――ヴェネツィアへ向かう間の上空にて――
俺「…………っ…くっ……!!」キュゥゥゥゥゥン!
俺は特攻専用機「梅花」に乗り込み、彼を取り込んだ巨大なコアへと向かっていた。
……おじさんの言った通りだ……!梅花を動かせるまでの辛さを乗り越えてみりゃ……案外我慢できる……!
逃げてばっかりだった、どう行動するにおいても結局何も出来なかった、今まで何も出来なかったこの俺が…
この…自分自身の苦しみを耐えれば……宮藤達を助けられるんだ……
そうか…我慢すりゃいいんだ!!…そうすれば、みんなを助けられる…っ!
心の中にある「彼女達を救いたい」と言う感情が高まる。
そしてその思いと、脳内から出るアドレナリンにより、俺は体力を吸い取られる梅花からの苦しみに耐え始めた。
自分が我慢すれば……みんなを守れるんだ…!
操縦桿を強く握り、下がろうとするスピードを抑えようとする。
俺「くっ……おおおおっ…!…………!!っ……あれって……」キュゥゥゥゥゥン!
その時、前方にキラッとした3、4点の光が見えた。
俺「…小型の…ネウロイ?」
俺は4体の小型ネウロイを発見した。ヴェネツィア上空から離れ、少しづつ侵攻し始めているようだ。
…くっそ…こんなところに……。
ネウロイとの距離が段々と近づいてゆく。
そして俺を乗せた梅花に気が付いたネウロイは、4体ともビームを発射し始めた。
小型ネウロイ「…!!…ピキィィィィ!!」バシュゥゥゥ!
俺「っ………くそっ……このぉ…!」ドカァァァァン!
4体の内、1体のビームが梅花の左翼に命中し、バランスを崩した。
しかし直ぐに再生がはじまり、攻撃を受けた部分が修復される。
俺「……やっぱり!…っ……うぉぉぉッ!!」キュゥゥゥゥゥン!
崩したバランスを整え、4体の小型ネウロイに向かって突っ込んでいく。
その時、梅花の機首にはネウロイのビームを凝縮したような膜が展開された。
俺「…ぉおおっ………当たれぇええ!!」キュゥゥゥゥゥン! バキィィン!
小型ネウロイ「ピキィィィィ…!」パリン! パリン!
ビームの膜に包まれた機首にぶつかった4体の小型ネウロイが砕け散る。
そしてビーム膜を解除し、何も無かったかのように直進し続けた。
俺「はぁっ……!はぁっ…くそ……さっきより少しキツくなった……。」
…だけど、ビーム膜を展開した時は苦しくなかった…出撃する時に吸い取られまくったエネルギーを機首に溜めてるのか…
梅花が共鳴者の生命エネルギーを最も吸い取るのは出撃時であり、その最初に蓄積したエネルギーと新たに供給するエネルギーをビーム膜、武器に変え特攻する。
いわばルッキーニの固有魔法に似ている攻撃方法を内蔵していた。
それに……やっぱり梅花と俺は…完全に一体化しているわけじゃない………ビームを受けた痛みは感じなかったし…。
もっさんと同様……俺はただエネルギーを供給するだけなのか……。
俺の脳裏に浮かんだのは、坂本がコアに取り込まれ、宮藤が真烈風斬で救出した2期最終話の場面だった。
一体化といえど、あの時はただ魔法力を吸収されていただけであり、コアの痛みや感覚を完全に共有するわけではなかった。もし完全に一体化しているのならば、坂本は死亡していただろう。
同様に梅花も俺と完全に一体化しているわけではない。
今は俺の両足が梅花によって固定されているが、ビーム膜で目標を破壊すれば機体に被害はなく、おじさんの言葉通り、低い確率だが生存が可能となる。
……予想通りだ……!一体化してないなら、機体がコアにぶつかったとしても…俺自身には何も影響はない…ビーム膜を張ってりゃ尚更だ!
ただ生命力…エネルギーを少し失うだけだ……!!
俺「……ははっ………何事も上手くいくなぁ……自分を乗り越えると……よぉ!!」キュゥゥゥゥゥン!
本当の敵はネウロイや彼じゃない…今自分が感じている苦しさだ…!
体力だけは自信があるからな……この苦しさを乗り越えりゃ…自分に勝てば…目標を達成できる!
扶桑艦隊や…彼女達ウィッチを助けることが出来る!
俺は……生きて帰ることが出来る…!
そして宮藤、君を…
ずっと幸せにすることが出来るんだ…。
――ロマーニャ基地、ハンガーにて――
おじさんを含めた全ての整備兵が、俺が乗った梅花の飛び立っていった空を眺めていた。
おじさん「行ったか………。」ゴソッ…
おじさんはポケットから、今まで禁煙していた煙草を取り出して火をつけようとする。
整備兵「…整備長……本当に、俺を出撃させてよかったのでしょうか?」
後ろから聞こえた一人の整備兵の声に反応し、おじさんは振り返った。
おじさん「…………別の世界から来たあいつには……かなりの体力があったはずだ。今までの共鳴者よりも生存する確率は高い………だから今はあいつに」
整備兵「いえ、そういうわけではなく……昨日あんな事件を起こしておいて…少佐を侮辱したり…彼少尉を睨みつけ、殴ろうまでとした俺二等を……そんな暴動を起こした人間をいきなり出撃させてもよかったのですか?」
おじさん「………まぁ…そう思うのも不思議じゃねぇだろう。………だが現に、梅花を操縦できるのは俺だだ一人だ。……っと…」シュッ… ボゥ
マッチを擦り、口に咥えた煙草に火をつけた。
「最悪の展開になればいいって…願っていたけど…」という発言をした俺に対し、おじさんも多少の不信感を抱いていた。
そして涙ぐむ俺に「守れる」と言い、梅花を起動させることを諦めかけた俺に励ましの声を掛け、出撃させてしまったことにも重大な責任を感じている。
しかし俺を出撃させるにあたって、おじさんをその気にさせた理由が存在した。
おじさん「………………あの時の……俺の言葉を信じてみたくなってな。」
整備兵「あの時………ですか…?」
おじさん「あぁ…あの時――」
俺が泣きじゃくりながら、ウィッチ達を守りたいという決意を話し終える。
そしてその決意におじさんが応じ、俺が梅花に乗り込む前の、整備兵達が調整をし終えた頃に時間は遡る。
おじさん「飛行帽と飛行服だ……受け取れ。」
俺「ありがとうございます。」
おじさん「俺……本当にいいのか……?お前は……自分の命を捨ててまで……」
出撃前、おじさんの心に残る「死なせたくない」言う念が、俺を止めようとする。
俺「…?……何を言っているんです?……俺は必ず、帰ってくる気でいますよ。だってそうしないと……。言ったじゃないですか、生きて帰れる確率は低いって…。低くても十分ですよ。」
おじさん「しかし……………」
俺「…俺は魔法力が存在しない元の世界…いわば生命力しか存在しない未来の世界から来たんです。」
俺は元の世界で得た知識と、ジェットストライカーの時の経験を活かし、おじさんに話し始める。
俺「体力を蓄える力はこの世界や過去の人より進化していますし、少尉を背負って走った時のように、ここにいる誰よりも生命力には自信があります。」
おじさん「……確かに…お前にはこの世界の人間より体力がある……そして生きて帰ってこれる可能性もある……だがそれでも…!」
俺「死にそうになったら…すぐに操縦桿を離します………だから……お願いします………必ず、帰ってきますからっ!!」
怒鳴りつけるように、俺は大きな声を出した。
おじさん「…っ…………本当に……帰ってくるんだな?」
俺「はい…………そして俺が必ずウィッチ達を救い出します。彼女達には、ずっと幸せになって欲しいと思っていますから……。」
おじさん「……俺…………………その言葉を忘れるなよ。よし、それを着て梅花に乗り込め。調整は完了だ!……進路をあけろぉぉっ!!――」
おじさん「――あの時の俺の言葉は本物だった。お前も確か……聞いてただろ?」
整備兵「は…はい。その時は確かに俺二等の決意は本物だと思い…私も応援する声を掛けましたが……」
おじさん「なら問題はない。後はあいつがコアを破壊し、生きて帰ってくりゃ……」
口に咥えた煙草を手で押さえ、一服しようとする。しかし…
おじさん「それでロマーニャも501も……………………!?…」
おじさんは口を半開きにし、ハッとしたような表情になった。
整備兵「?」
おじさん「待て……あいつ、何て言ってた……?」
整備兵「……はっ?」
『あの501のウィッチ達が死ぬなんて嫌なんだ…っ………だから……たとえ…』
『一言も話してもらえなくても…見てくれなくても……覚えていてくれていなくてもいい…っ…』
『宮藤が……彼のことをずっと好きでも…っ………それでも…かまわない……っ…。』
『……俺は必ず、帰ってくる気でいますよ。だってそうしないと……。』
『扶桑艦隊も、天城に取り残されているウィッチ達も絶対に救い出します。』
『彼女達には、ずっと幸せになって欲しいと思っていますから……。』
俺に対して抱いていた不信感が、おじさんの脳にジワジワと浮き上がっていく。
そして、あの時の俺の言葉と、自らが発した言葉を思い出し始めた。
整備兵「………どうしたの……ですか?」
おじさん「…………………………あいつ…!!?」
背筋に、ゾクゾクとした寒気が走る。
おじさん「彼女達…?……幸せ…?」
『彼はネウロイからエネルギーだけでなく、本体自体も引き寄せる性質を持っているからな…。』
『このまま飛べば、彼を取り込んだ巨大なコアへ自動的に引きつけられる!!』
『はいッ!!………ぐっ…おおおああああっ!!』
おじさん「……まさ……か……」ポロッ…
火を付けてから一度も吸っていない煙草を、おじさんは床に落とした。
――ヴェネツィア上空、付近にて――
俺「ははっ……懐かしいなこの感覚…。苦しいのにまだ全然いける気がする…!ランナーズハイってやつかぁ……。」
少しずつ操縦桿に力を込め、徐々に加速していく。
俺「やっぱ才能じゃねぇよ……今まで彼女達を憎んでいた自分がおかしく感じるなぁ……!」
俺は先程まで待機室で座り込んでいた時の自分を思い出す。
…あの時はみんなの声を聞いて、やっぱり守りたい…そう思えた。俺はやっぱり、スト魔女が好きなんだなぁ…。
だってこんなに好きじゃないなら、1期と2期の展開を覚えているはずがないし……。
宮藤達の悲痛な声を聞き、俺がハンガーに飛び出す前までには、当然のように心の中で葛藤があった。
11人のウィッチ達を、今まで自分をのけ者にしていた彼女達をそれでも救いたいのか、と。
しかし、俺は完全に彼女達を憎んでいるというわけではなかった。
宮藤が震電を手に入れる前日の夜、ミーナに対して「消えてしまえ」と心の中で発言しようとした自分を止めた行動。
そして坂本を侮辱した後に現れた罪悪感。どこかしらで、彼女達を陥れようとすることに俺は戸惑いを覚えていた。
俺「…くそっ……苦しいなぁ!!」キュゥゥゥゥゥン! バキィィン!
小型ネウロイ「ピキィィィィ…」パリン!
その戸惑いが、たとえ自分自身の苦しみに耐えてでも、彼女達を守りたい、死なせたくない、という結論に導かせた。
だが…
俺「………まだっ…到着しないのかよ…!!」キュゥゥゥゥゥン! バキィッ! バキィィン!
小型ネウロイ「ピキィィ…!!」パリン! パリン!
彼女達に対しての憎しみには戸惑いがあったが、戸惑いが無く、完全に心の奥底から憎んでいた人物が存在する。
俺がストライクウィッチーズの世界に入り込んだ時から、ひたすら否定し、嫉妬し、消えることを望み続けてきた人物。
俺「………あっ……あれはっ……!!いたぁあああっ!!」キュゥゥゥゥゥン! 大きなコアと扶桑艦隊が視界に移る。
それは、
俺「久しぶりだな彼ぇッ!!あんなに壊しやがって!!お前がいたら、宮藤達は幸せになれねぇんだよクズ野郎!!」
自分と同じくこの世界において異端的存在。
しかし立場が違う、現時点での宮藤の恋人。
「彼」だった。
――空母天城にて――
ミーナ「全員、早く艦内に避難して…!」
彼を取り込んだコアによる侵攻により、扶桑艦隊は壊滅的状況に陥っていた。
しかし直ぐさまミーナは冷静さを取り戻し、今にも崩れ落ちそうな自分を押し殺してウィッチ達を避難させようとする。
宮藤「坂本さん…………うぅっ……。」
坂本「宮藤……くそっ……どうしてこんなことに……っ。」
坂本は魔法力を失った宮藤を抱きかかえ、艦内へと続くドアへ向かおうとする。
宮藤「……………………坂本さん………あれって………」
坂本「…………?」
しかし何かに気が付いた宮藤は、その方向に向かって指を指した。
宮藤の指した方向に、坂本は振り向く。
坂本「………!!あれはっ……!!」
――ヴェネツィア上空にて――
俺の視界には、遂に巨大なコアと扶桑艦隊とがその姿を表した。
苦しみまでもが忘れ始める程に気分が高揚する。
彼への憎しみも、更なるエネルギーへと変わっているような感じがする。
俺「はぁっ…っ…はぁ!!…あと少しだ……!!これで…やっとあいつを消すことができるよぉ!!はっ…っ!!」
俺は今やっと戦うことが出来ている!自分自身と!!
逃げてばっかりだったからなぁ…!彼を殺したいって思っている自分から!
敵は彼じゃない!実行しない自分だからなぁ…。
そりゃあ宮藤や他のウィッチ達にはちょっぴりだけ悪いけど……あいつは死ななくちゃならないんだよ。
あいつを背負って走ったときみたいに、墜落したあいつのせいでみんなの士気が下がって、命が危険になった時みたいになるなんて駄目だから、だからもう一回頑張るよ。
…今回は置いて来ちゃうけど。
宮藤が震電を履いた時、彼は大型ネウロイを呼び寄せたこともあったし…それに今みんなは奴に殺されそうになってる。だから生かしておいちゃだめ。
でも大丈夫。宮藤達にどんなにのけ者にされたって、君たちの幸せのためだからこその行動なんだから。
宮藤……生きて帰って………話し掛けられなくても、覚えていてくれなくなっても、ずっと君の幸せのために俺は生きていくよ。
彼がずっと好きでもいいよ。だってもう彼はいなくなるんだから。そんな可哀想な宮藤を救ってあげる。寄り添い続ける。
10年後も20年後も…世紀が変わっても…俺がいた2012年までだって…天国に行くまでずっと……。
そして…俺は戦わなくちゃならない。元の世界と……今まであの世界で何も出来ず逃げていた自分と。
俺は彼をコアごと破壊し、宮藤達を救出しようと考えていた。
だって…彼を殺すことによって、彼女達に本当の幸せを与えることが出来るんだから…!
俺「段々彼に近づいてきたなぁ!!…自分の苦しみを我慢すれば、戦えばっ……元の世界の……俺を……!!」
超えられる…………!
あぁ…元の世界と言えば……馬鹿にされてた俺が走る練習をし始めたり、変わろうと頑張り始めた時のことを思い出すなぁ…
『走る練習!?バカじゃねぇの!!お前みたいな奴が、今まで根暗野郎だった奴が変われるねぇだろ!!』
『おーいクソ俺ー。肩パンしようぜ肩パン。はっ…?何逆らっちゃってるの?お前がいきなり刃向かおうとか正義ヅラするとか、あーマジ萎えるわ…まぁ殴るけど。おぅらっ!』
『メアド交換したい?お前が?あの娘と?いいから貸してみろって。――携帯の中身をなんで女子に見せたかって?お前みたいな汚れ役が存在するのが世の中なんだよ。あーあバレちゃった!』
『なにいきなり変わろうとかしちゃってんの?お前はそのまま生きてけよ。その方が面白いんだよ。ずっと惨めな、誰からも貶されるお前の人生を見るのが。』
『なんかさぁ…お前みたいな奴がいきなりポジティブになちゃうとか…スゲーむかつくんだよね。一生馬鹿にされ続けろよ俺君。』
俺の頭の中に、元の世界で聞いた声が響き渡る。
それは今まで、馬鹿にされ、除外され、いじめられ続けていた俺が立ち上がろうと奮闘し始めた時に聞かされた声。
…あぁ!お前等の言うとおり、確かに今俺がやってることは最悪で惨めな人生の延長だよ…!人だって殺すしな…!
今まで以上の、恨まれ続ける最低な人間になるさ!
でもそんな自分になってでも、俺は宮藤を幸せにするんだよ!!苦しむ自分に打ち勝って!
俺は俺、だからこそ…この選択なんだよ!!
俺「はははっ……バーカ!!…はぁ…っ!!」キュゥゥゥゥゥン!
元の世界で俺が聞いたその声は、変わろうとする人間、特に今まで惨めだった人間の行動を糾弾しようとする人々の反応。
潜在意識。
変わろうとするものを許せない、人間の本能的なものが働いていた。
「出る杭は打たれる」ということわざ通り、今まで同様の立場や自分よりも低い位置にいる人間を変わらせようとはさせない。
させようとしない相手自身も、自らの変わろうとしない潜在意識のためでもある。
おじさんや整備兵が、昨日まで悲惨だった俺が「守りたい」といきなり出撃したことに対し、不信感を持っていたのもそのためであった。
そして変わろうとする自分が外部の力よって押し潰され、敗北し、自らが心に植え付けてしまう、「俺は一生惨めな人生だ」という変わることを諦める潜在意識。
それは今の俺にとって、消そうとしても染みついて、消えようとしない困難なもの。
彼という人間を殺し、自らの欲望を実現させようとする最悪の思考が、その意識によって成されていた。
俺「…はぁっ…!…やっと顔が見えたなぁ……彼ぇえ!!」キュゥゥゥゥゥン!
彼を取り込んだ巨大なコアと、俺を乗せた梅花の距離が迫ってくる。
俺はインカムの電源を入れ、聞こえてくる声を聞く。
『あれは……ザザッ…梅花?……誰だ…誰が乗っている…!ザザッ』
…もっさんの声かぁ…大丈夫ですよ…みんなを救い、俺は英雄になりますから。
宮藤…俺頑張るよ…
…自分自身の苦しみを乗り越えて……彼を殺して…みんなを救って…
君を、一生守り続けるよ。
最終更新:2013年02月03日 15:58