――ロマーニャ基地、待機室にて――
兵士「嘘だろ……っ……うぅぅ……くそっ…くそっ……。」
俺の周りの兵士達は無線機から響き渡る報告に対し、しゃくり声を上げて泣いている。
待機室内は、異様な絶望感に包まれていた。
俺(!?………はは…やったよ…!俺の願いが叶ったんだ…!勝手になりやがった…最悪の展開に…!)
誰もが泣き声を上げている中、自分だけは別の空気を吸っているような気分になり始めた。
…そうだ…とてつもない絶望感だろ…!?自分が何も出来ない…何も希望がないってことは…!
戦いたくても戦えない人達の気持ちが分かっただろ…!?もう才能があっても、無意味だ…!
気分が段々と高まっていくが、それでも、俺の心には何か残るものがあった。
このままだったら、みんな死ぬのか…でも…別に良いじゃないのか…!?才能もあったし、今まで飛べてきて楽しんで……
…これで……
………………みんなが……死ぬ……のか……
……苦しみ……ながら……
俺の頭に過ぎったのは、この世界に来て
初めて見た光景。炎に包まれ、誰もが泣き叫び、苦しんでいた街。
そして、ストライクウィッチーズ全員の笑顔だった。自分よりも年齢の低い少女達、元の世界なら遊んでいても許される年頃だろう、しかし日々戦い続けているウィッチ達。
今、彼女達は絶望に満ち溢れている。自分と同じように、立ち上がりたくても立ち上がれない。なおかつ、自らの命までも奪われてしまいそうな状況に陥っている。
……何を今更……いいんだ…これで…俺をのけ者にしたミーナ達が…………どうなったって…関係ない…
でも……俺と同じ……苦しみが……
苦しみが………今…………宮藤達に……。
俺「…っ……………。」
表情を失った俺は体育座りをし、俯いて目を瞑った。考えることを止めたくなった。
しかしそうすることにより、はっきりと耳に伝わってくる。
無線機からの、ウィッチ達の悲痛な声が。
『びえぇぇぇんっ…ヒック…やだぁ…やだぁぁあっ…!!…ヒック…ロマーニャが…みんなが…そんなのやだ…っ……シャーリぃぃっ…!』
…………ルッキーニの泣き声か…あんなに…まだ10歳なのに……俺の半分ぐらいしか生きていないのにな……
『ルッキーニっ……くそっ……もうあたし達は……………』
『そんな……宮藤さんでも……敵わないだなんて………』
…
シャーリーだってペリーヌだって……こんなに悲しんでるところなんて聞いたことがない……
『くっ……くそぉ…ダンッ!……すまない…クリス…っ………』
………そうだ…バルクホルンにとっての最後の…肉親……クリスがいるのに…このまま死ぬなんて……
『トゥルーデ…っ……うぅっ……そんな………もう駄目なの……?』
『…っ…エイラ……っ………うっ……ぐすっ……』
…あの…エーリカでさえ…サーニャでさえ泣いている……
『ソンナ……嘘ダロ………このまま…みんな全滅しちゃうナンテ………ソンナノ…』
エイラの泣きそうな声……本編で…こんな声聞いたことあったか…?
『芳佳ちゃん……彼さん…っ…こんなのって…ないよ………っ』
リーネ…宮藤の親友…彼女達がこれから、不幸のどん底に落とされるのか……
不幸の…どん底に…………ぐっ…!……
俺は自然と、下唇を噛みしめていた。強く、表面が切れて血が出るほどに。
血の味を舌が認知すると共に、痛みが全身へと広がっていくような感覚がした。
……血が……出てる……
『……美緒……私達はもう…駄目なの……?うぅっ……もう…ロマーニャも…カールスラントも…』
…!!…ミーナか……そうだ彼女は…あんなにも頑張っていたんだ……隊長ウィッチとして……毎日執務もしながら戦って…
…故郷も…恋人も…失ってきて……っ
『ミーナっ……っ…!私達には……もう……』
っ……坂本……少佐………――
――……………あの時と……同じだ……
俺はジェットストライカーを履いた彼が墜落した時のことを思い出した。俺が逃げ出し、通り過ぎようとした車両庫の無線機で聞いた、ウィッチ達の声、泣き叫ぶ宮藤の声。
全員の、彼の、宮藤のために走ったが、報われなかったあの時のことを。
……ははっ…一緒だ…あの時も…結局…俺が走ったって、何も報われなかったよな……宮藤のために…頑張ったのにな……放っておかれて…気にもされず……
宮藤は……彼と…恋に落ちて………
それに……雑用の俺が……今どう行動したとしても…………報われないし…何も……出来ない…
…したくても……何も……っ……
『……彼さんっ……彼さぁぁぁんっ………』
……宮藤…っ…!!
宮藤が喉を枯らしてまでも叫び続ける声が、耳に重く響き渡る。
『やだ…っ……いやだよっ………約束したじゃないですか……っ…!必ず…帰って来るって…っ…』
…宮藤……の…泣き声…………だけど…俺には何も出来ないんだ……
『彼さん………お願い……助けてっ……帰ってきて……っ』
…………………でも…
『うぅぅっ………やだよ……こんなの………彼さんが死んじゃうなんて……』
でも………っ…………それでも俺は……
『彼さんっ……彼さん…っ…!…彼さぁぁぁぁんっっ!!!』
…俺はっ……
『誰か……彼さんを……みんなを………っ…ひぐっ……お願い…助けて…』
俺は…っ!
『……彼さぁぁぁぁぁっん!!』
……俺は!!――
俺「……ッ!!」ダッ
兵士「おっおい!俺二等、何処へ行く気だっ!おいっ!」
座っていた俺は、突然立ち上がって待機室から飛び出した。
――ロマーニャ基地、ハンガーにて――
俺「はぁっ…!ぐっ……はぁっ!…はぁっ!つぁっ…!」ダッダッダッダッ!
俺はハンガーへ向かって全力で走った。何も出来ないことは分かっている。
それでも足を止めなかった。彼女達の悲しむところは見たくない。誰も死なせたくない。
俺は無線の声を聞き、自らの無力さで悲しむ彼女たちの苦しみを痛感した。
今まで自分が散々感じていた才能への嫉妬、憎しみ、無力な自分に対する絶望。
それを分かっているからこそ、彼女達にそんな苦しみは与えたくない。
たとえ才能がある彼女達だとしても、俺と同じ絶望感を感じて欲しくない。
どんなに憎んでいたとしても、死んで欲しくない。俺よりも低い年齢で戦っているウィッチの、これからという人生を失って欲しくない。
アニメ本編「ストライクウィッチーズ」の時と同じように、笑顔でいて欲しい。
それが今の俺の本心。最悪の展開を望んでいた俺の、今となって気付いた本当の想いだった。
俺「はぁっ……はぁ…っ…でも…駄目だ…でも…どうせ…っ…。」タッタッタッ…
だがしかし、俺はハンガーに着き、その中央で崩れるように地面へ伏した。こんな所に来ても、何も手立ては無い。彼女達を、扶桑艦隊を守る術は何も無い。
もしも俺がウィッチならばと思って訪れたハンガー。だがここに来たからといって、希望は何も無い。才能も魔法力も無い俺に、飛ぶことは出来ない。
駄目だ………無駄だ………っ……
俺「……何も……出来ないんだ……守りたくても…っ…やっぱり……何も……っ…くそっ……うぅぅっ…」
俺の目から涙が溢れた。ここハンガーでも、戦局を伝える無線が聞こえてくる。
『ピキィィィィィイ!……スドォォォォォン!……ザザッ……ザザッ…』
俺「俺は……やっぱり……何も出来ない……っ………ぅぁああああああっ…ぅぅ…。」
ここに来たって……俺には……ストライクウィッチーズを…兵士達を……ウィッチを……宮藤を守ることなんてできない……。
俺「………ぅぅっ……ぅうっ…ぐぞっ……ぐぞぉぉ……。」
力も…才能も…無いんだよ…っ…――
――……タッ…タッ…タ
その時、床に伏して泣いている俺の前方から、足音が近づいてきた。
その音に気が付き、俺は頭を段々と上げていく。そこには……
おじさん「ここに来たか…俺。」
俺「……っ……おじさん……?……」
涙で視界がぼやける俺の前には、おじさんが立っていた。
俺「おじさんっ……みんなが……501のみんな…が…………………………!!?……………」
そして俺は、おじさんの後ろに、布をかぶった飛行機のようなものも見つける。
そうだ…ここは朝…バルクホルン達が彼に何か言っていたところだ……俺の位置からじゃ見えなかったけど……こんな物があったなんて…。
おじさん「俺……この飛行機は最近完成し、今朝、上層部から送られてきたものだ。……彼と同様におれもいた研究所『731部隊』の研究データと扶桑海軍の技術を取り入れた新型戦闘機……」
バサッバサッと、おじさんは戦闘機に掛けられている大きな布を取り払った。
おじさん「コアコントロールシステムを取り入れた対ネウロイ用の特攻専用機……『梅花』だ。」
まるでネウロイのように真っ黒な飛行機が、その姿を表した。
おじさん「…………そして、この機体を動かせるのは…彼のような魔法力を持つ『ウィッチ』、『ネウロイ』自身、そして……」
おじさんは唾を飲み、俺と目をあわせる。
おじさん「…コアと接触したことにより…ネウロイと同じエネルギーを持った『共鳴した人間』……つまり俺、お前だ。」
俺「……!!」
おじさんは過去に彼と同様の研究所「731部隊」の研究員だったということを明かした。
そして本編には描かれていない、「ネウロイとの共鳴」とは一体何なのだろうか。
いきなりの発言に、当然俺は理解することが出来ない。
おじさんは俺に、今まで言わなかったことを話し始めた。
731部隊の実験にて、魔法力を持たない普通の人間がコアを触れることによって「共鳴」することは実証されていた。
そしてこの世界に来たきっかけである「コア」を触ったことにより、俺は既に共鳴していたのだった。
俺が大型ネウロイの瘴気の影響を受けていない姿を目撃し、そしてコアを触って別の世界から来たという俺の発言。
おじさんは出会った時から、俺が「共鳴」していることを既に知っていた。
おじさん「彼を背負って走ってる時に倒れたのも、彼に殴られて長く気を失ったのも…彼の固有魔法、ネウロイに対する『エネルギー吸収』のためだ。お前は確実に共鳴している。」
3体の小型ネウロイに囲まれたのも、彼を背負っている俺のことが本当に自分達の仲間かどうかを探っていたためであろう。
そして俺が見た夢やネウロイの声の耳鳴りも、全ての根源はコアを触ったことによる「共鳴」にあった。
おじさん「……一般人が共鳴したからって…ウィッチのように飛べるわけでもねぇ…魔法力を持たない人間はコアに触れることによって誰でも共鳴できる……決して特別じゃねぇんだ……その変わりに、魔法力を越えた力を生み出せる…。」
…!?……魔法力を……越えられる力……?
おじさん「真烈風斬を放った宮藤のように、ウィッチは魔法力を失っても生きられるが…共鳴した人間は体力や気力、生きる全てを司る『生命力』がネウロイと同じエネルギーに変わり、共鳴者は死ぬまで力を発揮するからな……」
ウィッチや普通の人間の根本的な生きるベースとなる力、「生命力」を犠牲にする。たとえ100年間生きようとする生命力を持っていたとしても、それを一瞬の力として凝縮することも可能となる。
俺「…………。」
おじさん「731部隊では…一般人を実験台にし、ネウロイのコアに触らせることによって『共鳴』させ続けてきた…。コアを触らせようとする、ネウロイのコミュニケーション反応を応用してな……。」
…じゃあ……ネウ子が宮藤にコアを触らせようとしたのも……共鳴させようとしていたため…なのか…?
おじさん「そして…共鳴した人間の…魔法力を越えた『生命力』を推進力とし、コアコントロールシステムに供給してネウロイに特攻させようとする実験を行ってきた…。今…この戦闘機が存在するように…。」
俺「…特攻………。」
おじさん「…だが、自らの手によって呼び寄せたネウロイにより、731部隊の研究所は壊滅。生き残りは彼と専属整備士を任せられたおれの2人…ということだ。コアに共鳴した大量の被験者につられ、現れるはずもないネウロイが集まってきてな………。」
俺「…!!…それじゃあ、ジェットストライカーの時に、基地の近くに発生したあのネウロイは……。」
おじさん「お前の影響、そして彼の固有魔法の影響もあったと言えるだろう……彼はネウロイからエネルギーだけでなく、本体自体も引き寄せる性質を持っているからな…。」
俺「…………。」
おじさん「……当然…上層部の連中は元731部隊の人間を快く思っちゃいねぇ…こんな実験をしていたことがバレたら、軍事バランスに影響が出てくる…だから今回の作戦で、ネウロイの巣と彼自身の消失を企み…梅花で特攻させようとした。」
そう言っておじさんは、自分の足元を見た。
おじさん「だが…501の彼女達は彼をこの梅花に乗せることに反対し……彼も上層部の命令に背いた…。その時…おれは彼が家族のように迎えられていることが嬉しくてな…ストライクウィッチーズなら、ネウロイの巣や上層部に立ち向かえる…そう思って彼をストライカーで出撃させた。だがしかし……っ…」
『しかしこの結末だ……今まで731部隊に関わっていた人間の罰は重い、自分たちだけ生き延びようとするなど決して許されなかった』とおじさんは思い、拳を強く握りしめた。
おじさん「巻き飲んでしまって悪かったな…俺…。お前がおれと同じ基地に即配属になったのは、親戚名義で入隊したせいだ。上層部は、おれと関係していると思われる人物を外部に漏らさせようとはしなかった………予想はしていたが…。」
予想してたとしても、おじさんは俺を入隊させたかった。諦めていた自分の命をどうであれ救った俺のことを、見捨てたくなかった。
おじさん「彼がコアに取り込まれ、こんなことになるとは思ってもいなかった……本当にすまない……俺…。」
俺「…………。」
おじさん「…共鳴しているお前にも動かせると言ったが…途中で生命力を失い墜落する可能性もある…。仮にコアに特攻することが出来ても……お前の命が助かる確率は低い…。」
俺「…………。」
おじさん「……おれの憶測だが…コアに触ってこの世界に来たお前なら、もう一度コアに触れることによって元の世界に戻れる可能性もあるだろう………だが、どちらにせよ…お前は……この世界から消えてしまう…!」
俺「…………。」
おじさん「これ以上…誰も失いたくねぇ……っ……だからお前を……絶対に梅花に乗せはしな――」
俺「ううぅ……っ…ぅっ……うぁぁ……。」
俺の目から、更に涙があふれ出ていた。止まらない。ただただ泣き続ける。
おじさん「………!!……俺…………。」
目を伏せていたおじさんが顔を上げ、驚いたように俺を見る――
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俺「俺は…っ…小さい時からっ……ずっと…何も出来なくて……才能がある奴に…敵わなくて…っ」
俺「馬鹿にされてっ……それでも力が無くて刃向かえなくて……っ…いじめられて……っ…」
俺「努力で変われるってことを信じて……っ…倒れたり…怪我しまくるまで走ったけど…っ…だけど才能に勝てなくて……」
俺「逃げ出してっ…この世界に来ても……ぅぅうっ…変われなくて…宮藤が好きでも……叶わなくて…ぅ…ぐっ……」
俺「みんなや…宮藤のために走ったのに…っうっ…見捨てられて…っ…だからみんな……才能のある奴らが憎くなって……」
俺「最悪の展開になればいいって…願っていたけど……でもっ……でも…っ!俺は……みんなの悲しむところなんて見たくないんだ…っ!!」
俺「あの501のウィッチ達が死ぬなんて嫌なんだ…っ………だから……たとえ…一言も話してもらえなくても…見てくれなくても……覚えていてくれていなくてもいい…っ…」
俺「宮藤が……彼のことをずっと好きでも…っ………それでも…かまわない……っ…。」
おじさん「……俺………お前っ……」
俺「ぐずっ…ぐっ…ずっ…ぅ……っ……俺でも…飛べるんですか…」
俺「俺……でもっ…うぅっ…みんなを…守れるんですか……?……」
おじさん「………………………あぁ………。」
おじさん「……………………あぁ…………あぁ……当然だ…!!!」
おじさん「…守れる……守れるぞ…!!……俺ぇ!」
俺「……っ!!うう゛っ…ぐっ……おじさん……っ……………」
おじさんの言葉を聞き、俺は溢れ出る涙を力強くぬぐい去った。
おじさん「……しかし、生きて帰れないかもしれないんだぞ!?本当に…いいのか…」
俺「…はい……俺にっ……」
そしてはっきりと、しっかりと、目を見開く。
俺「………俺に、やらせてください――」
――
おじさん「進路を空けろぉぉっ!!」
特攻専用機「梅花」の最終調整を行うため、全ての整備兵がハンガーに訪れた。
調整が終了し、おじさんは滑走路へと続く道を空けるよう、整備兵達に指示を送る。
俺は飛行服を身にまとい、飛行帽を被ってゴーグルを着ける。
そして梅花の操縦席へと乗り込んだ。足の一部が梅花と一体化する。
おじさん「俺、これを耳に着けていけ。ウィッチ達が使ってるものと同様のインカムだ。」
おじさんから貰ったインカムを耳に装着する。そして俺は指示を受けた通りにコアコントロールシステムを起動し、操縦桿を握りしめた。
おじさん「このまま飛べば、彼を取り込んだ巨大なコアへ自動的に引きつけられる。お前は力を注ぐだけでいい!!操縦桿に力を込めろ!」
俺「はいッ!!………ぐっ…おおおああああっ!!」グッ…
俺は両手で握っている操縦桿へと力を込める。同時に呼吸が乱れ始め、身体全身が熱くなってゆく。
しかし、梅花はビクともしない。いくら力を込めようと、エンジンの掛かる様子はない。
「動け、動け!」と心で強く念じても、俺の脈拍と体温が上がっていくだけで、少しも動かない。
…くそっぉ…!…動けっ!!…おおぉっ…飛べよ…飛べよぉぉお……ぅ…あああああああっ!!!……っ…ぅううっあ…!
……!!??……っ……苦しい…っ………ぐるしい……ぐぁ………うぁぁっ……
その苦しみは、走っている時と似ていた。苦しい、もう止めたい、頑張る必要なんて無い、楽になりたい…
目の前のランナーを抜くことを諦め、足を止めたくなる、誰もが感じたことのある苦しみ。自分の「生きたい」「苦しいのはイヤだ」という本能が働き始める。
どんなに意気込んだとしても必ず訪れる本当の「苦しみ」の時に対する、人間の反応。それは走ることを止めたくなる時の心理状況と酷似していた。
「ここまで頑張ったのだから十分だ」「もう楽をしていい」「おれが走ることに何の意味があるのか」と自分を守ろうとする理由を作り出す、追い詰められた人間の弱さ。
弱い人間の意気込みなど、その苦しみの前ではすぐに覆る。
……苦しい…っ……身体が……痛い…喉がカラカラする……腹も胸も苦しい………頭の後ろが………じんじんする………
俺の呼吸はかなり苦しくなり、身体は熱を通り越して痛みへと変わってゆく。
俺は段々と、操縦桿を握る力を弱め始めた。
俺「あああっ………うああっ……くそぉ………ぅぅうっ……。」
駄目だ…出来るわけが無い…っ…元の世界の……現実から逃げ出した人間が…戦うなんて…この苦しみを乗り越えるなんて……
物語や小説やアニメなら…台本を書くだけでいいから…いくらでも「乗り越える」なんてできる……
でも、この苦しみは現実だ……!苦しい……止めたい………止めたいっ!!生きたい…死にたくない…苦しいのは嫌だ!!
…俺には……才能がないんだ。…耐える力なんて無い……俺みたいな奴が……頑張れるわけ無い……才能がないから………出来ない……
もう……止めたい……――
おじさん「馬鹿野郎おぉ!!」
俺「……!?……おじっ……さんっ……」
諦め、俯き始めた俺を見たおじさんは、大声で叫んだ。
おじさん「甘ったれが!!……一番苦しい時が、本当の勝負だろうが!!」
…苦……しい………今が……本当の勝負………っ…………
おじさん「一番逃げたくなるそこを立ち向かってみりゃあ、乗り越えられる…お前なら出来る。」
…で………も……そんなこと……言われても……才能がない……俺は……
俺「だめ……だよ……彼みたいに……俺は…才能も無い…っ」
おじさん「自分自身で判断しろ!!生まれつきでも何でも無い!!………お前が自分自身で諦めてどうすんだよ糞野郎!!」
…諦めるのは………自分……っ……
おじさん「もう一度握りしめろ!!」
……そうだ………………苦しい……逃げたい…もう止めたい……………でも…っ!!
生まれついての才能には勝てないと………自分には出来ないと…諦める判断をしていた………自分自身…!!
この…一番苦しい時………今まで逃げ出してきた……この時………
整備兵達「いけえええええっ!!!俺えええええっ!!」「お前がやらねぇで誰がやるんだよ二等兵!!」「501を守ってくれよ俺ェッ!!」
全ての整備兵達も俺を応援していた。四方八方から聞こえるその言葉の全てが、俺の背中を後押しする。
あぁ…くそっ…苦しいけど……俺がやらなきゃみんなが死ぬんだ…だから…
俺「ぁ…ああああ」
そうか…っ…この時が……
俺「……っ…ああああああああっ!」
……一番苦しいこの時が……
俺「…あああああああああああああああああっ!!」
……俺が飛ぶことの出来る…!!
俺「…があああああああああああああああああああっっ!!!」
本当の勝負だったのか…――
――グオォォォォォォォォォッ!!
エンジンが掛かった。俺は身体が汗まみれになり、顔があり得ないほど真っ赤になった。
そして、さらに、もう一度力を込める。
俺「…飛おぉぉぉおべええええええええっ…!!」
グオォォォォォォォォォッ!!
――キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウン!!!
ハンガーから飛び出した梅花は滑走路を滑り、大空へと駆けていった。
俺を乗せ、コアに取り込まれた彼、そして501のウィッチ達がいるヴェネツィア上空へと走り出す――
おじさん「……………生きて帰って来い……俺…………――」
俺「あああっ……ぐおおおぉぉおっ…ぅう…おぁああああああっ!!」キュゥゥゥゥゥン!
前から押し付けるGと、梅花に体力を吸い取られるとで失神しそうな中、俺は思ったんだ。
『元の世界でウィッチ達の姿を見るたび、アニメだったとしても、俺は確実に何かの力を彼女達からもらっていたんだ。』
『だから彼女達には幸せでいて欲しい。たとえ、俺がウィッチじゃなくても、才能が無くてもいい。』
『報われなくても、話してくれなくても、覚えていてくれなくてもいい。』
『あの時と、彼を背負って走った時と同じように、』
――『やっぱり俺は、みんなを守りたい。』
~つづく~
本当の敵は…ネウロイでも、才能でも、彼でも無い。
俺自身だ。
だから、戦うんだ。今まで逃げていた自分と。
そして、元の世界と。
宮藤……俺、頑張るよ。
絶対に、みんなを救ってみせる。
最終更新:2013年02月03日 15:58