむやになってシャーリーも忘れるかもしれない。

シャーリー「部屋の主は死んでるけどいるぞー」

私「勝手に殺すな」

 既に死んでるのは内緒だ。
 扉を開けて入ってきたのは宮藤だった。
 私とシャーリーを見た瞬間、殺気の様なものを感じたが多分気のせいだろう。

宮藤「……はっ!? す、すいませんちょっとぼーっとしてて」

 慌てて宮藤は袖で口元を拭う。

シャーリー「で、どうしたんだ? お客さんとはもういいのか?」

宮藤「はい。色々と話せましたし……。あの、私さんに伝言なんですけど……」

私「私に? 誰から?」

 体は机に突っ伏しているが、首をひねって宮藤の方に顔を向ける。

宮藤「アンナさん……あっお客さんの名前ですよ。アンナさんが私さんにお礼を言いたいって」

私「お礼?」

宮藤「はい。夕食のシチューが美味しかったらしくて」

 それくらい伝言だけでいいだろうに。
 どうしてわざわざ私に直接会おうとするんだあの人は。

宮藤「直接会ってお礼をした方が心が伝わるって言ってました」

私「んーあー……お礼言われるだけに行くのもなぁ……」

シャーリー「別に会うだけなんだしいいだろ?」

私「でもあの人もう高齢だしこの時間には寝たほうがいいと思うんだよなあ」

宮藤「……あれ? 私さんアンナさんに会ったことあるんですか?」

私「い、いやないぞ」

宮藤「そうですか……なんでアンナさんがお婆さんってこと知ってるのか気になっちゃって」

 しまった。私はまだ師匠に会っていないということにしておいたんだった。
 恐らく宮藤達は滑走路から師匠と一緒にいるので、降りてきたときに話しかけたというのも通じない。
 しかも私は台所にこもって料理を作っていたというのを、部隊の全員が知っている。

私「あ、あーその、ミーナだ。ミーナが教えてくれたんだよ」

 その場かぎりだが、多分これが一番ばれないとおもう。
 ――今更ながら遠くから姿を見たって手も思いついたが。

宮藤「そうなんですか」

 幸い宮藤は信じたようだ。私に寿命と言うものがあったら多分半年ほど縮んでいたと思う。

宮藤「場所ですけど、少ししたら滑走路に行くって言ってたので今から向かえば多分丁度だと思います」

私「で、でもなぁ……」

シャーリー「行ってきたらどうだ? ロマーニャとはいえ夜は冷えるし、待たせるのもどうかとおもうぞ」

私「う、うう……わかったよ行くよ」

 二人に言われて重々しい体を起きあがらせる。
 ああいやだいやだ会いたくない。高確率でばれるよあの人、超勘がいいから。

私「……ルッキーニはそこで眠らせてやってくれ」

 ふらふらとした足取りで私は滑走路へと向かった。




 滑走路

 滑走路の一番先端に師匠はいた。
 背中に手を回し、海を見つめるその姿は、私が教えてもらった時に比べて少し縮んでいた。
 ――寂しさ、なのだろうかこの感情は。
 感情の整理がつかないままゆっくりと近づく。

アンナ「……来たかい」

私「はい」

 師匠は振り向くと私の目をじっと見つめてきた。
 ああ、間違いない。師匠は私のことをわかっている。

アンナ「……同じだったからね」 

私「同じ?」

アンナ「アンタと妹二人に訓練をしてやった最後の日に、あんたが作った夕食のシチューと同じ味だった」

私「……そんなこと覚えてたんですか」

アンナ「自慢じゃないけど、あたしは今まで鍛えたウィッチのことは忘れちゃいないさ」

 私は出会いがしらに殴られるかと思っていたがそんな様子はない。

私「師匠……」

アンナ「……昔、ずっと昔にアンタと同じ目をした軍人がいた」

私「同じ目をした……?」

アンナ「そいつは言ったよ。ウィッチが傷つくのは嫌だと、ウィッチが戦わなくても済むようにするのが自分の仕事だとね」

 師匠はそこで一呼吸ついた。
 その目は昔を懐かしむような、悲しむような目をしている。

私「……その人は今どうしてるんですか?」

アンナ「……さあね。つい一年前にウォーロックとかいう兵器を勝手に作り出して、ウィッチに対してクーデターを起こしたんだけど、兵器が暴走、失敗してそれからは知らないよ」

私「そう、ですか」

アンナ「あいつは劇薬を選んだのさ。その兵器がうまくいけばウィッチは戦わなくてよかったかもしれない。でも、急ぎ過ぎた」

 確かにその兵器がうまく行ったなら願い通りウィッチは傷つくことはなかっただろう。
 ウィッチを傷つけたくないという気持ちが先走り過ぎて、同意を得る前に行動を取り失敗というところなのかもしれない。

アンナ「アンタの目はそんなあいつと同じ目だった」

 私は実験の材料となる子供たちを救いたかった。
 だからもう実験をしなくて済むようにネウロイの巣を破壊しに隊を率いて、殺されて、殺し返した。
 結果として子どもたちは助かったが、彼らを守る軍は無くなり国は無くなった。
 私も急ぎ過ぎたのかもしれない。
 一度死んだからといって怒りにまかせた復讐の前に、もう一度だけ話せばよかったのかもしれない。
 ――もう全ては遅いけれど。

アンナ「アンタのいた国のことと、基地のことを考えればアンタがどんな存在になったか直ぐに分かったさ」

私「……はい」

アンナ「あたしはもう何も言わない。でもこれだけは言っておくよ」

私「……」

アンナ「他人を傷つけたなら今度は他人を見を呈して守りな。でもアンタが死ぬことで責任取れると思ったら大間違いだよ。確かにアンタは人を殺したけれど、あんたが居なくなったら悲しむ人も間違いなく居るのさ」

 私はその言葉に、ただ一回無言で頷くことしかできなかった。
 師匠は知っていた。
 私がネウロイだということも、近いうちに死ぬ気だったことも。

私「……師匠」

 私は師匠の肩に手を乗せる。
 確かに私は師匠の言葉は受け止めた。しかし、これだけはやらなければならない。

私「今日の……いえ、ずっと昔の記憶まで含めて、私のことを忘れてもらいます」

 返事を聞く前に記憶を読みとり、書きかえる。
 一瞬の静寂の後に師匠は口を開いた。

アンナ「……はて、あたしはなんでここにいるんだったかね」

私「お忘れですか? アンナさんは私にシチューのお礼がしたいって言ってここまで来たんですよ?」

アンナ「ああ、そうだった、そうだったね。とうとう物忘れが激しくなってきたのかねえ」

私「……いえいえアンナさんはまだ若いですよ。そろそろ戻りませんか? 夜も更けてきましたし」

アンナ「じゃあそうさせてもらおうか」

 師匠、いやアンナさんが滑走路から去るのを、私は彼女が見えなくなるまでその場から動かずにずっと見ていた。

私「……ありがとうございました」




 翌日 昼

 部屋には再びシャーリーとルッキーニ、そして珍しくハルトマンがいる。
 なんでも絵本を読み終わったので暇でしょうがないらしい。
 なので4人でできるゲームということでババ抜きをすることにした。
 順番はルッキーニ→私→ハルトマン→シャーリー。

ルッキーニ「あのお婆さんいっちゃうね」

私「そうだなあ……っと揃った」

 ハルトマンから取ったカードはスペードの2。手札にクローバーの2があったので捨てる。

ハルトマン「げっ、運いいね私」

 そんなことを言いつつ、シャーリーからカードをひいたハルトマンもハートのキングとダイヤのキングを揃えていた。

シャーリー「今頃はミーナ隊長と坂本中佐が見送ってる頃だな……よし上がりっ!」

 カードを捨てると両手を上げてガッツポーズをした。
 相変わらずカードゲーム強いな。


ルッキーニ「うじゅ……」

 私の手札は3枚。そのうちの真ん中をルッキーニは選ぶ。

ルッキーニ「やったー!」

 喜びの声と共にルッキーニもあがる。
 これで私とハルトマンの一騎打ちになった。

ハルトマン「さーて私どっちを取る?」

 ハルトマンの手札は2枚。
 私手元にジョーカーは無いので間違いなくハルトマンが持っている。

私(……右だ!)

 心の中で叫びカードをひく。

私「……」

 来た。来てしまった。憎らしい笑みを浮かべる道化師の姿が描かれたカードが。

ハルトマン「じゃあわたしはこれ!」

 取ったカードは勿論ジョーカーではなくスペードのエース。
 また負けた。

私「うっがあああああああ!」

 叫びつつ昨夜と同じようにテーブルに突っ伏す。



シャーリー「じゃあ私は罰ゲームだな。昨日の分も含めて2つだ!」

ハルトマン・ルッキーニ「「イェー!」」

 しかも昨日のこともバッチリと覚えていた。
 不思議と嫌な気持ちはなくまるでじゃれ合っているような気分。
 結局のところ、私は彼女達といるのが好きなのだろう。

私(……守るかぁ)

 口にするのは簡単だが行動に起こすには難しい。私が人間ではないとばれてしまうから。
 もう少しだけ考えたい。
 私はどうしたいのかを。
 彼女達と生きて守りたいのか、死んでで償うべきなのか。
 きっと時間はもう僅かしか残っていないから。
 どんな結果になってもいいように、この時間は大切にしておこう。

シャーリー「じゃあバニーガール姿で一週間過ごすな!」

私「一週間はおかしいだろう!?」

ルッキーニ「昨日の分と合わせてだよ」

ハルトマン「おとなしくおなわにつけー!」

私「うあああああああああああああああああああああああああああ!」
最終更新:2013年02月02日 14:28