――ヴェネツィア上空にて――

俺「はぁ…!あぁーめがふっても…っ!!!きーにしなぃぃぃい!!…っあ!」キュゥゥゥゥゥン!

俺は梅花の操縦桿の先に額を当て、声を出しながら身体を曲げて痛みと苦しみを誤魔化す。
そして勢いよく頭を上げ、段々と近づいてくるネウロイのコアに視界を移した。

目の前には、憎き「彼」を取り込んだ巨大なコア。そしてその真下には、今にでも全滅しそうな扶桑艦隊。
宮藤を含めた11人のウィッチがいる空母天城は、まだコアの攻撃を受けていないが、いつ沈没してもおかしくない状況と言えるだろう。

俺「やぁぁりぃがふって……もっ……はぁっああっ!!きぃぃにぃしないぃ!」キュゥゥゥゥゥン!

……あと少し!あと少しで彼を消すことが出来るっ!…宮藤達を幸せに出来るんだ!

そして今度こそ、今度こそ俺は…

今までとは違う自分に成長することができんだよ!!

何にも出来なかった、何もしようとしなかった俺自身を…変えることが出来る!
勇気を振り絞るってか?くっだらないけど一回やっちまえば慣れるもんだよなぁ!

こんなに…簡単だったんだ!

俺「はぁっ…はぁっ…なんだよ…また………!」

小型ネウロイ「ピキィィィィィィ!!」バシュゥゥゥ!

コアに接近する俺を打ち落とそうと、小型ネウロイがビームを放つ。しかし梅花はそれをビーム膜で弾きつつ、速度を上げて機体ごとネウロイに衝突させる。

俺「っ!…だからっ…俺はお前等ネウロイの敵を倒そうとしてんだよ!!クソ彼をなぁっ!」ガッ! キュゥゥゥゥゥン!
彼の名前を口にするたびに、自然と操縦桿に力が入った。

小型ネウロイ「ピキッ…!」バキィッ! パリィン…

俺「っぐ…ぁ!…でも…今のあいつはネウロイと同じ……同族かぁ………どっちにしろ人類の敵だよバァカ!!」キュゥゥゥゥゥン!

破壊したネウロイの破片がキャノピーにぶつかりながら過ぎ去った後、先程電源を入れたインカムからの声が鮮明に聞こえてきた。

『…あれは…今朝、彼が話していた梅花か!?誰が操縦しているんだ!おいっ、応答しろ!…』ザザッ

…?バルクホルンの声…?はは…そういやトゥルーデとはこの世界に来てから一言も話せてなかったよな…
よく考えたら、一言も話せなかったウィッチも普通にいる……やっぱ駄目な奴だよ俺は。アニメの世界に来たって言うのに…

でも、彼がいなくなりゃ嫌でも話し放題!どんなに彼を殺したことを恨まれたって、みんなの命を救えたんだから、間違ったことはしちゃいないんだ!!

すぐに…認められる存在にもなれるさ…。みんなのためを思ってする行動なんだから…!
今まで、散々どの世界でも貶され続けられた俺が…馬鹿一人殺すだけでこんなにも変われる!

ただ…彼を殺すだけで…!


『お前がテレビで有名になるのって、ぜってー犯罪犯した時だけだよな!!それしか想像できねぇー!はははっ!!』


俺の脳裏に、元の世界で聞き覚えのある声が横切る。
しかし俺はその声を肯定し、薄ら笑いを浮かべた。

俺「はは…あぁ…そうだよ、その通りだよ!でも俺はそうでもしなくっちゃ、変われねぇんだよ!」

俺を非難し続けてきた、忘れることも出来ない声でさえも、今では心地よく感じていた。


――空母天城にて――

『ピキィィィィッ!……ザザッ………』

坂本「なんだこれは……?くっ…しっかりしろ、宮藤っ!」
坂本が宮藤を抱え、艦内へと向かうドアへと歩いてゆく。

宮藤「うぅっ…どうして………彼さん…っ…」

ミーナ「2人とも急いで!…………でも…この音と…あの機体は…」
ミーナはインカムを着けている耳に手を当て、接近している梅花に目を配った。


――『…ザザッ…ピキィィィィッ!……ザザッ……ザザッ…』

エイラ「ナンだ…?コノ音………。」

サーニャ「ネウロイの……声?」

天城の艦内へと避難した8人のウィッチ達のインカムにも、雑音に近い梅花からの音声が届く。
しかし俺の声自体は、梅花から発生した大量の瘴気によってかき消されていた。

もはや誰が梅花を動かしているのかという情報は、ロマーニャ基地の兵士達以外は知ることが出来ない。

サーニャ「この感じ……あの時の…」
サーニャは出撃前に感じた、ネウロイの気配のようなものを思い出した。

その時…

バシュゥゥゥゥ……ズドォォォォォン!!

リーネ「きゃぁぁっ!」

バルクホルン「!!……くっ………くそぉ!」

巨大なコアからのビームが、遂に天城に放たれた。大きな爆風と水しぶきが上がる。
空母全体が大きくバランスを崩し、左右に大きく揺れた。

杉田「くぅっ…!このままでは確実に……援軍を…」

水兵「っ…艦長!駄目です、無線機が正常に作動しません!このままでは外部に通信が…」

杉田「なっ…!…ネウロイは我々を完全に逃がさない気か…!」

先程のビームの被害と、コアより発する扶桑艦隊を取り囲んだ尋常でない瘴気によって、天城の通信機能は麻痺していた――


坂本「うぅっ……宮…藤っ……。」
先程の爆風と振動によって吹き飛ばされた坂本は、抱き寄せていた宮藤を手放してしまった。

大きな煙が甲板を覆い尽くしている。

坂本「どこだ…宮藤っ…………っ!!……宮藤ぃぃぃぃっ!!」

坂本はその煙の中で直ぐさま立ち上がり、人影が見える方向へと大声を出した。
そしてそこには、

宮藤「……彼……さん…………っ…」

ビームによってはじけ飛んだ甲板の破片や粉塵に埋もれ、それでも彼の名前を呼び続ける宮藤が横たわっていた。

その姿が、コアに取り込まれている彼の目にも映る。

彼『芳佳ぁ…!!芳佳ぁっ……!芳佳ぁぁぁぁっ!!……くそっ…何でだ…魔法も使えない…くっ…ぐおおおおっ!!っ…なんで…身体がはずれねぇんだ!!』
彼の声がインカムを通して全員に聞こえてくる。

彼は必死になって藻掻くが、現状は変わらない。

2期最終話にて坂本が魔法力を失ったのと同様に、彼も魔法力をコアに吸い取られていた。
使い魔を出そうとしても、固有魔法を使おうとしても、コアが吸収するスピードには敵わず、彼の魔法力の殆どは、既に巨大なコアのエネルギーと化していた。

そして宮藤が放った真烈風斬を防いだシールドにもかなりの魔法力が消費されており、膨大な魔法力を蓄えている彼とはいえ、さすがに限界に達している。
たとえコアが破壊されようと、魔法力を全て使い果たしてしまったのなら、本編の坂本や宮藤と同様に決して魔法力が回復する予知はない。

つまり巨大なコアのシールドが破られ、梅花の特攻が成功すれば、彼は魔法力を全て失い、ウィッチでなくなることは確実であった。


――ヴェネツィア上空、巨大なコアの付近にて――

俺「…!!あいつっ…天城にも……本当にクソ野郎だなぁあああああああっ!!」

俺は上空から、煙が上がっている天城を確認する。
そこには坂本が、倒れている宮藤を起き上がらせようとしている姿が見えた。

…宮藤…!!

『………よ…し………佳っ……!……芳佳ぁっ……!!』
俺の耳に付けたインカムにも、彼の声が届いてきた。

………この声……は…

彼の奴の声じゃんか………ふざけんなよ…なにが芳佳だよ…!

みんなを殺そうとしておいてぇ…っ!!

俺「彼ぇ………彼ぇえええ!!」

全身を掻きむしりたくなるような痒みが、怒りと共に押し寄せる。
しかしその痒みと怒りは、梅花からのエネルギー吸収によって感じる苦しみと痛みを忘れさせる、絶好の材料と化していた。

彼『ザザッ…くぉ…あああああああっ…!!なんでだ…魔法が使えない……くぅぅっ……!!』

!!……ふーん…あぁ…そういうことかぁ……

…本編のもっさんや宮藤みたいに、このまま彼は魔法力を失ってウィッチじゃなくなるんだ…
空を飛ぶことも、固有魔法を使うことも出来ない…
あんなにネウロイに魔法力吸い取られちゃあ…そりゃそうなるよなぁ…

俺「はぁっ…!ってことは…あいつにはもう才能なんてない…っ!ただの傲慢なクソ野郎に…なったわけだ!」キュゥゥゥゥゥン!

ざまぁみろよ!優遇されて生まれて…今まで才能とか魔法力に頼りすぎてたんだよ…!
やっぱり平等であるべきだよな…!

俺は操縦桿を握っていた左手を、自分の頬に添えた。

俺「あ…あぁ………痛かったなぁ…お前に殴られたところ……痛い…痛い…」

立場が逆転したんだし、やり返さなくっちゃ……。

殴られた瞬間を、頭にもう一度再生させる。
口から血が流れ、痛みと彼にエネルギーを吸収されたとで身体が痙攣を起こし、地べたを這い蹲っている「俺」。
取り囲むおじさんと整備兵達。
そして俺を見下し、睨みつけ、殴りつけた張本人「彼」がいるハンガーの光景。

しかし、思い出されるのはその光景だけではなかった。

彼という魔法力を持つ男が存在することを知った時、彼がストライカーで空を飛行しているところを見た時、彼を間近で見た時、話した時、
そして、宮藤が告白した時。彼が宮藤と恋人同士だと俺に明かした時。

今まで散々見てきた、彼への憎しみを膨張させる場面。

その憎しみと怒りの全てを、両手の力と共に操縦桿に込める。
そして俺の潜在意識がそれをサポートするかのように、更に声が響き渡る。


『どうせお前みたいな奴は一生惨めでイジメ続けられる人生なんだから、落ちまくればいいんだよ。それがお前の言うところの主人公になれる唯一の方法だろ?』


『俺君ってさぁ…なんか無駄なことしまくってるよね…そのままアニオタでいて…隅っこで大人しくして…変わろうとしなければよくない?どうせずっとイジメられるんだから。』


『お前が体育会系ぶったって、中身は何にも変わらねぇただのキモオタクだろ!!あぁ気持ち悪ぃな…気付いてねぇの?』


『キモっ……走ってどこまでも追ってきそう…………しかもオタクなんでしょ?うわぁ………マスコミにインタビューされたらそんなことをしそうな雰囲気がしてましたとか……?やばっ…聞こえてるっぽい…』


『ランシューなんて隠してねぇよ!いいじゃん見つからなくたって…その方がお前らしいよ、うん!一生そのままなんだから!』


そうだ……俺は俺だからこそ……彼を殺してでも…犯罪を犯してでも…最悪な奴になってでも…
そうでもしなくちゃ…変われないんだよ……

今思うと…あいつ等の言う通りだったよ。

…やっぱり…俺は自分を犠牲にしなくちゃ、悲惨な人生を背負わなきゃ、願いは叶わないんだよ…

…それしか方法がないんだ…

だからさ…なぁ……だからさぁ…彼……――


俺「だから……死んでくれよ…彼ええぇぇぇっ!!」キュゥゥゥゥゥン!


もう既に、巨大なコアは目の前に迫っている。コアまでの距離は約3000m。
コアの上の方に取り込まれ、ポツンと視界に映っている彼を睨めつけ、腹筋にも思いっきり力を込め、俺は手の皮がはち切れんばかりに操縦桿を握りしめた。

いわゆる、ランニングで言うところの、「スパート」を掛ける。

俺「死ねぇっ……死ねぇぇええっ!!!」キュゥゥゥゥゥン!

喉の奥辺りが焼けるように熱くなり、呼吸を妨げ始める。
下腹部にも酸素が十分に行かず、便意が押し寄せ、急激な腹痛と痺れが発生する。
体中の皮膚がヒリヒリし、眉間のあたりにどんどん苦しそうなシワが溜まっていった。

それでも、潜在意識と彼への憎しみが、俺を突き動かす。

俺「こんなっ……スパートには慣れてンだよぉぉぉぉぉ!!死ね彼ぇえええっ!!」キュゥゥゥゥゥン!
何回も練習やレースで経験したスパートの苦しみ。

しかし、たとえ走る苦しみに耐えれるようになっているとしても、行動を起こしたとしても、俺は潜在意識に支配されている。

残り2000m。股間の辺りから、ジワジワと身体の内部に痛みが広がり始めた。
増してゆく苦しみによって脳から危険信号が送られ、人間の本能が刺激される。

小型ネウロイ「ピキィィィッ!」「…!!」パリィィン「ピキッ…」パリン!

無数のネウロイが梅花の周りに集まってくるが、ビーム膜を張った機体への衝突によってはじき飛ばされる。

残り、1000m。
梅花が衝突しようとしている目標は、「彼」の心臓。

坂本『……だめだ宮藤…っ!ここにいたら……ザザッ』

宮藤『…ザザッ…私は…大丈夫です……でも彼さんが……彼さん……っ』

インカムから声がする。
2人の声だ…!!よかった…宮藤は何とか無事みたいだ…

もうすぐだ………もうすぐで…彼を……!!

俺「はぁっ…!はぁっ…!なんだよ…走ってる時の…スパートより…苦しくない!!これで…彼を殺せる!消せる!」キュゥゥゥゥゥン!

このままなら彼を殺すことが出来る、苦しみなんてアドレナリンでごまかせる、ビーム膜用のエネルギーの蓄積量もまだある。その余裕が俺の自信へと繋がる。

自分を超えられる…!!彼を殺せるんだよ…っ!宮藤達を救うことが出来る…!


『お前は走るのが似合ってるよ!いじめられ続けてきたドMだからなぁ!ははははっ!!お前見てるとホント同情したくなるよ…どうせ馬鹿にされ続けられる人生なのにさぁ…』


そうだ…おれはどうせ馬鹿にされ続けられる人生なんだ…!
だったらもう…彼を殺すしかねぇだろぉがぁ………!!

残り500m。彼の身体がくっきりと見え始めた。
もの凄いスピードで迫っていく。

俺「っしゃぁ……ラストおぉぉぉぉぉっ!!」キュゥゥウウウウン!!
もう小型ネウロイの姿は目に映らない。俺の目に映るのは、彼の顔と、巨大なコアのみ。

…殺せる!殺せるんだよ!今まで俺を馬鹿にしてきた、才能があった奴らと同じあいつを…!!

ははっ…やったぁ…俺は人殺しになっちゃうし…惨めな人生をまた続けるけど…

それでも…彼を消すんだよ…!!自分や…宮藤や…他のウィッチ達のためだから…!!

彼を…魔法が使えなくなった…ただの普通の人間になった彼を…

俺は…この梅花でぶっ潰せる。

俺「死ねよぉぉぉっ!!彼ええええええええええええええ!!!」キュゥゥウウウウゥゥゥン!!――


彼「…っ……!?」

残り200…100…50…

0m――


――バキイイイイイイイイィィィィィィィィィィン!!!


梅花のビーム膜を張った機首が、巨大なコアのシールドにぶち当たった。
その機首の前には、シールドが間を挟み、コアに取り込まれている彼がいる。このままシールドが砕ければ、完全に彼は死亡するだろう。

梅花を操縦している、俺の行動によって。

彼「……!!くっ……やっぱり…これは梅花…!?なんで…ここに………うっ……うわああああっ!!」

操縦席に座っている俺の目に、冷静になりながらも確実に死の恐怖で怯えている彼の顔が映る。

…怖がってるよ!!そうだよ……それが…俺が今まで感じてきたものなんだよ!!
殴られたときの仕返しだよ…彼ぇぇっ!!…お前は…死んでいい!!

俺「はははぁっ…バァァカ!!……消えろ!!…宮藤の名前を叫ぶ前に…俺が消してやるよ彼ぇ!!…っ!!」グオォォォォォォォォォッ!!


――ガガガガガガガガガガガガガッ!!


宮藤の真烈風斬を受け止めたことにより、コア全体のエネルギーが大量に消費されていた。
当然、シールドの強度も弱まっている。

俺「っ…があああああああっ…!!しねぇえ…かれええええええええええええっ!!!」グオォォォォォォォォォッ!!

「彼を消してやりたい」と何度も頭の中で言い放つ。そして彼の顔を見る度に、梅花の推進力はどんどん増していった。

そして…


――ピキ………ピキ…ピキッ


シールドに、ヒビが入り始める。ビーム膜とシールドが接触している部分から、外へ広がっていくように。


――ピキッ……ピキピキピキッ!ビキィッ!!


そのひび割れに気が付いた俺は、苦しいながらも、微笑んだ。

俺「ははっ…!!やったぁ…!!これで…これで殺せる!!はぁっ!!はぁッ…!!」

…彼を…殺せる!!やったんだよ、俺はっ!!

宮藤『ザザッ…彼さぁん………やめて…そんな…ぅぅ…これじゃ…彼さんが………やだよっ…』

インカムから、叫ぶ力も残っていない、絶望に満ちた宮藤の声が聞こえてきた。

俺「ごめんね…宮藤…。でもっ…こうでもしなくちゃいけないんだよ!!みんなを守るためには!!」

自分の願いを叶えるためには!!

いじめられっ子だから、才能がないから、今まであいつ等に散々言われてきたように、こんな人生になちゃう俺だから!!

だからもう……この選択肢しかないんだよぉ!!


――ピキピキピキッ!ビキィッ!!ビキビキビキィ!!


俺「終わった………やったぁ……俺…やったんだぁ……!!」

あと、一撃。少しだけでも俺が力を込めれば、梅花は完全にシールドを貫く。
そして、彼はコアと共にビーム膜の攻撃によって消滅する。

俺が生存し、彼が死亡する未来は確実に目の前にある。

俺は大声を出した。

俺「くっおおっ……っ!!死ねよおおおぉっ!!かああぁぁぁれえええぇぇぇぇっ!!!」

もう一度、操縦桿に目を配り、最後の力を込めようとする。

憎しみを、嫉妬を、今までの自分が感じてきた感情の全てを両手にたたき込んだ。

自分の中に眠る、「全ての力と感情」を。

そして、俺は――





『――走る練習!?バカじゃねぇの!!お前みたいな奴が、今まで根暗野郎だった奴が変われるねぇだろ!!』


『変わりたいんだって…?いやいや…お前じゃ無理だよ…走ったって変わらない…キモオタのお前の性格はそのまんまだよ。』


『おーいクソ俺ー。肩パンしようぜ肩パン。はっ…?何逆らっちゃってるの?お前がいきなり刃向かおうとか正義ヅラするとか、あーマジ萎えるわ…まぁ殴るけど。おぅらっ!』


『俺君ってさぁ、何か将来は運命的に決まってるっていうか…なんかうん…このままいじめられ続けて悲惨なっていうか…あっ…いやごめん…言い過ぎた……ははっ。』


『メアド交換したい?お前が?あの娘と?いいから貸してみろって。――携帯の中身をなんで女子に見せたかって?お前みたいな汚れ役が存在するのが世の中なんだよ。あーあバレちゃった!』


俺の心の奥底。

そこに響いたのは、俺の中に潜む、潜在意識の元となった声。

…あぁ…そうだよ…俺は悲惨な人生だ…でも…それを認めて、それでも彼を殺したいんだ…そうでもしなくちゃきっと報われないから…。

汚れ役でいい…どうせ俺が何したって汚れ役なんだから…それで行動を起こせば、結局は悪い方向だけど、でも、別にいいじゃないか。

惨めさの延長だとしても、「今まで出来なかったこと」をすれば…彼を殺せば…それはつまり「俺は変わった」ってこと…だろ?

俺は俺だからこそ…こうすることでしか俺は変われない……


『お前はお前なんだからさ、そんなに頑張ったり悩むことは無いんだよ!今まで通りで良いじゃねぇか!!なっ!?』


ははっ…お前はお前…俺は俺…か…
そうだよな…それでいいよな……

だから今まで躊躇していたことをすれば…彼を…殺せば…

自分のために…行動すれば……あの時、彼を背負って走った時のように…報われなかった時のようにはならない。それで俺は変われる。

彼を背負って走っていた…報われない自分を……

走っていた…自分を…

変えるために………俺は…彼を殺すんだ…

………こんな…はずじゃ…なかったけど……彼を殺さなくちゃだめなんだ…

…だって俺は憎いんだ…あいつがっ…



………

……でも…

俺の心の中にある全ての感情。その中にある、最も願いが強いもの。
非難され、除外され、否定されてきたからこそ、出来てしまった願望。
外部から「一生変わらない人生だ」という潜在意識を植え付けられたからこそ、最高に望むもの。

それが少しづつ、姿を表し始める。

本当は…もっと……馬鹿にされるような人生じゃなくて、人を殺したりする人生じゃなくて…今までみたいな人生じゃなくて…

良い…人生で…馬鹿にされない…スト魔女のSSの…正義感が溢れる主人公みたいな人生でありたくて……

だけどそんなの叶わない…変えられない惨めな人生……だから俺は彼を殺すんだ…

その願望があれど、今の俺が潜在意識を克服することなど出来ない。


『なんかさぁ…お前みたいな奴がいきなりポジティブになちゃうとか…スゲーむかつくんだよね。一生馬鹿にされ続けろよ俺君。』


そうだよ……変わるための行動を起こしたって…馬鹿にされ続けられる人生なんだから……っ…

………

あぁ…本当は分かってるんだよ……

気付いてるさ……変わるために俺は梅花で出撃したり、彼を殺そうとしている……でもそれは…「変わる」なんかじゃない…

ただ「悪化」しているだけだ………俺の最悪の人生は……なにも変わってなんかいない……

惨めな俺は…変われないんだよ………っ

俺は彼が憎いし…すごく殺したいんだよ……っ

……

どうしてだ…走ったのにな…あんなに、馬鹿にしてきた奴らから散々何か言われようと、貫き通して練習したのにな……

でも……走ったのに、頑張ったのに……報われたことなんか……俺の人生が……良くなったことなんて…ない…

一度も……一度もない………

だから彼を……………

彼を……っ…

殺すんだ…

……








過去を振り返った時、ある声が、俺の耳に響く。







『ぐんじんさん!今日はありがとー!』


……?

…あの時の…ロマーニャに行った時に…助けた…

女の子……?

それは、宮藤の彼への告白を知り、ベンチで座り込んでいた俺が立ち上がった日の出来事。

自分の潜在意識と、知らぬ間に戦っていた日の出来事。

…あの子の笑顔で…俺は宮藤の告白を思い出して……

でも唯一…ありがとうって…言ってくれた…女の…子…

大勢の人の踏みつけられて……結局何も出来なかったけど…

それでも…ありがとうって…


『違反扱いされたけど、お前は倒れるまでよく頑張った。しっかり食べて、明日からまた頑張れ。』


『あの時はよくも命令に背いたな…しかし、お前の行動は尊敬できる。』


彼を背負って救出した俺に対して、おじさんと兵士が掛けた言葉。

おじさんと兵士の声…?

あの時は…走って…………それでも宮藤は…彼に好きだって言って………

…………でも…

俺が願う、人間だからこそ願う「悲惨な人生」ではなく「幸せな人生」になりたいという根本的な願望。

馬鹿にされたくない、惨めでいたくない、報われたい、
だがその願望は、走っても叶わなかった。宮藤が彼に告白したために。

だが、全てが報われていないわけではない。

ロマーニャの少女やおじさん達の声は、俺の「今までの人生を変えたい」という希望に、確実に一歩近づいた声、本物の「声」だった。


………あの時は…褒められてっ………

今までとは…馬鹿にされた……人生じゃなくて……

褒められて……俺が走ってても…………認めてくれて……

今思えば…あの行動だけは…本当に…変わりたいって思ってたことだったのかもしれない……――


しかし、俺の彼を殺そうとする気持ちは揺るがない。彼を後一歩で殺すことができる状況なのだから。
宮藤は、彼と恋に落ちているのだから。

彼がいなければこの様にはならなかったと俺は思い続けているのだから。

殴られた痛みと共に、膨大な彼への憎しみは消えない……――


………よし…そろそろ……彼を殺そう……

やっぱり駄目なんだよ……俺はもう…あいつ等の言う通りの惨めな人生でいい…

それで…

それで…宮藤を…幸せに……することができるから………

幸せ…に…俺が決して叶うことのない……

本当の…幸せに……することが……


本当の幸せを、彼を殺すことによって宮藤へ成すことができるから…――


本当の幸せ…

…でも…宮藤にとっての……本当の幸せってなんだろう…

俺は理解している。彼は魔法力を全て失っているということ、
ネウロイを寄せ付ける固有魔法も性質も、全て無くなっているということ、

そして、彼は宮藤にとっての「上官」でもなく「同僚」でもなく、「恋人」だけという存在になったということも。

その「恋人」という存在だけになったからこそ、彼を殺したいと思う気持ちが増すのも当然であった。

しかし、俺は宮藤を愛している。幸せになって欲しいと心から願っている。

現実のものとなって宮藤が目の前に現れ、俺は愚直な恋をしたのだから。

こうして梅花にエネルギーを送り続け、苦しみに耐えているのだから。

それが、何よりの「証拠」だった。


そしてその証拠が今、あるからこそ、


『お前に好きな子とかいんの?がははっ!!やめとけやめとけ、迷惑するだけだから!』


…………


『ストーカーになりそうなやつだよお前は!!自分の事しか考えられない迷惑なヤローだよ!!』


…………っ


『お前本当は好きなんじゃなくて、オカズにしたいだけじゃねぇの?だってお前みたいな奴が恋なんて出来るわけねぇよ!!』



…っ…さ…い…



『だっせぇお前が…いじめられ続けてきたお前が…恋愛なんて出来るわけがねぇ――



………うるさい……っ!!



『…!?』



俺は声を上げた。力一杯、腹の底から叫んだ。

その時だった。俺の脳裏にいた、今まで俺のことを貶していた人物、いや、それだけではない、傍観者も、俺と同じように馬鹿にされていた者達も、

今まで出会った全ての人物が、顔をハッとさせた。


俺が…恋しちゃいけねぇのかよ……誰かを愛しちゃいけねぇのかよ……

俺だって…宮藤に本当の幸せを与えたいと思ってるんだよ……誰よりも思っていたいんだよ…!!

目の前に現れてくれた……宮藤が……大好きなんだよ…っ……


溢れ出る宮藤への想い。惨めで、馬鹿され続け、走ることしか取り柄がない俺だからこそ、

彼女を幸せにしたいという、愚直な、本当の気持ち。

そしてその気持ちと共に、自らの「俺だって幸せになりたい、今までのような人生は嫌だ」という気持ちも溢れ出る。


……俺が幸せになっちゃ駄目なのかよ………ずっと貶され続けてきたからって………これからも貶されなくっちゃいけないのかよ…

…嫌だ……いやだ……いやだっ……!

俺は…変わりたい……っ…………変わりたい……誰からも馬鹿にされ…蔑まされるような生き方じゃなくて……

…誰かに誇れる……人生でありたい……


「だから…彼を殺すのか……?」


………


「彼を殺せば、人生を変えられるのか…?」


………

……宮藤の……本当の幸せだって……どうすればいいかなんて……ホントは気付いてるさ……

彼は魔法を使えなくなった…一般人になった……宮藤にとってはただの恋人…
それでも大きすぎる「恋人」…

だから魔法力を失った宮藤が今、彼を失ったら……

本当の幸せになんかには……


『どうせお前みたいな奴は一生惨めでイジメ続けられる人生なんだから、落ちまくればいいんだよ。それがお前の言うところの主人公になれる唯一の方法だろ?』


そうなんだよ……俺自身は……決して幸せなんかにはなれない…だからせめて…

……俺は彼を殺し――


「俺は…今までの人生から…抜け出したい………人なんか殺したくない……貶され続けられたくない……」


……っ


「俺は……変わりたい…幸せになりたい…」


『お前がテレビで有名になるのって、ぜってー犯罪犯した時だけだよな!!それしか想像できねぇー!はははっ!!』


………


『お前のままでいいじゃんか!それがお前の個性なん――


「俺は……今までのような生き方をしたくない」


……俺は……


宮藤の本当の幸せを願うからこそ、本当の意味で変わりたいと思うからこそ、

俺は潜在意識と、戦い始める。


『運命なんだよきっと!お前がイジメられ続けら――


…うるさい………


『惨めで悲惨な人生でさ、仕方がな――


……うるさい………俺は


『落ち続ける人――


……俺は……


『馬鹿にさ――


…俺は…


『――


……俺は……変わりたい。


変わって、みせたい…。


俺の心の中に潜み、笑い、蔑み、貶してきた全ての者達の表情が消えた。


………宮……藤……


宮藤への想いと、


……褒めてくれて……ありがとう…お嬢ちゃん…


たった一言の「ありがとう」、


パンおいしかったよ…おじさん………


おじさんや兵士の、俺を讃えた言葉、

そして、


走ってきたよ…俺…


いくら馬鹿にされても、幸せを掴みたいがために、貫き通してきた「走る」という「事実」。


それが今、



『「俺は………」』



押し付けられていたものを、



『「俺は……」』




潜在意識を、





『「変わるんだ。」』





打ち破る。





――





俺「――うぅ………ぐっ……なんで……なんでだよ……」

俺は操縦桿を握っている。だが、

俺「なんで……力が……」

手に力が入らない。梅花は動かない。ヒビがはいったシールドに突き刺さったまま止まっている。

俺「あと少しで…彼を殺せるのに……殺せるのにっ…」

俺「なんで…なんでっ………」

目から涙を流す。

俺「なんで力が、入らないんだよぉぉぉぉ……っ!!」


俺は彼を、殺せない。


いや、



――殺さなかった。
最終更新:2013年02月03日 15:58