『It's first love in you.』


1944年 夏 

第502戦闘航空団は、ネウロイの制空権への反攻作戦を行っていた。
周辺部隊との共同作戦による重要拠点の奪還。
連日続く激しい戦闘により、被害も疲労も大きかったが作戦もいよいよ大詰めだ。
拠点の制圧は既に完了、残す標的は半壊の大型ネウロイ3機のみとなっていた。

ラル「さぁ、残る化物は後3機!しかしどれもが強敵だ!
   だが我々は誇り高きブレイブウィッチーズ!その名に恥じない勇気を見せてやれ!!」

指揮官であるグンドュラ・ラル少佐の凛々しい声が戦場に響き渡る。

まるで針ネズミのように周囲に破壊の光を振り撒く大型ネウロイに、真っ先に突っ込んでいくのは菅野少尉。
菅野少尉が降り注ぐビームの雨を避けながら得意の接近戦に持ち込んでいく。
おそらくこれで勝負はついただろう。
残り2機。


突如、戦場に陶器が割れたような音が響く。
ネウロイの命が終わる音。
白く輝きを放つ破片が降り注ぐ中、颯爽と飛ぶのはロスマン曹長とクルピンスキー中尉。
流石歴戦のエースと言った所か、激戦続きのこの作戦の中でもどこか余裕を感じさせる表情をしている。
残り1機。



これで残る大型ネウロイは一機。
最後に残ったネウロイにまるで矢のように特攻するウィッチ
珍しい事に男性だ。
扶桑海軍の制服を纏い、これまた珍しい事に手には銃では無く扶桑刀を持っている。
その扶桑刀の刃文は直刃調の小乱れ刃、姿は平安時代の刀剣によく似た造りで大変優雅な立ち姿である。
名は「菊一文字」、502の仲間達は「ガーベラストレート」と呼んでいた。

彼は抜き身の菊一文字片手に、己めがけて飛んでくるビームをまったく気にもせずに飛ぶ。
前面に展開させた強固なシールドが全ての攻撃を弾く。

ニパ「俺!!つっこみすぎだってば!またエンジンが調子悪くてスピードでないんだ!
   このままじゃ援護できない!!」


彼に遅れて、“また”エンジントラブルが起きたカタヤイネン曹長が大声を張り上げる。

ニパ「おい!聞いてんのか!?カンノと言い俺と言い!扶桑のウィッチはそんなんばっかかぁーっ!!」


そんなカタヤイネン曹長の悲痛な声は前を飛ぶ俺と呼ばれた少年には届いていないようだ。
規格外のシールドを展開させる少年に対し若干の危機感を覚えたのか、大型ネウロイはビームを収束させそのシールドを突き破ろうと考えたようだ。
前方に、直径1m程の赤い光で形成されたエネルギーの塊が形成される。
いくら少年のシールドが強固とは言え、さすがにこれは防ぎきれず命を散らしてしまうだろう。

ニパ「俺ーッ!!」



カタヤイネンはなお大声を張り上げる、自分が後ろからついてきていると彼は思いこんでいるのだろう。
実際は遥か後方、段々調子が悪くなるエンジンはもう空を飛ぶ事すら危なそうだ。

ニパ「あ、ヤバ…この感じは多分落ちる…」



そんな彼女の心配する声を右から左に流して、少年は目前のエネルギーの塊に全く怯まずに扶桑刀を大上段に振りかぶる。
気付けば大型ネウロイとの距離は0。
スーッと空気を吸い込み、目を閉じる。
気合と共に精神を集中。



俺「一意専心…」

刮目。

俺「破邪顕正!!」

咆哮。

俺「チェストォォォ―――――――――ッ!!!!!!」

一刀両断。



大上段から振りおろされた扶桑刀は、驚速のスピードでもって大型ネウロイを真っ二つに切断。
ネウロイがいつものように音を立て、光り輝く白き破片になって俺に降り注ぐ。

彼の流派は『一の太刀を疑わず』、『二の太刀要らず』と言われる示現流。
初太刀に全てを掛けて斬りつける『先手必勝』の斬撃を奥義とする剣術である。
“強固なシールドで敵に接近、菊一文字に魔力を込めて両断する”
それが少年の単純かつ明快な戦法だった。


俺「またつまらぬも・・・・ぬぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

どこかで聞いた事があるような台詞を言おうとした俺が奇声をあげる。
残心の途中、ネウロイの破片が右脚のストライカーに直撃、破損したようだ。

俺「無理無理!…ヤバイヤバイ!…あ…落ちる…」



見事にバランスを失い、彼は落下していく。
重力に身を任せ、グングンと地面に向けて落ちて行く。
景色が高速で流れる中で、彼は少し先に自分と同じように落ちて行く少女を見つけた。


俺「はっは、ニパ!姿見ないと思ったらまたトラブルか!
  相変わらず“ツイてない”なぁ!!!あっはっは!!」

ニパ「うるさいよ!私だって好きで“ツイてない”んじゃないよ!それに俺だって落ちてるじゃないか!
   “ラッキーストライク”なんて異名は嘘ばっかじゃん!!」



俺「はっは、何回落ちても無傷なんだし“ラッキー”なんじゃねぇーの?」

ニパ「そもそもラッキーなら落ちないって!!」


ギャーギャーと軽口を叩き合いながら落ちる2人。
真下に広がるのは森林。


ニパ「そのラッキーも何回続くかねぇ~?今回辺りグシャっと…」

俺「縁起でも無い事言うなよ…“ツイてない”カタヤイネン様が言うと洒落になってないぞ…」



そして2人はうっそうと茂る森の中に消えて行った。




          *          *          *




≪オラーシャ 502基地≫


502戦闘航空団と、周辺部隊による一大反攻作戦は無事成功に終わり重要拠点も奪還に成功した。
獅子奮迅の活躍を見せた502の隊員達は久しぶりに基地に帰還。
少女達はなお続く激しい戦いの中で、わずかな休息を楽しんでいた。

そんな休息2日目の朝。
基地中に、「キェエエエエ!」と奇声と共に、なにかを打ちつける音が響く。


ニパ「…ん。」 

いつもの奇声が目覚まし代わりになって彼女は目を覚ます。
窓からは夏の陽気さを感じさせる日差しが差し込む、今日はいい天気のようだ。
今度は奇声をラジオ代わりに顔を洗い、着替え外に出る準備をする。
こないだの作戦で貴重なストライカーを破損させたせいで彼女は早朝から滑走路の掃除を言い渡されたのだ。

窓から下を見下ろせば、奇声の主がいつも通り稽古に励んでいる。

ニパ「朝から御熱心な事で…」

そう呟いて、そっと微笑む。


ニパ「タオルでも持っていってやるか。」





滑走路に向かう途中で、奇声の主を発見する。
上半身裸で、一心不乱に木刀を案山子のような物に打ち込んでいた。

ニパ「やってるやってる。」


よく鍛えられた上半身には珠のような汗が流れ、朝の日差しを反射している
足元は激しい踏み込みのせいか、地面が抉れていた


ニパは彼がこうして鍛錬している風景を眺めるのが好きだった、彼と出会ってもうじき2年…ほぼ毎日こうして見てきた。
最初はただ単に物珍しさから来る興味だったが、いつの間にか変わっていたのだ。
迷い無く、ただただ真っ直ぐに木刀を打ちこむ姿はかっこいいとも思っていた。
あくまで、その風景が…で俺がかっこいいのでは無いと彼女の名誉のために言っておこう。



俺「チェストォォォォ――――――ッ!!」

気合一閃、案山子が斬り裂かれ地面に転がる。
俺が「ふぅー」と息を吐いて、静かに残心。
基地に静寂が戻る。


残心を終え、振りかえろうとした彼の頭にタオルが降ってきた。

俺「サンキュ。」

彼にタオルを放るのはこの基地ではニパだけ、俺は姿を見ずとも彼女の存在を認知して礼を述べる。

ニパ「しっかし相変わらず運良かったね、派手に墜落したのに擦傷だけとか…
   “ラッキーストライク”は伊達じゃないねマジで」

汗を拭く俺を見つめながら、ニパは己と俺の運の違いを思い出す。
本当におかしいのだ、同じように落下したはずなのに彼女は持ち前の“超再生”がなければ即死…あるいは重体の怪我だったのに関わらず、彼は沢山のしなやかで柔らかい枝がなんらかの形でクッションとなり、中一日の休息でこうして鍛錬できる程の軽傷なのだから。



ニパ「ズルイ!!」

先程まで余りにも理不尽なその違いに表情を失っていた彼女の顔が、怒りに変わった。

ニパ「俺だけなんでこんなにラッキーなのさ!?私と何が違うのさ!?」

俺「どうなんだろうな?」

タオルを首に巻いて、俺がニパを宥めようと試みる。

俺「俺もそんなにラッキーな訳でもないだろ…昨日は熊さんに怒られるし、そもそも今日はお前と一緒に罰掃だろ?
  どこがラッキーなんだよ?」(※罰掃=罰として掃除)

ニパ「ん…んん…?」

言われてみれば、と言った表情でニパが黙る。
少し考えているようだ。


俺「さ!とっとと終わらせて飯行こうぜ。」

ニパが手に持っていたデッキブラシを奪って俺が滑走路の方へと駆けて行く。

ニパ「あ!それ私の!自分で取ってこいよー!」

俺「嫌~だね!」

ニパ「待てよ!半裸野郎!!」

姦しい少年少女の声で、再び基地は騒がしくなる。
ここまでがこの基地での日常茶飯事、2人の楽しげな声で他の隊員達や基地のみんなは目を覚ますのだ。




          *          *          *





≪滑走路≫

結局、デッキブラシの件で揉めた2人は貴重な時間を大幅に無駄にしてしまい朝食前に掃除を終わらす事ができなかった。

下原の作った扶桑式の朝食を堪能した後、また掃除をしに滑走路へと戻ってきたのだ
そう“掃除”をしに。


なのに2人は少し距離を開け対峙している。
ニパはデッキブラシをまるでバットのように構え、向き合う俺は利き手にボールを握り半身だ
どう見ても2人が行っているのは掃除では無く野球だ。

ニパ「来なよ、今日も私が打って勝ち越しだ!」

俺「言ってろ、三振で終わりだ!」

互いに不敵な笑みを浮かべている。



俺「俺の!大リーグボールでなッ!!」

俺は大きく振りかぶり、まるで星飛雄馬のようなダイナミックで躍動感溢れるフォームでボールをリリース。
なかなかの球速だが、いかんせんコースが甘い。

その理由は簡単だった、思春期真っ盛りの彼の目が彼女の自己主張する胸元に奪われたせいだった
最近こういう事が多々あるらしい、思春期だからしょうがない。

インコース低め。
彼女が一番得意なコースだ。



ニパ「いっただきぃ――――――――ッ!!」

シャープなスイングでボールを完璧に捉える。
ジャストミートだ。
完璧に引っ張られ、ボールは天高く飛んで行った。

俺「なん…だと…」

がっくりと膝から崩れ落ちる俺、ちなみにまだ半裸だ。
基本的に夏の間、彼は上に服は着ない主義のようだ。

ニパ「よっし!これで私の55勝54敗だね!久々に勝ち越しだ!!」



502統合戦闘航空団が設立された頃からの付き合いである2人は、いつの頃からか2人で罰を受けた際や、なにかで揉めた時にこうして野球で決着をつけるようになっていた。
ちなみにボールは俺の私物、扶桑にいた頃からの趣味だった。

ニパ「じゃ私は昼寝してくるから、俺は掃除ヨロシク~終わったら起こして。」

ひらひらと手を振り、敗者に要望を告げるニパ。
悠々と滑走路脇の木陰へと歩く彼女。
未だ膝をついたまま立ち直れない俺。

2人共忘れているのだ、ボールを打ったのは誰かという事を…。
ガシャン!と、ガラスの割れる音がする。

ニパ・俺「「あ」」


ボールが飛んで行った方向は、2人が何よりも恐れる怖い怖い大尉の部屋。
“ツイてない”カタヤイネンが打ったのだ、当然窓ガラスを割って部屋の内部に侵入していった。

ニパ「うわぁ…」

俺「マジかよ…」

しばらくして、その白い肌を真っ赤にしながら怒り絶頂といった面持ちのポクルイーシキン大尉が窓を開けて顔を出した。
その頭にはタンコブができている。
その双眸はしっかりと滑走路の2人を見据えていた。

そして、そっと窓からポクルイーシキン大尉の姿が消えた。
十中八九、2人にお仕置きをしに滑走路に現れるはずだ。


ニパ「ややややややヤバい!!どうする俺!?」

俺「どうするって言われても…」

焦る2人はキョロキョロと周囲を見渡し対応策を探す。
逃げるか、隠れるか…。
そして俺の目が、ハンガーとカタパルトの間に放置してある自転車を発見した。


俺「あれだ!!」

駆けだす俺、自転車に跨りニパの方へと向かう。

俺「熊さんのほとぼりが冷めるまで逃げよう、このままじゃ酷い目にあう。」

自分でも嫌な妄想をしたのか、俺が頭を振るって雑念を取り払う。 

俺「乗れよ、後数分もしたら怖い熊さんがブチ切れて現れるぜ。」

ニパ「うん!」



デッキブラシを放り投げて、自転車の荷台に飛び乗るニパ。
俺のお腹の辺りに手をまわして、上半身裸の彼に後ろから抱きつくようにしがみつく。

俺「じ、じゃあ行くぞ。」

彼女の年齢の割に大き目な胸が少年の背中に当たる。
初めて体感するその感触に彼は思いがけずニパに女性を感じてしまい口籠ってしまう。

ニパ「いっけー!」

俺「お、おう。」


ニパ「なんだよ、急にノリ悪いな?」

俺「な、なんでもねぇーよ。」

赤面した俺は、ペダルを漕ぎ始める。
ゆっくりと回転する車輪、見た目のボロさの通りペダルが一周するたびに金属が悲鳴をあげる。

思春期全開の少年とツイテナイ少女を乗せて、錆びた自転車は駆けて行く。
オラーシャの夏空の下、心地いい風が肌を撫でる。

爽やかな空気を裂いて、響く金属音が奏でるは青春の調べ。
少年の心に芽生え始めた感情も、ニパの不安も全部一緒に乗せて、車輪は回る回る。




          *          *          *




どれくらい自転車をこいだだろうか?
途中で小川を見つけ、その沿道の道の景色が綺麗だったからその道を真っ直ぐに進んでいる。
最初は背中に当たるニパの胸の感触に神経は麻痺し、しがみつく彼女から漂う女の子特有の解説できないイイ匂いに脳を侵食されていた俺も、いつも通りニパと軽口を叩ける程には回復していた。


俺「ちょい休憩。」

そう言って俺が自転車を停め、川岸に寝そべる。
ニパも、誰に言われる訳でもなく彼の隣に同じように寝そべった。



俺・ニパ「「あっはっはっは!」」



しばらくして、2人で大声をあげて笑ってしまった。
なぜ笑うのか?イマイチ2人にも解かっていないようだ。
ただ、楽しかったのではないだろうか?普段では絶対にありえないこの状況。
気心の知れた友人だと自他共に認める2人でこうして出かける事自体が、珍しい事だったから。

ひとしきり笑った後、

俺・ニパ「「なぁ」」

2人して同じタイミングで語りかけてしまった。
また笑う2人、よっぽど楽しいのであろう

俺「先に言えよ。」

ニパ「いいよ大した話じゃないから、俺から言ってよ。」

俺「んじゃ。」


互いに譲り合い、結局俺から話す事となる。立ちあがり、できるだけ平べったい石を探す俺。

俺「お前さツイてない、ツイてないって言うけどさ、俺はお前がツイてないのに感謝してんだよ。」


ニパ「はぁ?」

自分の一番デリケートな部分にいきなり斬り込んでくる俺に不快感を露わにするニパ。
ツイてない事は彼女自身気にしている事は彼自身十分知ってるはずなのに。

俺「だってツイてないおかげで、お前が502に派遣される事になったんだろ?
  そうじゃなかったら俺、お前と会えて無かったし。」

やっと見つけた手頃な石を、小川に向けて放る俺。

俺「俺自身、お前と会えた事ラッキーだと思ってんだよ。
  こんなに気が合う奴、初めてだしさ。」


平べったい石は、水面を8回跳ねてやがて沈んでいった、その結果に満足したのか?それともニパを励まそうとしたのか?ニシシととてもいい笑顔で彼女に微笑む。

ニパ「意味解かんないよ。」


思いがけず、恥ずかしい事を真顔で言われてニパは照れてしまう。
そして、彼女も石を探して小川に放る。
今度は6回跳ねて、沈む。


ニパ「でも、ありがと。」



俺「お前が6回で俺が8回、これで55勝55敗…イーブンだな。」

ニパ「え?今のカウントするの!?」

また2人でギャーギャーと姦しく言い合いを始める。
やがて水切りの回数勝負へと発展、時間が刻々と過ぎて行った。





俺「はぁー、はぁー…」

ニパ「ぜぇー、ぜぇー…」

周囲の小石をあらかた投げ切り、肩で息をする2人。

俺「最高何回?」

ニパ「覚えてない。」

俺「俺も。」


なんと無駄な時間を過ごしたのだろうか?
2人してまた倒れ込んで並んで寝そべる。

俺・ニパ「「あっはっはっはっは!」」

今日何度目か解からない大笑い。

俺「意味無ぇ~!!っはっは!」

ニパ「本当にバカじゃん!あっはっはっ!!」




しばらく笑い転げ、ひと段落した頃。
先程ニパも何か話そうとしていた事を思い出した俺は彼女に問いかける。

俺「次、ニパの番。」

隣で笑い過ぎたのか、ヒーヒー言って未だに呼吸が苦しそうなニパ。


ニパ「あー…本当に大した事じゃないんだよね…ちょっと言いにくい事だし…」

少し俯いて本当に言いにくそうにするニパ。
抱きしめてあげたい程の愛らしさだ。
もっとも、隣にいる思春期少年は例えそう思っていたとしても絶対に実行できないだろうが。

俺「言えよ、今更何言われてもお前の見方変わったりしねぇーよ。」

ニパ「約束する?」

俺「扶桑男子に二言は無い!」

そう言質を取った事で、ニパは安心したのか笑顔になって俺を見つめる。
俺は喉が渇いたのか小川まで歩き、水を掬って口に含む。





ニパ「俺さ、最近私の胸凄い見てるよね。」


俺「ぶ―――――――ッ!!!!」

全くの不意打ちに口に含んだ水を盛大に吹く俺。
さながらザ・グレート・カブキのような、それは見事な吹きっぷりだった。

俺「ゲホゲホ…み、見てねぇーよ…」

言葉とは裏腹に語尾は消え入りそうな程弱々しく、顔は真っ赤だ。
恐らく図星なのであろう。


ニパ「意外と解かるから気をつけた方がいいよ、私だから良かったけど他の人だったら危なかったよ?」

俺「だから見て無いって!!」

ニパ「そんなに否定しなくても大丈夫だよ。
   クルピンスキー中尉が言ってた、俺くらいの年齢の童貞少年ならしょうがないって。」

俺「よりによって伯爵に相談したのかよ…」

最近クルピンスキー中尉が自分に生暖かい視線を送る理由…やっと少年は合点がいったようだ


俺「しかしなんだ、気に食わないな!俺が童貞だと決めつけられてる!」

ニパ「え、違うの?」

俺「…違わかないけど。」



そっぽ向いて恥ずかしそうに呟く俺を見てニパが本当に楽しそうに笑う、それがよっぽど悔しかったのか?少年も反撃にでる。



俺「そういうお前はどうなんだよ?経験豊富な訳無ぇーよな!?」

ニパ「さぁ~どうだろうねぇ~♪」


意味深な笑みを浮かべるニパ。
鼻を突き出し、余裕綽々と言った面持ちだ。


俺「じゃあビッチなのか?」

ニパ「どうだろうね~♪」

俺「おい答えろよビッチ」

ニパ「どうなのかな~?♪」


こんなアホなやり取りを続けながら、ニパは立ち上がり自転車の方へ向かう。

俺「どこ行く気だよビッチ。」

ニパ「ふん~ふん~♪」

最後は鼻歌になり、まだ余裕を必死に取り繕うニパ。
そしてペダルに足を乗せ漕ぎ始める。


俺「おい待てよ!置いてくなよビッチ!!」

急いで追いかける俺、思ったよりニパの速度が速いので俺も走る。

ニパ「ビッチビッチうるさいよ!どうせ私は処女だよバ―――――カッ!!!!」

自転車を漕ぐ処女と必死で追いかける童貞。
基地までお互いに罵りあう奇怪なマラソンは続いた。

そう、この時は忘れていたのだ。
基地の門の前には、2人がネウロイより恐れる熊さんが怒りに震えて待ち受けている事を…。




          *          *          *




下原とルマールが夕食の準備に厨房で腕を奮い、菅野がいつも通り不機嫌そうな顔で座る、隣にはニコニコしたクルピンスキー。
伯爵の向かいにはロスマンが上品に座っている。
指揮官のラルはまだ片付ける書類があるとかで食堂にくるのが遅れるらしい。


そんな食堂のドアが勢いよく開かれる。
現れたのは朝の粗相をポクルイーシキンにこってり絞られた俺とニパ。
2人共、もうウンザリといった面持ちだ。


ニパ「俺が逃げようなんて言うから…」

俺「は?元はと言えばお前がガラス割るからだろ?」

ニパ「そんな事言いだせば俺があんな甘いボール投げるからだよ!」

俺「うっせぇよ処女!」

ニパ「処女でなんか文句あるのか童貞!!」

向き合って張り合う2人。
背が低いニパは背伸びして必死だ。 




クルピンスキー「あれ?あの2人なんかあった?」

ロスマン「さぁ、どうかしらね?」

どこか親密になっている2人に驚くクルピンスキーと、微笑ましく2人を見守るロスマン。

菅野「青春だね~。」

ほとんど興味無さそうに2人を見やる菅野。

クルピンスキー「ナオちゃんだって、まだまだこれからじゃないか?
        もちろん、私達もね。」

向かいのロスマンにウィンクする伯爵。

ロスマン「『命短し恋せよ乙女』…きっと男性も一緒なんでしょうね。」



俺「こうなったら野球で決着だ!」

ニパ「望む所!またデカイの打ってやる!」

ニパと至近距離で言葉をかわす俺の心臓は、普段の5倍程の速さで動いている。
心臓の鼓動、その音色は生。
生が奏でるは恋の歌。

そしてまたこの瞬間にも恋をする。
それが恋だとも知らずに…
最終更新:2013年02月03日 16:12