―――とあるパブにて


「お、こんな時間に軍人さんかい、珍しいな、何飲む?」

「ウイスキー、水割りで」

「了解」

「…」

「…」

「はい、どうぞ」カチャン

「ん」ゴクゴク

「…お前さん、天災のウィッチ、って知ってるか?」

「……いんや、聞いた事ねえな、詳しく聞かせてくれよ」

「ああ、構わんよ。最初に言っとくが”てんさい”っつっても黄の14や黒い悪魔とかとは別の、災害を意味する方の天災なんだけどな
 何でもなぁ、そいつはウィッチの中でも珍しい男なんだとよ
 扶桑のでっけえ船を使って欧州各地をぶらぶら放浪してて、どこからともなく戦前にいきなり現れちゃあネウロイを一掃して消えちまうらしいんだ」

「ふぅん…ミラージュウィッチーズみたいなもんか」

「ハハハ、違うな、ミラージュウィッチーズが伝説なら、天災は噂の域だ」

「……噂、か」

「それに、どうもそいつからはあまり良い噂を聞かなくてな…
 ネウロイを撃墜するだけならともかく、関係の無い民家やウィッチ達を巻き込む事もあるらしい」

「それですぐ消えちまうって訳か…たしかに、天災だな」

「ああ、ホント天災だよ、ロマーニャ人にとっちゃ害悪以外の何モンでもねぇ」

「害悪ねぇ…」

「……そういやお前さん、よく見てみれば扶桑の軍服じゃないか、こんな所まで大変だねえ」

「ああ、まぁな」

「いいねえ、やっぱよ、ストライカーユニットの整備とかしてたらウィッチとお近づきになれるもんなのか?」

「んあ? 俺は整備兵じゃねーよ」

「え? だったらもっとお偉いさんだったかい?」

「ハッ、偉い事に変わりはねぇな。俺はな……ウィッチだ」

「…ハハハハ、扶桑人にしちゃレベルの高いジョークだな」

「ジョークのレベルをもう少し上げてやろうか?」

「は?」

「俺がその害悪だ、糞ったれ」

「…」

「ウイスキー、おかわり」

「奢らせてもらいます」




―――数日後、海上にて


坂本「く…まだ沸いてくるか!」

エーリカ「ぜんぜん減んないよー」ババババババババ

リーネ「弾数残り僅かです!」

シャーリー「糞! どんだけ沸いてくんだ!」

ミーナ「…不味いわね」

坂本「ああ、徐々に戦場をロマーニャ方面に動かされている。このままじゃ町を襲撃されるのも時間の問題だな」

ミーナ「ええ…でも…」

坂本「分かってる。諦めたりするものか、ここで何としても食い止めるぞ」

ミーナ「…そうね」

エイラ「駄目だ! キリが無い!」

サーニャ「ロケット弾もうありません!」

ルッキーニ「ハァ…ハァ…」

ミーナ(だけど皆の体力を考えてもここに居続けるのは―――万が一誰か怪我でもしたら)

ミーナ(でも、それじゃ少なくともロマーニャに被害が…)

バルクホルン「く…! 撃ちもらした!」

エーリカ「ミーナ! 危ない!」

ミーナ「へ?」

ミーナ(はさまれた!? 早くシールドを…駄目、間に合わない…!?)

「―――ロケット花火」

ミーナ「な!? きゃあ!」ドゥーン

坂本「ミーナ!!」

バルクホルン「ネウロイを吹っ飛ばした…?」

エーリカ「だ、誰?」

サーニャ「…上空に反応あり、ネウロイじゃありません!」







「ぼさっとしてる暇があったらシールドでも張ってろ愚図」

そんな声が聞こえた。
思わず見上げようとすると、ソレは太陽を下に火を噴きながら高速で急降下し、敵陣に突っ込んだ。
敵の増援か、とは思わなかった。
何故なら一瞬だがストライカーユニットの側面に扶桑のエンブレムを確認出来たからである。

坂本「何だ!?」

「鼠花火」

そう呟くとその男を取り囲むように、まるでガソリンでも撒き散らしたかのように炎が噴出した。それは一瞬で男の姿を視界から遮る。
まるでフラフープのようだ、と坂本は思ったがそんな可愛い物では無いとすぐさま思い知らされた。
摂氏3500度にも及ぶフラフープはゴゴゴ、と酸素を吸い込む轟音とともにそのまま範囲を広げ、ネウロイ達、そしてウィッチ達をも巻き込んだ。

シャーリー「あちちちち!」

バルクホルン「誰だか知らんが周りの事も考えろ!!」

男がいた中心部は太陽のように白く輝き、まともに目視出来るものではなかった。
しかし、その輝きこそが爆炎の激しさを物語っている。

サーニャ「ネウロイの反応、消えていきます!」

ペリーヌ「ネウロイが退いていきますわ…」

宮藤「い、一体誰なんでしょうか?」

ネウロイの大群がいなくなった事を確認すると、男を取り囲んでいた爆炎も消えウィッチ達はその男の姿を確認する事が出来た。

扶桑皇国の海軍の制服を着ているようだ。
だが、坂本とは違いその制服のボタンは上から下まで一つも閉じられておらず、ばたばたと風に揺られている。
そして、何よりウィッチ達の目を惹きつけたのは片手で肩に背負うようにした長い棒。その全長はゆうに男の二倍を超えるだろう。
どこの不良だ、と坂本は思った。

「――――――かませ犬にしちゃあ、上出来だ」

呆然としていたウィッチ達を他所に男はそう、どこか楽しげにそう呟いた。
一時はあっけに取られたミーナだが、何とか冷静を装い男に尋ねた。

ミーナ「…救援を感謝します。あなたは何者ですか? 所属と階級、氏名を述べて下さい」

花火「名前は…花火だ。階級は大佐。所属は今日からこの、501だ」


―――帰還中

バルクホルン「おい貴様、ネウロイを撃墜するのはともかく何だあれは、私達まで落とす気だったのか」

花火「あん? 誰だ」

バルクホルン「…ゲルトルート・バルクホルン、階級は大尉だ。それよりさっきの質問に答えろ」

花火「…確実にネウロイを堕とすにはあの程度の火力は必要だ。それにお前らははあれで落ちる訳でもねえだろうが」

バルクホルン「たしかにそうだが…それでも配慮という物があるだろう」

花火「んなもん、面倒だ…」ブゥン

バルクホルン「貴様、どこに…」

花火「触れんな」スッ

バルクホルン「なッ…何だその態度は!!」

エーリカ「まぁまぁトゥルーデ、さっき会ったばっかで階級も上なんだし、ね?」

バルクホルン「たしかにそうだが…」

花火「…余計な真似すんじゃねえよ」

エーリカ「」ニコ

バルクホルン「…?」



―――基地


宮藤「てんさい…ですか?」

坂本「ああ、それが奴に付いた通り名だ」

エイラ「あ、聞いた事あるぞ」

ペリーヌ「わたくしも噂だけなら…」

ミーナ「私も聞いた事はあるけど…知り合いなの?」

坂本「直接会った事は無いが艦は違えど所属が同じ遣欧艦隊なもんでな、噂はよく聞いていた」

宮藤「噂?」

ミーナ「たしか、急に現れてはネウロイを全滅させてすぐ消えてしまう…だったかしら」

ペリーヌ「それに撃墜数は五百機を越えているとか…ま、所詮噂ですからあてになりませんけど」

宮藤「何だかかっこいいですね、それに撃墜数五百って…」

坂本「それだけなら良いんだがな…奴は周りを気にしなさすぎなんだ」

宮藤「え?」

ペリーヌ「あの時も見たでしょう宮藤さん? わたくし達がシールドを張ってなかったら今頃大火傷ですわ」

エイラ「シールド張っても煤まみれになっちゃったけどナ」

ミーナ「酷い時は火事も起こした事があるそうね…もう少し周りに目を配っていれば天災、なんて呼ばれなかったと思うんだけど…」

宮藤「え? え? てんさいってそっちの意味だったんですか? てっきり凄く優れたウィッチなのかと…」

坂本「いや、そっちの意味でも間違いでは無い…と思う」

宮藤「えええ?? どっちなんですか?」

坂本「天災と天才、両方の意味を掛けてるらしいと私は聞いたんだが…詳しい事は私もよく知らん」

宮藤「うー…何だかややこしいですね」

エイラ「そう言えばその当の本人はどこ行ったんだ? 挨拶もせずに」

ペリーヌ「たしかにハンガーから出てったきり見てませんわね」

坂本「あいつなら風呂だ。私も止めたんだが入らなければ死ぬとか言い出してな…一応入れといた」

ミーナ「就任早々何考えているのか…頭が痛いわね」


―――風呂

花火「ふぅ…まさか風呂があるとはな…」カポーン

ガラララ

シャーリー「よお! 花火!」

花火「………誰だお前」

シャーリー「あれ? 反応薄いな」

花火「まぁな」

シャーリー「入るぞ」チャポン

花火「……おい」

シャーリー「え?」

花火「さっきあったばっかの見ず知らずの男が風呂に入ってんだぞ、警戒のけの字もねえのかお前には」

シャーリー「そうだなー、警戒は一応してるぞ? ちゃんとタオル巻いてるしな!」

花火「そうかい、じゃあ何で入ってきた」

シャーリー「ちょっとお礼が言いたくてな」

花火「…」

シャーリー「ロマーニャはな、ルッキーニの故郷なんだよ」

シャーリー「あ、ルッキーニってのは髪の毛を両サイドで結んだちっちゃい子なんだけど」ブク

シャーリー「今日結構私達危なかっただろ? あのままだとルッキーニの町がネウロイに襲われてたかも知れないんだ」ブクブク

シャーリー「でもそこにお前が助けに来て…」ブクブクブク

シャーリー「熱!!」バチャン

花火「あ、悪りい、ちょっと温度上げすぎた」

シャーリー「お、お前そんな事まで出来んのかよ…」

花火「礼は受け取った、さっさと出ろ」

シャーリー「はぁ…分かったよ、邪魔して悪かったな」

花火「ああ、邪魔だ邪魔、どっかいけ」

シャーリー「はいはい」


―――数時間後、花火部屋

花火「眠…」

バルクホルン「おい、夕飯だ起きろ」ガチャ

花火「ん、ああ」

バルクホルン「全く…自分の階級を考えろ、貴様はそれでも大佐か」

花火「生憎これで大佐だ。お前の上官になる」

バルクホルン「…そんな事、わざわざ言われなくても分かっている」

花火「それよりも夕飯だったな」

バルクホルン「ああ、さっさと着いて来い」


―――食堂

花火「こいつは…」

宮藤「あ、出身が扶桑って聞いたから扶桑料理多めにしてみたんですが…」

花火「…戴きます」カチャ

宮藤「ドキドキ」

花火「モグモグ」

宮藤「ドキドキ」

花火「モグモグ」

エイラ(…何か喋れよ)

リーネ(あ、納豆も食べてる…やっぱ扶桑だと平気なのかな)

宮藤「あの、おいしいですか?」

花火「モグモグ」

宮藤「ショボン」

バルクホルン「おい貴様! 宮藤の質問に答えたらどうだ!」

花火「モグモグ」

バルクホルン「ッ…貴様!」

花火「バリボリ」

リーネ「バリボリ?」

宮藤「別に魚の骨まで食べなくても良いんですよ!?」

花火「…ゴクン……お茶だ」

宮藤「は、はい!」

坂本「良い顎をしてるな…」

バルクホルン「…」イライラ

サーニャ(…ねぇエイラ、あの人は)

エイラ(サーニャは近づいちゃ駄目だぞ)

宮藤「はい、どうぞ」コト

花火「ん」ズズズ

花火「ふう………ご馳走様」

宮藤「…あ、どうも…」

バルクホルン「おい、他に何か言う事は無いのか!?」

花火「何だ? デザートまで用意してんのか?」

バルクホルン「ち・が・う!! あれだ…こう…おいしかった、とか…とにかく色々あるだろ!」

花火「そいつぁお前の感想だろ、自分でその宮藤ってのに伝えたらどうだ」

バルクホルン「違う!! からかうのもいい加減にしろ!!」」ガチャン

サーニャ「きゃ」

エイラ「アッチデヤレー!」

坂本「おい、バルクホルン」

バルクホルン「もう我慢ならん! 営倉にぶち込んでやる!」

花火「ハッ、やってみろよ!」

宮藤「バ、バルクホルンさん落ちついて…」

ミーナ「もう! やめなさい二人とも!!」

ミーナ「バルクホルン大尉、あなたはとりあえず頭を冷やしなさい」

バルクホルン「う…」シュン

ミーナ「花火大佐、あなたはバルクホルン大尉に謝りなさい」

花火「別に俺は悪い事なんて」

ミーナ「謝りなさい」

花火「…嫌だ」

シャーリー(マジか…否定しやがったよあいつ)

ルッキーニ(私しらないよ!)

ミーナ「…そうですか、だったら今日はもう部屋に戻って寝なさい」

花火「…りょーかい」

「「「…」」」

ミーナ「…ハァ」フラ

坂本「おい、大丈夫かミーナ」

ミーナ「え、ええ、大丈夫よ。ちょっと頭が痛いだけ…」

坂本「全く…あいつは何を考えているんだ…」

エイラ「…隠者の逆位置か」ペラ

エーリカ「…」


―――夜、バルコニー

花火「…………で、どうしててめえがここにいる」

エーリカ「それはこっちのセリフだったりして。部屋に戻るんじゃないの?」

花火「ハッ、そんな馬鹿正直に戻ってられっかよ。それより俺の質問に答えろ、どうしてここに来るのが分かった」

エーリカ「勘かな」

花火「勘か、すげえな、その勘で今まで何機のネウロイを殺してきたんだろうな、黒い悪魔」

エーリカ「…嫌な言い方すんなよ」

花火「本当の事をそのまま伝えただけだろ?」

エーリカ「むぅ…まぁ今はいいや、実はキミにちょっとした用があってね」

花火「ああ? 用?」

エーリカ「うん、今日さ、ミーナが危なかった時助けてくれたでしょ?
      あのままだったら絶対怪我してたと思うんだよね。だから助けてくれて有難う」

花火「また礼か…」

エーリカ「え? またって?」

花火「いや、何でもねえよ」

エーリカ「あ、それとさ、帰還する時トゥルーデを遠ずけたよね、あれも実は怪我させないためだったりしない?」

花火「…ちげえよ、愚痴愚痴とうっとおしかっただけだ」

エーリカ「別に照れなくて良いって~。あの時さ、キミの体は凄く熱くなってたでしょ? だから触ると危険だからーとかじゃないの?」

花火「な…どうしてそこまで分かる」

エーリカ「ニャハハ、私って結構空気の流れとかに敏感だからさ、分かっちゃうんだよね」

花火「……苦手以上に、厄介だなてめえは」

エーリカ「酷い事言うなーもう。ま、言いたい事は言ったし、私はそろそろ寝るね?」

花火「勝手に寝ろ、二度と起きてくんな」

エーリカ「素直じゃないね、そんなんじゃ疲れちゃうよ?」

花火「…」

エーリカ「ありゃりゃシカトだよ。まぁ、おやすみ」

エーリカ「あんまりトゥルーデやミーナを苦労させんなよな」



花火「…分かってる…分かってんだよ俺がどんなに迷惑掛けてるかなんて……」

花火「でも今そうしとかないと…いつか折れる」
最終更新:2013年02月02日 14:52