海上

 目の前には501の面々。腕の中にはルッキーニがいる。
 ついにこの日が来てしまったと思うべきか。

私「……私はネウロイ、お前達の敵だ」

 自分は人間じゃないと自分に言い聞かせるように言う。
 信じられないと言った表情で彼女達は私を見てくる。
 当然といえば当然だろう。
 つい今朝まで一緒に食事をして、掃除をして、洗濯もしていた(あとゲームしたり)人物が、突然自分は敵だと言うのだから。
 もし私が同じような立場に立ったら間違いなく驚くだろう。

ミーナ「……私さん。貴女は私達と戦う気なの?」

私「当然だろう? 私はネウロイだぞ? お前たちの敵とさっきも言っただろう」

ミーナ「でもその考えは変わった。違うかしら?」

私「……何故そう思う?」

ミーナ「わたしたちと戦う気があるなら、わざわざルッキーニさんを助けるなんてしないはずよ」

宮藤「そうですよ!」

 宮藤が胸に手を当てながら叫ぶ。
 その目は私を本気で信頼している目だ。
 ふと彼女たちの目を見ると、全員戸惑いや悲しみと、少しの怒りを宿しているが、芯の部分は宮藤と同じような目をしている。

私「……それは、だな」

 私の手で倒すつもりだった。
 ただそれを言うだけでいいのに言葉がつまってしまう。
 何故、彼女達は裏切られてもそんな目が出来るんだ。
 お願いだからそんな目で見ないでくれ。
 ――私はそんな目で見られるような生き物じゃないんだ。

私「そ、れは……」

 抱きかかえたルッキーニに視線を落とす。

ルッキーニ「私……」

 私の服をぎゅっと握りしめて今にも泣きそうな目をしていた。
 私はどうすればいいのだろう。

私(……ん?)

 その時、巣のほうから、ネウロイの反応が大きくなった。
 恐らく先ほど倒した鳥型ネウロイの本体だろう。
 私は何やら嫌な予感がした。
 だが、今目の前には彼女達がいる。私は選ばなければならない。

私「……」

 自分でも意外だったが、答えはすんなりと出てきた。

私「シャーリー

シャーリー「ど、どうした?」

私「ルッキーニを頼む」

 シャーリーを呼び寄せると、ルッキーニを落とさないようにそっと受け渡す。
 その時、私は髪を結んでいたリボンをそっとルッキーニの服のポケットに入れた。
 全てが終わったら気付いてくれるだけでいい。

ルッキーニ「私っ!」

私「……多分、もう会うこともないよ。ルッキーニ」

 別れ際にルッキーニの手に触れる。
 ほんの少し触った程度だったのに、私はそれがとても温かかった。
 振り返れば未練が溢れだしてしまう。私は彼女たちを振り返らずに一直線に巣へと向かった。



ネウロイの巣

 巣に一歩踏み入れた瞬間、強烈なネウロイの反応が私のコアに響いた。

私「……気持ち悪い」

 思わず一歩後ろに下がってしまう。
 今まで人間だったときもネウロイになってからも、こんなに激しい反応は感じたことが無い。
 しかも、巣に入ったら突然大きくなった。
 もしも今、気付かずにウィッチ達が巣に攻撃を仕掛けようものならば、勝てる可能性はほぼゼロだろう。
 それほどまでに巨大な反応だ。私が捨て身で攻撃して倒せるかどうかといったところだろう。

私「髪がちりちりするような気がする……」

 一体どんなネウロイがいるのか恐怖が8割、好奇心が2割といったところで私は巣の奥へと足を進める。

私(サーニャがここにいたら相当辛いだろう……坂本も結構危なそうだ)

 中心部へと近づくほど、威圧感は強くなり反応も大きくなってくる。
 ヘタに反応を受けようものなら一撃で撃墜されるんじゃないかと思うほどだ。
 そしてたどり着く中心部への扉。
 赤と黒の二色で作られた不気味な扉は小刻みに振動しているようにも見える。

私「さて……顔を見させてもらうか」

 ネウロイに顔はあるのかと思いつつ、私は中心部の扉を開いた。


 中心部に入って一番最初に目に入ったのが、何故かピンク色のエプロンを付けたネウ子だった。
 手にもったプレートの上にはティーポットのようなものがある。

ネウ子(おかえりー)

私「ん、あ、ああ」

 予想外の姿に動揺してしまった。
 というかお前達紅茶なんか飲まないだろ。

???(なるほどキミが例の噂の裏切り者か)

 少年の様な声の方向に視線をやると、人型のネウロイが1体正座で座っていた。
 胸も無いので恐らくは男性型なのだろうが、ネウ子よりも小さいので女性型の可能性も否めなくはない。

ネウ子(別に彼女は裏切り者じゃないと思うけどねボクは)

 珍しくネウ子がため息(らしきもの)をつくのが聞えた。

ネウロイ(裏切り者じゃないか。彼女は私怨で何人もの人間を殺してきたんだ)

私「……そうだな」

 わかっていたつもりだったが、いざ他人の口から言われると相当につらいものがあった。
 少し前までなら適当に聞き流していたのだろうが。

ネウロイ(それで、これはお願いと言う名の命令でわっちが決めた決定事項なのだけれど)

 どうやらこのネウロイは外見と違いネウロイの中ではかなり高い地位にいるらしい。(ネウロイに序列があるかは謎だが)

ネウロイ(あと2カ月以内にこの巣の近くにあるウィッチ達の基地破壊してね)

私「何っ!?」

ネウ子(私ちょっと落ち着いて)

 ネウロイに掴みかかろうとする私をネウ子が止める。

ネウ子(そりゃまた突然だね)

ネウロイ(別に突然でもないさ。というよりもお前が遅すぎるんだ )

ネウ子(こっちにはこっちのペースってものがあるんだヨ)

ネウロイ(人間を観察するのにペース? 片腹大激痛でよじれてコアが粉砕されるからやめてくれないか)

ネウ子(そのままおっちね)

ネウロイ(お前が死ね)

ネウ子(……!)

ネウロイ(……!!)

 二人が何やら言い争っているようだが、私には遠くのことに感じた。
 結局のところ、私は彼女たちをフリ切れてはいないのだと理解してしまったから。
 だから基地を破壊すると聞いて掴みかかろうとしたのだ。 

ネウ子(……私!)

私「えひゃっ!?」

 意識が殆どウィッチ達のことに向かってしまい話を聞いていなかった。
 突然振られて上ずった声が出た。

ネウ子「……聞いてなかったでしょ」

私「あ……うん」

ネウロイ(これだから元人間はダメだ)

ネウ子(今はネウロイなんだから関係ないヨ。まあそれは置いといて)

 ネウ子は一呼吸置いてから私に訊ねる。

ネウ子(キミはどうしたいんだい?)

私「どうしたいんだって……」

ネウ子(こいつの言う通りに基地を破壊するか、ということさ。わたしは反対だけどね)

 いつになくネウ子の真剣な声。ふざけているわけではなく本気のようだ。

私「私は……私は……」

 確かに私だって反対だ。
 このままでは彼女たちと戦わなければならない。間違いなくルッキーニやシャーリー達を相手にすることになる。
 ならば、彼女達がいない隙を狙って基地だけ破壊するのもいいかもしれないと私は考えた。
 整備兵などは適当に威嚇して基地の敷地外に出してやればいい。

私「……私は条件付きならば」

ネウ子(それでいいのかい?)

ネウロイ(あ、そうそう)

 頷こうとする私にネウロイは思い出したように手を叩いた。

ネウロイ(基地で働いてる軍人はもちろんその時基地にいた一般人も皆殺しね)

私「はあ!?」

ネウロイ(だって当然だろ? これは戦争なんだから。というかキミたちがおかしいだけなんだよ。本来僕らはもっとこう人のことなんて考える必要なんかないはずなんだよ)

 確かにそうなのかもしれない。
 しかし私はそれには賛同することはできない。私は彼女達と離れたくないということに気づいてしまったから。
 実に自分勝手で、我儘で、言い訳にしか聞こえなくても私はルッキーニいや彼女達と一緒に居たいのだ。

私「ならば私は賛成はしないな。基地を壊すだけでそのあたりの侵攻は楽になるだろう」

ネウ子(同意だね)

ネウロイ(そう言うとは思っていた)

 言うが早いか私とネウ子の足元が赤く染まると、そこから私達を目がけて二本の光線が発射された。
 どうやら奴は座っている間に私達の足元まで巣を侵蝕していたようだ。
 しかし互いに予想できていたので危なげもなく後ろへと回避をする。
 避けるならば前に避ければよかったと軽く後悔をする。奴との距離がかなり離れてしまった。

ネウ子(じゃあ交渉決裂ということでいいようだね)

 ネウ子は頭上にあるコアを自らの胸に収納(どうやってかは謎)する。
 私もジリオスを抜くとネウロイに構える。緑色にのぼる障気でネウロイが揺れて見えた。

ネウロイ(その通り。わっちはこれからキミたちを破壊した後にこの巣を乗っ取り直ぐにでもこの近辺の侵蝕を始めることにしよう)

私「そういうことは私達を殺してから言うことだな」

ネウ子(全く持ってその通り)

 とは言ったものの正直辛い。
 それほどまでに私と奴の力の差はある。そもそも巣を、それも内側から侵食するということ自体がデタラメなのだから。

私(おいネウ子)

ネウ子(なんだい?)

私(いけると思うか?)

 ネウロイをにらみつつ、少し間を置いてからネウ子は答える。

ネウ子(無理ダナ)

私(やっぱりそうか)

 心の中でため息をひとつ。
 これがヒーローや英雄が活躍する絵本や漫画ならば例え1%でも成功するものだが、残念ながらこれは現実。 夢じゃないしメルヘンでもファンタジーでもない。
 ネウロイの周囲は既に赤く染まって、完全に奴の支配下に置かれている。
 この分だと逃げようにも既に出口まで浸食して逃げ場を封じているだろう。

私(じゃあこうしよう。互いに突っ込んでどちらかが奴のコアを破壊するんだ)

ネウ子(まあそれしかないヨね)

私(それで互いに攻撃を受けた場合にはダメージが比較的軽いほうがどこでもいいから穴をあけて逃げ出す)

ネウ子(重い方じゃなくて?)

私(この状況で重傷を負ったら助かると思うか? もう突っ込むしかないだろう)

 チラリとネウ子は右手側にある壁を見た。どうやらそこが一番薄いらしい。

私(まあ、死んでも恨むなってことだ)

ネウ子(りょうかーい)

 口では軽く言っているが、内心相当恐ろしい。
 死ぬこともそうだが、何より二度と彼女達に会えないということが何よりも恐ろしい。
 こんなことなら自覚なんてするんじゃなかったなあと思う。

私「さて、随分と待たせて申し訳ない」

ネウロイ(おやもういいのかね? わっちはまだまだ待っててもいいのだけれど)

 普通ならば無言のまま攻撃を仕掛けてもいいのだが、コイツは普通ではないし、既に無傷では触れることも難しいほど守りが堅くなっているのであまり関係が無い。

ネウ子(既に巣の5分の2を侵食しておいてそれは勘弁願いたいね。あと5分もしないうちに完全に奪われちゃうだろうし)

私「じゃあまあ……いくか」

 私の言葉でネウ子とほぼ同時に私もネウロイへと特攻を仕掛ける。
 当然ながらネウロイも私達に合わせて床と私達の前方から光線を放つ。

私「上」

ネウ子(左)

 初撃の二方向を躱すと間髪いれずに次の攻撃。
 今度は私とネウ子への攻撃の方向を変えたようだが、まだ互いの攻撃の方向を見る余裕はある。

ネウロイ(これくらいは流石にできるか……ならこれならどうかな?)

 ブンッと何かが現れるような音が聞えた。第六感が警報を鳴らす。
 右へステップして回避を行う。その瞬間、激痛が走った。

私「いぎっ!?」

 足を止めずに顔を苦痛に歪ませながら視線を下にやると、胸に小さな穴があいていた。恐らく貫通している。
 どうやらコアに少々傷が入ってしまったようだ。

ネウ子(私っ!)

私(足を止めるな! 止まったら死ぬぞ!)

ネウロイ(いやいやまさか今のを音と勘だけで避けるとは思わなかった)

 もう一度同じような音。今度はさっきよりももっと右へと跳ぶ。
 が、再び走る激痛。

私(いづう……でも……見えたぞ……)

 激痛を感じた瞬間、ジリオスから出る障気が一瞬だけ一部分丸く消えた。
 つまりコイツはビームを不可視にして撃っている。 

私(デタラメもいいところだ……)

 煙玉でも水でも、とにかく光の軌跡が分かるか弱められればいいのだが生憎私もネウ子もそんなものは持ってない。

私(ネウ子)

ネウ子(何?)

私(とっとと逃げろ)

 ネウ子の返事を聞くよりも速くネウロイへと突っ込む。
 避け続けても見えないビームによってこちらはほぼ確実にダメージを負ってしまう。
 私はコアに傷を入れられたが幸いネウ子はまだダメージを受けていない。

ネウロイ(これだから人間は嫌いなんだ。どうして無謀にも突っ込んでくるのかな)

 あと数メートルといったところで、ネウロイの周りが再び赤く染まる。
 これを喰らえばコアに甚大な損傷が出るだろうが、数分は持つだろう。
 視界を赤い色が染める。

ネウロイ(死ね)

 ホント、わかってないなコイツは。

私「あ”あああああああああああああああああああああああああああああ!」

 激痛からの叫びか、それとも感情の爆発からの叫びか、そんなことはもうどうでもよかった。
 ネウロイが私の叫びに怯えて一歩下がるが、勿論逃しはしない。

私「……捕まえた」

 激痛で朦朧とする意識で言葉をひねり出す。

私「私はお前を……捕まえた……」

 コアに既に亀裂が入り始めている。持って後5,6分といったところだ。

私(それで十分だ)

ネウロイ(何故だ! 何故動きを止めない!? どうしてそんな姿で立っていられる!?)

 姿を確認する余裕はないが、恐らくひっどい格好なのだろう。
 とりあえず左足が無くなったのはわかる。

ネウロイ(は、はははまあいい。すでにわっちのコアの半分は巣に入っている! 今刺しても完全には殺せない!)

 ちらりと上を見ると奴のものであろう巨大なコアがいつの間にか浮いていた。

私「お前は……あまり……人間を……」

 息も絶え絶えにジリオスを奴の胸へと突き刺す。
 ビキン、とコアに刺さる音が静かに響いた。

私「……嘗めるな」

 私は元だけどな、と心の中で呟いた。

ネウロイ(ひ、ひひひっひ! た、確かに痛かったがまだ半分コアは残っている! お前を殺すことくらい造作もない!)

私「……そう、だな。私は、お前に殺さ、れるだろう」

 激痛が走っていたのに笑みがこぼれてきた。

私「でも、な……まだ、あいつらがいる。ウィッチ達が……いる……」

ネウロイ(ふん! そんな奴ら力が半分しかなくてもたやすく倒せるわ!)

私「言っただろう……人間を……嘗めるなってなぁ!」

 最後の力で強引にネウロイの体を上に真っ二つに割ると、仰向けに倒れながらジリオスを全力で上へと投げる。

ネウロイ(ひっ)

 カキンッ

私「……チッ」

 限界だったのは私だけではなくジリオスもだった。
 ネウロイの残りのコアに僅かな傷を付けて真っ二つに折れた。

ネウロイ(はひ、ひ、ひい……)

 新たな体で現れたネウロイは胸に手を当てながら、力尽きて倒れた私の前に立つ。

ネウロイ(さ、最後に悪あがきしやがって! おかげで本調子まで戻るのに相当かかるじゃないか!)

 僅かな傷だろうがコアに直接刷り込まれた障気は除去するまでに相当時間がかかる。
 人員や装備の補充の時間稼ぎはできるだろう。

ネウロイ(でも所詮貴様は人間。ここが限界ってことだ)

私「……するな」

ネウロイ(あ?)

私「勘違い……するなと……言っている……」

 ネウロイに向けて顔を上げ睨みつける。

私「ネウロイを、倒すのは、ネウロイ、じゃない、いつだって、人間だ……」

ネウロイ(ふん。その人間は今ここで死ぬようだが?)

私「私じゃ、ない。……彼女達が、いる」

ネウロイ(何をバカなことを……おしゃべりが過ぎた。このままほったらかしにしても死ぬだろうが、どうしても自らの手で殺さないと気が済まない)

 ネウロイが手を広げると手のひらが赤く染まる。
 もう指一本動かない私はコアを砕かれて死ぬだろう。

私(……ルッキーニ)

 笑顔のルッキーニが私に手を差し伸べている。死ぬ前にみる幻というものなのだろうか。
 もしそうだとしたら、人を殺した私にずいぶんと嬉しいことをしてくれるものだ。

ネウロイ(じゃあね)

私(大丈夫……もう……離れないから……)

 握り返したその手はとても温かくて、体の痛みが全て消えていくように感じた。



 ????

私「……んぅ?」

 気が付くと私はベットの上にいた。
 太陽の光がカーテンの隙間から差し込んで目が覚めたようだ。
 窓から外を見ると見覚えのある青い海と青い空があった。

私「……何故だ?」

 確かにあの時私はネウロイにとどめを刺されたはずなのだがどうやら違うようだ。
 天国とはこういうところ(いけるとは思っていないが)と思っていると、馴染みのある魔力の反応を感じ、どうやらここは現実らしい。

私「とにかく……何故私は501の基地に戻っているんだ?」

 消毒液の匂いやベッドがいくつかあるので医務室のようだ。
 体をベットから動かすと、なんとなく近くの鏡を見てみる。

私「うわぁ……」

 思わずそう言ってしまうほど、痛々しいほどに包帯がほぼ体全体に巻かれていた。
 少々視界が悪いと思えば右目に包帯が巻かれているし、左腕と右足は包帯が巻かれすぎて肌が見えない。
 なお右腕は一度吹っ飛んだのか綺麗な状態になっている。あと左の頬に縦に傷が少し残っていた。

私「……」

 コアを確認してみると、以前より小さくなってはいるがほぼ無傷の状態で胸に収納されていた。

私「……ん」

 医務室の扉の前に魔力の反応が二つ。これは坂本と宮藤のものだ。
 扉を開けた二人と目が合う。

坂本「傷はもういいのか?」

 意外にも坂本は笑顔で私の心配をしてきた。
 てっきり出会いがしらに烈風斬でも叩き込まれると思っていたのだが。

私「ああ」

宮藤「無理しないでください。4日も目を覚まさなかったんですから」

 あれから4日、かなりの日数の間眠っていたらしい。
 宮藤に指示されるまま私はベッドへと腰かける。

私「……私はどうしてここにいるんだ?」

坂本「……あの日、我々が作戦を立てる為基地に戻る途中、巣の反応が消失しかけているとサーニャが言ったんだ」

宮藤「わたし達は様子を見る為に巣へと急いだんです」

 そういえば、ネウ子の姿が見えない。
 巣の反応が消えたのは逃げ切ったのだろう。

坂本「巣の近くにたどり着いたわたし達が見たのは、今まであった巨大な巣が崩れて、新たな巣が中から出てきたところだった」

私「……アイツの巣だな。これは後で話そう」

宮藤「何が起こっているのかわからない私たちの前に彼女が現れたんです」

私「彼女?」

坂本「人型のネウロイのことだ」

 私はほっとした。坂本たちの前に現れたということは逃げ切ったのだ。

坂本「その腕にボロボロのお前を抱えて、自らもボロボロの姿でな」

私「……え」

 どうして、あいつは逃げたはずなのに。

坂本「わたし達はそのネウロイがあの巣の主だったとなんとなくわかった。震える腕で、白く塵になっていく足でお前をわたし達に渡すと満足したように消えていった」

私「あ、あいつは先に私が逃がしたはずなんだ! どうして! どうしてなんだ!?」

坂本「……わたしは巣のなかで何が起こったかはわからない。だが、間違いなく言えることはあのネウロイはお前を命をかけて助けたということだけだ」

 胸に手を当てコアの情報を整理してみる。
 そこにはネウ子が私が攻撃を受ける寸前に私を庇ってコアに傷が付いたこと。
 傷ついた体で私を抱えながら、自らのコアで砕けかかっていた私のコアを修復した記録が残っていた。

私「あいつは大馬鹿だ……せっかく私が痛い思いをしてまで道を作ったのに……」

 ネウ子との過ごした日々が鮮明に浮かんでくる。
 確かにあいつは碌なことをしなかったし、みょうちくりんな案しか出さなかった。
 それでもあいつは私にとって大切な友人であり、本音を言える数少ない仲間だった。

私「バカ……ほんっとバカ……」



 気が付くと坂本たちは既に部屋からでていた。

私「……なあ、ネウ子お前は私にどうしろっていうんだ」

 ぼそりと呟いた言葉は当然ながら返事は返ってこなかった。

 ガチャッ

 誰かが医務室に入ってきた。この魔力の感じは――。

シャーリー「よっ元気そう……ではないみたいだな」

私「シャーリー……」

 シャーリーは私のベットの横に置いてあった椅子に座る。

シャーリー「私が眠っている間、基地にいる殆どの人間がお見舞いに来たんだ。ミーナ中佐達を除いてな」

私「そう、なのか」

シャーリー「……ホントはミーナ中佐やバルクホルンやペリーヌも私に会おうとしたんだけどな、あの3人は色々あったし複雑な気持ちなんだと思う。坂本少佐もよくわからない表情をしてたけどな」

 私たちはしばしの間何も言わず、ただじっと時が過ぎるのを待っていた。
 沈黙に耐えきれずに私は口を開く。

私「……なあシャーリー」

シャーリー「ん?」

私「私は一体どうすればいいんだろう」

 私はネウロイであって人間ではない。
 そんな私が敵対するウィッチと一緒の基地にいていいはずがない。
 しかし私は都合がいいことに彼女達と再び暮らしたいと思っている。

シャーリー「んー……そんなに難しく考える必要ないんじゃないか?」

私「え……」

シャーリー「私がどうしたいか、それだけだと思う」

私「……そうか」

シャーリー「それにやらないで後悔するよりやって後悔した方がいいだろ? もう一度戻ってくるならあたしは歓迎する。でも今度は最後まで一緒だ」

私「シャーリー」

シャーリー「ん?」

私「……ありがとう」

 シャーリーは照れ臭そうに頬を掻いた。

シャーリー「な、なんだよ私らしくない」

私「そうでもないさ」

シャーリー「それに礼を言うならルッキーニに言ったほうが良いんじゃないか?」

私「ルッキーニに?」

シャーリー「あいつはお前がここに運び込まれてからずっとお前の手を握ってたんだ」

私「手を……」

シャーリー「宮藤が治療してる間もずっとだ。今にも泣きそうな顔でずっと握ってた」

私「あれは……」

シャーリー「ん?」

私「アレは夢じゃなかったのか……」

 暖かかった手のひらの温度は今もしっかりと覚えている。
 ベットから降りて立とうとする。が、まだ足に力が入らずにへたりと座り込んでしまう。

シャーリー「おい無茶は……」

私「無茶なんかしてないさ……」

 立てかけてあった松葉づえを支えにして立ち上がった。


 砂浜

 あまり自由に動かない体で苦労してたどり着くと、ルッキーニが海を見て座っていた。
 表情は普段の彼女と違って明るいとは言えないが、夕日と海の音でとてもきれいに感じる。
 思わず見とれていたが、首を横にブンブンと振ってから私は無言でルッキーニの隣に座った。

ルッキーニ「……大丈夫なの?」

 少ししてからルッキーニから話しかけてきた。

私「ああ……」

ルッキーニ「そっか。ならよかった」

私「……ああ」

 会話が続かない。

ルッキーニ「……ねえ」

私「何だ」

ルッキーニ「私はこれからどうするの?」

私「私は……」

ルッキーニ「あたしは私とまだ一緒に居たいよ」

私「でも私は」

ルッキーニ「それでも! ……あたしは一緒がいい」

私「ルッキーニ……」

ルッキーニ「あたしね、最近私が死んじゃう夢を見たんだ」

 俯いたままルッキーニは続ける。

ルッキーニ「それでボロボロの私を治してた芳佳からもう大丈夫って言われても私は目を覚まさなくて、ずっと怖くて、怖くて……」

 私は何も言わずにルッキーニの震える体をそっと前から抱きしめる。

私「ごめんね……」

ルッキーニ「う、うぇ……」

私「泣くなルッキーニ。……もう私はどこにも行かない」

ルッキーニ「でも、でもぉ……無理、だよぉ……」

 私はバカだ大馬鹿だ。
 こんな小さな子を傷つけてしまって、泣かせてしまって。
 こんなにも大切に想われていることに気付かないで。

私「大丈夫だよルッキーニ……約束を、いや、誓おう」

ルッキーニ「うじゅ……?」

私「私はずっとお前についていく。お前を守り続ける。例え誰かに何を言われても、ずっとお前の傍にいる」

ルッキーニ「ほん、と?」

 涙をぬぐいながらルッキーニは顔をあげる。

私「ああ」

ルッキーニ「……ねえ、私ちょっと目を瞑ってじっとしてて」

 言われるまま私は目を瞑る。 
 何やら髪を何かされているようだ。

ルッキーニ「もう目を開けていいよ」

私「ん……」

 目を開くとまだ少し涙の跡が残っているが、ルッキーニが笑顔を見せてくれた。

ルッキーニ「髪触ってみて」

 触ってみると、髪が元々の形にまとめられている。

ルッキーニ「あの時私があたしのポケットにこっそり入れたリボンがあったよね」

私「ああ、あれのことか」

 あれは元々私がルッキーニに私の形見代わりにあげたものだ。
 どうやらそれを再び結んでくれたらしい。

私「別によかったのにあれはお前にあげたんだぞ?」

 ルッキーニは首を横に振る。

ルッキーニ「ううん違うよ。あのリボンはあたしが今使ってる」

 ルッキーニがツインテールの右側を指さすと、そこには私の黒いリボンが結ばれていた。

私「じゃあ今つけてるのは……」

ルッキーニ「あたしのリボンだよ」

 ルッキーニは私の首に腕をまわして、そっと囁いた。

ルッキーニ「……おかえり私」

私「……っ」

 おかしい。
 たった一言、おかえりと言われただけなのにどうして。

私「あ、あれ? なん、で?」

 涙が止まらない。
 拭っても拭ってもポロポロと涙が次々溢れてくる。

私「悲しく、無いのに、嬉しいはず、なのに……」

ルッキーニ「……大丈夫」

 泣き続ける私を、ルッキーニはそっと抱きしめてくれた。

私「う、うぇ、うぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 泣きながら心の中で何度も謝った。ごめんなさいとひたすらに。
 今まで殺してきた人たちへなのか、それとも私が生きていること自体なのかはわからない。
 ただただ、溢れて止まらなかった。



 部屋

 夜になって私に与えられたのは以前と変わらない部屋だった。
 ベットもぬいぐるみもほぼそのまま手つかずで残っている。
 ただテーブルの上に私とシャーリーとルッキーニが映った写真が増えていた。

私「いつの間に撮ったんだ」

 ベットに寝転がると、懐かしのぬいぐるみ達が崩れて私の上に転がってくる。

私「……なあ、ネウ子。お前は私に生きろって言うんだな」

 包帯だらけの左腕を上にあげ、手をぎゅっと掴むように握りしめる。

私「お前に助けられた命、今度は私が彼女たちのために使おう」

???(いやーヨかったヨかったその気になってくれて)

私「!?」

 ネウ子の声が聞えて慌ててベットから体を起きあがらせ当たりを見まわす。

ネウ子(そっちじゃないヨこっちこっち。胸胸)

私「えっ」

 胸を開いてみると私のコアの横に小さいコアが出来ていた。

ネウ子(やほー)

私「な、何やってんだお前! というか生きてたのか!?」

ネウ子(いやね、僕もそのつもりだったんだけどさ、僕のコアをキミのコアの接着剤代わりにしたら、少しばかり余裕があったらしくてね)

私「えーと、つまり?」

ネウ子(明日の朝にはキミのコアから離れて独立して動けるようになるってこと)

私「……全くお前は勝手なことを」

 口ではこう言っているが、内心とてもうれしく思っている。

ネウ子(ねえ……キミはホントにいいのかい?)

私「何がだ?」

ネウ子(キミが選んだ道はきっとネウロイとして生きるよりもずっと辛い道だろう。彼女達やこの基地はともかく他の人間にはキミは……)

私「構わない」

 自分でも驚くほど、ハッキリとした口調で言う。

私「これが私の選んだ道だ。例えその道が険しくて茨の道でも、彼女達と、お前といられる」

ネウ子(私……)

私「だから私は後悔をしない。ただ、前に進むしか私には出来ないからな」

 最後まで走り続けるのは難しいかもしれない。だが私はもう迷わない。
 包帯の巻かれていない右手で宙をぎゅっと掴んだ。
最終更新:2013年02月02日 14:28